ダーク・ファンタジー小説
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- 君の為に
- 日時: 2021/01/03 09:55
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
『君の為に』
この物語は昭和から平成に変って間もなくの頃、北陸は金沢で大学生が空手の稽古中に誤って親友を死なせてしまい、一九才の少年(堀内健)は苦しみ大学を中退し岩手県にある名勝、浄土ヶ浜近くのお寺へ精神修行する所から始まる。その寺の住職は合気道の達人で大勢の門下生に教えていた。その一人娘(小夜子)女子大学生も幼い頃から合気道を学び有段者であった。堀内健は修行して住職から色んな事を学んだ。精神面も強くなりまた合気道も教わるが、その小夜子の父である両親が何者かに殺された。堀内健にとっても大事な師匠である。小夜子はその犯人を追って、青年となった堀内健の力を借り犯人を追って岩手-東京-シンガポール-岩手へと修行から合わせて八年間にも及ぶ過酷な戦いと共に芽生えた愛と復讐の物語である。
『前回投稿した、宝くじに当たった男に続く長編ものです』
前回同様宜しくお願い致します。
- Re: 君の為に ( No.38 )
- 日時: 2021/04/01 19:19
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
君の為に 37
翌日、健はKG探偵事務所で所長に事情を話していた。所長で経営者の岸田五郎が健の話を聞いて頷いた。以前から健には訳がりそうな気がしていた岸田だった。
「そうか君には、そんな事情があったのか」
岸田は事務所の空間を見つめて何かを想い浮かべていた。そして。
「シンガポールには私が警官時代に世話になった知り合いが居るのだが、シンガポールのオーチャード・ロードと云う所に日系人のケニー佐田と云う、やはり警官上がりの探偵屋がいる。彼を訪ねるといい、向こうに行って彼に雇ってもらえばいい。連絡しておくから」
「えっ事務所を辞めるのに、そこまでしてくれるのですか」
「まぁ本当は君を手放しの惜しいが、協力するよ。また事件が解決したら、たまには手伝ってくれよ」
「勿論です。本当にお世話になりました」
岸田は親切にも紹介状と関係資料を健に渡してくれた。
健は短い間にも関わらず、親切に退職させてくれた事に感謝した。一方の小夜子は〔さくら旅行社〕の支店長に退職願いを持って訪れた。しかし支店長はガッカリした顔をした。
健とは違って犯人を追う為とは言ってはいないが、シンガポールに体の悪い叔母が居るので看病しながら働きたいと嘘を言った。嘘をつくのは心苦しかったが仕方がないと思った。
「え、それは残念だな。そうかそれなら仕方がないか。ちょっと待って」
支店長は机の引出しから何やら書類を持って来た。
親切にも支店長は小夜子の為に、新たな提案を出してくれた。
「坂城くん、どうかね。君は英語も堪能みたいだから、シンガポールの支社で働いてみないか。東南アジアにも支社が沢山あるからやってみるかい」
思いがけない話だ。それなら其処を諸点に行動出来る。願ってもない話だった。
「え! 本当ですか? 本当に宜しいのですか」
小夜子は嬉しかった。犯人を除いて世の中には悪い人が、居ないんじゃないかと思う程、みんな親切にしてくれる。小夜子は支店長に何度もお礼を言った。あのヤクザの松本や橋本までも、本当に善人だと思った。だが小夜子と仲良くなった同僚達はガッカリした顔をして寂しがっていた。
そして同僚の女性達にも短い間にも、すっかり仲良くなり、それだけに別れを告げるのが辛かった。その同僚たちが小夜子の為に送別会を開いてくれた。
健も同じく簡単ではあるが、お別れ会が開かれ、仲間に見送られ東京での生活が終わる。
結局は転勤という形で、シンガポールに行く事になった小夜子であった。
健と小夜子は仕事の引継ぎやパスポートの手続きなど旅立ちに向けて、慌ただしい日々が流れていった。いよいよ犯人を求めて異国の空へと向う時が来たのだ。
二人の表情はこれから起こるであろう、苦難の道のりが、改めて健と小夜子は緊張を高め、旅立ちの準備が進んで行った。いよいよ三日後に成田空港へと向かう。
つづく
- Re: 君の為に ( No.39 )
- 日時: 2021/04/03 18:10
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
君の為に 38
第四章 シンガポール
第一節 ハイジャック
平成六年一月、成田空港第二ビルの出発ロビーに二人の姿があった。
堀内健二十五歳、百八十五センチ、坂城小夜子二十六歳、百七十二センチ二人ともスラリとした長身だ。欧米諸国に比べて小さいと言われる日本人も、この二人なら特に大きいとは言え難いが、同等以上の体形であり、体内に秘めた武道の技術は超一流であるだろう。
だから異国の地でも敵と戦える自信を持っているのだ。
新たなる旅立ちが今ここ成田空港を飛び立った時から始まるのだ。
二人揃っての海外旅行これが新婚旅行ならどんなに楽しいだろう。
しかしこれは小夜子の両親に誓った弔いの旅である。
今はまだ、そんな甘い夢を見ている時ではない。シンガポールに到着した時から戦いは始まるのだ。成田空港を飛び立った旅客機は空港上空で大きく旋回して銚子沖の上空の太平洋上に出て南の方へ機首を向けた。
飛行機が雲を突き抜けて上昇すると急に明るくなった。銀色の翼に太陽の光が当たって時々、雲の合間から見える下界が小さく見えた。こんな上空から下界を眺めると所詮は人間の出来事なんて小さな出来事のように思える。出来るものなら小さな出来事であって欲しいと願うのだったが。
やがて右の翼の下に富士山が二人に別れを告げるように、雄大な姿を見せていた。
健と小夜子は極めて明るく振舞っていた。二人で飛行機に乗るのは初めての事だ。
だが気を緩めていたら、とても犯人に立ち向かえない。心は冷たく非情でなくてはならないが二人は若い。気持ちの切り替えは、その場その場で対応出来る能力がある。
それが合気道から学んだ精神の修行でもあった。
「健。シンガポールに着いたら最初に何を食べたいの」
「えっ何を? と言われてもどんな食べ物があるのかなあ」
「もう~ムードがないんだから、ひとつくらい何か無いの」
小夜子は、すねて見せたが顔は笑っていた。心の奥底に秘めた犯人への復讐の心は、少しだけ眠らせて置こうと小夜子は思っていた。そう思ったにも関わらず、すでに何かが機内で起き始めていた。成田を飛びたった飛行機はフィリピン近くを飛行していたが、誰もが座席で想い想いに雑誌を読んだり眠っている人がいたりと、乗客たちはシンガポールに着陸するまでの時間を潰していた。
だが神様は、健と小夜子には休息の時間を与えてくれなかったようだ。事件が起きたようだ。突然、機内で大きな悲鳴が上がった。乗客たちは、その悲鳴の聞こえた方向に目を向けた。それは誰もが目を疑うような光景が目に飛び込んできた。
キャビンアテンダントの後ろに二人の男がどこで手に入れたのかナイフを キャビンアテンダントの首筋に当てている。健と小夜子は後部座席の方に座っていたが、二人の男は機内の中央付近で、廻りの客をナイフで威嚇している。
乗客が言った。「ハイジャックだわ」そんな声がザワザワと聞こえる。
その囁き声を、黙らせるようにハイジャック犯の一人が大きな声で怒鳴った。
「静かにしろ!騒いだ奴は殺すぞ」
少し訛りのある英語で怒鳴った。
そう言ってナイフを振り回すと、近くの乗客の首にナイフをあてがった。そのナイフを首筋にあてがわれた。白人で中年の女性が獣じみた悲鳴をあげた。
「ギャア~~~」断末魔のような叫び声だ。
隣の座席に居た女性も、連鎖反応のように悲鳴を機内に響き渡らせた。パニック状態になって、物凄い甲高い声が余計に恐怖をあおる。お陰で他の乗客までもが余計にパニック状態になった。ハイジャック犯も、つられるように興奮して怒鳴る。
つづく
- Re: 君の為に ( No.40 )
- 日時: 2021/04/05 19:34
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
君の為に 39
ハイジャック犯も興奮してつい、その白人の女性の首筋を切ってしまった。
血がタラリと零れると、発狂したかのように白人女性は暴れだして、犯人も気が立っていたのか、そのナイフの柄で思いっきり頭を殴った。その白人女性はグッタリとなり気絶してしまった。健と小夜子はまさか、ハイジャクに遭遇するとは夢にも思った。
しかし現実には、目の前にその光景が冷たい空気を漂わせて機内に緊張が走っていた。
犯人達は何が目的なのか、また犯人は何人居るのか、まだ分からない。
キャビンアテンダント達は、最後部の方へ全員移された。男の乗務員達はどうしたのかと、他の乗客がヒソヒソ話している。その答がまもなく分かった。なんと二人の乗務員が手首を縛られて三人目の男が、やはりナイフを突きつけているではないか。
もはや、操縦室も制圧されている事だろう。
一体、警備体制はどうなっているのかと、乗客達は警備の甘さを呪ったことだろう。
最後部にいる犯人が大声で叫んだ。東南アジア系の男が訛った英語でわめく。
成功したと思ってか、得意げに機内マイクを持ってハイジャック犯が喋り始めた。
「機内の諸君、見ての通り我々は、この機をハイジャックした。このまま諸君達は、大人しくして居れば危害を加える事はない。我々の目的の為に機長始め乗務員、及び諸君達に協力してもらう為に監禁させて貰う。また、誰か我々の行動を邪魔する者いたら諸君達は不幸な事になるだろう。これより機はミャンマーに向かう。以上だ」
どうやら機は完全に制圧されているようだ。どの乗客も静かに座っている。いや、そうせざるを得ないのだ。なにしろ逃げ場がないのだから、どうしても自由になりたければ、犯人を逆に取り押さえるしかないのだから。健と小夜子は顔を見合わせた。
「健……困った事になったわね」
つづく
- Re: 君の為に ( No.41 )
- 日時: 2021/04/07 21:28
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
君の為に 40
と心配な顔で健を見つめる。健は黙って小夜子の手を握って小夜子の心を落ち着かせた。
「大丈夫だよ。心配しないで。絶対に小夜ちゃんを守るから」
と小さな声で小夜子に優しく囁いた。まもなく飛行機は旋回し始めた。進路を変更したようだ。犯人は中央に一人と後部に二人、それから一時間経過しても他に犯人らしい人物が見当たらない。と云うことは、犯人は三人だけなのだろうか?
乗務員も機の後部に移されキャビンアテンダントと一緒に全員、手首を縛られ座らされていた。
一人はナイフで威嚇してリーダー各の男が機の後部から乗客達の様子を伺っている。
怠りがない。三人目の男が中央付近でナイフを振り回しながら、周りに目を光らせている。余程この計画を丹念に練ったと思われる。まもなくリーダー各の男が操縦室の方に歩いて行った。
多分(言う通りにしなければ乗員の命は保証しない)とでも脅して居るのかも知れない。
健は考えていた。何の目的か知らないが、このままミャンマーに行き無事に済む筈がない。多分、空港には武装警官が大勢で待っているだろう。
ただミャンマーは軍事国家でアメリカを始めアジア諸国とは折り合いが悪い。
飛行機を戦利品として投降すれば亡命を受け入れるかもしれない。
しかし交渉が決裂すれば犯人が、すんなり投降する訳もなく乗客を盾に何か行動を起こすだろう。着陸してからの方法も考えているだろうが。
それでは危険が大きすぎる。もしかしたら怪我人や死人が出るかもしれない。
何か方法はないものかと健は思案していた。そこに小夜子が小さい声で言った。
「犯人は三人に、ナイフが二本よね」
小夜子の言葉に健は囁いた。何の計算をしているかのと。
「小夜ちゃん、まさか変な事を考えていないよね」
健は疑問に思っている事を小夜子に小声で囁いた。
「そのヘンな事よ。ケン」
「やっぱり小夜ちゃん。けど失敗は許されないんだよ。まったく」
小夜子の正義感と言うか、相変わらずの無鉄砲さには健も改めて驚いた。
だがそれは小夜子の自信から来ている。父から授かった合気道の精神の強さが、ハイジャック犯を前にしても怯えることはなかった。
「じゃあ健は黙ってこのままでいいの? 安全は誰も保障してくれないわ。それにこれからシンガポールに行っても危険が待っているのよ」
小夜子の強い決意の表われだった。シンガポール行きは遊びじゃない。犯人と戦う為に行くのだ。今ここで両親の仇、犯人と戦ったと思えば、それぐらいの決意がなければ。小夜子にはあの時の両親の叫びが聞こえてくるのだ。
(絶対に、許せない犯人達)
つづく
- Re: 君の為に ( No.42 )
- 日時: 2021/04/09 17:39
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
君の為に 41
小夜子はすでに戦闘モードに入っていた。先ほどまで健との甘い夢に浸っていた小夜子は、もうどこにも居ない。小夜子の並々ならぬ決意を健は見た。
そして健は改めて小夜子の強い心を知らされる思いだった。
もはや戦いは始まっているのだ。まだ見えない敵にそして目の前の敵を、仮想の敵は、あの新日本同盟の浜口孝介と沖田勝男と思えば闘志が湧いてくる。いま仮想の敵はこの飛行機の中に存在するのだ。
浜口と沖田の制裁を邪魔する者は同罪と見なす。小夜子はハイジャック犯を仮想の浜口と沖田に見立てるとフツフツ怒りが込み上げて来た。
「分かった小夜ちゃん何か対策を考えよう」
小夜子は、もはや笑ってはいなかった。コクリと頷く。
「ねぇハイジャックの犯人達、三人バラバラだと一度に倒せないわね」
「そうだね。二人か一人の時が一番チャンスがあると思うけど」
健と小夜子は、あらゆる手段、方法を思案していた。
絶対に失敗してはならないからだ。万が一失敗したら誰かが命を落とす事になりかねない、それは絶対許されない。
「小夜ちゃん一人を頼むよ。僕は二人を何とかするから」
「分かったわ。チャンスが来るまで待ちましょう」
その時だった。健と小夜子の話声が聞こえたのだろうか、ハイジャック犯の一人が近づいて来る。ギロリと睨むと二人に向かって大声で怒鳴った。
「オイ! そこの二人なにを話しているんだ」
言い終わらないうちに、いきなりナイフを持った男が健の前に立ちと強烈なパンチが健の顔に飛んで来た。
バシッ~~ 健の口の回りから何処か切れたのか血が飛び散った。
健は交わそうと思えば出来たが、それでは面倒な事になる。健は口元を抑えて、わざと怯えた表情でうつむいた。犯人は健の怯えた顔を見て、満足気に元の場所に戻って行った。
乗客は余計に恐怖心を煽られて、犯人に視線を合わせまいと下を向いてしまった。
小夜子は何も言わずに、健の膝に手を充てて大丈夫? と心配そうに健の顔を見た。
笑いはしなかったが。なんとウインクをしてみせた。(どうって事はない)そんな顔だった。そのハイジャック犯の三人が一番後部の方で何やら、ヒソヒソと話し合っている。
数分して機体が激しく揺れ始めた。乱気流が発生したのだろうか。
後部座席に健と小夜子が座っている場所から、ハイジャック犯との距離は約五メートル。 ハイジャック犯達三人が一緒に居たが、余りに揺れるので一人が操縦席に様子を見に向かうのか、前に歩き始めた。
ナイフを持って乗客を見ながら進む、健と小夜子の前を通り過ぎた。
待っていたチャンスが来た。二人と一人にハイジャック犯が別れたからだ。健は小夜子に眼で合図を送った。この機会を逃したら次のチャンスがあるかどうか分からない。
作戦は小夜子がその一人を。健は後部の二人を襲う手はずだ。
健と小夜子は戦闘態勢に入った。健が通路側に座っているから健が先に走り出した。
健は操縦席に行く男には眼もくれずに、後方に居る犯人の方へ勢い良く飛び出す。
小夜子は逆に、操縦席に向かった一人の男を目がけて飛び出した。
つづく
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