ダーク・ファンタジー小説

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君の為に
日時: 2021/01/03 09:55
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

『君の為に』


この物語は昭和から平成に変って間もなくの頃、北陸は金沢で大学生が空手の稽古中に誤って親友を死なせてしまい、一九才の少年(堀内健)は苦しみ大学を中退し岩手県にある名勝、浄土ヶ浜近くのお寺へ精神修行する所から始まる。その寺の住職は合気道の達人で大勢の門下生に教えていた。その一人娘(小夜子)女子大学生も幼い頃から合気道を学び有段者であった。堀内健は修行して住職から色んな事を学んだ。精神面も強くなりまた合気道も教わるが、その小夜子の父である両親が何者かに殺された。堀内健にとっても大事な師匠である。小夜子はその犯人を追って、青年となった堀内健の力を借り犯人を追って岩手-東京-シンガポール-岩手へと修行から合わせて八年間にも及ぶ過酷な戦いと共に芽生えた愛と復讐の物語である。

『前回投稿した、宝くじに当たった男に続く長編ものです』

前回同様宜しくお願い致します。

Re: 君の為に ( No.58 )
日時: 2021/06/02 21:59
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 57

「そう、じゃ今日の仕事が終わり次第、一緒に探しましょうか」
 「悪いな。小夜子さん。あまりシンガポールは詳しくないし、前に観光で来たことはあるけど、何しろ英語がからっきし駄目だしさ、探しようがないんだ」
 小夜子は仕事が終わって、松本と一緒にコンビナートの方に出かけた。
 そこは巨大な広さのコンビナートだった。流石は金融と流通の都市だけのことはある。
 小さい国と言っても国際都市が、其のまま国になったようなシンガポールだ。
 小夜子は健にも協力して貰えればと頭に浮かんだが、いま健は精神的に参っている。

 そっとして置こうかなと思った。きっと健なら立ち直ってくれると信じていた。いまは松本と二人だけで橋本を探そうと、このコンビナートを訪れたのだった。
 松本は橋本の知り合いの顔は知っている。安田とか言う名前だと記憶している。二人はその近辺の人間に、片っ端から聞いて廻った。勿論、日本人とは限らず小夜子の通訳を入れて聞き廻ったのだ。そして翌日になって安田らしき人物が居る場所をやっと探り当てた。そこは大きなプレハブの宿舎みたいな所だった。小さな看板には英語でallianceと書かれてある。日本語で同盟だ。間違いない。用心の為に面識のない小夜子が、その事務所のドアを開けた。

 「あの~すみません。こちらに安田さんと云う方は、居られますか」
 日本人らしい男が出て来た。あまり人相は良くない。
 小夜子をジロリと一瞥してから、誰だ、この女はと探りを入れるような目つきで。
 「俺が安田だが、あんたは誰かね」
 怪訝そうな顔して安田が聞いた。上から下まで舐め回すような嫌な目だ。
 小夜子は、それには答えず後ろ手で松本に合図を送った。〔居る〕と云う合図だ。
 松本は右の親指を立てて、了解と返事を返したつもりだが、後ろ向きの小夜子には見えない。
 「ハイ、私。松本さんに言付けを頼まれた者なのですが、よろしいでしょうか」

 小夜子は事務所の外に誘った。安田も女だと思って安心したのか外に出て来た。
 二分くらい歩いた。其処は暗い波止場の灯りが灯って居るだけだった。
 「オイオイ姉さん、何処まで行く気だい」
 いくら女とは言え、妙な方へ進むので安田は怒鳴った。その時だ。松本が暗闇からヌッと不意に現れた。安田はギョッっとなった。
 「悪いなぁ呼び出して。橋本の事を知らないかい。アンタと一緒だった筈だろう」
 安田の顔色が変わった。次の瞬間、安田は事務所に逃げようと走りかける。
 だが松本は予測していた。とっさに安田に足払いを掛けて倒した。
 流石に喧嘩慣れしている松本だ。すかさず倒れた安田の上に馬乗りになって二、三発殴りつけた。もはや、安田は抵抗の気力さえ失せていた。

つづく

Re: 君の為に ( No.59 )
日時: 2021/06/08 22:11
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 58

第五章 月が泣いている 
第二節  渚に夕日が沈む 

「やっぱりな、お前! 橋本を何処に隠した。言え」
 安田は顔を背ける。松本は安田に馬乗りになって更に殴りつけた。安田は顔を覆って防いでいる。安田はもがいたが松本は流石に強かった。あのスナックの時とは違う。相手が強すぎたからだ。もがく安田の動きを封じて尚も殴りつけた。小夜子は思わず顔を背けたくなるほどだ。やがて安田は抵抗力をなくした。顔が腫上がって怯えていた。
 「松本さん、いつまでもここに居ては危険だわ」
 確かに危険であった。安田の仲間が駆けつけるかも知れない。小夜子と松本は近くに停めてあるレンタカーに安田を車のトランクに乗せて、そのコンビナートを後にした。

 しかし連れて行く場所が問題だ。日本とは違って連れて行く場所が分からない。
松本達は安いホテルを仮宿にしていたが、そこでは人目につく。
そこで思いついたのが、人が居ない貯水池の側で白状させる事にした。
 シンガポールは周りが海で山もない。川らしいのは海水を引く為の用水路みたいな物でシンガポールは沢山の貯水池に雨水を確保する。その貯水池はシンガポールの面積の二割にも相当すると言われている。安田は後ろのトランクで暴れているのか、ガタガタと車が揺れる。
小夜子が運転を代わって、松本が一旦、車を止めトランクを開けて安田を殴りつけると大人しくなった。さすがにヤクザだ。やることが恐ろしい。

 「小夜子さん、その貯水池って近いのかい」
 「ええ、車で十分くらいの所よ。この時間なら誰も居ないはずだわ」
 「それにしても、小夜子さんが居なかったら探せなかったよ」
 「いいえ、気にしないで。でも橋本さんは、いったい何処に消えたのかしら」
 「なあに、こいつに吐かせれば分かりますよ。こいつは友人面して橋本を罠に嵌めたんだよ。きっと   新日本同盟に雇われたんだろう。昔からのよしみで橋本に近づいたんだよ。とんでもない野郎だ」
 安田は、後ろ手をガッチリと縛りサル口輪をしてある。その貯水池の片隅に、安田は車のトランクから引きずり出されたが。もうグッタリとしている。なにしろ気温が高いからトランクの中は蒸し風呂状態だった。だが、松本は怒っていた。橋本の事を考えると松本は普段、見せない鬼の形相になっている。仲間を卑劣な手段で拉致されたことに。
「オイ! 安田。お前も疲れたろう。いい薬を飲ませてやろうじゃないか」
松本はポケットから何やら、白い粉を取り出して安田の口に持って行った。
安田は眼を大きく見開き激しく抵抗した。安田はそれが何か分かって怯えたのだ。
小夜子も驚いた。白い粉とは麻薬だろうと思った。どうして松本が持っているのかと、確か矢崎組は麻薬には手を出さないと聞いていたからだ。

 「松本さん? まさかそれって」小夜子が聞く。
 「その、まさかさ、オーラ! 安田飲めや」
 「か、勘弁してくれ。そればっかりは止めてくれ」と哀願した。
 「おうそうか全部吐いたらな。俺もこれは高いから使いたくないんだが」
 安田は覚せい剤の恐ろしさを知っているのか、やっと白状する気になった。
薬漬けにされた人間を何人も見て来たからだろう。白い粉なら、その道の人間は一番、分っていたからだ。麻薬を扱う者にとって、それは使い方によっては恐怖だ。
一呼吸して安田は話し出した。その安田から飛び出した言葉は予想もしない事だった。
新日本同盟は松本達がシンガポールに、派遣された理由を、すでに察知していたのだ。

つづく

Re: 君の為に ( No.60 )
日時: 2021/06/11 21:52
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 59

 更に安田は、新日本同盟に一年ほど前に雇われた準構成員だった。
 矢崎組の情報が漏れていたのか? そこで橋本の知り合いである安田が巧みに罠を仕掛けて橋本を連れ出した。松本の怒りは頂点に達した。
 いつも一緒の橋本が罠に掛けられて新日本同盟に捕らえられた。奴等のことだ、生きているかも定かではない。今は矢崎組と新日本同盟とは戦争状態なのだ。
その先遣隊として送られた松本と橋本だった。
 橋本がやられて、おオメオメと日本に帰れる訳がない。なんとして助けなくては。
 「よくも、やってくれたな安田! それで橋本は何処に居るのだ。吐け」
 「さっきの事務所で監禁している。俺を放したら連れて来てもいいぜ」
 「冗談じゃねぇぜ。お前は人質だって事を忘れるな。橋本と引き換えなら考えてやるぜ」
 松本は迂闊に事務所には忍び込めない。他に何人居るか確認しないと近づけない。人質交換に持ち込んで、だが応じなかったら? 
 どうせ奴等は安田なんか失っても痛くも痒くもないだろう。
 奴等はそう云う連中だと松本は思っていた。
 「いいわ、松本さん。私が事務所の様子を見てくるわ」
 「そりゃあ駄目だよ。危険すぎる」

 松本は慌てて止めた。しかし小夜子は松本が言い終らないうちに表通りに出てタクシーを拾った。松本は引き止めようとしたが、安田を、そのまま置いて行けない。
 「あっ小夜子さん、危ないヤメロッ!」
 必死に呼び止めようとしたが松本は、安田を放し訳にも行かず、ただタクシーが消えて行くのを見ているだけだった。小夜子はタクシーの運転手にコンビナートへと告げた。
 小夜子はタクシーを降りて安田を誘い出したプレハブの事務所の裏に廻った。事務所の裏手には裏口のドアがあった。小夜子は周りに気を配りながら裏口のドアのノブを静かに回す。なんと簡単にドアは開いた。鍵は掛かってない。
 そっとドアを押しながら中に入る。夜の八時を過ぎていたが、電気は点けられたままだ。 誰も居ない。安田だけが留守番していたのか、まさか罠かそれにしては人の気配が感じない。小夜子は静かに耳を澄ましたが、やはり話し声が聞こえて来ない。

 本当に安田一人だったのかと思いながら、次の部屋をそっとガラス窓から覗くが。
やはり人は居ない。では橋本はどこに? グズグスしていたら誰か帰ってくると焦った。
 一番奥の部屋だけがガラス窓が無い、ひょっとしたらここに橋本が居るかも知れない?
 小夜子はそんな事を考えて、そのドアのノブを回すが。だが此処だけは鍵が掛かっている。小夜子は小さくドアを叩く。そして耳を澄ますた。だが応答が無い。
 「橋本さん。小夜子です」
 と小さな声で呼びかけて見る。今度は中から唸り声が微かに聞こえた。たぶん橋本は猿口輪かなんか、されて声が出せないのではと思ったが、しかしドアには鍵が掛かっている。
(どうしょう)と小夜子は考えた。大きな音をたてれば、誰か飛んで来るかも知れないし。いつ戻ってくるかも分からない。小夜子は焦った。見つかったら最後だから。
 「橋本さん待って居て、いま助けるからね」

 そう云って小夜子はその場を離れた。他に人が居るか確認する為に、事務所の中を見て回る必要があった。そして六分、やはり誰も居ない?
事務所の留守番は安田だけ一人だったのか、小夜子は橋本が居る部屋に戻りドアに体当たりした。一回、二回、三回、ミシッと音がして開いた! もんどりうって中に転がり込む。橋本が縛られて、もがいていた。小夜子は橋本を覗き込み。
 「橋本さん、大丈夫? 歩ける」と橋本に声を掛ける。
 「ああなんとか大丈夫。ちょっと腕と顔をやられただけだ。ありがとう」
  小夜子は急いで、縛られていたロープを解こうとするが、きつく縛ってあるので、なかなか解けない。それを解くに七、八分の時間がかかってしまったが、やっと解けた。
 なんとか二人は事務所から脱出できた。小夜子は橋本の手を取って外に導く。
 「急いで、松本さんが車で待っているわ」
 松本とは貯水池で別れ、いや勝手に橋本を救出に向かったが、きっと松本は来てくれると信じていた。二人は走った。橋本は体力が消耗しているらしく、その足が重い。
その時だ。松本が小さい声で手招きしている。
 「オイこっちこっち!」
 やはり来てくれた。本当に頼りになる。松本は車を物陰に移動して待っていた。
 「早く、早く乗れ」
 先に橋本を助手席に乗せ、小夜子が後部席のドアを開けた。その時だった。

つづく

Re: 君の為に ( No.61 )
日時: 2021/06/15 20:03
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 60

 数人の人間が何か叫びながら走ってくる足音が聞こえた。
 なんといきなり発砲して来た。
 ズキューンと拳銃の発射音が闇から響く、と同時に小夜子がスローモーションのようにアスファルトの上に崩れて落ちた。
 突然の事で小夜子自身、何が起こったのか、分からず身体中がカッと熱く感じた。
 「なんなの? 熱い……健 タ、ス、ケ、テ」
 みるみるうちに、アスファルトうちに真っ赤な血が染まって行く。
「さ! 小夜子さ~~~ん」
 松本が運転席から降りて小夜子を抱き起こしたが、小夜子の眼の視点が定まらない。
「橋本! 大変だ。小夜子さんがやられた早く車に乗せろ」
 松本と体力が弱っている橋本で、なんとか小夜子を車に乗せ車を急発進した。
 なんとか追っ手から逃れたが小夜子の呼吸が荒くなり、抱き起こした手には血がベットリと付いていた。

 小夜子は意識が朦朧となり、健の顔が浮かび、そして消えて行く。
 何かの苦しみから解放されたような、笑顔にさえ見えた。
 それでも健と一緒に買った銀のネックレスを無意識に握っていた。
 やがて小夜子の意識が薄れて真っ暗な闇が訪れるのだった。
 その頃、堀内健とラザリナはカフェバーで談話をしていた。
 「君の店に飲みに行った時に僕は精神的に参っていたが、でも君のお陰で今は気持が楽になったよ。本当に感謝しているよ。ラザリナ」
 「私もよケン。前も話したけど両親が離婚して母一人で私は育てられ、今は母が働き過ぎて入院しているから、どうしてもお金が必要だったの、だから余り好きでもない仕事をして頑張っているのよ。ケンはね。今の仕事が自分に合わないと思って、それで悩んでいるのでしょう。お金の為じゃないね。きっとその内いい事あるわ。だから我慢も必要よ」

つづく

Re: 君の為に ( No.62 )
日時: 2021/06/17 19:51
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 61

健は返し言葉がなかった。ラザリナのように自分の為じゃなく親の為に、好き嫌いなど二の次で、生きる為に働いているのだ。東南アジアでは、まだまだ貧困に喘ぐ人々が沢山居るのだ。それ故、家族の絆は深く、親が子を子が親を助け合う愛情も人一倍強い。
果して今の日本人には忘れ去られたのだろうか。健は己の甘さに反省した。
そしてこんな良い子が、なんともけな気なのだろうか。

 健は改めて、この神秘的な女性の魅力に魅了されて行った。
 翌日、健はT.T探偵事務所に出勤した。やはり気持ちは沈みがちになったが。
 そこにジミーサットンが顔色を変えて飛んで来た。健は怪訝な顔をしてジミーを見た。
 「健! 昨夜から探していたけど連絡が取れなかったよ、何処に行っていたんだ。小夜子さんが大変だ。早く行ってあげないと」
 健は小夜子とは、もう三週間近くも連絡を取ってないし、逢ってもいない。
 あれ以来、気まずいのと気持がラザリナに傾きかけていたからだ。
 「えっ小夜ちゃんがどうかしたの」
 ジミーの表情は真剣だった。いつもの陽気なジョーク違っていた。
 「昨夜、日本人の男から電話があって小夜子さん重体だそうだ。命が危ないと大の男が泣きそうな声で言っていた。早く健を呼んで来てくれってさ」

つづく


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