ダーク・ファンタジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 君の為に
- 日時: 2021/01/03 09:55
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
『君の為に』
この物語は昭和から平成に変って間もなくの頃、北陸は金沢で大学生が空手の稽古中に誤って親友を死なせてしまい、一九才の少年(堀内健)は苦しみ大学を中退し岩手県にある名勝、浄土ヶ浜近くのお寺へ精神修行する所から始まる。その寺の住職は合気道の達人で大勢の門下生に教えていた。その一人娘(小夜子)女子大学生も幼い頃から合気道を学び有段者であった。堀内健は修行して住職から色んな事を学んだ。精神面も強くなりまた合気道も教わるが、その小夜子の父である両親が何者かに殺された。堀内健にとっても大事な師匠である。小夜子はその犯人を追って、青年となった堀内健の力を借り犯人を追って岩手-東京-シンガポール-岩手へと修行から合わせて八年間にも及ぶ過酷な戦いと共に芽生えた愛と復讐の物語である。
『前回投稿した、宝くじに当たった男に続く長編ものです』
前回同様宜しくお願い致します。
- Re: 君の為に ( No.83 )
- 日時: 2021/11/04 18:37
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
君の為に 82
小夜子を説得して、健は翌日に要山和尚の以前門弟の一人だった佐田義則を訪ねた。
佐田はバイク屋〔佐田モータース〕の若主人だ。今では子供も二人居るらしい。
「こんにちはー」
と、店内に入って行った。その店には新車のオートバイが沢山並べられている。
奥にツナギを着た佐田が油まみれでバイクの修理をしている姿が見えた。
「こんにちは、お久しぶりで堀内です」
「おー堀内くん。いやぁ本当に久しぶりだなぁ。シンガポール行って居たんだって、小夜子お嬢さんは元気かい」
当時の佐田は要山師匠の高弟だった。最初の頃は健を指導してくれる程の腕前だったが、その後は健の上達がめざましく佐田でさえ、歯がたたない程になって健に一目おいていた。
健と佐田は居間に席を移して、昔のなつかしい話を語り合った。
「たしか、お嬢さんもシンガポールに行ったんだよね。そうか帰って来たのか、それで結婚はしたのかね」
いやそれはまだですが。ちょっと頼み事があって来たのですが」
そうか、あの盛田開発の事だな。相変わらず評判が悪いけどなぁ」
「僕はどうしても師匠の無念を晴らしたくて、何か情報を得られればと思って来ました」
「知っている事ならなんでも協力するよ。で、どんな事だい」
「あの師匠夫妻を射殺した一人の、沖田勝男と盛田一政の二人です」
「沖田と言うのは盛田のなんだい? 用心棒か何か。そう言えば最近見た事があるなあ盛田の側で、サングラス掛けて居たけど気味が悪いのが居たような。多分そいつじゃないかな。やっぱり盛田が影に居るんだな。以前、暴漢に襲われたから雇ったのかな」
「多分、間違いないと思います。沖田は僕も人相まで知らないのですが、盛田の側にくっついていたと聞きました。今までシンポールに居て、また戻ったそうです」
「そうか、でも盛田は一応、県会議員だからな。余程の証拠がないと、まぁ、その師匠を殺した奴らと、関係が分かれば殺人供与になるから。しかし警察は動くかな」
佐田は師匠の為なら、なんでも協力すると言ってくれた。今でも要山和尚の人柄が、師弟達にも深く心頭していたのだ。健は佐田にお礼を述べて、その足で盛田開発の事務所の周辺にある喫茶店に入った。もちろん珈琲を飲みたかった訳じゃない。
近くで見張っていれば、何か得られるかも知れないと感じたからだ。確かに地元の警察は、盛田に関して決定的な証拠がない限り充てに出来ない。その為には自分で動くしかないのだ。
健は窓辺に座っていると、喫茶店内のスピーカーから静かに懐かしいメロディが流れている。シンガポールと違ってここは、ひと時の安らぎを覚えた。
健は改めて日本にいるのだと感じた。シンガポールでは味わえない日本独特の雰囲気に〔やっぱり日本はいい〕そんなふうに思った。
香ばしい香りの珈琲が運ばれて来た。シンガポール、マレーシアなどは何故か物凄く甘い砂糖をたっぷり入れた珈琲がある。やはり日本の珈琲は、風味と渋味が良くて美味かった。外は曇り空の下で、冷たい風が落葉を吹き流して晩秋の寂しさを感じた。
小夜子は家で掃除や、荒れた庭や池の手入れをしながら、まだ完全に回復したとは言えない身体の回復に努めていた。健に言われて渋々と時間を潰していたのだ。
健と小夜子はシンガポールで、あのリゾート地のホテルで約束した事がある。
これから一緒に君と生きて行くと、二人だけの婚約だった。誰にも話してはいないが。
シンガポールと日本で、二人を取り囲む知人、友人は当然、結婚すると思っている。
あとは結婚がいつになるか、だけの事だった。小夜子もそれを願っている。
つづく
- Re: 君の為に ( No.84 )
- 日時: 2021/11/13 08:53
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
君の為に 83
その知人達は二人を心から祝福したいと思っているのだ。その中にはヤクザの松本と橋本も含まれていた。その二人は組に戻って、どうして居るのだろうかと小夜子は掃除しながら想い浮かべていた。あのレストランでの出会いが懐かしく思い出される。
小夜子も早く一緒に生活がしたい。しかし、どうしても最後にやり遂げなければならない事がある。それが宿命と健と小夜子は思っている。
健の暗い過去、忘れられない友人の死、自分の為より友人の為にも生きなければ、そして償わなければ、と生きて来た健だった。そんな健に家庭の素晴らしさを教えてあげたい。
小夜子はそう思っている。健の心を立ち直らせ生きる事の意味を教えてくれた要山和尚。そして小夜子の存在がなかったら、健はまださ迷っていたかも知れない。
小夜子からは合気道と、精神力と愛を貰った。そして恋を教えてくれた。
今度は健が小夜子の為に幸せを贈る番だ。だが全てが犯人に罪を償って貰ってからだ。
今日も健は喫茶店に張り付いていた。その時、黒塗りのベンツが盛田開発の事務所の前に停まった。健は喫茶店の窓際から、そのベンツを見てハッとした。何度か見たあの顔だ。
あれは盛田だ。盛田一政が車から出て来た。あの脂ぎった顔が横柄な態度で歩いている。浅黒く眼光がするどい、議員と言うよりも暗黒の世界が似合っている風貌だ。
事務所から人相の良くない数人と、一般の社員だろうか、出向かえに出て来た。
盛田は平然として周りを見る。目があった社員はビクリとして直立不動で立っている。
まるで将軍にでも、なったかのように一瞥してから事務所の中に入って行った。
健は(今に見ていろ、必ず制裁を加えてやる)と、その姿を焼き付けた。
出来るなら今すぐにでも、胸倉を掴んで殴りつけてやりたい衝動に駆られたが。
今そんな事をしたら、ただの暴漢に過ぎない。おまけに警察に突き出されたら元も子も無くなる。健は自分の心を制御する事に必死だった。偏見を除いても好きになれるタイプじゃない。
正面から乗り込む訳にも行かない。何か方法はないかと思案する健。
だが、今は手の出しようがない。ここはひとまず引き上げざるを得ない。何の為の一週間だったのか。標的を目の前にして何も出来ず、健は身体を震わせて耐えた。
その夜は帰って小夜子に盛田一政が現れたことを告げた。その悔しさは、きっと小夜子も同じ気持ちに違いない。やはり盛田の周りの人間から崩すしかないと意見は一致した。
それとは別に小夜子から珍しい、お客さんが来ると伝えられた。
「あのね。健、松本さん達が遊びに来るって」
「えっ、どうしてまた。こんな田舎まで。あっそうなんだぁ。きっと幹部になった報告かな。きっとそうだよね。ハッハハハ懐かしいなぁ」
先ほど迄の悔しい話題から一転、松本と橋本を思い出して二人の顔がほころんだ。
「どうやら、あの人達とは縁が切れそうにないな。どんな格好で来るのかな」
「そうそう思い出したわ、シンガポールに来た時の服装を本当に派手だったわ。フフッ」
最初は住む世界が違う人間だからと思っていたが。むろん今でも違う訳だが、何故か相性があった。彼らもまた健と小夜子の強さに憧れていた。あれは小夜子が東京に出て間もなくの頃、不思議な出会いだった。小夜子はどれだけ勇気つけられた事だろうか。
夜子と二人で買った、ペアのネックレスの鎖が切れて床に落ちた。
そんな時,健が風呂に入ろうとしてTシャツを脱いだ時に、チャリ~ンと音がして、小
「ゴメンゴメン切れちゃった。風呂から上がった時にでも直しよ」
「もう。ケンったら、要らないの」
とっ、ふくれ面をして口をプーと膨らませ拗ねてみせた。茶目っ気タップリの小夜子だった。金は健のネックレス、銀は小夜子のネックレスを、二人はいつも身に着けていた。
翌日は午後少し遅く出た。小夜子がいつものように「気をつけてね」と言って見送ってくれる。もう新婚の夫婦みたいだった。
しかし今は二人とも働いていない。当分は食べるに苦労はしないが、要山和尚夫妻を死に追いやった犯人が法の裁きに掛からなければ、自分達の力で身を持って反省させる迄と。それが終わって始めて二人に本当に幸せがやってくるのだ。今は、それが全てに最優先と考えていた二人だ。
つづく
- Re: 君の為に ( No.85 )
- 日時: 2021/11/17 18:09
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
君の為に 84
最終章 君の為に
最三節 最後の戦い
今日も盛田の事務所を見張った。盛田は今日も来て居ないが見慣れない人物が三人現れた。健はピンとくるものがあった。地元の人間ではなさそうだからだ。
もしかしたら、あの中に沖田が居るのではないかと感じた。
健は強攻策に出るしかないと、このままでは一向に進展ない事にイライラしていた。
健も随分長く見張っていて苛立ち始めていた。見張りと言う忍耐が、こんなにも辛いのかと思った。ましてや憎むべき相手だからか。あの三人は何処から来たのだろう?
健は沖田の顔は知らない。用心棒は沖田だけじゃないかも知れない。こうなったら強引に三人の前に立ちはだかって戦うしかない。小夜子が側に居たらきっと止めるだろうが、健にはそんな心の余裕は、もう残っていなのか。
シンガポールで小夜子と新しい生活が待っているからなのか。
それとも長く待たされからか。健はそんな自分を呪った。まだまだ修行が足りないと。要山和尚に叱られそうだ。
その見慣れぬ男達は、再び車に乗って動き出した。
健は喫茶店の近くに停めてあった自分の車で、その車の尾行を開始した。
まずは盛田の枝〔手下〕から情報を聞き出し考えだ。車は小一時間程して着いた。
その先はゴルフ場だった。三人ともサングラスを掛けていたが、その風体はいかにも普通の人間とは違っていた。三人はゴルフ場のクラブハウスに入って行った。
こんな遅い時間に何をすると云うのか、今からプレーするには遅すぎる。
やはり何かあると健は感じた。暫くするとクラブハウスの中から用心棒を従えて盛田一政が現れた。
それを守るように三人の男が囲んだ。(やはり奴のボディーガードか)健は呟いた。
盛田の顔を健は遠く離れたロビーから用意していた双眼鏡で見ていて思った。
あの脂ぎった顔で小夜子の両親殺しを支持したのか。そう思うと腹が煮えくり返って来る。人の不幸を肥やしに、のし上がった奴を健は許せなかった。
つづく
- Re: 君の為に ( No.86 )
- 日時: 2021/11/21 09:13
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
君の為に 85
今飛び出して行って袋叩きにして、土下座でもさせてやりたい衝動に駆られた。
健は、その怒りを制御するのに必死に身体を震わせて耐えたのだった。
この場所は、健が心の修行と小夜子との、交流が始まった場所でもある近くだった。
その車が別荘らしき場所で止まった。〔そうか、此処が盛田の別荘か〕
健は浄土ヶ浜でこの別荘は見たことがある。まさか盛田の別荘とは知らなかった。
盛田の新しい居場所を見つけて、また一歩、追い詰めた気がした。
健は別荘を一気に奇襲しようかと考えたが、しかし其れでは只の押し込みだ。
それならば一人でも誘い出す方法が得策と思ったが、今は、その術がない。
健は車で別荘から五十メートルほど離れた森で待機する事にした。
しかし、こんな時間に用心棒まで従えて何をしようとしているのか、商売か議員の仕事をするとしたら、自分の事務所で出来るのだが。
もう時刻は夜の八時頃になろうとしていた。その時、別荘から一人の男が出て来て車に乗った。使いか何かに出されたのだろう。健はチャンスと見て、その車の後を追った。
その車は海岸通りに出た。健はこの辺りの地理は知り尽くしている。
この先に道は二股に別れて、右が海岸へと続き左が国道へと続く道だ。
国道に出られては車が多く人目につきやすい。海岸方面なら松林が続き、この時間帯なら殆んど車は通らないが。健は賭けた。国道なら奇襲は止めようと。
しかし幸か不幸かその車は、海岸方面へと向かった。
健には一気に、そのチャンスが訪れた。健の身体からアドレナリンが噴出した。
その松林に近づいた健は一気に車の速度をあげて、その前の車を追い越し斜め前に進み、急ブレーキを賭けた。相手の車は咄嗟のことで慌ててハンドルを左に切って避けたが、道路の側面にある溝に前輪が落ちて急停車した。どこか打ったのか、なかなか出て来ない。
やがて運転席から降りて来た男が、ドアを勢いよく開けて飛び出して来た。相当に興奮しているようだ。やはり一般人とは違う風貌をして苛立っているようだ。
「なんて運転しやがる!この野郎出て来い。ただじゃあ済まないぞ」
言われなくても健は最初かそのつもりだ。健は車から降りて、わざと頭に手を上げて、誤るような振りをした。だがその男は怒りが収まらないのか、いきなり右パンチを繰り出して来た。健にはそれが止まっているように遅く感じた。なんなくその腕を抱え込むように軽く捻って体を沈めた。男は駒の用に一回転して路面に叩きつけられた。次の瞬間、健はその右腕を伸ばして膝に当てて強く引いた。鈍い音がゴキッと鳴った。
それは右肩の間接が外れた音だった。これは想像以上に痛い、大の男でも悲鳴を上げて脂汗が滲み出る。当然その男も、大きな悲鳴を上げて目が散り上がってわめいた。
つづく
- Re: 君の為に ( No.87 )
- 日時: 2021/11/23 22:24
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
君の為に 86
ほんの数分の間に自分に何が起きたか分からないまま叩き伏されて、健が鬼のように見えた。その男は始めて悟ったのだ。自分が、この男に襲われた事を。
「ちょっと、聞きたい事があるのですがね」
その鬼のような健が、おだやかな調子で尋ねた。やる事と丁寧な言葉は余りにも対照的だった。男は思った。聞きたい事があるなら最初から丁寧に聞いてくれと。
「なっなんだ。お前は。俺が何をしたって言うのだ。俺が」
と男は震え上がった。しかし丁重な言葉とは裏腹に健の表情は険しかった。
「別に……あんたには恨みがないのだが、こうでもしないと協力してくれないと思ってね。沖田があの別荘にいるだろう」
「なに、沖田さんがどうかしたのか」
「その沖田は、あの盛田と一緒に別荘に今、居るだろう。答えてもらおうか」
「知らん、知って居ても言える訳がないじゃないか」
そう言いながらも、白状しているのと同じような事を言って喚いた。混乱している。
「そうか、なら言わなくても良いが、次は左の方を外してあげようか。但し痛いぞ」
言い終わらぬうちに健は、左腕を取って強く伸ばして一気に左肩を外し体制に入った。
「待ってくれ! 言う、言うから待ってくれ」
男は必死に哀願するような目で健に屈服した。それ程までに関節を外されるのは強烈に痛い、また両肩を外されたら人形と同じで両手が動かない。相手の思うままだ。
しかしその前に激痛で気絶するかも知れない。抵抗のすべもない関節外しは健の常套手段だった。しかも骨が折れる訳じゃないから大事に至らない利点もある。
男はすっかり観念して話し始めた。その話によると健が想像した通り、盛田の用心棒だった。沖田は時々、業者間のトラブルや相手次第によっては力で黙らせる脅しもやっていた根っから悪党だ。そんな連中を雇う盛田の裏社会が、やっと見えて来た。
そして要山和尚も、その盛田の差し金によって命を落とし結果になったのだった。
健は、その男の免許証から身元を確認した。やはり地元の人間じゃない。そして男に命じた。電話で呼び出して(事故を起こしてヤクザ風の男と揉めている)と。
男は近くの公衆電話ボックスから沖田へ電話をかけた。その側に健が立って見張っている。健を横目に、事故を起こして地元のヤクザと揉めていると伝えた。
盛田は地元のヤクザと関わりを持っていない。噂が広がれば地元では選挙に勝てないから、東京とか離れた所から呼び寄せる。新日本同盟などとは、裏で深く繋がっていた。
その為に金も注ぎ込んでいる。沖田からの返事は、その男を一喝した後、舎弟の為にどうやら出向いて来るらしい。果たして何人でくるかが問題だが、仕掛けた罠はもう後戻りが効かない。健は今夜、沖田だけでもケリを付けたかった。そして盛田が命じた事を吐かせるつもりだ。その後、健は間接を外した男を縛ってトランクに押し込んだ。
これは松本の受け売りだが、便利な使い方もあるものだと思った。まもなく十五分経過した頃、ライトを上向きにした車がフルスピードで近づいて来た。
健は車から三メーター程離れた松の木の後ろに身を隠した。
つづく
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20