ダーク・ファンタジー小説

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君の為に
日時: 2021/01/03 09:55
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

『君の為に』


この物語は昭和から平成に変って間もなくの頃、北陸は金沢で大学生が空手の稽古中に誤って親友を死なせてしまい、一九才の少年(堀内健)は苦しみ大学を中退し岩手県にある名勝、浄土ヶ浜近くのお寺へ精神修行する所から始まる。その寺の住職は合気道の達人で大勢の門下生に教えていた。その一人娘(小夜子)女子大学生も幼い頃から合気道を学び有段者であった。堀内健は修行して住職から色んな事を学んだ。精神面も強くなりまた合気道も教わるが、その小夜子の父である両親が何者かに殺された。堀内健にとっても大事な師匠である。小夜子はその犯人を追って、青年となった堀内健の力を借り犯人を追って岩手-東京-シンガポール-岩手へと修行から合わせて八年間にも及ぶ過酷な戦いと共に芽生えた愛と復讐の物語である。

『前回投稿した、宝くじに当たった男に続く長編ものです』

前回同様宜しくお願い致します。

Re: 君の為に ( No.68 )
日時: 2021/07/11 17:34
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 67

「詳しく話しとこの安田が、仕事がなくてフラフラして居る処を、新日本同盟に雇われて、事もあろうに自分の兄弟分を利用して、橋本が拉致された訳さ」
そう聞いて健は安田に視線を移した。安田は健と視線が合って気まずい顔をした。
負い目があるからだろうか、目が合った瞬間に頭を掻きながら健にペコリと頭を下げた。松本は、その仕草を見ながら話を続けた。
「でっ、こいつが」安田を指差すと、またまた安田は頭を下げた。
「それで小夜子さんと俺で新日本同盟の事務所を捜しあてたら、この安田が事務所の番をしていた処を、逆に俺と小夜子さんで安田を拉致したんだ」
健は黙って聞いていた。橋本は少し離れた窓際の椅子に座りタバコを吸って話を聞いている。安田は体の置き場がないのか、ついには正座してしまった。

「それで安田を貯水池に連れて行き、橋本の居場所を吐かせようとしけど、その時に小夜子さんが橋本が事務所に居ると確信して、一人でタクシーに乗り込み新日本同盟の事務所へ再び戻り、橋本を見つけて救出したんだ。俺も慌てて車で後を追ったら丁度、小夜子さんが橋本を救出して来て、車に乗る寸前に新日本同盟の奴等に撃たれたんだよ」
「そうだったんですか。相変わらず彼女は無茶をするなあ、東京に出て来た時だって、僕に心配かけまいと、単独で新日本同盟を一人で探っていたんです」
「小夜子さんは俺にとっては命の恩人ですから、本当にこの安田の野郎を海に沈めてやろうかと思うくらいに憎んだよ。でも話を訊いている内に、この馬鹿が新日本同盟に森と同じく麻薬漬けにされかかって仕方なく奴等の言いなりにされ、安田は俺たちに謝って新日本同盟の事を何でも聞かせてくれたから勘弁してやったんですよ」
二人の話が言い終わると、その安田が改めて健に詫びを言った。
「堀内さん申し訳ない。俺のせいでアンタの彼女まで大変な目に合わせて謝って済むことじゃないが、許してください」
「いや、もういいですよ。誤るなら理由はともあれ、友人の橋本さんに謝ってください。俺だって人に、とやかく言える身分じゃないですから」

 健は忘れかけていた原田の事を思い出した。故意じゃないにしろ友人を殺してしまった。重圧に苦しんで来た健だったから。好き好んで加担した訳じゃない安田を責められない。
 「俺は大学時代に空手の練習中に、親友を誤って殺してしまったんですよ」
 松本も橋本も、それは初耳だった。健の笑顔が少ないのは、そのせいかと改めて思った松本と橋本だった。
「それで大学を中退して小夜子さんの実家である、お寺に精神修行と友人の為に祈る毎日を続けていたら、今度はその恩人の和尚夫妻が新日本同盟の人間に殺されたので小夜ちゃんと二人でシンガポールまで来たんです」
「その新日本同盟の連中に殺されたのは聞いていたけど、堀内君が事故とは言え辛かっただろうな。まあ、今はその犯人を捜しが先だな。なんでも協力するぜ」

 「それで、その犯人の居場所が分かったとか?」
「まあな、安田がみんな話してくれたから、こっちも仕事がやり易くなった訳さ。これは小夜子さんの親の弔い合戦と、矢崎組との戦いでもあるんだ。互いに敵は新日本同盟だ。俺たちはやるぜ。堀内くんには小夜子さんが居るだ。無理しちゃあ駄目だぜ」

それから四人で一杯飲みながら作戦会議となった。その結果がこうだ。
 「ほうそれはいい、奴らに丁度似合うじゃないか十三日の金曜日は」
 「今日は火曜日だから三日後だな、ようし一発ハデにやるか」
 「橋本、お前またドジ踏むのじゃないかヘッヘヘ」
 「あの時は安田だから、ちょっと気を許しただけだ。もうヘマはしないさ。心配すんな」 
 他愛の無い話をしながら計画は念入りに進んだ。そして十三日の金曜日に、まず松本が事務所を夜七時に見張る事にした。
この日はキリストがゴルゴダの丘で処刑された日、縁起が悪いとされている。

彼等はきっと事務所に現れると読んでの計算だった。
また貨物船から密輸を企てる日なのだろう。
これが日本に持ち込まれると、また新日本同盟の力が強くなる。
そうなると同じ池袋に縄張りを持つ矢崎組が不利になる。

資金力に勝る新日本同盟が、一気にのし上がるのを防ぐ為の水際作戦だった。
次に彼らは、どの船に積荷を運ぶか見届けなければならない。健と橋本、安田は埠頭の方で待機することに決めた。そして松本からの、携帯電話の連絡を待つ事になる手はずだ。 その間に松本は、あの事務所に何かあると決め込んでいた。その証拠を探しつもりだ。
相手は何人居るかは不明で、おそらく十名数名は居るだろうと想定していた。
多分、武器も所持して居ると思われ、そのまま現場を抑えても多勢では手が出ない。

 積荷の確認と船名、人数と顔を確認する。そのスキを狙って浜口だけでも奇襲攻撃を掛けて吐かせる。そのリーダーは誰か分からないが、多分、浜口孝介ではないかと思われ、その浜口孝介を見つけて尾行する。
ただ浜口が一人になるとは限らない。それにリーダー格となれば、かなり腕が立つと思われる。麻薬取引の証拠さえ握れば良いのだ。
 健は出来るだけ危険な行動はしないようにと三人に言った。
 それだけ健の力が際立っているからだ。こちらの襲撃チームは矢崎組の橋本、それに安田と健の三人だ。この中で一番、腕が立つのは圧倒的に健だ。次にリーダー格の松本だろう。だが松本は事務所に乗り込む。そこで証拠書類を見つければ、すべて解決する。
 健は一番年下だが、その腕は松本等が十人分にも匹敵するだろう。
 多分、健が先頭を切って飛び出し事になるだろう。
 その四人は決行日と時間と場所など、再確認して健はホテルを後にした。

つづく

Re: 君の為に ( No.69 )
日時: 2021/07/17 17:03
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 68
第六章  太陽は昇る 
第一節  合気道の真髄 

 その決行の前日、健は小夜子の病室を訪れた。小夜子は日増しに回復してきた。面会時間も多少、長く許されて。今は一般病棟の病室に移される程に快復していた。
 健が病室に入って行くと、小夜子が健に気づいてニッコリと笑って健を出迎えた。
 「やぁ小夜ちゃんどう? 体調は。大分いいようだね」
 健はそっと小夜子の手を握った。
 「ありがとう。夢を見ていたの。浄土ヶ浜を二人で歩いた、あの日を」
 「そうなんだ。懐かしいね。退院したら一旦、日本に帰って静養したらどうかな」
 健は心身ともに疲れきった小夜子には一番良いと思ったのだが。
 しかし小夜子は、気丈にもこう言った。
 「それは出来ない。私はシンガポールまで入院する為に来たのじゃないわ。それは健が一番知っているでしょう」
 「それはそうだけど体を治し方が先じゃないの小夜ちゃん」
 あの美しい東北有数の名所。三陸海岸、浄土ヶ浜の空気を吸ったら、きっと快復も早いのじゃないかと。健はそう思ったのだが。もう一年近くに日本を離れている。

 健も出来れば全てを終らせて一度、日本に帰ってみたい気持ちはあるのだが。
 「確かに健の言うとおりね。今まで夢中でやって来たから懐かしいなぁ」
 やはり小夜子だって本音は、生まれ故郷に帰りたいのだ。
 故郷にこのまま帰って両親の墓に何と言って説明するのかと思うと、やるせない気持ちだった。
 だから健には今、どうしてもやらなければならない事がある。
小夜子の両親の為にも、あの盛田一政と残る浜口、沖田の三人はどうしても許せない。だが入院している小夜子には心配させたくない。なんとしても決着を着けなければ。今はそれがすべてを優先するのだ。健は小夜子に明日、起こるであろう出来事は伏せて病院を後にした。
 そして十三日の金曜日の午後六時。健はT・T探偵事務所の寮を出た。
近くの公園に寄って、軽く身体をほぐして大きく深呼吸をした。
静かに目を閉じて、一分……五分。健は微動だにひとつしない。
神経だけがアンテナのように張り巡らされて周りの雑音は聞こえないが、心眼では要山和尚の姿が浮かんでいた。やがて健は目を静かに開けると、その風貌が一変していた。
 まるで野生の豹が獲物を見つけたように。鋭い眼光がギラリと光る。
 すでに健は戦闘態勢が出来上がっていた。
 準備運動が済むと「小夜ちゃん、行って来るね」そう呟く。
 午後七時五分前、健はT・T探偵事務所の車を使わずタクシーで約束の埠頭へ健は到着した。そこには橋本と安田が待っていた。もう空は日が暮れかかっていたが、橋本と安田は健の風貌を見て、夕暮れ時の薄明かりに浮かぶ野生動物を見た思いがした。
 健に声を掛けるのを、ためらった程の威圧感を感じた。

つづく

Re: 君の為に ( No.70 )
日時: 2021/08/01 19:32
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 69

 健は橋本と安田を見ると、ほんの一瞬だけ笑みを浮かべて話しかける。
 「やぁ、松本さんは? もう事務所を見張っているのかな」と声をかけた。
そこには松本だけ姿が見当たらなかった。敵の留守の間に事務所に忍び込む考えだ。
 「松本はもう張り付いている筈だ。俺と違って抜かりがないだろう」
 と橋本は笑った。橋本はトジを踏んで捕まっているから、その時の事を思い出しての苦笑いだ。その隣で原因を作った安田も頭をかいて苦笑していた。
 良く見ると橋本は見慣れない電話みたいな物を持っていた。
「橋本さんそれはなんですか?」
「ああ。これは高性能の無線機だよ。松本も持っている。俺たちの秘密兵器だ。へっへへ」

 そう言っている内に無線機が鳴った。ボリュームは音量を最小限に下げてある。
 それは一足先に出かけた松本からの連絡だった。橋本は受話器に耳をあてた。
 話を聴いているうちに、その表情が硬くなり簡単に「分った!」と云って無線機のOFFのボタンを押した。
「今、新日本同盟の五人が事務所を出たそうだ。浜口がやはりリーダーで、そいつらと一緒だって。奴等が居なくなったら留守を狙って、その間に事務所あらしをするそうだ。上手く行けば密輸証拠書類を盗み出し告発してやれば新日本同盟の息の根を止めてやるって作戦さ。何も奴等と戦争しなくても一網打尽でさ、ヘヘッ最近のヤクザも頭を使わないとね」
「へぇー流石ですねぇ。確かにいい作戦ですよ」

 自分達も、そうすればどんなに楽か。でもそれだけでは小夜子も自分も納得出来ない。自分達の手で少なくても、目の前で跪かせるか気の済むまで殴り倒してやりた気持ちだ。
  健の表情が強張った。やっとシンガポールまで来た願いが、今其処にひとつ叶う時が来たのだ。埠頭の薄暗い街頭に十人くらいの集団が、辺りを見回すように現れた。
 その埠頭には少し大きな貨物船が停泊している。
五千トンクラスくらいだろうか。その貨物船のタラップから一人降りて来た。
 様子を伺うように周りを見渡して。その集団と何かを話している。多分、互いに相手を確認しあっているのだろう。
 貨物船から降りて来た男が、船の上にいる船員に合図を送った。
 日本人ではなさそうだ。話し合いが終わったのだろうか、貨物船のクレーンが動きだした。と同時に、どこからか小型トラックが貨物船の側に走り寄ってくる。
 いつの間にか十人ほど居た集団が三人になっていた。
多分、各自がどこかに隠れて、万が一の事態に備えているのかも知れない。

つづく

Re: 君の為に ( No.71 )
日時: 2021/08/10 18:23
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 70

 健たちは遠くから黙って見つめていた。今は動く時ではないと。
 暫らく様子を見る事にした。その時また無線機が鳴った。
 音量を下げているとは言え、静まり返った夜は相手に悟られる。
 慌てて橋本が受信ONにした。その受話器から松本の声が聞こえて来た。
 「どうだ。そっちの状況は、奴らはどうしている」
 「今、トラックから積荷をクレーンで吊り上げる処だ。それが終わった時が勝負だ」
 「そうか今、俺は奴等の事務所の中に居る。いい物を見つけたぜ」
 「えっ本当か? やったじゃないか。それより大丈夫か誰も居ないのか」
 「あいつ等は、そっちの仕事が大事だから全員出かけた。誰もいやしないぜ。でもヤバイから、そろそろ出るぜ」
 そう言って無線が切れた。松本は少し興奮している。それ程の収穫物なのか
 「松本が事務所で何か見つけたと言っている。大事な物だって」
 橋本が健と安田に伝えた。健と橋本、安田はとにかく松本が見つからない事を祈るだけだった。取引が終わる前に事務所を離れないと危険だからだ。
 時間にして四十分が過ぎた。どうやら積荷は全部貨物船に移されたようだ。
 「どうやら終わったみたいだな。これからが勝負だ」橋本が言った。
 「浜口が動き出したら、俺はヤツを追う」
 視線を埠頭に向けながら健は誰となく話した。目の前に浜口が居るのか厳しい顔だ。

つづく

Re: 君の為に ( No.72 )
日時: 2021/08/13 20:38
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 71

 「浜口が一人になるとは考えにくいなぁ、集団で帰るのじゃないよな」
 安田の感だ。確かに一人で帰るとは考えにくい。橋本はそれを、こう予測した。
 「俺だと一仕事が終わったら多分、一杯飲みに行くぜ。大きな取引のあとだからな」
 それは十分考えられる事だが、大仕事が終った後だから、果たして浜口達はどこに向かうのか? それから数分して浜口らしき男を中心に数十名の男たちが輪になった。
 殆ど灯りがない埠頭に、遠くある外灯がうっすらと見える。
健達三人はここから三十メートル程、離れたコンテナの間から見張っている。

 浜口らしき男が全員に何かを手渡している。おそらく報酬か小遣いだろう。
まもなく輪が解けて、それぞれ散って行った。報酬を受け取った奴等は思い思いに飲みに出かけるのだろうか。それから浜口らしき男と一人の連れが歩き出した。
 浜口が二人だけになったのを見て、橋本がチャンスとばかり言った。
 「よし今だ! 浜口をとっ捕まえてやろうぜ」
 橋本と安田が飛び出そうとしたが。しかし健が二人を引き止めた。
 「ちょっと待ってよ。奴等は拳銃を持っているかも知れんよ」
 多分それは間違いないだろう。なんと言っても此処は外国、それも殺し屋だ。
 「じゃどうするんだ! このチャンスを逃がしたら後がないぜ」
 「それは分かっている。俺に任せてくれ松本さんが来るまで二人で此処に待機していてくれ。俺がなんとかするから」

 橋本と安田はある程度、健の実力は知っては居るが果たして、相手が拳銃をも持っているかも知れない相手に、どう立ち向かおうと言うのか。
しかし橋本と安田では対処出来ない。二人は黙って頷くしか方法がなかった。
健は二人に軽く手を上げて、浜口達が歩いている方向へ足早に去って行った。
二人は心配顔で見送った。健は浜口と連れの男の方へ一直線に向かって歩く。
その距離が十メートル位に近づいた時、浜口達は健が近づいて来るのに気付いた。
 しかし健は軽く手を上げて笑顔で近づいて行った。浜口は少し警戒心を緩めた感じがした。しかし何故、手を上げたのか不思議でならない。知り合いかなと油断した。
 それにしても知らない奴だと思った。相手は無防備だが、それでも警戒心だけは一流のようだ。浜口は懐に手を忍ばせた。さすがに修羅場を潜って来た人間なのだろう。
 もう一人の男も少し遅れて懐に手を偲ばせようと右手が動いた。その瞬間だった。

つづく


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