ダーク・ファンタジー小説

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君の為に
日時: 2021/01/03 09:55
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

『君の為に』


この物語は昭和から平成に変って間もなくの頃、北陸は金沢で大学生が空手の稽古中に誤って親友を死なせてしまい、一九才の少年(堀内健)は苦しみ大学を中退し岩手県にある名勝、浄土ヶ浜近くのお寺へ精神修行する所から始まる。その寺の住職は合気道の達人で大勢の門下生に教えていた。その一人娘(小夜子)女子大学生も幼い頃から合気道を学び有段者であった。堀内健は修行して住職から色んな事を学んだ。精神面も強くなりまた合気道も教わるが、その小夜子の父である両親が何者かに殺された。堀内健にとっても大事な師匠である。小夜子はその犯人を追って、青年となった堀内健の力を借り犯人を追って岩手-東京-シンガポール-岩手へと修行から合わせて八年間にも及ぶ過酷な戦いと共に芽生えた愛と復讐の物語である。

『前回投稿した、宝くじに当たった男に続く長編ものです』

前回同様宜しくお願い致します。

Re: 君の為に ( No.23 )
日時: 2021/02/22 18:18
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 23

 それからと云うものスーツの汚れは、そっちのけで小夜子達の食事代は払うは、上には置いても下には置かぬ扱いを受けて笹本啓子にも、いや悪い事をしたと謝った。
 その後、松本と橋本達ともう一人の連れと小夜子の同僚と六人で飲み直す事になった。 
 最初は小夜子の連れの女性達が嫌がっていたが、次第にヤクザの男たちと、恐る恐ると話している内に、見た目ほどに悪い人間じゃなく、すっかり仲良くなった。
 ヤクザと云うもの一旦、恩義を受けると、その何倍も義理を返すところがあるらしい。
 なんとも不思議な組み合わせの、飲食会になったものである。

 最初は、あんなに怖がっていた彼女らも、その男気に意気投合したのであった。
 結局は食事のあとに飲み直してから三時間も経過していた。夜の十時過ぎに、やっとそのヤクザ達と別れた。その時に松本達は小夜子の名前を、教えて欲しいと何度も催促されて仕方なく教えた。笹本啓子達二人も聞かれたが、さすがに彼女たちは尻込みしてしまった。
 松本達に今夜の食事代、二次会みたいになった飲食代を全て出して貰った。
 小夜子達三人は、せめて少し出させて欲しいと言ったのだが。
「此処は俺達の顔を立ててくれ」女には分らないが、そう言われてご馳走になった。
 その別れ際、松本が小夜子に名刺を渡した。不思議な名刺だった。
 サイズは普通だが、矢崎組の紋章だけが名詞の三分の一を埋めるほど大きい物だった。
 松本の名前には組の住所と電話番号が書いてあった。名詞の裏には松本個人用の電話番号が手書きで書かれていた。
「えーと坂城さんだった。なんか困った事があったら電話をくれ飛んで行くから」
 そんな風に言われた。小夜子は閃いた。蛇の道は蛇てだ。
 もしかしたら自分の探している男に心当たりがあるかも知れないと。
「ありがとう。私も是非お願いしたい事があります。近いうちに電話しても宜しいですか」
「おーあんたの為になるなら何でも言ってくれ。待っているぜ」

 小夜子達三人は、彼等と別れてからヤクザ達の感想を漏らした。
「驚いたわ、なんで小夜子さん、あの方達と知り合ったの?」
「うーん話せば長くなるけど、松本さんが怪我をして公園の片隅で呻いていたの。どうやらイサゴザがあったようで腕に短刀が刺さっていたの。本来なら救急車を呼ぶところだけで、救急車を呼べば警察に知られるし、松本さんはそれが嫌っているのが分かり薬局に行き血止めやガーゼなどを買って応急処置したあげたの」
「凄い! 度胸あるわね、普通は怖くて寄り付かないのに」
「まぁほっと置けない性分だから、その時は名前も教えないで立ち去ったけど、今日偶然会って、世の中狭いものね」
「ごめんね。小夜子さん私の為に。でも最初は怖かったけど、とても優しく楽しい人達ね。新しい発見だわ」
「そう思ってくれると嬉しいけど。驚いたでしょう」
「そりゃあ驚いたわ。小夜子さんが、あんなに度胸があるなんて。相手はヤクザなのよ。怖くなかった? もし殴られたら、どうするつもりだったの」
 「私だって怖いわ。でも殴りはしないでしょう。そう思っていたわよ」
「あの松本という人を、手当をしてあげ立ち去ったでしょう。私なら絶対逃げていたわ」
「でも例え相手がヤクザでも大怪我してるい人をほって置けないでしょ」
 小夜子は平然と言ってのけた。まさか自信があったなんて言えない。
 合気道をやっているなんて言った事もなかった。

 三日後、小夜子は松本の名詞の裏に書かれていた番号に電話を入れた。
「あい、矢崎……いや松本だが」
「ああ松本さん。先日はご馳走さまでした。坂城小夜子ですが分りますか」
「オーあんたか? 確かお願いがあるとか言っていたが」
「ハイ、実は新日本同盟って知っていますか」
「なに? 新日本同盟。俺が襲った相手がその新日本同盟だ。なんでアンタが?」
「電話では言えないのですが、その中に宮崎という人を探しています」
「アンタの親戚とか恋人が居るなんて言うんじゃないだろうな」
「まさか、その逆です。詳しくは後でお話します」
「そうか安心したぜ。新日本同盟は俺達と敵対関係だからな。分ったら連絡するよ」 

つづく

Re: 君の為に ( No.24 )
日時: 2021/02/23 21:32
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 23

 そんな日があってから一週間が過ぎて、矢崎組の松本から思いがけない情報を貰った。
 スナックで松本が刺された時の二人連れの中に、宮崎仁が居たと云うのだ。特徴は頬に傷があるらしい。小夜子は勤め先の電話番号を教えていた。
 しかし電話をする時は、お客さんの振りをして小夜子を呼び出してくれるように頼んでおいた。まさか、こんな形で情報が貰えるとは思っていなかった。まさに蛇の道は蛇だった。松本達と再会して、あの夜遅く迄、飲んだ時に、つい東京に来て、なかなか犯人の足取りが掴めずに、焦りもあったのかポロリと真の目的を松本に溢して後悔したが、こんな形で、それもヤクザから恩返しされるとは。

 松本は新日本同盟には恨みがあった。同じ池袋に縄張りをもつグループだ。
 新日本同盟と一見政治団体を名乗っているがやっている事はヤクザと変わらなかった。
 当然、何かと対立する。松本は鉄砲玉として乗り込んだが返り討ちにされ恨みがある。その点で小夜子とは利害が一致したのだ。小夜子は東京に出て来た目的が、やっと松本と知り合ったお陰で、その形が見えて来たような感じがした。それからも小夜子は例のスナック周辺を、仕事の合間をみて見張っていたが長身の小夜子は目立過ぎる。出来るだけ用心して姿が見えないようにして居た。
 時刻は夜九時を過ぎていた。だが都会の夜はこれから始まる。
 物影に隠れるように見張り、人が通って行くと待ち合わせをしているように時計を見ては誤魔化していた。

 それも一時間が限度だった。そんなに長く待っていたら怪しまれる恐れがあるからだ。
 そして今夜は三十分ほど過ぎた頃。今夜も収穫なしと思っている矢先に動きがあった。
 やがてスナックから二人の男が出て来た。それには少し見覚えがあった顔がある。
 あの松本が襲って逆に、その男に刺された時の男かはハッキリと分からないが尾行する事にした。もし頬に傷があれば間違いなく、あの宮崎だろう。スナックを出た男二人は表通りに出てタクシーを拾う気らしい。通りの車を見ている。そこから小夜子は三十メーターほど離れて歩いた。二人は、てっきりタクシーに乗ると思っていた小夜子は、その後を尾行するタクシーをタイミング良く拾わなければと。

 小夜子も大通りの車道近くに出た。だが二人はタクシーを拾うこともなく元の歩道を歩き出した。小夜子は慌てた。二人の男を見失うまいと小夜子もまた歩道に戻ったが、もう彼等はかなり先を歩いていた。小夜子は変だなと感じたのも束の間だった。
 もう一人の男が小夜子の後方から不敵な顔で現れた。後ろからこの男が小夜子を逆に尾行していたのだ。小夜子はしまったと思ったが遅かった。その男は小夜子を呼び止めた。
 「お嬢さん……俺達に何か用かい?」
 と含み笑いをして声を掛けられた。小夜子はたじろぐ。

 小夜子は不味いと思った。読まれていたようだ。急にピンチになった。もっと用心するべきだった。小夜子は自分の甘さに情けなくなった。やがて先を歩いていた男が引き返して来た。
 「オイ! なんで俺達を着け廻す。ちょっと来てもらおうか」
 男はその不敵な笑みを浮かべて小夜子を見え透いた。その瞬間、小夜子は見た。
 頬に傷がある、やはり宮崎だ。聞いた話と特徴が良く似ている。小夜子は気を取り直して。
 「やっと見つけたわ。あなた……宮崎でしょう?」
 「なっなんだと。なんで俺の名前を知っているのだ。うん? お前はスナックに居た女か」
 見知らぬ女に名前を言われて今度は宮崎が驚いた。まったく見覚えがなかったからだ。
 「やっぱり宮崎ね。貴方を絶対に許せないわ!」
 小夜子は憎悪が吹き出て来た。しかし状況が悪かった。相手は三人も居るのだ。
 「何だと誰なんだ、てめえは? お前に恨まれる覚えはないぜ」
 宮崎の顔が強張る。まだ宮崎は女が誰だか、呑み込めていないようだ。

 この男が両親を殺した憎き相手、出来れば父から教わった合気道で三人とも叩きつけてやりたい。小夜子は怒りが頂点に達した。
 「あの寺の事件の事を知らないとでも言うつもり!」
 宮崎は微妙な変化をみせたが。そんな中、誰だろうかと思考回路が激しく回転する。
 「なっ何の事だ。知らねぇぜ。てめえ! 俺に喧嘩を売ろうってのか」と吠えた。
 「とぼけないで! 知らないと云うなら警察に来てちょうだい」
 「警察? 笑わせるな。警察に世話になるような事はしてない」
 こうなれば力ずくでも警察に突き出そうと小夜子は手を取ろうとした。
 小夜子の顔は青ざめていたが心の中は怒りに煮えたぎっていた。

つづく 

Re: 君の為に ( No.25 )
日時: 2021/02/25 18:01
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 24

第二章 戦いの日々
第四節 傍に居るだけで 

「じゃ警察に突き出せばいいのね」
 小夜子が言い終わらないうちに、一人の男が小夜子に殴り掛かって来た。
 それも、かなり喧嘩慣れしているのか、動きが早く鋭いパンチが飛んできた。
「コノオー! ふざけやがって!」
 小夜子の顔面にパンチが当たったかと思われた。
 だが小夜子は軽くバックステップして、かわすと首筋に手刀を浴びせた。
 これは合気道の技と云うよりも空手に用いられる手刀である。
 どうして小夜子がそんな空手の技を使うのか、それは堀内健から小夜子が教わったものだ。
 健は元々、空手の有段者だ。もし大学で空手を四年間続けていたら、きっと日本でも名の通る空手家になっていたことだろう。小夜子と健は互いに合気道と空手の良いところを組み合わせて更に、武術を磨き合っていたのだ。

 男はガクッと膝から崩れる。宮崎ともう一人の男は、女に仲間が倒された事に驚いた。
「兄貴! 俺に任せてください」
 もう一人の男が今度は真剣な顔をし、腰を落として小夜子との間合いを詰めてくる。
 もう女だと侮ってはいない。空手か何かやっていると思ったのだろう。
 ドリャア~~男は小夜子を力任せに組み伏してやろうと思ったのか、小夜子の肩を捕まえようと覆いかぶさってきた。
 しかし次の瞬間には男がアスファルトに叩きつけられていた。
 今度は合気道の業だ。小夜子は瞬時に身を少し交わし、相手の手首を捻るように上に持ち上げて、更に相手の体を仰け反らせて自らの体を沈めた。
 合気道の技〔正面打ち入身投げ〕であった。
 残った一人の宮崎が顔色を変えた。なんと凄い女が現れたと思った。

 今度は宮崎が反撃して来た。体をリズミカルに動かす、軽いフットワークだ。
 小夜子を中心に体を移動させ、いきなり鋭い右フックが小夜子の顔面に飛んで来た。
 早い! ボクシングの経験があるかも知れない? 
 かろうじて避けたがバランスを崩した。小夜子は戸惑った。
 ボクシングを相手に対戦したこともなく、そのスピードの速さにたじろぐ。
 すかさず左のフックが来たスピードがあった。小夜子は、なんとか交わそうとしたが、一瞬遅く小夜子の頬をかすった。瞬時に小夜子も、その左の肘を捉えて自ら背転する。
 肘の関節が決まって、これを力で無理に返そうとすると骨折してしまう。
 宮崎は、たまらず自分も一回転した。だがドスッ! と、腰をしたたか打って呻く。
 小夜子の(横手取り呼吸投げ)が見事に決まった。とてつもなく強い小夜子だった。

 それが父、要山和尚の合気道を、幼い頃から習った小夜子の凄さであった。
 宮崎と戦っているうちに一人の男が起き上がり、態勢を立て直して小夜子の左足を掴んだ。
 だが、小夜子は構わずに右足のキックで顔面を蹴り上げた。
 男は思わず手を離すが、すでに顔面から血が吹き出て、ウウッと呻き声をあげた。
 だが、予期せぬことが起きた。突然! 宮崎が叫ぶ。小夜子は宮崎の方に向き直ると。
「動くな、このアマッ動いたら容赦なくぶっ放しぜ!」
 その宮崎の右手に拳銃が握られていた。さすがの小夜子も一瞬ひるんだ。
 拳銃まで所持しているとは思わなかった小夜子だった。先ほど小夜子に蹴り上げられ、顔面から血を噴出した男が、小夜子の背中にドスを押しつけた。
「こうなったら、女だって容赦しねぇぜ!」
 ドスを持っている男は、もう相手を女だと思っていないのか目が血走っている。
 完全に理性をなくしている男は大声で息巻いた。その男を見て宮崎が言った。

つづく

Re: 君の為に ( No.26 )
日時: 2021/02/27 19:32
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 25

「待て! ここじゃまずい。おい坂巻、車をこっちへ廻せ」
 小夜子も拳銃では抵抗が出来ない。宮崎に言われて少しは冷静になったのか、男は自分のズボンのベルトを外して小夜子の両手を縛りあげた。坂巻がベンツを運転して来た。
 ベンツを停車させると小夜子を後部座席に押し込んだ。その両脇に宮崎と小夜子から顔面を蹴り上げられた男が、鼻をハンカチで押さえながら叫ぶ。
「このアマ! 手間を掛けやがって。ただじゃ済まないからな」
 そう言って小夜子の顔を殴りつけた。小夜子の頬が赤く染まるが、必死で堪える。
 ベンツなんか持っている処を見ると、彼等も金回りがいいのだろう。

 どうせ裏家業は犯罪がらみだろうと小夜子は思っていた。
 小一時間も車は走り、まもなく都内を抜けて川を渡った。
 だんだん街灯りも少なくなり、河川敷のような広場へと車は向かっている。
 ひと気のない広場に到着した。小夜子は車から降ろされた。ゆっくりと宮崎が近寄って来て小夜子の顔をまずまずと眺めた。宮崎は何かを感じたようだ。
「そうか? お前は、あの坊主の娘か。そうだろう? 確か坊主は合気道とかなんか、やっていたらしいな。道理でな、その娘なら強い訳だ」

 宮崎は凶暴な眼で小夜子に言った。捕まったと云うのに小夜子も怯まずに言い返した。
 「やっと認めたわね。男なら堂々と戦ったらどうなの!」
 小夜子は宮崎を挑発したが、縛られたままではどうにもならない。
 なんとかスキが出来ないものかと小夜子は気丈にも、まだ反撃のチャンスを狙っていた。
 「気の強い女だぜ。だが、そこまでだな。すぐ楽になれるぜ」
 楽とは死を意味する。宮崎は懐から拳銃を取り出して銃口を小夜子に向けた。
 「可哀想だが秘密を知っている奴は死んでもらう。恨むなら自分の運命を恨むんだな」
 小夜子も顔が青ざめた。まさかこんな形で返り討ちになるなんて。
 今更ながら、単独行動の浅はかさを恥じた。
 「ケンごめんなさい。貴方だけは幸せになってね。さようならケン」

 恐怖と悔しさで涙さえ出なかった。小夜子は観念して目を閉じた。一言(悔しい)と。
 宮崎は平然としている。なんと冷酷な男だろうか、慣れた仕草で拳銃を握り直す。
 それも幾度となく人を殺してきた人間は、こうも、あっさりと人を殺せるのだろうか。
 小夜子に狙いを定めて人差し指に力が加わる。その寸前だった! 
 ピキィーン……空気を裂くような振動と共に宮崎の拳銃が弾き飛ばされた。
 いったい何が起きたのだろう? 宮崎は何が起きたのか分からず周りを見渡した。
 小夜子は眼を開けた。だがまだ撃たれていない? 一体どうしたのだろう。
 空気が裂けるような圧力で拳銃が手元から飛んだ。
 それは正に神業か?まったく音もしなかったが。
 空気が圧縮されたような、強い力で拳銃が吹き飛んだのだ。

 あの要山和尚の極意、波動術であった。それを使えるのは現在ただ一人だけだが? 
 要山和尚直伝の波動術を取得した人間は、ただ一人と言う事は?
 その男は河川敷の大きな木の陰から姿を現した。宮崎の連れの男が驚いてわめいた。
「だっ誰だ! お前は?」
 男の前に長身の男が姿を現した。百八十五センチ精悍な顔立ちの男が立ちはだかった。
 やはり堀内健であった。いきなり健は大きく跳躍し、男へのハイキックが頭部へ飛んだ。数メートルも男は吹き飛ばされ動けなくなった。恐るべきパワーだ。

つづく

Re: 君の為に ( No.27 )
日時: 2021/03/03 21:42
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 26

 宮崎がどこかに飛んだ拳銃を探そうとしたが、その時には健が宮崎の目の前に迫っていた。拳を拾おうとしたが間に合わない。ウッリャアー、健の怒りの正拳突きだったが、それでも宮崎は腰を引いてかわした。鋭い健の正拳突きを交わすとは、やはりボクサー経験者か? いずれにしても自信がありそうだ。
その様子を見て小夜子はやっと健に気づいた。健は小夜子を影で支えていたのだった。
 それにしても小夜子が拉致されたのが、どうして分かったのか?
 健の最初の一撃は交わされたが、しかし健は空手と合気道の有段者だ。それも超が付くほどの人間である。相手がボクサーなら、それなりに対処する術は心得ている。
 今度は宮崎が反撃してくる。宮崎のパンチが飛ぶ、右ストレート、左フック、右のボディブローと、凄まじい反撃に出た。だが健は宮崎の左脇をすり抜けたと同時に一瞬の間に、どうしたことか宮崎が一回転していた。合気道(横面打ち四方投げ表技)であった。
 間を置かずに宮崎がヨロヨロと立ち上がり掛けたところへ、顔面にハイキックを浴びせた。長身で鍛えられた肉体からの威力は凄まじかった。

 だがそれで終わった訳じゃない。二回、三回蹴りが飛ぶ、容赦のない攻撃である。
 健の怒りが爆発したのだ。師匠の無念の死と小夜子までを殺そうとした相手に手加減することはなかった。怒りに燃える健は今までに見せたことない形相で宮崎に襲い掛かる。恐るべし。堀内健、怒りのパワーであった。
「健! やっぱり貴方だったの」
小夜子は以前から何かを気配を感じていた。誰かが近くに居る? そんな気がしていた。
 しかし、それは穏やかな空気のような感じだった。やはりそれは健であった。
 「小夜ちゃん危険すぎるよ。一人で戦うなんて」
 その側では宮崎が失神寸前で、もはや戦意を喪失していた。他の二人も完全に動けなくなっていた。どこか骨でも折れたのか一人は右腕がダランとなって呻き声を上げていた。
 健は宮崎に詰め寄り思いっきり尻の辺りを蹴り上げてから言った。
「宮崎だな、お前が和尚夫妻を殺したのだな? そうだろう」
 宮崎は視線を逸らして答えようとはしなかった。流石に根性が座っている。
「そうか! 言いたくないか。なら言わせてやる」

 健は宮崎の左腕を取り上げて強く引き伸ばして自分の膝に固定した瞬間、健の肘が勢いよく下りた。リャアーと気合を入れるとゴキッと嫌な音が響いた。
 ウッギャア~~~
 宮崎が左腕を抑えて転げ回った。左の腕が折れたのだ。まさに鬼の形相の健である。
「宮崎どうする! もう一本の右腕を折って欲しいか? そうか返事がないんだな」
 尚も健は詰め寄り宮崎の右腕を取った。容赦のないその表情は宮崎を恐怖と導いたようだ。たぶん今の健ならやるだろう。もはや健は鬼と化していた。
 「まっ待ってくれ! 待って! 言う。言うから止めてくれ」
 たまらず宮崎は恐怖におののいた。小夜子も余りの健の非情さに驚いたが両親を殺した相手に、まったく同情するつもりにはなれなかった。
 本来ならば今頃、父は寺の仕事と合気道を教えて、母はそんな父の為に料理を作り趣味の生け花をしている筈なのだ。それを盛田一政の命令を受けて東京から、わざわざ東北まで来て殺して行ったのだ。もう永久にその幸せは帰って来ないのだ。

つづく


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