ダーク・ファンタジー小説
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- 君の為に
- 日時: 2021/01/03 09:55
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
『君の為に』
この物語は昭和から平成に変って間もなくの頃、北陸は金沢で大学生が空手の稽古中に誤って親友を死なせてしまい、一九才の少年(堀内健)は苦しみ大学を中退し岩手県にある名勝、浄土ヶ浜近くのお寺へ精神修行する所から始まる。その寺の住職は合気道の達人で大勢の門下生に教えていた。その一人娘(小夜子)女子大学生も幼い頃から合気道を学び有段者であった。堀内健は修行して住職から色んな事を学んだ。精神面も強くなりまた合気道も教わるが、その小夜子の父である両親が何者かに殺された。堀内健にとっても大事な師匠である。小夜子はその犯人を追って、青年となった堀内健の力を借り犯人を追って岩手-東京-シンガポール-岩手へと修行から合わせて八年間にも及ぶ過酷な戦いと共に芽生えた愛と復讐の物語である。
『前回投稿した、宝くじに当たった男に続く長編ものです』
前回同様宜しくお願い致します。
- Re: 君の為に ( No.53 )
- 日時: 2021/05/17 20:47
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
君の為に 52
そんなある日、職場仲間のジミーに声を掛けられた。
「ケン最近、仕事の方は浮かない顔しているがプライベートの方は楽しそうじゃないか。彼女は気品があって美人だからなぁ」
ジミーは、その相手が小夜子と思っているらしい。健は小夜子の事は気になってはいたが、たぶん逢えば喧嘩になる気がして、なんとなく後ろめたい気分もあり、あれ以来逢っていなかった。
逢おうと思えばいつでも逢える。そんな甘えがあったのか?
健とラザリナはセントーサ島に遊びに来ていた。島全体が観光地みたいな所だ。
シンガポールのシンボル。マーライオンタワーの巨大な建造物が立っている。日本に例えれば鎌倉の大仏みたいに大きくて中に入ってみると、展望台なって居てマーライオンの口からセントーサ島の周辺が見える。只ここにあるのは本物ではなく、別な公園に池を見つめるように立っている。大きさもかなり小さい。二頭が口から水を吹き出している。
「ケン 私。セントーサ島がとても気に入っているの。だから健にも見せてあげたかったの。いい所でしょう」
ラザリナの言う通りいい所だ。このセントーサ島は、車で橋を渡る方法と、長いロープウエーで入る事が出来る。二人はセントーサ島にある水族館に入った。すごい人だ。
中に入ると巨大な水槽に珍しい魚など見られた。面白いのが、床が動く歩道になっていて立っているだけで次々と見られる。裏を返せば客の流れをスムーズにする為の物だろうか。立止まって、ゆっくり見物する事が出来ない。それだけ混雑している。
「ケン今日はね、夜は仕事休みなの。だからいつまでも貴方と一緒よ。いいでしょ?」
嬉しそうにラザリナは笑う。二人は夕刻インド料理のレスランに入った。
「ラザリナ、君には親切にして貰うばかりで、まだお返しをしてないけど」
「ノー私、ケンがとっても好きになった。それだけでいいの」
ラザリナは心がストレートだ。好きは好き。嫌いは嫌いとハッキリ言うのだ。
こんな優しい子がなぜ酒場で働くのか? 健はラザリナの人を疑わない優しさに少し驚いていた。最近の日本人からは死語になりつつある純粋を感じた。
なのに何故バーで働くのか? それが日本人の健には不思議でならなかった。
もし機会があれば聞いて見たい衝動にかられる健であった。
つづく
- Re: 君の為に ( No.54 )
- 日時: 2021/05/20 19:40
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
君の為に 53
ここは〔さくら旅行社、シンガポール支社〕
小夜子はいつものように、お客に旅行のスケジュールなどを笑顔で説明していた。
小夜子は、もう健と二週間以上も話をしていない。内心は穏やかではない。
初めて見た健の苛立ち。小夜子は分かっていた。健の性格からして探偵屋の仕事に疑問を抱いていた事を。小夜子は、このくらいの事で健は挫けたりしないと、信じていた小夜子だったが。
その時にはシグナルを送っていたのか。それを小夜子に問い掛けた事を。
でも小夜子は、何もアドバイスして上げられなかった事を悔やんでいた。
健は厳格な人間だけに、小夜子の優しさに自分の心が入っていけなかった。
自分が小夜子に、甘えてはいけないと感じたのだろうか。もう健と出会ってから六年の月日が流れているのに、まだ分からない部分が多い。
小夜子は父、要山和尚に教わった小さい頃から精神の強さを学んだ。
だから健は小夜子の心の強さには敵わない。健はもどかしさを感じたのだろうか。
健には小夜子の優しさ、強さ、気品、全てを満たした女性に思えたのだ。
しかし小夜子は予想以上に傷ついていた事を知らない。
最愛の両親を無くし異国の国で、健と二人で犯人を探して両親に報告する事だった筈なのに。
健は仕事に迷った。しかし小夜子の心は考えられなかったのか? もちろん健とて完璧な人間ではない。ただ小夜子の心の中が見えなかった。二十六歳、充分大人でもあり、未熟さの残る青年なのか? 健とてまだ、未熟な未完成の二十六歳の若者だった。
「坂城さん電話ですよ、東京から見たいですが」
シンガポール支社の同僚から、そう言われた。
その受話器を取ると、なつかしい池袋支店の同僚の笹本啓子からの電話だった。
「坂城さん元気? 今こちらも仕事中でね、大きな声では言え無いけど。あの矢崎組の松本さんがシンガポールに行くそうよ。それで都合が良ければと、だから場所を教えておいたから。仕事中だから用件だけね。じゃあまたね」
電話は用件だけで切れた。出来るならもっと東京の同僚と話をしたかった小夜子だった。 小夜子は落ち込んでいた。だが今の電話で松本達を思い出した。
つづく
- Re: 君の為に ( No.55 )
- 日時: 2021/05/23 20:40
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
君の為に 54
ヤクザの世界に住んで居ようと、あの男気が好きだった。彼らは喜怒哀楽が激しい。
本能の赴くままに生きている。本能の赴くままに生きられれば本来は、それが一番楽しい生き方かも知れない。
敵には命を張って戦うが、味方や友人には普通の人以上に気を使ってくれる。
でも松本がシンガポールまで、ただ観光に来るとは思えない?
あの新日本同盟と衝突でもあったのか。
会って話を聞いてみないと来る理由が分からない。ともあれ彼らなら一時でも小夜子の暗い心に、光を与えてくれかも知れないと、小夜子は松本達の再会を楽しみにしていた。
それから三日後、矢崎組の松本と橋本がシンガポールに現れた。
小夜子は国立競技場に近いカニング・パーク近くのホテルのロビーに駆けつけた。
シンガポール海峡に面した入江になっている。
すると典型的な日本人と思える男が手を振っている。
「ハロー、ハロー小夜子さぁん。ここだよ」
あの陽気で厳めしい顔の、松本と橋本が手を振っていた。
それにしても派手なスタイルだった。松本は真っ白なスーツに真っ赤なネクタイだ。
橋本は、やはり白のスーツに、なんと黄色のネクタイと。まるでチンドン屋のようだった。
その陽気な松本に小夜子は気がつき駆けつけて、そのまま一気に松本に体当たりするように抱きついた。
「なぁ~に? そのハローハローって松本さん」
松本は驚いた。嬉しかったけど小夜子らしくない行動だったが、松本はボーとなった。
あのお淑やかで冷静な小夜子が一体どうしだろうと思った。
小夜子は二週間ぶりの笑顔だった。それは健の事を考えているうちに、心が暗くなった処に、気が許せる友人が来てくれたから、本当の兄のように思えたかも知れない。
松本は岩のようなゴツゴツした顔だが小夜子よりは年も十歳近く年上だ。
精神面で弱った時には、本当に頼れる人物なのだ。
勿論、それなりにヤクザ社会で修羅場を潜り抜けて来た人間なのだ。
その点では、死をいつでも投げ出し覚悟が出来ているのだ。だからヤクザは怖い。
小夜子は本当に嬉しかった。相変らず陽気で頼れる人物だった。
「あらぁ! 橋本さんも一緒なの」
「ゲッ! 小夜子さん。それはないぜ。俺は松本のオマケかよ」
橋本は屈託なく笑って三人は再会を喜んだ。三人はホテルのレストランで食事をしながら話をした。シンガポールに来て半年が過ぎ小夜子は地理もある程度覚えた。若い女性らしく、お洒落な店は調べてあった。
つづく
- Re: 君の為に ( No.56 )
- 日時: 2021/05/27 17:29
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
君の為に 55
店や食事処はチェックしていたから、すぐに松本と橋本を案内出来たのだ。
「へえー小夜子さん、こんな店も知っているんだ。シンガポールには慣れたの? もう何ヶ月になるかなぁ」
「ええ、食べ物屋さんと洋服屋さんは。ちゃんと調べてあるわ。フフッ。それで森さんは元気になりましたか」
「あぁ森は、すっかり元気になって彼女と宜しくやっているよ。なぁ松本」
「ああ今回こっちに来たのは組長の命令で、いよいよ新日本同盟のルート潰しつもりだ」
矢崎組と新日本同盟はなにかと衝突している。今回は密輸ルートを探りに来たのだった。それで矢崎組の妨害報復の為に、松本と橋本が先遣隊として派遣されたのだ。
「小夜子さんが探している、浜口と沖田が居るかも知れないから、もし見つかったら、すぐ知らせるよ。処で堀内君は元気かい」
「ありがとう。まだ浜口と沖田のことは何も分らなくて。とにかく仕事を優先させないと自分達の生活も出来ないでしょう。それから調べるしかないと思っていたの」
「そうだよな、警察なら給料を貰えながら仕事が出来るけどなあ。民間人じゃあなぁ」
「ええ、ごめんなさい。気を使わせて」
「なんか小夜子さん、いつもの元気ないようだけど。どうかしたのかい」
「ええ、それと健とは暫らく逢って居ないの」
小夜子は健の事を聞かれて困った。でも聞いて貰いたかった。
もう二週間以上も逢ってない。知らない国で今は一人ぼっちの小夜子だった。
「えっ堀内君がどうかしたのかい。病気か何か?」
「あのね。二週間くらい前にちょっとあって、それ以来逢っていないの」
「へぇー小夜子さん達でも喧嘩するのかい? それは寂しいねぇ」
つづく
- Re: 君の為に ( No.57 )
- 日時: 2021/05/29 08:57
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
君の為に 56
松本と橋本は小夜子を慰めてくれた。ありきたりの慰め言葉だったが、小夜子を心配してくれるだけで嬉しかった。特に久し振りの日本語で話せると心が落ち着くのだった。
松本と橋本は矢崎組が手配してあるホテルに向かうと云って食事のあと別れた。
時々連絡を入れる事を約束して小夜子は社員の寮に帰ったが一人なると寂しかった。
数日後それは早朝であった。小夜子の部屋の電話が、けたたましく鳴った。
まだ朝の六時である。普段は六時三十分位に起きるが、それより三十分程早かった。
〔健かな?〕一瞬そう思って受話器を取る。しかし、それは違っていた。
「朝早くからゴメン松本です。実は昨日から橋本が見当たらないんで、今朝になっても連絡もなくホテルにも居なくて。シンガポールには、まだ来て日が浅いし、どう探そうか困って小夜子さんに電話したんだ。悪いね。こんな時間に」
「えっ橋本さんが! どうして」
「一昨日かな? コンテナコンビナートの方に日本同盟の事務所があるだろうと二人で行ったんだが、それであの周辺の日本人から聞いて歩いたんだ。偶然にも橋本が知り合いに会って、と云っても同じ世界の人間で堅気じゃないんだが。橋本とは昔のダチとか言っていたなあ、積る話しもあるだろうと、それで俺は遠慮して先に帰って来たんだが、それっきり行方知れずさ」
つづく
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