ダーク・ファンタジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

君の為に
日時: 2021/01/03 09:55
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

『君の為に』


この物語は昭和から平成に変って間もなくの頃、北陸は金沢で大学生が空手の稽古中に誤って親友を死なせてしまい、一九才の少年(堀内健)は苦しみ大学を中退し岩手県にある名勝、浄土ヶ浜近くのお寺へ精神修行する所から始まる。その寺の住職は合気道の達人で大勢の門下生に教えていた。その一人娘(小夜子)女子大学生も幼い頃から合気道を学び有段者であった。堀内健は修行して住職から色んな事を学んだ。精神面も強くなりまた合気道も教わるが、その小夜子の父である両親が何者かに殺された。堀内健にとっても大事な師匠である。小夜子はその犯人を追って、青年となった堀内健の力を借り犯人を追って岩手-東京-シンガポール-岩手へと修行から合わせて八年間にも及ぶ過酷な戦いと共に芽生えた愛と復讐の物語である。

『前回投稿した、宝くじに当たった男に続く長編ものです』

前回同様宜しくお願い致します。

Re: 君の為に ( No.33 )
日時: 2021/03/17 19:26
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 32

 松本が小夜子の武勇伝を知ったのは新聞記事を読んで知った。しかしそこには小夜子の名前も健の名前も書かれていなかったが、宮崎達が逮捕された背景に、健と小夜子らしい人物が絡んでいた事を矢崎組の情報網から松本達の耳に入ったのだ。矢崎組も新日本同盟とは敵対関係にあった。名前こそ政治結社のようだが実態はヤクザの上前を撥ねる、あくどいハイエナみたい事をやっていた。
 小夜子は隠していたのだが、矢崎組の情報では長身の女性で小夜子そっくりらしいと云うことだった。小夜子も共通の敵でもあるし、出来るなら他の二人の情報も知りたくて松本に「そうです」と答えのだ。女性の武勇伝は恥ずかしいと思っていた小夜子だった。

 それから一週間後、森と云う男が北区赤羽で見かけたと云う情報が入った。
 それはKG探偵社の捜査で判った。勿論、健一人で探した訳ではない。探偵屋には情報屋を専門にやっている連中もいるのだ。いわば小遣い稼ぎのような連中が闇ルートで捜し当てるのだ。
 その情報を手掛かりに健は赤羽駅周辺を調べはじめた。しかし一向に手掛かりが、掴めないでいた。東京都と埼玉県の間に荒川と云う川が流れている。その河川敷で健は河原を眺めていた。そこから河川敷に作ったサッカー場が見える。

 暫くして健は、河原を離れ歩き始めた時だった。河を境に向こうが埼玉県になる。
昔はキューポラのある街で知られる川口市だ。前方から来る浮浪者らしき人物とすれ違った。
と! 健は思わず振り返る「まさか」そう思って浮浪者をもう一度、見直した。
 間違いなかった森元彦だ。あの依頼主の女性、前川から貰った写真と見比べた。
良く似ているが、かなり痩せていて目が死んでいるように見える。
気になり問い掛けてみた。
 その浮浪者は、名前はおろか眼が虚ろで、まして幻覚症状があるように思える視点が定まっていない。なにかに怯えている風だ。これは覚醒剤を使った中毒の表情と思えたが。
 取り敢えずKG探偵事務所に、連絡をとり事務所に連れて帰った。別に逆らう訳でもなく夢遊病者のように相変らず視点が定まらないようだ。本来なら警察に連絡する事だが、依頼者の客の意見を優先する商売であるから、早速その依頼主の前田に電話を入れた。
 夕方、前田と云う女性が息を切らしように、KG探偵事務所に慌てて駆け込んで来た。

つづく

Re: 君の為に ( No.34 )
日時: 2021/03/20 20:07
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 33

「森が見つかったって本当ですか? ここに居るのですね」
「前田さん……お逢いする前に少し、お話して置きたい事があります」
 健が条件を付けた。麻薬中毒患者で幻覚に症状が出ている事を認識してもらう為に、ワンクションを置いたのだ。いきなり合わせても戸惑うばかりと考えてのことだ。
「それはどう云う事なのでしょうか」
 健はどう切り出して良いのか困った。
 この女性は森の恋人なのだろう。本当の事を話したらどんな気持ちになるだろうかと。
 健がなかなか話を切り出さないので前田は深刻な表情を浮かべて、こう切り出した。

「森もヤクザの道に踏み込んだ者です。それを知って付き合っている私も、それなりに覚悟をしています。植物人間にでもならなければ儲けものと思っています。ですから正直に仰って下さい」
 そこまで覚悟出来ているなら大丈夫と健は思った。
 それにしても世間では嫌われているヤクザの世界も当人もそうだが、それ等に絡む人々も根性が座っているな、と健は感心した。
 「分かりました。それなら正直に申し上げます。実は夢遊病者のような状態で河川敷に居たのですが何者かに依って覚醒剤のような物を飲まされ、麻薬中毒にされた可能性があるのです」
 
 「えっ麻薬ですか」
 前田と名乗る女性は唖然とし堀内の話を聞いた。前田の顔が徐々に青ざめて行く。
 「あの失礼ですが、松本さんって方を御存知ですか」
 「えっ松本さんって? ああ矢沢組の松本さんの事でしょうか」
 「ええ、そうです。僕は関節的に彼の名前を知っていますので」
 「はい、松本さんなら森とは、仲がいい間柄のようですが」
 何故、森がそんな事になったのかは謎だった。こんな事態を組に知られては組長の怒りを買うに決まっている。そう思って松本たちに相談したらどうかと持ちかけたのだ。
 その彼女の了解を得て、そこで松本達に相談して処置を任せる事にした。健から電話を貰った松本達は早速その道の医者? と云っても、その方面の医者で、いわゆるモグリだが、腕の方は保証済みらしい。ヤクザ社会では普通の病院に行けない組員の為に警察に通報されない医者を雇って置く事がある。そのモグリの医者の所へ連れて行き、麻薬中毒の治療に専念させる事にした。モグリでも腕は確かだ。ただ何かの理由で免許を剥奪されいているが。その甲斐もあってか二ヶ月後には、森元彦も立直りを見せてなんとか事情を聞ける状態になった。そこからはもう探偵社の仕事より松本達の問題であった。

つづく

Re: 君の為に ( No.35 )
日時: 2021/03/22 18:44
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 34

第三章 犯人の行方 
第二節 共同作戦

「よう森、元気になったか。だけどなんでお前、薬なんかに手を出しやがったんだ」
「いや、それが違うんだ。無理やり毎日のように腕にヤクを打たれてしまって」
「ナニッ? どう言う事なんでぇやっぱり新日本同盟の連中だな」
 二人の会話のやり取りから分かった事は、森がある秘密を握ってしまって口封じの為に麻薬患者にされた事だった。その相手とは新日本同盟が絡んでいたのだった。政治団体は表向きだが、不景気な昨今、どこの政治屋も先生方から資金が得られなくなり、ついには麻薬取引まで手を染めるようになったらしい。なんでも横浜港に密輸の品物が送られて来るらしかったが、普段から池袋周辺を縄張りにしている暴力団矢崎組とのイザコザも時々あり、常に矢崎組と新日本同盟は、互いに動向を探っていた。

 それに借り出されたのが森だった。その森が新日本同盟を監視している時、偶然にも森がその話を聞くハメになってしまった。
 それで見つかって捕まったあげく麻薬漬けにされた果ての結末だった。
 森が突き止めたのは、運ばれて来た荷がシンガポールからだと云う事と、新日本同盟の浜口孝介がシンガポールで手引きしている事などが分かった。早速その話が小夜子を通じて堀内健に知らされた。一度会って話をしょうと云う松本の話だった。
 小夜子と健が連れ添って入って行くと、松本と橋本がすでにビールを飲んで待っていた。
「どうも松本さん橋本さん。お久しぶりです」
 と小夜子は二人に声をかけた。その小夜子の隣には長身でガッシリとして精悍な顔をした青年がいた。松本達二人は〔なるほど似合いだ〕そんな顔をしていた。
「初めまして堀内健です。電話では何度かお世話になりました」
「まあまあ、硬い挨拶は抜きだ。さあ座って」

 そう云って松本は二人に、橋本と自分を自己紹介した。それから、ちゃんこ鍋を囲んで話は弾んだ。小夜子の云った通りの人達だった。多少、柄が悪いのは彼等から見れば看板みたいなものだから、仕方がないが中身は本当に好感が持てる人物だった。
健のヤクザを見るイメージがガラリと変わった。ヤクザだからと云って全部が悪い人間じゃない事を改めて知った。
 それから一週間過ぎた頃だろうか。KG探偵事務所の電話が鳴り、健が受話器を取ると。
 「ああ、松本さん。どうなさったんですか」
 松本が掻い摘んで説明した。小夜子と健が新日本同盟にまだ二人、和尚夫妻を殺害した犯人を捜している事を話してあった。共に新日本同盟は敵に当たるから、犯人捜しに協力してくれると約束してくれていた。その情報を掴んで知らせてくれたのだ
 「えっ浜口孝介がシンガポールに居るんですか」
 「ああ、そうだ。ただシンガポールの何処に居るかは不明だが、うちの組も奴らの麻薬取引を潰して資金源ルートを絶たせるのが狙いだ。それなら協力するぜ」

 「はい、それは有難いですが。僕はその新日本同盟の幹部から浜口と沖田の居場所を吐かせようと考えています。彼等は新日本同盟の構成員でしょうから、幹部から聞きだし方が早いと思っていたんですが」
 「おいおい堀内くん。無茶はするなよ。俺たちに任せて置けよ」
「しかし、小夜子さんの両親の仇ですから、出来る限り自分の力でやりたいんです」
「まあ気持ちは分からん事はないが、相手はヤクザ以上に荒っぽい奴等だ。無理はするなよ。小夜子さんを悲しませちゃあ駄目だぜ」
 口は悪いがヤクザとは思いない松本の優しさだった。早速、健は小夜子に情報を伝える事にした。その小夜子が喫茶店で待っていた。健が駆け寄って来て椅子に腰を降ろした。

つづく

Re: 君の為に ( No.36 )
日時: 2021/03/25 19:20
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 35

 またいつものように、哀愁を誘う曲が店内を奏でていたが今回は耳に入らなかった。
 「お待たせ」健が珈琲をウェイターに頼むなり本題に入った。
 「昨日電話した通り、浜口がシンガポールに居るらしいんだ」
 「昨日、聞いて驚いたわ。矢崎組の人に感謝しなくてはね」
 「でもシンガポールと言っても、何処に住んでいるか解らないし危険だけど森と云う人が退院してから新日本同盟を探って見ようと思うのだけど、小夜ちゃんどう思う」
 「でも危険よ。拳銃なんか持っていると思うし、麻薬なんかも手を出して何か得体の知れない犯罪組織だわ」
 「でもこのままだと矢崎組と新日本同盟の、戦争が始まるかも知れない。矢崎組も松本さんも黙っていないような気がしてならないんだ」
 「松本さん達が心配だわ。でも私達では何も出来ないものね」
 ヤクザと政治団体の抗争は健と小夜子にはどうする事も出来ないが、今は当面の目的である小夜子の両親殺しの犯人を追い詰める事なのだ。
 「浜口がシンガポールに居るとして、砂漠に落ちたコンタクトレンズを探すようなものだから、俺は新日本同盟の幹部を襲って、そいつに居場所を聞き出そうと考えてるんだ」
「駄目よ! 彼らは拳銃を持っているのよ。危険すぎるわ。止めて」
「そう言う小夜ちゃんだって、一人で飛び込んで行ったじゃないか」
「だって、拳銃なんか持っているとは思わなかったんだもの」

 そう言って小夜子は舌を出して笑った。自分では無茶をしても健には危険な目に合わせたくなかった小夜子だった。だが健も同じことを考えていた。
 自分一人で幹部から浜口の居場所を吐かせようと思っていた。しかし松本達の動きは早かった。なんと新日本同盟の幹部を待ち伏せして拷問に賭けたと云う。その幹部の横道と云う男を吐かせたからと、松本に健は呼び出された。腱が松本の所に行くと軽く手を挙げて応えてくれた。流石はヤクザその行動の速さには舌を巻いた。 
「それで浜口孝介と沖田勝男と言ったかな、奴等はシンガポールで用心棒やっているらしく新日本同盟の場所はコンビナートの近くだそうだ。そう云っても範囲が広いから、しかも場所は時々、変更するらしい。それとやはり依頼して来たのは盛田一政らしい。ただ言って
 健は驚いた。よくそこまで調べたものだと。

 「しかし驚きました。行動早いですね。そうですか、やっぱり黒幕は盛田一政ですか」
 「へっへ。まあな、こっちはプロだぜ。で、その盛田って野郎はいったい何者なでぇ?」
 「ええ県会議員で、M市では大きな不動産やリゾート関係で大きく飛躍した会社です。でも裏では何かと評判が悪く金と権力を使って、それでもウンと言わない場合は脅したりしているらしいです。それで小夜子さんの両親も多分」
 「なるほどな。表では善人面をしてか、俺達ヤクザよりタチが悪い奴だぜ」
 「そればかりか、警察にだって圧力を掛けたのか、急に捜査が怠慢に感じましたよ。なんど掛け合っても捜査を続行中だと云う、答えが帰って来るだけでした」
 健はその悔しさを、つい松本たちに溢した。

 いくら健とてまだ若い、自分よりも十歳近い年上の松本等の前で本音が出た。
 「それで横道って幹部はどうなったのですか」
 「まあな、殺す訳にも行かないだろう。奴のポケットを探ったら覚醒剤が小さな袋に入っていたよ。我々の組では、こんなのを扱ったら組が潰れると組長命令で、ご法度なんだ。惜しいけど奴のポケットに入れたまま、あの河原に眠らせて置いたよ。勿論、偽名で警察に通報してやった。数十分したらパトカーがやって来たとこまで確認してあるから、今頃は、みっちりと取調べられて居るだろうな。ケッざまぁ見ろって」

つづく

Re: 君の為に ( No.37 )
日時: 2021/03/28 19:44
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 36

 相手はヤクザの松本だが健は本当に信頼出来ると思った。だが彼等も健と小夜子の活躍で、どれほど助かっているのか、利害関係が一致して共同作戦となった。
 奇妙な付き合いだが互いに男意気を感じていた松本と健だった。
 その翌日に小夜子とまた、あの爽やかなメロディが流れる喫茶店で待ち合わせをした。

 ひとつ進展して気分もいいが、しかし次なる目標が出来ると、笑っても居られなかった。
 健は松本から聞き出した情報を小夜子に話した。
 「松本さんって凄いのね。私達だけだったら一年も掛かっていたかも知れないのに」
 「本当だよ。頼もしい人たちだ」
「そうやっぱり私達の予想した通り、盛田がバックにいたのね。でも今は私たちの探して居る相手はシンガポールなのよ。私どうしても行きたいわ」

 小夜子は遠くを見つめ、犯人像を浮かべながら話した。
 「そうだね。東京に出て来たのも、全てがその為だ。よし行こうか」
 「ごめんね、健、私の為に……」
 小夜子と健は、もうどんな事があっても行動を共にする事を誓っていた。
「今、すぐって訳には行かないけど。事務所にも話さなければならないし、小夜ちゃんだって会社を辞める手続きがあるだろうしね。準備だけはして置かないと」
「そうね、あと松本さん達にも説明しなければね」

つづく


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。