二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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バトテニ−サヨナラ、− 番外編執筆中ー^^
日時: 2010/09/12 13:00
名前: 亮 (ID: TtH9.zpr)
参照: http://pv6pvnewspv6pv.blog102.fc2.com/blog-entry-2079.html

  
  亮です、こんにちは!

  テスト終わりましたv
  全然ダメでしたね☆
  え? ダンジョキョウドウサンカクシャカイキホンホウ? 初めて聞きました☆^^☆
  そんなこんなで、こっちの更新も始めるんで!
  改めまして、よろしくです。


  続くかどうかは分かりませんが、バトテニ小説を書こうと思います。
  どうか見守ってくださいッッ
  ご意見・ご感想お待ちしてます


  会いたい、これからも一緒にいたい。
  でも「サヨナラ」 
  これからは、自分の道を歩いて。
  
  
 【イメージソング】 ht*tp://pv6pvnewspv6pv.blog102.fc2.com/blog-entry-2079.html

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      27〜32ht*tp://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.php?mode=view&no=14380
      (↑31から三章です)
      
 【三章】 33〜41ht*tp://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.php?mode=view&no=14552
      (↑38から四章です)

 【四章】 42〜44ht*tp://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.php?mode=view&no=15017
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      51〜52ht*tp://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.php?mode=view&no=11292
      53〜>>7>>11>>12

 【五章】>>15>>23>>35>>45>>58>>69>>71>>73>>74>>75>>79>>86>>87>>88>>91

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 【八章】 >>843>>845>>851>>856>>858>>862>>867>>869>>873>>878>>881>>885>>890>>894>>897>>898>>899>>900>>901>>902>>903←最終話


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Re: バトテニ−サヨナラ、− [テニプリ] ( No.898 )
日時: 2010/09/03 17:53
名前: 亮 ◆A2rpxnFQ.g (ID: TtH9.zpr)
参照: 彼方のためです。サヨナラ。

 142 分かってないよ




「分かってないわ、香澄は」

白石は吐き捨てるように香澄に言った。

「なんや、それ・・・・・・」

香澄はそっぽを向いて言う。
しばらく目をそらしていると、椅子の動く音がした。



「ちょっと、出よか」



——————



向かった先は、そのレストランのあるビルの屋上。
移動中、2人が言葉を交わすことはなかった。
屋上に出ると、星空が広がっていた。

—————それは、あの地獄で見たモノと、何も変わらない。



「俺やったら、駄目か??」



白石は何時になく人懐こい表情で尋ねる。

「・・・・・・蔵がどうだとか、そういうんじゃないんや。ただ、私が駄目なだけ」

香澄は白石と目を合わせようとしない。
お互い隣同士に、ベンチに腰掛ける。

「駄目やないで、俺は香澄のことがスキや」
「駄目。私と結婚しても、蔵は幸せになんかなれない」
「・・・・・・、どうして」

白石は真剣な瞳で香澄を見つめた。


「スキな人と、結婚出来るんやったら、1番幸せなコトやろ??」


——あぁ、

———ずっと言えなかったのに。



今なら、何故こんなにも自然に、“スキ”と声に出せるんだろう。





「俺の幸せを思って、断ってんやろ?? せやったら、俺の幸せ思って、受け入れてくれんかな??」





———俺はなんて、残酷なコトを。



「く、ら」

香澄は困った表情をしてみせる。

「そん、なの・・・・・・、違うよ。私に、誰かを幸せにする力なんて、ない」
「そんなことない、側におってくれるだけで、幸せや」

香澄は強く首を振る。
精一杯の、否定。
結婚を選べば、自分が楽になる。
苦しみも、悲しみも、隣にいる彼が半分にしてくれる。
半分、背負ってくれる。
一緒に、生きてくれる。


だけど、だけど、だけど。


それは、全て、自分の幸せ。
幸せを選べば—————、それは1番大切な彼を、不幸に貶める。

それにほら、誓ったじゃない。





何があっても幸せになってはいけない、と。





「なぁ、香澄」

今から、すごくすごく、残酷なコトを言うよ??





「桃城クンは・・・・・・もう、何処にもおらん」





ああ、俺は今、どんな表情[カオ]をしているのだろう。

「何処へもおらん、呼んだって来てくれへん」

初めて逢った時以来の、香澄の泣きそうな顔。

「思い続けても、無駄なんや」

白石の言葉1つ1つに、香澄は身体を強ばらせる。
眉を歪めて、目に涙を溜めて、白石をただただ見つめた。


「ほんなら、俺のトコロに来ればええやん」


そこで香澄は口を開いた。

「そんな、簡単な話やない」
「簡単や」

落ち着いた口ぶりでそう言い、香澄を抱き寄せた。

「く、らっ」
「簡単な、話や」
「蔵!!」

香澄を抱き寄せたその腕は、暖かく、優しく、そして何故だか、震えていた。





「最初に、言うたやろ?? 全部、受け止めるって」





糸が切れる。
自分を縛っていた糸が。
迷惑を掛けている、皆気を遣ってくれている、そうやって溝を深め居てたけれど、

本当は、本当は——————


「矛盾してるで、香澄」


「誰にも迷惑掛けたくない、もう誰も傷つけたくない、そう思てる癖に、どうして大阪へ来たんや??」





「それは、やっぱり、支えが欲しかったんやないか??」





そうだね、そうだね。
確かに、辛くて苦しくて、どうしようもない時に、彼方は自然に私のココロへ入って来た。
そして、優しく強く、愛をくれた。

だからこそ、私はせめてもの償い。
巻き込んだからこそ、私は、これ以上彼方の人生を狂わせないよう———、“サヨナラ”を告げる。

確かに、矛盾してるね。
“憎しみ”を持って生きることはおかしい、とか。
皆のために、精一杯生きる、とか。
そんなコト言っておきながら、私。

目の前に在る、幸せ。

捨てちゃうんだから。


本当、可笑しくて、可笑しくて、護られてばかりで駄目すぎて。
笑っちゃう。





だから、最後だよ。





最後の、笑顔。 ——————————勿論、本物、だよ??




















「私、東京に、戻ろうと思う————————」










それから蔵は、どんな表情[カオ]をしただろう。
どんな風に、私の笑顔の意味を受け取っただろう。
よく覚えていない。

ただ、何も言わずに、レストランに戻りワインを呑んだ。






「ご、めん、ごめんな、さい、桃、」





あぁ、やっぱり、俺やったら、駄目ですか??

Re: バトテニ−サヨナラ、− [テニプリ] ( No.899 )
日時: 2010/09/04 18:41
名前: 亮 ◆A2rpxnFQ.g (ID: TtH9.zpr)
参照: 強くて凛々しかった彼方なら、どんな選択をしますか??

 143 過去形に出来ない想い




「えぇ?! 東京で編集者に?!」

突然の、編集長の言葉。

「せや、キミの才能を買ってくれたみたいや。キミは出身が東京だし、問題ないやろ??」
「はぁ・・・・・・」
「心配いらんよ、決断までにもう少し時間があるか、じっくり考えや」

なんて、タイミングが良いんだろう。
香澄は思う。


———潮時、だ。



「あの、編集長———————」



——————



『東京に?! 何時?!』
「んー、何時やろ、たぶん8月中には」
『そんなに早く?!』
「うん」

香澄は、少しずつアパートのモノを片付け始めていた。
もうほとんど、段ボールに詰まっている。

「お母さんも、“帰ってきて”って、言うてくれとるから」

香澄はいつになく、暖かく頬笑む。

『それは良かった。 本当、中学の時突然いなくなって、寂しかったよ??』
「それはすみません、葵先輩」
『ううん、良いよ』

明るい声が、電話の向こうから聞こえてくる。
きっとニコニコして、ベットににでも転がって喋っているのだろう。

「先輩、なんだか元気ですね」

香澄は何気なくなく呟く。
途端に、葵からの返答がなくなった。

「先輩??」

沈黙が、しばらく続く。
珍しく長かった。

———携帯、壊れた??

そう、錯覚するほどに。





『香澄ちゃん、』





「うわっ先輩!! びっくりしたぁ、何してたんですか?!」

香澄が驚いて大きな声を出す。
“何をしていたのか”、そう尋ねたにも関わらず、葵は全く別のコトを言い始めた。

『ダサイんだけどさぁ・・・・・・、聞いてくれる??』
「・・・・・・全然、構いませんよ」
『長くなるけど、私から掛けたから、問題ないよね』
「はい」

巫山戯たことを言いながら、軽く笑う葵。


———私・・・・・・、



———人の気持ち見抜くの、苦手なんだな



改めて、自分の欠点が見えて、少し情けなくなった。

『驚かないでね??』
「話聞いてからじゃなきゃ、分からないです」

香澄がそう言うと、“そうだね”と笑った。

『私、ね』













『結婚、するんだ』













「え、」

結婚??

『私さ、26歳になったし、いい加減に、ね』

葵は依然、笑ったまま。
香澄は驚かないで、と言われたものの、驚いている。

『お母さんがさ、粋なり話持ってきてさ。まだちょっとしか、相手のコト知らないの』

香澄は何も言わずに、耳に携帯を当てていた。

『そりゃぁ、さ。 心配にもなるよねぇ』


















『——————————中学の頃から、1回も恋愛してないんだもん』


















『て、言うよりさ、できない・・・・・・、んだけどね』


香澄には、痛いくらい分かった。

“出来ない”んだ。

いつも、いつまでも、ココロには、大好きな人がいる。
大好きだった、に出来ない。
今でも、ずっと、ずっと・・・・・・



『今でも、ね。夢とか見ると、目が覚めた時、隣にあの人が・・・・・・、手塚が、いる気がするんだ』



胸に、ぽっかりと穴が開いて。
それは誰にも埋められない。
自分自身でも、埋められなくて、どんどんどんどん、深まるばかり。

『ごめんね、長い話』
「いえ、私も、同じ、ですから」
『そう??』

葵は、少し声のトーンを上げて訊く。

「はい、今もずっと、面影を捜して、前に進めてないです」

香澄は自虐的に微笑んだ。
その笑みは、葵には見えていないのだが。


『・・・・・・、香澄ちゃん、何かあった??』


遠慮がちに、尋ねる葵。

「どうして、ですか??」
『んー、なんだか、無理してる感じ、在るよ』

心臓が大きく飛び跳ねる。
葵は、香澄とは違うらしい。


———この人は、人の気持ちを見抜ける人だ。


隠しても、無駄だ。

「私の話、長くなるんで、かけ直します」
『え、良いよ??』
「いえ、待っててください」
『え、香澄ちゃっ』

一方的に電話を切り、再度葵の番号にかけ直す。
葵は大きな声で怒鳴ってきた。

『もう、良いって言ったのに!!』
「すみません」

香澄は苦笑い。

「でも、本当に長くなるんです」










「昨日、のコト、なんですけど」










————————————サヨナラ。



彼方に告げる日は、もう近いかも知れません。

Re: バトテニ−サヨナラ、− [テニプリ] ( No.900 )
日時: 2010/09/05 17:53
名前: 亮 ◆A2rpxnFQ.g (ID: TtH9.zpr)
参照: 強くて凛々しかった彼方なら、どんな選択をしますか??

 144 And, is it good?




「だから、断って———、勢い余って、東京に戻ることまで、言っちゃったんですよ」


香澄は、冗談を言うように軽い口調で話した。
それとは逆に、葵は少し小さめの落ち込んだ声だ。

『・・・・・・、大丈夫?? 香澄ちゃん』
「え? 私は、全然」

そう返すと、葵は小さくため息をした。


『ずるいね、香澄ちゃんは。本当の自分、全く見せてくれないね』


葵は「仕方ないか」、と付け足して笑った。

「すみません」

なんだかすごく、申し訳ない気がして。
口から懺悔の言葉が漏れる。

『良いよ、全然。あ、戻って来るとき、連絡してね、駅まで迎えに行く』
「ええんですか??」
『うん、早く逢いたいし。私の結婚、9月だから、まだ忙しくないしね』
「ありがとうございます」

香澄はそう言い、葵に東京へ戻る日を伝えるためカレンダーの前まで行った。
カレンダーには、大きく○をしてある。

「えっと・・・・・・28日にはそっちに行きます」
『今日が26日だからぁ、明後日?! 早っ』
「早いほうがええかなって、1日からは仕事やし」

完全に話題が変わり、もう電話を切ろうか、と言うときだった。





『・・・・・・、本当に良いの??』





葵の遠慮がちな声が聞こえた。

『それから、彼とは会ってるの??隣に住んでいるんでしょ??』

心配するような口調の葵に、香澄は安心させるように言った。
全く、安心出来るような内容ではないが。


「会って、ないです」


23日の夜の記憶が香澄にはない。
情けないことに、お酒で酔って、飛んでいったらしい。
寄った勢いで何か余計なコトを言ってしまいそうで、白石の前で酔うことは避けていたのに。
それから、気まずくて会っていない。
向こうも心なしか、避けているような気がする。

『東京に戻る時くらい、会いなよ??』
「え」
『黙って行こう、とか、考えちゃ駄目だよ』

葵はいつも、的確なコトを言う。
まさに、香澄は黙って行くつもりだった。

「どうして・・・・・・っ」



———どうして、分かるんですか??



どうして、ココロが分かるんですか。
どうして、そんなふうに強く生きているんですか。


香澄の脳裏に、青学女子テニス部を全国大会まで導いた、日向葵の背中が浮かぶ。





強く凛々しかった彼方には、何が見えて居るんですか??





『香澄ちゃん??』

香澄が何も返して来ないので、葵が名前を呼ぶ。


『絶対ね、大好きな人たちを悲しませちゃ駄目』


葵は、香澄の返事を待たずにしゃべり続ける。





『もう大丈夫って、笑って“サヨナラ”しなきゃね』





心配させたくなくて、迷惑かけたくなくて、弱さを見られたくなくて。
強く、生きたくて。
いつも1人で、藻掻いてた。
差しのばされた手にも、池の浅さにも気がつかず、藻掻いていた。


自分が弱いことを認められないのが、1番の弱さだった。


金ちゃんの言葉で気がついた。
認められたこの人は強い、と。
謙也の“ありがとう”で気がついた。
乗り越えて本当の笑顔で笑えるこの人は強い、と。


蔵の全ての言葉と行動と、温もりで、気がついた。


愛を他人に上げられるこの人は強い、と。



そして、





私は、弱い、と。





電話を切って、1人ベットに転がる。
見上げた天井に、様々な思い出が駈け巡る。







「ちゃんと、笑って、サヨナラ」







————————————言わなきゃ。

Re: バトテニ−サヨナラ、− [テニプリ] ( No.901 )
日時: 2010/09/05 18:46
名前: 亮 ◆A2rpxnFQ.g (ID: TtH9.zpr)
参照: 袂を分かつ。だけど、俺たちは終わりじゃない。

 145 抱えきれないくらい、




時が経つのは早いモノで———、葵との電話から、2日。
金太郎が旅立ってから、6日。



大阪と、四天宝寺と、サヨナラだ————————



——————



「ほな、当日は駅に見送り行くわ」

香澄と白石のアパートから、ほんの少し歩いたトコロにある、綺麗なアパート。
その一室で、財前がいつもの冷静な瞳で言う。
ほんの5分ほど前までは、その冷静な瞳は何処へやら。
これまでに見たことないくらい、驚いていたのだが。

「あ、それはええよ。仕事あるやろ」
「せやけど、当分逢えへんやろ」
「でも、連絡先はちゃんと教えたし、向こうに着いてからも連絡するから」

まだ納得してない様な表情だったが、財前は頷いた。



「香澄」



「ん?」、と香澄が振り向くと———、財前の首筋に顔が埋まる。
財前は香澄を、抱き寄せた。

「ひ、光・・・!?」

吃驚して、香澄は離れようとするが、財前が阻止する。
しっかりと、でも優しく、腕の中に包まれていた。

「悪い、でも、ホンマちょっとやから」
「ひか、る」
「何でやろなぁ、女子とかに興味全くなかったのに、自分にだめは、惹かれた」

急にそんな、衝撃の告白をされ、香澄は頭が沸騰しそうだった。
だけど、震える財前の腕が、離れようとさせてくれない。



「・・・・・・、一生懸命、気ぃ張ってる自分が、凄いカッコ良く見えたんやで??」



“カッコ良い”

それは、今の自分には勿体ない言葉で。

「香澄・・・・・・」

財前はゆっくりと、腕の力を緩め香澄を解放する。



「やっと、泣き顔、見せてくれたな」



流れる涙を、財前が拭う。

「光が、らしくない、コト、言うから、やんか」

途切れ途切れに、照れ隠しで怒ってみせる。

「新鮮やなぁ、10年以上、一緒におったのに。涙だけは見たことなかった」
「だって、」
「まぁ、ええけど」

財前はもう1度、袖で香澄の涙を拭いた。

「明日行くこと・・・、白石さんに言うた??」
「これから」
「そうか・・・・・・ 白石さん、駅で泣くかもしれんなぁ」

珍しく、面白そうに言葉を紡ぐ。

「そうやね」

香澄も、笑って言った。



——————



白石は大学を抜けて、見送りに来た。
隣に住んでいると言うのに、ほぼ5日ぶりの香澄の顔。
手には、1つだけキャリーバックを持っていた。


「・・・・・・、ホンマに、行くんやな」


寂しげに白石が言った。

「うん」

香澄が、「駅には来なくて良い」、と言ったので他の四天宝寺OBたちは来ていない。
小春は、最後まで「行く」と言って聞かなかったが、謙也に宥められ断念。
自分で言っておいて、少し寂しい気もするが、仕方ない。
皆がいたら———、涙を抑えられない。

「これ、うちの住所」
「え・・・・・・?」

香澄に紙を差し出され、白石は驚いた顔をする。

「? 連絡、取れなくなっちゃうと寂しいやんか」

香澄はきょとん、とした顔をする。
苦笑いをして、白石は紙を受け取った。

「俺の早とちり、か。もう2度と、会ってくれへんかと思た」
「そないな薄情なこと、せぇへんよ」
「俺もそう思たけど、なんて言うか・・・・・・、その、色々あったし」

白石は罰悪そうに呟く。
顔を赤らめて、恥ずかしそうに笑った。

「だって・・・・・・、色々お世話んなったし、1回のコトでカンタンに関係切れへんよ」

香澄はそう呟く。
やっぱり、恥ずかしげに。


——あぁ、



———俺たちは、終わりじゃない。



——サヨナラ、だけど、終わりじゃない。


「あの日は、本当にごめんなさい。・・・・・・しかも、なんか酔っぱらっちゃって」
「ええよ、全然」

言いたいことは、山ほど在る。
たくさんたくさん、伝えたい。


“ごめんなさい”じゃなくて、
“またね”じゃなくて、




もっと、もっと。




だけど、





これ以上言うと、本当に泣いてしまいそうで。





白石は、香澄をもう1度抱き寄せた。
駅の真ん中。
視線が集まるのも気にせずに。


「蔵?!」


それは財前とはまた違う、ぎこちない腕だった。
財前のが、友達同士の、だったら———、白石のは確実に、“恋”とか“愛”だ。

「悪い」

振り払おうとは、出来なかった。
大切な彼に、そんな残酷なコト、出来なかった。









「ホンマに、スキやった」










小さな声が、聞こえた。

「うん」

人をスキになる気持ちは、痛いほど分かった。
叶わない、気持ちも。
だからこそ、何も言えない。

「また、連絡してな。こっちにも、遊びに来て」
「うん・・・・・・」

短い、別れの言葉。
どんな言葉も、香澄と白石の関係を表現出来ない。
アナウンスが流れて、別れの時を告げる。


「あ、もう・・・・・・」


香澄の声を聞き、白石は腕の力を緩める。

「時間、やな」
「蔵」

香澄は白石の顔を見上げた。
10年前とは違う、訣別ではない、別れ。
だけど、こんなにも、胸が苦しい。







「サヨナラ」








笑えた。
何時見せた笑顔よりも、自然に。
大阪へ、四天宝寺へ来たのは、間違いではなかった。









此処で、笑えた。










香澄はホームへ行こうと、白石の腕から離れた。





———あぁ、本当に行ってしまう。


大好きな、儚いその姿が、人混みに消えていってしまう。
香澄の、小さな手は————、まだのばせば届くところに在った。



















































「香澄!!!!!」



































今、声を出したのは、俺じゃない。

Re: バトテニ−サヨナラ、− [テニプリ] ( No.902 )
日時: 2010/09/05 19:22
名前: 亮 ◆A2rpxnFQ.g (ID: TtH9.zpr)
参照: 今、この瞳に映るモノは、


 146




電車を降りて、駅の中を見渡す。
皆、必死に、面影を捜した。





俺たちの———、太陽だった、彼女の。





——————



名前を、呼ばれた。
知らない声が、私の名前を呼んだ。
知らないはずなのに——、何処か懐かしく優しい、声が。


あぁ、知らないはずないじゃない。





そんな声、1人しかいないじゃない。










「やっと、見つけた—————!!!!」










夢?

幻?

妄想?

幻想?


それとも——————、現実?





「香澄!!」





目の前に立つ男は、満面の笑みを浮かべ、香澄の名を呼ぶ。
誰だか、なんて。
訊かなくても、分かった。



だけど、



信じられない。





「も、も・・・・・・??」





だって、だって、だって、桃は。

「嘘、やろ??」

声が、上手く出ない。
上手く、身体が動かない。

「桃っ」

固まっている足を、力ずくで動かし、走り出そうとした。
だけど、





「かす、み」





大切な女[ヒト]の、幸せの邪魔はしたくない。
そう思っているのに、身体を正直で。
行って欲しくない、ココロの底に在るその想いが———、腕を掴ませる。

白石は、香澄の腕を握った。


「蔵、」


香澄は目に涙をいっぱいに溜めていた。
今までとは違う、喜びの涙—————————



——ココロから、キミの幸せを祈るよ。



——だから、だから、









この手を、離そう。





「幸せに、なりや。香澄」





一体どれだけ、このヒトを傷つけただろう。

自分よがりで、我が儘な私は、何度かのヒトの気持ちを踏みにじっただろう。
それなのに、この人は、笑ってくれた。


隣に、いてくれた。





「ありが、とう・・・・・・」





彼方のお陰で、生きてこられた。
彼方のお陰で、笑顔になれた。
決して善人とは言えない私だけど、いつもいつも、



ありがとうって、思っていた。



「サヨナラ」



最初から、こうなることが。





分かっていたかのように。





彼女の手は、あまりにも呆気なく。










俺の手を擦りぬけた。
















「桃・・・・・・っ」










どうして、どうして、どうして、彼方が、此処に。
そんな疑問よりも先に、香澄のカラダは桃に引き寄せられる。
気がつけば、その腕に抱かれていた。


思えば、初めての、桃の腕の中。


暖かく、優しい、強い、腕。





「久しぶり」

































運命は初めから、こうなることを知っていたのかもしれない。


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