複雑・ファジー小説
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- しりとりシリーズの『その後』
- 日時: 2016/05/07 17:13
- 名前: 彩都 (ID: YohzdPX5)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=18457
始めましての方も知っている方も始めまして。
彩都(サイト)と申します、七作目です。
この作品は『しりとりシリーズ』の続編となっております。
URLは前作『しりとりシリーズ』となっております。
感想等は、この作品の終了後か、前作『しりとりシリーズ』のスレッドにて、お書き下さい。
それではどうぞ。
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- Re: しりとりシリーズの『その後』 ( No.89 )
- 日時: 2017/03/11 22:57
- 名前: 彩都 (ID: JbG8aaI6)
しりとりシリーズ 『レトロ』の『その後』 十六夜満月堂活動記 2 探し物は誘拐犯
「いやぁ、すいません、こんな夜分遅くに話を聞いてもらうなんて……」
坊主の男性が椅子に座ってそう言うと、琥音虎は静かに緑茶を作り、坊主の男性に渡す。
「あぁ、すいません……お美しい娘さんですねぇ」
「娘では無いんですよ、彼女は猫又という妖怪の存在なんです、何時も若い女性に化けていたりします」
百乃目が坊主の男性にそう言うと、琥音虎は『これっ! そんな簡単に儂の正体をバラすでない!』と一喝する、だが坊主の男性も頭を摩り、笑いながら言う。
「ほう、それはそれは……私は天邪鬼の妖怪の子孫でして……」
坊主の男性の妖怪の子孫宣言を聞いて、百乃目は見る目を変える、一体天邪鬼がこの店に何の用だ? と思いながら話を聞く事にした。
「えーと……とりあえず、用件は何なのでしょう? と、いうより、その格好で大体は分かるんですけどね──」
百乃目がそう言って、溜息を吐く、坊主の男性の格好は黒い背広に灰色の袴、という昔の格好であった、そして背中には菱形の中に『妖』の一文字がある、このマークは『妖友組(ようゆうぐみ)』という、『妖怪も人間も一緒に暮らそう』という信念の組である、勿論、『妖怪も人間も一緒に暮らそう』等と言う巫山戯た幻想をぶち壊す輩もいる。
「あはは、そうですか、いや、それもそうですよね、こんな格好……」
坊主の男性はそう言って頭を摩る、それもその筈、今のこの時代は八割が妖怪を貶し、二割が妖怪と共存する選択をしているのだ、そりゃ坊主の男性は結構苦労している妖怪だ、と百乃目はそう判断する。
「実は百乃目さんに『探して欲しいモノ』があるんですよ──これです」
すると、坊主の男性はそう言って一枚の写真を百乃目に見せる、その写真には猫が一体と、一人の少年が写っていた。
「これは……?」
「この写真のお子さんは我が妖友組の親分の息子なんです、その息子の写真に写っている猫、この猫を探して欲しいんです」
百乃目はその話を聞いて、少し考える、成程なぁ、息子を探せ、ではなく、猫を探せ、か……少し難しそうだな、と考える。
「何で猫を探してほしいんじゃ?」
琥音虎がそう言うと、坊主の男性は静かに言う。
「写真の猫はとても高い種類の猫なんです、その種類は『ラグドール』という種類でしてね……少しでも早く探してほしいんですよ……!」
坊主の男性の話を聞いて、成程、と琥音虎は思う。
「そうなんですか……んで、何で貴方は納得しているんですか?」
琥音虎を見ながら百乃目が言う、すると琥音虎は百乃目に言う。
「お前、お金を落としたらどう思う?」
「落としたらってそりゃぁ……『悲しむ』に決まっているでしょう?」
「そうじゃ、その少年も猫がいなくなって『悲しんでいる』じゃろう? そしてこの猫は高い、なのでもう一匹買うとか難しいのじゃ、だから急いで探さないといけないんじゃ」
琥音虎がそう言うと百乃目は少しだけ納得する、そして坊主の男性は本題に切り出した。
「同じ妖怪として、御願いします! この猫を一緒に探してください! お題は好きな分上げますので!」
坊主の男性は立ち上がってそう言い、頭を下げる、百乃目は静かに溜息を吐いて、写真を見る。
「そうですか……私の力は『百目』ですが、写真迄通用するかどうか……?」
その言葉を聞いて、坊主の男性は涙を流しながら百乃目の手を握る。
「あっ、有難う御座います!」
「いえいえ、困っている人を見かけたら、助けるのが常識でしょう?」
百乃目はそう言って、目を閉じて、深い深呼吸をする、すると百乃目の周りに何個ものの眼球が現れ、写真を睨みつける、だが、琥音虎、坊主の男性には百乃目の周りの眼球は見えない。
猫の姿を見た眼球達は四方八方へと移動し、色々な視界が百乃目の脳内に走る、何処だ? この猫の所在は何処にいる!? 百乃目はそう思いながら必死に写真の猫の所在を確認する、何処だ何処だ? そう思いながら探していると、一つの大きな場所に着眼点を置く、そして、一つの眼球をその場所に潜入し、中身を確認する。
「はぁっ!!」
大きく呼吸をしながら頭を抱える百乃目、一気に視界を脳味噌に叩きつけながら見ているのだ、一気に体力を使ってしまったのだろう、百乃目はそう考えて、椅子に凭れながら坊主の男性に言う。
「あーえっと、猫の所在が分かりました、今からその場所に向かいましょう」
「えっ!? 今から向かうんですか!? 移動とかしているんじゃ……」
坊主の男性がそう言うと百乃目は少し笑いながら言う。
「いや、それは違いますね、だって、猫は『誘拐』されたんですから」
百乃目の話を聞いて坊主の男性は驚いていた、何故なら『誘拐された』と感付かれたからだ、坊主の男性はそう思いながら動く百乃目を見続ける事しか出来なかった──その後、何とか体力を回復させた百乃目と琥音虎は猫が誘拐された場所へと向かう、その後ろでは坊主の男性が百乃目と琥音虎を走って追いかけていた──
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- Re: しりとりシリーズの『その後』 ( No.90 )
- 日時: 2017/03/19 21:49
- 名前: 彩都 (ID: ???)
しりとりシリーズ 『レトロ』の『その後』 十六夜満月堂活動記 3 猫争奪戦
海辺──海坊主湾──その近くに大きな赤いコンテナがあった、その中で、猫の鳴き声と、体の厳つい男性の声がする、その中には坊主の男性が言っていた猫──ラグドールだ──が鳴いている、その猫を見つめながら一人の小さな少年が言う。
「兄貴ぃ? 本当にこの猫、高く売れるんですかい?」
少年がそう言うと長髪で黒髪の男性は静かに言う。
「あぁ、その猫はとても高価な猫でな、とても高く売れる、と言う──」
「そうなんッスか!」
少年が男性の話を聞いて頷く、そして少年は猫に餌をやる──
「それじゃあ向かいますか」
「おう」
百乃目が大きな赤いコンテナの前で言うと、琥音虎が反応する、だがそんな二人に対し、坊主の男性はツッコミを入れる。
「ちょい待ちちょい待ち! いやいやいやいや! その前にそんな装備で大丈夫なんですか!? 防弾チョッキも着てなさそうですし……!」
「大丈夫だよ、どうせ猫を取り返すだけなんだろ? 相手が拳銃とか持っている可能性は低いよ、だって『妖友組』は妖怪が入っている組なんだ、誘拐する相手も妖怪じゃなきゃあ割に合わんだろ? だって普通の人間より妖怪の方がタフで強いんだし──だから力仕事には持って来いって言われるんだろうが──という事で猫を回収した後、倒すのはアンタに任せる、更に中にいるのはたった二人だけ、たかが二人ならアンタでも倒せるだろ? もしもの場合は手伝ってやるからさぁ? なぁ、いいだろう? 『手伝ってやるから護衛をしろ』という簡単なミッションは?」
「……分かった」
「それに猫を誘拐されたとかバレたら親分にどう言われるか?」
百乃目がそう言うと、坊主の男性はうぐぅっ! と心臓を押さえる、ど、どうしてそれを?
「ん? そんなの簡単だよ、『写真を見た時にもう判断していた』さ、『あっ、誘拐されたんだな』って」
「な、成程、アンタの力、『百目』は恐ろしいなぁ」
「生憎、敵に回されたくない、とよく言われますね」
ふふっ、と百乃目は笑い、目の前のコンテナに目を据える、そして琥音虎に合図をして、二人で突入する。
「ん!?」
少年がコンテナのドアの変な音に気付く、長髪の男性も静かに反応し、ドアを見る、すると、百乃目と琥音虎が入ってくる。
「!? 侵入者か!?」
少年がそう判断した時、猫は琥音虎の指笛で琥音虎の胸の中に入って、丸まる、その様子を見た百乃目は坊主の男性を呼び、後方に逃げる。
「生憎、奪われた落とし前はつけないとなぁ?」
坊主の男性がそう言うと手に持った拳銃で弾を放つ、だがその弾は二人の真ん中を貫き、少年は笑う。
「ぷくくっ! アイツ何処撃ってんスかねぇ!」
少年がそう言うと、少年の背後から拳銃の弾が背中に刺さり、心臓を貫く。
「……はぇっ?」
少年がそう言ってその場に倒れ、出血多量になる、長髪の男性は静かに坊主の男性の能力を考える、そして、『関係ない所に撃って、背中に当たる』、と言う事を考え、坊主の男性を避けていく。
すると坊主の男性は自分の力の正体をバラす。
「あぁ、そうだ、死ぬ前に教えてやるよ、私の力を──私の力は『天邪鬼』だ、更に『天邪鬼』の子孫だったりする、んで、私の力は『逆らう力』だ、つまり『違う所に弾が当たったら、弾が相手に当たる迄他の所に当たるのを逆らう』んだ、だから私が他の所に弾を撃ったら、お前等二人に当たる迄──」
坊主の男性はそう言って、拳銃を懐に戻して、コンテナを離れる。
「『他の所に当たるのを逆らい続けて、その後お前等二人に当たる』!!」
長髪の男性は後頭部に拳銃の弾を受けて、そのまま絶命する、少年も血を出し続けて、失血死し、コンテナの中の二人は絶命した──
「あいよぉ、お疲れさん」
百乃目がそう言って坊主の男性の肩を叩く、琥音虎の胸の中にはゲージに入った猫が存在していた。
「今度は誘拐されない様にゲージん中に入れて、外に連れ出せよ?」
「ははっ、お坊ちゃまにも言っておきます……」
「それにしても今日は結構簡単な事件じゃったなぁ、あまり危なくもない」
「えっ?」
琥音虎の言葉を聞いて、坊主の男性は驚く、これよりも危ない事件や依頼があったのか!?
「あぁ、それと、依頼の報酬、言っていなかったなぁ」
突然坊主の男性の意識を現実に戻す言葉を吐く百乃目、百乃目は紙に依頼の金額を記し、坊主の男性に渡す。
「あっ、すいません……ってぇ!?」
坊主の男性は依頼の金額を見て、更に驚いた、それもその筈、『とても安かった』からだ、これならポケットマネーでも支払えそうだった。
「あ、有難う御座います! このご恩は何れ返させていただきます!」
「いんやぁ? いいよ良いよ、困った時はお互い様なんだから? 逆に自分達が困ったら少しは自分達を助けてくれると嬉しいね?」
百乃目がそう言うと坊主の男性は強く頷いて百乃目に言う。
「はい! 分かりました! 自分、百乃目さんが困ったら手を貸します! ……あぁ、名前を言っていなかったですね、私の名前は『天鬼邪祭(あまきじゃ まつり)』と言います、以後お見知りおきを」
「自分の名前は百乃目です」
「私は琥音虎じゃ、以後宜しゅう」
坊主の男性──基、天鬼邪祭──が名を名乗ると、百乃目、琥音虎も自分の名を名乗る、そして百乃目、琥音虎は祭のポケットマネーで依頼の報酬を受け取って、祭と別れた──そして二人は帰っている途中で、話し合う。
「本当にあれで良かったのか? あんな少ないお金で?」
「いいんだよ、慈善事業みたいなもんだ、だからあんまり気にすんなよ? 最終的にはアイツ等から金を巻き上げる事だって可能だからね」
百乃目が琥音虎の話に返答すると琥音虎は百乃目に聞かれない様な小声で呟いた。
「……こ、コイツ……やっぱり悪魔じゃ……!!」
「んー? 何か言ったぁ?」
「い、いや、何でもないのじゃ!」
「ふぅん、そう……それじゃあ今日は吐く迄夜はお預けにしよう、ひもじいひもじい言って、餓死しちゃえ!」
「さ、流石にそれだけは勘弁じゃあ!!」
琥音虎はそう言って百乃目の腕に抱きつく、次はどんな依頼が来るのだろう? 百乃目はそう思いながら夜空を見上げる──
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- Re: しりとりシリーズの『その後』 ( No.91 )
- 日時: 2017/03/19 21:49
- 名前: 彩都 (ID: ???)
しりとりシリーズ 『レトロ』の『その後』 十六夜満月堂活動記 4 辻斬り事件と百乃目と
夜、誰もが寝ている時間帯の事だった、一人の男性の妖怪が暗い夜道を歩いている、手には手燭(しゅしょく)があり、男性の周りは明るい光に包まれていた。
そんな中だ、男性の背後から長刀を持った存在が男性を斬り、斬った後、すぐさま刀を鞘に戻して、急いでその場から逃げ去った。
辻斬りだった、だがその辻斬り事件を見ている者は居らず、倒れた手燭はゆっくりと燃え、存在が黒焦げとなる──この事件は『百目』の妖怪、百乃目(もものめ)の町に号外の瓦版を作る程、広く、深く知れ渡った──
「ふぅん? 何とも怖い事件じゃのう」
十六夜満月堂の店内、瓦版を見ながら猫又の妖怪、琥音虎(こねこ)が言う、琥音虎の言葉に対し、呆れながら百乃目は返答する。
「はぁ……そうですねぇ」
何とも元気のない返答に少し不思議がる琥音虎、まさかこやつ、自分の能力を使用して犯人を見付けたとか? そう考えるとこの返答のやる気無さに納得する琥音虎、琥音虎は百乃目の胸倉を掴んで問い詰める。
「誰じゃ!? 誰が犯行をしたんじゃ! 話せぃ!」
「自分だって分かりませんよ! そんな『この町全体に能力を使用する』なんてどれだけ負荷が掛かると思うんですか!? 流石の自分だってそんなバカな事はしませんよ! 自分だって犯人は知りません!」
「嘘言うな! 今の今迄どれだけ負荷が掛かる様な事をしたと思っておる!? 儂は知っておるぞよ!?」
「そんなの出来ませんし、半径10m程度しかした事が無いですよ!」
琥音虎の言葉に百乃目が反論する、琥音虎といがみ合って、頬っぺたを抓ったり、歯を見せて闘争本能を見せたりする、すると急に十六夜満月堂の戸を開ける存在が居た、だが琥音虎と百乃目はその存在に気付かない。
「あのー、すいませぇん?」
「お前は何時もそうじゃ! 夜の時だって、何時も激しいし、お前には感情の起伏が激し過ぎる! 上下に揺れ過ぎじゃあ!」
「それを言う琥音虎だってそうでしょう!? アンタこそ感情の起伏が激し過ぎるんだよ! 自分の場合は一般的です!」
「あのー……」
「何じゃと!? よぅ言ったのぉ! もうこれからは本気でお前を倒すからな! 借金という道で!」
「何て最低な手段なんだ! アンタこそ、借金を返済する為に吉原とか行って、体売ってこい! 前に言ったのを覚えてますからね! 『儂は若い体だから世の男共の心は鷲掴みじゃ!!』ってなぁ! その体を使用すれば吉原一の金持ちになれるんじゃないんですかねぇ!?」
「あのー……聞いてますぅ?」
「何じゃ! 少しは黙っとれ! 今はコイツと喧嘩中……」
「そうですよ! 私は今この琥音虎と喧嘩中……」
二人の会話は来客にやっと気付いた時点で終了した、そして琥音虎は急いでお茶を用意し、百乃目は急いで来客を急いで椅子に座らせる。
「いやぁ、すいません、痴話喧嘩を……」
「アッハッハッ、いや、いんだよ、私も仕事柄痴話喧嘩を良く聞くから」
「ほ、ほう……それで? 依頼ですかね?」
百乃目がそう聞くと、来客は静かに頷く。
「アハハ、そうですなぁ、確かに依頼事ですねぇ……」
来客はそう言って懐から財布を取り出し、名刺を百乃目に渡す、すると百乃目はとても驚いていた、何で驚いているのか不思議そうに琥音虎が横から見ると、確かに驚愕する理由が分かった、その理由は来客の相手が『警察』の存在だったからだ。
「初めまして、百乃目さん、私は捜査一課の阿覚桂馬(あさとり けいま)と申します、それでは本題に入らせて頂きます──私と一緒に辻斬り事件の解決をして欲しいんです、これが私の依頼です、どうです? 報酬はちゃんとありますが……受けますか受けませんか? どうしますか、百乃目さん?」
警察の阿覚がそう言うと百乃目は静かに能力を発動する、だが中々、いや、『全く相手の心が見えない』のだ、何故だ? こんな相手、何も考えずに行動している奴より見えないなんて……まるで『真っ暗な世界に踏み込んでしまった』感覚を感じ、不思議だ、と思っていると『フフフ……』と笑いながら阿覚が百乃目に言う。
「何をしているんですか? まさか『自分の能力を使用して、私の心の内を見透かそう』とか考えてません? フフフ、そんなの出来ませんよ、何故なら私は『妖怪『覚』』の力を持っているんですから」
阿覚の言葉を聞いて、百乃目は驚いた、まさか『同類』って訳ね……道理で見れない訳だ、百乃目はそう思いながら静かに溜息を吐く。
「はぁ……分かりました」
「おっ、引き受けてくれるんですね?」
百乃目の言葉に阿覚が喜ぶと、百乃目は静かな口調で阿覚に言う。
「いえ、こちらにだって、『受ける選択と受けない選択』をする時間を下さい、そうですねぇ……明日、明日の今の時間にもう一度来て下さい、明日来たら『受ける選択と受けない選択』の回答をします、少しだけ……考える時間を下さい」
「……そうですか、流石に今日中に回答をしてくれるとは思ってもいませんので、また明日来ますね、それでは」
そう言って、百乃目に名刺を渡した阿覚が十六夜満月堂を出る、百乃目は名刺を見つめながら、依頼を受けるか受けないかを考える──
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- Re: しりとりシリーズの『その後』 ( No.92 )
- 日時: 2017/03/19 21:50
- 名前: 彩都 (ID: ???)
しりとりシリーズ 『レトロ』の『その後』 十六夜満月堂活動記 5 辻斬り事件の犯人と百乃目の邂逅
妖怪・覚──覚とは『相手の読む事が出来る』妖怪だ、なので、『自分以外の心を読む事が出来る』妖怪である、だが百目の妖怪の力を持つ百乃目は覚の阿覚の心の中は見れなかった、それは何故だろうか? そんな物は簡単である、百乃目は覚と違い、『他人の心なんて読んでいない』からだ、百乃目は『見る』事が出来るが、『読む』事は出来ない。
では何故百乃目は『他人の心を見る』事が出来るのだろうか? それは『相手の『心の眼』で見ている』からだ、所謂、『心の眼で見ろ』、とか言われる、あの『心の眼』から相手の心を見ている、に過ぎないのだ。
『心眼』、と言われれば納得する者も居るだろう、その『心眼』で『相手の心を見ているに過ぎない』のだ、では話を戻して、『何故百乃目は阿覚の心を見る事が出来なかった』のか? それは『覚が心を閉じる事が出来る』からだ、なので、百乃目が感じた『『真っ暗な世界に踏み込んでしまった』感覚』というのは『阿覚が心を閉ざした後の世界』と言う事になるのだ。
「…………」
全く、同類の妖怪が居る事を知らなかった自分はまだまだお子様だな、と心の中で呟きながら溜息を吐く。
確かに個人的には辻斬りの犯人は気になる所である、更に琥音虎だって知りたがっているし……さて、自分はどうしたらいい? そんなの簡単だろう? 百乃目は自問自答して、いきなり立ち上がって琥音虎に言う。
「なぁ、琥音虎、今日はもう店終いだ、さっさと寝よう」
百乃目はそう言って静かに十六夜満月堂の看板を『春夏冬中』から、『閉店中』の札に変える、その行動に対し、琥音虎は不思議がる。
「どうしてもう店終いを……?」
琥音虎の言葉に百乃目は覇気を強めて言う。
「今日はもう店終いだ、さっさと寝よう、聞こえなかったのか?」
「いや、だからどうして店終いを……」
「今日はもう店終いなんだ、理解してくれよ、僕は眠いんだ、だから寝る、それだけだ、だから早く店を仕舞おう?」
百乃目の言葉に静かに頷くしかない琥音虎は仕方なく、十六夜満月堂を閉める事にした。
こんな昼の間に閉める事は今迄あまり無いが、長年居るから分かる、今の百乃目は少しピリピリしている、と……琥音虎は本能で察する──
その日の夜、百乃目は布団に入りながらもやもやと考えていた、果たして辻斬りの犯人は一体誰なんだろう? それを考えると中々寝付けない、琥音虎も今日は違う所で寝るらしいし……これは個人行動が出来る、という事か? 百乃目はそう考えて急いで起き上がって、服を着替え、外に出る。
外は誰もいない、それもその筈、この町にも辻斬りが出るかもしれないから、という理由で人っ子一人居ないのだ。
百乃目は家から手燭を持って、火を点けて、この近辺を歩く事にした、そしてのんびりと歩いて、小川の橋を渡って、道沿いに曲がって行く、すると一軒の料理屋を見つける、だが今日はもう夕飯を食べたので、料理屋に入る事も出来ない──更にお金も今、持ち合わせが無い──なので、仕方なく、料理屋を通り過ぎる事にした、こんな事をするのなら、食べなきゃ良かった、と今更後悔しながら呑気に歩く、すると見慣れた風景が広がった、確かこの近辺に琥音虎の家があったなぁ、猫又の妖怪の癖に家なんか持ちやがって……それを言うなら、自分もか、と自虐的な事を思った瞬間だった、手燭の光で、自分の足の影の後ろ、背後にもう一つ謎の足の影を見付けた、まさかこれって──そう思った時には前に走って背後を振り向いた、すると其処には長刀を持った謎の存在が立っていた。
今はこの剣を避けて、顔を覚えておかないと! 百乃目はそう思いながら相手の顔を見る、だが外が暗過ぎて顔が判断出来ない、仕方なく手燭を近付かせるが、長刀に斬られ、光としての機能はなくなってしまう。
「くそっ! やられた! まさか刀が長刀だったとは考えていなかった!」
百乃目はそう言って、その場から逃げる事を選択する、するとその辻斬りでさえ、追いかけてきて、百乃目は驚く。
「いい加減他の対称に替えろやぁ!」
百乃目は辻斬りに怒鳴りながら逃げる、だが逃げた先は行き止まりだった、そして背後の辻斬りを見つめる……ダメだ、これは完全に自分の作戦負けだ、百乃目はそう思いながら辻斬りの一太刀を受ける──前に百乃目は首にぶら下げている笛を吹く、だが──間に合わなかった、そして左首の方から右脇腹迄、綺麗に一線に斬られる肉体、綺麗な鮮血が首から出て、辻斬りの体にぶつかる、次に右首から左脇腹綺麗にもう一線斬られる、百乃目の胴体に巨大な×の斬り傷が出来る、その瞬間だった、百乃目の横から、大量の猫を携えた琥音虎が叫びながら現れる。
「こぉんのぉ……!」
琥音虎はそう言って辻斬りの前に立ち、喉を鳴らして威嚇する、辻斬りはその場を急いで立ち去る、そして琥音虎は背後に居る上半身血だらけの百乃目を見る。
「あぁ……儂の所為じゃ、儂が今日一緒に寝ていればこんな事には……!」
琥音虎はその場で泣きながら四つん這いになって泣き続けた──だが、琥音虎の頭を撫でる百乃目、その姿に琥音虎は驚いていた。
「あぁ、辻斬り対策成功ですね……実は服の中には鎖帷子(くさりかたびら)を着用していましてね? 斬られたのは実質、服と首だけなんですよねぇ、だから、私はほぼほぼ無傷ですよ?」
百乃目が不思議そうにニッコリ笑うと琥音虎はその場で顔を赤くして、百乃目の腹部をポカポカ殴る。
「心配させおってぇー!」
「いや、あの、一応斬られて貫通している部分もあるのですが? だからあまり殴らないで……ぎゃー!」
琥音虎の拳に大ダメージを受けた百乃目はその場で倒れて、体を押さえる、流石にやり過ぎたか、と思い、反省する琥音虎、でも、何とか生きていて助かった、と琥音虎は思う、そして琥音虎は百乃目を持ち上げて、十六夜満月堂で治療する為に運ぶ──
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- Re: しりとりシリーズの『その後』 ( No.93 )
- 日時: 2017/03/25 21:35
- 名前: 彩都 (ID: 0dFK.yJT)
しりとりシリーズ 『レトロ』の『その後』 十六夜満月堂活動記 6 阿覚桂馬と店主・百乃目
十六夜満月堂の奥の休憩所で、胴体を包帯で巻かれた百乃目と心配している琥音虎が座っている、そんな中、白衣のメガネのポニーテイルの女性が二人に言う。
「あのねぇ、百乃目さぁん? こんな辻斬りが発生している中、犯人を探る為に出歩くなんて、自殺行為なんですよぉ? こっちだって冷や冷やして満月堂に来たんですからぁ?」
そう言って、溜息を吐く白衣の女性、そんな女性に対し、百乃目は頭を下げる。
「本当にすいません、琥音虎があまりにも騒ぎ立てるもので……」
百乃目はそう言って琥音虎を見る、琥音虎の目には一筋の涙が流れている。
「だってだってぇ! 百乃目、お前が死んだら誰が儂の借金を払うというのじゃあ!?」
「心配してるの其処かよ!? 自分じゃないんだ!?」
百乃目は琥音虎にそうツッコんでから、溜息を吐く、全くこっちも大変だ、というのに……そう思いながら百乃目は白衣の女性に言う。
「それにしても有難う、こんな危ない時に呼んでしまって……」
「良いんですよぉ、お金さえ貰えたら私達、鎌居三姉弟は何処へでも行きますんで」
そう言って、大きな胸を揺らしながら背筋を伸ばし、腰に手を当てる、その姿を見て、アハハ、と乾いた笑いしか出さない百乃目。
「ふむ、だけど、お姉さん、お兄さん方も大変だろう?」
「そうですね、辻斬りのお陰で商売上がったり叶ったりですけどね!」
そう言って白衣の女性は腕捲りをする、だが、流石に発言に不適切があったのか、しょんぼりして頭を垂れる。
「まぁまぁ、それ程鎌鼬(かまいたち)の薬が凄いって訳ですよ、六五(ろくご)さん? 貴女の作る薬はとても万能なので、誇っても良いんですよ?」
百乃目がそう言うと白衣の女性──基、六五──は静かに言う。
「まぁ、それもそうなんですけど……一二(ひとふた)姉さんや三四(みよ)兄さんも大変ですねぇ……」
「それもそうだね、早くこの辻斬り事件が終われば良いのにね……」
百乃目がそう言うと『はい、そうですね』と言って、六五がいきなり立つ。
「それでは私はこれで、あぁ、後処方された薬はちゃんと毎日塗って下さいね? 自分は他の辻斬り被害者の体を看に行かなければなりませんので」
「あぁ、有難う御座います」
百乃目は座りながら頭を下げ、琥音虎は六五を見送った──それにしても心を見るのも面倒な程に相手は速かったな、と思い出す、思いだす度に傷が少し疼く、何とも面倒な体になった様で。
「百乃目……」
「ん? 何だ、琥音虎?」
百乃目が琥音虎の声に反応する、すると琥音虎は百乃目の事を抱き締めて、首に絡んだ腕を強く締める。
「お前という奴は……!」
「フッ、お前だけには言われたくないね、自分でこの事件を解決させるんだ、琥音虎にはあまり関わりが無いさ……」
「だが、お前は最近体を酷使している、これ以上妖怪の力を使うと言う事は命を縮める事となるぞ?」
猫撫で声の様な声を出す琥音虎に対し、百乃目は静かに目を閉じ、琥音虎に言う。
「大丈夫さ、自分が死んでも誰も悲しまない、悲しむのは君だけなんだ、自分はそう簡単に死んで良い存在さ」
百乃目はそう言って、琥音虎を強く抱き締める、そして琥音虎の髪の匂いを嗅ぎながら強く、また強く抱き締める。
「百乃目ぇ……」
段々と妖艶な雰囲気になって行く二人、そして二人は唇と唇を合わせ、舌と舌を這わせる、ぐちゅぬちゅと唾液が絡まる音がする、琥音虎は服を脱ぎ始めるが、百乃目は止める。
「ま、待て待て、その前に自分はまだやらなくちゃならない事があるんだ」
「ん? 何なんじゃ?」
百乃目の言葉に反応する琥音虎、そして百乃目は寝ていなければならない筈だが、起き上がって、十六夜満月堂の戸を開ける、すると其処には阿覚が立っていた。
「昨日振りです、阿覚さん……!」
覚悟を決めた目つきで阿覚を見る百乃目、そして阿覚が百乃目に言う。
「決まりましたか?」
「……あぁ、決まったよ、自分は──」
百乃目はそう言って息を整えてから言う。
「阿覚さん、貴方の依頼を受けます、だから逮捕権もくれると嬉しい」
百乃目がそう言うと、阿覚はにやり、と口の端を歪ませて、言う。
「えぇ、有難う御座います、逮捕権も上げますよ、それでは、依頼の受託、しかと聞き入れましたよ? 途中でバックれるとか無しですよ?」
「そんな事、十六夜満月堂の私はしませんよ、琥音虎はするかもしれませんが」
「儂もせんわ!」
百乃目の言葉に反論する琥音虎、これで自分も辻斬りを逮捕する事が出来る、百乃目はそう思いながら阿覚と握手をする──
「ふぅ……中々の資料量だなぁ……」
百乃目はそう言って、目の前に積まれた資料を見つめる、これら全ての書類は一連の辻斬りの資料だった、それにしても中々読み応えがある資料だなぁ、そう思いながら途中で投げ出して、ソファに凭れる。
「流石に全部を一日で見る、何て出来ねぇ……」
百乃目は欠伸をして、その場で寝ようとしたが、不意に自分の胴体の傷を思い出す、実は阿覚と握手した時の出来事だった、不意に胴体の傷が疼いたのだ、何故疼いたのかは分からない、だけど、たまたま疼いたって可能性もある、なので偶然かもしれないな、と思いながら手に持った資料を見る、ちゃんと見なければ……昨日の犯人は一体誰なのか……? 百乃目はそう思いながら資料を見始める──
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