二次創作小説(映像)※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

仮面ライダーウィザード〜終幕の先〜【完結】
日時: 2017/04/15 00:31
名前: 裕 ◆.FlbxpLDSk (ID: XGjQjN8n)

こちらでは初めて投稿させていただきます、裕と申します。
今回はこの場を借りて、平成仮面ライダーシリーズ第二期から
「仮面ライダーウィザード」の物語を積み上げてみたいと思います。

個人的解釈としましては、第二期である「ダブル」〜「鎧武」までの作品は、同じ世界観だと思って見ております。なので、今回の物語もそれに沿った流れで書いていこうと思います。それに伴い、第二期各作品(劇場版)の設定も拝借する予定です。

物語の時間軸は「ウィザード」本編の最終回後、さらに言えば冬の映画「戦国MOVIE大合戦」の後の話だと思っていただけると幸いです。

ではでは。


〜登場人物〜


・魔法使いとその関係者

操真晴人=仮面ライダーウィザード

仁藤攻介=仮面ライダービースト

稲森真由=仮面ライダーメイジ

奈良瞬平

大門凛子(国安ゼロ課・刑事)

木崎政範(国安ゼロ課・警視)

ドーナツ屋はんぐり〜・店長

ドーナツ屋はんぐり〜・店員


・財団X

シオリ・カナ(栞 可奈)=仮面ライダーサクセサー

ヤマト=メモリー・ドーパント

ネオン・ウルスランド(局長)


・宇宙仮面ライダー部

野座間友子

ジェイク(神宮海蔵)

仮面ライダーフォーゼ


・鳴海探偵事務所

左 翔太郎=仮面ライダーダブル(左サイド)

フィリップ=仮面ライダーダブル(右サイド)


・怪人

サザル=ファントム・グレンデル

ファントム・ラミアー

ファントム・ヘルハウンド(ログ)

ファントム・シルフィ(ログ)

ファントム・バハムート(ログ)

ファントム・メデューサ(ログ)

グール

クロウ・ゾディアーツ

ペルセウス・ゾディアーツ

黒ネコヤミー

オールド・ドーパント

マスカレイド・ドーパント(白服)

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21



四十八. 束の間のデート ( No.55 )
日時: 2014/09/21 19:01
名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)

 晴人が放った使い魔、レッドガルーダの導きのおかげで、なんとか森から抜け出した奈良瞬平とシオリ・
カナは、瞬平の提案と案内で街中のとあるアウトレットモールの前まで来ていた。
「ねえ瞬平、貴方の言う来てほしいところって・・・ここ?」
「ええ。ここですよ!」
 困惑の表情のまま呆然と立ち尽くすカナを尻目に、瞬平はニコニコと笑顔を浮かべながら元気に答えた。
 森を出る直前、瞬平は来て貰いたいところがあるから付き合ってほしいと言った。
 一刻も早くプロジェクトに戻る必要があったし、時間もない。本来ならそんな戯言なんて無視して仲間と
合流するべきなのだろうが、瞬平から何か温かいものを感じたカナは、彼の気持ちを尊重して用件を受け入れ
ることにした。
 そして彼の案内でここまでついて来たのだが・・・。
「ここって、服屋・・・よね? どうしてここに?」
 意図が分からないカナは瞬平に尋ねる。
「いやぁ、だって栞さん、服が汚れちゃってるじゃないですか。仲間の人達のところに戻るなら、やっぱり
綺麗な服に着替えたほうがいいのかなぁって」
「服? そういえば・・・」
 瞬平の指摘を受けて、ようやくカナ自身も自分の着用している服の有様に気がつく。
 純白だった詰襟のスーツもスカートも、泥に汚れて茶色くなり、所々破れて穴も開いている。
 胸元が大きく開いてしまったせいで黒いブラジャーが見え隠れしていた。
「・・・ひゃっ!」
 自分の着ている服の状態を理解して急に恥ずかしくなったのか、カナは慌てて両手で胸元を隠した。
 彼女の顔を見ると、頬も耳もまるで火傷でもしたかのように真っ赤に染まっていた。
(か、かわいい・・・)
 初めて見る恥らうカナの姿に、瞬平は自分の心臓がドキドキと高鳴るのを感じた。
 以前、詐欺師のゲート、川崎愛美に騙されて恋に落ちたことがあったが、それとは比較にならないほどの
気持ちの高ぶりだった。
「ちょっと、あんまり見ないでよ?」
 背中を向けながら恥ずかしそうにカナは言う。
 肩越しにチラチラ見える彼女の耳は赤いままだ。
「ゴメンなさい! 見てません! 見てませんから!」
 そう言いながら瞬平は、大げさに両目をギュッと閉じた。
「もお・・・」と、瞬平の態度に最初は呆れ顔を見せたカナだったが、
「でもありがとう。私のために気をつかってくれて」
 その表情はすぐに笑顔に変わるのだった。
 改めて礼を言われて嬉しくなったのか、瞬平は「へへへっ」と照れくさそうに笑うと、
「いえ。それじゃあ、お店に入りましょうか」
 と、カナをエスコートするのだった。


 瞬平とカナが立ち寄ったアウトレットモールは、沢山の木製のベンチが並ぶ噴水付きの広場を丸く囲む
ように建設されている。
 建物は二階建で、一階は主にレストランやカフェなどの飲食店が並んでおり、二人が向かったファッション
系の店はエスカレーターを上がった先の二階にある。
 昼時ということもあり、モール内は大勢の客で賑わっている。
 瞬平とカナは人混みの中を歩きながら、建ち並ぶ店を楽しそうに見て回っていた。
 とはいえ、カナの服装が服装なだけに、いつまでもこの状態で人前を歩き続けるわけにもいかない。
 二人は適当に選んだ店に入ることにした。


「すごい・・・。綺麗な服がこんなに・・・」
 売り場に並ぶ数々のレディースの服を前に、カナは今までにないほど目を輝かせて興奮していた。
 その姿は巨大組織の幹部などではなく、まさにショッピングを楽しむごく普通の女の子のようだった。
「栞さんも、こんな顔するんだ・・・」
 カナの女性らしい一面を目の当たりにしながら、瞬平は呟いた。
 昨晩の出会いから、彼女はずっとどこか張り詰めた表情を見せていた。
 彼女の組織での立場がそうさせるのか。
 それとも、幼い頃に両親を殺されたという経験とそこからくる復讐心がそうさせるのか。
 もしくはその両方か。
 とにかく、そんな重荷が彼女の女性としての幸せを封じ込めているのかもしれない。
 本当は、こんなに可愛く笑えるのに。
 どうすれば、彼女に普通の女性として幸せになってもらえるのだろう。
 そんなことを考えながら、瞬平は楽しそうに服を選ぶカナの姿を見つめていた。
「瞬平。これに決めたわ」
 暫くして、服を選び終えたカナが瞬平の前に戻ってきた。
 その両手には選んだ服一式が大事そうに抱きかかえられていた。
「そうですか。それじゃあ、レジでお金を払って、その服に着替えてくると良いですよ。僕は先に店の前で
待ってますから」
「ええ、わかった。もうちょっと待ってて」
 そう言って、カナはレジカウンターの前へ向かって行った。


 言ったとおり、先に店を出た瞬平が扉の前で暫く待っていると、新しい服に着替えたカナが店の奥から
戻ってきた。
「わあ! すっごい綺麗ですよ。栞さん」
 カナの新しい服装を目の当たりにした途端、瞬平は驚くように声を上げた。
「そうかな? こういう服着るの、実は初めてなんだけど・・・」
 財団Xの制服である詰襟の白いスーツを脱ぎ捨て、カナは初めて自分で選んだ服に袖を通した。
 黒のキャミソールの上に赤いテーラードジャケット。下はタイツと青のホットパンツという格好だ。
「とても似合いますよ。でも、初めてって?」
 そのセクシーさをも感じさせるカナの格好に、再び高鳴る気持ちを抑えながら瞬平は問う。
「私、両親が殺されてからずっと組織にいたから、こういう服着たことがないの。着たことあるのは組織から
支給される服だけだった・・・」
 そう言ったカナの表情が、少し寂しそうに見えた。
「あ、そうだ栞さん、ソフトクリーム食べません? 下のお店で売ってるみたいですよ」
 気まずさを感じた瞬平は、慌てて話題を変える。
「ソフトクリーム?」
「はい。食べたことありませんか?」
「どうかしら。子供の頃に食べた気もするけど、あんまり覚えてないわ」
「じゃあ大人になってからは初めてのソフトクリームですね。行きましょ行きましょ」
 そう言って瞬平は、多少強引にカナの細い手を引っ張り、駆け出していく。
「あ、ちょっと瞬平! ・・・もう」
 引っ張られるまま、瞬平に連れて行かれるカナも、恥ずかしく想いながらもまんざらでもない表情を見せて
いた。


 アウトレットモールの中を楽しそうに過ごすカナと瞬平。
 しかし、そんな二人の姿を、少し離れた建物の屋上から見つめる一つの影があった。
「何処で何をしているのかと思えば、こんな所で油を売っていたとはな・・・」
 影は鋭い爪を立て、牙を光らせる。

四十九. 笑顔とハンカチと… ( No.56 )
日時: 2014/10/18 08:52
名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)

 前髪についた紫の花のヘアピンは宝物だ。
 正確に言えば両親の形見。
 父と母が亡くなった後に唯一残った家族の絆。
 ヘアピンそのものは15年前に巨漢のファントム、グレンデルに投げ渡されたもの。残念ながら両親の手か
ら直接受け取ることは叶わなかったが、とにかくこれは大切な父と母の形見なのだ。
 そういえば、ずっと疑問に思っていることが二つある。
 一つはこのヘアピンの経緯だ。
 両親はこのヘアピンをどうするつもりだったのだろうか。
 昔の記憶を辿る限り、母がこのヘアピンをつけている姿を日常で見せたことは一度もなかったはずだ。
 確実とは言えないが、これが母の私物だったという可能性は低い。
 だとしたら、素直に自分へのプレゼントのつもりで用意していたと思うべきだろうか。
 二つ目の疑問はこのヘアピンを受け取った際に言っていたファントムの言葉だ。
 “両親の形見だ…”
 あのファントム、グレンデルは確かにそう言っていた。
 そう言ってこのヘアピンを投げ渡してきた。
 何故そんなことをする必要がある?
 大切な両親を殺した怪物が、当時無力な子供だった自分をみすみす見逃し、わざわざ形見だと言ってヘア
ピンを託す必要がどこにある?
 奴にとっては取るに足りないものだったろうに。
 そんなことをする理由もメリットも、あのファントムにはない筈だ。
 まだ幼かったあの時は、そんな怪物の行動を疑問視する頭も余裕もなかったが、それなりに経験と知識を
重ねてきた今では、奴の行動が怪しく思えて仕方がない。
 一体何を企んでいたのか。
 いや、きっと今でも何かを企んでいる。
 15年ぶりに姿を見せたのが何よりの証拠だ。
 ヤマトが集めた魔力を手に入れて、サクセサーを魔法使いとして完成させた暁には、必ず復讐を果たし、
奴の企みも暴いてみせる。絶対に…。


「どうです栞さん。美味しいですか? ソフトクリーム」
 食べかけのソフトクリームを片手に、早速口の周りを白くしながら瞬平が感想を求めてきた。
 その顔はお菓子を美味しそうに頬張りながら口を汚す無邪気な子供とほとんど大差なく、傍から見れば
「みっともない」の一言が飛び出しそうな、そんな大人気ない姿だったが、問われたカナはとくに気にすること
もなく、その小さな口から可愛く舌を出してバニラ味のソフトクリームをペロッと一口舐めると、じっくり味わ
ってから感想を述べるのだった。
「ええ。甘くて冷たくて、とっても美味しいわ。ありがとう、瞬平」
「いえ。喜んでもらえて、僕も嬉しいです」
 ニコッと笑顔を向けてお礼を言うカナの表情に、思わずドキッとしながらも、瞬平も照れくさそうに笑顔を
返した。
 賑わう人集りの中で、周りの視線も気にせずに顔を突き合わせる二人。…だったが、
「…ふふっ。ねえ瞬平、口の周り真っ白よ。これで拭いたら?」
 顔を向き合わせて数秒ほど目を合わせていると、急に可笑しくなったのか、カナは吹き出すように唐突に笑
い出した。
「えっ? くち? ……あ!」
 カナに指摘され、口元に手を当ててようやく自分の口の周りがバニラのクリームでベトベトになっているこ
とに気づく。
 瞬平は恥ずかしそうに慌てて口元を両手で隠した。
 耳や頬を赤く染めながらのその行動は、まるで純情な乙女のようだった。
 瞬平のそんな様を目にしてさらに面白くなったのか、堪えようとしながらも思わず声を漏らしてカナは笑い
続けた。
「もう…、そんなに笑わないでくださいよぉ〜」
 そう言いながら、困惑混じりの照れた表情を見せる瞬平。
 しかしその表情とは裏腹に、内心では喜ばしい気持ちが込み上がっていた。
(栞さんが初めて声を出して笑った)
 シオリ・カナと行動を共にして今日で二日目。一緒に過ごす中、そのほとんどの時間、カナはどこか遠い場
所を見つめるような、そんな寂しそうな表情でいることが多かった。
 それでも共にいる間、彼女は何度か微笑んでくれた。
 “ウィッチちゃん”の話をした時。
 魔法使いの話をした時。
 瞬平のまるで子供のような純粋な一面を目の当たりにした時。
 そしてさっきのショッピングの時…。
 でもその時見せた笑顔が本心かどうかなんて瞬平にはわからない。
 きっと誰にもわからない。
 だから今の笑顔も本当かなんてわからない。
 けど、カナは今、本当に楽しそうに声を出して笑っている。
 少なくとも瞬平の目にはそう映っている。
 ならば、そう見えるのならば、そんな彼女を見て嬉しく想えるのならば、そう想えた自分の気持ちを信じ
よう。
 クリームを口にベットリつけたまま、瞬平はそう結論付けた。
「はいこれ。これで口の周り拭いたら?」
 少しして気持ちが落ち着いたのか、まだ笑みを零しつつも、カナがジャケットのポケットから一枚の黄色い
ハンカチを取り出し、それを瞬平に差し出した。
「これって…」
「服と一緒に新しく買ったものよ。使いなさい」
「そんな、僕が使ったら汚れちゃいますよ。せっかく買った綺麗なハンカチなのに…」
「なに言ってるの。そんな顔のまま歩くわけにいかないでしょ? いいから使いなさい」
 そう言いながら、カナは遠慮する瞬平に半ば強引にハンカチを手渡した。
「す、すみません。お借りします…」
 たじろぎながら受け取った瞬平は、申し訳なく思いつつも彼女の好意に甘えることにした。
 優しい視線を向けてくるカナの姿を横目に、借受けたハンカチで口についたクリームを拭き取っていると、
瞬平はあることに気がついた。
「あの、栞さん」
「ん? なに?」
 恥ずかしそうに口元を拭く瞬平の姿を見ながら、自分のソフトクリームを堪能していたカナは、瞬平に呼ば
れるとその手を…否、この場合、その舌を止めて返事した。
「大した話じゃないんですけど、その、新しい服でせっかくオシャレしたのに、前髪のヘアピンは…つけた
ままなんですね?」
 口元のクリームを拭き終え、借りた黄色いハンカチを握り締めたまま、瞬平は質問する。
 カナは数秒ほど間を空けてから、上目遣いで自分の前髪についた紫の花のヘアピンを見ながら答えを返す。
「これ、この服装には合ってないかな?」
「い、いえっ! そんなつもりで言ったんじゃないんです。ただ、そういうアクセサリーならここで新しい
ものも買えるのに、交換せずにつけ続けてるってことは、もしかして大切なものなのかなぁと思って…」
 ひょっとして失礼なことを言ってしまったんじゃないかと思い、慌てて言葉を付け加える瞬平。
 するとカナは、また数秒ほど言葉に間隔を空けてから口を開く。
「…ええ。たしかにこれは大切なもの。私と、亡き父と母との間に残った唯一の家族の絆。形見よ…」
「形見?」
 カナの口から出てきた予想外の重たい言葉に、瞬平はゴクッと唾を飲み込む。

五十. 灰鬼人の襲撃 ( No.57 )
日時: 2015/01/14 02:09
名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)

 その右手に持った瞬平のソフトクリームは、いつの間にか滴が垂れるほどに溶けかけていた。
「私の両親がファントムに殺されたことは昨日話したでしょ? この髪飾りはその時に手元に残った、恐ら
く両親がプレゼントとして私のために用意したもの…」
「恐らく? 恐らくってどういうことですか?」
 カナの何故か自信のないような言回しに違和感を感じた瞬平は、首を傾げて疑問を投げ掛ける。
「断言できないのよ…。直接渡されたものじゃないから…」
 プレゼントなのに直接もらったものではない? 形見なのに?
 どうにも話が見えてこないカナの説明に瞬平は困惑する。
「それってどういう…」
 と、話をもっと詳しく聞きたいと思い、瞬平がさらに尋ねる。が、しかしその瞬間、
「きゃあああああぁぁぁぁ!!!」
「ば、化け物ぉおおお…!!!」
「いやぁああああぁぁぁ!!!」
 突然、アウトレットモール内の至る所から無数の悲鳴が聞こえてきた。
 恐れ戦く男性と女性の声。
 助けを求めて泣き叫ぶ子供の声。
 四方八方から聞こえる恐怖に怯えた人間達の悲痛な声。
 そして、悲鳴が響き渡るのとほぼ同時に、周りの買い物客が皆一斉に右往左往を始めたのだ。
 明らかな周囲の異変に、話は意図せずに中断する。
「な、何ですか急に!? どうしたんですか皆さん!」
「これは一体……」
 あまりにも唐突に、慌ただしく騒ぎ始めた周りの状況に、瞬平とカナは呆然と立ち尽くす。
 逃げ惑う人々。
 その中の誰かが「化け物」と言っていた。
 ひょっとしてこのモール内に怪物が?
 そう思った瞬平は慌てて周囲を見回した。
 キョロキョロと、晴人や凛子との付き合いで培った自分の観察力を信じて、人混みの中を凝視する。
 すると幸いなことに、混乱の原因はすぐに見つかる。
「あっ! 栞さん、あれ…」
 瞬平が指差した先に蠢く無数の異形、それがこのパニックの原因だった。
 全身を鉱石のような灰色で染めた槍を持つ怪人集団。
 瞬平は金魚や鯉のように口をパクパクさせながら怪人共の名を口にする。
「な、なんでここに…グールが!?」
「グール? それってたしか、集団で行動する下級ファントムよね?」
 次から次へと現れて、ゆっくりと歩み寄ってくる無数のグール達の姿にたじろぐ瞬平に、カナは冷静に
確認する。
 計画の一環で魔法や魔力に繋がる出来事を監視し、情報収集に努めていたこともあり、このグールという
下級ファントムの存在は、組織のチーム内ではかなり早い段階で認知されていた。
 しかし、実際に実物を目の当たりにすること。それは以外にも、カナにとっては初めての出来事だった。
 逃げ回る人集りの中、どういうわけか、無数のグール達は周囲の人間には目もくれず、一直線にある箇所
目指して動いていた。
 あっという間にモール内の一般人達が姿を消し、その場に瞬平とカナ、そして無数のグール達だけが残っ
たことで、その理由がハッキリする。
「しまった…」
「そんな…」
 瞬平とカナは気づいた。
 自分達が無数のグール達に囲まれていることに。
「目的は私たちってわけね…」
 周りを警戒しながらカナが呟く。
 その手には、いつの間にか食べかけのソフトクリームではなく、サクセサーのバックルが握り締められ
ていた。
 力不足のサクセサーで何処までやれるかわからないが、カナは戦う気だった。
 そんな彼女を尻目に、瞬平は考えていた。
 今まで、グールを使役するファントムの目的は、主に魔力を持った人間=ゲートの確保だった。
 もちろんそれは、絶望したゲートから魔法使いを生み出そうとする白い魔法使い=ワイズマン=笛木奏
の意思の上で行われていたことだが、その事実を抜きにしても、これまでの間、例外らしい例外はあまり
なかった気がする。あったとすれば、あえて無差別に人間を襲っていたグレムリンくらいのものか。
 つまり、グールの目的=ゲート、というイメージが既に脳内に焼きついていた。
 そして、もしその考えどおりなら、今、自分達を取り囲んでいるグール達の目的も、ゲートということに
なる。
 瞬平はかつてはゲートだったが、自身のアンダーワールドに潜む巨大ファントムをウィザードに倒された
以降は、魔力を失った普通の人間として生きている。
 ということは、グール達の目的は自分ではないもう一人の人間。
 今、グール達の包囲網の中で、共に身を寄せ合わせながらも戦う意思を示している一人の女性。
 彼女が敵の目的ということになる。
「ひょっとして、栞さんが…ゲート!?」
 瞬平は驚きの表情で、改めてカナを見る。
「瞬平、ここは私が何とかする…。貴方は隙を見て逃げなさい」
 一方のカナは、そう言いながらバックルを腰に装着し、既に戦闘態勢に入っていた。
「栞さん!」
「変身!!」
 制止するかのような瞬平の呼び声を無視して、シオリ・カナは変身コードを発声する。
 ピピッというベルトの認識音が鳴り、次の瞬間、眩い光に包まれて、カナはサクセサーへと姿を変える。
 未完成を象徴するかのような灰色のアーマー。
 ブランク体とでも言うべきその姿を身に纏い、サクセサーは片足を一歩踏み出した。
 こうなっては、もはや彼女に何を言っても無駄なのは、昨日の経験で明らかだった。
 仕方なく、瞬平はせめて彼女の邪魔にならないようにと、数歩下がってサクセサーから距離を取ること
にした。
 瞬平の判断を肩越しに見届けた後、サクセサーはより一層周囲を警戒すると共に拳を構えた。
 そしてそれは戦闘開始の合図となった。
 前後左右、丸く取り囲むような形で立ち塞がっていたグール達が、皆一斉に動き出す。

五十一. サクセサーvsグール ( No.58 )
日時: 2014/11/12 19:08
名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)

 神経を研ぎ澄まし、周囲のグール一体一体の動きに迅速に対応できるように身構えるカナ=サクセサー。
 プロジェクト成功のために長年努力してきたことは、何も頭を使った計算や技術開発だけではない。
 科学の力で魔法使いを生み出すというこの計画。その要であるシステム、サクセサーを完璧に使いこなせ
るように、体力面や精神面、戦闘技術もできる限り鍛えて磨き続けてきたのだ。
 システムが今だ未完成で、サクセサーにまともな武器や技が無くても、それを補うだけの格闘センスには
自信があるつもりだ。
「問題は……」
 灰色の仮面の下で、サクセサーが小さく不安を漏らす中、一斉に動き始めた無数のグール達。そのうちの
一体の攻撃が、背後にいる瞬平に降掛かろうとしていた。
「瞬平!」
 咄嗟に気づいたサクセサーは、自分の背後に迫っている危機を感づけず、油断していた瞬平のそばに急い
で駆け寄ると、ほぼ同時に振り下ろされたグールの槍を間一髪で受け止めた。
「……し、栞さん」
 突然のサクセサーの急接近に驚き、その後に自分が背後から狙われていたという事実に二度驚く瞬平。
「大丈夫、瞬平? ケガはない?」
 グールの槍を両手で受け止めたまま、サクセサーは瞬平の身を案ずる。
「は、はい! すみません。僕、栞さんに迷惑を…」
 戦闘開始早々に、いきなり足を引っ張ってしまった。
 瞬平は謝罪の言葉と共に顔を曇らせる。
 しかし、そうしている間にも、周りにいる他のグール達は、お構いなしに次々と近づいてくる。
「まずいっ…」
 それに気づいたサクセサーは、すぐさま次の行動に移る。
 組み合っていた眼前のグールの槍を左手で掴み、さらに右腕を相手の腕に絡みつかせて敵の動きをしっか
りと固定する。
 そして、バランスを崩さないように地面についた両足に思いっきり力を込めると、なんと両腕で動きを封
じたグールの身体を空中に持ち上げ、ハンマー投げの要領でブンブンと振り回し始めたのだ。
「えぇ〜…!?」
 自分の身体を軸にして、円を描くように敵を振り回すという、女性がやることとは思えないほどダイナミ
ックな行為に、瞬平は思わず言葉を失った。
 一見、ドン引きされてもおかしくない行為だが、勿論、それはサクセサーにとっては考えあっての行動
である。
「はぁぁああああー!!」
 サクセサーが渾身の力で敵の一体を振り回すことにより、最も近づいていた何体かのグール達はそれに
弾き飛ばされ、残りのグール達も距離を取らざるを得ない状況になっていた。
 隙を見せ、怯むグール達。
 そのチャンスをサクセサーは見逃さなかった。
 何周か回り続けた後、両腕で掴んだグールを、たじろぐ他のグール達目掛けて思いっきり投げ飛ばす。
 その光景はまさにハンマー投げ。
 そして、飛んできた仲間に押し潰されて地面に倒れる数体のグール達の姿は、さながらボーリングのピン
のようだった。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
 サクセサーは息を切らしながらその光景を様子見ている。
 特殊なアーマーを身に纏っているとはいえ、やはり怪人一体を投げ飛ばすという行為は、女性にとっては
きついものがあったのだろう。
 長年、身体を鍛えていても、それは然り、である。
「栞さん……」
 辛そうにしているサクセサーを、瞬平は心配そうに見守っていた。
 サクセサーが呼吸を整えようとしている中、無数のグール達は体勢を立て直しつつあった。
 やはり、あの程度の攻撃でくたばってくれる筈はなかった。
 サクセサーの脳裏に再び不安が過る。
「やっぱり、コイツらは魔法でしか…」
 計画の一環で情報を集めていた時、グールに関する特徴で気になることがあった。
 それは、奴らは主に魔法、もしくはそれに匹敵する特殊な力でしか消滅させることはできないということ。
 裏を返せば、銃や刃物のような一般的な武器、それ以上の火力を持つ現代的な重火器では、このグールと
いう存在は倒せないということだ。
 魔力を持たない、魔法を使えない今のサクセサーでは、グール達を消滅させることは難しい。
 サクセサーの仮面の下で、カナの顔に焦りの表情が現れていた。
 追い詰めるかのように、槍を構えてジリジリと歩み寄ってくる無数のグール達。
 さっきの回転攻撃で、包囲網は崩せたものの、やはり不利な状況に変わりはなかった。
「……ん?」
 ふと、足元に一本の槍が落ちていることに気づいたサクセサーは、徐にそれを拾い上げる。
 それは今し方、自分が投げ飛ばしたグールの一体が所持していたものだった。
 恐らく投げ飛ばされた拍子に、手元から離れたのだろう。
 背に腹はかえられない。
 こんな武器も、無いよりはマシか。
 そう思ったサクセサーは、その槍を自らの武器として利用することにした。
 まるで中国の棒術のように、身体全体を器用に使って振り回し、その槍が自分の手に馴染むかどうかを
確認する。
 ヒュンヒュンと、風を切る音が見守る瞬平の耳に届く。
 ウォーミングアップは終わりと言わんばかりに一旦その手を止めると、深い深呼吸と共にサクセサーは
改めて槍を身構える。
 そして、独特の構えのまま、すかさず近くにいた正面のグールに攻撃を仕掛けた。
 グールの胸部に斬撃を一撃与え、続けて喉元に突きを加える。
 咄嗟の攻撃で完全にワンテンポ反応が遅れたグールは、その突きの攻撃に流されるまま、後方に吹っ飛び、
背後の木に激突した。
 サクセサーの唐突な先制攻撃に、周りのグール達は戸惑った様子を見せるが、サクセサーはそんなことは
お構いなしに攻め続ける。
「はあっ!」
 槍を前面に突き出した状態から、素早く体勢を変えて疾風迅雷のごとく左右の敵を蹴散らしていく。
 戦力的に不利である以上、相手に反撃のチャンスを与えるわけにはいかない。
 攻めて攻めて攻めまくる。
 知的な戦いとは言えないが、今考え得る勝利するための最善の方法は、これしかない。
 サクセサーは無我夢中で群がる敵を攻撃し続けた。
 しかし、眼前の敵達に夢中になるあまり、彼女は死角からの攻撃を察知することができなかった。
 サクセサーの視界から外れた側面から、三体のグールが不意打ちを仕掛けてきたのだ。
 三体のグール達は、右腕を生態銃砲の形に肥大化させ、魔力を圧縮した光弾を発射する。
「栞さん危ない!」
 瞬平が叫んだ時には既に遅く、放たれた光弾は全てサクセサーに命中した。
「きゃぁあああ…!!」
 突如、全身を貫くような衝撃に襲われ、悲痛な声を上げながらサクセサーの身体は大きく宙を舞う。
 そして、吹き飛ばされた身体はモール内のショーウィンドウを突き破り、展示されたマネキンを薙ぎ倒し
ながら、店内に姿を消すのだった。

五十二. 野獣再臨 ( No.59 )
日時: 2014/11/19 15:57
名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)

「栞さん!!」
 グール達の遠距離攻撃による不意打ちを受けて、背後のブランドショップの中まで吹っ飛ばされてしまっ
たサクセサーの安否を心配し、慌てて彼女の下へ駆け寄ろうとする瞬平だったが、すかさず他のグール達
が妨害を仕掛けてくる。
 瞬平の腕、または肩を掴み、さらには槍の刃先を突き付けて動きを遮るグール達。
「ひっ! は、離してぇ…」
 降掛かる身の危険に、瞬平は情けない声を漏らし怖気づく。
 身動きを封じられ、困惑している中、刃先を突き付けていた一体のグールが躊躇うことなく槍を振り上げ
てきた。
 心も感情も持たないグールに迷いは無く、殺人という行為にも何の抵抗は無い。
 怯える人間を前にしても、手にした槍は無感覚に解き放たれる。
「し、死ぬぅー!!」
 眼前に急接近する刃を前に、恐怖のあまり絶叫する瞬平。
(晴人さん、凛子さん、短い間でしたけど、お世話になりました! 僕、死にます!)
 救助も望めないこの状況に、とうとう心の中で死を確信する。
 しかし次の瞬間、
「グォ!?」
 槍を振り下ろしかけたグールの灰色の手が、短い悲鳴と共に停止した。
「えっ…?」
 恐る恐る、瞬平が顔との距離が数センチほどのところで止まった刃先の奥の光景を見てみると、目に映っ
たのは長い槍が顔面のど真ん中に突き刺さった、なんともグロテスクなグールの姿だった。
 瞬平に刃先を向けていたグールは、顔面に槍が刺さったまま後方にふらつくと、そのまま背面から倒れて
動かなくなった。
 いくら魔力等の特別な力でしか倒せないと言われているグールでも、さすがに頭部を潰されては堪ったも
のではないのだろう。
 死んでないにしても、活動はほぼ不可能に違いない。
 一体何事かと、瞬平が辺りを見回してみると、割れたショーウィンドウから顔を出すサクセサーの姿が
視界に入ってきた。
「栞さん! 良かった無事で」
 サクセサーの健在ぶりに瞬平は思わず安堵する。
 そして、同時に間一髪のところで何が起こったのかもだいたい予想することができた。
 よく見ると、割れたショーウィンドウの奥にいるサクセサーは、まるで何かを投げた後のような姿勢で
立っていた。
 瞬平がグール達に殺されそうになった直前、店の中からその危機に気づいたサクセサーは、すかさず
手にしていた槍を、まさに槍投げの如く投擲してグールの一体の顔面に命中させたのだった。
 距離的に間に合わないとはいえ、得物を投げつけてしまう大胆さも然る事ながら、一発チャンスの投げた
槍を見事に、しかも的の小さい顔面にヒットさせるその命中率の高さに、瞬平は今更ながら感服していた。
 こんな状況でなければ、ぜひ投げる瞬間を見てみたかったものだ。
 と、死の局面から開放された安心感もあってか、のん気にそんなことを考えていると、ショーウィンドウ
から外に出てきたサクセサーが、パキパキと割れたガラスの破片を踏みながら駆け寄ってきた。
「逃げて瞬平! また襲われる前に!」
 そう言いながら、サクセサーは徐々に走るスピードを上げる。
(そうだ。まだ戦いは終わってないのに、なに安心しきっているんだ僕は…)
 近づいてくるサクセサーの姿を見ながら、のん気な自分を内省する瞬平。
 事実、周りにはまだ無数のグール達が存在し、臨戦態勢が続いている。
 得物を失ったサクセサーは、走りながら改めて拳を握る。
 武器が無い以上、頼れるのは自分の拳だけ。
 と、気持ちを引き締め直し、瞬平の周りにいるグール達に向かって力走する。
 見守る瞬平との距離もどんどん縮まっていく。
 が、しかしそこへ、
「おい! 一体いつまで遊んでいるつもりだ!」
 突然、何処からか聞こえてきた野太い声と共に、上空から一つの影が降ってきた。
 大きな地響きを立てながら、サクセサーと瞬平の間に割って入るような形で着地したそれは、鋭い視線
と牙を光らせ、一瞬で二人を戦慄させた。
「お前は……」
 その忘れることのできない姿を目の当たりにした瞬間、サクセサーは駆け出していた足を思わず止めて
しまう。
 全身を茶色い体毛で覆われた、2メートル以上ある巨漢の怪人。
 狼男のようなフォルムをしたそれを、サクセサーは憎まずにはいられない。
 なぜならコイツが、このファントムが、紛れもない両親の仇なのだから。
「ファントム、グレンデル…」
 サクセサーの仮面の奥から、憎しみの眼差しを向けるシオリ・カナの拳が、プルプルと震えていた。
 憎しみと恐怖、闘争心と逃走心が濁るように混ざり合い、彼女の心を支配する。
「俺は待っているんだ。お前が強くなるのをな…」
 鋭い視線を向けたまま、ファントム・グレンデルは唐突に語りだす。
「なのにお前は一向に強くならねぇ。強くなろうともしねぇ」
「なに言って…。私は強くなろうとしている! 父と母の仇をとるために、お前を殺すために力を得よう
としている!」
 憎悪の対象であるグレンデルを前に、サクセサーも感情を込めて言い叫ぶ。
「どこがだ? 今のお前の姿は、寧ろ力から遠ざかっているようにしか見えねぇがな!」
「遠ざかっている?」
「ああ。当初の目的よりも、お前は今、そこの人間の小僧と戯れることを優先している。そんなことじゃあ、
お前はいつまでたっても力を得られないし、俺を殺すこともできない! 目的を達成することはできない!」
 背後に立っている瞬平を親指で指し示しながら、グレンデルは挑発的に言う。
 その、まるで自分の行動を、考えを、気持ちを、全てを見透かしているかのような物言いに、サクセサー
は苛立ちを隠せなかった。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21



この掲示板は過去ログ化されています。