二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 仮面ライダーウィザード〜終幕の先〜【完結】
- 日時: 2017/04/15 00:31
- 名前: 裕 ◆.FlbxpLDSk (ID: XGjQjN8n)
こちらでは初めて投稿させていただきます、裕と申します。
今回はこの場を借りて、平成仮面ライダーシリーズ第二期から
「仮面ライダーウィザード」の物語を積み上げてみたいと思います。
個人的解釈としましては、第二期である「ダブル」〜「鎧武」までの作品は、同じ世界観だと思って見ております。なので、今回の物語もそれに沿った流れで書いていこうと思います。それに伴い、第二期各作品(劇場版)の設定も拝借する予定です。
物語の時間軸は「ウィザード」本編の最終回後、さらに言えば冬の映画「戦国MOVIE大合戦」の後の話だと思っていただけると幸いです。
ではでは。
〜登場人物〜
・魔法使いとその関係者
操真晴人=仮面ライダーウィザード
仁藤攻介=仮面ライダービースト
稲森真由=仮面ライダーメイジ
奈良瞬平
大門凛子(国安ゼロ課・刑事)
木崎政範(国安ゼロ課・警視)
ドーナツ屋はんぐり〜・店長
ドーナツ屋はんぐり〜・店員
・財団X
シオリ・カナ(栞 可奈)=仮面ライダーサクセサー
ヤマト=メモリー・ドーパント
ネオン・ウルスランド(局長)
・宇宙仮面ライダー部
野座間友子
ジェイク(神宮海蔵)
仮面ライダーフォーゼ
・鳴海探偵事務所
左 翔太郎=仮面ライダーダブル(左サイド)
フィリップ=仮面ライダーダブル(右サイド)
・怪人
サザル=ファントム・グレンデル
ファントム・ラミアー
ファントム・ヘルハウンド(ログ)
ファントム・シルフィ(ログ)
ファントム・バハムート(ログ)
ファントム・メデューサ(ログ)
グール
クロウ・ゾディアーツ
ペルセウス・ゾディアーツ
黒ネコヤミー
オールド・ドーパント
マスカレイド・ドーパント(白服)
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- 七十七. グレンデルの正体1 ( No.85 )
- 日時: 2016/07/08 17:00
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)
ウィザードとサクセサーの戦いが収束し、暗雲立ち籠める空からポツリポツリと小雨が降り始めた頃、なんとか動けるまでに回復したシオリ・カナが晴人たちと対話をしていた。
「これ以上、そのサクセサーのベルトを使用するのはやめたほうが良い。そのベルトには危険が多すぎる」
カナが手にするサクセサーのベルトを見つめながら、フィリップが言った。
「危険が多いのは百も承知よ。このベルトを設計し、開発したのは誰であろう私なんだから。でも、まだこのベルトを手放すわけにはいかないの。私にはどうしてもやらなくちゃいけないことがあるから……」
「やらなくちゃいけないこと……。それって君の両親の敵討ち、だろ?」
「どうしてそのことを?」
晴人の口から出た予想外の言葉に、カナは驚きを隠せないでいた。
「実は知っているんだよ、全部。君のことについては。こっちには優秀な探偵が付いているから」
「探偵? ああ、そういうことね……。地球の記憶へのアクセス……。やっぱり全部把握済みだったのね」
「ああ。悪いが全部調べさせてもらった。これも仕事だからな。んで、調べた結果、判明したことが一つ。アンタ自身が知らない真実がこの事件には隠されている」
頭にかぶったソフト帽のつばを摘みながら、翔太郎が告げた。
「私が知らない真実……。それって一体——」
と、カナが言いかけたその時だった。
「その女が知らない真実、それは俺のことだろ? なあ、探偵!!」
突然、何処からともなく聞こえてきた巨大で荒々しい声が、その場に耳障りに響き渡った。
「なんだ今の声!?」
「あ、あそこ!」
誰よりも先に声の主の存在に気付いたのは野座間友子だった。
友子がその細い指で指し示した方向——ビルの正面ゲートの扉の前に視線を向けてみると、そこに立っていたのは全身を茶色い体毛で覆われた獣のようなファントム——グレンデルだった。
2メートル以上の身長を持つ巨漢のグレンデルの右手には、何やら人の形をしたものが握られていた。
後頭部をその広い掌で鷲掴みにして、見せびらかすように持ち上げているその姿を目の当たりにした瞬間、シオリ・カナは言葉を失い戦慄した。
「お、お前……、お前が持っているものは……まさか……」
「あ? ああ、これか? これはお前にプレゼントだ! ほら、受け取れ!」
そう言って、グレンデルは持ち上げていた“それ”をまるでゴミを捨てるかのようにカナの足元に向かって放り投げた。
ドサッと地面に転がった“それ”を改めて間近で目にした瞬間、その場にいた誰もが表情を歪ませ、思わず目を逸らした。
まるで気が抜けたように膝を着くカナ。
そばにいた瞬平も、その状況に自分の目を疑っていた。
足元に転がる“それ”は、カナにとっても瞬平にとっても特別な存在だった。
瀬名大和——ヤマト。
まるで糸の切れたマリオネットのように、無残な姿で現れたヤマトの詰襟の白服は、自身の血で真っ赤に染まっていた。
「首元を食い千切ってやったんだ。即死だったぜ!」
血の滲んだ牙を見せながら得意げに言い放つグレンデル。その姿に誰もが憎悪を感じていた。
「貴様……。よくも……、よくもヤマトを!!」
心の中で“真っ黒いなにか”が生まれるのを感じながら、カナは怒りに任せて叫んだ。
「それでいい! その憎しみのまま、俺に挑んでこい! それで俺の悲願が達成される!」
「ファントム・グレンデル! 幼きシオリ・カナに目をつけ、今日まで彼女に付きまとう理由はなんだ? 一体なにを企んでいる?」
話に割り込むように、唐突に質問を投げかけたのはフィリップだった。
「閲覧したシオリ・カナの記憶に、度々お前の存在がちらついていたが、その目的まではわからなかった。……さあ、答えてもらおうか。財団Xのメンバーに成り済ましてまで、彼女に執着する理由を!」
「財団Xのメンバー? どういうこと!?」
フィリップの発言に思わず冷静さを取り戻したカナが、呆気にとられた表情で聞き返す。
質問に答えたのは翔太郎だった。
「相棒の言葉通りさ。奴は財団Xのメンバー、それもアンタの身近な人物に化けて、ずっとアンタを監視——いや、誘導していたのさ。自分の都合のいいように……。だろ? 財団Xサザル!」
「ご名答! まさにその通りだよ、風都の探偵」
そう言ったグレンデルの姿は、一瞬にして筋肉質な男の姿へと変化した。
その姿はまさにシオリ・カナの部下であったサザルそのものである。
「うそ……。そんな……。サザルの正体があのファントム……」
突然の衝撃の事実に、カナの思考は混乱を極めた。
最も信頼していた部下の一人が実は両親の仇で、そうとは知らずにずっと自分の傍に仕えさせてきた。
その結果、もっと大切な部下を死に至らしめてしまった。
「あ……ああ……」
次々に突きつけられる事実に、カナはたまらず両手で頭を抱え、悲痛な声を漏らした。
「栞さん!」
すぐさま瞬平が駆け寄ると、カナの震える肩をそっと抱きしめる。
サザルはいやらしい笑みを浮かべながら、その様子を楽しそうに眺めていた。
「いいねぇ、その悲愴に満ちた表情。一気に押し寄せたショックに心が押し潰されそうになっている。こうでなくっちゃ、俺の長年の苦労は報われないってもんだ!」
「なんて奴なの……」
「初めて会った時から気に食わねぇ奴だと思っていたが、ここまでの糞野郎だったとはなぁ……」
サザルの悪辣な態度に、この場にいる誰もが不快感を露にしていた。
「彼女をここまで追い詰めて、お前の目的はなんなんだ!?」
未だにフィリップの問いに答えないサザルに、今度は晴人が質問を投げかける。
「ああ、簡単なことだよ。俺の目的は、ファントムの社会を作ることだ」
「ファントムの社会?」
「そうだ。笛木奏——ワイズマンなんてニセモノのファントムが統括していた偽りだらけの社会とはワケが違う! 俺が目指すのは、俺がこれから誕生させる“女帝”に支配された完璧なファントムだけの世界! そして、その社会の頂点に君臨する“女帝”を宿したゲートこそが、そこにいる女というわけだ!」
高らかにそう言いながら、サザルは眼前のシオリ・カナを指差した。
- 七十八. グレンデルの正体2 ( No.86 )
- 日時: 2016/07/27 02:52
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)
「栞さんが……ゲート? うそだ! 栞さんは幼い頃、お前に両親を殺されたんだ。それで絶望したけど、栞さんはファントムを生み出さなかったはずだ!」
サザルの言葉を否定するように、瞬平は必死に叫んだ。しかし、
「たしかに、あの時“女帝”は生まれなかった。だけどその女は間違いなくゲートだ。俺には魔力を持ったゲートを見極める能力があるからな。あのメデューサとかいう小娘と同じように……。そしてあの時、その女は間違いなく絶望していた」
「じゃあなぜファントムが生まれなかったんだ!?」
と、晴人が問う。
「“女帝”を生み出すには特殊な順序が必要なのさ。「四つの絶望が魔の蛇を解き放つ」。古より伝わる言葉だ。この言葉の通り、“女帝”を宿したゲートに四つの絶望を与えれば、封印が解かれて“女帝”がこの世に降誕する。そのために俺は、15年も前から準備を進めてきたんだ!」
「15年前……。つまり……私の両親を殺したのも……その“女帝”を生み出すためだったってこと……?」
膝を着き、顔を俯かせたまま、呟くようにカナは問いかけた。
「そうだ! あれが一度目の絶望だった。そして二度目は……わかるだろ? そこに転がっているお前の哀れな部下、ヤマトの死だ!」
サザルが邪悪な笑みを浮かべながらそう言った途端、カナは怒りのままに顔を上げてキッとサザルを睨みつけた。
「ヤマトはずっと昔から、お前のことを気にかけていたよなぁ。よっぽどお前のことが好きだったんだろう。お前も奴の好意には気付いていたはずだが、どういうわけか一定の距離を保ち続けていた。まあ、そんなことは俺にとってはどうでもいい話だが……。俺にとって大事なのは、お前もしっかりとヤマトに対して好意を持っていたということだ。他者に対する感情なんてのは、隠そうとしても隠し切れるモンじゃないからな。そしてそれを把握できたことで、俺の計画の前進はまた一歩約束されたようなものだった。お前が好意を持ったものを潰せば、お前は絶望するだろう?」
「……たしかに私は……ヤマトのことが好きだった……。でも……、そのせいでヤマトが……」
サザルの心を抉るような言葉を受けて、耐え切れなくなったカナの瞳には大粒の涙が溢れていた。
「俺の予想はやはり正しかったようだ。シオリ・カナ、お前は今、確実に絶望しているな! 二度目の絶望だ! ……そしてあと二回。残り二つの絶望も、すぐにお前の心に注ぎ込んでやる!」
「そんなことさせるかよ!」
絶望に駆られるカナを嘲笑うサザルの姿に、ついに辛抱できなくなった晴人が咄嗟にウィザーソードガン・ガンモードを撃ち放った。
連続で撃ち出される銀色の弾丸を、サザルは生身の身体で受け止めた。
サザルの着ている詰襟の白服が、見る見るうちに真っ黒い血の色に染まっていく。
しかし、当のサザルは平然とした顔で言い放つ。
「俺は並のファントムとは違うんだ! 簡単に倒せると思うなよ!」
次の瞬間、サザルの姿は再びグレンデルへと変わる。
「“女帝”の誕生には、やはりそれらしい場所が必要だな。……シオリ・カナ、俺が憎ければこのビルの屋上に上がって来い。そこで全てを終わらせ、新たに始めようじゃないか!」
グレンデルはそう言って、霧のように姿を消した。
グレンデルが去った後、地面の上に横たわったヤマトの死体を、カナは無言のままジッと見つめていた。
脳裏にフラッシュバックするのは、生前のヤマトの笑顔。
どんな時でも、ヤマトは私のために尽くしてくれていた。
どんな無茶な頼みでも、ヤマトは笑顔で応えてくれた。
最初は無意識だったのかもしれないが、途中からハッキリと自覚していた。
私は、ヤマトの笑顔に惹かれていたんだと。
結局、私はヤマトの好意を最後まで利用し続けてきた。
利用するだけして、最後にはその命まで奪ってしまった。
彼に応えなければいけなかったのは私の方なのに……。
私と出会ってしまったばっかりに、ヤマトは死んでしまった。
私が殺したも同然だ……。
でも、だからこそせめて、彼の弔いのためにも、私の過去からの因縁であるグレンデルだけは……必ず。
「待ってて、ヤマト。あのファントム——グレンデルだけは私の手で必ず倒す」
両膝を地面に着いて、ヤマトの頭をそっと撫でながらシオリ・カナは決意していた。
ファントム・グレンデルの打倒を。
カナはスッと立ち上がると、背後に控えていた晴人達の方に視線を向けた。
ふと、カナの脳裏にある記憶が蘇る。
それは、かつて幼い頃に見ていたテレビアニメ「ウィッチちゃん」のワンシーンだった。
主人公のウィッチちゃんとある男の子、そしてウィッチちゃんの肩にいつも乗っている小さな白ウサギ・マロンの会話。
『じゃあ、ウィッチちゃんは自分が困ったとき、一体どうするの?』
『ん〜とね。その時は、大きな声で皆を呼んで、皆に助けてもらうよ!』
『そうそう!ボク達は皆一人では生きられないんだ。時に助けて、時に助けてもらって。そんなふうに皆で生きていくんだ!』
カナにとって、それは大人になっても忘れられないほど印象深いシーンだった。
「「大きな声で皆を呼んで——」……か」
カナはテレビの中でウィッチちゃんが言っていた言葉を、誰にも聞き取れないほどの声で呟くように復唱すると、熱い眼差しを向けながら晴人達に頭を下げた。
そして声を大にして言い放つ。
「お願いします! こんなこと、頼める立場じゃないのは十分すぎるほどわかっている! わかっている上で貴方達にお願いしたい! あのファントム——グレンデルを倒すために、私に力を貸してください!」
カナは理解していた。
ウィザードに勝てなかった今のサクセサーの力で、グレンデルに勝つことなど100%不可能だということを。
「僕からもお願いします、晴人さん! あのファントムは栞さんの両親の仇で、今となっては大和さんの仇でもあるんです! どうか栞さんに、アイツを倒すための力を貸してあげてください!」
深々と頭を下げるカナの姿を見た瞬平も、続けて頭を下げてきた。
その様を目の当たりにした晴人の返事は即答だった。
「ああ、わかったよ。俺もあのファントムは放っておけない。協力して一緒に戦おう」
「勿論、俺達も力を貸すぜ! なあ、フィリップ?」
「ああ。奴にはまだ聞きたいこともある。それに、奴の罪は重すぎる」
「俺も行くぜ! あの野郎にはでかい借りがあるからな。食わねぇと俺の気がすまねぇ!」
翔太郎にフィリップ、攻介も快く協力に賛同してくれた。
「皆……本当にありがとう。本当に……感謝します!」
その様子に感激したカナは、もう一度深く頭を下げて感謝の気持ちを表すのだった。
「良かったですね、栞さん。皆さんが協力してくれて」
瞬平も嬉しそうな表情で、ホッと胸を撫で下ろした。
- 七十九. 摩天楼へ ( No.87 )
- 日時: 2016/08/23 16:43
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)
打倒グレンデルのため、仮面ライダーウィザード——操真晴人、仮面ライダーダブル——左 翔太郎とフィリップ、仮面ライダービースト——仁藤攻介の同行が決定した。
サクセサー——シオリ・カナを含め、四人の戦士が戦いに挑むことになる。
決戦の場であるラボ施設の高層ビル、その屋上へ向かうため各々が支度をしていると、突然シオリ・カナが切り出した。
「戦えない者は、ここに残った方が良いわ」
「栞さん?」
カナの言葉に非戦闘要員である瞬平を始め、大門凛子、野座間友子、ジェイクが思わず動きを止めた。
「あのファントム——グレンデルは強敵よ。きっと激しい戦いになる。そんな場所に付いて来れば必ず巻き込まれることになるわ」
「栞さん、でも……」
「これは何より貴方のために言っていることなのよ、瞬平。サザル——いえ、グレンデルはこれまで私を絶望させるために、私の大切なものを奪ってきた。もし奴が私の大切なものを全て把握しているのなら、間違いなく貴方の命を狙ってくるはずよ。だからここにいて、お願いだから。瞬平」
「栞さん……」
「貴方達もよ。高校生や刑事が行ったって足手纏いにしかならないでしょ?」
凛子や友子達に対するカナの物言いは、瞬平の時と比べて若干の冷たさを孕んでいた。
「そうっスね……。身の安全のためにも、俺らはここで待ってた方が——」
「私……行きます」
肩を窄めながら言うジェイクの言葉を遮るように友子が言い放つ。
「ちょっ、友子ちゃん!?」
「私達、仮面ライダー部なんです。今までも危険な状況にはいっぱい遭ってきました。でも、それに背を向けたことはありません。弦太郎さんは私達のこと「足手纏い」なんて一度も言わなかったから……」
「なにが言いたいの?」
「私達にも仮面ライダー部としてのプライドがあるんです。それに、ここにいる人達皆、やらなきゃいけないことがあるからここにいるんだと思います。私達にもそれがあるから、だから付いて行きます!」
「この子達ことは私が命に代えても守ります。市民を守るのも、事件を追うのも警察の役目だから」
友子に続いて、凛子も主張を繰り出す。
友子には仮面ライダー部として、凛子には警察として、それぞれ最後まで事件を見届ける義務があり、二人とも当然引き下がるつもりはなかった。
二人の熱い視線を目の当たりにしたカナは、一瞬言葉を失うと、ため息交じりで口を開いた。
「そう……。だったら好きにしなさい。貴方達の行動を強制する権利なんて私にはないものね……。だけど瞬平、貴方だけは——」
「僕も行きます!」
そう言った瞬平の視線もまた、友子や凛子と同様に熱く真っ直ぐ決意の込められたものだった。
カナは思い出していた。
瞬平もまた、一度こうだと決めたら、なかなか信念を曲げない男だったということを。
「……わかったわ。もうなにも言わない。確かに、貴方一人ここに置いて行けば、それこそ護りようがないものね。なら一緒に付いて来て。貴方のことは私が守る」
「はいっ!」
半分呆れながらも、笑顔で引き下がったカナの言葉に、瞬平は気持ち良いほどの返事を返した。
こうして、ここにいる者達全員でグレンデルが待つ屋上へ向かうことが決定した。
「えっ? うそ? これって俺も行く流れ?」
一人、納得していないジェイクが戸惑いを隠せずにいるのは言うまでもない。
支度を終えた九人はビルの内部へと乗り込み、屋上に繋がる直通エレベーターへ向かった。
道中、施設内に人の気配が全く無いことを改めて感じたカナは、これもグレンデルの仕業なんだとようやく理解した。
部下のスタッフや研究員達の姿が一切見えないのは、ヤマト同様、グレンデルが一人残らず始末したということだ。
自分のせいで沢山の命が失われてしまった。
悔やんでも悔やみきれない気持ちに、またしても心が押し潰されそうになったが、今は立ち止まっている時ではない。
必死に溢れる気持ちを押さえ込みながら、カナは力強く踏みしめた。
駆ける足を弱めることなく、真っ直ぐと目的地を目指して走り続けた。
カナの案内でたどり着いた直通エレベーターの扉が開き、九人は迷うことなくそれに乗り込んだ。
扉が閉まり、エレベーターは屋上へ向かって勢いよく上昇していく。
数分後、停止したエレベーターの扉が再び開き、九人の眼に映ったのは巨大なヘリポートとそこに佇むサザルの姿だった。
サザルは「待ち兼ねた」と言わんばかりに不気味な笑みを浮かべていた。
屋上にたどり着いた九人はヘリポートに上がる。
そこは70階の超高層ビルの屋上。
街全体を一望できるほどの絶景だったが、あいにく空はどんよりとした雷雲に覆われ、雨脚も地上にいた時よりも酷くなっていた。
まるでミニチュアのようにも見える周囲のビル群のバックで轟く雷が、この後の不安な展開を暗示しているようだった。
ヘリポートに上がった九人のうち、操真晴人、左 翔太郎とフィリップ、仁藤攻介、そしてシオリ・カナはさらに数歩前に出ると、本格的にサザルと対峙した。
「良いねぇ。良い眼をしているぜ。この俺を殺したくてたまらないって面をしているぜ。そうだろ? 主任殿」
憎しみの感情で眼差しを向けるカナの姿に、サザルは歓喜した。
「黙れ! もうお前に、主任なんて呼ばれる筋合いは無い!」
「そうだな。これからは“女帝”様と呼ばないとな」
「ふざけるな!」
サザルの癇に障る態度を前に、カナは思わず声を荒げる。
「ふざけてなんかいねぇさ。なにしろ、俺ほどお前を気にかける奴は他にいないからな」
「何を言って——」
「15年前のあの日から、俺はずっとお前を見ていた。どんな時でも、四六時中な。お前がいつも前髪に付けているその髪飾り。お前はそいつを親の形見だとでも思っていただろうが、実はそうじゃねぇ。そいつは俺が自分の牙を使って作った発信機みたいなモノさ。そいつを身に付けている限り、どんなに離れていても俺はお前の行動を全て把握できていたんだ。そうとは知らずに、いつも大事そうにそいつを持ち歩くお前の姿は、実に滑稽だったがな」
人を馬鹿にするような笑みを浮かべながら、サザルは楽しそうに語った。
両親の形見だと信じてずっと持ち続けていた紫の花のヘアピン。それすらもサザル——ファントム・グレンデルの計画の一部でしかなかった。
その事実に、カナは言葉を失い、激しい喪失感に襲われた。
しかし、すぐに沸々とこみ上げてくるのは、これまでに感じたことの無いほどの怒りと憎しみだった。
激昂したカナは、前髪を引き千切るように怒りに任せてヘアピンを外し、思いっきりヘリポートの上に叩き付けた。そして懐から取り出したサクセサーのベルトを、荒々しく腰に装着した。
「俺達も行こう!」
晴人の言葉を合図に、翔太郎とフィリップ、攻介も遅れてベルトを腰に装着した。
『シャバドゥビタッチヘンシーン、シャバドゥビタッチヘンシーン——』
『サイクロン!』
『ジョーカー!』
ウィザードライバーの待機音声が鳴り響く中、晴人と攻介は左手の中指に変身用の指輪をはめ込み、翔太郎とフィリップはそれぞれガイアメモリを起動させる。
五人は息を合わせるように一度深く深呼吸すると、一斉に力強く叫んだ。
「「「「「変身!!」」」」」
『メモリー! リべレーション!』
『フレイム・ドラゴン ボォー、ボォー、ボォーボォーボォー!』
『サイクロン・ジョーカー!』
『L・I・O・Nライオーン!』
神秘の力を身に纏い、四人の戦士が姿を現した。
仮面ライダーサクセサー。
仮面ライダーウィザード・フレイムドラゴン。
仮面ライダーダブル・サイクロンジョーカー。
仮面ライダービースト。
四人は一斉に構えると、サザル目掛けて勢いよく駆け出した。
- 八十. グレンデルvs四大ライダー ( No.88 )
- 日時: 2016/09/29 00:06
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: z6zuk1Ot)
「さあ、ショータイムだ!」
四人の仮面ライダーは目の前の敵を目指して疾走する。
その背後では気を失い、倒れ伏すフィリップの身体を凛子が支えていた。
今、フィリップの意識と魂は相棒である左 翔太郎の肉体に同化している。
翔太郎の身体にフィリップの心が合わさる事で誕生する戦士、それが仮面ライダーダブルなのだ。
「良いぜ。かかってきな!」
待ち構えるサザルはその肉体をファントム・グレンデルの姿へと変化させると、両手の鋭い爪を立てて牙を鈍く光らせた。
先制攻撃を仕掛けたのはサクセサーとウィザードだった。
走りながら、サクセサーは魔法の杖のような形状をした小振りのメイスを、ウィザードはウィザーソードガン・ソードモードをその手に出現させ、二人は同時にグレンデルに斬りかかった。
グレンデルは接近する二つの刀身をその両手で軽々と受け止めると、ニヤリと余裕の笑みを浮かべた。
「残念。力不足だ!」
まるで相手を弄ぶかのような態度を見せながら、次の瞬間、グレンデルは両手の鋭い爪でサクセサーとウィザードのボディを切り裂いた。
「ぐわぁああっ……」
「きゃぁああああ……」
裂かれた箇所から火花を散らしながら、背後に大きく吹き飛んだサクセサーとウィザードは、そのままバランスを崩しヘリポートの上を転がった。
「晴人君!」
「栞さん!」
二人を心配する凛子と瞬平の叫び声が響く中、今度はダブルとビーストが攻撃を仕掛ける。
風を纏ったダブルの連続蹴りが空を切り、ビーストのダイスサーベルがグレンデルの肉体に突き立てられる。
しかし、それらの攻撃すらもグレンデルはいとも容易く防御して見せた。
時にはその豪腕で弾き、時にはその巨体からは想像できないほどの俊敏さで回避した。
いずれの攻撃も手加減抜きの全力攻撃だったが、グレンデルに届いた攻撃は残念ながら一発もなかった。
「今度はこちらから行くぞ!」
そう言ったグレンデルは、ダブルとビーストから軽く距離を取ると、狼のような巨大な口をガバっと大きく開けた。
次の瞬間、綺麗に生え揃った鋭い牙がまるでマシンガンの弾丸のように連続で射出された。
「「ぐはぁああっ……」」
「のわぁあああ〜……」
嵐のように激しく降り注ぐ牙の弾丸を浴びたダブルとビーストもまた、その猛攻に膝を着いてしまう。
「どうした? まさかもう終わりか?」
動きを止めた相手を前に嘲笑するグレンデル。
するとその時、
「まさか——」
『テレポート・プリーズ』
「——そんな訳ないだろう!」
唐突に二箇所から、ウィザード——操真晴人の声が聞こえてきた。
最初は前方(正確には視界から少し離れた右斜め前)から聞こえてきた声だったが、言葉が言い終わる頃には、その声は何故か背後から聞こえていた。
グレンデルがすぐさま声の聞こえた方に振り向くと、そこには瞬間移動を可能にするワープホールを使ってグレンデルの死角——背後に回りこんだウィザード・フレイムドラゴンの姿があった。
「いつの間に……」
「よそ見してんじゃないわよ!」
さらに背後から、今度はサクセサー——シオリ・カナの声が聞こえてくる。
いつの間にか、グレンデルはサクセサーとウィザードに前と後ろから挟まれる格好となっていた。
『チョーイイネ! スペシャル! サイコー!』
「“虹色の炎”」
『アビリティー・マジカルファイアー』
ウィザードは胸部に具現化させたウィザードラゴンの頭部——ドラゴスカルから灼熱の炎を放射し、サクセサーは掌に展開した魔法陣から虹色の火炎弾を発射した。
二つの炎は真っ直ぐとグレンデル目掛けて飛んでいく。
が、しかし、挟み撃ちにされたグレンデルの顔色は何一つ変わってはいなかった。
「ふん!」
サクセサーとウィザードの攻撃を馬鹿にするように鼻で笑うと、グレンデルは自慢の脚力で真上に跳躍した。
驚異的なジャンプで二方向から飛んでくる二つの炎の軌道から逸れるグレンデル。
目標を失った二つの炎は、宙を舞うグレンデルの足下でぶつかり合い、無意味に爆発して消滅した。
ヘリポート全体を見渡せる高度まで跳躍したグレンデルは、下から自分を見上げているサクセサーとウィザードに向かって両掌をかざした。
グレンデルの左右の掌から放たれたのは魔力を圧縮した波動弾。
防御する間もなくそれを受けたサクセサーとウィザードは、その衝撃に成す術無くヘリポートの上に平伏した。
その様を滑稽に感じながら、足場に向かって降下するグレンデル。
しかし今度は、
『ファルコ! GO! ファ・ファ・ファ・ファルコ!』
右肩にファルコマントを装着したビーストが、凄まじいスピードでミサイルの如く突進を仕掛けてきた。
「おりゃあああぁぁ!!」
「なにぃ!?」
空中で身動きの取れないグレンデルに、ビーストの斬撃がヒットした。
「ちぃいい!」
体勢を崩したグレンデルの巨体がヘリポートの上に激しく叩きつけられた。
初めてダメージらしいダメージを与えることに成功したビーストが、「どんなもんだ」と言わんばかりに横柄な態度を見せながらヘリポート上に着地した。
「チャンスだ! 一気に畳み掛けるぜ!」
この機を逃すまいと、気合い十分のダブルが左手首を回し、すかさずベルトに装填されたガイアメモリを入れ替えた。
『トリガー!』
『サイクロン・トリガー!』
ダブルの左半身が青色に変化し、左胸部に専用銃トリガーマグナムが携行される。
風の弾丸で敵を射抜くダブルの特殊形態、仮面ライダーダブル・サイクロントリガーへとハーフチェンジを果たす。
ダブルはトリガーマグナムを手に取ると、体勢を立て直そうとするグレンデル目掛けて風を纏った弾丸を連射した。
ダブル・サイクロントリガーの最大の特徴は、風の力で向上された連射能力。
その連射能力を活かしたトリガーマグナムの銃撃がグレンデルの動きを牽制する。
連射能力が高い反面、一発の威力と命中率が低下してしまうのがサイクロントリガーの欠点ではあったが、ダブル自身、この攻撃でグレンデルに決定打を与えられるとは微塵も思っていなかった。
この攻撃、その目的は相手の自由を奪い、こちら側の反撃の準備を整えること。
そしてその意図を阿吽の呼吸で読み取ったサクセサーとウィザードがすぐさま攻撃に動いた。
『ハリケーン・ドラゴン ビュービュービュビュビュビュー!』
ウィザードは緑色の魔法陣を潜り抜け、フレイムドラゴンから風属性のハリケーンドラゴンへと変化した。
ウィザード・ハリケーンドラゴンはウィザーソードガンをガンモードに変形させると、“コピー”の魔法を使ってそれを複製し、二丁拳銃のスタイルを取った。
『ハリケーン・シューティングストライク!』
『ハリケーン・シューティングストライク!』
ウィザードは両手の二丁のウィザーソードガン・ガンモードのハンドオーサーに指輪をかざし、風の魔力を注入する。
「俺達も派手にぶっ放すぜ! フィリップ!」
「ああ!」
『サイクロン・マキシマムドライブ!』
心と身体、互いに息を合わせる翔太郎とフィリップ。
ダブルはトリガーマグナムのメモリスロットに緑色のガイアメモリ——サイクロンメモリを装填し、銃身を持ち上げてトリガーマグナムをマキシマムモードに変形させた。
「「トリガーエアロバスター!!」」
エネルギーがチャージされたトリガーマグナムの銃口が、ゆっくりとグレンデルに向けられる。
「これで終わりよ! “竜人の刃”!!」
『アビリティー・バハムートマジック』
ダブルがトリガーマグナムを構え、ウィザードが二丁のウィザーソードガンで狙いを定める中、サクセサーもまた、その手に握られたメイスに魔力を集中させる。
瞬平や凛子、友子やジェイク、そしてビーストが見守る中、三人はグレンデル目掛けて渾身の一撃を解き放った。
ダブルがトリガーマグナム、ウィザードが二丁のウィザーソードガンの引き金を引き、合計三発の暴風のように吹き荒れる竜巻の弾丸を発射した。
同時にサクセサーはメイスを思いっきりの力で振り下ろし、三日月形の光の刃を飛ばした。
光刃と三発の竜巻の弾丸はほとんど同じスピードで真っ直ぐと飛んでいき、動きに戸惑いを見せるグレンデルに見事命中、直撃した。
「ギャァアアアア……!!!」
刹那に起きた爆発にグレンデルの姿は消え失せ、爆炎と雨脚の中で立ち上る黒煙だけが、戦士達の眼に映っていた。
「やった……、やったぁ! やりましたねっ、栞さん!」
グレンデルの姿が消え、四人のライダーが暫くの間呆然と立ち尽くしている中、真っ先に喜びの声を上げたのは瞬平だった。
その声に振り向いたサクセサーは、コクッと頷き、小さく声を上げた。
「ええ……。やった……」
長年追い求めた両親の仇の消滅。その現実を、サクセサー——シオリ・カナがまだすぐには受け止め切れていない事を、瞬平は彼女の声からすぐに悟った。
無理もない。
15年間、彼女の人生に寄生虫のように纏わり付き続けた絶望の象徴とも言うべき存在がたった今、この世から消えたのだから。
今この時、この瞬間から、きっとシオリ・カナの人生はまったく別のものなるはずだ。
足枷のない、明るい未来がきっとそこに。
「いや、絶望は終わらねぇ!」
その場にいた全員が、安堵に胸を撫で下ろしていたのも束の間だった。
黒煙の中から現れたのは、紛れもなく“奴”だった。
- 八十一. 絶望溢れ出る時1 ( No.89 )
- 日時: 2016/10/17 23:56
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: xyOqXR/L)
晴れつつある黒煙の中から、再びその醜悪な姿を見せたファントム・グレンデル。
この場に立ち尽くす者全員が、その光景を目の当たりにし言葉を失った。
渾身の力を込めたさっきの攻撃は直撃だったはず。
手ごたえはしっかりと感じていたはずなのに。
サクセサーを始め、ウィザードもダブルも、今の同時攻撃に確かに勝利を確信していた。
していたはず、だったのに。
「そんな……。うそ、うそでしょ!?」
うっすらと残る黒煙と徐々に強まっていく雨脚の中で、不気味に揺れるグレンデルの姿を前に、思わず後退りしてしまうサクセサー。
「フィリップ、一体どうなってんだよコイツは? 俺達の攻撃の威力が足りなかったってことなのか?」
「わからない。だが奴は、あのファントム・グレンデルは、まだ僕らを相手に実力の全てを発揮してはいないようだ……」
翔太郎の問いかけに対し、フィリップは珍しく言葉を詰まらせる。
あまりにも突然の展開に、さすがのフィリップも考察・検索が追いついていないようだった。
「この俺をそう簡単に倒せると思ったか? 考えが甘かったな。俺は笛木のサバトから生まれた今時のファントムとは違うんだよ。知恵も魔力も腕っ節も、何もかもな!」
したり顔で言い放ったグレンデルは、次の瞬間、凄まじい瞬発力で一瞬にしてサクセサーとの間合いを詰めた。
その驚異的な駿足はまさに瞬間移動の域。
動作はまるで縮地のようだった。
完全にサクセサーの懐に入り込んだグレンデル。
そのことにサクセサーが気がついた時には、既にグレンデルの巨大な手は、サクセサーの腰に装着された機械仕掛けのベルトを捕らえていた。
「なっ……!?」
サクセサーが戸惑う中、グレンデルはベルトを掴んだ手を乱暴に躊躇いなく引き戻した。
刹那、ベルトはサクセサーの身体から引き剥がされた。
ベルトがその細い身体から離れた瞬間、サクセサーの鎧は光の粒子となって消滅し、変身を強制解除させられたシオリ・カナはその場に尻餅をついて倒れこんだ。
「栞さん!!」
カナの安否を気遣う瞬平がすぐさま呼び掛ける。
「まずいっ!」
ウィザードもまた、カナの危機を救うべく誰よりも先に走り出していた。
しかし、ウィザードがカナとグレンデルの元にたどり着くよりも前に、グレンデルはサクセサーのベルトを握り締めたその手に一瞬力強く握力を加えた。
その瞬間、サクセサーのベルトに亀裂が走る。
「やめ——」
カナの絶叫が今まさに、この摩天楼に轟こうとした次の瞬間、サクセサーのベルトはグレンデルの掌の中で砕け散り、ただの鉄の残骸となって崩れ落ちた。
「あ…ああ……」
瞳に涙を溢れさせたまま唖然とした表情のカナの眼前で、鉄屑と化したサクセサーのベルトの破片がバラバラと音を立てて零れ落ちていく。
その光景はまさに、シオリ・カナの今の心境そのもののようだった。
長い時間を掛けてようやく完成させたジグソーパズルが散らばるように、人生の全てを掛けてようやく一つの完成系にまでしたサクセサーのベルトが無残に破壊されていく。
同じようにカナの心の中で今、何かが音を立てて崩壊しようとしていた。
心の中の大事な部分を守護する殻のようなものが剥がれ落ち、内側からどす黒い別の何かがグツグツと溢れ出ようとしていた。
頭の中が真っ白になり、すっかり身動きが取れなくなってしまったカナに、グレンデルはさらに卑劣な言葉を掛ける。
「魔法使いに憧れていたお前にとって、あのベルトはお前の人生そのものだったよなぁ! そいつを目の前でスクラップにされりゃあ間違いなく絶望するだろう? これで三度目だ! 後一回。間もなくお前は、最強のファントム——ファントムの社会を牛耳る“女帝”へと生まれ変わるんだ!」
「そんなこと、絶対にさせるかよ!」
グレンデルの背後から、突如ウィザード・ハリケーンドラゴンが斬りかかる。
逆手に持った二振りのウィザーソードガン・ソードモードのうちの一振りの刃を頭上から振り下ろす。
気配をすかさず感知したグレンデルは、刃を強靭な皮膚で覆われた腕で受け止めると、カウンター気味に強力なパンチを叩き込んだ。
「ぐはっ!」
グレンデルの巨大な拳を顔面で受けてしまい、背後に大きく吹き飛ぶウィザード。
しかし、すかさず全身に緑の風を纏うと、空中で身体を半回転させて体勢を立て直し、ゆっくりと両足で着地した。
そしてすぐさま左手の指輪を入れ替えてベルトにかざす。
『ランド・ドラゴン ダンデンドンズドゴーン!ダンデンドゴーン!』
魔法陣を潜り抜け、ウィザードは地の属性ランドドラゴンへと姿を変えた。
『バインド・プリーズ』
ウィザード・ランドドラゴンは拘束魔法を発動。
グレンデルを取り囲むように周囲に展開された幾つかの魔法陣から伸びた土状の鎖が、一斉にグレンデルに襲い掛かる。
「こざかしいっ!」
グレンデルはキックやパンチを駆使してそれらを振り払うが、さすがに全ての鎖を防ぐことは難しく、二本の土の鎖がグレンデルの左腕と胴体に巻きついた。
これまでほとんど縦横無尽な行動を見せていたグレンデルの自由を、ようやく制限することに成功した。かのように思えた。
『ルナ!』
『ルナ・トリガー!』
右半身を金色に変えたダブル・ルナトリガーがトリガーマグナムを構え、追尾能力を持った光弾を連射。追撃を図る。
しかし、グレンデルは右手の鋭い爪で左腕に巻きついた土の鎖を切断すると、両手の怪力で胴体に巻きついた鎖をあっさりと粉砕して見せた。
そして、命中寸前だった追尾弾を片手で退けると、ダブル目掛けて口内の牙を射出した。
『ジョーカー!』
『ルナ・ジョーカー!』
ダブルは今度は左半身を黒色に変化させ、ダブル・ルナジョーカーにハーフチェンジ。
飛来する無数の牙を、伸縮自在の右腕を鞭のようにしならせて叩き落としていく。
『バッファ! GO! バッバ・バ・バ・バ・バッファ!』
「この野郎! さっさとキマイラの餌になりやがれぇ!」
ダブルを攻撃するグレンデルに、今度はビーストが仕掛ける。
右肩のマントを怪力を司るバッファマントに交換すると、バッファローの頭部を模した右肩アーマーを突き出し、勢い良く突進した。
グレンデルはダブルへの攻撃を中断すると、迫り来るビーストの突進攻撃を両手で受け止めた。
その衝撃に、多少元いた場所からずれ動いたものの、グレンデルの巨体を突き飛ばすまでには至らなかった。
「言ったろ? 力不足なんだよ、お前らは!」
グレンデルは嘲笑うようにそう言い放つと、唐突にビーストの顔面を殴り、よろめいたところでビーストの胸部を二度三度切り裂いた。
「うわっ……いってぇ〜……!」
グレンデルの攻撃に圧倒されたビーストは、思わずその場に倒れこんだ。
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