二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 仮面ライダーウィザード〜終幕の先〜【完結】
- 日時: 2017/04/15 00:31
- 名前: 裕 ◆.FlbxpLDSk (ID: XGjQjN8n)
こちらでは初めて投稿させていただきます、裕と申します。
今回はこの場を借りて、平成仮面ライダーシリーズ第二期から
「仮面ライダーウィザード」の物語を積み上げてみたいと思います。
個人的解釈としましては、第二期である「ダブル」〜「鎧武」までの作品は、同じ世界観だと思って見ております。なので、今回の物語もそれに沿った流れで書いていこうと思います。それに伴い、第二期各作品(劇場版)の設定も拝借する予定です。
物語の時間軸は「ウィザード」本編の最終回後、さらに言えば冬の映画「戦国MOVIE大合戦」の後の話だと思っていただけると幸いです。
ではでは。
〜登場人物〜
・魔法使いとその関係者
操真晴人=仮面ライダーウィザード
仁藤攻介=仮面ライダービースト
稲森真由=仮面ライダーメイジ
奈良瞬平
大門凛子(国安ゼロ課・刑事)
木崎政範(国安ゼロ課・警視)
ドーナツ屋はんぐり〜・店長
ドーナツ屋はんぐり〜・店員
・財団X
シオリ・カナ(栞 可奈)=仮面ライダーサクセサー
ヤマト=メモリー・ドーパント
ネオン・ウルスランド(局長)
・宇宙仮面ライダー部
野座間友子
ジェイク(神宮海蔵)
仮面ライダーフォーゼ
・鳴海探偵事務所
左 翔太郎=仮面ライダーダブル(左サイド)
フィリップ=仮面ライダーダブル(右サイド)
・怪人
サザル=ファントム・グレンデル
ファントム・ラミアー
ファントム・ヘルハウンド(ログ)
ファントム・シルフィ(ログ)
ファントム・バハムート(ログ)
ファントム・メデューサ(ログ)
グール
クロウ・ゾディアーツ
ペルセウス・ゾディアーツ
黒ネコヤミー
オールド・ドーパント
マスカレイド・ドーパント(白服)
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- 二十八. ヤミー ( No.35 )
- 日時: 2014/03/26 07:36
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)
研究所の敷地内を照らす魔法陣の光が、少しずつ弱まっていた。
この場所を訪れてから次から次へと戦いの連続。
四人のマスカレイド・ドーパントを相手にしつつ、オールド・ドーパント、ペルセウス・ゾディアーツとバトル。
そいつ等を倒し、一息ついたと思えば、今度は強敵のクロウ・ゾディアーツが襲い掛かってきた。
やっとの想いでそれを倒し、今度こそ戦いが終わったと思ったら、直後に現れたのがこのサクセサーという鎧の戦士だ。
この連戦を前に、さすがの晴人、ウィザードの魔力もそろそろ虫の息が近そうだった。
これ以上戦闘が長引けば、魔力が途切れて変身が解けてしまう。そうなれば、この場を照らす魔法陣の光も失われ、再び真っ暗闇に覆われてしまう。
いや、それ以上に心配なのは、捜索に向かった凛子と瞬平の護衛役であるプラモンスター達の方だった。
ウィザードの魔力が途切れれば、それを動力源にして動いているプラモンスターの存在も維持できなくなるのだ。
そうなれば、凛子と瞬平は暗闇の森の中に取り残されてしまい、捜索どころではなくなるし、何より彼らの身に及ぶ危険が高まる可能性があった。
これ以上の長期戦は、何のメリットも無いただの消耗戦でしかない。
だが、そんなウィザードの考えとは裏腹に、対するサクセサーは、何度斬撃を浴びせられ、何度押し戻られてもしぶとく立ち上がり、再びウィザードに立ち向かっていくのだった。
「なあ、そろそろ諦めてくれないか?こっちも時間が無いんだ」
ウィザード・フレイムドラゴンは、サクセサーが向かって来るたびにウィザーソードガン・ソードモードで防御と攻撃を繰り返し、彼女を押し返し続けていた。
「諦められるわけないでしょ!私は必ず、貴方に勝たなくてはいけないのよ!」
そう言って、サクセサーは何度も何度もウィザードにぶつかって行った。
“私はサクセサー。貴方を倒して、貴方の後継者になる女よ!”
大切な部下と相対する敵の前で、見栄を張って啖呵を切った以上、無様に引き下がる訳にはいかなかった。
私にも後には引けぬプライドがあるのだ。それが例え、組織には不要な感情で、組織の足を引っ張りかねないとしても。
ウィザードとサクセサーの戦いを、サザルは少し離れた場所で見ていた。
その表情からは苛立ちの感情が見え隠れしていた。
「あのクソガキ・・・、くだらない感情に流されて、全部パァにする気か?それじゃあ困るんだよ。ここで計画を台無しにされちゃあ、俺の15年が水の泡になっちまう・・・」
サザルは手の中にあるセルメダルを一度ギュっと握り締めると、それをサクセサーの背中目掛けて勢い良く投げ込んだ。
ヒュン!
その瞬間、サクセサーの背中に自販機の投入口の様な穴が出現し、そこにチャリンと音を立てて入り込んだ。
「うっ!?」
地面を踏み込み、駆け出そうとしていたサクセサーの足がピタリと止まり、直後に胸を押さえて苦しみだした。
すると、サクセサーの体から、全身包帯模様の不気味な人型の生物が姿を現したのだ。
「サザル・・・、どうしてっ!?くっ・・・ああああああああ!!!」
苦しみが頂点に達し、次の瞬間、包帯模様の生物は分離するかの様にサクセサーの体から離れ、この地に生れ落ちた。
「ウウッ・・・ウゥ〜・・・」
不気味なうめき声を上げながら、包帯模様の生物はその場に立ち上がると、まるで脱皮する様にその皮膚を破り捨てた。
そして、中から出てきたのは、全身真っ黒の猫の怪人だった。
黒ネコヤミー。
全身真っ黒だが、そのフォルムは女性的な特徴を持っていた。両手両足首と胸部は黒い体毛で覆われており、頭部にはネコ耳、腰にはクルッとカーブした長い尻尾が生えていた。首輪と尻尾の先に可愛い音がする銀色の鈴をぶら下げたその姿は、そういう類が好きな者が見れば、萌えだとか言って、うるさく騒ぎそうな愛くるしい外見だった。
「ミャ〜・・・・ミャア!!」
黒ネコヤミーは肉球がついた可愛い両手を構えると、凄まじい跳躍力でウィザードに飛び掛った。
「今度はヤミーか!?本当に次から次へと・・・」
ウィザードは、ウィザーソードガン・ソードモードでそれを迎え撃つ。
「サザル・・・、一体どういうつもり?私からヤミーを作るなんて」
黒ネコヤミーを生み出した反動で脱力したサクセサーは、サザルに近づきながら問いかけた。
セルメダルは、800年以上前、とある国の王に仕えていた錬金術師達が作り上げたオーメダルの一種である。
オーメダルは様々な欲望に結びつく特性があり、セルメダルの力を使えば、人間の欲望を怪物に変えて実体化させることも可能なのだ。
つまり、サクセサーから生まれた黒ネコヤミーは、サクセサー=シオリ・カナの欲望から生まれた怪物である。
「アンタの代打だよ。これ以上主任が戦っても、何の意味も無いだろ。ウィザードの相手はあのヤミーに任せて、俺達は今のうちに撤退するんだ」
「嫌よ!実力でウィザードに勝てないと分かっていても、せめて彼の魔力が切れるまでは時間を稼ぎたいのよ。そうすれば、命を奪わずに彼を拘束できるでしょ!」
本当なら、ここで一度身を引いて、戦力を万全にしてから確実にウィザードを仕留める方が、組織のためにも、自分の計画にとっても最善なのかもしれない。
でも、命を奪わないで済む方法があるのなら、できれば私はそっちを選びたい。たとえその命が敵対相手のものでも。
そんな気持ちが、今のサクセサーを動かしていた。
「アンタも強情だな!いいから来い!」
埒が明かない。そう思ったサザルは、強引にサクセサーの手首を掴んだ。
「いやっ!離して!上司は私よ。言う事を聞きなさい!」
サクセサーはサザルの手を感情任せに振り解いた。そして、再びウィザードの下へ駆け出した。と、その時、
『チョーイイネ!スペシャル サイコー!』
胸部にドラゴスカルを具現化させたウィザードから、必殺の火炎放射が放たれた。
直撃した黒ネコヤミーは、その炎の勢いに乗って背後に押し戻された。
そして、サクセサーの眼前まで飛んでくると、無数のセルメダルで構成された肉体を破裂させて爆発した。
「きゃぁあああああ・・・」
大きな音と炎、爆風がサクセサーを巻き込んだ。
その瞬間、突風が吹き、周囲の木々を激しく揺らし、砂ぼこりを舞い上げた。
サザルは思わず両手で顔を遮った。
ゴオォーという風が吹く音と、チャリチャリンという黒ネコヤミーを構成していたセルメダルが地面に落ちる音だけが、耳に届いていた。
少し経って、周囲が静かになると、サザルは手を下ろして周りを見回した。
視界に入ってきたのは、相変わらずの夜の風景と、正面に立ち尽くしているウィザードの姿だけだった。
ついさっきまで、目の前にいたはずのサクセサー=シオリ・カナの姿が見当たらなかった。
敷地内から完全に消失していた。
- 二十九. 出会い ( No.36 )
- 日時: 2014/03/27 07:21
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)
ウィザードの研究所での戦いはようやく終結をした。
黒ネコヤミーが倒された後、上司のシオリ・カナを見失ってしまった部下のサザルは、暗闇に紛れて
その姿を晦ました。
敵が去り、変身を解除した晴人は、急いで森の中の凛子と合流し、捜索に加わることにした。
捜索自体は思ったよりも順調に進み、一時間ほどで全員見つけ出すことができた。
クロウ・ゾディアーツが空中で爆発した時、上空が明るく照らされたことで、研究所の位置を把握
することができたらしく、若さを取り戻した警官隊達も、自分の足で研究所を目指していたらしい。
何とか無事に、警官隊全員を研究所敷地内に集めることができた晴人達。
捜索も完了し、後は用意しておいたもう一台のワゴン車に乗り、警視庁へ帰還するだけだった。が、
問題が一つ残っていた。
瞬平が戻らなかった。
正確には、瞬平と護衛のプラモンスター、イエロークラーケンが戻らなかった。
ワゴン車に乗った警官隊達を一足先に帰した後、さらに一時間待っても瞬平は戻らなかった。
今度は瞬平が迷子か。と、呆れながら、晴人が携帯電話で連絡を取ろうとしたが、森の中は
あいにくの圏外だった。
代わりにコヨミの水晶玉で、イエロークラーケンの視覚にコンタクトしてみたが、なぜかそれも
繋がらなかった。
晴人の魔力も何とかギリギリ残っているので、イエロークラーケンもまだ存在を維持できているハズ
なのだが。
とりあえず、晴人と凛子は研究所内で休息を取りながら、朝まで待つことにした。
そして朝、
夜が明け、日が昇り、清清しい青空が広がっていた。
しかし、朝まで待っても瞬平が戻ることは無かった。
「瞬平の奴、一体何処まで行ったんだよぉ」
大破した研究所の扉の前で、晴人は呆れ果てていた。
そこへ、部屋の奥から凛子がやって来た。
「ねぇ、晴人君。一度、私達も国安に戻らない?瞬平君も心配だけど、木崎さんに色々報告しなくちゃ」
「そうだね。先に戻った警官隊の人達が、ある程度説明してくれているとは思うけど、俺達も早めに
戻った方がいいかもな」
「そうね」
「まあ、瞬平にはクラーケンが付いているし、多分大丈夫だろ」
こうして、晴人と凛子も一路、国安の木崎が待つ警視庁へ戻ることにした。
瞬平の行方を気掛かりに思いながらも、二人を乗せたスポーツカーは警視庁へ向かって走り出す。
まだ森が暗闇に包まれていた前日の夜に、時間は遡る。
捜索のために凛子と森へ入った後、瞬平に何が起こったのか。
懐中電灯を手に、森に足を踏み入れた直後、凛子と瞬平は別々の方向へ別れて捜索していた。
「瞬平君、私はこっちへ行くから、瞬平君は反対方向をお願い」
「了解です!凛子さん、気をつけてくださいね!」
「瞬平君もね!」
凛子はレッドガルーダとブルーユニコーンを連れて、瞬平はイエロークラーケンを連れてそれぞれ
捜索を開始した。
捜索を始めて暫く経ったが、普段の効率の悪さも相俟って、瞬平はなかなか警官隊を発見することが
できなかった。
心なしか、イエロークラーケンも呆れ顔の表情を見せているようだった。
そんな時、突然、空が激しく光った。
森全体が光に照らされ、奥行が良く見えた。
光は研究所の方からだった。
「晴人さん・・・大丈夫かな」
光が見えた方角を見つめながら、瞬平は呟いた。
イエロークラーケンが瞬平の頭をコツコツと叩く。
ボーっとしてないで、さっさと捜せ。そう言っているように見えた。
「分かってる!分かってるって、もう〜」
イエロークラーケンに急かされながら、瞬平は捜索を続ける。
そうしている間に、空の光は弱まり、やがて消えた。
それからまた暫くして。
捜索を始めてから随分経ったが、未だに瞬平が警官隊を見つけた数は0人だった。
「ちょっとぉ〜、全然見つからないじゃん!君もちゃんと捜してよね」
不満を漏らしながら、瞬平はイエロークラーケンを指でツンツンと突っついた。
お返しと言わんばかりに、今度はイエロークラーケンが、激しく瞬平の頭を叩き返した。
コツコツコツコツ!
「痛いっ!いたたたた・・・」
その光景は、遊んでいるようにしか見えなかった。晴人や凛子が見たら、さぞお怒りだろう。
と、その時、
ゴロゴロゴロ・・・、ドサッ!
近くで物音がした。何かが転がり、木の根元に引っ掛かって止まった音。
「えっ!?な、なに・・・、今の音?」
ビクッと同時に動きを止めた瞬平とイエロークラーケン。
瞬平が恐る恐る、音がした場所を懐中電灯で照らしてみた。
懐中電灯の光に照らされて現れたのは、気を失って倒れている女性の姿だった。
「ええぇ〜!?お、女の子!?どうして、こんなところに・・・」
予想外の出来事に、瞬平は思わず驚き、後退りした。
直後に足が木に引っ掛かり、転倒して尻餅をついてしまう。
白い服を身に纏い、前髪に紫の花のヘアピンを付けた女性。
腰には奇抜な形状の機械のベルトが巻かれていた。
「どうしよう・・・。警官隊の捜索もしなくちゃだけど・・・、この子を放っておく訳には・・・。
そうだ。ねぇ、近くに休めそうなとこが無いか、捜してきてよ。小屋でも川でも何処でもいいから」
瞬平の珍しくまともな指示に答えるべく、イエロークラーケンはフワフワと浮遊しながら、森の
さらに奥へ消えていった。
- 三十. 記憶の夢 ( No.37 )
- 日時: 2014/03/27 19:02
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)
私は夢を見ていた。
幼い頃の思い出を。
私は当時放送していた番組、可愛い魔女の女の子が出てくるアニメが大好きだった。
番組が始まる時間になるとリビングに駆け込み、放送している30分間はずっとテレビに釘付け
になっていた。
話の内容は今でもハッキリと覚えている。
一番印象に残っているのはたしか・・・。
そうだ、あのシーンだ。
たしか主人公の女の子が、怪我をして動けなくなっていた男の子を助けたシーン。
男の子の足にできた大きな擦り傷を、女の子が魔法で綺麗に治してあげたんだ。
男の子は言った。
「いいなぁ〜ウィッチちゃんは。そんなにすごい力があれば、ウィッチちゃんは自分のやりたいこと
を何でもできちゃうね!」
ウィッチちゃん。そう、女の子の名前はウィッチちゃんだった。
番組のタイトルがたしか、「魔女っこキュート・ウィッチちゃん」だったはず。
この歳でこのタイトルを口にすると、なんだか恥ずかしくなってくる。
男の子の言葉に、ウィッチちゃんは首を横に振ってこう返していた。
「ううん。わたしは、この魔法を自分のためには使わないよ。何があっても、絶対に使わないってマロン
と約束しているんだ。約束は守らないとね!」
マロンというのはたしか、いつもウィッチちゃんの肩の上に乗っている白いウサギのような小動物のことだ。
人の言葉を話すマロンは、ウィッチちゃんの良心的存在で、いつも的確なアドバイスで彼女を正しい道へ
導いていた。
ウィッチちゃんもそんなマロンのことが大好きだった。
「じゃあ、ウィッチちゃんは自分が困ったとき、一体どうするの?」
男の子が首を傾げて問いかける。
ウィッチちゃんは答えた。
「ん〜とね。その時は、大きな声で皆を呼んで、皆に助けてもらうよ!」
「そうそう!ボク達は皆一人では生きられないんだ。時に助けて、時に助けてもらって。そんなふうに皆で
生きていくんだ!」
ウィッチちゃんの肩の上で、小動物のマロンがコクコクと頷いている。
「君も、わたしが困ったときは助けてくれる?」
ウィッチちゃんは、その小さな両手で男の子の手をギュッと握り締めた。
「もちろんだよ!ウィッチちゃんがぼくを助けてくれたように、ぼくもウィッチちゃんが困った時は、必ず
助けに駆けつける!約束するよ!」
「ありがとう!」
なんでだろう。このウィッチちゃんと男の子のやり取りは、大人になった今でも、なぜかずっと心に
残っている。
私もこんなふうに、ウィッチちゃんのようになりたいと、ずっと心から願い続けてきた。
ウィッチちゃんのように魔法で誰かを助けたい。
ウィッチちゃんのように動物達とお話してみたい。
ウィッチちゃんのように人と繋がりたい。
父と母が殺されて、財団Xに入って大人になった今でも、その気持ちは変わらない。
ねぇ、今の私は、ちょっとでもウィッチちゃんに近づいているのかな。
パパ、ママ。
父と母は、テレビに釘付けだった幼い私を、いつも後ろから温かく見守っていてくれた。
「可奈も、将来はウィッチちゃんのように優しい女性になりなさい。そうすれば、可奈が困ったときは、
必ず誰かが手を貸して、可奈を助けてくれるから」
背後から聞こえる父と母の優しい声。
その声にいつも癒されていた。
幼い私は、父と母の胸に飛び込んだ。
大好きなパパとママの匂いがする。
ずっとその温もりの中にいたかった。
でも、
あの日を境に、優しい声は聞こえなくなった。
大好きなパパとママの匂いもしなくなった。
温もりも消えた。
私が代わりに感じたのは、
全てが壊れていく雑音と悲鳴。
真っ赤に染まった血の臭い。
ひんやりと冷たくなった父と母の体。
幼き日の私の幸せは、全て破壊され、闇に消えた。
奴の手によって。
私から全てを奪ったあの人影。
奴だけは許さない。
奴だけは必ず・・・。
魔力を手に入れて、魔法使いになった暁には、
必ず奴を見つけ出し、そして・・・殺す。
- 三十一. カナと瞬平 ( No.38 )
- 日時: 2014/03/28 06:12
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)
「ハッ!?」
深い眠りについていたシオリ・カナは、唐突に目を覚ました。
最初に視界に入ってきたのは、木製の天井だった。
木材が腐っているのか、所々ひび割れて変色した、汚い天井だった。
自分に何が起こったのか、思い出そうにも記憶が途切れていた。
ウィザードが黒ネコヤミーを倒したところから記憶が無い。
爆発に巻き込まれた気がするが・・・。だめだ、思い出せない。
思考がまとまらない。まだ混乱しているようだ。
カナは、考えることを諦めた。
ふと、人の気配を感じ、カナはその方向へ視線を向けた。
その目に飛び込んできたのは、ギリギリまで接近した童顔の青年の巨大な顔だった。
あと5センチほどで、互いの鼻と鼻が密着するほどの距離だ。
「い、いやぁあああああああああああ!!!」
パンッ!!
次の瞬間、カナの強烈なビンタが青年の頬に炸裂した。
「ぶっ!?ま、待ってください!怪しい者じゃありませんから!別にやらしい事もしていませんから!」
青年は、引っ叩かれた頬を真っ赤にしながら必死に釈明した。
森の中で倒れていたシオリ・カナを、偶然発見した奈良瞬平は、イエロークラーケンが見つけ出した古びた
小屋に彼女を運び、ずっとそばに付き添い介抱していた。
随分と小さく、朽ち果てた小屋だった。
恐らく、笛木がこの森を買収する以前に使用されていた、木材を保管するために建てられた小屋なのだろう。
他に休めそうな所も無かったし、背に腹に変えられなかった。
瞬平はこの小屋の中で、カナを休ませることにした。
小屋の外の見張りは、イエロークラーケンに任せ、瞬平は木材で即席に作ったベッドに彼女を寝かせた。
近くを流れる川の水で濡らしたハンカチを、彼女の額に乗せてあげたし、寒さを紛らわせるために、
自分の着ていた上着を体に被せてあげたりもした。
「貴方・・・、たしかウィザードの仲間の・・・」
混乱する思考の中で、カナは何とか記憶を呼び覚まそうとしていた。
そうだ、ウィザードと一緒にいた二人組。その中で、オールド・ドーパントに老人に変えられていた青年。
そう、彼だ。って、なんでその彼が私の目の前に?
「貴方、一体・・・」
警戒心を剥き出しにし、カナはベルトを取り出そうと手探りする。
しかし、無かった。
自分の手元に大事なベルトが無かった。
計画の要。
私の夢を叶えるための道具。
「うそっ!?ベルト!サクセサーのベルト!」
カナは、慌てて周りを見回した。
あれを失えば、長年の夢も計画も、全てが台無しだ。
「お、落ち着いてください!貴方が探している物でしたら、僕が持ってますから!」
そう言った瞬平の手には、機械仕掛けのベルトのバックルが握られていた。
「ベルトを返して!」
カナは声を荒げた。
「返します!返しますけど、その前に、少し話を聞かせてくれませんか?」
「話?なんのよ?」
「あなたの事。あなたが着ているその白い服、研究所で僕たちを襲った人達も、それと同じ服を着ていました。
ってことは、あなたも彼らと同じ・・・」
「同じ組織の人間よ」
瞬平が全てを言い終える前に、カナは断言した。
「同じ組織・・・。あなた達の目的は、なんなんですか?」
恐る恐る、瞬平は質問を繰り返した。
「目的?さあね。組織が最終的に何を目指しているかは、私にも分からないわ。でも、私個人の目的は・・・、
魔法使いになること」
「えっ?ま、魔法使い?」
「ええ。魔法使いになるのが私の夢」
カナは真剣な顔つきで言い切った。
「・・・・・」
瞬平は言葉を失っていた。
組織の目的がどうとか・・・、そういう話で驚いたわけではない。
彼女が口にした、“魔法使いになるのが夢”という、その言葉に衝撃を受けていた。
「ぼ、僕と同じ・・・」
「えっ?」
「僕も同じ夢を持っていたんです。晴人さんと出会うまで」
「・・・・・」
今度はカナが言葉を失った。
まさか、自分と同じ夢を持った人間がいたなんて・・・。
いつの間にか、カナの警戒心は解けていた。
「本当に?本当に貴方も・・・」
カナが優しい表情を浮かべ、もう一度瞬平に聞き返そうとした。と、その時、
バアァーン!!
突然、巨大な音と共に、小屋の壁面の一部が粉々に粉砕した。
外側から大きな力を与えられたようで、小屋内部にいた二人の頭の上に、大量の木の破片が飛び散った。
「な、なんですか!?いきなり・・・」
何の前振りも無く起こった出来事に、瞬平は驚きを隠せなかった。
「あれは・・・?まさか・・・!?」
その一方で、カナは因縁の相手と思わぬ再会を果たしていた。
大きな穴が開いた壁の向こうに佇む巨体の人影。
15年ぶりの再会だった。
父と母を殺した張本人が、そこにいた。
- 三十二. ファントム・グレンデル ( No.39 )
- 日時: 2014/03/29 04:18
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)
2メートル以上はありそうなその巨体は、全身を茶色い体毛で覆われた獣人のような姿をしていた。
鋭い牙が剥き出しになった、大きな口が特徴的な犬のような顔。二本の足で直立しているその姿は、
まさに狼男のようだった。
「ファ、ファントム!」
狼男のような獣人の姿を目の当たりにした瞬平が、声を大にして叫んだ。
間違いなかった。数時間前に遭遇していた、ドーパントやゾディアーツという見慣れない奴らとは違い、
今、目の前にいるこの獣人からは、見覚えのある、いわゆるファントムっぽさが感じられていた。
あくまで直感だが、伊達に1年以上もファントムと向き合っている訳ではない。
「ファントム?コイツが・・・」
因縁の相手を前に、カナは戦慄していた。
まさか、15年前に父と母の命を奪った怪物の正体が、ファントムだったなんて・・・。
「逃げましょう!こっちです!」
ファントムを前にした時の瞬平の行動は早かった。
咄嗟にカナの手を引っ張って、近くの扉から外へ飛び出した。
無我夢中で難路を走り、木々の間を抜けて辿り着いたのは、先ほどハンカチを濡らすために訪れた川のそば
だった。
「えっと・・・、どうすれば・・・」
「ちょっと!離してよ!」
瞬平が次の行動に戸惑っていると、カナが突然立ち止まり、掴まれたその腕を引き離した。
「私は逃げるつもりは無いわ。あの怪物と戦うの!」
「なに言っているんですか!?あんなのとどうやって戦うって言うんです!?」
「戦う力ならあるわ!そのベルトがあれば・・・」
そう言って、カナは瞬平が持つバックルを指差した。
と、二人が川の前で口論していると、
「グゥォオオオオオ!!」
追いついてきた獣人が、雄叫びを上げながら攻撃を仕掛けてきた。
「危ない!」
間一髪。ギリギリのところを、瞬平がカナを押し倒して、獣人の拳を回避した。
同時に地面に倒れた瞬平の手から、ベルトのバックルが転がり落ちた。
地面に倒れ伏す二人に、獣人は再び拳を振り上げて、追い討ちを仕掛けてきた。と、その時、
上空から追跡してきたイエロークラーケンが、打ち出された獣人の拳に体当たりした。
「ちっ!邪魔すんじゃねぇ!」
拳を弾かれた獣人は、すかさず反対の手でイエロークラーケンを叩き落とした。
地面に叩きつけられたイエロークラーケンは、その衝撃で光の粒になって消滅し、元の指輪へと
戻ってしまった。
「今のうち!」
カナは獣人がイエロークラーケンに気を取られた一瞬の隙に、バックルを手にとって立ち上がった。
そして、それを腰に装着し、音声コードを口にする。
「変身!!」
ピピッ
ベルトがカナの声を認識した。
次の瞬間、カナの体は光に包まれ、灰色のアーマーを身に纏った戦士、サクセサーへと姿を変えた。
「すごい。変身した・・・」
カナが変身したその姿に、瞬平は目を奪われていた。
「はぁああああ!」
サクセサーは勢いよく駆け出し、獣人の巨体に組み付いた。
「今のうちに・・・、貴方は逃げなさい!」
獣人の動きを抑えながら、サクセサーは瞬平に言い放った。
「そんな・・・、でも・・・」
「フン、逃がしはしねぇよ。てめぇら二人とも、このファントム・グレンデル様の餌になれ!」
そう言い叫び、自ら名前を明かしたファントム・グレンデルは、組み付くサクセサーを引き剥がし、
その小柄な体に何発もの拳を食らわせた。
「がっ・・・ぐっ・・・ぐはっ」
グレンデルの怪力から繰り出される強力なパンチに、なす術なく吹き飛ばされたサクセサーは、そのまま
川の中へ落下した。
ザッバァアン!
月光の下で、大量の水飛沫が飛び散る。
ダメージがベルトのシステムに響いてしまい、変身が強制解除されたサクセサーは、川の中でカナの姿に
戻ってしまった。
「大丈夫ですか!?」
川が浅瀬で、流れも緩やかだったのが救いだった。
瞬平は慌てて川に飛び込み、水の中で再び気を失ってしまったカナの体を抱き上げる。
「はぁ・・・。まだこんなもんか」
呆れたようにため息をついたグレンデルは、スッと肩を竦めた。そして、
「おい人間、その女に伝えておけ。「お前が強くなった時、俺は再び姿を見せる。その時は、お前は俺のものだ」
ってな」
瞬平にそう告げると、素早い跳躍で宙を舞い、そのまま森の中へ姿を消した。
「なんだったんだ・・・。あのファントム」
嫌な予感がする。瞬平はカナを抱きかかえながら、胸騒ぎを感じていた。
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