二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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仮面ライダーウィザード〜終幕の先〜【完結】
日時: 2017/04/15 00:31
名前: 裕 ◆.FlbxpLDSk (ID: XGjQjN8n)

こちらでは初めて投稿させていただきます、裕と申します。
今回はこの場を借りて、平成仮面ライダーシリーズ第二期から
「仮面ライダーウィザード」の物語を積み上げてみたいと思います。

個人的解釈としましては、第二期である「ダブル」〜「鎧武」までの作品は、同じ世界観だと思って見ております。なので、今回の物語もそれに沿った流れで書いていこうと思います。それに伴い、第二期各作品(劇場版)の設定も拝借する予定です。

物語の時間軸は「ウィザード」本編の最終回後、さらに言えば冬の映画「戦国MOVIE大合戦」の後の話だと思っていただけると幸いです。

ではでは。


〜登場人物〜


・魔法使いとその関係者

操真晴人=仮面ライダーウィザード

仁藤攻介=仮面ライダービースト

稲森真由=仮面ライダーメイジ

奈良瞬平

大門凛子(国安ゼロ課・刑事)

木崎政範(国安ゼロ課・警視)

ドーナツ屋はんぐり〜・店長

ドーナツ屋はんぐり〜・店員


・財団X

シオリ・カナ(栞 可奈)=仮面ライダーサクセサー

ヤマト=メモリー・ドーパント

ネオン・ウルスランド(局長)


・宇宙仮面ライダー部

野座間友子

ジェイク(神宮海蔵)

仮面ライダーフォーゼ


・鳴海探偵事務所

左 翔太郎=仮面ライダーダブル(左サイド)

フィリップ=仮面ライダーダブル(右サイド)


・怪人

サザル=ファントム・グレンデル

ファントム・ラミアー

ファントム・ヘルハウンド(ログ)

ファントム・シルフィ(ログ)

ファントム・バハムート(ログ)

ファントム・メデューサ(ログ)

グール

クロウ・ゾディアーツ

ペルセウス・ゾディアーツ

黒ネコヤミー

オールド・ドーパント

マスカレイド・ドーパント(白服)

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八. 屋敷   ( No.15 )
日時: 2014/03/05 18:30
名前: 裕 ◆sLvfk4XA1Q (ID: HKLnqVHP)

 時間は少し遡る。

 操真晴人がウィザードに変身して、ファントム・ヘルハウンドと戦闘を繰り広げている頃、とある場所に佇む屋敷の周りを、詰襟の白いスーツを着た数人の男達が取り囲もうとしていた。

 かつてこの屋敷には、一組の家族が住んでいた。
 父と母と一人の娘の三人で住んでいた。
 とても幸せな日々を過ごしていた。
 物理学者・笛木奏は妻の京子を愛し、娘の暦を愛していた。
 笛木にとって二人は希望だった。
 しかしある時、妻の京子は早くにこの世を去り、娘の暦も不治の病で倒れてしまった。
 妻を失ってしまった以上、最後の希望である暦だけは失いたくなかった笛木だったが、現実は残酷で、暦も笛木に見守られながら息を引き取った。
 笛木は絶望した。
 酷い虚無感に襲われた。
 世界の終わりかと思った。
 そしてそんな気持ちが、悲しみに心を奪われた笛木を狂わせた。
 物理学者だった笛木は、科学や物理学の知識を活かし、魔法を発見し、研究の末、科学と魔法の融合に辿り着いた。全ては自らの希望である暦の命を蘇らせるために。

 妻と娘の死後も、笛木は一人になってもこの屋敷を使っていた。
 時は経ち現在。その笛木すらもいなくなったこの屋敷には、笛木が放置した魔法に関する資料が、研究成果が、残されていた。・・・ハズだった。

 
「ここが、笛木奏の屋敷。思ったとおり、国安ゼロ課の連中が管理していたか」
 そう言ったのは、白スーツ集団の中心に立つ巨漢の男だった。
 財団X、シオリ・カナの直属の部下、サザルである。
 サザル率いる白スーツ集団は、少し離れた屋敷の庭を囲む木々の間からその様子を伺っていた。
 屋敷の周辺には、十数人ほどの国安ゼロ課所属の警官隊が配備されていた。
「どうしますか?サザルさん。主任からは、極力犠牲は出すなと言われてますが」
 白スーツの部下の一人が、サザルに尋ねる。
「ふん。んなもん、守る必要ねぇよ。皆殺しだ!」
 そう言ったサザルの口元は不気味に微笑んでいた。
 一瞬、サザルの指示に戸惑いを見せた部下達だったが、今この場を指揮している男がそう言うのならと、部下同士で顔を見合わせると、白スーツ集団は一斉に屋敷の庭に飛び出した。そして、USBメモリ型の道具を取り出し、起動スイッチを押した。
『マスカレイド』
 メモリから電子音声が鳴ると同時に、白スーツ集団は首筋にそれを突き刺した。すると、メモリは体内に吸い込まれ、男達の顔が面妖なマスクに覆われ、怪人体へと姿を変えた。

 マスカレイド・ドーパント。

 かつて風都で暗躍した組織、ミュージアムが作り出した地球の記憶を収めたメモリ=ガイアメモリには、人間を超人化させる力がある。
 風都の仮面ライダーの活躍によって、ミュージアムが壊滅した後も、財団Xは研究、開発を続け、組織の戦力として生産し続けていた。
 白服の戦闘員集団となったマスカレイド・ドーパント達は、サザルの指揮に従い、屋敷周辺の警官隊達に襲い掛かった。

「ば、バケモノだぁ!!」
 突然の襲撃にたじろぐ警官隊達。
 すぐに腰の拳銃を抜き、応戦する者もいれば、不意を付かれ、慌てて抵抗する間もなく殺される者もいた。
 相手は人間以上の戦闘力を持つ怪物集団。警官隊とはいえ所詮人間である彼らが勝てるはずがなかった。
 ある者は首をへし折られ、ある者は強い力で投げ飛ばされ、屋敷の壁、あるいは周りの木々や地面に叩きつけられて絶命した。
 そんな中で、僅かに残った意識で、救援を要請しようと試みる警官隊がいた。
 虐殺される仲間の悲鳴。抵抗しようと必死の銃声音。それを尻目に、
「突然の化け物の襲撃を受け・・・。応・・戦空しく・・・被害絶望的・・。応援を・・・協力者の要請を」
 暴れまわるマスカレイド・ドーパント達に見つからないように、通信機で必死に現状を報告した。しかし、
「おいっ!妙なことをしてる奴がいるぞ!始末しろ!」
 遠くの木陰から、タバコを吹かしながらその光景を楽しんでいたサザルが、その警官隊に気づくのだった。
 言われたマスカレイド・ドーパントの一体が、通信機で必死に呼びかける警官隊の首を締め付けた。凄まじい握力により、警官隊はあっという間に窒息し、息絶えた。
 マスカレイド・ドーパントの集団が、警官隊を全滅させるのに5分も掛からなかった。
 屋敷の庭は、あっという間に死体だらけの地獄絵図と化したのだった。

「おいっ!片付いたんなら、さっさと屋敷に入るぞ!」
 マスカレイド・ドーパント達の殺戮光景を高みの見物していたサザルは、足元に捨てたタバコの吸殻を愛想悪く踏みつけると、一人でサッサと屋敷へ向かって歩いていった。部下のマスカレイド・ドーパント達も黙ってサザルの跡を付いて行く。

 ドンッ
 サザルは閉鎖されていた屋敷の扉を勢いよく蹴破った。
 ホコリが舞い、薄暗い屋敷の中が露になる。
 使われなくなってから半年以上。警察に管理されているわりには部屋の中はホコリっぽく、かなり荒れていた。
 使われていた部屋の家具は、元の位置からかなりずれて放置されている。
 横に倒れた椅子。壁から落ちた板絵。ポッキリ折れた机の脚に割れた花瓶。
 部屋中に散乱した書類らしきもの。そして争った跡を思わせるようにできた壁に開いた大きな穴。そこには元々ベランダに繋がる扉があったのだろうか。今は部屋の中からでもベランダが丸見えになっていた。

「お前ら!手分けして部屋の中を捜索しろ」
 再びサザルが部下に指示を出す。
 今度は部下にまかせっきりではなく、サザル自身もしっかり捜索に参加した。

九. 魔法使い稲森真由 ( No.16 )
日時: 2014/03/06 04:35
名前: 裕 ◆sLvfk4XA1Q (ID: HKLnqVHP)

 彼らがこの屋敷を訪れた目的は一つ。
 笛木が研究の過程で残した魔法使いに関する資料。
 科学と魔法の融合に成功した笛木が残した資料が手に入れば、シオリ・カナの計画は飛躍的に前進し、財団Xにとっても大きなプラスになることは間違いない。

 現在、シオリ・カナが進めるプロジェクトは、あくまで彼女自身が考案した彼女流の開発技術の上で進行している。しかし、彼女が独断で手に入れた魔法に関する情報だけでは、すぐに計画に限界が来るのは誰が見ても明らかだった。何より、彼女自身がそれを痛感していた。
 そこで、この時代で誰より魔法に関する知識を有する存在、笛木奏の研究に目をつけたのだった。

 笛木が最初に起こした儀式サバトを皮切りに、シオリ・カナ率いるプロジェクトチームは、魔法に繋がる全ての出来事を監視し、情報収集に努めてきた。

 儀式の際に誕生したファントムとウィザードの存在。白い魔法使いとワイズマンの暗躍。三人の悪魔アクマイザーが起こしたゲート誘拐事件。古の魔法使いビーストの出現。二度目のサバトの失敗やファントム・グレムリンの暴走。ファントムを吸収するファントム、オーガと白い魔法使いの復活・・・等。

 世界を作り変えようとした金色の魔法使いの存在も確認されたが、これに関しては出来事があまりに未知数なため調査が遅れており、オーガの件はプロジェクトの進行自体に直接影響が出てしまい、計画に支障が出る結果となってしまったが・・・。
 大きな損害としては、魔力の選別と本部の受理が遅れてしまったことか。

 とにかく、魔法に繋がる全ての出来事を、できる限り把握してきたつもりだったが、やはり組織にはそれらを裏付ける決定的な情報が不足していた。
 その足りないピースを入手するのが、サザルが指揮するチームの役目だった。

「サザルさん。資料らしきものが、何も見当たらないのですが・・・」
 部屋の一室を捜索していたマスカレイド・ドーパントの一人が、リビングにいたサザルに報告してきた。
「こっちもです。魔法に関するものは全て回収された形跡があります」
 続けて言う別のマスカレイド・ドーパント。

 警官隊を全滅させたサザルのチームは、屋敷に進入後、1時間以上に渡って捜索していたが、成果は皆無。何一つ得ることはできなかった。
 生活道具はそのまま放置されていたが、魔法に繋がる資料だけは、屋敷から綺麗サッパリ消え失せていた。まるで誰かが持ち去ったように。

「ああ。そのようだ。国安ゼロ課の連中、他者に奪われることを危惧して先手打ちやがったな・・・」
 サザルは不機嫌そうに言うと、
「お前ら!ここはもういい!研究所に行って別チームと合流するぞ!たぶんあっちも、同じ状況だろうがな・・・」 
 と、告げながら一足先に屋敷から出ようと出口に向かって歩を進めていた。
 日の光に照らされ、あと一歩で外に出ようとした、その時、
『テレポート・ナウ』
 突然、何処からか電子音声が鳴り響き、サザルの前に一人の少女が光の中から現れた。
「悪いけど、あなた達をここから逃がすわけにはいかないわ!」
 長い黒髪を風に揺らしながら、少女は立ち塞がる。

 稲森真由。

 かつて、操真晴人と同じように絶望から耐え抜き、ファントム・メデューサに復讐するために魔法使いになった少女である。
 メデューサが消え、ファントムとの戦いに一区切りついた後も、真由は国安ゼロ課の協力者の一人として活動を続けていた。

「ほぅ、お前、魔法使いか?」
 サザルは突然現れた真由の姿に特に驚く表情を見せることもなく、こんなところで魔法使いに会えるとは、と、まるで珍しいものを見るかのように佇んでいた。
 一方、真由は尻目で背後の悲惨な有様を眼にした。背後に広がる光景、庭に倒れた無数の死体の姿を。
 あまりに酷い光景に思わず目を逸らしてしまう。
「あなた達がこの人達を・・・?」
 視線を眼前のサザルに向け、質問を投げかける。相手の質問に答えるつもりはない。
「ああ。そうだけど?」
 耳の裏をポリポリと掻きながらサザルは答える。
「そう。だったら、なおさらあなた達を逃がすわけにはいかない!」
 真由はさっきよりも力強く言葉を浴びせると、右中指にはめられた指輪を腰のバックルにかざすのだった。
『ドライバーオン・ナウ』
 ウィザードのものよりも若干低い音声が鳴り、真由の腰に銀色のベルトが出現した。
 左中指に指輪を装着し、ベルトのサイドレバーを上下させる。
『シャバドゥビタッチヘンシーン シャバドゥビタッチヘンシーン』
 待機音が鳴る中、真由はスカートをふわりと浮かせながら体を一回転させると、
「変身!!」
 力強く叫び、頭上に上げた左手をベルト中央の掌の紋章にかざした。
『チェンジ・ナウ』
 斜め下に発生した魔法陣を潜り抜け、真由は魔法使い仮面ライダーメイジへと姿を変えた。
 荒削りの宝石のような琥珀色のマスク、肩についたトゲに腰にぶら下がった尻尾のような装飾。左腕に装備された爪、スクラッチネイル。そして、ベージュと黒のボティ。
 稲森真由が変身したメイジは、操真晴人が変身したウィザードとは全てが異なった姿をしていた。
 琥珀色のマスクがキラリと光り、メイジは三つ指を立てて宣言する。
「さあ、終わりの時よ!」

十. ゾディアーツ ( No.17 )
日時: 2014/03/07 07:23
名前: 裕 ◆sLvfk4XA1Q (ID: HKLnqVHP)

「ウオオオォォ!!」
 メイジの言葉を合図に、サザルの背後に控えていた数人のマスカレイド・ドーパント達が一斉に屋敷から飛び出してきた。
 サザルを守るため、目の前の邪魔者を排除するために。
 サザル自身は屋敷の前の石段に腰掛け、再び高みの見物と洒落込もうとしていた。
 戦いを部下に任せて、自分は何もせずにただ見ているだけ。
 マスカレイド・ドーパントの集団と格闘戦を繰り広げながらも、メイジはそんなサザルの姿に怒りを覚えた。
「あなた、部下ばかりに戦わせて、あなたは何もしないの?」
 左腕のスクラッチネイルで前方のマスカレイド・ドーパントを切り裂き、同時に後ろ回し蹴りで後方のマスカレイド・ドーパントを蹴り飛ばしながら、のん気に石段に座っているサザルに言い放った。
「ん?ああ、お前の力がどんなモンか見てるだけだ。心配しなくても、お前がそいつら全員倒したら、今度は俺が相手してやるよ!」
 サザルは気だるそうに答えた。
「そう。だったらすぐ済むから待ってなさい!」
 メイジは左腕を二度三度振り上げて敵を払いのけると、連続キックで吹っ飛ばしてある程度距離をとった。そして、右中指の指輪を別の指輪に付け替えると、ベルトのサイドレバーを操作しバックルの中央にかざした。
『エクスプロージョン・ナウ』
 次の瞬間、一箇所に固まる様に立っていた、正確にはメイジの攻撃で一箇所に集められていたマスカレイド・ドーパント達に魔法陣が重なり、同時に強力な爆発が起こった。
 爆炎に巻き込まれたマスカレイド・ドーパント達の肉体は、刹那に粉々に吹き飛び、あっという間に塵と化した。
「終わったわよ。次はあなたの番よ!」
 腰掛けるサザルに指差し、メイジはもう一度宣言した。
 

 その様子を上空から眺める一匹の小さなモンスターがいた。
 全身緑色でプラモデルのような立体的な体のそれは、真下で対峙するメイジとサザルの姿をしっかり確認すると、いきなり何処かへ飛び去っていくのだった。


 パチパチパチパチ・・・。
 サザルは屋敷の入り口前の石段に腰掛けながら、お見事お見事と、言わんばかりに拍手を送っていた。
「なるほどなるほど、これが今の魔法使いの力かぁ。なかなかやるもんじゃないか。俺の時代には、お前のようなスマートな戦い方をする魔法使いは、まだいなかったからなぁ・・・」
「何を訳の分からないことを・・・」
 今の魔法使い?俺の時代?この男、何を言っている?
 サザルの言っていることに疑問を感じながらも、メイジは体制を崩さずに構えを取り続けた。
「いいぜ!約束どおり、今度は俺が相手になってやる!こいつの力でな」
 スッと立ち上がったサザルは、そう言うとポケットから小さな黒いスイッチのようなものを取り出した。
 不気味な模様にドーム状の形、上に飛び出た赤いスイッチ。
 サザルはニヤリと笑うと、右手の親指でそのスイッチをカチリと押した。
 するとサザルの体は暗闇に包まれ、次の瞬間、そこから全身漆黒の背中に翼を生やした怪物が姿を現した。

 体に星座が刻まれた怪物。カラス座が刻まれた怪物。
 クロウ・ゾディアーツ。

「!?ファントム・・・じゃない?」
 メイジはクロウ・ゾディアーツの姿に戦慄した。

 人間を怪人に変えるスイッチ、ゾディアーツスイッチが最初に確認されたのは天ノ川学園高等学校、通称“天高”と呼ばれる宇宙開発の人材を育成するために設立された学校だった。
 天高のかつての理事長、我望光明が己の野望のために学園を実験場と称してまで生み出した力、それがゾディアーツである。
 地球の上空に存在するザ・ホールをエネルギー源とするゾディアーツは、元は人間が宇宙環境に適応するための姿、というコンセプトで作られた力だったが、それに兵器利用の価値を見出した財団Xは、我望光明と取引しスポンサーになることでその開発技術を手中に収めていたのだった。

「コイツも人間が作った力の一つだ。人間さんもなかなかやるよなぁ」
 サザルが変身したクロウ・ゾディアーツはその姿をアピールするように、バサッと背中の真っ黒な翼を広げて見せ付けた。
「また訳の分からないことを!」
『エクスプロージョン・ナウ』
 すかさず手をかざし、魔法を発動するメイジ。
 だが、クロウ・ゾディアーツは地面を蹴って一瞬で100メートル上空まで飛び上がり、魔法陣から放たれる爆発を回避して見せた。
 屋敷の玄関が爆風により吹き飛び崩れ落ちる。
「カアアァァァ!!!」
 今度はこっちの番、と言わんばかりにクロウ・ゾディアーツは、まさにカラスのような雄叫びを上げながら、上空から急降下しメイジに強力な体当たりをぶつけた。
「ぐぅっ・・・!」
 体から火花を散らしながら、地面を転がるメイジ。しかし、すぐに体勢を立て直すと、素早く右手の指輪を付け替えた。
『チェイン・ナウ』
 四方八方の空間から白い鎖が伸び出し、上空のクロウ・ゾディアーツを拘束した。
 空中で動きを封じられるクロウ・ゾディアーツ。
 メイジはこのチャンスを逃がすまいと、強力な攻撃に転じることにした。
 また右手の指輪を別の指輪に付け替え、サイドレバーを操作したベルトの中央にそれをかざした。
『ホーリー・ナウ』
 かつて、宿敵メデューサを倒すために、仲間の信頼を裏切りかねない行為をしてまで手に入れた指輪。
 メイジの手に大きな光の球体が生み出される。
 真っ白に輝く球体は、真由が変身するメイジの最強の技である。
「これで終わりよ!」
 メイジは渾身の力を込めて球体を放った。
 光の球体はまっすぐ上昇し、鎖に縛られたクロウ・ゾディアーツに直撃した。はたして—

十一. カラス反撃 ( No.18 )
日時: 2014/03/09 03:10
名前: 裕 ◆sLvfk4XA1Q (ID: HKLnqVHP)

 上空に大爆発が起こった。
 火の粉が散り、モクモクとまるで雷雲のような黒煙が空に浮かび上がる。

「やったか・・・」
 汚れた空を見上げ、メイジは勝負の行方を見守る。と、その時、
 いきなり黒煙の中から無数の黒い羽が降ってきた。
 羽の一枚一枚が鋭い手裏剣のようで、たくさんの羽が周囲の死体に刺さり、地面に刺さり、メイジのボディに突き刺さった。
 しまった・・・。油断した・・・。
「きゃあああぁぁぁ・・・!!」
 メイジは不覚にも悲鳴を上げてしまい、思わぬダメージで膝を付いてしまった。
 黒煙の中からクロウ・ゾディアーツが姿を現し、メイジの目の前に着地した。
「いい攻撃だったが、残念!力不足だ!」
 そう言いながら、膝を付いたままのメイジの顔面を、その鋭い爪のついた足先で蹴り上げた。
 メイジの体は一瞬宙を舞い、すぐに背後に倒れた。
 予想以上にダメージが酷く、ホーリーを発動した影響で魔力の消費も激しかった。
 メイジは両足をガクガクと震わせながらも何とか立ち上がると、まだ戦意を失っていないことを表すかのように構えを取り直した。
「良いねぇ。頑張る女は好きだぜ!」
 相手をおちょくる様な言い草で、クロウ・ゾディアーツは笑うのだった。
「・・・馬鹿にしないで!」
 メイジは残った体力を振り絞るように腰を低くすると、ワンツーステップで助走をつけて跳躍した。そしてクロウ・ゾディアーツ目掛けて左腕のスクラッチネイルを思いっきり振り下ろした。
 直撃。・・・はしなかった。
 クロウ・ゾディアーツは背中の翼をバサバサと羽ばたかせて、強力な突風を巻き起こしたのだ。
 スクラッチネイルの一撃が届く寸前でメイジの体は吹き飛ばされ、逆方向へ巻き戻されるかのように地面に叩きつけられた。
 しかもその突風には殺傷能力もあったのか、まるで鎌鼬に切り裂かれたかのように、メイジの全身は傷ついていた。
 ダメージの蓄積と魔力の低下により、とうとう変身が解けていしまい、メイジは真由の姿に戻ってしまった。
 地面に倒れ伏す真由。
 その姿をクロウ・ゾディアーツは、楽しそうに、愉快に、不気味に、残酷に見ていた。
「まあ、今時の魔法使いはこんなものか。少し物足りないが、お前には消えてもらおう・・・」
 そう言って右手の鉤爪を光らせ、ゆっくりと歩み寄る。
「くっ・・・・」
 体中に激痛が走り、力が入らない。
 言葉を返すこともできず、真由はただ眼前のクロウ・ゾディアーツを睨むことしかできなかった。
 もうだめだ・・・。
 目を逸らし、心の中で叫びながら死を覚悟した。
 クロウ・ゾディアーツが足を止め、邪悪な鉤爪が真由の頭に向かって振り下ろされた。
 —その時。

 バキュン!バキュン!
 数発の光弾がクロウ・ゾディアーツの真っ黒なボディを撃ちぬいた。
 動きを止め、たじろぐクロウ・ゾディアーツ。
 光弾は左斜め前方から飛んできた。すかさずその方向に視線を向けると、大きなリュックサックを背負った一人の青年が、変わった形状の銃をこちらに向けながら全速力で接近して来る姿がそこにはあった。
「あいつは・・・」
「仁藤さん・・・」
 同じく青年の方を見ていた真由が呟いた。
 青年はその走る勢いでそのまま跳躍すると、クロウ・ゾディアーツに華麗な飛び蹴りをお見舞いした。
 不覚にも青年の蹴りを食らってしまったクロウ・ゾディアーツは、ダメージは全く無いものの、その衝撃で思わず数歩後退した。
 少しだが、クロウ・ゾディアーツと真由の間に距離ができた。
「真由ちゃん!大丈夫か?」
 青年はうつ伏せに倒れる真由のそばに駆け寄ると、すぐさま安否を確認した。
「はい・・・、なんとか・・・。仁藤さんは・・・どうしてここへ?」
 青年に支えられながら、なんとかその身を起こした真由は、途切れ途切れの声で答えた。
「俺?ああ、魔力が足りなくなってきたから、使い魔のグリフォンちゃんに頼んでファントムを探してもらってたらさぁ、偶然、真由ちゃんが戦ってるところを見つけてな。それで、なんか様子がおかしかったからこうやって駆けつけたってわけだ!」
 仁藤と呼ばれた青年はニコッと笑いながら説明した。
「まあ、俺が来たからにはもう安心だぜ!選手交代だ。真由ちゃんは休んでな!」
 そう言って立ち上がると、青年はクロウ・ゾディアーツの方へ振り向いた。
 青年の顔からは笑顔が消えていた。変わりに浮かび上がる怒りの表情。
「おいてめぇ、よくも俺の大事な仲間を傷つけてくれたな!てめぇは絶対ゆるさねぇ。俺が焼き鳥にして食ってやる!」
 青年は腰のバックルに右中指の指輪をかざした。
『ドライバーオン!』
 音声が鳴ると同時に青年の腰に閉じた扉のような形状のベルトが出現した。
 左中指に指輪をはめ込み、その手を頭上に上げる。そして上げた手をゆっくりと下ろしながら青年は叫ぶ。
「変〜身!!」
 直後に左中指の指輪をベルトの左サイドのスロットに差し込み、それを回す。
『セット!オープン!L・I・O・Nライオーン!』
 次の瞬間、リズミカルな音声と共にベルトのバックルが観音開きに展開し、魔法陣が現れる。それを潜り抜け、青年は金色の獅子のアーマーを身に纏った魔法使い、仮面ライダービーストへと姿を変えた。
「さあ、ランチタイムだぁ!」
 ビーストは両手をこすり合わせながら言い放つ。
 対クロウ・ゾディアーツ戦、第二ラウンドの始まりだった。

十二. 古の魔法使いビースト ( No.19 )
日時: 2014/03/10 07:04
名前: 裕 ◆sLvfk4XA1Q (ID: HKLnqVHP)

 周囲からは“古の魔法使い”や“アーキタイプ”と呼ばれる仮面ライダービースト=仁藤攻介は、かつては考古学を専攻する大学生だった。
 とある遺跡の調査の際、偶然魔法使いのベルトと指輪を発見し、ファントム・ビーストキマイラの封印を解いてしまったことで、彼の運命は大きく変わってしまったのだ。
 
 キマイラは攻介に魔法を授けることを条件に、攻介はキマイラに魔力を与えることを条件に、一人と一匹は一心同体となった。
 しかし、そのリスクは攻介にとっては命がけのものだった。
 キマイラに魔力を与えられなければ、代償として攻介の命が食われてしまうのだから。
 だが、攻介は持ち前のポジティブな性格と「ピンチはチャンス」を心情に、何度も危機を乗り越え、今まで戦い抜いてきた。
 半年前の白い魔法使いとの戦いで、ベルトからキマイラを開放させた攻介は、一度は魔法の力を失ったものの、今度は自らキマイラを捕獲し、再び魔法使いに返り咲いた。
 キマイラと一心同体になれば、また命を危険に晒すことになるのも承知の上で。
 考古学者としての好奇心がそうさせたのか、ただ単にキマイラを気に入っただけなのか、それとも・・・。
 とにかく、こうして攻介はキマイラとのギブアンドテイクの関係を保ちながら、はたまた楽しみながら生き続けている。
 そして戦い続けている。仮面ライダービーストとして。


 真由が見守る中で、ビーストとクロウ・ゾディアーツの戦いは続いていた。
 一見すると二人の戦いはビーストが優勢に見えたが、はたして—

 ビーストは相手に隙を与えないように、次々と攻撃を仕掛けていた。
 左足でハイキックを狙い、それが弾かれれば反対の足、すなわち右足で相手の防御を崩し、すかさず敵の腹部を蹴りこむ。
 続けてエルボーを打ち込み、後ろ回し蹴りで吹っ飛ばした。
 そして仕上げに、右中指の指輪を付け替えて魔法を発動。
『バッファ!GO!バッバ・バ・バ・バ・バッファ!』
 ラップのような音声が鳴り響き、魔法陣を潜り抜けたビーストの右肩に、バッファローの頭部を模した肩アーマーと茶色いマントが装着された。

 ビーストが操真晴人のウィザードや稲森真由のメイジと違う点の一つに魔法の発動スタイルがある。
 一つの指輪の効果で一つの魔法を発動するウィザードやメイジと違い、ビーストの魔法は基本的に指輪で呼び出した右肩のマントによって異なってくる。
 今、装着したバッファマントなら、怪力を司る魔法を同時に複数発動することが可能なのだ。

「行っくぜぇ!カラス野郎!」
 ビーストは右肩のバッファローの角を前面に突き出すように構えると、勢い良く地面を踏み出し突進した。
 右肩の二本の角がクロウ・ゾディアーツに襲い掛かる。が、
 なんと、クロウ・ゾディアーツは鋭い鉤爪が生えた両手で二本の角をガッシリと掴むと、大地に足跡をつけながらもその場に踏み止まって見せた。
「なにぃ〜!?」
 驚愕するビースト。
「残念だったな。昔の“金獅子の魔法使い”だったら今の一撃で吹っ飛ばせたかもしれねぇが、お前の力じゃこの程度だろ!」
 クロウ・ゾディアーツはそう言って首を傾げながら嘲笑うと、角を掴んだままビーストの体を振り回し、崩れかけた屋敷の玄関目掛けて投げ飛ばした。
「うおおぉぉぉ・・・・!?」
 玄関の瓦礫を突き破り、屋敷内に突っ込むビースト。
 家具を散らかしながらリビングを転がり、姿が見えなくなる。
「仁藤さん!!」
 真由は思わず叫んだ。そしてハッとした。
 ついビーストとクロウ・ゾディアーツの戦いに見惚れていたが、真由にはビースト=仁藤攻介に必ず伝えておかなくてはならない情報があったのだ。
 そのタイミングを逃してしまった。
「おーい!本当にこれで終わりか?つまんねぇぞぉ!」
 クロウ・ゾディアーツはビーストが消えた屋敷の瓦礫に向かって言い叫ぶ。その言い草はまるで友人に話しかけるかのように馴れ馴れしかった。
 と、次の瞬間、
『カメレオ!GO!カ・カ・カ・カ・カ・カメレオ!』
 崩れた玄関の瓦礫と煙のように舞うホコリで視界が悪くなっている屋敷の奥から、突然長い舌のようなものが飛び出してきた。
 伸びた舌はクロウ・ゾディアーツの肩から足首までグルグルと巻きついた。
 完全に拘束され、腕も足も背中の翼も動かせない状態になっている。
「よっしゃ!捕まえたぜ!やっぱピンチはチャンス。姿が見えなくなれば油断すると思ったぜ!」
 そう言いながらビーストは瓦礫の中から顔を出すと、ベルトのバックルから専用武器、ダイスサーベルを引き抜いた。

 屋敷の中でバッファマントからカメレオンの頭部を模したカメレオマントにチェンジしたビースト。
 カメレオマントの特性は、景色に同化する擬態能力と肩アーマーのカメレオンの口から伸びた舌を伸縮させて鞭の様に使用することである。 

「おらぁ!こっち来い!」
 スッと右肩を引き、まるでヨーヨーのようにクロウ・ゾディアーツを自らのそばに引き寄せると、ビーストはその勢いに任せてサーベルの先端を突き刺した。
「ぐおっ・・・!」
 クロウ・ゾディアーツの漆黒のボディにサーベルがめり込んだ。
 さすがに効いたのか、息が詰まったような声が漏れる。
「おいっ・・・、今のは結構痛かったぞ・・・!」
 クロウ・ゾディアーツは一瞬ビーストをギロリと睨むと、刺さったサーベルを抜き、バックステップで距離をとった。
 そして背中の翼を広げると、跳躍して再び空へ舞い上がった。
「うおっ!アイツ飛びやがった!」
 ビーストは敵を見上げながら呟いた。

 そんな中、真由は不安に駆られていた。
 クロウ・ゾディアーツがビーストの剣を受けた時、初めて奴の口から余裕が消えたような気がしたからだ。
 今までのクロウ・ゾディアーツからは、戦いを楽しむ、もしくは遊んでいるような雰囲気が感じ取れていた。
 自分と戦っていた時も、ついさっきまでのビーストとの戦いの時も。
 しかし、さっきのビーストの一撃が(攻介の態度も含めてかもしれないが)、クロウ・ゾディアーツ=サザルの怒りを買ってしまったかもしれない。
 だとしたら、奴の本気の攻撃が来るかもしれない。奴はファントムではないのだ。どんな予想外な攻撃を仕掛けてくるか・・・。
 その事をビーストに伝えるなら、今しかない。
 真由はそう考えた。


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