二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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仮面ライダーウィザード〜終幕の先〜【完結】
日時: 2017/04/15 00:31
名前: 裕 ◆.FlbxpLDSk (ID: XGjQjN8n)

こちらでは初めて投稿させていただきます、裕と申します。
今回はこの場を借りて、平成仮面ライダーシリーズ第二期から
「仮面ライダーウィザード」の物語を積み上げてみたいと思います。

個人的解釈としましては、第二期である「ダブル」〜「鎧武」までの作品は、同じ世界観だと思って見ております。なので、今回の物語もそれに沿った流れで書いていこうと思います。それに伴い、第二期各作品(劇場版)の設定も拝借する予定です。

物語の時間軸は「ウィザード」本編の最終回後、さらに言えば冬の映画「戦国MOVIE大合戦」の後の話だと思っていただけると幸いです。

ではでは。


〜登場人物〜


・魔法使いとその関係者

操真晴人=仮面ライダーウィザード

仁藤攻介=仮面ライダービースト

稲森真由=仮面ライダーメイジ

奈良瞬平

大門凛子(国安ゼロ課・刑事)

木崎政範(国安ゼロ課・警視)

ドーナツ屋はんぐり〜・店長

ドーナツ屋はんぐり〜・店員


・財団X

シオリ・カナ(栞 可奈)=仮面ライダーサクセサー

ヤマト=メモリー・ドーパント

ネオン・ウルスランド(局長)


・宇宙仮面ライダー部

野座間友子

ジェイク(神宮海蔵)

仮面ライダーフォーゼ


・鳴海探偵事務所

左 翔太郎=仮面ライダーダブル(左サイド)

フィリップ=仮面ライダーダブル(右サイド)


・怪人

サザル=ファントム・グレンデル

ファントム・ラミアー

ファントム・ヘルハウンド(ログ)

ファントム・シルフィ(ログ)

ファントム・バハムート(ログ)

ファントム・メデューサ(ログ)

グール

クロウ・ゾディアーツ

ペルセウス・ゾディアーツ

黒ネコヤミー

オールド・ドーパント

マスカレイド・ドーパント(白服)

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プロローグ. 経過報告 ( No.1 )
日時: 2014/03/14 03:49
名前: 裕 ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)

 私には夢がある。
 他人に話せば、子供じみた馬鹿馬鹿しい話だと罵られるだろうが。
 それでも構わない。それでも諦められない。
 そのために私は、ここにいる。

「魔法。そんなおとぎ話のような現象が実在するとはね・・・」
 白服に身を包んだ女性が資料に目を通しながら無表情に呟いた。
 広い会議室の中に女性が二人。どちらも同じ詰襟の白いスーツを着ている。
 一人は首にストップウォッチをぶら下げたハーフ人。もう一人は黒髪のショートヘアで、前髪に可愛い紫の花のヘアピンを付けた日本人。
 資料を見ていたのはストップウォッチをぶら下げたハーフ人のほうだった。
 ネオン・ウルスランド。組織で局長を務めている。
「歴史上に僅かながら記録されていたサバトなる儀式が、最近になって二度も確認されました。間違いありません」
 黒髪の女が鋭い眼差しで、訴えかけるように言葉を返した。どうやら自分の言葉に絶対の自信を持っているようだった。
 彼女の自信を象徴するかのように、窓から伸びた日差しがキラリとヘアピンに反射する。
「皆既日食を強制的に起こし、賢者の石と呼ばれる高密度のエネルギー石を生み出す技術。・・・信じ難い話ね」
 ネオン・ウルスランドはストップウォッチを見ながら話を続けた。時間を計測しているようだった。
「まだ仮説の域を出ませんが・・・。詳しい内容などは調査中ですが、儀式の際にファントムという生物が生まれるとか・・・」
「ファントム・・・。私は寧ろ、賢者の石よりもそのファントムに興味があるわね。我が財団の研究はこの二年で手詰まり続け、新たな兵器の開発も進展しないまま。最近は過去の研究に見切りをつけ、ロックシードという興味深い存在に研究をシフトするという声もあるけれど・・・。まあいいわ、チャンスをあげる。やってみなさい」
 そこまで言うと、ネオン・ウルスランドは突然、ストップウォッチをカチリと止めた。
「話は終わり。次の予定があるの。やり方は任せるから、また報告して」
 一方的に、そして唐突に会話を切り上げ会議室を後にする。
「ありがとうございます」
 残された黒髪の女は、その行動に動揺するわけでもなく、深々と扉に向かって頭を下げた。ネオン・ウルスランドとの報告会議では、これが当たり前の終わり方なのだ。
 そんな事よりも、長年申請し続けてきた自分のプロジェクトがようやく受理された。その喜びと沸沸と燃える期待とやる気を抑えるのに彼女は必死だった。
 やっと、やっとだ・・・。
 思わず両手の拳に力が入る。爪が食い込むほど握り締め、プルプルと両手が震えるのが感じ取れた。
「これで私も・・・魔法使いに・・・」

一. 本格始動 夢見る女 ( No.2 )
日時: 2014/02/26 05:52
名前: 裕 ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)

「報告、終わったんですか?」
 会議室を出た後、自分が管理するラボ施設へ向かう途中、背後から二人の男が私の後を追いかけてきた。そのうちの一人が私に声をかけた。
「ええ。今さっきね」と、尻目で返事を返す私。
 この二人も私と同じ詰襟の白いスーツを着ている。同じ組織のメンバーである。
 私は今、財団Xという組織に所属している。

 財団X。
 武器や兵士など、戦力になりえる技術を生み出す存在に資金援助し、見返りに研究成果を共有するというビジネスを基盤としている組織だ。
 同業者やビジネスパートナーからは死の商人とも呼ばれている。
 そんな組織で仕事をしているとたまに思う。
 私は自分を、この組織の中では異質な存在なのではないかと。
 私は感情のスイッチをオフにしきれていない。すぐに気持ちを、心を表に出してしまう。
 さっきだってそうだ。長年目指してきたプロジェクトが受理された途端、喜びを、嬉しさを隠しきれなかった。局長に見られなかったのが救いか。
 この組織の仕事は言ってしまえば犯罪だ。褒められる仕事など何もない。
 そのため、組織に所属する人間は、基本的に皆、感情が欠落しているように無表情だ。
 もし、怒ったり泣いたり、笑ったりと感情豊かな奴が組織内にいれば、そいつは潜りか野心家だろう。野心が抑えきれず、感情となって溢れ出てしまうのだ。
 かつてのメンバー、レム・カンナギがそうだったように。
 そして多分、私もその一人なんだろう。
 私の中にも野心はある。夢を叶えるという野心が。
 勿論、レム・カンナギのような墓穴を掘るつもりは無いが。
 奴は自分の野心を叶えるために組織を裏切った。自分の上司の命を奪ってまで。
 私は組織を裏切るつもりは無い。この組織には恩があるのだから。
 そういえば一人、死ぬ直前まで無表情だった奴もいたな。奴もまた野心家だったが、あれは特別、例外か。自分が死のうというのに、悲鳴一つ上げないというのも、それはそれで不気味な話だが。

「カナさん、計画の準備、順調です。こちらのチームはいつでも行動を起こせますよ」
 そう言ったのは私の直属の部下、ヤマトだった。
「俺のほうはもう少し時間を。念のため、あと三、四人メンバーを増やしておきたい。相手は人間といっても警察だからな」
 続けて隣に佇む巨漢のサザルが言う。
 ヤマトとサザル。この二人は私が今のプロジェクトを立ち上げた当初から、ずっと行動を共にしている、最も信頼できる部下である。
 ヤマトは男性にしては小柄で中性的な顔つきをしている。可愛い顔をしているが、これでも私より一つ年上である。
 逆にサザルの方は長身で筋肉質な体系をしている。そのくせ、男の癖にロン毛だ。腰まで伸びた髪を後ろで束ねてポニーテールにしている。本人に言った事はないが、私はサザルの髪型はあまり好きではない。
 ちなみに、今ヤマトが言った「カナさん」とは、私のことだ。
 シオリ・カナ。
 組織内で私はそう呼ばれている。
 私はラボに向かって歩めていた足を止めると、後ろの二人の顔に視線を向けた。
「分かったわ。ヤマト、あなたは今から一時間後、他のメンバーと共に事前に話しておいたポイントへ向かって頂戴。ターゲットはファントム・ヘルハウンド」
「了解」
「例の物は?」
「持っています、T2仕様のメモリーのガイアメモリ」
 そう言ってヤマトが取り出して見せたのは黄緑色のUSBメモリのようなもの。
 メモリの中心には脳みそがM字の形になったイラストが画かれていた。
「じゃあ、早速行動に移して」
 私の言葉に頷きで返事を返すと、ヤマトは足早にその場を後にした。
「それで俺は?」
 ヤマトを見送りながらも、次の命令が待ちきれないサザル。
「メンバーの追加は私が申請しておくわ。あなたのチームは戦力が整い次第、二手に分かれて行動を。片方は笛木奏の屋敷、もう片方は人造ファントムの研究所を襲撃。あなたは屋敷のほうへ。どちらも国安ゼロ課に封鎖されているはずだから、十分注意して」
「承知した。任務終了後に連絡する」
 そう言って、サザルも私の前から姿を消した。
「私も急がなくては・・・」
 私も歩き出す。このプロジェクトの成功を信じて。

二. 魔法使い操真晴人 ( No.3 )
日時: 2014/02/27 04:15
名前: 裕 ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)

 ザザァ・・・ザザァ・・・

 波の音がする。

 操真晴人は海に来ていた。懐かしい海に。
 晴人は全ての始まりだったこの海に時々足を運び、自分の精神世界=アンダーワールドの中で眠るコヨミに誓いを立てていた。


 ここには辛い思い出と忘れられない思い出がある。
 悲しみに心を奪われた、一人の父親が引き起こした儀式に巻き込まれ、多くの人間が絶望し、命を落とし、そして多くの魔物が生み出された。

 自分も同じ運命になるところだった。もしかしたら肉体が滅び、竜の魔物が生まれていたかもしれない。でも家族が、両親が教えてくれた。強い心の持ち方を。

 絶望を希望に変える方法を。
 俺は抗った。絶望なんかしてたまるか。
 そして変わった。
 絶望は俺の中で魔法という名の希望に。
 そして出会った。
 希望を求める少女に。

 俺が手にした魔法使いという運命は、結局は一人の男の策略の上で得たものだったけど、これからも、希望を照らす宝石のように輝き続けることを約束するよ。
 コヨミ・・・。


 コヨミは儀式から生き残った晴人が最初に出会った少女だった。
 白い魔法使いから託され、共に大切な時間を過ごしてきた。
 彼女を見守り、時に励まされ、新しい仲間に出会えた。
 でも別れは突然やってきた。その選択を選んだのは彼女自身だった。
 最後に晴人に希望を託して消えていったコヨミ。形見の賢者の石は指輪に形を変え、今は晴人のアンダーワールドで眠っている。


 晴人は眼前に広がる大きな海を見つめながらんんーっと背伸びをした。
「さぁーて、そろそろ帰らないとな。おっちゃんや瞬平が心配する」
 思った以上に長居してしまった。腕時計で時間を確認しながら、ここへ来るのに乗ってきた愛用のバイク、マシンウィンガーの元へ歩き出す。

 と、そこへポケットの中の携帯電話が鳴り出した。
 着信相手は自分の帰りを待つおっちゃんか瞬平だろうな。そう思いながら携帯電話の画面を見た。瞬平だった。予想通り。

 奈良瞬平はファントムとの戦いの中で出会ったゲートだった。
 幼いころから魔法使いに憧れ、魔法使いになることをずっと夢見ていた。

 魔法使いになることは残念ながら叶わなかったが、今では晴人の助手兼、指輪職人=輪島繁の弟子として指輪作りに日々励んでいる。
 おっちょこちょいで騒がしいのがたまにキズだが、晴人の大事な仲間の一人だ。

 きっと電話に出た瞬間、いつもの慌しい声が聞こえてくるのだろう。と、晴人はまた予想しながら携帯電話の通話ボタンを押した。
『大変ですっ晴人さん!!ファ、ファントムが・・・。ファントムがテレビに!!』
 予想以上の慌しさだった。完全に冷静さを失った混乱した声が響き、思わず携帯電話を耳から離してしまったが、重要なワードは聞き取れた。
「落ち着け瞬平!ファントムが何だって?」
 なんとか電話の向こうの瞬平を落ち着かせ、状況を知ることが出来た。

 瞬平が骨董品屋・面影堂で、店主の輪島繁と共に晴人の帰りを待ちながらテレビを見ていた時、突然ファントムがテレビに映りこんだと言うのだ。
 クイズ番組のスタジオに乱入し、暴れているらしいのだが、そのファントムに瞬平は見覚えがあるらしい。

 伝説上の生物の名を持つ怪人、ファントム。奴らはかつて、ワイズマンの指揮の下、ゲートと呼ばれる魔力を持った人間を絶望の淵に叩き落し、その人間から別のファントムを生み出して仲間を増やす事を使命としていた。
(実際には、真面目に動いていたファントムは一部の存在で、実はその使命にも裏の意味があったのだが)

 瞬平が晴人と初めて会ったとき、一体のファントムに騙されてテレビ番組に出演した事がある。その時にとんでもない恥をかかされ、絶望しかけたのだ。ゲートだった瞬平は、その時晴人に救われたのだが、今回テレビに映りこんだファントムがそいつに似ているようだった。

 嫌な事を思い出した。トラウマが蘇る。瞬平は思わず身震いした。
「分かった。とりあえず俺はこれからそのテレビ局に行ってみるから!」
 そう言って電話を切ると、晴人は急いでマシンウィンガーに乗り、猛スピードで走り出した。

 
 ファントムが現れたテレビ局。
 建物の周りは、すでに多くの見物人や他局の報道陣、パトカーと警官達に囲まれていた。その中に女性刑事が一人。警視庁鳥井坂署、国安ゼロ課の大門凛子である。彼女もまた、かつて晴人に救われたゲートの一人だった。

 操真晴人がテレビ局に到着したのは、瞬平の連絡を受けてから20分後の事だった。
「凛子ちゃん!」
 KEEP OUTと書かれた黄色いテープで封鎖され、
立ち入り禁止状態の現場に、晴人が堂々と入って来る。
 慌てて警官たちが晴人を止めようと駆けつけてくる中、
「大丈夫です!彼は私の知り合いで、協力者です」凛子が間に割って入り、事情を説明する。
 納得した警官たちは、「まあ、そういうことなら・・・」と、
渋々納得して持ち場に戻っていった。

 ファントム・グレムリンを倒した後、コヨミの形見の賢者の石=ホープウィザードリングを誰もいない安全な地に眠らせようと旅立ち、一時は皆の前から姿を消していた晴人だったが、目的を果たした後は再び仲間のいるこの街に戻り、ファントム事件の調査を続ける国安ゼロ課の協力者の一人として仕事をしていた。

「で、ファントムは?」
 凛子と共に事件現場のテレビ局を眺めながら晴人が尋ねる。
「ファントムはテレビ局の4階、Gスタジオの中。ビル内にいた社員たちは全員無事で避難済みよ」
「OK!じゃあ、後はファントムを倒すだけだな」
「待って。目撃者の話だと、ファントムは火を使うみたいだから、敵が現れたスタジオ周辺は火事になってるかも・・・。今、消防隊に要請してるところなんだけど・・・」
「大丈夫。俺がついでに消しとくから!」
 凛子の心配をよそに、晴人は意気揚々と答えると、その場を駆け出し、テレビ局の中へ突入して行った。
「あーんもう〜、晴人君ってばぁ!」
 呆れた凛子の声が晴人に聞こえることはなかった。

三. 魔法使い仮面ライダーウィザード ( No.4 )
日時: 2014/02/28 07:05
名前: 裕 ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)

 テレビ局内の非常階段を、晴人は一気に駆け上る。

 エレベーターは故障して使えない可能性があったし、乗った後で途中で止まって閉じ込められるのはごめんだった。魔法を使えば脱出するのは容易いが、無駄に魔力を消費したくなかったし、何より助けに来たくせにエレベーターに閉じ込められるとかカッコ悪すぎる。

 4階に辿り着くと、凛子が言ったとおり通路のあっちこっちに火の粉が飛んで火事になっていた。奥に行くほど炎が広がっているようだった。

「瞬平が見覚えある火を使うファントム、それにこの場所・・・。まさかな・・・」
 晴人の脳裏に一体のファントムの姿が浮かび上がる。かつて瞬平を絶望させ、晴人自身も対戦経験がある敵の姿が。
「ありえないはずなんだけど・・・。まあ、会えば分かるか。まずはこの火を消すのが先決だな」
 考えてる暇は無かった。こうしている間にも炎が広がっていくのだから。

 晴人は右手の中指にはめている指輪を腰のバックルにかざした。
『ドライバーオン・プリーズ』
 電子音声が鳴り響き、晴人の腰に掌の紋章がついた銀色のベルトが出現した。
 ベルトの両サイドのレバーを上下させ、掌の向きを右から左に変更させる。
『シャバドゥビタッチヘンシーン、シャバドゥビタッチヘンシーン』
 再び電子音声が鳴り響く。今度は不思議な歌のような呪文のような音声だった。
 左手の中指に青い魔法石が埋め込まれた指輪をはめ込むと、右手で指輪のカバーを下ろし、晴人は叫ぶ。
「変身!!」
『ウォーター・プリーズ スイースイースイースイー』
 左中指の指輪をバックルにかざすと、青い魔法陣が出現。それを潜り抜け、晴人の姿は青と黒を基調とした魔法使いの姿に変わった。
 仮面ライダーウィザード・ウォータースタイル。


 晴人の魔法使いとしての姿、ウィザードには基本4色の姿がある。
 炎、フレイムの赤。
 水、ウォーターの青。
 風、ハリケーンの緑。
 土、ランドの黄。

 これらの属性と姿を状況に応じて使い分け、時には一つに合わせて戦うのがウィザードの戦い方だ。

 今変身しているウォータースタイルは魔法力に優れ、水を自在に操ることが出来る姿だ。
「はあぁぁぁ・・・はあっ!」
 ウィザード・ウォータースタイルは全身に魔力を溜めると、ロングコートのような黒いローブを翻し、大量の水を一気に放出した。
 水が通路全体に行き渡り、一瞬で炎が消火された。
 ぶすぶすと煙が燻る中、ウィザードは目的のGスタジオ目掛けて走り出す。


 辿り着くと、スタジオの中は焼けた撮影機材や小道具が散乱、そして少し残った炎の中にファントムの姿があった。間違いない、晴人が予想したとおり奴だった。

 ファントム・ヘルハウンド。
 かつて魔力を持った人間=ゲートだった奈良瞬平を付け狙ったファントム。
 テレビ番組の関係者を名乗り、瞬平を魔法使いと信じ込ませ、番組内で全てが偽りであることを種明かしして、公衆の面前で恥をかかせて絶望させた悪質な奴だった。
 この場所がその番組を放送したスタジオ。そしてウィザードがヘルハウンドを葬った場所でもある。

「やっぱりお前だったか・・・。倒したはずなのに、どうしてまたここに?」
 これまで数多くのファントムを倒してきたウィザードだったが、同じタイプのファントムを複数見たことは、“この世界では”一度も無かった。つまり、ヘルハウンドに遭遇するのも、以前このスタジオで倒した時以来二度目ということになる。
 だが、過去のヘルハウンドと今回のヘルハウンド、明らかに違う点があった。

 喋らないのだ。
 過去のヘルハウンドは人間の言葉を喋り、紳士的に振舞いつつも、陰湿な性格を醸し出していた。しかし今回のヘルハウンドはウィザードの問いに答える様子も無く、まるで獣のように「ウウゥ・・・ウウゥ・・・!」と、唸り声を上げるだけだった。
「なんだ?こいつ、言葉が通じないのか?」
 やはり以前のヘルハウンドとは別物なのか?人格を感じさせない目の前の敵に、ウィザードが首を傾げた、その時。
「ウゥアアアオオオォォ!!!」
 ヘルハウンドが突然飛び掛ってきた。
「っと・・・!いきなりかよ!」
 少し驚きつつも、ウィザード・ウォータースタイルはすぐさま構えを取り、ヘルハウンドの右手から繰り出される一撃を華麗に受け流した。
 一度倒した相手に手こずる訳にはいかない。さっさと終わらせるため、次々に敵の体に攻撃を叩き込む。

 相手が拳を繰り出せば、左腕で受け止めて右腕で肘打ちを打ち込み、相手が蹴りを放てば、隙間を潜り抜け、逆に回し蹴りをお見舞いする。さらに体を斜めにして宙を舞いながら二発三発と追加でキックをお返しした。
 ほとんど一方的に攻撃を受け続け、思わず膝を付くヘルハウンド。
 と、ここでウィザードはあることを思い出した。
 たしかこいつは、影の中に逃げ込む能力を持っていたはず。

 以前、その能力に苦戦したことを思い出したウィザードは、右中指の指輪を別の指輪に付け替えた。ベルトのサイドレバーを上下させ、中央の掌の紋章の向きを切り替える。
『ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー、ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー』
 変身の時とは別の待機音声が流れる中、右手の指輪をベルトの掌にかざした。
『ライト・プリーズ』
 頭上に現れた魔法陣から眩い光が放たれ、ヘルハウンドの視界を奪い、同時にスタジオ一帯の全ての影が消滅した。
「影の中に逃げられる前に、先手を打たせてもらったぜ。」
 止めを刺すべく、必殺のキックストライクのウィザードリングを取り出す。
 が、ここでヘルハウンドは予想外の行動に出た。視界が回復していない中、がむしゃらに体当たりして壁を突き破り、テレビ局の外へ逃げ出したのだ。
「なにっ!?ちょっと・・・!」
 思わず呆気にとられながらも、ウィザードはヘルハウンドが逃げ出した穴を覗き込んだ。
 外で待機していた警官や野次馬が、突然飛び降りてきた怪物の姿に困惑する中、ヘルハウンドは右手から炎を放ち、自らのバイク、ブラックドッグを形作り出現させた。

 すでに視界が回復したのか、ヘルハウンドはそのバイクに飛び乗ると、その場から颯爽と走り去っていった。
「ファントムが・・・逃げた!」
 たじろぐ人混みの中で、大門凛子は思わず叫んだ。
「大丈夫!追いかけるから!」
『コネクト・プリーズ』
 壁の穴から飛び降りたウィザードは凛子達の眼前で着地すると、魔法陣から愛車のマシンウィンガーを取り出し飛び乗った。ハンドルグリップを握り締め、エンジンをふかす。
「またバイクで追いかけっこかよ・・・」
 確か前にも同じように、ヘルハウンドとバイクでチェイスをした記憶が・・・。
 予想外の手間取りに愚痴をこぼしつつも、はるか前方のヘルハウンド目掛けてマシンウィンガーを発進させた。


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