二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 仮面ライダーウィザード〜終幕の先〜【完結】
- 日時: 2017/04/15 00:31
- 名前: 裕 ◆.FlbxpLDSk (ID: XGjQjN8n)
こちらでは初めて投稿させていただきます、裕と申します。
今回はこの場を借りて、平成仮面ライダーシリーズ第二期から
「仮面ライダーウィザード」の物語を積み上げてみたいと思います。
個人的解釈としましては、第二期である「ダブル」〜「鎧武」までの作品は、同じ世界観だと思って見ております。なので、今回の物語もそれに沿った流れで書いていこうと思います。それに伴い、第二期各作品(劇場版)の設定も拝借する予定です。
物語の時間軸は「ウィザード」本編の最終回後、さらに言えば冬の映画「戦国MOVIE大合戦」の後の話だと思っていただけると幸いです。
ではでは。
〜登場人物〜
・魔法使いとその関係者
操真晴人=仮面ライダーウィザード
仁藤攻介=仮面ライダービースト
稲森真由=仮面ライダーメイジ
奈良瞬平
大門凛子(国安ゼロ課・刑事)
木崎政範(国安ゼロ課・警視)
ドーナツ屋はんぐり〜・店長
ドーナツ屋はんぐり〜・店員
・財団X
シオリ・カナ(栞 可奈)=仮面ライダーサクセサー
ヤマト=メモリー・ドーパント
ネオン・ウルスランド(局長)
・宇宙仮面ライダー部
野座間友子
ジェイク(神宮海蔵)
仮面ライダーフォーゼ
・鳴海探偵事務所
左 翔太郎=仮面ライダーダブル(左サイド)
フィリップ=仮面ライダーダブル(右サイド)
・怪人
サザル=ファントム・グレンデル
ファントム・ラミアー
ファントム・ヘルハウンド(ログ)
ファントム・シルフィ(ログ)
ファントム・バハムート(ログ)
ファントム・メデューサ(ログ)
グール
クロウ・ゾディアーツ
ペルセウス・ゾディアーツ
黒ネコヤミー
オールド・ドーパント
マスカレイド・ドーパント(白服)
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- 八十二. 絶望溢れ出る時2 ( No.90 )
- 日時: 2016/10/25 00:02
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: iXLvOGMO)
「仁藤!!」
仲間の危機を前に、ウィザードが二振りのウィザーソードガン・ソードモードを両手に構え、再び走り出す。
今、もっとも優先されるべきは、完全に戦意を喪失してしまったシオリ・カナからグレンデルを引き離すこと。
この場にいる三人の仮面ライダー、ウィザードもダブルもビーストもそれは十分理解していた。
理解はしていたが、なかなかそれを成功させられずにいた。
相手が強すぎるのだ。
ウィザードもビーストも、グレンデルがこれまで戦ってきたどのファントムよりも強敵だということを痛感していた。
単純な戦闘力だけなら、賢者の石を取り込み強化したグレムリンよりも上かもしれない。
まだ奥の手を出し惜しみしているとはいえ、その力を使ったとしても果たして勝つことはできるのだろうか。
そんな考えが脳裏を過り、思わず弱気になりそうになるが、今は怖気づいている場合ではない。
頭の中を支配しようとするネガティブな考えを振り払うように、ウィザードは両手の剣をより一層力強く握り締めた。
二振りの刃がグレンデルに襲い掛かる。
パワータイプであるランドドラゴンの腕力も相俟った重い一撃が降掛かるが、果たしてグレンデルは、その攻撃を余裕で防御した。
両手の鋭い爪を使って、タイミング良くソードガンの刃を弾いていく。
「お前たちの相手もそろそろ潮時だなぁ! 俺はこの女の最後の希望をぶち壊して、最後の絶望を生み出す! そしてついに、俺の理想とするファントムの世界が完成するんだぁ!」
ウィザードの攻撃全てを対処しながら、グレンデルは声高らかに宣言した。
そしてそのグレンデルの叫び声が耳に届いた時、今まで戦意を失いその場に座り込んでいたシオリ・カナがハッと我に返った。
この場所に来る前、カナは予想していた。
15年間、グレンデルはサザルとして私のそばに付き、私を監視していた。
だから私の希望——私の大切なものは全て把握しているはず。
把握していたから、グレンデルは両親を殺し、ヤマトを殺し、サクセサーのベルトを破壊した。
だとしたら、グレンデルの最後の標的は私が愛した人。
つまりそれは——。
次の瞬間、カナはありったけの声で叫んでいた。
「逃げて瞬平ぇえええええーーー!!!」
カナの絶叫が、雷鳴轟く摩天楼に木霊した。
その場にいた誰もがカナの唐突な叫びに戸惑いを覚えたが、そんな中、グレンデルだけはニヤリとほくそ笑んでいた。
カナの絶叫に思わず攻撃の手を緩めてしまったウィザードに、グレンデルは強烈な蹴りを叩き込んだ。
「ぐっ!?」
ウィザードはたまらず両手の二振りのウィザーソードガンを手放してしまいながら、背後に大きく吹き飛んだ。
グレンデルはウィザードを蹴り飛ばすと、先ほど見せた超人的瞬発力で今度は瞬平の懐に入り込んだ。
「えっ……あ……」
ほんの一瞬の出来事に、戸惑うことしかできない瞬平。
そばにいた凛子も友子もジェイクも、敵のあまりにも速い動きに対処できるはずもなく、オロオロするばかりだった。
「逃げろ瞬平!!」
「瞬平ぇ!!」
グレンデルの攻撃のダメージが大きく、すぐには身動きが取れないウィザードとビーストも必死に叫んでいた。
「やらせるかよ!」
唯一動けるダブル・ルナジョーカーが、少し離れた位置から咄嗟に右腕を伸ばした。
鞭のようにしなる金色の右腕が、グレンデルの巨体に絡み付く。
なんとか瞬平から引き離そうと全力でグレンデルを引っ張るが、怪力のグレンデルに対してパワー負けしているルナジョーカーではビクともしなかった。
「翔太郎! ルナジョーカーの力では奴を引っ張り上げるのは無理だ! どうにかしてヒートメタルにメモリを換えよう!」
「そりゃあ換えたいのは山々だけどよぉ、フィリップ……! この体勢じゃ……ど、どうにも……」
ダブルの右半身——フィリップの助言を聞き入れるものの、右腕を封じられ、実行に移すことができないダブル。
ダブルの肉体である翔太郎も困惑していた。
そんなことをしている間に、グレンデルは怪力でダブルの右腕を解いた。
解いた右腕を掴むと、グレンデルは逆にダブルを引き寄せ、その首を掴んで締め上げた。
「ぐぁっ! ……や、やべぇ……」
「邪魔してんじゃねぇよ! 部外者のクセによぉ!」
一層強まるグレンデルの握力に、窒息に陥るダブル——翔太郎。
「翔太郎!!」
意識だけのフィリップが思わず叫ぶ中、グレンデルは首を鷲掴みにした状態でダブルの身体を頭上に持ち上げると、軽々とビルの外側に放り投げた。
「「うわぁああああああ……」」
「ダブルっ!!」
ウィザードの叫びも空しく、ダブルは悲鳴だけを残して、地上目掛けて真っ逆さまに落ちていった。
「さあて、邪魔者は消えた。改めて、人柱になってもらうぜ!」
ダブルが消え、矛先は再び瞬平に向けられる。
グレンデルはニヤリと笑みを浮かべ、右手の爪をギラリと光らせた。
「早く逃げろ瞬平!!」
「急げ瞬平ぇ!!」
「お願いやめてぇ!! 逃げて瞬平ぇえええ!!!」
なんとか立ち上がろうとするウィザードとビーストの叫び。そしてシオリ・カナの悲鳴にも似た絶叫が轟く中、ついにグレンデルはその爪を瞬平に突き立てた。
「あっ……が……」
その瞬間、グレンデルの残虐の爪は瞬平の腹を貫いていた。
- 八十三. 女帝誕生 ( No.91 )
- 日時: 2016/11/06 00:33
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: pUqzJmkp)
「瞬平ぇえええーーー!!!」
眼前の信じ難い光景を前に、ウィザードは咄嗟に叫んだ。
グレンデルの鋭い爪が瞬平の腹部を貫通し、ジワジワと溢れる真っ赤な血が、瞬平の服を真紅色に染めていた。
「はる……とさん……。かな……さ……ん……」
まるで火傷をしたように腹部が熱くなっていくのを感じながら、瞬平の意識は遠のいていった。
力の抜けた手足が宙ぶらりになり、吐血した血液が半開きになった口から垂れ落ちる。
ゆっくりと閉じる両目の瞼が、瞬平の意識が完全に消え失せたことを物語っていた。
グレンデルは確かな達成感を感じながら、瞬平の腹を貫いた右手を無慈悲に引き抜いた。
刹那、瞬平の身体は捨てられた玩具のように、その場に音を立てて倒れこんだ。
「しゅ、瞬平君? ちょっと! ねえ! 瞬平君!?」
もっとも近くにいた凛子が、愕然としながらも倒れた瞬平のそばに駆け寄る。
腹部からドクドクと溢れ出た血液が、強まり続ける雨に混ざって流されていく。
「そいつはもう助からねぇよ! そいつは俺の長年の夢である、悲願達成のための礎になる定めなんだからなぁ!」
グレンデルは自分の右手から滴る瞬平の赤い血を見つめながら、満足げな表情を浮かべていた。
そしてその視線は、最後の絶望に叩き落されたシオリ・カナに向けられる。
瞬平が力尽きた瞬間、カナの心は完全に破壊された。
心の中の大事な部分を守護していた最後の一欠片さえも砕け散り、奥底で蓄積され続けていた真っ黒な闇が今、一気に膨張を始めた。
「ハッ……ハッ……ハッ……ハッ……」
赤い血に染まり、動かなくなった瞬平を見つめたまま、カナの呼吸が大きく乱れだす。
同時に白い頬には亀裂が走り、少しずつカナの身体を侵食し始めていた。
「まずい! 彼女にひびが……」
仲間の悲劇を前に、自分自身までもが絶望しそうになるのを必死に押さえ込みながら、ウィザードは立ち上がる。
しかし、隠し切れない焦りが、ウィザードの行動や思考を完全に鈍らせていた。
正しい判断も次なる行動も、今のウィザードにはわかる筈もなかった。
そんな中、
「うぉおおおおおおお!! まだだぁああああ!!」
ウィザードよりも先に、行動を起こしたのはビーストだった。
考える間もなく駆け出したビーストは、すっかり勝ち誇っていたグレンデル目掛けて、バッファマントを駆使した突進攻撃を仕掛けた。
さっきの一撃目はパワー負けして不発に終わったが、今度は相手が油断していたこともあって完全に直撃だった。
「うおっ!?」
バッファマントの二本角に弾き飛ばされたグレンデルは体勢を崩し、そのまま水飛沫を上げながらヘリポートの上を転がった。
ビーストはすぐに瞬平のそばへと駆け寄ると、右手の指輪を付け替えた。
『ドルフィ! GO! ドッドッドッドッドルフィ!』
出現した魔法陣を潜り抜けると、ビーストの右肩にイルカの頭部を模した肩アーマーが付いた青いマントが装着された。
ドルフィマントは治癒魔法を可能にするもの。
主に毒効果を無効にする際に使用されるものなのだが、ビーストは躊躇なく瞬平に向かってマントを靡かせた。
マントから発せられた青い光が意識のない瞬平を包み込む。
「ちょっと仁藤君! それって毒とかを打ち消すための魔法でしょ!? 今の瞬平君に効果なんてあるの!?」
瞬平に付き添う凛子がビーストの行動を見兼ねて言い放つが、ビーストは止めることもなく。
「知るかよ! それでも何もしないよりはマシだろう! 晴人もしっかりしろ! 今行動を起こさなかったら、本当に何もかもお仕舞いになっちまうぞ!」
「……! 仁藤……。ああ、そうだな!」
ビーストの一喝で冷静さを取り戻したウィザードは、ゲートのアンダーワールドに入り込むことができる“エンゲージ”の指輪を取り出した。
「今ならまだ間に合う……!」
そう呟きながらカナの元へ駆け寄るウィザードだったが、カナの手に指輪をはめ込もうとした次の瞬間、
「ウァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
突然、カナが絶叫した。
その声は雨音や雷鳴をも打ち消すほどで、一気に周囲の空気を凍て付かせた。
そして絶叫と同時に、カナの身体から黒い波動のようなものが放たれた。
波動に動きを阻まれたウィザードは背後に大きく吹き飛んだ。
「うわっ! な、なんだっ!?」
なんとか体勢を維持したまま着地したウィザードだったが、眼前の出来事に驚きを隠せないでいた。
黒い波動を放出したまま、カナの身体が崩壊していく。
亀裂は既に全身にまでに行き渡り、ひび割れた肉体が次々に剥がれ落ちていた。
「——アアアアアアアアアアアアア!!!! ……シュン……ペイ……」
微かに残ったカナの意思が、最後の言葉を漏らして儚く消えた。
それは死んでも死にきれない程の無念の中で、最愛の人を最後まで気に掛けた彼女の優しさだった。
死の間際で見せた、彼女の最後の優しさだった。
絶望の中で、僅かな光を残して彼女は散った。
そして消えた命の後に現れたのは、最も邪悪で最も狂気に満ちた最凶の怪物の姿だった。
「ヒャァハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
完全に砕け散ったカナの肉体から、天に昇る勢いで飛び出してきた真っ黒な闇が、巨大な蛇のファントムに形を変えた。
その風貌は、ゲートのアンダーワールドに現れる巨大ファントムと現実世界で行動する人間大サイズのファントムを合わせたような姿をしていた。
下半身は竜の如く太く長い大蛇の尾の形をし、上半身は蛇の鱗を身に纏った女性の人型をしている。
消えたカナの悲痛な叫びがまるでそのまま変化したように、今度は酷く下劣で甲高い笑い声がその場に響き渡る。
待ち望んでいた“女帝”の誕生に、グレンデルの心は躍っていた。
自らの誕生を歓喜するように大声で笑っていた蛇のファントムは、満足したのかようやく笑うことを止めると、一瞬間を置いてからゆっくりと言葉を発した。
「我が名は……ラミアー。全ての光を無に帰す存在……」
その言葉はシオリ・カナとまったく同じ声だったが、確かに別人のものだった。
「そんな……。間に合わなかった……」
正面に聳える“女帝”を前に、ウィザードは愕然としていた。
「マジか……」
瞬平に治療を施すビーストも思わず言葉を失う。
「貴方様の誕生、心よりお待ちしておりました。俺の名はグレンデル。貴方様の誕生を誰よりも望み、この瞬間を“500年以上”も待ち倦んでおりました。一生貴方様に仕える所存であります」
ファントム・ラミアーの前にやって来たグレンデルは、今までの暴圧的な態度から一転、深々と頭を下げてラミアーに敬意を表した。
(500年以上……?)
グレンデルの言葉を聞いていたウィザードは、その言葉に何か引っ掛かるものを感じた。
「そうか……。我がこの世に生まれ出でたのは、貴様の所業の賜物、ということか……」
「然様でございます。是非、貴方様の——ラミアー様の力の一端をこの場でお見せくださいませ。そこにいる奴らは、貴方様の誕生を妨げようとしていたこの世界で最も愚かな魔法使い共であります。貴方様のお力で、奴らに鉄槌を!」
「……よかろう」
ラミアーは不気味に光る唇をスッと指先で撫でると、まるで唾を吐き捨てるように、ウィザード目掛けて口から紫色の毒液を噴射した。
「やばいっ!」
『ディフェンド・プリーズ』
ウィザード・ランドドラゴンはすかさず防御魔法を発動、眼前に生成された土の壁が毒液を防ぐ。が、
「なにっ!?」
なんと、付着した毒液は土の壁を一瞬にしてドロドロに溶かしてしまった。
「そのような低級魔法で我が毒の魔力を防げるものか!」
そう言ってラミアーは毒液を連続で発射する。
ウィザードは後退しながら立て続けに土の壁を生成していく。
『ディフェンド・プリーズ』
『ディフェンド・プリーズ』
『ディフェンド・プリーズ』
しかし、生み出される土の壁全てがことごとく溶かされてしまう。
そして、ウィザードが毒液の対処に気を取られていた次の瞬間、死角から巨大な蛇の尾の一振りが凄まじい勢いで飛んできた。
「ぐわぁああああああ……」
蛇の尾に弾き飛ばされたウィザードの身体が、ヘリポートの上に激しく叩きつけられる。
- 八十四. ラミアー ( No.92 )
- 日時: 2016/11/15 00:06
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: 4IM7Z4vJ)
「晴人!!」
「晴人君!!」
ビーストと凛子が雨に打たれながらウィザードの名を叫ぶ。
「ヤバイ……ヤバイよ。強すぎるよアイツ……」
「左さん達も操真さんも、このままじゃ皆やられちゃう……」
戦いを見守るジェイクと友子も、この危機的状況に思わず表情を曇らせる。
「まだだっ! このまま負けるわけにはいかない!」
すぐに立ち上がり、体勢を立て直したウィザードは右手の指輪を付け替える。
『タワー・プリーズ』
それは昨日、瞬平から渡された新たな二つの指輪、そのうちの一つからなる魔法。
ウィザードの真下に生成された石柱が、ウィザードを押し上げながら天に向かって突き出した。
ウィザードはその勢いで灰色に染まった上空まで跳躍すると、すぐにまた、右手の指輪を交換した。
『チョーイイネ! スペシャル! サイコー!』
上空を降下するウィザードの両腕に、竜の爪ドラゴヘルクローが装着される。
ウィザードはそのまま落下の勢いを利用して、ラミアーの胸に両手の鉤爪をを突き立てた。
しかし、
「我が鱗の前に、貴様の爪はあまりに無力……」
ラミアーの全身を覆う蛇の鱗に、ウィザードの竜の爪は通用しなかった。
ラミアーの手から放たれた衝撃波が、ウィザードを空中に押し戻す。
動きの自由が利かない空中に放り出されたウィザードは、今度は左手の指輪を付け替えた。
黄色の魔法石の指輪から青色の魔法石の指輪へ。
『ウォーター・ドラゴン ジャバジャババシャーン、ザブンザブーン!』
ウィザードは空中で魔法陣を潜り抜け、ウォータードラゴンへとスタイルチェンジした。
そして新たに付け替えた右手の指輪をベルトにかざす。
『リキッド・プリーズ』
液状化したウィザードは空中で方向転換し、ヘリポートの上に舞い戻った。
「姑息な技だ……」
威厳に満ちた態度を保ち続けるラミアーは、ウィザードの魔法に一切動じることもなく、すぐさま二撃三撃と衝撃波を繰り出した。
ウィザードはラミアーの攻撃をなんとか回避しながら両手の指輪を交換した。
『フレイム・ドラゴン ボォー、ボォー、ボォーボォーボォー!』
『スペシャルラッシュ・プリーズ フレイム! ウォーター! ハリケーン! ランド!』
炸裂した衝撃波から巻き起こる黒煙の中で、ウィザードはさらに姿を変えた。
フレイムドラゴンへとチェンジしたウィザードの身体に、赤色に染まったウィザードラゴンの各部位が武装される。
その姿は魔道具ドラゴタイマーを使用して四つのエレメントを一つにしたオールドラゴンの姿と酷似しているが、それと違って全身を炎の如く真紅色に染めたその名はウィザード・スペシャルラッシュ。
かつて美少女仮面ポワトリン——上村優が魔力を振り絞って作り上げた指輪を使用し、変化を遂げたウィザードの特殊形態。
戦闘力はオールドラゴンには劣るものの、変身プロセスの速さが利点となり、ウィザードはこの姿を選んだ。
「絶対に諦めない! 俺が最後の希望だ!」
ウィザード・スペシャルラッシュは黒煙の中から再び上空へと飛び立ち、胸部に具現化した赤いウィザードラゴンの頭部ラッシュスカルから熱き炎を放射した。
ラミアーは前面で両腕をクロスさせ、ウィザードの炎を防御すると、お返しと言わんばかりに口から毒液を発射した。
ウィザードは背中の赤い翼ラッシュウィングを羽ばたかせ、旋回しながら毒液を回避していく。
「小バエのように飛び回りおって……鬱陶しい!」
ラミアーは攻撃を毒液から衝撃波へと再び変更すると、飛翔するウィザードの軌道を先読みして狙いを定めた。
そして、ウィザードが飛び過ぎようとしている空間目掛けて衝撃波を放った。
「くっ!」
飛んでくる衝撃波を察知したウィザードは、両腕のラッシュヘルクローを振るって衝撃波を掻き消し、腰部のドラゴンの尾ラッシュテイルを伸ばして槍のように突き立てた。
ラッシュテイルの先端がラミアーの首元に食い込むが、やはり蛇の鱗に阻まれて傷つけることはできなかった。
「笑止……。貴様の攻撃は無力だと、何度も言わせるでないわぁ!」
ラミアーは嘲笑いながら言い放つと、首元まで伸びたウィザードの赤い尾を片手で掴み、ウィザードをヘリポートに叩き付けた。
「がはっ……」
あまりの衝撃に、ウィザードの身体がヘリポートの表面にめり込む。
ダメージは大きく、その衝撃に一瞬呼吸困難に陥ったウィザード。
スペシャルラッシュも強制的に解除され、元のフレイムドラゴンに戻ってしまった。
「晴人君!!」
ウィザードの無残な姿を前に、凛子が再び叫ぶ。
「畜生! 助太刀してぇのは山々なんだが、こんな状態じゃ動くに動けねぇ……」
瞬平の治療に掛かりっきりのビーストも、身動きの取れない自分に歯がゆい思いをしていた。
「やっぱこの魔法じゃ駄目なのか……。おい! 頼むぜキマイラ! 俺の命、全部くれてやるからよぉ、頼むから瞬平を助けやがれぇ!」
ドルフィマントの光を浴び続ける瞬平だったが、容態は一向に変わらず、そのことに焦りと苛立ちを隠し切れないビーストは、自分の中に潜む力の源、ファントム・キマイラに向かって思わず感情的になってしまう。
「……なんか、俺らにできることってないのかな? ただ突っ立っているだけなんて……」
絶体絶命のウィザード。焦るビースト。瀕死の瞬平。彼らを心配する凛子。そして生死不明のダブル。
この状況を前に、ただ呆然と立ち尽くしているだけの自分達が情けなくって仕方ない。
戦う力を持たないことがこんなに悔しいなんて。と、雨の中、戦の中でジェイクは思っていた。
勿論それは隣に立つ友子も同じだった。
二人はこの気持ちを何度も味わってきた。
同じ仮面ライダー部の仲間であり、自分達が最も知る二人の仮面ライダー、フォーゼとメテオが苦境に立たされる度に何度も。
けれども、力がなくとも共に戦ったことも確かにあったはずだ。
そう。“一緒に戦う”ということは、何も肩を並べて共に拳を振るうということだけではないはずだ。
力を持たない者には、力を持たない者なりの戦い方があるはずなのだ。
「何かあるはずよ、私達にもできることが……」
そう言った友子の瞳には光が宿っていた。
得意分野である直感を研ぎ澄まし、過去に自分が経験し、目撃してきた仲間達の戦いからこの状況を覆すヒントを読み取るのだ。
瓦礫を退かしながら、ウィザードは立ち上がる。
この男も決して諦めるつもりはなかった。
「まだまだ……。今度はこれならどうだ!」
ウィザードの左手中指には白銀に光る指輪がはめ込まれていた。
それをベルトにかざした瞬間、ウィザードの身体は魔法陣に包まれる。
『インフィニティー・プリーズ ヒースイフードー、ボゥーザバビュードゴーン!』
赤い炎のフレイムドラゴンの姿から、白銀色のインフィニティースタイルへとウィザードの肉体は変化した。
「ドラゴン、来い!」
仮面ライダーウィザード・インフィニティースタイルの呼びかけに応えて現れたウィザードラゴンの幻影が、専用武器アックスカリバーへと変化しウィザードの右手に収まった。
「随分と諦めの悪い奴だなぁ、ウィザード!」
ウィザードとラミアーの戦いを観客気分で見物していたグレンデルは、馬鹿にするような態度でウィザードを罵倒する。
「言ったはずだ! 俺は最後まで諦めない!」
『インフィニティー』
ウィザードは左手の指輪をベルトにかざし、時間干渉による高速移動を発動させた。
刹那、ウィザードの姿はその場所から消え、グレンデルが瞬きした瞬間に、ウィザードはラミアーの腹部に刃を振り下ろしていた。
「ぬっ……!? 速い……」
アックスカリバーの刃は、やはりラミアーの鱗を貫通することはできなかったが、それでも斬撃から発せられた衝撃は、ラミアーの巨体を少しだが後退させていた。
ラミアーはウィザードを捕らえようとすぐに腕を伸ばすが、ウィザードはすかさず高速移動で距離を取り、それを回避する。
そして、またすぐに光のスピードで再接近し、斬撃を与える。
まさにヒットアンドアウェー。
ウィザードはこの戦法を繰り返してラミアーを攻めていく。
一方、ウィザードとファントムの死闘を尻目に、友子の直感が何かを捉えた。
「あの、仁藤さんの中から……野獣の気配を感じるんですけど……」
「えっ!? 友子ちゃん、なんでわかるの!?」
唐突に友子が口にした言葉に、凛子は驚きを隠せなかった。
確かに攻介の身体の中にはファントム・キマイラが宿っている。
しかしそれを、ごく普通の女子高生が見抜くなんて。
「いえ、なんとなくですけど……」
なんとなく? それはもう超能力の領域なのでは?
そう思いながらも、凛子は友子に説明した。
「……仁藤君の中にはキマイラっていうファントムがいてね、仁藤君は魔法が使える代償としてキマイラに餌を——つまり他のファントムの魔力を与えなくちゃいけないの」
「キマイラが食べるのは魔力だけなんですか?」
「え? そのはずだけど……」
首を傾げながら答える凛子だったが、そこへ突然、ビーストが口を挟んだ。
「いや、そうとも言えねぇ。ここ暫くは魔力の他にも、少し前に森で見つけた変な果実も食わせてた。オーガの事件の後に迷い込んだ森で見つけたモノなんだけどな。キマイラの奴がそいつを気に入ったんだよ」
ビーストのその言葉を聞いて、友子の脳裏にある光景がフラッシュバックする。
それはサッカー場での戦いで、ビーストが不思議な形状の果実をベルトに吸収していた時のこと。
「そういえば……。じゃ、じゃあ……魔力以外のエネルギーも摂取することは可能なんですか?」
「キマイラが気に入れば……多分な」
ビーストがそう言った途端、何かを確信した友子は慌てて携帯電話を取り出し、何処かに電話を掛け始めた。
- 八十五. 諦めない戦士たち ( No.93 )
- 日時: 2016/12/14 00:07
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: hjs3.iQ/)
高速移動を駆使して反撃していたウィザードだったが、その攻撃に焦燥したラミアーは、カッと蛇の如き鋭い目を見開いた。
次の瞬間、光の速さで駆けるウィザードの動きを完全に補足したラミアーは、ウィザードの動きに合わせて凄まじいスピードで蛇行し、巨大な蛇の尾でウィザードの全身に巻きついた。
ラミアーのスピードは瞬間的ではあったが、ウィザード・インフィニティースタイルのスピードを完全に超越していた。
「ぐあああぁぁぁああ……」
一瞬にして動きを封じられ、身体を締め付けられたウィザードが悲鳴を上げる。
圧倒的な防御力を誇っているはずの結晶状の鎧にも亀裂が走る。
それほどまでに、ラミアーの締め付ける力は強かった。
「素晴らしい! さすがはラミアー様。まさに“女帝”の名に相応しい御力!」
一方的にウィザードを追い詰めるラミアーの力に、グレンデルは欣喜雀躍していた。
「このまま潰れて死ね! 目障りな魔法使い!」
ラミアーはより一層力強くウィザードを締め付ける。
「がっ……ああぁぁああ……」
ウィザードはさらに大きな悲鳴を上げながら、巨大な蛇の尾の中でもがき苦しんでいた。
ひびの入った結晶状の鎧の亀裂も、ビキビキと音を立てながら徐々に広がっていく。
この形態では身体を液状化させるリキッドの魔法も使えない。
ラミアーの締め付けから脱する術を失ったウィザードの身体に、凄まじい圧力が加わっていた。
このままでは身を守る鎧が砕け散り、その瞬間に押し潰されて圧死してしまう。
まさに絶体絶命の状況だった。
「このままじゃ晴人君が……。仁藤君!」
傷つき苦しみ、まさに虫の息まで追い詰められたウィザードの姿を見ていられなくなった凛子が、我慢できずビーストに助けを求める。
「ああああ〜もう! わかってる皆まで言うな!」
ウィザードの危機に居ても立っても居られなかったのはビーストも同じだった。
しかし瀕死の瞬平も勿論放っておく訳にはいかない。
どちらも気掛かりでしょうがなかったビーストは、凛子の一声で決心した。
やむを得ずウィザードの救助に向かおうと、ドルフィマントの光を止めようとした。
と、その時だった。
突然、上空からバルカン砲の弾幕が勢い良く降り注ぎ、ラミアーの巨体に命中した。
蛇の鱗に弾かれ、ダメージは皆無だったが、その突然の攻撃にラミアーは思わず動きを鈍らせた。
「なんだ!?」
ラミアーが上空を見上げると、その眼に映ったのは飛行バイク——ハードタービュラーに跨った仮面ライダーダブル・ルナメタルの姿だった。
「ダブルてめぇ、生きてやがったのか……」
グレンデルは不快な表情で上空にいるダブルの姿を睨みつけた。
このヘリポートから、地上目掛けて投げ飛ばした筈なのになぜ……。
「当然だ! 俺達は仮面ライダーだ。そう簡単に死ぬわけねぇだろうが!」
ダブルの左側——翔太郎は誇らしげに言い放つと、マシンのグリップを力強く回転させた。
滑空しながら急降下するハードタービュラーの上で、ダブルは背面に携行された棒状の武器メタルシャフトを手に取り、メタルメモリをマキシマムスロットに装填した。
『メタル・マキシマムドライブ!』
電子音声が鳴り響く中、ダブルはメタルシャフトを二度三度振るって無数の金色の光輪を出現させた。
「「メタルイリュージョン!!」」
翔太郎とフィリップは息を合わせて同時に叫ぶ。
ダブルが力強くメタルシャフトを振り下ろした瞬間、ダブルの周囲に留まっていた無数の光輪は一斉に飛び出し、次々とラミアーの身体に直撃した。
その衝撃にラミアーの巨体は若干だがよろめき、ウィザードを締め付けていた蛇の尾に僅かな隙間ができた。
「手ぇ伸ばせウィザード!」
急降下するハードタービュラーの上から、ダブルは銀色の左手を差し出した。
「ダブル……」
ウィザードはぐったりとしながらも、なんとか力を振り絞ってその手を伸ばす。
ラミアーが怯んだ隙に、ダブルはウィザードが伸ばす手をしっかりと握り締め、掴むと同時にハードタービュラーを急上昇させた。
旋回しながらラミアーとグレンデルから距離を取ると、ダブルとウィザードは凛子達の前に飛び降りた。
無人となったハードタービュラーが飛び去る中、着地したダブルとウィザード。
しかし、ダメージが大きいウィザードはそのまま体勢を崩して倒れこんでしまった。
「晴人君!」
慌ててウィザードの傍に駆け寄る凛子。
「大丈夫かい? ウィザード」
ダブルの右側——フィリップも心配そうに声を掛ける。
「ああ……。なんとか……」
息を荒くしながらも受け答えするウィザード。
「良かった……」
「心配掛けんじゃねぇよ、馬鹿野郎!」
意識がハッキリしている彼の姿に、その場にいる誰もが安堵した。
凛子の瞳には、雨に混ざってはいるが確かに涙が溢れ、ビーストも口調こそぶっきらぼうだが、間違いなく一安心していた。
「ダブルの方こそ……、よく無事だったな……」
「ああ。落とされた時は正直肝を冷やしたが、ルナジョーカーの姿だったから助かった。手摺まで手を伸ばすことができたからね。ただ、体勢を立て直すのとタービュラーを呼び出すのに予想以上に手間取ってしまった。おかげで戻って来てみれば状況は最悪の形になっていた。……とにかく、今はあのファントム達を倒すことが先決だ」
「待ってくれ……」
戦いに戻ろうとするダブルを、ウィザードは咄嗟に引き止める。
「あの蛇のファントムは……俺にやらせてくれ」
「蛇のファントム? じゃあやっぱり……彼女はもう……」
ウィザードの言葉を聞いて、ダブルは悟った。
シオリ・カナは絶望し、あの蛇のファントムを生み出して消滅したということを。
そして、彼女が最後の絶望に堕ちたきっかけが、視線の先で血まみれで倒れている奈良瞬平だということを。
「しかしウィザード、傷だらけの今の君では……」
「頼む……。瞬平や……絶望の中で消えてしまった“彼女”のためにも……俺に戦わせてくれ!」
そう言ったウィザードの言葉は力強く、決意に満ち溢れていた。
「やらせてやろうぜ、フィリップ。男には、理屈抜きで何かを成し遂げたい時があるもんだ。コイツの——ウィザードの覚悟は本物だぜ」
ウィザードの気持ちを真っ先に察したのはダブル——翔太郎だった。
「……仕方ない。僕の相棒の言葉と、君の仮面ライダーとしての力を信じよう」
ダブル——フィリップは少し考えた挙句、ウィザードの意思を尊重することにした。
「そうと決まれば、俺達の相手はあの一番いけ好かねぇケダモノ野郎だ!」
「ああ。ビーストが動けない以上、グレンデルはなんとしても僕達だけで倒そう! ……あ、そうだ。ビースト、君のその魔法は確かに人の傷を癒す力は持たないが、衰弱を遅らせることはできるはずだ。そのまま治癒を続けていれば、必ず奈良瞬平を救う手立てが見つかるだろう」
戦いに出向く直前、ダブルの右半身であるフィリップは咄嗟にビーストにアドバイスを告げる。
「本当か!? って、なんでお前に俺の魔法のことがわかるんだよ? しかも、俺が知らないようなことを……」
「ふふっ。君たちの魔法のことは、ここへ来る前にあらかじめ検索して閲覧させてもらったよ。共に戦う仲間の能力のことは、事前に知っておかなくちゃね」
ダブル——フィリップは肩越しに悪戯っぽく笑うと、不意にビーストのすぐ傍にいた野座間友子に視線を送った。
それは一つのアイコンタクトのようにも思える動作だった。
「えっ?」
既に謎の電話を終わらせ、成り行きを見守っていた友子はその視線に思わず首を傾げる。
ダブルは特に言葉を返すわけもなく、視線をラミアーとグレンデルの方に向ける。
「それじゃあ行くぜ! フィリップ!」
「ああ。行こう! 翔太郎!」
二人は頭の中を完全に戦闘モードに切り替えると、ダブルはヒートのガイアメモリを取り出した。
『ヒート!』
『ヒート・メタル!』
ダブルドライバーの右側のスロットにヒートメモリが装填され、ダブルの右半身が真っ赤に燃え上がる。
ダブル・ルナメタルは赤と銀のヒートメタルへと姿を変えた。
メタルシャフトを右手に構えると、ダブルは颯爽と走り出す。
目標はラミアーの傍に仕えるファントム・グレンデル。
「俺も……行ってくる!」
ウィザードはふらつきながらもなんとか立ち上がると、再びアックスカリバーを手にゆっくりと前に歩みだす。
「晴人君!」
その後姿に不安を隠しきれない凛子は、ウィザードの背中に向かって思わず声を掛ける。
「大丈夫……。絶対に負けないから……」
背を向けたまま、声を振り絞るように凛子に告げると、ウィザードは力強く歩を進め、徐々にその速度は加速していく。
「どうなるのかな、俺達……」
駆けるウィザードとダブルの姿を、凛子と共に見届けるジェイクは呟くように言葉を漏らした。
「大丈夫……。きっと勝てる……。だって皆、仮面ライダーだもの……」
背後から、そう言って声を掛けてきたのは友子だった。
「友子ちゃん、そういえばさっき、一体何処に電話してたの? こんな大変な時なのに……」
「大丈夫。すぐに来てくれるって」
「えっ? 誰が? 何の話?」
友子の唐突な言葉に、かみ合わないジェイクは困惑する。
- 八十六. 最後の助っ人 ( No.94 )
- 日時: 2016/12/21 00:16
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: JbPm4Szp)
徐に足を止めたダブルはグレンデルと対峙していた。
「はっ! 四人がかりでも敵わなかった俺に、たった一人で挑むつもりか?」
グレンデルは両手を広げて挑発するような仕草を見せる。
「一人じゃねえよ。俺にはフィリップがいる!」
「僕には翔太郎がいる!」
「俺達は二人で一人の仮面ライダーだ! 互いに相棒が傍にいる限り、俺達はどんな奴にも負けはしねぇ!」
「ああそうかい! だったらこっちも、一人じゃねえぞ! ラミアー様!」
グレンデルの一声を受けたラミアーが、ゆっくりとダブルに掌を向ける。
ラミアーの手には黒いオーラが集中していた。
「消えろ……!」
強力な衝撃波が今まさに、放たれようとしていた。
だがその時。
『ハイタッチ! シャイニングストライク!』
突如、ウィザードが振りかざす巨大化した斧の一撃が、ラミアーを豪快に吹き飛ばした。
地響きを立てながら、ラミアーは初めて地面に肩を着けた。
「お前の相手は……俺だよ!」
元の大きさに戻ったアックスカリバー・アックスモードを手中に収めながら、ウィザードは告げる。
「愚劣なことを……。今度こそ滅ぼしてくれる!」
今の一撃に激怒したラミアーは、蛇の如き動きで素早く体勢を立て直すと、蛇行しながらウィザードに飛び掛った。
左右に揺れながら、不規則な動きで迫り来るラミアー。
先ほど見せた超加速ほどのスピードではなかったが、どの方向から攻撃が飛んでくるのか予測が難しく、ウィザードは判断に困惑した。
右か。左か。迷っている暇はない。
ウィザードは一か八か、博打に打って出ることにした。
『インフィニティ』
ラミアーがウィザードに一撃を与えるために左方からその手を伸ばした瞬間、ウィザードは高速移動を発動させて右方向にダッシュした。
運試しではあったが、幸いにもウィザードの判断は功を奏し、ラミアーの攻撃から距離を取ることに成功した。
ウィザードはその超スピードのままラミアーの死角——背後に回りこむと、すかさず右手の指輪をベルトにかざす。
『エクステンド・プリーズ』
展開した魔法陣に、再びカリバーモードに持ち方を変えたアックスカリバーの刀身を潜らせた。
“エクステンド”は身体の一部、または物体を鞭のようにしならせて伸縮を可能にする魔法。
その能力が付加されたアックスカリバーの刀身は、ウィザードが振りかざす腕の動きに合わせて何度もラミアーの鱗を叩き付けた。
刃の鞭と化したアックスカリバーの攻撃を為されるがままにその身に受けるラミアー。
圧倒的防御力を持つ蛇の鱗のおかげでダメージは皆無だったが、四方八方から次々と隙なく打ち出される刃の攻撃に、ラミアーは次の一手を繰り出せずにいた。
白熱するウィザードとラミアーの戦い。その傍らではダブルとグレンデルが激闘を繰り広げていた。
仮面ライダーダブル・ヒートメタルが操るメタルシャフトと、グレンデルの両手の鋭い爪が激しくぶつかり合う。
炎が噴き出るメタルシャフトの先端から繰り出される一撃を、グレンデルの左手の爪が弾き返し、その隙に右手の爪がダブルの喉元を狙う。
それを察知したダブルの中のフィリップの意識が、咄嗟にメタルシャフトの反対側の先端を前に突き出し、爪の攻撃を防御する。
そんな、両者一歩も引かずの攻防が暫くの間続いていた。
「死に損ないの分際でいけしゃあしゃあと出しゃばりやがって……。何が仮面ライダーだ! 馬鹿馬鹿しい!」
一瞬の隙を突いて、グレンデルの一撃がダブルの手からメタルシャフトを叩き落とした。
すかさず、グレンデルは無防備になったダブルのボディを切り裂くと、続けざまに腹部目掛けてキックを打ち込んだ。
蹴り飛ばされたダブルは水飛沫を上げながらヘリポートの上を転がる。
しかし、転がりながらもダブルは左半身のガイアメモリを交換し、素早くハーフチェンジを遂げた。
『ヒート・トリガー!』
“熱き銃撃手”へと姿を変えたダブル・ヒートトリガーは、横たわった姿勢のままトリガーマグナムの銃口をグレンデルに向けると、引き金を引いて数発の火炎弾を発射した。
その一発一発が高出力であるため、それをもろに受けたグレンデルは思わずたじろぐ。
相手が怯んだ隙に起き上がり、体勢を立て直したダブルは、すかさず次のメモリを手にする。
『ジョーカー!』
『ヒート・ジョーカー!』
左半身が黒色へと変わり、格闘戦を得意とするヒートジョーカーへとハーフチェンジしたダブルは、赤い右手に拳を作り力を籠める。
「お熱いの……喰らわせてやるぜ!」
熱い炎に包まれた拳をギュッと構えると、ダブルは地面を蹴って跳躍し、グレンデル目掛けて拳を振り下ろした。
渾身のパンチがその巨体に叩き込まれ、グレンデルは大きく後方へと吹き飛んだ。
しかし、タフなグレンデルはすぐに鋭い視線をダブルに向け、巨大な口をガバっと開いた。
口の中に生え揃った無数の牙が、マシンガンの弾丸のように連続で射出される。
既に足場に着地していたダブルは、迫り来る牙の嵐を前に、冷静な対応を見せる。
腰に装着されたダブルドライバーからジョーカーメモリを引き抜くと、素早く右腰のマキシマムスロットに装填した。
『ジョーカー・マキシマムドライブ!』
無数の牙が命中する直前、ダブルの身体は左右に分離。牙の弾丸は標的を見失い、間をすり抜けていく。
「「ジョーカーグレネイドォ!!」」
息を合わせるように同時に叫ぶ翔太郎とフィリップ。
まるで二人が連係攻撃を仕掛けるように、右半身と左半身に分離したダブルが交互に高熱の連続パンチを打ち出していく。
「なにっ!? ぎゃぁああああああああ……」
軌道の読めない拳のラッシュを前に、さすがのグレンデルもダメージを受けざるを得なかった。
分離した身体が一つに戻ると同時に繰り出されたダブルの最後の一発をその身に受けたグレンデルは、たまらず体勢を崩し、背後に倒れこんだ。
「やったか?」
「いや、この程度で倒れる奴とは思えない。警戒を怠るな、翔太郎」
フィリップの言葉通り、グレンデルはすぐに起き上がった。
しかし、その表情は確かに苦痛に歪んでいた。
「どうやら効果ありのようだぜ? 相棒」
「ああ。このまま一気に仕掛けよう」
『サイクロン!』
『サイクロン・ジョーカー!』
ダブルはスピード重視の基本形態サイクロンジョーカーの姿に戻ると、追い討ちを仕掛けるべく走り出す。
が、しかしその足はすぐにピタリと立ち止まる。
グレンデルの視線に変な違和感を感じたからだった。
グレンデルの視線は対戦相手であるダブルではなく、その先にいる“戦えない者たち”を捉えていた。
ダブルの背後にいる“戦えない者たち”。それはつまり“戦う術を持たない”、もしくは“戦える状況ではない”人物——瀕死の状態である瞬平の傍に付き添う凛子、友子、ジェイク、そしてビーストのことを指していた。
「野郎……まさか……」
そのことを察知したダブルは、戦慄した様子でビーストたちの方に視線を向ける。
脳裏を過った答えはただ一つ。
グレンデルの次なる攻撃の標的は自分ではなく彼らだと。
ダブルはすぐに視線をグレンデルへと戻し、予測した未来を阻止するべく動き出す。
しかし、駆け出したその足は残念ながら一足遅く、驚異的な瞬発力を持つグレンデルは、既にビーストたちとの距離をかなり縮めていた。
「やべぇ!」
慌ててその後を追おうとするダブルだったが、明らかに出遅れて間に合わない。
メモリチェンジをしようにもその余裕すらなく、万事休すの状況だった。
猛スピードで急接近してくるグレンデル。
そんな中、一人の女刑事が咄嗟にその眼前に立ち塞がった。
大門凛子だ。
「これ以上は誰も傷つかせない! 市民を守るのが……警察の義務なのよっ!」
凛子は拳銃を両手で構えて銃口をグレンデルに向けた。
超人的な力を持つ仮面ライダーでさえ苦戦する相手に、生身で挑もうとする彼女の無茶な行動に友子やジェイク、ビーストやダブルは驚きを隠せなかった。
「凛子ちゃんよせぇ!」
「おいっ! 馬鹿やめろぉ!」
ビーストとダブルの制止の声が響き渡る中、凛子は恐怖に震える手で標準をグレンデルの眉間に合わせる。
その姿に、グレンデルは思わず笑みを浮かべる。
下等な人間がファントムに挑むなど、愚かしさの極み。そんなに死にたければ望みどおり真っ先に殺してやろう。
グレンデルは駆ける速度を落とすことなく、猪突猛進の勢いで凛子に飛び掛った。
凛子は恐怖を振り切るように引き金を引き、拳銃を何度も発砲するが、グレンデルの肉体は銃弾を玩具のように弾いていく。
「凛子ちゃん!!」
ラミアーの相手をしていたウィザードも大事な仲間の危機に気付き、血相を変えて叫ぶ。
しかしその時、思わず攻撃の手を緩めてしまい、ラミアーに反撃の隙を与えてしまう。
「しまったっ! うぁああああああ……」
ラミアーがすかさず放った衝撃波がウィザードを吹き飛ばした。
ダッシュからそのままの勢いで跳躍したグレンデルは、両手の爪を凛子目掛けて振り下ろした。
その光景を、銃弾を撃ち尽くした凛子は成す術なくただ呆然と見ていることしかできなかった。
残酷の爪が、今まさに凛子の細い身体を引き裂こうとしていた——と、その時。
突如、凛子とグレンデル、二人の間に巨大な光の穴が出現した。
そして次の瞬間、二人の間を遮るように現れた光の穴——ワープホールの中から、暗雲を貫き宇宙にまで届きそうなほどの雄叫びを上げながら、一人の戦士がロケットの如く飛び出してきた。
「宇宙……キタァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
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