二次創作小説(映像)※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

仮面ライダーウィザード〜終幕の先〜【完結】
日時: 2017/04/15 00:31
名前: 裕 ◆.FlbxpLDSk (ID: XGjQjN8n)

こちらでは初めて投稿させていただきます、裕と申します。
今回はこの場を借りて、平成仮面ライダーシリーズ第二期から
「仮面ライダーウィザード」の物語を積み上げてみたいと思います。

個人的解釈としましては、第二期である「ダブル」〜「鎧武」までの作品は、同じ世界観だと思って見ております。なので、今回の物語もそれに沿った流れで書いていこうと思います。それに伴い、第二期各作品(劇場版)の設定も拝借する予定です。

物語の時間軸は「ウィザード」本編の最終回後、さらに言えば冬の映画「戦国MOVIE大合戦」の後の話だと思っていただけると幸いです。

ではでは。


〜登場人物〜


・魔法使いとその関係者

操真晴人=仮面ライダーウィザード

仁藤攻介=仮面ライダービースト

稲森真由=仮面ライダーメイジ

奈良瞬平

大門凛子(国安ゼロ課・刑事)

木崎政範(国安ゼロ課・警視)

ドーナツ屋はんぐり〜・店長

ドーナツ屋はんぐり〜・店員


・財団X

シオリ・カナ(栞 可奈)=仮面ライダーサクセサー

ヤマト=メモリー・ドーパント

ネオン・ウルスランド(局長)


・宇宙仮面ライダー部

野座間友子

ジェイク(神宮海蔵)

仮面ライダーフォーゼ


・鳴海探偵事務所

左 翔太郎=仮面ライダーダブル(左サイド)

フィリップ=仮面ライダーダブル(右サイド)


・怪人

サザル=ファントム・グレンデル

ファントム・ラミアー

ファントム・ヘルハウンド(ログ)

ファントム・シルフィ(ログ)

ファントム・バハムート(ログ)

ファントム・メデューサ(ログ)

グール

クロウ・ゾディアーツ

ペルセウス・ゾディアーツ

黒ネコヤミー

オールド・ドーパント

マスカレイド・ドーパント(白服)

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21



十三. ビーストvsゾディアーツ ( No.20 )
日時: 2014/03/11 07:17
名前: 裕 ◆sLvfk4XA1Q (ID: HKLnqVHP)

「仁藤さん!聞いてください・・・!アイツは・・・」
 真由は痛む体を支えながら、ビーストに向かって叫んだ。が、ビーストは、
「ん?ああ、分かってる!皆まで言うな!カラスだから飛べて当然だ!って言いたいんだろ」
 と、見当違いな事を言って最後まで聞こうとしなかった。
(出た!仁藤さんの悪い癖・・・。予想はしてたけど・・・)
 真由は心の中で深いため息をついた。
 しかし、ここで会話を終わらせるわけにはいかない。伝えない訳にはいかないのだ。敵が次の攻撃を仕掛けてくる前に。
「いいえ!聞いてください!奴はファントムじゃないんです!変なスイッチで変身した・・・多分、人間です!」
(やった。言えた)
 真由は心の中で安堵した。
「なにぃ!?マジか真由ちゃん!?」
 逆に衝撃的事実に困惑するビースト。少なくとも彼にとっては重大な事実だった。
 ビーストが戦う理由とは、ファントムの魔力を食らうことなのだ。
 生きるために、キマイラに魔力を与えるために、魔力を持つファントムを倒す。
 つまり、魔力を持たない敵と戦うことは、ビーストにとって何のメリットも無いのだ。
 むしろ、無駄に魔力を消費するため、デメリットでしかない。
「くっそぉー!これじゃあアイツを倒す意味ねぇじゃん!」
 思わず脱力するビーストだったが、しかし、
「はぁ。・・・まあいっか!そういうこともあるよな!」
 ため息一つすると、すぐに考えを切り替え、顔を上げた。そして、
「真由ちゃんを傷つけたんだ!それだけで奴をぶっ倒す理由は十分だ!」
 と、意気込みを見せた。
 常にポジティブに物事を考え、良くも悪くも細かいことは気にしない。それが仁藤攻介だった。
「仁藤さん・・・」
 真由はビーストの言葉にちょっぴり頬を赤くした。



 クロウ・ゾディアーツは警戒しているのか、相手の出方を待っているのか、特に何もせずに上空を旋回しながら真由とビーストのやり取りを様子見しているようだった。
「さてと、気分新たに、頑張りますか!」
 気合を入れ直したビーストは、再び気持ちを戦闘モードに変えて指輪をはめ変える。それをベルトの右側スロットに差し込み、
『ファルコ!GO!ファ・ファ・ファ・ファルコ!』
 魔法陣を潜り抜け、今度は右肩にファルコンの頭部を模した肩アーマー、ファルコマントを装着した。
 ファルコマントの特性は、風を操り、高速飛行を可能にすること。
「いっちょ空中戦といきますか!」
 準備運動がてらに首をコキコキ鳴らし、声高らかに告げると、ビーストは地面を蹴って勢い良く大空に舞い上がった。
 次の瞬間、クロウ・ゾディアーツも戦闘態勢に入った。
 その場に停空し、両手の鉤爪を露にして上昇してくるビーストを迎え撃つ。


 二人は互いの剣と爪を激しくぶつけ合いながら、螺旋を描くように高度を上げていく。
 地上からその光景を見守る真由の目には、二人の間で光る閃光が何度も映りこんでいた。
(なんとか魔力を振り絞れば、あと一回くらいは魔法を使えそうだけど、その一回で今の私に何ができる・・・?)
 自分に何かできる事は無いのか。そんなことを考えながら上空を見上げていた。


 ビーストとクロウ・ゾディアーツは一定の高度まで上昇すると、まるで磁石が反発するかの様に同時に距離を離した。
 クロウ・ゾディアーツは背中の両翼から無数の羽手裏剣を飛ばす。
 メイジの体を傷つけたあの技だった。
 すかさずビーストは右手のダイスサーベルを振り下ろし、前面に風のバリアーを展開して羽手裏剣を舞い散らした。
 しかし、防御直後の一瞬の隙を見逃さなかったクロウ・ゾディアーツは、一気に急接近して、心臓をえぐる様にビーストの胸部に足先の鉤爪を突き刺した。
「ぐあっ!?いっ・・・てぇなぁ!コンチクショー!」
 ビーストも負けじとサーベルで敵のボディを切り裂いた。
 再び距離をとる両者。
「一つ教えてやる」
 唐突に口を開くクロウ・ゾディアーツ。
「お前はさっき、ピンチはチャンスだとか言っていたが、ピンチに陥った奴は・・・ピンチのまま死んでいくんだよ!」
 そう言い放つと、クロウ・ゾディアーツの両翼がさらに大きく広がり、まるで鋭利な刃物のような状態に形を変えた。
 巨大な翼のカッターのようだった。
「ああん?てめぇが勝手に人の流儀を曲げんじゃねぇよ!」
 ビーストはダイスサーベルを左手に持ち替えた。
 ビーストの武器、ダイスサーベルには名前のとおりサイコロの目が表示されたルーレットが搭載されている。
 ルーレットを回し、一から六までの出た目により必殺技の威力が変わるのだ。
 ビーストはサーベルのハンドルを回してルーレットを回転させる。
 まるでドラム音でも聞こえてきそうな雰囲気の中で、今だ!と言わんばかりにサーベルのシリンダーにファルコの指輪を差し込んだ。
 結果は—



『ONE!ファルコ!セイバーストライク!』
 最低の目だった。
「いちぃ!?こんな時に!だがピンチはチャンス。そいつが絶対だってことを、今証明してやるぜ!」
「なに?」
「密かに考えていたアレンジ技!」
 そう言ってビーストはダイスサーベルで円を描き魔法陣を作り出すと、そこからファルコンの形をした魔力の幻影を出現させた。
 一見、頼り無さそうな一羽の鳥。
 しかし、ビーストはそのファルコンの幻影に自ら重なり、巨大な鳥のオーラを身に纏うと、ビースト自身がまるで火の鳥にでもなったかのような姿に変化した。
 自らの体で、最低威力の必殺技を強化させたのだ。
「面白い!お前の流儀がどれほどのものか勝負してやろう!」
 クロウ・ゾディアーツは風を切り裂き、ビースト目掛けて突進した。
「上等だ!」
 同じくファルコンの幻影と同化したビーストもクロウ・ゾディアーツ目掛けて飛翔した。
 次の瞬間、二人の中心で激しい爆発が発生した。
「仁藤さん!!」
 空が眩しく光り、真由は思わず両手で光を遮った。
 青空を覆い隠す爆発。そんな光景を、一日で二度も見ることになるとは思わなかった。
 そんな事を思いながら、必死に爆発の光の中からビーストの姿を探すのだった。

十四. 真由と攻介 ( No.21 )
日時: 2014/03/12 07:23
名前: 裕 ◆sLvfk4XA1Q (ID: HKLnqVHP)

 上空の黒煙から、先に姿を見せたのはビースト、いや、変身が解けた仁藤攻介だった。
 しかもその様子は、決して勝利を意味するような登場の仕方ではなかった。
 黒煙から吐き出されるように姿を見せた攻介は、地面に向かって真っ逆さまに落ちていく。
 変身していないのだから当然である。
「お、落ちるぅー!!!」
 悲鳴を上げる攻介の声。幸い、意識はあるようだった。
 残った魔力で魔法を使うなら今しかない。
 真由は躊躇無く魔法を発動した。
『イエス!グラビティ!アンダースタンド?』
 攻介の落下ポイントに魔法陣が展開され、地面に直撃する直前、攻介の体はフワリと浮かび、ワンクッション置いてから着地した。
「し、死ぬかと思った・・・」
 尻餅つきながらも命拾いした攻介は、胸の上に自分の手を置いて、心臓の鼓動をしっかり確認した。
(うん。動いてる!)
「サ、サンキュー真由ちゃん。本当に助かった」
 そばに来た真由に礼を言う攻介。
「いえ。それより、あの怪物は?」
 真由は尋ねる。
「悪い・・・。倒しきれなかった」
 そう言って攻介は上空に視線を向けた。
 真由もそれに合わせて上を見る。
 そこにあったのは、片翼を失い、体中の何割かの羽も焼け落ちてボロボロな姿に成り果てたクロウ・ゾディアーツの姿だった。
 クロウ・ゾディアーツはゆっくりと降下し、着地すると、その手に変身の際に使用した奇妙なスイッチを取り出した。
 ゾディアーツスイッチをオフにし、クロウ・ゾディアーツはサザルの姿に戻った。
 背中のポニーテールがユラユラと靡いている。
「アイツがカラス野郎の正体か・・・」
 初めてサザルの姿を見る攻介は、食い入る様にその容姿を観察していた。
 白いスーツ姿、ガッチリとした筋肉質な体にロン毛。男のくせにポニーテール。
(変な奴・・・)
 それが攻介が思った第一印象だった。
「まさか、今の“金獅子の魔法使い”がここまでやるとはな・・・。少し見直したよ」
 サザルは言った。
 戦闘の直後だというのに息一つ乱さずに。
「金獅子?なんのことだ?」
 聞き慣れない言葉に疑問する攻介。
(まただ・・・。金獅子の魔法使い。さっきもあの男は、変身した仁藤さんをそう呼んでいた)
 二人の会話を尻目に、真由は一人考えた。

 さっきからあの男が言っていることには、腑に落ちない点が多すぎる。
 まるで、一人だけ別次元な話でもしているかのようだ。

「もっとお前と戦ってみたい気もするが、俺にも仕事があるからな。他に行く所もあるし、そろそろ退散させてもらうぜ!」
 攻介の質問を無視し、サザルは話を続けた。
「なにぃ?てめぇ逃げんのか!?」
 そう言って、サザルに掴みかかろうとした攻介だったが、体力の低下と魔力の消費が激しく、まともに立つことも叶わなかった。
「もしまた会えたら、今度は本気で相手をしてやるよ!こんなオモチャの力じゃなくてな・・・」
 そう言い残し、サザルは木々の間へ入って行き、姿を消した。


 残された攻介と真由。
「あの野郎、好き勝手言って逃げやがってぇ」
 怒りが収まらない攻介は地面を殴って鬱憤を晴らす。
「むしろ助かったと思いますよ。私達、どっちももう戦えそうに無いじゃないですか」
 そんな攻介を宥める真由。
「くそう!魔力が全快だったら、あんな奴に苦戦なんかしなかったんだけどなぁ」
「まあまあ。それより、私、気になることがあるんです」
「気になること?」 
 攻介は首を傾げて聞き直した。
「はい。あの男、言っていたじゃないですか。他に行く所があるって。もしかしたら・・・」
「もしかしたら、なんだよ?」
 攻介の問いに、少し間を作ってから真由は答える。
「多分行き先は、前に笛木がカーバンクルの製造に使っていた、人造ファントムの研究所かもしれません」
「なんでそう思う?」
「まだ予測の域を出ませんけど、」
 と、前置きし、
「あの男がこの屋敷を襲った理由は、ここにあるはずだった笛木の研究資料を手に入れるためだと思います。でもそれは、先日のオーガの事件をきっかけに、国安が全て管理回収しました。でも・・・」
「奴はもう一箇所、同じように笛木が使っていた研究所にも目をつけていた。そういうことか?」
「ええ。奴がここへ来た目的が予想通りなら、他に見当がありませんし」
「だったらどうする?」
「あそこはオーガに既に襲われて実験体も全て喪失、研究所の資料もその後に国安が回収して建物も閉鎖されていますけど、あそこもここと同じで、国安の人達が何人も警備しているんです。その人達を助けないと!」
 ここで息絶えた警官隊達のような犠牲者をこれ以上増やしたくない。
 真由は胸を締め付けられるような、そんな辛い思いはもうしたくなかった。
「じゃあ決まりだな!そいつらを助けに行かないとな!」
 そう言って、ふらつきながらもなんとか立ち上がる攻介。
「はい!でも、今の私達ではあんまり役に立つとは思えません。なので・・・」
「ん?」
「一度、国安の木崎さんに連絡します。まだ未知数ですが、知り得た限りの敵の情報を伝えた方がいいと思いますし、うまくいけば、晴人さんにも応援を頼めるかもしれません」
 そう告げた真由はポケットから携帯電話を取り出したのだった。

十五. ドーナッツ屋はんぐり〜にて ( No.22 )
日時: 2014/03/13 07:49
名前: 裕 ◆sLvfk4XA1Q (ID: HKLnqVHP)

 ファントム・ヘルハウンドを撃破した操真晴人は、テレビ局の捜査を一区切りさせた大門凛子と共に、馴染みの店であるドーナッツ屋はんぐり〜を訪れていた。
 テレビ局にファントムが現れたのが午前の昼時前、ファントムの撃退と事件現場の捜査を経て、時間は既に昼を過ぎた午後3時を回っていた。
 二人は今後の動向を話し合うついでに、はんぐり〜で昼食をとることにしたのだった。

 
 とある公園の広場で移動式ドーナッツショップはんぐり〜はオープンしていた。
 ピンク色のバンを停車させ、小さな椅子とテーブルを広場に広げて客を出迎えている。
 晴人と凛子は、既に席の一つに座り、注文したドーナッツが来るのを待っていた。


 しばらくすると、
「お待たせしましたぁ〜!」
 と、ピンク色のエプロンを身につけた、斬新奇抜なヘアスタイルの店長が、ドーナッツを乗せた二枚の小皿を持ってやって来た。
 本名を上村優、というらしいのだが、彼女?を名前で呼ぶ人間が、これまでどのぐらい存在したのか定かではない。
「はぁ〜い、ハルくんがいつもの、プレーンシュガーねぇ!で、凛子ちゃんには今日のおススメ!半分抹茶クリーム、もう半分をビターチョコでトッピングした、ちょっぴり大人のハーフ&ハーフドーナッツでぇ〜す!」
 店長は晴人と凛子の前に二つのドーナッツをそれぞれ置くと、両手でジャーンと言わんばかりにおススメドーナッツをアピールしながら説明するのだった。
「どう?ハルくん!おいしそうでしょ?」
 オネェ言葉で晴人にもおススメドーナッツを勧める店長。しかし、
「うん、おいしそうだね!でも俺はコレでいいから」
 既にプレーンシュガーを美味しそうに頬張っている晴人に、おススメに対する興味は無かった。
 がっくし!と落胆する店長。
 他の客の相手を済ませたはんぐり〜の唯一の店員である筋肉質の青年が、
「頑張りましょう、店長。頑張れば、いつかは報われます!」
 と、店長の肩をポンと叩き、励ます。
 はんぐり〜の常連である晴人だが、実は好物のプレーンシュガー以外のドーナッツを食べたことはこれまで一度も無かった。
 そして、そんな晴人にプレーンシュガー以外のドーナッツを食べさせることが、店長と店員の一つの目標となっていた。
「も〜う、お前の罪を数えなさぁい!ふ〜んだぁ!」
 店長は晴人に向かって一瞬ビシッとポーズを決めて指を指すと、頬をぷぅっと膨らませながらバンの所まで走り去っていった。
「なんだあれ・・・」
 晴人は店長の後姿を眺めながら、今のポーズどこかで見たようなぁ、と、想いに耽ていた。


「ねぇ、晴人君」
 不意に凛子が声をかけてきた。
「ん?なに?」
 紙コップに注がれたホットコーヒーを一口飲んでから、晴人はテーブルを挟んで向かい側に座っている凛子に視線を移した。
「さっきから考えてたんだけど、ひょっとして、私達が思っているよりもずっと大変なことが、今こうしている間にも起こり始めているんじゃないかしら?」
 黒と緑の二色のドーナッツを手に持ったまま、凛子は語り始める。
「テレビ局の捜査の後、木崎さんに報告がてらに電話したんだけど、向こうも忙しそうだったの。何でも、集団虐殺があったって」
「集団虐殺?」
 凛子の言葉に、晴人のドーナッツを持つ手がピタリと止まった。
 凛子がここへ来る前、何処かへ電話していたのは知っていたが、内容を聞くと、「後で話す」との返答しか返ってこなかったため、今の今まで知らなかった。
「しかもその場所が、笛木が使っていた例の屋敷らしいの」
「笛木のって・・・。コヨミが昔、笛木と住んでいたあの屋敷のことか?」
「ええ。晴人君も何度か足を運んだことがある、あの屋敷よ」


 晴人は深刻そうな表情で、昔のことを思い出していた。
(笛木の屋敷、たしかに何度か行ったことはある。そういえば、最初に屋敷の住所を教えてくれたのもたしか木崎だったっけ・・・)


「あそこは今、国安が管理しているんだけど、そこを警備する警官隊が、全員殺されたって話なの。正体不明の集団に」
 凛子は話を続けた。
「ちょっと待って!そんな重大な事なら、のん気にドーナッツ食ってる場合じゃないじゃん!俺達」
 晴人は手に持ったプレーンシュガーを皿に置き、声を荒げた。
「落ち着いて!さっきも言ったけど、相手が正体不明なの。ファントムかもしれないし、そうじゃないかもしれない。しかもほとんど同時刻に起きていたこっちのテレビ局の事件にも、謎の怪物が絡んでるみたいだし、もしかしたら二つの事件が連関している可能性もありえるでしょ。いざという時のために、晴人君にも万全の状態でいて貰いたいの。さっきの戦いで、魔力が消費してるでしょ?」
 凛子の言葉に、晴人はぐうの音も出なかった。


 たしかに、さっきのヘルハウンドとの戦いで、ある程度魔力を消費していた。
 通常スタイルで倒せた相手に、調子に乗ってドラゴンの力も使ってしまった。
 こんな事なら、もっと魔力をセーブして戦えばよかった。


 魔法使いにとって、魔力の消費は肉体の疲労や体力の低下、空腹等の不調としてバウンドして返ってくる。
 凛子はその事を見越して、はんぐり〜に寄ったのだろう。
 晴人は心の中で凛子に感謝しつつ、自分の行動に後悔と反省を見せていた。
「木崎さんの話だと、現場には真由ちゃんに行って貰っているらしいわ」
「真由ちゃんに?なるほど、さっき真由ちゃんに協力を頼もうと電話しても出なかったのは、そのせいだったってことか」
「そうみたいね。だから、今のうちに晴人君にはしっかり回復してもらって、今後に備えてもらわないと」
 そう言って、凛子は少し微笑むと、二色のドーナッツを頬張り始めた。
「ああ。サンキュー、凛子ちゃん」
 晴人も頷きながら微笑み返すのだった。
 

 と、二人の会話に間が入ったちょうどその時、突然、携帯電話の着信音が広場に鳴り響いた。
 凛子の服のポケットからだった。
「あ、ちょっとゴメン」
 凛子は慌ててドーナッツを置いて携帯電話を取り出すと、席を外し、少し離れた所で電話に出るのだった。

十六. 二つの指輪 ( No.23 )
日時: 2014/03/13 19:39
名前: 裕 ◆sLvfk4XA1Q (ID: HKLnqVHP)

「晴人さぁ〜ん!!」
 凛子と入れ替わる形で、一人の青年が椅子に座る晴人の前にやって来た。
 子供っぽいデザインの可愛いカエルのリュックサックを背負い、カラフルで奇抜なファッション姿の童顔の青年。
 周りの人目も気にせずに、右手を頭の上でブンブンと振りながら走ってくるその姿は、見ている側が恥ずかしくなるようだった。
 
 奈良瞬平。
 
 普段は骨董品屋・面影堂の店主、輪島繁の弟子として指輪作りに励みながらも、時には晴人の助手としても動く青年。
 午前中に、晴人にファントムの出現を知らせた張本人である。

「瞬平、お前、いい大人なんだから、もっと静かに来いよ。見てるこっちが恥ずかしい・・・」
 ホットコーヒーが入った紙コップを手に取りながら、晴人は目の前に立つ瞬平に呆れ顔を見せた。
「えっ?なんか変でした?晴人さん。ねぇ、晴人さんってばぁ」
 晴人の顔を覗き込むように、鬱陶しく何度も問うてくる瞬平。
「あーうるさいなぁ。もう!」
 そう言って、晴人はプイッと顔を逸らしてコーヒーを口に入れた。
 と、そこへ、
「瞬平くぅん、いらっしゃ〜い!」
 ドーナッツ屋はんぐり〜の店長がドーナッツを乗せた小皿を一枚持って、瞬平の前に現れた。
「ねぇねぇ瞬平くぅん。ちょっとこのドーナッツ食べてみてよぉ〜」
 オネェ言葉を浴びせながら、ドーナッツを差し出す店長。
 それは先ほど、凛子が食べた“今日のおススメ”とは違うドーナッツだった。
「えっ?僕、何も注文してないですよ?来たばかりだし・・・」
「ううん、違うの。試験的に作ってみたドーナッツなんだけどぉ、瞬平くんに試食してもらって、評価が良かったら今度のおススメにしようかなぁって思ってるの!」
「つまり、味見係ってことですね!いいですよぉ!そういうのでしたらいくらでも協力します」
 そう言い放ちながら、瞬平はドンと右手で自分の胸を叩いた。
「助かるわぁ〜。はい、じゃあコレ!唐辛子、からし、ワサビの三色激辛コンボドーナッツでぇ〜す!」
 店長は上から赤、黄、緑の三色のペーストを載せたドーナッツを瞬平に手渡すと、先ほど晴人と凛子の前でやったようにジャーンと両手でアピールして見せた。
 目と鼻にツーンとくるような匂いが瞬平を襲う。
 そのそばでは、既に晴人が表情を歪ませていた。
「・・・・・」
「・・・・・」
 瞬平と店長は暫く無言のまま見つめ合う。
 と、先に口を開いたのは瞬平だった。
「・・・なんですか、この殺人兵器みたいなドーナッツは?」
「・・・・・だめ?」
「食えるかぁ〜い!!!」
「ひっどぉ〜い!お客さんと店員は助け合いなのよぉ〜!!」
 そう叫びながら、店長はさっきと同じようにぷぅっと頬を膨らませながら、内股乙女走りでバンの所まで走り去っていった。
「それがしたかっただけだろ・・・」
 晴人は店長の後姿を眺めながら静かに突っ込むのだった。


「それより瞬平。頼んだもの、持ってきてくれたか?」
 晴人は唐突に話題を変えた。というより本題に入った。
 元々、瞬平とはここで落ち合う予定だった。
 テレビ局からここへ向かう直前、瞬平に連絡し、「必要な物があるから持ってきてほしい」と、頼んでおいたのだ。
 晴人的にはコネクトの魔法で取り出しても良かったのだが、既に先を見越していた凛子に止められたのだった。
「無駄な魔力を使わないで!こんな時こそ、助手の出番でしょ!」、と。

 瞬平はカエルのリュックサックの中から布に包まれたある物を取り出し、テーブルの上にそっと置いた。
「はい、コレですよね?」
「ああ。サンキュー」
 晴人は布をめくり、中身を確認した。
 出てきたのは手のひらサイズの丸い水晶玉だった。
 コヨミが使っていた水晶玉。
 晴人が召喚した使い魔の視覚を伝達できるこの水晶玉を、コヨミはいつも面影堂のカウンターにちょこんと座って見ていた。
「コレでテレビ局に現れた謎の怪物を探し出すことができる」
 晴人はそう言って再び水晶玉に布を被せた。
「あ!そうだ晴人さん。僕、水晶玉とは別に、晴人さんに渡したい物があるんでした」
 ふと思い出したように瞬平は言った。
「渡したい物?」
「はい!コレです!僕が作った魔法の指輪。しかも二つも!」
 瞬平はポケットから魔法石が埋め込まれた指輪を二つ取り出すと、自慢げに晴人の前に差し出した。
「へぇ〜。二つも・・・。ってお前、また前みたいに失敗作じゃないだろうな?」
 晴人は細目でジィーっと瞬平を睨んだ。まさに疑いの眼差しだった。
「なにを仰いますか!この前のだって大成功だったじゃないですか!」
 オーガの事件の時も瞬平は指輪を作っていた。瞬平の指輪第一号。
 しかし、肝心な時に発動せず、失敗作かと晴人は最初諦めた。だが、奇跡が起きたかのように、最後の最後で指輪は効果を発揮し、たしかに勝敗の逆転には繋がった。
 ただ、今でもあの指輪の具体的な効果は不明なままで、晴人もあの時以来、瞬平の指輪第一号を使うことは無かった。
「ちちんぷいぷい・・・だもんなぁ」
 二つの指輪を受け取った晴人は不安の表情を浮かべる。
「大丈夫ですって!今度はカッコいい魔法が出ますよ。きっと」
 笑って言い寄る瞬平。
「とりあえず、ありがとな。そのうち使ってみるよ」
「絶対ですよぉ」


 晴人と瞬平がそんなやり取りを続けていると、ようやく電話を終えた凛子が戻ってきた。
 深刻そうな表情で。
「瞬平君、来てたのね・・・」
 いつの間にかいた瞬平に凛子は視線を向ける。
「凛子ちゃん、なにかあった?」
 察した晴人が問いかける。
「うん・・・。電話、木崎さんからだったんだけど・・・。屋敷を襲った集団が、今度は研究所に現れたって」

十七. 国安ゼロ課・木崎の話 ( No.24 )
日時: 2014/03/14 07:09
名前: 裕 ◆sLvfk4XA1Q (ID: HKLnqVHP)



 道中。
 晴人と瞬平を乗せ、凛子が運転する赤いスポーツカーは人造ファントムの研究所を目指していた。
 深い森の中へ続く細い一本道を、ただひたすら真っ直ぐと進んでいく。
 まだ日が沈む前だというのに、あたりは薄暗く、先へ進めば進むほど、深い闇の中へ入っていくような感覚に襲われた。
「なんだか・・・、すごい不気味ですね」
 後部座席に座る瞬平が、身を乗り出しながら不安そうに言った。
「ええ。私もここへは何度か来た事があるけど、来るたびにそう思うわ」
 そう言う凛子のハンドルを握る手にもつい自然と力が入ってしまう。
「大丈夫。何かあっても二人は俺が守るから」
 ただ一人、助手席に座る晴人だけは感情を出さずにクールな表情を続けていた。
 晴人達三人が研究所へ向かうことになったきっかけは、凛子がドーナッツ屋はんぐり〜で受けた木崎からの電話だった。
 
 木崎政範。
 警視庁が設立した、ファントムや魔法が関与した事件に対応するための極秘部署、国安ゼロ課の警視。
 魔法使いである操真晴人とは、出会い当初は険悪な仲であったが、ファントム事件を重ねるうちに、徐々に友好関係を築き、今では互いを協力者として認め合っている。
 一年前まで新米刑事だった大門凛子を国安ゼロ課に加え、現在は晴人の他に稲森真由の協力も得ており、部署自体も設立当初とは比べ物にならないくらい大きな組織として動いている。

 凛子が木崎から聞かされた話の内容はこうだった。

「テレビ局で捜査中だった大門凛子に、屋敷の襲撃の件を伝えてから暫くした後、現場に向かわせた稲森真由から連絡が入った。
「事後報告だった。
「稲森真由が到着した時には既に遅く、現場は悲惨な状況だった。
「警官隊は全員死亡。犯人と思われる白服の集団は、怪人体に変身する能力を持っている様で、中でも謎のスイッチで変身したリーダーと思われる巨漢の男の強さは想像以上。
「稲森真由一人では勝ち目が無く、偶然介入してきた仁藤攻介の助けが無ければ命が危うかったそうだ。
「結局、仁藤攻介の力でも敵を倒すことは叶わず、巨漢の男は逃走する結果になった。
「白服の集団の目的は、笛木奏が残した研究資料と思われる。
「だとすれば、敵の次の目的地は、他に資料が残されていると予想するであろう、人造ファントムの研究所ぐらいしか考えられないと稲森真由は推測したらしい。
「稲森真由と仁藤攻介は戦闘のダメージが酷く、一旦国安に戻るとの事だ。
「稲森真由からの報告の直後に、こちらから研究所の警備班に連絡を取ると、既に別の白服の集団に襲撃された後だったそうだ。
「敵は恐らくチームを分散させて行動しているのだろう。
「幸い、研究所の警官隊に犠牲者は出ていないらしいが、現状を確認すると、「石にされた」とか「年寄りにされた」とか訳の分からないことしか言ってこなかったため、話にならないと判断した。
「そこで、操真晴人と大門凛子に様子を見てきて貰いたい」、と。


「何なんですかね?石とか年寄りって?」
 自動車の後部座席で、唐突に瞬平は首を傾げた。
 出発前、凛子が電話の内容を晴人に説明していた時、一緒になって聞いていた瞬平はずっと考えていた。
「ファントムの特殊能力みたいなものですかね?」
 まるで好奇心旺盛な子供のようにあれこれと想像している様だった。
「さあな。行って見ないことにはなんともな・・・」
 窓の風景を見つめたまま、ボソッと言葉を返す晴人。
 晴人は晴人で何かを考えている様子だった。
「もうすぐ着くわ。何が出てくるか分からないから気をつけて」
 凛子も自動車のライトに照らされた道の先を真っ直ぐ見つめながら、警戒を強めた。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21



この掲示板は過去ログ化されています。