二次創作小説(映像)※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

仮面ライダーウィザード〜終幕の先〜【完結】
日時: 2017/04/15 00:31
名前: 裕 ◆.FlbxpLDSk (ID: XGjQjN8n)

こちらでは初めて投稿させていただきます、裕と申します。
今回はこの場を借りて、平成仮面ライダーシリーズ第二期から
「仮面ライダーウィザード」の物語を積み上げてみたいと思います。

個人的解釈としましては、第二期である「ダブル」〜「鎧武」までの作品は、同じ世界観だと思って見ております。なので、今回の物語もそれに沿った流れで書いていこうと思います。それに伴い、第二期各作品(劇場版)の設定も拝借する予定です。

物語の時間軸は「ウィザード」本編の最終回後、さらに言えば冬の映画「戦国MOVIE大合戦」の後の話だと思っていただけると幸いです。

ではでは。


〜登場人物〜


・魔法使いとその関係者

操真晴人=仮面ライダーウィザード

仁藤攻介=仮面ライダービースト

稲森真由=仮面ライダーメイジ

奈良瞬平

大門凛子(国安ゼロ課・刑事)

木崎政範(国安ゼロ課・警視)

ドーナツ屋はんぐり〜・店長

ドーナツ屋はんぐり〜・店員


・財団X

シオリ・カナ(栞 可奈)=仮面ライダーサクセサー

ヤマト=メモリー・ドーパント

ネオン・ウルスランド(局長)


・宇宙仮面ライダー部

野座間友子

ジェイク(神宮海蔵)

仮面ライダーフォーゼ


・鳴海探偵事務所

左 翔太郎=仮面ライダーダブル(左サイド)

フィリップ=仮面ライダーダブル(右サイド)


・怪人

サザル=ファントム・グレンデル

ファントム・ラミアー

ファントム・ヘルハウンド(ログ)

ファントム・シルフィ(ログ)

ファントム・バハムート(ログ)

ファントム・メデューサ(ログ)

グール

クロウ・ゾディアーツ

ペルセウス・ゾディアーツ

黒ネコヤミー

オールド・ドーパント

マスカレイド・ドーパント(白服)

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21



五十三. カナの気持ち ( No.60 )
日時: 2014/11/26 16:22
名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)

「偉そうに…。両親を殺したお前なんかに、一体私の何がわかるというんだぁ!」
 まるで胸の内に溜まる感情を解き放つかのように言い叫ぶと、サクセサーは力いっぱい拳を握り締め、
 視線の先に佇むグレンデル目掛けて全力で駆け出していった。
「ぅああああああああっ!!」
 湧き上がる感情、怒りや憎しみ、苛立ちや悲しみ全てを殺意に変えて、今出せる精一杯の力を込めた鉄拳
をグレンデルに叩き込む。が、しかし、
「わかるさ、何もかも。お前自身が知らない、お前のこともな!」
 放たれた拳は、あっけなくグレンデルの巨大な掌に受け止められてしまい、逆にその細い首を片手で
掴まれて空中に放り投げられてしまった。
「がはっ…!」
 豪快に宙を舞ったサクセサーの身体は、グレンデルの背後にいた瞬平の足元で地面に叩きつけられる。
「栞さん! 大丈夫ですか!?」
 慌てて駆け寄る瞬平だったが、その様子を見ていたグレンデルは、
「どうやらそこの小僧を始末しない限り、お前は目的に集中してくれないようだな! なら…」
 そう言うと、狼のような形状の巨大な口の中に生えた無数の鋭い牙を、まるでマシンガンのように連続
で射出した。
 撃ち出された牙は真っ直ぐと瞬平に向かって飛んでいく。
「瞬平危ない!」
 しかしその瞬間、地面に倒れていたはずのサクセサーが苦痛を押さえて起き上がり、弾丸の如く飛んで
くる無数の牙の雨を遮るように、瞬平の前に立ち塞がった。
 両手を横に広げ、瞬平を守る盾のように、全身で飛んでくる無数の牙を受け止める。
「栞さん!!」
 身を挺して自分を守るサクセサーの背後で瞬平が思わず叫ぶ。
 グレンデルが放った攻撃が止み、力尽きるようにサクセサーの変身が解除される。
 元の姿に戻ったシオリ・カナは、ぐったりと両膝を付いて倒れ伏す。
「まさか、そこまでしてそいつを守るとはな…。もしかしてお前、その小僧に何か特別な感情を抱いて
いるのか?」
 身を挺して瞬平を守ったカナの行動が予想外だったのか、グレンデルは少し驚いた表情で問いかけた。
「……さあね」
 少し間が空いた後、うつぶせに倒れていたカナが呟くように言葉を返した。
 そして、なんとか力を振り絞って身を起こし、瞬平に支えられながらも立ち上がる。
「でも彼は…、瞬平は…、私にいろんな初めてを教えてくれた人…。この気持ちがどういう意味なのか
なんて、組織にずっと篭っていた私には皆目見当つかないけれど、ハッキリ言えるのは一つだけ…。
彼を…失いたくない!」
 必死に声を振り絞ってなんとか言い切ったカナの瞳は、真っ直ぐと前だけを見つめていた。
 何か強い意志を感じさせるような、眼力ある鋭い目線。
 そんな彼女の決意めいた瞳に、グレンデルは思うところがあったのか、突然、徐に考え込むように
黙りだす。
 そして、少しして何か確信を得たのか、今度はニヤリと笑みを浮かべ、
「ほう。なるほどな…。どうやらそいつは、お前にとって大事な存在のようだな…。だったら、今だけは
見逃してやる。行け! そいつを連れて、さっさと尻尾を巻いて逃げるんだな!」
 と、思わぬ意外な言葉を口にした。 
「なに…? お前は、一体何を考えている…?」
 予想外のグレンデルの言葉に、カナは思わず首を傾げる。
 自分達を仕留める絶好の機会だというのに、見す見す逃がしてやるというグレンデルの思惑に、違和感
を感じざる終えないでいた。
「言ったはずだ。俺はお前が強くなるのを待っていると…。お前が力を得るための理由に、そいつも加え
ておけ! 力をしっかり身につけて、お前がその小僧を守るんだな! じゃないと、今度は確実に、俺はそ
いつの命を奪うだろうよ!」
 困惑するカナを余所に、グレンデルは一方的に言葉を続ける。
「栞さん、行きましょう! よくわからないけど、逃がしてくれるって言うのなら拒む理由はありません!」
 と、カナに自分の肩を貸して彼女の身体を支えていた瞬平が、唐突に口を開き発言する。
「瞬平…。でも…」
「栞さんの目的はこのファントムを倒すことでしょ? だったら、こんなところで死ぬなんて絶対駄目
です! 生きて、必ず目的を果たしましょう! 亡くなった御両親のためにも…」
「……わかった。行きましょう」
 瞬平の力強い言葉に押され、思わずたじろいでしまったカナだったが、少し考えて納得したのか、すぐに
コクッと頷き、瞬平に確かな返事を返した。
 瞬平も、カナの返答に笑顔で答えると、しっかりと彼女の身体を支え、共にこの場からの撤退を始めるの
だった。
 背後から、グレンデルのいやらしい視線を感じつつも、二人はゆっくりとこの場を後にする。
 見逃してやると言ったグレンデルの意思を読み取ってのことなのか、周囲のグール達は硬直したように
動き出すこともなく、襲い掛かってくることもなかった。
 時間は掛かったが、なんとか二人は無事にアウトレットモールを脱出したのだった。
「四つの絶望が、魔の蛇を解き放つ…。これで準備は全て整った!」
 カナと瞬平が去っていた方向を見つめながら、グレンデルは不気味に笑みを浮かべていた。

五十四. 最後の魔力 ( No.61 )
日時: 2014/12/06 20:11
名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)

 ここは市内のとあるショッピングセンターの地下に広がる配管施設。
 かつてウィザードとビースト、そして稲森真由が変身したメイジが、ファントム・アラクネとメデューサ
を相手に激闘を繰り広げた場所。 
 壁に沿って伸びている幾つものパイプラインが剥き出しに設置され、天井から滴る水滴の音が一面に
響き渡っている。
 作業用に備え付けられた照明灯の光で淡く照らされているものの、やはり全体的には薄暗く、ひんやり
とした空気が辺り一面を支配していた。
 財団X所属の青年ヤマトは、左右交互に何度も周囲を確認しながら、無言でその場に佇んでいた。
「どうやらここで間違いないみたいだ…」
 暫くしてヤマトが呟いた。
 ここが最後の場所。
 最後の目的のものがこの場所に眠っている。
 ヤマトが上司のシオリ・カナから受けた指令は一つ。
 “このタイプ2のメモリーのガイアメモリを使って、各ポイントに残留しているファントムの魔力を
回収すること”
 シオリ・カナが考案した魔法使いの生成法とは、財団Xの科学技術で開発したベルトに、消滅したファン
トムの魔力を融合させるというものだった。
 残留する記憶の吸収を可能とする“メモリー”のガイアメモリを使って、ウィザードやビーストに倒さ
れたファントム達の記憶から魔力を抜き取り回収する。
 ベルトで制御できる魔力のバランスも考えて、選び出されたファントムは四体に絞られた。
 テレビ局で倒されたヘルハウンド。
 サッカー場で倒されたバハムート。
 とある採石場で倒されたシルフィ。
 そして、この地下の配管施設で消滅したメデューサ。
 彼ら四体の魔力を吸収したメモリーメモリをベルトに埋め込むことで、シオリ・カナが創造する魔法使い
、サクセサーが完成する。
 既に三体分の魔力の回収を終え、残すはこの場所に残留するメデューサの魔力のみとなっていた。
 ヤマトは気持ちを落ち着かせるように一度深いため息をついてから、ポケットから取り出した黄緑色の
T2ガイアメモリ、メモリーメモリを左腕に突き刺した。
『メモリー』
 ガイアメモリから鳴る電子音声が地下施設一面に響き渡ると共に、ヤマトの肉体は脳みそを露出した
不気味な怪人体へと変化した。
「後はここだけ…。ここに残るメデューサの魔力を回収すれば、僕の任務は終わる…。そして、カナさん
の念願の夢が叶うんだ…」
 そう言うと、メモリー・ドーパントと化したヤマトは頭部から伸びる無数のプラグコードを施設内の壁
や床に張り巡らせた。
 プラグコードを伝って、その場に残る記憶を感知する。
 暫くすると、かつてこの場所で起こった戦いの記憶が、メモリー・ドーパントの脳裏にリプレイされる。
 指輪の魔法使いウィザード、古の魔法使いビーストとファントム・アラクネの戦い。
 メイジ=稲森真由とメデューサの最終決戦。
 突如乱入するワイズマン。
 ワイズマンは笛木に、そして白い魔法使いに姿を変える。
 心酔していたワイズマンに裏切られ葬り去られるメデューサ=ミサ……。
 過去の出来事が次々とフラッシュバックされていく。
 そんな中、ある光景がメモリー・ドーパントの目に留まった。
「こいつは……」
 それはメデューサが消滅してから数ヶ月経ったある日の映像だった。
 戦いによって荒らされた部分が修復され、あるべき姿に戻ったこの配管施設に、一体のファントムが
現れた。
 その名はオーガ。
 笛木奏がこの世を去り、暴走したファントム・グレムリンが倒されてから暫く経った後、突如行動を
開始した謎多きファントム。
 メモリー・ドーパントが凝視したのは、そのファントム・オーガがこの配管施設で何かを吸収する姿
だった。
 光の粒子として具現化した残留する魔力を、オーガが左肩の巨大な口をパックリと開いて吸い込んで
いる。
「やっぱり…。カナさんが予想したとおりだったか…」
 オーガが吸収している光の粒子の正体がメデューサの魔力だと、メモリー・ドーパントはすぐに理解
した。
 かつて、魔力と魔法に関する出来事を調査していた時、シオリ・カナが疑問視していることがあった。
 それはオーガの特殊能力についてだった。
 調査の結果、ファントム・オーガは捕食したファントムの力を自分のものにできるとのことだったが、
オーガと魔法使い達の戦いを分析したところ、オーガが使用した能力のほとんどが、既にウィザード達
に倒されて消滅しているファントムの力だということが判明した。
 既に倒されて消滅していたファントムの力を、一体どうやって自分のものにしたというのだろうか?
 調査をさらに進めた結果、シオリ・カナはある仮説を立てた。
 それは、オーガにはファントムそのものを喰らう以外にも、残留する魔力を吸収することで自分を強化
する術を持っているのではないだろうか、というものだ。
 過去の光景を見る限り、どうやら予想は大よそ当たりのようだった。
 まさに、シオリ・カナの計画と同じ様なことを、ファントム・オーガも行っていたということになる。
 そして、タイミング的にも先手を打たれたことは痛手だった。
 メモリー・ドーパントが記憶の中からメデューサの魔力を採集していると、魔力の量が明らかに想定
していた数値を下回っていることが判明した。
 恐らく、残留していた魔力の半分以上を先にオーガに奪われていたことが原因だろう。
 これは計画進行の際、シオリ・カナがもっとも警戒していた状況の一つだ。
 元々、オーガのファントム狩りという行動自体が、計画の本格始動が遅れる最大の原因だったが、その
中でも最も危惧していたのが、選別したファントムの魔力を先に奪われることだった。
 とくにヘルハウンドやシルフィのような換えのきく魔力と違い、幹部クラスの力を持ったファントムの
魔力で回収可能だったのはメデューサしかいなかった。
 そのため、なんとしても完全な状態で手に入れたかったのだが、残念ながら今、この場に残っているメ
デューサの魔力の量は1/3ほどしかない。
 魔法使い達との戦いの際、オーガがメデューサの力を使用した時に感じた嫌な予感が的中してしまった。
「くっ……」
 メモリー・ドーパントは悔しさのあまり異形の唇を噛み締めた。
 しかし、サクセサーの完成も間近、ここまできて計画を断念するわけにはいかない。
 とにかく、メモリー・ドーパントは残った魔力の全てを回収することにした。
(カナさんのためにも…、こんなところで諦めるわけにはいかないんだ……)
 そう思った矢先のことだった。
「いたぞ!」
「今度は逃がさねぇぞ、脳みそ野郎!」
 突然、威勢の良い男達の声と共に、この地下の配管施設に通じる螺旋階段を降りる複数の足音が聞こえ
てきた。
「なにっ!?」
 メモリー・ドーパントが声と足音のする方を見てみると、そこにいたのは螺旋階段を降りきってこの場所
にたどり着いた三人の魔法使いだった。

五十五. 追憶の蛇女 ( No.62 )
日時: 2014/12/28 20:16
名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)

 数時間前。
 元宇宙仮面ライダー部のメンバー、歌星賢吾からフードロイド・ツナゲットが撮影した録画映像が
送られてきた。
 国安ゼロ課、木崎のオフィスに集合した、操真晴人、大門凛子、仁藤攻介、稲森真由、野座間友子、
ジェイク、そして木崎政範の七人は、友子のタブレットに受信された映像を確認する。
 タブレットに映し出された映像。
 その内容とは、白服に身を包んだ二人の男性、財団Xのメンバーがとある埠頭で密かに会話を交わ
しているところだった。
 会話の内容はよくわからないが、何やら言い争いをしているようにも見える二人のやり取りを暫く
観察していると、突然、何かを思い出したかのように攻介が大声を上げた。
「あ!! コイツ! このポニーテールのマッチョ野郎、笛木の屋敷にいた奴だ!」
 攻介の唐突な叫び声に、周囲のメンバーが皆一斉に驚き、肩を大きくビクつかせる。
 そんな中、唯一攻介の言葉に理解を示していた真由が言葉を続ける。
「確かに…。不思議なスイッチで鳥の怪人に変身したあの男に間違いないですね。…じゃあ、一緒に
映っている小柄な男、この人がサッカー場に現れた黄緑色の怪人の正体…」
 真剣な面持で皆が映像に集中している中、その傍らで、
「不思議なスイッチって…、やっぱゾディアーツスイッチのことッスかね?」
 ジェイクが呟くように友子に尋ねる。
 すると友子は、口を開かず無言のまま、ただ首をコクッと縦に振り頷くのだった。
 映像の中では、一触即発の末沈静化した二人のやり取りが続いていた。
『このままだと、お前は自分の仕事を放り出してでも主任を探しに行きそうだからな。これ以上サク
セサーの完成が遅れるのは、組織的にもマズイだろ?』
『そうだな。カナさんが帰ってきた時に笑顔でいてもらうためにも、プロジェクトは必ず成功させ
ないとな』
『だから主任の件は俺に任せて、お前は一刻も早く残りの魔力を回収して来い』
『わかった。カナさんのこと、絶対に見つけろよ!』
 この後、小柄な男は黄緑色のガイアメモリで脳みそを露出したドーパントの姿に変身し、何処かへ
飛び去って行った。
 監視を続けていたツナゲット達も追跡を再開したのか、映像はここで途切れていた。
 歌星賢吾の話では、ツナゲット達は今も怪人をマークし続けているという。
 つまり、ツナゲットの反応を辿れば、怪人の居場所がわかるはず。
 状況把握後、木崎は少し考えてから提案した。
「今の映像の内容、色々気になるところもあるが、まずは行動するのが最優先だ。操真晴人、仁藤攻介
、稲森真由、お前たちはそこの高校生達の情報を元に姿をくらました怪人を追え。奴が何かをしようと
しているのは間違いない。見つけ次第阻止しろ。……大門凛子、お前は高校生達といざという時の為に
ここで待機だ。もう一人の男の調査と鳴海探偵事務所への依頼は私がしておく。以上だ」
 こうして、各々自らの役割を果たすべく行動を開始した。
 そして——



 ツナゲットの反応を辿った末、操真晴人、仁藤攻介、稲森真由の三人はメモリー・ドーパントが潜む
配管施設にたどり着いたのだった。
「こ、こいつらが……なぜここに……?」
 突如現れた三人の部外者の姿に、メモリー・ドーパントは驚きを隠せなかった。
「お取り込みのところ悪いな。どんなことを仕出かそうとしているのかは知らないけど、お前達財団X
の企みは俺達が止める!」
 到着早々、クールな口ぶりで晴人が宣言する。
 さらに続けて、
「私達にも頼りになる助っ人がいるの。これ以上、あなたが何処へ行こうと、絶対に逃がしたりは
しないわ!」
「へっ! そういうことだ! わかったら大人しく観念するんだな!」
 と、真由と攻介も開口一番威勢良く言い放った。
「くっ…。まさか最後の最後に場所を突き止められるなんて…。考えが甘かったか…。でもこの状況、
ある意味感謝しているよ。指輪の魔法使いウィザード、僕も君には用があったからね…」
「用? 一体どういう意味だ?」
 メモリー・ドーパントの言葉に、晴人は首を傾げる。
「簡単なことさ。君のせいで僕の大切な人が行方知らずだ。この手で君に報いを与えなければ、僕の
気が晴れない!」
 その瞬間、メモリー・ドーパントは周囲に張り巡らせていた無数のプラグコードを頭部に収納し、
憎しみを込めた目で晴人を睨みつけた。
 鋭い視線と同時に身構えたその姿は、最早戦闘態勢そのものである。
「大切な人? 報い? 何を言っているのかわからないけど、戦闘の意思はお互い様って訳だ。だった
ら、こっちも全力を出すまでさ。仁藤! 真由ちゃん!」
「おう!」
「はいっ!」
 晴人の号令を合図に、肩を並べていた攻介と真由もより一層気構える。
 三人は腰部に変身ベルトを実体化させると、左中指に指輪をはめ込んだ。
 そして、それぞれが気合いを込めて共通の言葉を口にする。
「変身!!」
『フレイム・プリーズ ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー』
「変〜身!!」
『セット!オープン!L・I・O・Nライオーン!』
「変身!!」
『チェンジ・ナウ』
 晴人は赤い魔法陣を潜り抜け、ウィザード・フレイムスタイルに、攻介は金色の魔法陣を潜り抜け、
ビーストに、真由は琥珀色の魔法陣を潜り抜け、メイジへと姿を変える。
「さあ、ショータイムだ!」
「ランチタイムだ!」
「終わりの時よ!」
 三人の魔法使いは、ひんやりとしたこの地下の空間に各々の決め台詞を共鳴させると、一斉に眼前
のメモリー・ドーパントに向かって駆け出して行った。
「用があるのはウィザードだけだ! お前たちはコイツの相手でもしていろ!」
 恨みがあるのはあくまでウィザードただ一人。
 そう断言するメモリー・ドーパントは、掌に黄緑色の光を作り出し、それを三人の前に解き放った。
 サッカー場で、ビーストとメイジの前でやって見せたように、その行動は紛れもなくファントムを
生み出す行為そのものだった。
「野郎、またファントムを…」
 敵の厄介な能力を前に、思わず足を止める魔法使い達。
 放たれた黄緑色の光は眼前で人型に変化し、次の瞬間、それは三人にとっては忘れられない、特に
メイジにとっては憎しみの権化とも言うべきファントムの姿に実体化した。
「ゲッ!? マジか…」
「おいおい…、嘘だろ…」
「お前は……メデューサ…」
 思わぬ敵の登場に、三人の魔法使いはその場で呆然と立ち尽くす。

五十六. メイジvsメデューサ ( No.63 )
日時: 2014/12/31 02:21
名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)

 ファントム・メデューサ。
 それはウィザード達魔法使いが戦った数々のファントムの中でも、特に苦戦した相手の一人だった。
 ゲートだった稲森真由の姉、稲森美紗の絶望から生まれた彼女は、笛木奏の仮の姿、ファントムの
首領ワイズマンに忠誠を誓う幹部として残虐非道な行いを繰り返してきた。
 愛する姉と両親の仇をとるために魔法使いの力を得た真由=メイジと何度も対決を繰り広げることに
なるが、彼女の末路は以外にも呆気なく、そして哀れなものだった。
 ワイズマンに心酔していたメデューサは、そのワイズマンに裏切られ、そして命を絶たれたのだ。
 忠誠を誓ったワイズマンの正体が人間であり、さらにウィザード達魔法使いの裏で暗躍していた白い
魔法使いだったという真実を受け入れられないままメデューサは消滅し、その無念と肉体に宿っていた
魔力だけが残留することとなる。


 しかし今、メモリー・ドーパントの力で記憶から実体化したメデューサが、まるでかつての再現の
ように三人の魔法使い達の前に立ちはだかっている。
 命絶えたこの場所に再び出現したメデューサの姿は、ウィザード達魔法使いの目には宛ら亡霊のよう
に映っていた。
 予想外の状況に言葉を失った三人の魔法使いは、復活した強敵の姿に思わず息を呑む。
「シャァァァァァァァ……」
 獲物を捉えた蛇のように不気味に息を吐くメデューサ。
 その光景を目にしたメイジは、直感的にあることを悟った。
 それは、このメデューサにはかつてのメデューサ=ミサの人格が反映されていなければ、人間だった
頃の美紗の記憶も持ち合わせていないということ。
「サッカー場で他の復活したファントムを見たときにも思ったけど、あの怪物、ファントムの姿と力は
実体化できても、人格までは再現できないみたいですね……」
「たしかに…。テレビ局に現れたヘルハウンドも、見た目と力は一緒だったけど、理性や知性は感じら
れなかったよ……」
 身構えたまま分析するメイジとウィザードだが、メモリー・ドーパントに使役されるメデューサは、
問答無用で攻撃を仕掛け始める。
「おいっ、呑気に喋ってる場合か! くるぞ!」
 ビーストの言葉とほぼ同時に、メデューサが蛇が絡みついた杖状の武器、アロガントを手に襲い掛か
ってきた。
 三人の魔法使い目掛けて振り下ろされる杖。
 メデューサのストレートな近接攻撃を、ウィザード達はすかさず横方に飛んで回避する。
「ウィザードは僕が倒す! お前はビーストとメイジの相手をしろ!」
「シャァァァァァァァ……」
 メモリー・ドーパントの指示通り、メデューサはビーストとメイジに攻撃を絞ろうとする。すると、
「仁藤さん、メデューサとは私一人で戦います! 仁藤さんは晴人さんと一緒に怪物の方を!」
 と、咄嗟にメイジがメデューサの前に飛び出し、左腕のスクラッチネイルで攻撃を仕掛けながらビー
ストに提案した。
「真由ちゃん!?」
 メイジの唐突な行動に、ビーストは驚きの声を上げる。
「私一人で戦わせてください! コイツはニセモノかもしれないけど、メデューサとは今度こそ一対一
で決着をつけたいんです! けじめのために…、過去に決別するために…」
 メデューサを前に急にむきになるメイジ。
 その姿に一瞬戸惑うビーストだったが、すぐにその意味を理解した。
 以前、この場所でメイジとオリジナルのメデューサが最終決戦を繰り広げた際、思わぬ横槍があった。
 ワイズマンの乱入である。
 この手で仇をとるために全力を出したメイジは、後一歩のところまでメデューサを追い詰めた。
 しかし、あとわずかというところでメデューサはワイズマンに止めを刺され、消滅した。
 あの時、メイジ=真由は止めを刺せなかった。
 自らの手で復讐に、因縁に終止符を打ちたかったのに、それが叶わなかった。
 時が経った今でも、真由はずっとそのことを心残りに感じていたのだ。
 そんな中で突如訪れたメデューサとの意外な再会。
 きっと真由は、この状況を千載一遇のチャンス、絶好の好機だと感じたのだろう。
 これがメデューサに縛られた過去を振り払う最後の機会…。
「ああ、皆まで言わなくてもわかったぜ真由ちゃん。脳みそ野郎のことは俺達に任せて、真由ちゃんは
やりたいようにやりな!」
「ありがとうございます、仁藤さん!」
 メイジは気持ちを理解してくれたビーストにコクッと軽く頭を下げて礼を言うと、メデューサとの
戦いに集中することにした。
「ピンチはチャンスだ。頑張れよ、真由ちゃん! ……おっし! こっちも負けずに頑張りますか!」
 ビーストはメイジの戦う姿を見送ると、既に背後で戦闘を繰り広げているウィザードとメモリー・
ドーパントの戦いに自らも身を投じた。
「仁藤! いいのか? 真由ちゃんを一人にして…」
 手にしたウィザーソードガン・ソードモードを構えながら、ウィザードが駆け寄ってきたビースト
に問いかける。
「心配するな。向こうは真由ちゃんに任せておけば大丈夫だ!」
「大丈夫って…、相手はメデューサだぞ?」
「いいから信じろよ! 真由ちゃんは強い!」
「な、なんかよくわからないけど、お前がそう言うなら…。俺も真由ちゃんのことは信じているしな」
「ああ、それでいい。俺達はこっちに集中だ!」
 そう言いながらビーストはバックルから専用武器ダイスサーベルを抜き取り、メモリー・ドーパント
目掛けて先陣切って駆け出した。
 後を追うように遅れてウィザードも走り出す。
 こうして地下の配管施設で繰り広げられる二つの戦い。
 ウィザード、ビースト対メモリー・ドーパント。
 メイジ対メデューサ。
「哀れねメデューサ。死して尚、誰かに利用されるなんて…。せめて私が、あなたをその運命から
解き放ってあげる…」
 メデューサの杖の攻撃をスクラッチネイルで弾きながら、メイジは言う。
 ワイズマンに利用され、財団Xに利用される。
 最初から最後まで誰かに利用され続けたメデューサの人生。
(きっとそれが、私の家族の命を奪ったあなたへの罰…)
 数奇な運命を辿ったメデューサに、メイジは意外にも同情に似た想いを感じていた。
 決して憎しみが消えたわけでも怒りが収まったわけでもない。
 メデューサは姉を死なせて両親を殺害した張本人。
 恨むべき相手。
 なのに何故だろう。
 愛する姉と同じ顔をし、姉の記憶を持っていたメデューサが、今ではただの操り人形に成り果てて
いる。そんな姿を見ていると、なんだかやるせない気持ちになってしまう。
 まるで姉がそうなってしまったかのような、思わずそんな錯覚をしてしまいそうになる。
(メデューサ…。お姉ちゃん…)
 荒削りの宝石のような仮面の下で、メイジ=真由は静かに涙を流す。

五十七. 魔法攻防戦 ( No.64 )
日時: 2015/01/14 04:33
名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)

 メイジ対メデューサの戦いのすぐそばで繰り広げられるメモリー・ドーパントとの戦闘。
 しかし、ウィザードとビーストはいつもと勝手が違う相手を前に、思いの外苦戦を強いられていた。
 メモリー・ドーパントが持つ本来の格闘センスも然ることながら、それ以上に厄介なのが、彼も
ウィザードやメイジと同じ魔法を使用してくることだった。
 接近戦の最中、一人距離を取ったビーストがバッファマントを発動し、ダイスサーベルから三体の
バッファローの幻影を飛ばすが、メモリー・ドーパントはメイジの“バリアー”の魔法とまったく同じ
光の壁を展開し、それを容易に防いでしまう。
 ならばと、今度はウィザードが炎を纏った斬撃を繰り出そうとすれば、逆にウィザード・ハリケーン
ドラゴンの“サンダー”の魔法と同様の雷撃を放ち、メモリー・ドーパントは斬撃もろともウィザード
を後方に押し返した。
 まるでコピー同然、トレースしたかのように同じ種類の魔法を使うメモリー・ドーパント。
 魔法使いでもなければファントムでもないこの怪物が、一体何故自分達と同じ魔法を使うのか。
 ウィザードとビーストは困惑に苦しんでいた。
「俺達と同じ魔法か…。真由ちゃんの言ってたとおりだな…」
 なんとか活路を見出すべく、ウィザードは戦法を変えてみることにした。
 左手の指輪を付け替え、スタイルチェンジする。
『ウォーター・ドラゴン ジャバジャババシャーン、ザブンザブーン!』
 炎属性の赤から水属性の青へ。
 ウィザードはフレイムスタイルから水の上位形態ウォータードラゴンへと進化した。
「くらえっ!」
 変化直後、早々に今度は右手の指輪を付け替え、魔法を発動する。
『チョーイイネ! ブリザード! サイコー!』
 右手に出現した魔法陣から凄まじい冷気が放たれる。
 これを浴びればどんなものも凍結し、一時的に動きを封じることができる。
 敵の動きを止めさえすれば、反撃のチャンスも見えてくるはず。
 魔法を放出しながらそう考えるウィザード・ウォータードラゴンだったが、だがしかし、
「甘いよ。メモリーログ! メイジ、コネクト!」
 余裕を見せるメモリー・ドーパントがそう唱えた途端、悲鳴は思わぬところから聞こえてきた。
「のわぁあああああ!? 寒っ! 冷てぇ〜!!」
 ウィザードの隣で、突如頭上に出現した魔法陣から降り注ぐ冷気を浴びて、ビーストが悶え苦しん
でいた。
 幸い、野生的勘で咄嗟にその場からずれていた為、直撃は免れていたが、それでもそれなりのダメージ
は受けてしまっていた。
「仁藤!」
 予想外の展開に、思わず名を叫ぶウィザード。
 メモリー・ドーパントに向かって放った攻撃が、何故隣にいるビーストに当たったのか。
 相手を暫く観察していると、その理由が判明した。
 冷気が命中する直前、メモリー・ドーパントは空間を繋げる“コネクト”の魔法を使って、冷気の
着弾地点を変更させたのだ。
 メモリー・ドーパントが展開した魔法陣に吸い込まれた冷気は、出口としてビーストの頭上に作った
別の魔法陣から放出される。
 結果、ウィザードが放った冷気はビーストに当たってしまったのだった。
「大丈夫か? 仁藤」
「ああ、問題ねえよ。しかしやってくれるよなぁ、アイツ……」
「まったくだ。似たような攻撃を、昔、あるファントムにされたことがあったけど、まさかまた同じ目に
あうなんてな……」
 ウィザードはかつて戦ったファントム・ベルゼバブのことを思い出しながら言った。
 以前、空間を繋げる能力を持つベルゼバブと対戦した時、ウィザードは今回と同じような戦術を受けて
痛い目にあったことがあったのだ。
「今度はこっちから行くよ! メモリーログ! メイジ、チェイン!」
 メモリー・ドーパントが唱えると、ウィザードを取り囲んだ四方向に魔法陣が出現し、そこから白い
鎖が伸びてきた。
「なにっ!?」
 四本の白い鎖はあっという間にウィザードの身体に絡みつき、彼の動きを封じ込めた。
「晴人!」
 今度はビーストが名を叫ぶが、そうしている間にメモリー・ドーパントは次の攻撃に転ずる。
「お返しだよ! メモリーログ! ウィザード、ブリザード!」
 またしても唱えると、先ほどウィザードがやって見せたように、なんと今度はメモリー・ドーパント
が魔法陣から冷気を放ってきたのだった。
「なっ!? アイツ、晴人と同じことを…」
 驚くビースト。
 一方、ウィザードは必死で鎖を振り解こうと試みるが、ビクともしない。
「ヤベッ!」
 このままでは自分が氷付けになってしまう。
 焦る気持ちを抑え、力尽くでの脱出を諦めたウィザードは魔法に頼ることにした。
 なんとか手を伸ばし、右手の指輪を交換すると、急いでそれをベルトにかざした。
『リキッド・プリーズ』
 刹那、ウィザードの身体は液体と化し、拘束する鎖をすり抜けて迫り来る冷気もギリギリで回避した。
 液状化したまま、宙を浮遊してメモリー・ドーパントの頭上に接近。
 次の瞬間、液状化を解除。元の姿に戻ったウィザードは、そのままウィザーソードガン・ソードモード
で斬りかかった。
 ズバッと身体に斬り傷を付けられるメモリー・ドーパント。
 ようやくまともな一撃がヒットした。
 続けて二撃目を喰らわせようと剣を振るうウィザードだったが、
「メモリーログ! ウィザード、リキッド!」
 咄嗟にメモリー・ドーパントは己の肉体もウィザードと同じように液状化させ、剣撃を無効化したの
だった。
 黄緑色の液体の姿のまま、ウィザードの身体に纏わりつくメモリー・ドーパント。
「あの怪物…、まさか…」
 メデューサとの戦いの最中、その様子が視界に入っていたメイジは何かに気がついた。
「晴人さん! 仁藤さん! 魔法を使ってはいけません!」
 メデューサの杖アロガントをスクラッチネイルで受け止めながら、苦戦する二人に向かって叫ぶ
メイジ。
「もしかしたら、その怪物は私達の魔法をコピーできるのかもしれません! だとしたら、無闇に魔法
を使えば敵を強くする一方です!」
「うそッ!? マジか…」
「魔法のコピーか…。ありえるな…」
 メイジの言葉は根拠のない、直感的な発言ではあったが、彼女を信用しているウィザードとビースト
の二人は、その言葉を迷わず受け入れ、そして衝撃を受けた。
 今現在、身を以って体感しているのだから、当然といえば当然なのだが。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21



この掲示板は過去ログ化されています。