二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 仮面ライダーウィザード〜終幕の先〜【完結】
- 日時: 2017/04/15 00:31
- 名前: 裕 ◆.FlbxpLDSk (ID: XGjQjN8n)
こちらでは初めて投稿させていただきます、裕と申します。
今回はこの場を借りて、平成仮面ライダーシリーズ第二期から
「仮面ライダーウィザード」の物語を積み上げてみたいと思います。
個人的解釈としましては、第二期である「ダブル」〜「鎧武」までの作品は、同じ世界観だと思って見ております。なので、今回の物語もそれに沿った流れで書いていこうと思います。それに伴い、第二期各作品(劇場版)の設定も拝借する予定です。
物語の時間軸は「ウィザード」本編の最終回後、さらに言えば冬の映画「戦国MOVIE大合戦」の後の話だと思っていただけると幸いです。
ではでは。
〜登場人物〜
・魔法使いとその関係者
操真晴人=仮面ライダーウィザード
仁藤攻介=仮面ライダービースト
稲森真由=仮面ライダーメイジ
奈良瞬平
大門凛子(国安ゼロ課・刑事)
木崎政範(国安ゼロ課・警視)
ドーナツ屋はんぐり〜・店長
ドーナツ屋はんぐり〜・店員
・財団X
シオリ・カナ(栞 可奈)=仮面ライダーサクセサー
ヤマト=メモリー・ドーパント
ネオン・ウルスランド(局長)
・宇宙仮面ライダー部
野座間友子
ジェイク(神宮海蔵)
仮面ライダーフォーゼ
・鳴海探偵事務所
左 翔太郎=仮面ライダーダブル(左サイド)
フィリップ=仮面ライダーダブル(右サイド)
・怪人
サザル=ファントム・グレンデル
ファントム・ラミアー
ファントム・ヘルハウンド(ログ)
ファントム・シルフィ(ログ)
ファントム・バハムート(ログ)
ファントム・メデューサ(ログ)
グール
クロウ・ゾディアーツ
ペルセウス・ゾディアーツ
黒ネコヤミー
オールド・ドーパント
マスカレイド・ドーパント(白服)
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- 八十七. フォーゼ登場! スイッチ№24 ( No.95 )
- 日時: 2017/01/18 11:14
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: fhP2fUVm)
光の穴からロケットスタートの勢いで飛び出してきた一人の戦士は、その勢いのまま、飛び掛ってきたグレンデルに強烈な体当たりを喰らわせた。
「ぐうぉおあああああ……」
予想外の乱入者の突然の登場に、すっかり面食らったグレンデルは背後に大きく吹き飛んだ。
なんとか体勢を崩さずに着地したものの、そこにはすぐ目の前にダブルが佇んでいた。
唐突に現れた戦士の姿に、ラミアーやグレンデルは勿論、ウィザードやダブル、ビーストや凛子も戸惑いのあまり一瞬言葉を失った。
そんな中、友子とジェイクだけは現れた戦士に向けて驚きと歓喜の声を上げていた。
「弦太朗さん!? ウソッ!? なんで!? どうしてここに!?」
「良かった……。本当に来てくれた……」
「よお! 友子、ジェイク、二人とも無事だったか?」
ロケットのようなフォルムの頭部が特徴的な全身水色の戦士が、馴れ親しんだ口調で二人に言葉をかける。
彼の名は仮面ライダーフォーゼ・コズミックステイツ。
天ノ川学園高校の仮面ライダー部の創設者であり、今は教師という夢に向かってがむしゃらに勉強中の大学一年生、如月弦太朗が変身する仮面ライダーである。
「ひょっとして、さっき友子ちゃんが言っていたことって……弦太朗さんのことだったのか」
「そう……。この状況を何とかするにはフォーゼの——弦太朗さんの力が必要だって判断したから急いで連絡したの……。そしたら、何が何でも駆けつけるって言ってくれて……」
「どんな時でも、ダチのピンチには必ず駆けつける! それが友達ってモンだろう!」
力強くそう言いながら、フォーゼは自分の胸を拳でドンドンと叩いた。
「相変わらずッスね……、弦太朗さん」
久しぶりに会ったフォーゼ——弦太郎の変わらない姿に、ジェイクは安堵の表情を浮かべた。
「それよりもゴメンなさい、弦太朗さん……。大学の勉強で忙しいのに、結局弦太朗さんのこと頼ってしまって……」
「何言ってんだ、気にすんな! 勉強なんてまた、努力と気合でいくらでも遅れを取り返せる! それよりも、今この状況、この瞬間に背を向けるほうが俺にとっては大問題だ!」
「弦太朗さん……」
友子もまた、弦太朗の変わらぬ姿に安心感を感じていた。
友達のためなら何があっても全力で一直線。
単純だが、熱い男。それが如月弦太朗という男なのだ。
フォーゼは戸惑ったままでいる凛子とビーストの元に歩み寄る。
「あんたがビーストだな。俺は仮面ライダーフォーゼ、如月弦太朗。全てのライダーと友達になる男。あんたとも友情の証を交わしたいところだけど、どうやらそんな状況じゃなさそうだな。話は友子から聞いてるぜ。この人(瞬平)を救うために——」
と、言いながら、フォーゼは胸部のパネルを指でタッチし、一個のスイッチを出現させる。
「——コイツが必要なんだろ?」
仮面ライダーフォーゼ・コズミックステイツは、歌星緑郎が開発し、後に息子の歌星賢吾が調整を加えた40個のアストロスイッチ全てを吸収した特殊形態で、スイッチングラングと呼ばれる胸部パーツに表示されたスイッチのアイコンをタッチすることで、選抜したアストロスイッチを召喚することができる。
今、その手中に召喚されたのはスイッチ№24・メディカルスイッチ。
メディカルスイッチは応急手当用の簡易キット——メディカルモジュールをマテリアライズ(物質化)させるスイッチで、スイッチの中には治療に特化したコズミックエナジーが内包されている。
フォーゼはそのメディカルスイッチをビーストに手渡した。
「ん? なんだよこれ?」
突然スイッチを渡されたビーストは、何がなんだかわからず首を傾げる。
「それはアストロスイッチ……。宇宙のエネルギー、コズミックエナジーが込められた特殊なスイッチです……」
ビーストの疑問に答えたのは友子だった。
「コズミックエナジーは不思議な力で……、ここにいる弦太朗さん——フォーゼや星座の怪人ゾディアーツの力の源でもあります……。今、仁藤さんが持っているのはメディカルスイッチと言って、解毒や人体の治療などに効果的なものなんですが、あくまで応急処置用のシステム……。残念ながらこれだけでは瞬平さんを助けることはできません……。ただ——」
と、友子が説明を続けようと言葉を口にしかけたところで、友子の思惑に気付いたビーストがいつもの口癖を言い放つ。
「おっと! 皆まで言うな! あんたの言いたいことが大体わかってきた。要はこのスイッチをキマイラの奴に食わせて、俺の治癒魔法をパワーアップさせようってことだな?」
「はい。正確には、キマイラに食べてもらうのはスイッチの中にあるコズミックエナジーだけですけど……」
「でも、そんな都合良く食べてくれますかね……。もし、そのキマイラっていうのがコズミックエナジーを気に入らなくて食ってくれなかったら……」
心配そうにジェイクが言う。
「確かに、この作戦が上手くいく保障はありません……。キマイラが食べてくれない可能性もあるし、たとえ食べてくれても、それで瞬平さんを救える見込みがあるかどうかもわかりません……。つまり、これは一か八かの賭けなんです……」
「賭けには乗る主義なんだ。今コイツを助けられる可能性がそれしかないってんなら、俺は迷わず実行するぜ!」
友子の心配を余所に、ビーストは断言する。
「そうだぜ友子! お前の直感に俺も何度も助けられてきたんだ。お前の力は俺が保障する。ドンと胸を張れよ!」
友子の肩をポンと叩きながら、フォーゼも後押しする。
「わかりました……。やりましょう……」
友子の決心の一声を合図に、彼らは行動を開始した。
「滅多に食えない極上の珍味だぜ! たんと食えよ、キマイラ!」
ビーストは、受け取ったメディカルスイッチをベルトのライオンのレリーフに近づけた。
すると、メディカルスイッチから漏れ出したコズミックエナジーが光の粒子となってレリーフに吸い込まれ始めた。
「おっ! キマイラの奴、食ってるみたいだ!」
その様子を、ビーストを始め、フォーゼや友子、ジェイクや凛子も夢中で見入っている。
メディカルスイッチからコズミックエナジーを吸い終えると、ドルフィマントが発していた治癒の光に変化が起きる。
マントが放出していた青い光が、星の満ちる晴天の夜空のような光に変容したのだ。
それはキマイラの魔力とメディカルスイッチのコズミックエナジーが融合し、別の新たな力が誕生した証だった。
その力が全身に漲ってくるのを、ビーストは確かに感じていた。
「お、おおおぉぉぉ〜!? なんかわからねぇけど、すげぇ力が溢れてくるぞ!」
全身に満ち溢れる味わったことのない感覚に、ビーストは興奮を抑えきれなかった。
「すげえだろ? 宇宙キターって感じするだろ?」
「おお! するする! これなら瞬平を救えるかもな! いや、絶対救ってやるぞ!」
宇宙の力を実感するビーストに、フォーゼも思わず共感を覚える。
かつて、フォーゼ——如月弦太朗の元担任教師で、今も宇宙仮面ライダー部の顧問を務めている大杉忠太が言っていた言葉がある。
“異なる二つのものが合わさって、新たなパワーを生み出す”と。
宇宙鉄人とフォーゼ、メテオの戦いの時、たしかに言葉通りの出来事が起きて仮面ライダー部は勝利を収めた。
今回のケースも、まさにその言葉を体現したものだった。
ドルフィマントから発せられる星空の光を浴びる瞬平にも変化が起き始める。
衰弱していた瞬平の顔色が少しずつ良くなってきたのだ。
意識は未だに戻らないが、その変化は確かに手ごたえのあるものだった。
「見て! 瞬平君の顔色が……」
「ああ。これならイケるかもしれねえな!」
驚く凛子を余所に、治癒魔法をかけ続けるビーストは確信していた。
この特別な力なら、必ず瞬平を助けられると。
回復しつつある瞬平の様子を見て、友子とジェイクもホッと胸を撫で下ろした。
「よしっ! じゃあ後は、あそこにいる怪物共をぶっ倒すだけってことだなっ!」
そう言ってフォーゼは、少し離れた場所でウィザードやダブルと戦うラミアーとグレンデルに視線を向けた。
「弦太朗さん、一緒に戦ってくれるんですか?」
「当然! 乗りかかった船って奴だ! ダチのダブルやウィザードがいるなら、前に助けてもらった恩返しもしなきゃいけないしな! ちょっくら行ってくるぜ!」
友子の問いに力強く答えると、フォーゼは髪をかき上げるように頭部をキュッと撫でる仕草を見せてから戦いの場へと走り出した。
- 八十八. Last Showtime ( No.96 )
- 日時: 2017/02/02 00:53
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: YAHQda9A)
水飛沫を上げながら、雨足を切るように駆けるフォーゼ。
途端に地面を蹴って大きくジャンプをすると、右足を前に突き出しながら声を大にして叫んだ。
「うぉおおおおお!! ライダァーキィック!!」
フォーゼ、渾身の飛び蹴りが放たれた。
キックの的となったのは、ダブルを相手に格闘戦を繰り広げるグレンデルだった。
ダブルとの戦闘の最中、飛んでくるフォーゼのキックに気付くのが遅れたグレンデルは、キックの衝撃をその巨体にもろに受けてしまい、またしても大きく吹き飛んでしまった。
フォーゼはダブルの眼前で華麗に着地を決めると、振り向く間もなく、今度はウィザードと戦うラミアーに向けて右足を一歩前に出した。
そして、腰のフォーゼドライバーに装填されている四つのスイッチのうちの一つを起動させた。
『ランチャー・オン』
電子音声が鳴り、フォーゼの右足に青いランチャーモジュールが装備された。
変身ベルト・フォーゼドライバーには、赤い四つの起動スイッチと四つのアストロスイッチが装填されている。
コズミックステイツである今のフォーゼのベルトには、40番コズミックスイッチ、2番ランチャースイッチ、3番ドリルスイッチ、4番レーダースイッチがセットされている。
マテリアライズされたランチャーモジュールは、ミサイル弾頭が縦に5連装された箱型の発射台だ。
「喰らえぇ!」
本来は4番スイッチの力で装備されるレーダーモジュールと併用して正確な射撃を行うものだが、ラミアーとの距離感からその必要はないと判断したフォーゼは、目視で敵を補足し、ミサイル弾頭を5連続同時発射した。
凛子の危機の際に見せた一瞬の隙を突かれ、ラミアーに反撃のチャンスを与えてしまったウィザードは、その猛攻に再び劣勢を強いられていた。
しかしそこへ、フォーゼが放った5発のミサイル弾頭が飛来。
ミサイルの直撃を受けたラミアーは、思わずその攻撃の手を鈍らせた。
その隙に、ウィザードは一時後退し、ダブルとフォーゼの元に合流した。
「おっす! ダブルもウィザードも久しぶりッス!」
フォーゼは気持ちの良いくらい元気な挨拶を見せる。
それはまるで、朝の登校で友達と顔を合わせた時のような爽やかさだった。
「助かったぜ、フォーゼ! まさかお前が来てくれるとはな」
「カンナギの事件以来だね」
ダブルの翔太郎とフィリップも、後輩ライダーとの久しぶりの再会を喜んだ。
「俺はアクマイザーの……。いや、なんでもない。とにかく、また会えて嬉しいよ」
一年前に起きたアクマイザーの事件。当時、その事件に関与したのは五年後の未来からやって来たフォーゼ——弦太朗だった。
つまり今、この現在のフォーゼはアクマイザーの事件のことはまだ何も知らないはずなのだ。
ここでうっかり口を滑らせて現在のフォーゼに知られてしまうと、今後の未来にどんな影響を及ぼすかわからない。
そう考えたウィザードは、一旦口を噤んでから気持ちだけを言葉にして伝えた。
「あ? ああ。よくわかんねぇけど、俺も二人……じゃなくて、三人に会えて嬉しいぜ! ……それで? あそこにいる怪物共を倒せば、全部解決ってことなんだよな?」
フォーゼは二体のファントムを指差しながら、再度状況を確認した。
「まあな。簡単に言えばそういうことだ!」
腰に手を当てながら、返答するダブル——翔太郎。
「よっしゃ! だったらチャチャっと倒そうぜ!」
「ああ。だけど、あそこのデカイ奴は俺に任せてくれ! いろいろ事情が複雑でね。どうしても俺が相手をしたいんだ」
アックスカリバーの刃先でラミアーを指し示しながら、ウィザードは告げる。
「事情ってどんな?」
「あれこれ聞くのは野暮だぜ、フォーゼ。強いて言うなら……男の事情って奴だ」
「男の事情……。なんかカッコいいな」
「だろ? とにかく、お前は俺たちと一緒にもう一匹のケモノの相手だぜ!」
そう言ったダブルの視線はグレンデルを捉えていた。
それを察したフォーゼは、「了解!」と、力強く了承した。
「それじゃあ行こうか! これが最後のショータイムだ!」
ウィザードの言葉を合図に、三人の仮面ライダーは一斉に駆け出した。
ダブルとフォーゼはグレンデルの元へ。
そして、ウィザードはラミアーの元へ。
「それだけ傷つきながらも、まだ苦しみ足りないとは……。何処までも愚かな奴だ!」
ファントム・ラミアーは、アックスカリバーを手に駆け寄ってくるウィザード目掛けて黒い波動を撃ち放った。
ウィザードはピタリと足を止めると、アックスカリバーを両手に構え、力を込めて刃を振り下ろした。
カリバーモードの刀身が、波動を真っ二つに両断する。
「どんなに傷ついても苦しんでも構わない! お前を止めることができるのなら!」
背後で起こる爆発をバックに、ウィザードは威勢良く啖呵を切る。
「ならば……好きなだけ苦しんで、無様に朽ち果てるが良い!」
ラミアーは蛇の身体をバネのように縮めて助走をつけてから、勢い良く前に飛び出した。
伸ばした長い腕がウィザードに襲い掛かる。
「はっ!」
ウィザードはすかさず横転してラミアーの迫る腕を回避すると、右手の指輪をベルトにかざした。
『ライト・プリーズ』
展開した魔法陣から眩い光が発せられ、一瞬だがラミアーの視覚を遮った。
「ちぃ! 小癪な……」
悶えながら思わず瞼を閉じるラミアー。
その隙をチャンスとしたウィザードは、次なる指輪を右手にはめ込む。
「今度はコイツだ!」
『コピー・プリーズ』
指輪をベルトにかざし、発動させたのは自らの分身を作り出す魔法。
一度発動させると分身が一人増え、もう一度発動するとさらに二人増える。
一人から二人、二人から四人と発動するごとに人数が倍々に増えていく。
ウィザードは本物である自分自身を含めた計四体の分身を生み出し、ラミアーを取り囲むように配置した。
「何のマネだ……」
視力を取り戻したラミアーが周囲を見回すと、前にも後ろにも、右にも左にもウィザード・インフィニティスタイルの姿があった。
四人のウィザードに囲まれたラミアーは、その動きに注意し警戒する。
分身のウィザードの動きはオリジナルの動きと連動しており、本物の動きと全く同じ行動を取る。
『『『『ターンオン!』』』』
四人のウィザードは一斉にアックスカリバーをカリバーモードからアックスモードに持ち替えると、ハンドオーサーを五回連続でタッチした。
『『『『ハイッハイッハイッハイッハイタッチ! プラズマシャイニングストライク!』』』』
次の瞬間、四つのアックスカリバーは四人のウィザードの手を離れ、その手の動きに合わせて宙を舞い、一斉にラミアーに襲い掛かった。
ブーメランのように飛翔する四つのアックスカリバーは同じ動き、同じタイミングでラミアーの肉体に激突する。
普通のファントムならばその一撃で跡形もなく消し飛ぶのだろうが、だがしかし、相手は規格外のファントム・ラミアー。その強力な一撃さえも、全身を包む蛇の鱗が弾き返してしまう。
まさに反則級の防御力である。
「残念だったな……。貴様の渾身の一撃も、我が鱗の肉体にはあまりにも無力……」
余裕の表情を浮かべながら、ラミアーはウィザードの行動を無駄な足掻きだと嘲笑するが、それでも尚、宙を舞う四つのアックスカリバーは攻撃を続けていた。
一度弾かれても何度も何度も舞い戻り、蛇の鱗にアタックを続けていた。
「おのれ……うっとおしい!」
そのしつこい攻撃にさすがに苛立ちを覚えたラミアーは、全身から黒い波動を解き放ち、アックスカリバーを軌道修正できない距離まで一気に吹き飛ばした。
一瞬にして得物を失ったウィザードだったが、不思議と気持ちは悲観的ではなかった。
なぜなら今の攻撃は、あくまで次なる反撃のチャンスへの繋ぎでしかなかったからだ。
本当の反撃は、今この時——この瞬間に果たされる。
- 八十九. 拒絶 ( No.97 )
- 日時: 2017/02/14 01:09
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: ShMn62up)
『コネクト・プリーズ』
一人に戻ったウィザードは、魔法陣からウィザーソードガン・ガンモードを取り出すと、照準をある一点に合わせて迷うことなく引き金を引いた。
銃口から撃ち出された一発の銀色の弾丸が、縦横無尽に弾道を変化させながら、ラミアーの急所を目指す。
アックスカリバーの攻撃に気を取られ、さらに力を一気に発散したこともあり、ラミアーにはこれまでにないほどの大きな隙が生まれていた。
そのチャンスを逃すまいと放ったウィザードの弾丸は、ラミアーの懐を潜り抜け、彼女の最も弱い部分を貫いた。
それはどんな生物にも共通する弱点——“眼”。
ウィザーソードガンから撃ち出された一発の弾丸は、ラミアーの右眼の眼球を破壊した。
「ぐぎゃぁあああああああああ……」
その瞬間、ラミアーは潰れたトマトのように血が噴出した右眼を片手で押さえながら、壮絶な悲鳴を上げた。
「やっぱりな……。どんなに全身が硬い鱗に覆われていたとしても、眼の中まで守りきれるはずがない。これでお前の驚異的な視力も半減だな」
背中を仰け反らせながらもがき苦しむラミアーの姿を前に、ようやく勝機を見いだしたウィザード。
このチャンスを最大限活用し、今度こそ戦いに勝利するため、次なる行動に移ろうとした。と、その時。
「貴様ァアアアアアアアアアア!!!」
今の攻撃で完全にキレたラミアーが、怒りに身を任せて右手を伸ばした。
ウィザードを握り潰そうと、その掌を大きく広げる。
「なにっ!?」
ラミアーの唐突な行動に思わず戦慄するウィザード。
しかし幸いにも、その攻撃がウィザードに届くことはなかった。
ウィザードに届く寸前、ラミアーの右手はピタリと動きを止めていた。
「なん……だと……!?」
それはラミアー自身にも予想外の状況だったようで、ラミアーは驚きの表情を隠せなかった。
再び動かそうにも、どういう訳かその右手はピクリとも動かず、ウィザードに向けたまま、ただその場に停止するだけだった。
「なぜだ……? 何故動かん……?」
どんなに力を加えても動こうとしないラミアーの右手。
それはまるで、ラミアーの身体がラミアー自身の意思に逆らっているようだった。
その光景に、ウィザードも呆気にとられていた。
一体何が起こっているのか、全くわからない。
ダブルに検索してもらえば何かわかるのかもしれないが、あいにく向こうも戦闘の真っ最中だ。
攻撃を続けるか否か判断に困っていると、突然、心の中から微かに声が聞こえてきた。
(……と…、……は……と……、……はる……と……)
心の声は徐々に大きく、そしてハッキリと聞こえてくる。
(……はると……、晴人……)
「なんだ? 俺を……呼んでいるのか……?」
その声を聴いていると、不思議と胸の内が温かくなり、懐かしい気持ちになってくるのをウィザードは感じていた。
(晴人……、晴人……)
「この声……、まさか……」
聞き覚えのある可憐な声。
何度も聴いた少女の声。
決して忘れるはずがない、晴人にとっては希望の声。
確かに呼びかけてくる声の正体を、ウィザードはようやく理解した。
そうだ、この声は、
「コヨミ!」
『エクストリーム!』
横たわるフィリップの肉体をデータ化し吸収した鳥型ガイアメモリ——エクストリームメモリをベルトに装填し、ダブルはサイクロンジョーカーエクストリームへと姿を変えた。
ウィザードがファントム・ラミアーと戦闘を繰り広げる一方で、ダブルとフォーゼもグレンデルを相手に激戦を続けていた。
「敵の全てを閲覧した! プリズムビッカー!」
サイクロンジョーカーエクストリームへと進化したダブルは、同時に地球の記憶と直結し、そこからファントム・グレンデルのあらゆる情報を一瞬にして検索し把握した。
身体の中央クリスタルサーバーから召喚した盾型の武器プリズムビッカーを手に取ると、起動メモリであるプリズムメモリを取り出した。
『プリズム!』
プリズムビッカーは剣と盾がセットの専用武器で、プリズムメモリを装填することで剣——プリズムソードと盾——ビッカーシールドに分離させることができる。
ダブルはプリズムメモリを柄の部分に差し込み、プリズムソードを力強く引き抜いた。
「いくぜっ!」
剣を構え、威勢よく走り出す。
グレンデルはフォーゼの対応に追われていた。
「ちっ! 今度はフォーゼか……。次から次へと邪魔者が沸いて出てきやがる!」
フォーゼ・コズミックステイツが繰り出す大剣バリズンソードの斬撃を、時には避け、時には爪で弾きながら退いていく。
そこへダブルが背後から攻撃を仕掛けた。
プリズムソードを頭上から振り下ろした大振りの攻撃だった。
獣の勘で気配を察知したグレンデルは、瞬時に振り向き、両腕を前面にクロスさせてダブルの斬撃を受け止めた。
暫くの間、鍔迫り合いが続く。
「ファントム・グレンデル、お前の正体がわかったぞ!」
プリズムソードに力を込めながら、ダブルの中のフィリップの意思が語り掛ける。
「ほう、俺の過去を検索したか? そいつはとんだプライバシーの侵害だな」
グレンデルは挑発的な笑みを浮かべながら皮肉を吐いた。
「ふざけんな! 怪物であるお前にプライバシーもクソもあるか!」
今度はダブルの中の翔太郎がそう言い返しながら、左手のビッカーシールドでグレンデルを殴り飛ばした。
殴られた勢いのまま、グレンデルは背後に後退する。
「お前の正体。それは500年以上前に、ある王国のある魔術師が起こした儀式から生まれたファントム。つまりお前は、笛木奏がサバトを起こすよりも前——ずっと大昔に生まれた古のファントムだ!」
プリズムソードの先端でグレンデルを指しながらダブルは言い切った。
「ご名答! 大正解だよ、仮面ライダーダブル。地球の記憶を味方につけるってやり方は随分と気に食わねぇけどな!」
「500年って……。コイツ、そんな大昔からずっと生きていたのか?」
話を聞いていたフォーゼも、何のことか良くわからないながらも、その“500年”という年数に思わず驚愕した。
「恐らく、500年以上前にも現代と同じように大量のファントムが発生したんだ。そしてそのファントム達を駆除するために開発されたのが古の魔法使い——ビーストという訳だ!」
「マジか……。ってことは、アイツとキマイラはタメってことか」
少し離れた所で瞬平の治療に専念していたビーストが呟くように言った。
「ああ。昔のビースト——かつては“金獅子の魔法使い”と呼ばれていたがな。昔の奴はそれはそれは強くてな。多くの同胞が奴の犠牲になったよ! だが、決して全滅したわけじゃねぇ。奴のしつこい追跡から逃げ切って、こうして俺は現在まで生き延びた。そして、同じような連中がまだ多く存在し、この時代の片隅でひっそりと息を潜めているのさ! そいつらを俺の元に集結させて新たな社会を作る。それこそが俺の悲願、俺の夢だ!」
グレンデルは両手を大きく広げて、アピールするように演説した。
「怪物の社会なんて死んでもゴメンだぜ! てめえは俺達がここでぶっ潰す!」
フォーゼはグレンデルの理想を否定するように、バリズンソードを掲げて走り出す。
「それはこっちのセリフだ! 俺の理想に、貴様ら仮面ライダーは邪魔だ!」
グレンデルもまた、仮面ライダーの存在を否定するように爪を立て、眼光を放つ。
- 九十. ダブルの魔法 ( No.98 )
- 日時: 2017/02/15 12:59
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: GbhM/jTP)
向かって来るフォーゼ目掛けて、グレンデルは口から無数の牙を射出した。
「おっと!」
一撃目を横転して回避したフォーゼは、すかさずベルトに装填されたアストロスイッチを交換し起動させた。
『シールド・オン』
フォーゼの左腕に装着されたスペースシャトルを模した小型の盾が、飛んでくる牙の弾丸を弾いていく。
「今だフィリップ!」
「ああ!」
『プリズム・マキシマムドライブ!』
フォーゼへの攻撃に気を取られるグレンデルの死角に回り込んだダブルが、プリズムソードの刃にエネルギーを集中させる。
「「プリズムブレイク!!」」
翔太郎とフィリップの息を合わせた一撃が、グレンデルの背中を切り裂いた。
「ぐがっ……。やりやがったなぁ、貴様ぁ!」
背中に感じる痛みに怒りを露にしたグレンデルが、今度はダブルに標的を変える。
両手の爪を光らせ、獲物を狙う肉食動物のように飛び掛っていく。
頭上から振り下ろされる爪の一撃を、ダブルはビッカーシールドで受け止め、即座にプリズムソードを振るって反撃するが、その攻撃をグレンデルは後方にジャンプして回避した。
「逃がすかよ!」
『ジャイロ・オン』
『ガトリング・オン』
グレンデルの姿を補足したまま、フォーゼはベルトのスイッチを入れ替え、装備を換装する。
小型の盾——シールドモジュールが消滅し、代わりに左腕にヘリコプターのメインローターのようなモジュール——ジャイロモジュールと左足に青いガトリングガン——ガトリングモジュールが装備された。
「もういっちょ!」
『スパイク!』
フォーゼはさらに胸部のスイッチングラングに表示された15番のアイコンを指でタッチした。
コズミックステイツには、アストロスイッチの効果の重ねがけという能力がある。
装備したモジュールに別のモジュールの能力を付加するというものだ。
ただし条件は決まっており、右腕には右腕の、左足には左足のモジュールの効果しか付加することはできない。
フォーゼは左足に装備したガトリングモジュールに、キックユニットであるスパイクモジュールの“トゲ”の効果を重ねがけした。
左腕を頭上に掲げると、装備されたローターが高速回転を始め、フォーゼの身体が宙に浮き始める。
それなりの速度があるその能力で空中を移動しながら、フォーゼは左足のガトリングガンの銃口をグレンデルに向けた。
次の瞬間、六本の銃身が高速回転し、貫通力のあるニードル弾が連続で撃ち出された。
一分間に発射される弾の数は2400発。
その弾丸一発一発がグレンデルの皮膚を突き破り、体内にダメージとして蓄積されていく。
「うがぁあああああ……」
降り注ぐ弾丸の雨。
さすがのグレンデルもこれにはたまらず悲鳴を上げる。が、しかし。
「ち、畜生……。いい気になるなよぉ!」
もがき苦しみながらも、グレンデルは咄嗟に掌から魔力の光弾を発射し、空中をホバリングするフォーゼを撃墜させた。
「うわあぁー!」
攻撃のショックでジャイロモジュールとガトリングモジュールのスイッチがオフになり、装備が解除されながらヘリポートに打ち付けられるフォーゼ。
追い討ちを仕掛けようと走り出すグレンデルだったが、しかしそこへ、突然背後から電子音声が聞こえてきた。
『サイクロン・マキシマムドライブ!』
『ヒート・マキシマムドライブ!』
『ルナ・マキシマムドライブ!』
『ジョーカー・マキシマムドライブ!』
思わず足を止め、背後を振り返ると、そこには四本のガイアメモリを装填したプリズムビッカーを構えるダブルの姿が。
「「ビッカーファイナリュージョン!!」」
ダブルが二重の声で叫ぶと同時に、盾から七色の光線が放たれた。
それはプリズムビッカーの四つのマキシマムスロットに装填された四本のガイアメモリのエネルギーを収束させた必殺ビームで、当たれば並の怪人ならば一撃で粉砕することが可能な威力を持っている。
七色の光は真っ直ぐに伸びると、ファントム・グレンデルの身体に命中し炸裂した。
「がはぁあああああ……」
光に肉体を焼かれ、グレンデルは再び悲鳴を轟かせる。
この戦いが始まってから幾度も大技をその身に受け、すでに身体は満身創痍のはず。
しかしそれでもグレンデルは倒れなかった。
それどころか。
「うぉおおおお! おらぁ!」
グレンデルは得意の縮地で一瞬にしてダブルの懐に入り込み、行動を予測させる間もなく鋭い爪を振り上げた。
その爪の一撃にプリズムビッカーは弾き飛ばされ、ダブル自身もまた背後に大きく吹き飛んだ。
「ダブル! ……この野郎ぉ!」
すぐさまダブルを援護するべく、フォーゼがバリズンソードを片手にグレンデル目掛けて走り出す。
ヘリポートの上をゴロゴロと転がり、横たわるダブル。
「いってぇ〜……。なんてタフな野郎だ、まったく……」
すぐにその身体を起こそうと両腕を立てるが、するとその時、不意に何かが指先に当たった。
「……ん? フィリップ、こいつは……」
金属類の破片に紛れて転がっていたそれを徐に拾い上げたダブルは、すぐにその意味を理解した。
フォーゼはバリズンソードを振るい、グレンデルに攻撃を仕掛けていた。
しかしどの攻撃もダメージには繋がらず、逆に反撃を受けてしまう。
「言ったはずだ! 俺はそこらのファントムとは実力が違うってな!」
フォーゼを前に、グレンデルは得意げに吼える。
しかしそこへ。
「おい! こっちだバケモノ!」
背後からダブルの——翔太郎の呼び掛ける声が聞こえてきた。
グレンデルがその方向に振り向くと、一本のガイアメモリを見せびらかすように手にしているダブル・サイクロンジョーカーエクストリームの姿が目に映った。
「てめえの相手はこっちだぜ!」
挑発するように言葉を投げ掛けるダブル。
その態度に苛立ちを感じるグレンデルだったが、ダブルの持つガイアメモリが目に留まった瞬間、唐突に態度を急変させる。
「貴様……、そのメモリは……」
「ああ。コイツは彼女が——シオリ・カナが残してくれたてめえを倒すための“切り札”さ!」
ダブルの手に握られているもの。それは粉々に砕け散ったサクセサーのベルトの中に奇跡的に残っていた“メモリー”のT2ガイアメモリだった。
「切り札だと? バカな。たまたま破壊を免れたそんな壊れかけのガラクタに、今更そんな価値があるとでも思っているのか?」
「ああ、あるぜ! 教えてやるよ! 俺の手元に残るのは、どんな時も“切り札”だってことをな!」
ダブルは力強く言い切ると、メモリーメモリを右腰のマキシマムスロットに装填した。
『メモリー・マキシマムドライブ!』
電子音声が鳴り、ダブルが左手を前に突き出した瞬間、その掌に魔法陣が出現し、そこから虹色の火球が発射された。
それはシオリ・カナがサクセサーの時に使っていた魔法と全く同じものだった。
「なにっ!? ぐわぁ……」
ダブルが放った技に驚きを隠せなかったグレンデルの行動は完全に出遅れ、防御する間もなく虹色の火球は直撃した。
その威力はサクセサーが使用していた時とは比べ物にならないほどに高く、グレンデルの巨体をいとも簡単に転倒させた。
「スゲーな! ダブルが魔法を!?」
成り行きを見守っていたフォーゼも、予想外の展開に思わず呆気にとられる。
「どうなってんだ……。あの女の魔法に、これほどの威力はなかったはずだ……」
「それはこのガイアメモリが“記憶”を司るメモリだからさ!」
そう言ったのはダブル——フィリップの声だった。
「今のこのメモリーメモリには、ファントムの魔力の記憶とは別にもう一つ、シオリ・カナの“お前(グレンデル)を倒して両親の仇を取りたい”という純粋な想いの記憶も蓄積されている。その想いの力が、僕らの魔法を何倍にも強くしてくれる!」
と、今度は右手を空に掲げるダブル。
すると頭上に魔法陣が出現し、そこから無数の光の弾が流星群のように降り注いだ。
飛んでくる幾つもの光球を回避しようと後退するグレンデルだったが、その圧倒的な数を前に全てを避けきることはできず、結局は弾の餌食となってしまった。
「ち、畜生……。想いの力だと……。くだらねぇ……。そんなものが力の足しになる訳がねぇ……」
何発もの光の弾を喰らい、大きなダメージを受けたグレンデル。
しかし、それでも尚、グレンデルは震える膝で必死に踏みとどまっていた。
「てめえなんかには一生理解できねえだろうさ! これまでずっと、人の想いを平気で踏みにじってきたてめえにはな! だけど覚えときな! 人の想いの力は、時としてどんな困難も打ち破る“魔法”になるってことを!」
ダブル——翔太郎は叫んだ。
湧き上がる怒りと、メモリーメモリから伝わってくるシオリ・カナの無念の思いを込めて。
そして翔太郎とフィリップ——ダブルはグレンデルを指差し、声を合わせて投げ掛ける。
あの言葉を——。
「「さあ、お前の罪を数えろ!」」
ダブルの言葉に、激昂したグレンデルが歯向かっていく。
「ふざけるなぁ! 俺は自分の行いを罪だと思ったことなど、一度もないわぁ!」
頭に血を上らせ、襲い掛かってくるグレンデルを、ダブルとフォーゼは拳を握り締め迎え撃つ。
- 九十一. 救済 ( No.99 )
- 日時: 2017/03/07 01:57
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: s/G6V5Ad)
コヨミは、笛木奏が不治の病で喪った娘“暦”を蘇らせる過程で生まれた“魔力で動く人形”だった。
笛木が起こした儀式——サバトの直後、“人形”としての生を受けた彼女は魔法使いとなった操真晴人に出会う。
晴人と同じ時を過ごすうちに、輪島繁や大門凛子、奈良瞬平や仁藤攻介らとも出会い、楽しい日々を送っていた。
しかし、彼女は魔法石——賢者の石を肉体の核とし生きる“人形”。
魔力を失うか石を失うかで消える、儚い存在だった。
ファントム・グレムリンの暴走により、賢者の石を失ったコヨミは晴人の胸の中で消滅したが、その魂は確かに賢者の石に宿っていた。
晴人がグレムリンの手から賢者の石を取り戻した後も、ファントム・オーガの策略により、一度は悪の魔法使いとして蘇り、仲間たちと敵対するという残酷な状況に追い込まれたこともあったが、今では希望の指輪——ホープウィザードリングに形を変え、晴人のアンダーワールドに存在する記憶の中のコヨミに託されている。
ウィザード・インフィニティースタイルの胸の内から聞こえてくる声は、確かにアンダーワールドの中で眠る“ホープ”の指輪——コヨミの声だった。
「コヨミ!? コヨミなのか!?」
突然聞こえてきた懐かしい声に、ウィザードは戸惑いを隠せなった。
(晴人……。晴人……。お願い、晴人……。“彼女”を救って……)
心の中のコヨミは可憐な声でウィザードに訴えかける。
「救う? “彼女”を救うって……一体どういうことだ!? コヨミ!」
これだけハッキリと声が聞こえるということは、もしかしたら何処かにコヨミの姿があるのでは。
そんな淡い期待を抱きながら、ウィザードは思わずコヨミの姿を探すように辺りを見回すが、当然のことながら彼女の姿は何処にもない。
(よく聴いて、晴人……。あのラミアーというファントムを生み出すゲートとなって命を落とした“彼女”の魂は、まだ消えていない……。あのファントムの中に、微かにまだ残ってる……。ラミアーがああして自由を失ってることがその証拠よ……)
「奴のあの不自然な行動は、“彼女”の——シオリ・カナの意思が原因ってことか……?」
ウィザードは眼前で右腕の不自由に困惑しているラミアーに視線を向ける。
(ええ……。“彼女”が内側から抵抗しているの……。だけど、その意思も既に消えかけている……。“彼女”の意思が完全に消えてしまう前に、晴人の力で“彼女”の魂を救ってあげてほしいの……)
「……俺にそんなことができるのか?」
(大丈夫……。晴人は絶望を希望に変える魔法使い……。“彼女”の魂を救うことができるのは、あなただけ……)
「でも、一体どうやって……」
(私の力を使って……。私の——賢者の石の力……。それに、晴人の力と……瞬平の力)
「瞬平の?」
(瞬平が晴人のために作った指輪があるでしょ……。それを媒介にすれば、“彼女”の消えかけた魂にもう一度火を灯せるかもしれない……)
コヨミの言葉にピンときたウィザードは、左腰のリングホルダーから一つの指輪を取り出した。
それは昨日、瞬平がくれた二つの指輪のうちの一つ。
既に戦闘で使用済みの“タワー”の指輪と共にくれた、まだ一度も使っていない未知の指輪。
どんな効力があるのか、それはウィザードにもまだわからない代物だが。
「コイツで“彼女”を……。……わかった。お前の言葉を信じるよ、コヨミ! 力を貸してくれ!」
決心したウィザードは、指輪を右手中指にはめ込み、力強くベルトの手形の紋章にかざした。
『サルヴェーション・プリーズ』
次の瞬間、賢者の石の魔力を原動力に、ウィザードの右手の指輪が光り輝いた。
「これは……」
(その手をファントムに——ラミアーに掲げて!)
指輪が発する異常な輝きに戸惑うウィザードに、すかさずコヨミがアドバイスする。
ウィザードは言われたとおり、自身の右手をラミアーへと伸ばす。
すると、突如出現した巨大な桃色の魔法陣が、ラミアーを包み込むようにその巨体に覆い被さった。
「な、なんだ……これは……!?」
相変わらず自由を失った右手に困惑していたラミアーは、唐突に発生した魔法陣を前に絶叫する。
そして。
「がっ!? がぁあああああああ……」
突然、ラミアーの顔の右半分に亀裂が走り始めた。
それはまるで、絶望したゲートと同じように。
自由の利く左手でひび割れた箇所を押さえながら悶え苦しむラミアー。
ボロボロと剥がれ落ちていく顔の皮膚。
その奥から露になったのは、消滅したはずのゲート——シオリ・カナの悲しげな瞳だった。
「あれは!?」
思わぬ展開に、魔法を発動させた当人であるウィザードすら驚愕する。
(これで一時的に、“彼女”の意思がラミアーの意思を上回った……。後はお願いね……、晴人……)
役目を終えたコヨミは、後のことをウィザード——晴人に託し、その声を潜めた。
「サンキューな、コヨミ……」
呟くように心の中のコヨミに礼を告げたウィザードは、改めて目の前の状況に気持ちを集中させる。
「ウィザード……私の声が聞こえる……?」
今までもがき苦しんでいた筈のラミアーが、突然ウィザードに声を掛けてきた。
それはラミアーの意思ではなく、ラミアーの口を借りて訴えかけるシオリ・カナの意思だった。
ウィザードの魔法の効果で表面化したカナの意思が、ラミアーの動きを封じながらウィザードに語りかける。
「お願い、ウィザード……。私がコイツの自由を押さえ込んでいるうちに……、貴方の力でコイツを葬ってくれ……」
「!? そんなことをしたら、ファントムと一緒に君の魂も消えてしまうぞ?」
「それでいいのよ……。コイツが生まれた時点で、既に私という存在は死んでしまった……。今の私は……ファントムに対する憎しみだけの残留思念……怨念みたいなものなんだから……」
カナは自らを皮肉るように言葉を述べた。
「そんな歪んだ魂が……いつまでもこの世に留まっていれば、いずれ私もコイツに取り込まれて邪悪な存在に成り果ててしまう……。それに……、もう私の肉体は何処にもない……。あったとしても……、今更元に戻ることもできない……。だからお願い! コイツと一緒に私も消して! せめて……、最後ぐらいはファントムを倒す役に立ちたいの……」
そう必死に訴えるカナの右眼からは、溢れた涙が流水のように頬を伝っていた。
「しかし……」
決断を迫られたウィザードは、涙を流すカナの姿を前に戸惑いを隠せなかった。
するとそこへ。
「ぼ……僕からも……お願いします……。晴人さん……」
突然、背後から雨の音に紛れてか細い声が聞こえてきた。
それは瀕死の重傷を負い、意識不明に陥っていたはずの奈良瞬平の声だった。
「瞬平!」
「瞬平君!」
いつの間にか目を覚ましていた瞬平の姿に、治癒魔法を施していたビーストとそれに付き添っていた凛子は思わず声を上げる。
「瞬平! 大丈夫なのか!?」
振り向いたウィザードも、横たわりながらも覚醒した仲間の姿に衝撃を受けた。
生身の身体でありながら、その腹に大きな風穴を開けられたというのに。
コズミックエナジーを取り込んだビーストの魔法が効いたのか、それとも“生きよう”とする瞬平の想いの強さが招いた結果か。
「僕、なんかの……ことよりも……。晴人さん……お願いです……。シオリさんの言うとおりに……してあげてください……」
瞬平は息も絶え絶えに、声を絞り出しながら必死に頼み込んだ。
「シオリさんは……ずっとファントムに利用されてきました……。幼い時から……。魔法使いに……なる夢も、御両親の死も……。復讐を誓った……意思すらも……。だから最後は……最後だけは……彼女の願いを……聞き届けてあげてください。……ファントムの呪縛から……シオリさんを解放してあげてください……」
「……本当に良いのか? 瞬平」
重い口ぶりで、ウィザードは聞き返す。
「……はい」
朦朧とした意識の中、やっとの思いで返事を吐き出した瞬平の眼には、既に大粒の涙が溢れていた。
「……わかった」
その姿を見て決心したウィザードは、脳裏を駆け巡るあらゆる感情や気持ちを飲み込むようにそっと頷くと、視線をラミアー——シオリ・カナへと戻した。
「君の願いを叶える……。覚悟は良いか……?」
「ええ。お願い……」
カナの返事を確かに見届けたウィザードは、懐から金色に輝く指輪を取り出した。
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