二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 仮面ライダーウィザード〜終幕の先〜【完結】
- 日時: 2017/04/15 00:31
- 名前: 裕 ◆.FlbxpLDSk (ID: XGjQjN8n)
こちらでは初めて投稿させていただきます、裕と申します。
今回はこの場を借りて、平成仮面ライダーシリーズ第二期から
「仮面ライダーウィザード」の物語を積み上げてみたいと思います。
個人的解釈としましては、第二期である「ダブル」〜「鎧武」までの作品は、同じ世界観だと思って見ております。なので、今回の物語もそれに沿った流れで書いていこうと思います。それに伴い、第二期各作品(劇場版)の設定も拝借する予定です。
物語の時間軸は「ウィザード」本編の最終回後、さらに言えば冬の映画「戦国MOVIE大合戦」の後の話だと思っていただけると幸いです。
ではでは。
〜登場人物〜
・魔法使いとその関係者
操真晴人=仮面ライダーウィザード
仁藤攻介=仮面ライダービースト
稲森真由=仮面ライダーメイジ
奈良瞬平
大門凛子(国安ゼロ課・刑事)
木崎政範(国安ゼロ課・警視)
ドーナツ屋はんぐり〜・店長
ドーナツ屋はんぐり〜・店員
・財団X
シオリ・カナ(栞 可奈)=仮面ライダーサクセサー
ヤマト=メモリー・ドーパント
ネオン・ウルスランド(局長)
・宇宙仮面ライダー部
野座間友子
ジェイク(神宮海蔵)
仮面ライダーフォーゼ
・鳴海探偵事務所
左 翔太郎=仮面ライダーダブル(左サイド)
フィリップ=仮面ライダーダブル(右サイド)
・怪人
サザル=ファントム・グレンデル
ファントム・ラミアー
ファントム・ヘルハウンド(ログ)
ファントム・シルフィ(ログ)
ファントム・バハムート(ログ)
ファントム・メデューサ(ログ)
グール
クロウ・ゾディアーツ
ペルセウス・ゾディアーツ
黒ネコヤミー
オールド・ドーパント
マスカレイド・ドーパント(白服)
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- 三十三. 二人の名前 ( No.40 )
- 日時: 2014/03/31 08:40
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)
ひんやり冷たい空気と全身を包むような寒気を感じて、シオリ・カナは眠りから覚めた。
「んっ・・・」
目を開くと、木々の枝と葉っぱの間から眩い陽射しが漏れてきたので、思わず光を手で遮った。
緑と土の独特な臭いがする。
すぐ近くで水が流れる音が聞こえる。
横になっていた半身を起こし、周りを見回すと、そこは昨夜、ファントムに追われて逃げた際に辿り着いた
川のそばだった。川の周りに鬱蒼と茂る木々の木陰に眠らされていた。
意識がハッキリしてくると、自分の着ている白服が若干湿っぽいことに気がついた。
「そういえば、私・・・」
脳裏に昨夜の出来事が蘇る。
森の小屋で因縁の相手であるファントム・グレンデルに襲われて、この川まで逃げてきた後、サクセサー
に変身して戦いを挑んだんだった。でもあっさりと返り討ちにあってしまい、川に落とされてそのまま・・・。
服が濡れているのは川の中で変身が解けてしまったからか。
思い出すと悔しさと怒りがこみ上げてくる。
どうして私はこんなに弱いんだろう。力のない自分に腹が立つ。
ウィザードにも勝てず、父と母を殺した憎きファントムにも勝てない。
「こんな未完成品では当然か・・・」
カナは手元に置かれていたサクセサーのバックルを、まるで苛立ちをぶつけるかのように力一杯握り締めた。
やはり力が、魔力が必要だ。
思わずその場で立ち上がると、スーツのポケットの中に手を突っ込み、小型の通信端末を取り出した。
一刻も早く仲間と、サザルと合流するために、まずは連絡して状況確認をすることにした。
市販の携帯電話等では、この深い森で連絡を取ることは難しいかもしれないが、カナが持っている通信端末
は、財団Xが極秘技術で開発した高性能な代物だ。森の中だろうと地下洞窟だろうと相手に声を届けるのは容易
だった。
しかし、残念ながらそれは叶わなかった。
「うそっ・・・!?」
手に取った通信端末はひび割れていた。
何度起動ボタンを押してもモニターは光らなかった。
カナは血の気が引いていくような感覚に襲われ、その場でペタンと膝から崩れ落ちた。
一体何処で壊れてしまったのだろうか。
森で気を失ったときか、川に落ちたときか、それとも・・・。
自分の中で冷静さが失われていくのを感じた。
研究所を取り囲むこの森は思いのほか深く、一度入ってしまえば、道具も無しに抜け出るのは至難の業だった。
間抜けにもこのまま森で遭難してしまうのか。計画も達成できぬまま、あのファントムに復讐することも
叶わぬまま・・・。
「いや、大丈夫・・・。サザルがきっと・・・、すぐに私を見つけ出してくれる・・・」
自分に言い聞かせるように、落ち着かせるようにカナは呟いた。
と、そこに何処へ行っていたのか瞬平がヒョコッと木々の間から姿を現した。
カナの様子にすぐに気づいた瞬平は、
「あの、大丈夫ですか?体が震えてますけど・・・」と、近づきながら声をかけた。
背後から聞こえたその言葉に、カナはビクッと我に返ったように跳ね上がった。
「貴方・・・」
不安そうな表情で振り返り、瞬平の姿を捉える。
その顔は自分でも気づかないうちに、今にも泣きそうになっていた。
「ど、どうしたんですか!?なにかあったんですか!?」
瞬平は驚きながらカナの顔を覗き込んだ。
その両手には、沢山の赤い木の実が掬い上げるように抱えられていた。
自分も彼女も昨日から何も食べていない。きっとお腹を空かせているだろうと思い、早朝から食料集めをし
ていたのだ。
お婆ちゃん子だった瞬平は、幼い頃からよく祖母に自然の話を聞かされていた。
山や海、森や川、動物や虫、植物の話を。
その中で語ってくれた森の食べ物の話を、瞬平は知識としてしっかり身につけていた。
「な、なんでもないわ!」
カナは今にも零れ落ちそうに目に溜まっていた涙を白服の袖で拭き取り、弱気な顔を誤魔化した。
「貴方、まだいたのね。てっきり一人で帰ったと思ったわ」
何とか冷静さを装い、瞬平と向き合う。
彼はウィザードの仲間。敵の仲間に弱い自分を見せる訳にはいかない。
「そんな、あなたを置いて一人で帰れるわけないじゃないですか」
泣いていた気がしたけど、気のせいだろうか。
カナの表情に一安心した瞬平は、両手の木の実を木陰に適当に置きながら、ニッコリと笑顔で答えた。
「どうして?私は貴方達の敵なのよ?貴方も少しでも早く仲間と合流したいはずでしょ」
「まあ、それはそうなんですけど。晴人さんも凛子さんも僕なんかより全然しっかりしてますし、寧ろ、僕が
いない方が二人も動きやすいと思ってますよ。きっと」
「それに・・・」、と前置きして瞬平は話を続ける。
「今の僕には、あなたの方が心配っていうか。こんな森の中で、女の子を一人にして置いて行くなんてできま
せんよ。それそこそ、晴人さんに怒られちゃいますよ!」
えへへ、と少し照れくさそうにしながら瞬平は言った。
晴人。操真晴人、ウィザードのことか。と、カナは考えながら口を開く。
「敵を心配するって・・・。もしかしてお節介焼きなのかしら?貴方」
「そうかもしれません。自分でも良く分からないんですけど、同じ夢を持っている人をなんだか放っておけない
っていうか・・・」
「同じ夢・・・」
カナは昨晩の小屋の中でのやり取りを思い出していた。
魔法使いになりたいという、同じ夢。
私が自分の夢を語った後、彼も語ってくれた。
短いやり取りだったけど、あの時、彼の話をもっと聞きたいと思った。
私の話を、もっと彼に聞いてもらいたいと思った。
二人の会話に少し間が開いた後、カナは「ねぇ・・・」と、話を切り出した。
「貴方の名前、まだ聞いてないんだけど、聞かせてくれる?」
「えっ?あ、名前。そういえば、まだお互い知りませんでしたね。僕、奈良瞬平って言います!」
まるで小学生の自己紹介のように、瞬平は元気に自分の名前を告げた。
そしてカナも、
「私は・・・、可奈。栞 可奈」と、こちらは恥ずかしそうに顔を赤くしながら名乗るのだった。
自己紹介なんて何十年ぶりだろうか。自分の名前を口にするのも。
財団Xのシオリ・カナとしてではなく、夢見る一人の女性、栞 可奈として。
- 三十四. 協力させてください ( No.41 )
- 日時: 2014/04/01 07:57
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)
シオリ・カナは瞬平の名前を知った。
奈良瞬平は栞 可奈の名前を知った。
お互い自己紹介をした二人は、とりあえず朝食を食べることにした。
朝食といっても、メニューは瞬平が採ってきた赤い木の実だけなのだが。
せめて見た目ぐらいはと、その辺の木から適当に千切った葉っぱを皿代わりにして、木の実を盛り付けた。
カナと瞬平は木陰に肩を並べるように腰掛けると、二人の間に置かれた葉っぱのお皿から、木の実を一粒
ずつ摘み上げた。
「これ、冬の終わりから春にかけて採れる木の実なんですけど、イチゴみたいに甘酸っぱくてとっても美味し
いんですよ。このまま食べられるんで、小さい頃、お婆ちゃんに教えてもらってからは、よく一人で家の近く
の森に行って、探しておやつ代わりに食べてましたよ」
瞬平は指先で摘んだ木の実をコロコロ転がしながら、幼い頃の思い出に浸っていた。
「瞬平は、小さい頃は何処に住んでいたの?」
蕾のような小さな口に木の実を運びながら、カナは尋ねた。
「田舎ですよ。すっごい田舎。両親はどっちも仕事で留守にすることが多くて、だから、中学まではお婆ちゃ
んが住む田舎に預けられていたんです」
そう言いながら、瞬平はヒョイッと木の実を口に放り込んだ。
プチュっと潰れた赤い果肉から溢れ出た瑞々しさと甘酸っぱさが、口の中に広がっていくのを感じた。
「そう。私は、ずっと都会暮らしだったから、瞬平が言う田舎っていう所がどんな場所なのか、いまいち想像
ができないのよね」
「へぇ〜。でも、テレビや雑誌とかで見たことありません? ああいうのに紹介される風景とほとんど同じですよ」
瞬平の言葉に、カナは一瞬間を置くと、
「知らないのよ。テレビも雑誌も、もう何年も見てないから・・・」と、少し表情を曇らせながら答えた。
そう、財団Xに入ってからは、テレビも本も見たことがない。目にしてきたのは、組織から支給された教育マニュアルや研究プログラム。無数に用意されたコンピューターのモニターばかりだった。
「ああ、そうだ!」と、気まずくなりつつあった空気を換えるため、瞬平は話題を変えることにした。
「栞さんのご両親はどうしてるんです? たまに会ったりしているんですか?」
会話を明るい方向へ持っていこうとしたつもりだったが、結果、カナの表情はさらに沈んでいった。
「・・・・・。父と母なら、とっくの昔に死んでいるわ・・・」
地雷踏んだあああぁぁぁ!!! と、瞬平は心の中で絶叫した。
聞いてはならないことを聞いてしまった。
「ご、ゴメンなさい! 無神経なこと聞いてしまって!」
全力で後悔しながら、瞬平は慌てて謝罪した。
しかし、カナから返ってきた言葉は意外なものだった。
「ううん、いいの。寧ろ、貴方には聞いてほしいかも・・・」
今まで、ここまで素に戻って話ができる相手がいただろうか。
組織の仲間で、最も気持ちが惹かれるヤマトにも、こんなに心を許したことがない。
会ってまだ一日程度なのに、何故か瞬平には素直に話ができる。
組織の中では、常に張り詰めた空気の中で行動してきた。
プロジェクトのリーダーを任されていることもあり、本当の自分を偽り、毅然な態度を振舞ってきた。
でも本当は、こうやって重荷を捨てて、一人の女性として誰かと接したかったのかもしれない。
カナはまた一粒木の実を口に入れると、それを噛んでゴクッと飲み込んでから話を始めた。
「私の両親は科学者だったの。色々な生命と自由に会話をするための研究をしていたわ。成功すれば、動物とも植物とも意思を通わせることができる」
「へぇ、すごいですね!」
瞬平は素直に驚いていた。
「私ね、昔、「ウィッチちゃん」って小さな魔法使いが主人公のアニメが大好きだったの」
「あ!それ、知っています。僕も子供の頃見てました。たしか、再放送で」
瞬平の言葉に、カナは思わず「本当に?」と聞き返した。
まさか、自分の好きなアニメを知っている人に会えるなんて・・・。
心中歓喜しながら、カナは話を続けた。
「それで、両親の研究が上手くいけば、「ウィッチちゃん」のように動物と話ができるって、私も楽しみにしてたの。動物と会話って、魔法使いみたいで素敵じゃない?」
語りながら、瞬平に優しい表情で微笑を向ける。
その顔は、昨晩の小屋の中で一瞬見せた表情と同じだった。
さっきまでの怒りと悔しさ、焦りの感情は、いつの間にかカナの心から消えていた。
「素敵だと思います。僕も同じことを考えたことありますもん」
瞬平もニッコリと笑顔を返す。
もう一年以上も、晴人や凛子達と共に行動しているが、ここまで気の合った魔法使いの話をしたことがあっただろうか。本物の魔法使いがそばにいるというのに・・・。
まるで童心に返ったかのように、二人は楽しそうだった。
しかし、ここでカナの話は本題に入る。
「でもね、ある日、私は全てを失ったわ。あのファントムの手によって・・・」
「ファントム?」
カナの表情から笑顔が消え、聞き慣れたワードの出現に、瞬平も真顔になる。
「昨日襲い掛かってきた、あの巨漢のファントムよ。私の両親は、あのファントムに殺されたの」
「えっ・・・!?そんな・・・」
「本当よ。もう15年も前の話。奴がファントムだということは、昨日の貴方の言葉で知ったけど。とにかく、父と母の仇をとる為にも、私はあのファントムを倒さなきゃいけないの」
カナは目の前を流れる川をじっと見つめながら、決意を固めるように言った。
「そうか・・。だから昨日、栞さんはあんなに感情的になって、ファントムに戦いを挑んだんですね」
昨晩、逃げずに戦ったカナの行動の意味が、ようやく理解できた。
そう思うと同時に、瞬平の中に一つの疑問が浮かび上がった。
ファントムが生まれたのは2012年の笛木が起こしたサバトがきっかけだったはず。何故、それよりも前にファントムが存在しているのだろう?
とにかく、カナの話を聞かされた瞬平は、ある決意をしていた。
「栞さん!」
「なに?」
「僕、決めました。栞さんの願いが叶うように、及ばずながら、協力させてください!」
- 三十五. 先へ続く道 ( No.42 )
- 日時: 2014/04/02 19:35
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)
瞬平の言葉に、カナは一瞬ポカンと口を開けて呆然とした。
「な、なに言っているのよ。これは私の問題なのよ。瞬平が関わる必要なんてまったくないじゃない」
この子はいきなり何を言い出すのか。そう思いながら驚きの声を上げた。
「いえ、必要が無くても協力させてください!僕、少しでもあなたの力になりたいんです!」
顔に似合わず積極的なことを言う瞬平の真剣な眼差しに、カナは思わずたじろいでしまう。
何を思ってそんなことを言い出すのか。
本心を言えば、瞬平の厚意は嬉しかった。
昨晩からの付き合いだが、自分の女の部分が瞬平に惹かれ始めていることには、何となくだが気づいて
はいた。しかし、だからこそ、そんな気持ちを気づかせてくれた瞬平に、汚れた仕事の片棒を担がせたくは
無かった。
カナは悩んだ末に決断した。
「わかったわ・・・。とりあえず、この森を出て、街に戻るまでは一緒に行動しましょう。その後のことは、
そのときに考えるってことで」
「了解です!」
瞬平は敬礼のポーズをとって、カナの提案を承諾した。
その光景に、瞬平のまるで子供のような純粋な仕草を見て、カナは思わず笑ってしまった。
きっと彼は、私と違って裏表のない生き方をしてきたのだろうと、少し羨ましく思えた。
「さてと。とにかく、まずはこの森から出ないといけないわね」
カナはそう言いながら立ち上がると、白いスカートに付いた砂をパンパンと掃った。
といっても、昨晩から森に放り出されて地面を転がったり、汚れた古い小屋に寝かされたり、川に
落とされてずぶ濡れになったりして、カナが着用している白服は、既に純白と呼べる色ではなかった。
土色に汚れ、いたる所が破れて穴も開いていた。
ボロボロだった。
これ以上破れが酷くなると、下着が見えてしまう恐れもあるほどに。
瞬平はできるだけ彼女の姿を直視しないように心がけた。
「通信機が使えれば、仲間に助けを求めることもできたんだけど、残念ながら、壊れて使い物にならないわ」
カナはポケットから取り出したひび割れた通信端末を見ながら嘆いていた。
「僕のほうも、せめて使い魔が無事だったら、道案内を頼めたんですけど・・・」
遅れて立ち上がった瞬平も、ポケットから指輪を一つ取り出した。
プラモンスター、イエロークラーケンの指輪だった。
昨晩、ファントム・グレンデルの攻撃を受けて消滅してしまったイエロークラーケンだったが、残った指輪
はグレンデルが去った後に、瞬平がしっかり回収していた。
しかし、指輪からプラモンスターを呼び出せるのは魔法使いだけ。晴人がこの場にいない以上、イエローク
ラーケンを再び召喚することは不可能だった。
「はあ・・・。このままじゃ僕たち、ずうっと森で遭難ですね・・・」
瞬平は思わずため息をつきながら、空を見上げた。
雲ひとつ無い、清清しいほどの青空だった。
と、その時、そんな青空を飛翔する一匹の赤い鳥の姿が、瞬平の視界に入ってきた。
「あれっ?」
「どうしたの瞬平?」
上空を見上げたまま動かない瞬平を、カナは不思議そうな顔で見ていた。
すると突然、瞬平が唐突に「あぁー!!」と、空を指差しながら大声で叫んだ。
まるで何かを発見し、指で捉えたかのように。
カナは瞬平の突然の大声に驚き、思わず肩をビクッとさせた。
「な、なによいきなり!?」
「あれ!あれ見てください!」
自分も空を見るようにと促してくる瞬平に従い、カナも上空を見上げてみた。
カナの目に映ったのは、上空から自分達の下に向かって急降下してくるプラモデルのような赤い鳥の姿
だった。
「なにこれ!?」
「ガルーダですよ!晴人さんの使い魔の。きっと僕たちを探しに来てくれたんですよ!」
レッドガルーダの姿に喜びながら飛び跳ねている瞬平を他所に、カナは心の中で呟いた。
「僕たちを」ではなく「僕を」の間違いでしょ。その鳥が探しに来たのは瞬平、貴方だけよ。
「良かったぁ!これで帰れますよ。さっそく森の出口まで案内してもらいましょう!」
二人に気づいて降りてきたレッドガルーダを抱き寄せながら、瞬平が言ってくる。
「待って瞬平。先に研究所に戻りましょう。そこへ行けば私の車があるから、それに乗って帰りましょう」
瞬平はカナの提案に「そうですね。わかりました」と、答えると、手元のレッドガルーダに視線を移した。
「それじゃあ、研究所まで案内してくれる?」
笑顔で頼み込んできた瞬平の言葉を、コクコクと頷いて聞き入れたレッドガルーダは、瞬平の手元を離れる
と、小さな両翼を羽ばたかせながら先陣を切って鬱蒼と茂る木々の中へ入っていった。
既に研究所の場所は把握しているのか、迷う素振りも見せず、真っ直ぐと進んでいく。
「行きましょう栞さん!ガルーダについて行けば、すぐに研究所に辿り着けますよ!」
そう言って、瞬平は優しく掴んだカナの手を引っ張り、レッドガルーダの後に続いて行った。
そんな中、カナの心境は複雑な気持ちだった。
まさか、倒そうとしていたウィザードに助けられるなんて・・・。
案内役を引き受けてくれたレッドガルーダが最短ルートを選んでくれたのか、カナと瞬平は意外と早く研究
所に辿り着くことができた。
研究所の敷地内も建物内部も、既に無人となっていた。
サザルや部下の姿も、晴人と凛子の姿もその場から消えていた。
「やっぱり、誰もいませんね」
カナと瞬平は手分けして一通り見て回った後、研究所の入り口前で合流した。
「そうね。私の部下達は、サザルが指揮して撤退したんだと思うけど、瞬平の仲間はどうしたのかしら?」
「多分、こっちも同じだと思いますよ」
さて、これからどうするかと、カナが沈黙して考えていると、瞬平が言い辛そうに尋ねてきた。
「あの、栞さんは、早く仲間の人達と合流したいんですよね?」
「勿論よ!早く計画に戻らなくっちゃ」
「んー・・・、もし良かったら少しだけ、僕に付き合ってくれませんか?」
「どういうこと?付き合うって」
思わぬ瞬平の意見に、カナは首を傾げた。
「ちょっと、一緒に来て貰いたいところがあるんです!」
たどたどしさを感じさせる瞬平の言葉に、カナは少し悩んだ。
さっき言ったように、早く部下達と合流して計画に戻らなくてはいけない。
自分が逸れたせいで、プロジェクトに支障が出ている可能性もある。
父と母の仇が15年ぶりに姿を現した以上、一刻も早くサクセサーを完成させたい。
しかし、自分を気にかけてくれる瞬平の気持ちはできれば尊重してあげたかった。
「・・・・・わかったわ。ちょっとだけ、貴方の行きたいところに付き合ってあげる」
悩んだ末、カナは瞬平に従うことにした。
自動車に乗り込んだ二人は研究所を後にし、森の中の細い一本道を走り抜けていく。
- 三十六. 天高からの来訪者 ( No.43 )
- 日時: 2014/04/04 07:18
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)
操真晴人をはじめとする魔法使い達が主に活動している街の中心部に位置する巨大なターミナル駅。
朝から晩まで、どの時間帯でも常に人通りが激しい、まさに街の玄関口といえる場所に、一組の男女が
姿を見せていた。
「うわぁ〜、スッゴイ人集り!」
電車から降りてプラットホームを歩きながら、一見だらしなく着こなした青いパーカー姿のチャラ男が、
その人の多さに驚きながら周囲に目を配っていた。
「ちょっとジェイク!先に行かないでよ」
先を歩くチャラ男の後を足早に追いかけながら、黒いゴス衣装の少女が声を上げた。
チャラ男は少女の声に気づくと、「ゴメンゴメン!」と、振り向き様に軽く謝りながらその足を止めた。
この二人は、今は私服姿だが歴とした高校生である。
私立 新・天ノ川学園高校の三年生。
パーカー姿のチャラ男がジェイク(J.K)こと神宮海蔵。
本名を嫌う彼は、仲間の間では愛称のジェイクで通っている。
そしてジェイクと共にいる少女が野座間友子。
オカルトが趣味で、少し濃いゴスメイクで彩っているが、実は素顔は超がつくほどの美人と評判である。
出入りを繰り返す人混みの中をすり抜けながら、ジェイクと友子は外へ出た。
一旦落ち着くために駅前の広場のベンチに腰掛けると、友子がスマートフォンで時間を確認しながら口を
開いた。
「まだ9時過ぎ・・・。通勤ラッシュと重なったのは失敗だったわね」
「仕方ないっしょ!昨日の夜にいきなりだったんだから。賢吾さんもヒドイよなぁ〜」
背凭れに持たせ掛けながら、ジェイクは愚痴をごねる。
「でも、こんな天高から随分離れた場所にザ・ホールが感知されることなんて、今まであまりなかったから、
心配になるのは当然だと思うけど・・・」
「そりゃあそうだけどさぁ〜。なんで俺達だけなんだよぉ」
「私達が今の仮面ライダー部の年長なんだから、率先して動かなくっちゃ。弦太郎さんや賢吾さん達も、
二人とも卒業して今は夢のために頑張ってるんだから、私達も負けずに頑張るのよ」
ローテンションのジェイクと対照的に、友子はメラメラと闘志を燃やしているようだった。
昨晩、ジェイクと友子の下に、新・天ノ川学園高校を卒業し、今は大学生になっている元仮面ライダー部
部員、歌星賢吾から一本の電話があった。
内容はこうだった。
「天高から離れたある場所でザ・ホールの発生が感知された。すぐにでも確認しに行きたいが、場所が場所
だし、あいにく大学の研究発表が控えていて俺は動けそうにない。弦太郎も教師になるために猛勉強中で
忙しいらしい。そこで、現ライダー部の部長の野座間とジェイクに調査を頼みたいんだが・・・」
友子は喜んで承諾した。
ジェイクは最初は乗り気ではなかったが、代わりを頼もうとしていた後輩の黒木蘭と草尾ハルに、「先輩
なんだからカッコいいところ見せてください」と、明らかに上から目線で言われてしまい、ぐうの音も出な
くなっていた。結局、情報通という自分の特技を生かした職業、ジャーナリストになるという将来の夢のた
めだと自分を言い聞かせることで、無理やり納得して調査に参加した。
「それで?これからどうするのさ、友子ちゃん」
清清しい青空に浮かぶ雲をなんとなく見つめながら、ジェイクは友子に尋ねた。
「待って。今感じ取ってるから・・・」
そう言った友子は、目を閉じながら両掌を頭の横に広げていた。
まるで電波的な何かを受信しているように見えるその光景を、ジェイクは尻目で見ていた。
一見謎の行動にしか思えない友子の行為だが、彼女には本当に不思議な力を感じ取る能力があった。
別に超能力者というわけではない。
いわゆる直感的な何かで、感じ取っているのだ。
かつて仮面ライダー部も、何度も彼女のこの直感に助けられてきた。
だからジェイクも、友子の力を決して疑っているわけではなかった。
ただ、毎度のことながら、どういう理屈でそれを可能にしているんだろうと、疑問の目で見ていた。
暫くして、突然友子の両目がカッと見開かれた。
「きたっ!感じるわ・・・。あっち、あっちの方角にこの街に不釣合いな不思議な記憶のオーラを感じる!」
そう言って、友子はある方角を指差した。
不釣合い?記憶?何のことだ?相変わらず意味不明だが意味深なことを言う。
友子の言葉はチンプンカンプンだが、一応の目指す方向は判明した。ジェイクは勢いをつけてベンチから
立ち上がると、
「ほんじゃあ、ここにいたって始まらないし、とりあえず行ってみよっか!」
と、背中越しで友子に言い放った。
「ええ・・・。何が待っているか楽しみ・・・。フフフッ・・・フフフフフフフ」
後に続くようにベンチから立ち上がった友子は、不気味に微笑みながら返事をした。
彼女から黒いオーラが漂っているように見えたのは、きっとジェイクの気のせいだろう。
とにもかくにも、こうして二人は行動を開始した。
魔法使いと幾多の異形の存在が交錯する街で・・・。
- 三十七. 朝のファミレスにて ( No.44 )
- 日時: 2014/10/19 11:39
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)
ここは街中のとあるファミレス。
その店内の窓際の席に、仁藤攻介と稲森真由は向かい合うように座っていた。
昨日の笛木の屋敷での一件の後、警視庁に戻った攻介と真由は、国安ゼロ課の木崎に自分達が体験した
出来事を報告した。
屋敷とそれを警備していた警官隊の被害状況、謎の組織の存在、ファントムとは違う怪人の存在等。
報告と共に今後の動向を話し合った後、医務室で治療を受けた二人は、体力と魔力を回復させるために、
その日の夜は警視庁の仮眠室で過ごすことになった。
そして目覚めた次の日の朝、「まずは腹ごしらえだ」と、意気込む攻介に誘われて、真由は警視庁から
それほど遠くないファミレスで朝食をとることにした。
「お待たせいたしました。こちら、パンケーキのモーニングセットと和牛ステーキセットライス大盛り
になります」
お店のウェイトレスが、愛想良く二人が注文した料理を運んできた。
真由の前に置かれたのがパンケーキとベーコンエッグのお皿。そしてブラックのコーヒー。
攻介の前に置かれたのは、分厚く切られたミディアムの和牛ステーキとコンソメスープ、そして大盛りに
盛り付けられたライスという、朝食にしてはボリュームあり過ぎなメニューだった。
「うっひょー。うっまそぉ〜」と、笑顔の攻介を余所に、ナイフとフォークを持ったまま、真由の表情は引き
つっていた。
「・・・・・。仁藤さん、朝からこんなに食べるんですか?」
熱いプレートに焼かれた肉とタレからこってりとした匂いが漂ってくる。
朝からこれは・・・。と、料理の見た目と香りが相俟って、真由は食べる前から胃がもたれそうな感覚に
襲われた。
「当然。昨日あんだけ戦ったんだ。食うもん食って体力つけないと、また戦えないだろ」
そう言いながら、攻介はナイフとフォークを手に取った。
「んじゃ、いっただっきま・・・」
と、ステーキに迫る攻介のナイフとフォークの動きが唐突にピタリと止まった。
「どうかしました?」
パンケーキを丁寧に切り取っていた真由がそれに気づく。
「いっけねぇ〜。俺としたことが忘れてたぜ」
うっかりしてたと言わんばかりに、攻介がジャケットの懐から取り出したのは、「俺専用」と書かれ
たシールが貼ってある愛用のマヨネーズのボトルだった。
「仁藤さん・・・、まさか・・・」
引きつった真由の表情がさらに硬くなる。
そのまさかだった。
攻介は周りの眼も気にせずに、ステーキの上にたっぷりと、ワイルドに、ダイナミックにマヨネーズを
ぶっかけた。肉の端から端まで隙間無く塗りたくった。
もはや、肉とマヨネーズ、どちらがメインかわからない状態になっていた。
ステーキの上から零れ落ちたマヨネーズが、プレートの熱に焼かれてジュウっと音を立てながら香ばしい
ような酸っぱいような微妙な臭いを放っている。
「・・・・・うっ」
焼けたマヨネーズの独特の臭いに真由は胸焼けを感じ、それっきりパンケーキが喉を通ることは無かった。
結局、ステーキも大盛りライスもペロリと完食した攻介は、勿体無いからと、真由が残したモーニングセ
ットも平らげた。
「食べ過ぎですよ・・・。仁藤さん」
すっかり食欲を無くした真由は、唯一キープしていたティーカップのブラックコーヒーを啜りながら、攻介
の恐ろしいほどの食べっぷりに呆気に取られていた。
「食った、食った」と、ポッコリ膨らんだ腹を摩りながら、攻介は満足げな表情を浮かべていた。
「あ〜あ、これでキマイラも満足してくれれば、本当は楽なんだけどなぁ〜」
そんなことを言いながら、何気に簡略化した扉状のバックルを指でピーンと弾いてみる。
晴人が変身するウィザードや真由が変身するメイジは、魔力が消耗しても休息したり食事を取れば、容易
に回復させることができるが、アーキタイプである攻介=ビーストは残念ながらそうはいかなかった。
攻介がいくら体を休ませたり食事を取っても、満たされるのは攻介だけで、魔力の源であるキマイラを
満足させるには、やはりファントムの魔力を喰らうしか方法が無いのである。
食事を終え、一息ついていた攻介と真由だったが、そこへ突然、二人の耳にコンコンと何かを叩く音が
聞こえてきた。
先にそれに気づいたのは真由だった。
真由が窓際の方を見ると、そこには小さなくちばしでスクリーンガラスを外側からノックする白い鳥型の
使い魔の姿があった。
真由の使い魔であるプラモンスター、ホワイトガルーダだった。
その容姿は色が白いこと意外は晴人のレッドガルーダと同形である。
「真由ちゃんの使い魔か?」
遅れて気づいた攻介もホワイトガルーダに視線を向ける。
「はい。出かける前に偵察をお願いしてたんです。・・・何かあったのかしら?」
使い魔がわざわざ呼びに来たということは、異常事態があったに違いない。
攻介と真由は急いで支払いを済ませてファミレスを出ると、道案内に動き出したホワイトガルーダの後を
追うことにした。
ホワイトガルーダに案内され、辿り着いた場所。
それは、街中にあるサッカー場だった。
スタジアム前の広大な駐車場へやって来た攻介と真由。
「ん?なんか俺、前にここへ来た覚えがあるんだけど」
辺りをキョロキョロ見ながら、攻介は頭を掻いた。
「いつですか?」
「ええ〜っとぉ、いつだっけなぁ。結構前だったようなぁ〜」
腕組しながら必死に思い出そうとする攻介を余所に、真由は周囲を警戒する。
既にその場所に人の気配は無く、あるのは停車したまま放置された幾つもの自動車だけだった。
「ここで一体何が・・・」
駐車場で真由が呆然と立ち尽くしていると、スタジアムの入り口前でホワイトガルーダが鳴き声を上げて
いた。真由達を呼んでいるようだった。
「仁藤さん!こっちです」
攻介を引率して真由はホワイトガルーダの下へ駆け寄った。
入り口のゲートを潜り、奥へ進んで芝生のフィールドに出た。
するとそこには、一体の不気味な怪人が佇んでいた。
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