二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 仮面ライダーウィザード〜終幕の先〜【完結】
- 日時: 2017/04/15 00:31
- 名前: 裕 ◆.FlbxpLDSk (ID: XGjQjN8n)
こちらでは初めて投稿させていただきます、裕と申します。
今回はこの場を借りて、平成仮面ライダーシリーズ第二期から
「仮面ライダーウィザード」の物語を積み上げてみたいと思います。
個人的解釈としましては、第二期である「ダブル」〜「鎧武」までの作品は、同じ世界観だと思って見ております。なので、今回の物語もそれに沿った流れで書いていこうと思います。それに伴い、第二期各作品(劇場版)の設定も拝借する予定です。
物語の時間軸は「ウィザード」本編の最終回後、さらに言えば冬の映画「戦国MOVIE大合戦」の後の話だと思っていただけると幸いです。
ではでは。
〜登場人物〜
・魔法使いとその関係者
操真晴人=仮面ライダーウィザード
仁藤攻介=仮面ライダービースト
稲森真由=仮面ライダーメイジ
奈良瞬平
大門凛子(国安ゼロ課・刑事)
木崎政範(国安ゼロ課・警視)
ドーナツ屋はんぐり〜・店長
ドーナツ屋はんぐり〜・店員
・財団X
シオリ・カナ(栞 可奈)=仮面ライダーサクセサー
ヤマト=メモリー・ドーパント
ネオン・ウルスランド(局長)
・宇宙仮面ライダー部
野座間友子
ジェイク(神宮海蔵)
仮面ライダーフォーゼ
・鳴海探偵事務所
左 翔太郎=仮面ライダーダブル(左サイド)
フィリップ=仮面ライダーダブル(右サイド)
・怪人
サザル=ファントム・グレンデル
ファントム・ラミアー
ファントム・ヘルハウンド(ログ)
ファントム・シルフィ(ログ)
ファントム・バハムート(ログ)
ファントム・メデューサ(ログ)
グール
クロウ・ゾディアーツ
ペルセウス・ゾディアーツ
黒ネコヤミー
オールド・ドーパント
マスカレイド・ドーパント(白服)
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- 六十八. 真実への入り口 ( No.75 )
- 日時: 2015/09/08 02:46
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)
脳内空間のフィリップはその本を開き、本の中の記憶に目を通していく。
「単刀直入に言おう。今回の事件の首謀者の名前は“シオリ・カナ”」
晴人達の前に佇むフィリップは既に地球の本棚とのアクセスを終わらせ、白紙の本を読み上げるように説明に移っていた。
「彼女は財団Xの魔力応用型兵器開発部の主任で、その目的は簡単に言えば“魔法使いになる”こと。なのだが、彼女が開発部の主任になるまでの間、どうやら組織はまともに魔法の研究を行ってこなかったらしい。魔力という不確かなものよりもメモリやスイッチの研究に重点を置いていたのかもしれないが……。とにかく、シオリ・カナは魔法の研究を発展させるために自己流のやり方を行いつつ、既に魔法と科学の融合の最先端を行っていた笛木奏の研究に目をつけたんだ。それが今回の事件の一つ、笛木奏の屋敷と人造ファントム研究所の襲撃の真相さ。組織は笛木奏が残した研究資料を手に入れて、より高度な魔法兵器を開発するつもりだったのかもしれないが、その件に関しては国安ゼロ課の木崎警視の根回しのおかげである程度事態を最小限に留めることができたようだ」
「そっか、警察側が研究資料を先に回収しておいたから……」
フィリップの説明の要点をメモ帳にまとめながら、凛子は納得するように頷いた。
「そう。しかし、シオリ・カナの計画のメインはあくまで自己流の方だったようだ。組織内の科学技術を利用して魔法使いの力を得る、それが彼女のやり方だ。翔太郎、そして仮面ライダー部の二人は覚えているか? かつて財団Xを裏切った男、レム・カンナギが起こした事件のことを」
「カンナギの事件?」
「ああ。カンナギは以前、SOLUを変換したコズミックエナジーと未来からやって来た三枚のコアメダルの力を集めて銀河の王となろうとしていた。シオリ・カナはそれに似たようなことをしようとしているんだ。ただし、彼女が集めているのはファントムの魔力の記憶……だけどね」
「ファントムの魔力……の記憶? それってどういうこと?」
「あ、そういやあの脳みそ野郎、サッカー場で戦った時、「残留した魔力は回収させてもらった」とかなんとか言ってたぞ」
首を傾げる晴人の横で、攻介が言った。
「さっきの組織の青年、奴が使っていたのは記憶を司るメモリーのガイアメモリだ。あの青年はメモリーメモリを使って特定の場所に残留するファントムの魔力の記憶を集め回っていたんだ」
「その……特定の場所っていうのは?」
と、ペン先を立てながら凛子が尋ねる。
「ウィザードやビースト、君達が過去にファントムを倒した場所だよ。メモリー・ドーパントはファントムが倒された場所を巡って、そこに残っていた魔力の記憶をメモリの力を使って回収していたんだ。メモリー・ドーパントが魔法を使うことができたのもその力の産物に過ぎない」
「じゃあ、そのシオリ・カナって女は回収したファントムの魔力で魔法使いになろうとしているってことなのか? そんなことが可能なのか?」
「どうだろうな。確かに俺達魔法使いの魔力の源はアンダーワールドに潜むファントムだけど……」
「彼女の想定では、ファントムの魔力の記憶を吸収したメモリーメモリを、専用に開発したドライバーに埋め込むことで魔法使い“サクセサー”が完成するらしい。つまり、あのメモリーメモリは計画の要ということだ」
「なるほどな、だから奴の持っていたガイアメモリがT2だったのか。メモリブレイクされれば計画自体がパーだもんな」
「そう。あの青年は恐らく今、そのメモリーメモリを届けるためにシオリ・カナと合流しようとしているはずだ。拠点が判明次第、現場を押さえて計画を潰そう。シオリ・カナの目的はともかく、財団Xにとってプラスになることはできる限り阻止しておきたい」
そう言ったフィリップの提案に、晴人や攻介、凛子やジェイク、そして翔太郎も賛同した。
しかし友子は……。
「あの……」
「ん? なんだい? 野座間友子」
何かを言い辛そうにしながらも声をかけてきた友子に、フィリップは視線を向ける。
友子は躊躇う気持ちを抑えながら、思い切って自分の意見を口にした。
「その……魔法使いになりたいって思うことって、いけないことなんでしょうか?」
「え?」
「ちょ、ちょっと友子ちゃん、いきなり何言ってんの!?」
突然の友子の的外れな発言に、滑り台の上にいたジェイクが戸惑いを見せる。
しかしフィリップは、友子の言葉に思うところがあったのか、「どうしてそんなことを?」と聞き返した。
「いえ……、なんとなく……と言うか、直感ですけど、そのシオリ・カナって人、純粋な気持ちで魔法使いになりたいって想っているような気がして……」
「なぜ、そう思うんだい?」
「……私も、同属だからかもしれません。私も昔は信じていたから……。魔女になれるって……。なろうとして起こした行動は間違いかけたけど、そう想ったときの気持ちは……弦太朗さんの言葉で言うなら“一直線”でした。シオリ・カナって人もきっと、魔法使いになりたいって気持ちに“一直線”なんだと思います」
友子のその言葉を聞いたフィリップは、思わずフッと笑みを浮かべた。
フィリップだけではない。
会話を聞いていた翔太郎や晴人、そしてジェイク、つまりは仮面ライダーフォーゼ=如月弦太朗と面識のあるメンバー達が彼のことを思い出して思わず笑みを浮かべていた。
「なるほど。さすがは仮面ライダー部、あの如月弦太朗の仲間だけのことはある。しかも、君はその部員の中でも特に勘が鋭いようだ。うちの所長と良い勝負かもしれない」
「どういうことだ? フィリップ」
相棒の発言に、翔太郎は首を傾げる。
「彼女の指摘どおりさ、翔太郎。野座間友子の言うとおり、シオリ・カナの目的への気持ちは純粋そのものだ。そして、もし、その純粋な気持ちを利用しようとしている人物がこの事件の裏で暗躍しているとしたら?」
フィリップの突然の意味深な言葉に、公園にいるメンバー達の表情が硬くなる。
「それって……つまり……」
「ああ。シオリ・カナの本を閲覧してわかったことがもう一つある。この事件には、15年前から暗躍している真の黒幕が存在している」
- prada スーパーコピー ( No.76 )
- 日時: 2015/09/14 13:03
- 名前: prada スーパーコピー (ID: .9bdtmDI)
- 参照: http://www.ornitha.gr/wqo.asp
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- 六十九. ある友人への手紙(メール) ( No.77 )
- 日時: 2015/09/17 03:35
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)
件名:ユグドラシルコーポレーション沢芽支部 桐河羽月様へ
突然こんなメールを送りつけて、迷惑だったらごめんなさい。
あなたも今ではユグドラシルという巨大企業の研究員の一人、忙しい身分なのは百も承知だけど、どうしても今……このタイミングにメールしておきたかったの。
もしかしたら、この機を逃すともう二度とあなたに連絡を取る機会なんて無いかもしれないから。
研究の方はどう? 上手くいっているのかしら?
確か今は、戦極凌馬って人の元で新しい技術を使ったベルトの開発に着手しているのよね。
以前、あなたが話してくれたユグドラシルの極秘の計画、たしかプロジェクトアーク。10年後にこの地球が異世界の森に侵食されて滅びるなんて話、未だに信じられないけど、ユグドラシルはその防衛策のためにベルトの開発を進めている。そんな人類救済的行為に貢献しているあなたを、私は心の底から尊敬するわ。
ちなみに極秘と言っておきながら秘密裏に私に話してくれた計画の内容、もちろん誰にも告げ口していないから安心して。あなたが私に話してくれたのは、私に対するあなたの優しさだと理解しているから。たとえそれが、科学者のタブーだとしても。
ところで本題なのだけれど、今回あなたにメールしたのは他でもない、どうしてもお願いしたい頼みごとがあるからなの。
あなたも知っているとおり、私は財団Xという組織の中で長年魔法と魔力の研究を続けてきた。魔法使いの存在を知り、自らが魔法使いになるために。そしてその成果の一つが、もう間もなく、実を結ぶことになるかもしれない。
あと少しで、私の苦労が報われるの。こんなに嬉しいことはない。ないはずなんだけど……。
なんでだろう、妙に気持ちがざわつくの。不安を感じる。
この先、私を待っている運命は幸福ではないのかもしれない。もしかしたら、これ以上研究を続けることもできなくなるかもしれない。
胸騒ぎというか、なんとなくだけど、そんな気がするの。
だから羽月にお願いしたい。私が今まで培ってきた研究資料を、あなたに預かってもらいたいの。
研究を引き継げなんておこがましいことは言わない。勝手なお願いだってことは十分理解しているから。だから、ただ預かってくれるだけでいい。
邪魔だと思うのなら削除してくれたって構わない。もし利用価値を見出したのなら好きに使ってくれたっていい。組織のいずれ現れる後任者に引き継いでもらうよりも、信頼できるあなたに譲った方がマシだと思っただけだから。
でも案外、賢い羽月のことだから、上手いこと有効活用してくれるかもしれないわね。それならそれで私も嬉しい。
寧ろそうなることを信じて、身勝手ながら私の研究資料の全てを、このメールに添付します。
それじゃあまたいつか、直接顔を合わせる機会があることを切に願っているわ。
栞 可奈
財団Xが所有する70階建ての高層ビル。
その建物全体が研究ラボ施設となっており、魔力応用型兵器開発部の拠点にもなっている。
ビルの65階にある自室のオフィス、そのデスクでパソコンのキーボードを無言で叩いていたシオリ・カナが、フゥと一息つきながらその手を止めて椅子の背凭れに寄り掛かった。
カナの体重を受けて、椅子からギシッと軋む音がする。
パソコンの画面を見つめる彼女の表情は、何かを思い詰めるかのように重く暗く、静かに曇っていた。
謎のファントム・グレンデルの襲撃から逃れたシオリ・カナと奈良瞬平は、サクセサーのベルトの最終調整のために、このラボ施設にたどり着いていた。
ラボに到着後、二人は一目散に自室であるオフィスへ向かった。
道中、部下や他の研究員達の姿が見当たらないことに疑問を感じつつも、オフィスに到着したカナは瞬平を適当に待たせて、自分は自分のやるべきことを行うためにデスクトップのパソコンを起動させた。
パソコンの前に座ったカナが最初に始めたこと、それは友人宛にメールを打つことだった。
財団Xに加入後、研究一筋だったカナが唯一の友と呼べる存在。
同じ科学者でありながら、悪行に手を染めた自分とは違い、世界を救うための研究に貢献している尊敬のできる人物。
自分が闇ならば、彼女は紛れもなく光の存在。
対極であり真逆。
桐河羽月(きりかわ はづき)という女性は、自分を闇だと自虐するカナにとっては眩しすぎる存在だった。
カナは友人宛に作成したメールに、自分の苦労の結晶とも言うべき研究資料のファイルを付き添えた。
それはカナが財団Xに加入し、幹部という地位に就いてから己の人生をかけて長年積み上げてきた、魔力や魔法についての研究成果、その全てだった。その全てを、カナは自ら手放すことを決意した。
なぜそう決めたのかは、正直カナ自身にもわからなかった。
ただ、瞬平と一緒に過ごしているうちに、カナの心の中の何かが揺らぎ始めていた。
「……これで、私も裏切り者か」
送信ボタンをクリックしながら、カナは自分の決断に呆れるように苦笑いを浮かべた。
自分は今、自分を拾ってくれた組織の意向に背く行為をしている。
恩を仇で返す行為、それはつまり裏切り。
以前、己の野心のために組織を裏切った男がいた。
レム・カンナギ。
カナにとってカンナギは先輩であったが、平気で組織を裏切ったあの男のことを、カナは「愚かな奴」だと内心笑っていた。しかし結局、どうやら自分も同じ穴の狢だったようだ。
送信されたメールはやはり容量が重く、なかなか進まない進行状況を表示するパソコンの画面を、カナは考え込むように無言で見つめていた。
一方、オフィスの片隅で待たされていた瞬平は、作業中のカナの邪魔にならないように、できるだけ静かに窓から外の風景を眺めていた。
さすが65階から見る風景だけあり、その窓に映る景色は絶景。眼下に広がる建物も車もまるで玩具のように見えていた。
「うわ〜、すっごい景色」
無邪気に外を眺める瞬平。しかし、その視界の先、青空が広がっていた上空には、いつの間にか黒い雷雲が立ち籠め始めていた。
- 七十. オフィスにて ( No.78 )
- 日時: 2015/10/07 03:19
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)
「雲行きが怪しくなってきた……。もしかしたら一雨来るかもしれませんよ、栞さん」
窓の外に広がる景色を眺めていた瞬平が、そう言いながら背後にいるカナの方に視線を向けた。
ワークチェアに腰掛けながらパソコンと向き合っていたカナは、椅子ごと瞬平の方に振り返ると、思い詰めた表情でそっと口を開いた。
「そう……。そんなことよりも瞬平、貴方、本当にこのままで良いの?」
「えっ? 何の話ですか?」
カナの突然の問いに、瞬平は思わず首を傾げる。
「なにって、貴方が今ここにいることよ。貴方が私のためを想って傍にいてくれることは嬉しいわ。でも、瞬平は忘れているかもしれないけど、私は貴方の仲間の魔法使い達の敵なのよ。私の傍にいれば、貴方は裏切り者になってしまう。それでもいいの?」
「ん〜……いやぁ〜、よくはないですけど、大丈夫ですよ、きっと」
真剣な面持ちで話を切り出したカナとは対照的に、瞬平の返答は随分と軽かった。
思わず呆気に取られ、カナは一瞬言葉を失う。
自分なりに瞬平を心配し、思い遣っての言葉だったのに、これでは拍子抜けである。
「大丈夫って、随分とのん気じゃない?」
「そう…ですかね? でも、僕は僕がやりたいと思ったことをしているだけだし、きちんと説明すれば、晴人さん達もわかってくれると思いますから」
「……信頼しているのね、仲間達のこと」
「ええ、まあ……。色々お世話になってるんで」
と、瞬平は少し照れくさそうに耳の裏を掻きながら微笑んだ。
「なんだか羨ましいわ。そんなふうに、どんな状況になっても信じられる仲間がいるって」
「栞さんにはいないんですか? 仲間とか友達とか、そういう信じられる身近な人」
「どうかしら……。信頼できる仕事仲間が二人、親友と呼べる相手が一人いるけど、実は私が一方的にそう思っているだけかもしれないし……」
何処か寂しげな表情を浮かべながら、カナは瞬平から視線を逸らすと、パソコンの画面をジッと見つめた。
パソコンが表示するメールの転送状況は、いつの間にか半分を超えていた。
「そんなことないですよ。栞さんがそう思っている人達も、栞さんのことをきっと大事に思っていますよ」
瞬平が言い放った言葉は根拠のない無責任なものだったかもしれない。
しかしそれでも、そう言ってくれたことがカナは嬉しかった。
そう言ってくれて、幾分か心が励まされた気がした。
カナは再び顔を上げて瞬平の方に振り向くと、コクッと軽く頷きながら笑顔で言った。
「うん、そうだと……いいな」
カナの笑顔を受けて、瞬平もニコッと笑顔を返した。
二人はそのまま、少しの間、互いの笑顔を胸に刻み合うのだった。
暫くすると、カナと瞬平のいるオフィスの扉を叩く音が聞こえてきた。
コンコンとノックする音が鳴り、続けて扉の向こう側から声がした。
「カナさん……僕です……、ヤマトです……。そこにいるんですか……?」
その声は随分と弱々しく、そして苦しそうだった。
「ヤマト!?」
声の主をすぐさま理解したカナは、跳ね上がるように椅子から立ち上がると、慌てて扉の方へと駆け出した。
ドアノブを握り、扉を開けた瞬間、中性的な顔つきをした白服の青年が凭れ掛かるように倒れこんできた。
カナは咄嗟に全身を使って青年の身体を受け止めると、その場にしゃがみ込みながら青年をそっと足元に寝かせた。
青年の頭を膝に乗せながら、カナは心配そうに瞳を潤ませる。
「ヤマト! 大丈夫!? しっかりして!」
「大丈夫です……。大した傷では……ありませんから……。それよりも……、カナさんが無事で…安心しました……。行方不明だって……聞いて…いましたから……」
息を荒くしながら擦れた声で言葉を発するヤマトだったが、その表情は“大事な人”の無事を確認できたことによる安堵に満ち溢れていた。
「私のことなんかよりも自分の心配をしなさい! 体中ボロボロじゃない!」
カナの言うとおり、横たわったヤマトの身体は全身傷だらけだった。
傷だけじゃなく、体力的にもかなり疲弊しているように見える。
「心配しないでください……。少し休めば……またすぐに動けますから……。そんなことより……コレを……」
そう言って、ヤマトが白服のポケットから取り出したのは、T2仕様のメモリーのガイアメモリだった。
「ヤマト、コレ……」
「ええ……。カナさんの夢を叶えるために必要な……メモリーメモリ……。コレで必ず……魔法使いに…なってください…。そうなることが……僕の夢でも…ありますから……」
「ヤマト……。ありがとう、ヤマト。なってみせるわ、絶対、魔法使いに」
カナはヤマトから差し出されたメモリーメモリを力強く受け取ると、スッと立ち上がり、そして、
「瞬平、悪いけど彼をお願い。私は急いでサクセサーを完成させるから……」
と、満身創痍のヤマトを瞬平に託し、オフィスを後にした。
部屋に残されたのは瞬平とヤマトの二人だけ。
突然怪我人を任されて、瞬平が慌てふためいていると、突然ヤマトが話しかけてきた。
「お前……たしかウィザードの……仲間……。なんで……お前がここに……? いや……、と言うより…なんでお前が……カナさんと一緒に……いるんだ?」
「えっ!? あ、いや……、なんて言うか、色々ありまして……。あ、そうじゃなくて、それより傷の手当を……」
「僕のことはいい……。それよりも聞かせてくれ……。お前と……カナさんが共にいる理由を……」
カナに頼まれたこともあり、瞬平は早く怪我の手当に専念したかったのだが、ヤマトに強く押し切られ、仕方なく話すことにした。
とりあえず場所だけでも落ち着かせようと、瞬平はさっきまでカナが座っていたワークチェアを持ってくると、そこにヤマトを乗せて、車椅子のように押して部屋の奥まで運んだ。
カナが作業していたパソコンの前にヤマトを落ち着かせると、瞬平は「一体何から話せばよいやら」と戸惑いながら、とりあえずカナと初めて出会ったところから説明することにした。
- 七十一. 瞬平とヤマト ( No.79 )
- 日時: 2015/11/09 02:59
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)
口下手ながらも、瞬平は一生懸命語った。
嘘偽りなく、その身に起こった出来事全て、カナと過ごした短いながらも楽しかった思い出も含めて。
ワークチェアに身体を預けるヤマトは、辛く苦しそうに息を荒くしながらも、真剣な表情で瞬平の話を聞いていた。
時折、何かを考えるように瞳を閉じたり、瞬平にも聞こえないほど小さく言葉を呟きながら。
20分ほどかけて一通り顛末を語り終えた後、少しの間沈黙が流れた。
「あのぉ〜、話は以上なんですけどぉ〜」
説明を聞いて、とくに感想を述べるわけでもなく、ただ無言を続けるヤマトに、沈黙に耐え切れなくなった瞬平が言葉を切り出した。
するとヤマトも口を開いて。
「そうか……。カナさんが……君にね……」
「えっ? なんですか?」
「いや、驚いてるんだよ……。カナさんが……君みたいな男に心を開いたことに……。あの人は……、幼い頃に両親を亡くして……、それからはずっと財団Xにいて……本当の意味で心を許せる相手に……出会ってこれなかったと思うんだ……。僕は……そんな彼女の支えになりたかったんだ……。だけど……、カナさんは……僕の助けがなくても……、君という心の支えを自分で見つけることができた……。僕はそれが嬉しいんだ……」
「……栞さんのこと、好きなんですね」
「まあね……」
瞬平の言葉に、ヤマトはとくに恥らうこともなく素直に頷いた。
「でも……、カナさんは僕ではなく君を選んだんだ……。彼女を宜しく頼む……。彼女の……カナさんの支えになってあげてくれ……」
「え、いや、でも……栞さんが僕なんかを頼りにするなんてこと、ありえないって言うか……寧ろ僕の方があの人に助けてもらってばかりですし……。栞さんも、あなたに支えてもらいたいって思っていますよ、絶対」
「そんなことないさ……。君の前で見せた……彼女の表情を見ればわかる……。これでも……あの人とは仕事での付き合いは……それなりに長いからね……。だからわかるんだ……。君の前で見せた彼女の表情は……僕でも見たことないほどに……信頼している顔だった……。カナさんは君を選ぶよ、必ずね……。だから……君にも彼女の気持ちに応えてほしい……。彼女のことを……大切に想っているのなら……」
そう言ったヤマトの瞳は、真っ直ぐと瞬平に向けられていた。
彼女を託せるのは君しかいない。
そんな想いが込められた熱い視線を、瞬平はひしひしと感じていた。
正直、自分には荷が重いと思った。
魔法を使える訳でも特別な何かに変身できる訳でもない。
何の力も持たないただの凡人である自分が、果たして彼女の支えになることができるのか、と。
無力な自分なんかよりも、きっと目の前にいる彼のほうが、何倍も栞さんを支える力を持っているはずだ。
だけどそれでも、そんな彼が自ら頭を下げて頼み込んできている。
知り合ったばかりの、しかも敵対している側の人間に向かって。
自分の気持ちを押し殺して。
本当は、彼が一番彼女を支えたいはずなのに。
少しの間、真剣に迷った挙句、瞬平は答えを出した。
「……わかりました。僕に……何ができるかわからないけど、できる限り精一杯、いえ、死ぬ気で……栞さんのことを支えて見せます!」
ヤマトの前で、瞬平はそう宣言した。
特別な力を持たない、凡人である無力な自分が彼女のために一体何ができるのか。
冴えない頭を振り絞り、なんとか導き出した答えは……誓いを立てること。
シオリ・カナのことを本気で想っているヤマトに本気の想いを告げること。
それが、彼女のために最初にしてやれる無力な自分なりの答えだった。
カナを想うヤマトの気持ちを裏切らないために、カナを想うヤマトに誓いを立てる。
力を持たない自分にできる全力の口約束。
出任せなんかじゃない。
この言葉が本気だと理解してもらうためなら“死ぬ気”なんて胡散臭い言葉だって喜んで使おう。
「そうか……。頼んだよ、奈良瞬平君……」
「はい! えっ? あれ、なんで僕の名前を知っているんです?」
「知っているよ……。組織の……仕事の一環として……魔法使いとその周辺については色々と……調査していたからね……」
「ああ〜、そうでしたね、たしか。栞さんも言っていました」
「うん……。あ、そうだ……。一方的に……こちらだけ名前を把握しているっていうのも……なんだか不公平だよね……。不必要だろうけど……僕の名前は……瀬名大和……」
「瀬名…さん」
「大和でいいよ……。それより……たぶん直に……君の仲間の魔法使い達が……この場所を嗅ぎつけてやって来るはずだ……」
「晴人さん達がここに?」
「ああ……。今の君は…難しい立場かもしれないけど……カナさんのことを……どうか宜しく頼むよ……」
「は、はい! わかりました」
つい返事をしてしまった瞬平だったが、内心では焦りも感じていた。
ヤマトの言葉を承諾するということは、とどのつまりは晴人達仲間に対する裏切り行為に当たる。
ヤマトの言うとおりなら、きっと間もなく晴人達はこの場所に現れる。
出くわした時、一体どんな顔で仲間達に会えば良いのかと、瞬平は頭を悩ませていた。
「カナさんは……きっと今は59階にある……専用の研究室にいるハズだ……。そこでサクセサーの……最終調整をしているハズだから……傍にいてあげてくれ……」
「大和さんは?」
「僕は……、ここで暫く……休ませてもらうよ……。喋りすぎたせいか……少し疲れた……」
「わかりました。とりあえず、僕は栞さんの所に行ってきます。大和さんはここでゆっくり休んでいてください」
瞬平は決意した。
彼と約束をした以上、こうなったら何がどうなろうとも最後まで栞さんの味方でいよう、と。
たとえこの先、仲間である晴人や凛子達と敵対することになったとしても、彼と彼女の想いを裏切らない。
約束とは、守るべきものなのだから。
だから“死ぬ気”で守る、約束を。
瞬平は決意と共に部屋を飛び出し、エレベーターへ向かって駆け出して行った。
小さくなっていく瞬平の足音を聴きながら、ヤマトは満足げな顔でそっと目を閉じる。
まぶたを閉じて思い浮かんでくるのは、ついさっき目の当たりにした、いつもと違う服装のシオリ・カナの姿だった。
いつもの詰襟の白服ではない。
黒のキャミソールに赤のテーラードジャケット、そしてタイツと青のホットパンツという色鮮やかな格好。
初めて見た彼女の女性らしい姿。
今までずっと真っ白だったキャンバスが、初めて彼女らしい色に染まったような気がした。
「ああ……、素敵だった……。やっぱり……女性らしい格好の方が……あの人にはよく似合う……。それが見られただけで……、僕は満足だ……」
愛する人に思いを寄せながら、ヤマトの意識は眠りに着こうとしていた。
しかしその時、
「だったら、もう思い残すことはねぇよな?」
突如部屋に響いた聞き覚えのある威圧的な声が、ヤマトの意識を再び覚醒させた。
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