二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 仮面ライダーウィザード〜終幕の先〜【完結】
- 日時: 2017/04/15 00:31
- 名前: 裕 ◆.FlbxpLDSk (ID: XGjQjN8n)
こちらでは初めて投稿させていただきます、裕と申します。
今回はこの場を借りて、平成仮面ライダーシリーズ第二期から
「仮面ライダーウィザード」の物語を積み上げてみたいと思います。
個人的解釈としましては、第二期である「ダブル」〜「鎧武」までの作品は、同じ世界観だと思って見ております。なので、今回の物語もそれに沿った流れで書いていこうと思います。それに伴い、第二期各作品(劇場版)の設定も拝借する予定です。
物語の時間軸は「ウィザード」本編の最終回後、さらに言えば冬の映画「戦国MOVIE大合戦」の後の話だと思っていただけると幸いです。
ではでは。
〜登場人物〜
・魔法使いとその関係者
操真晴人=仮面ライダーウィザード
仁藤攻介=仮面ライダービースト
稲森真由=仮面ライダーメイジ
奈良瞬平
大門凛子(国安ゼロ課・刑事)
木崎政範(国安ゼロ課・警視)
ドーナツ屋はんぐり〜・店長
ドーナツ屋はんぐり〜・店員
・財団X
シオリ・カナ(栞 可奈)=仮面ライダーサクセサー
ヤマト=メモリー・ドーパント
ネオン・ウルスランド(局長)
・宇宙仮面ライダー部
野座間友子
ジェイク(神宮海蔵)
仮面ライダーフォーゼ
・鳴海探偵事務所
左 翔太郎=仮面ライダーダブル(左サイド)
フィリップ=仮面ライダーダブル(右サイド)
・怪人
サザル=ファントム・グレンデル
ファントム・ラミアー
ファントム・ヘルハウンド(ログ)
ファントム・シルフィ(ログ)
ファントム・バハムート(ログ)
ファントム・メデューサ(ログ)
グール
クロウ・ゾディアーツ
ペルセウス・ゾディアーツ
黒ネコヤミー
オールド・ドーパント
マスカレイド・ドーパント(白服)
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- 七十二. 戦始まる時 ( No.80 )
- 日時: 2015/12/30 02:36
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)
財団Xの研究ラボ施設である高層ビルの正面ゲート前。
色鮮やかなフラワーアートが植えられた四角いコンクリート状の花壇がいくつも並んでいる広場で、シオリ・カナと奈良瞬平は指輪の魔法使いである操真晴人と相対するように対峙していた。
厳しい表情のまま佇んでいる晴人の背後には、古の魔法使いである仁藤攻介と国安ゼロ課刑事の大門凛子、そして風都の探偵を営んでいる左 翔太郎とその相棒フィリップ、新・天ノ川学園高校の宇宙仮面ライダー部のメンバーの野座間友子とジェイクが、事態の成り行きを見守るようにジッと待機していた。
「瞬平、なんでお前がここにいるんだ!?」
視線の先に立っている見覚えのある顔に、晴人は当然とも言える質問をぶつけた。
背後の攻介と凛子も勿論同じことを思っていたようで、
「アイツ、ずっと姿を見せねぇと思ったらこんなところにいたのか?」
「全然連絡も寄越さないで、一体何をしていたの!? ずっと心配していたんだから!」
と、言葉を続けた。
特に凛子は、瞬平が行方知らずになる直前まで行動を共にしていたこともあり、多少の負い目を感じていたのか、三人の中で一番感情的に声を荒げた。
「す、す、すいません! 色々あって、なかなか連絡することができなくて……」
凛子の威圧的な言葉に圧倒されたのか、瞬平は慌てて大げさに深々と頭を下げた。
「まあいいから。話は後でゆっくり聞くから、とりあえずこっちに来い、瞬平。その女は今回の事件の首謀者なんだ」
そう言いながら、晴人は瞬平の隣に立っているシオリ・カナを指差した。
「知っています。彼女が何者で、何をしようとしているのか、全部知っています。知っている上で、すみません晴人さん、僕、彼女の味方をすることにしました」
瞬平は本当に申し訳無さそうに頭を下げながらも、しっかりとした決意の目を晴人に向けていた。
あまりにも力強い瞬平らしからぬ表情に、晴人は思わず一瞬たじろいでしまった。
しかしすぐに冷静さを取り戻すと、
「お前、一体何を言って……」
そう口を開きかけた。しかしそこへ、
「彼の言葉通りよ、ウィザード」
瞬平の隣に立っていたシオリ・カナが、唐突に晴人の言葉を遮った。
「なにっ!?」
「昨晩は派手に吹っ飛ばしてくれてどうも。貴方のおかげで散々な目にあったけど、代わりにこうして瞬平と巡り会うことができた。感謝しているわ。……けれど、昨日私が言った言葉、覚えているでしょう? 「貴方を倒して、貴方の後継者になる」と。その言葉、今度こそ果たさせてもらうわ!」
カナはそう言うと、懐からサクセサーのベルトを見せ付けるように取り出した。
「昨日の夜、戦いに乱入してきた鎧の戦士は、やっぱり君だったんだな」
「ええ、そのとおりよ。見たところ、何人か仲間を集めてきたみたいだけど、見覚えのある顔がいるわね。そこにいる二人、たしか……左 翔太郎と園咲来人。財団Xのデータベースで何度か確認したことがある。風都の探偵で、同時に地球の記憶にアクセスする術を持つ……仮面ライダー。彼らがいるということは、大よそのことは既に把握済みってところかしら。だったらこれ以上話すことはないわね。ウィザード、私と一騎打ちの勝負をしなさい。私が勝ったら、貴方の持つ“最強の魔法使い”の称号と……瞬平を頂くわ!」
「一騎打ちの勝負? 随分と唐突な話だな……」
突然のカナの一方的な提案に、晴人は思わず首を傾げた。
「そうかしら? でも、貴方はこの話に乗らざるを得ないはずよ。だって、瞬平の命は私が握っているようなものだもの」
「人質だって言いたいのか?」
「そうよ。貴方と戦うためなら、私に好意を寄せてくれている人の命だって……平気で利用するわ」
非情さを見せ付けるかのように豪語するカナだったが、彼女の細い手がプルプルと小刻みに震えているのを、隣に立つ瞬平は見逃さなかった。
彼女は今、無理をしている。
ありもしない冷酷さを、必死に演技しているのだ。
全ては仮面ライダーウィザード、操真晴人と戦うために。
「……わかった。自分が“最強の魔法使い”だなんて一度も思ったことないけど、瞬平は俺達の大事な仲間だからな。そいつを連れ戻すためにも、とりあえずその勝負、受けてやるよ!」
『ドライバーオン・プリーズ』
決心した晴人は、右手の指輪をバックルにかざして銀色のベルトを出現させた。
それはつまり、カナの申し出を承諾した証である。
カナはニヤリとほくそ笑むと、手にしたサクセサーのベルトを自分の腰に装着した。
そして豪快に両手を左右に広げてから右手を頭上に伸ばすと、ベルトの起動コード「変身!!」を叫んだ。
次の瞬間、カナの声に反応してベルトが起動。
『メモリー! リべレーション!』
ベルトからガイアメモリのものによく似た電子音声が鳴り、カナの身体が一瞬にして灰色のアーマーに包まれた。
晴人も昨晩目撃した鎧の戦士の姿が目の前に現れる。
魔女のトンガリ帽子のような頭部と背中のマントが特徴的な灰色の鎧の戦士。
しかし、さらにそこからサクセサーは変化を遂げる。
鎧の姿に変化した直後、頭上に伸ばした右手から魔法陣が出現した。
魔法陣はゆっくりと降下を始め、右手から頭部、足元へと順番に通過していった。
すると、魔法陣を潜り抜けた鎧に見る見る色が宿り始めた。
希望や幸福、あるいは色情を象徴する色、薔薇色。つまりはピンクのこと。
今までブランク体とでも言うべき灰色だった鎧の戦士が、薔薇色を基調とした明るい姿へと染まっていった。
この二日間、誰よりもカナの変身を見てきた瞬平でさえ、今回のこれまでと違う変身プロセスに驚きを隠せないでいた。
「すごい……すごいわ……。身体中に力が満ち溢れてくる……。この感覚、この力が魔力なのね」
真のサクセサーへと変身を遂げたカナは、“魔力を感じる”という初めて体験に思わず感動を覚えていた。
ピンク色の鎧に包まれた両掌を感慨深く何度も見つめている。
そんな中、晴人も左手に赤い魔法石の指輪を装着した。
ベルトのサイドレバーを操作し、力強く叫ぶ。
「変身!!」
『フレイム・プリーズ ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー』
指輪をベルトにかざした瞬間、赤い魔法陣が出現、それを潜り抜けた晴人はウィザード・フレイムスタイルへと姿を変えた。
ギャラリーが見守る中、ウィザードとサクセサーはそれぞれ一歩ずつ歩を進める。
- 七十三. 魔法決戦 ( No.81 )
- 日時: 2016/02/01 03:05
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)
「おい晴人! 俺も加勢するぞ!」
ウィザードの背後で攻介が言った。
戦う気満々の攻介の腰には、既にビーストのベルトが出現していた。
「いや、手は出さないでくれ、仁藤。彼女は一騎打ちを望んだんだ。俺もそれに同意した。これは俺と彼女だけの戦いなんだ」
ウィザードは肩越しにそう言って攻介を止めると、目の前に佇むサクセサーに視線を向けた。
そして一つ、質問を投げかける。
「戦う前に確認するが、俺を倒した後はやっぱり仁藤や……ここにいるダブルにも戦いを挑むのか?」
「そんなことはしないわ。私が超えたい相手はウィザード、貴方だけ。貴方に勝って自分が魔法使いであることを証明するのが、現時点での私の目的。それがクリアされれば、私の目的は次の段階にシフトする。最も大事な、ある意味最終目的と言える一番大切なこと……」
「大切なこと……ね。とにかく、他の奴には手を出さないってことだな。それを聞いて安心したよ。それじゃあ勝負といくか」
「ええ」
「ショータイムだ!」
その言葉を合図に、ウィザードとサクセサー、二人は互いに向かって同時に走り出した。
先制攻撃を仕掛けたのはウィザードだった。
まずは様子見。急接近するサクセサーに、左足からのハイキックを一発放ってみる。
狙いは頭部。
しかしウィザードの蹴りはあっけなくサクセサーの手に弾かれてしまう。
ウィザードはすかさず今度は右足による後ろ回し蹴りを試みるが、それも懐を潜り抜けるように身を低くして簡単に避けられてしまった。
今度はこっちの番だと言わんばかりにサクセサーも攻撃を仕掛ける。
低くした姿勢を元に戻した瞬間、サクセサーは右手による掌底をウィザードの腹部に叩き込んだ。
「ぐっ……」
ダメージは大したことないものの、思わぬ衝撃にウィザードの身体が後方によろめいた。
そのチャンスを見逃さなかったサクセサーはさらに追い討ちを仕掛ける。
ウィザードの赤く輝く顔面に回し蹴りを一発、続けて胸部を力強く蹴り込みウィザードを吹っ飛ばした。
背後に大きく蹴り飛ばされたウィザードは、両足の裏をレンガ状のタイル床に引きずりながらもなんとかバランスを崩さないように踏み止まるが、その結果、ウィザードとサクセサーの間には数メートルほどの間合いができていた。
先制攻撃を取るつもりがまさかの逆襲。
完全に出端を挫かれてしまったウィザードは、蹴られた胸部を摩りながら次の行動に思考を巡らせていた。
しかしそこへサクセサーが、
「見なさいウィザード、これが私の魔法よ! “虹色の炎”!!」
と、右掌を正面に突き出しながら力強く言い放った。
すると次の瞬間、
『アビリティー・マジカルファイアー』
ベルトから電子音声が発せられ、同時にサクセサーの右掌に魔法陣が出現し、そこから虹のように七色に光り輝く巨大な火球が発射された。
七色の火球は真っ直ぐと飛んで行き、一瞬反応が遅れたウィザードに直撃した。
「ぐわっ……」
火球は目標に命中した瞬間、花火のように弾けて爆発、それをもろに喰らったウィザードは、今度こそ体勢を崩しレンガ状のタイル床の上を転がった。
「これがあの子の魔法か……」
「そうよ、これが私の魔法。私だけの魔法よ。さあ、もう一発行くわよ! “虹色の炎”!!」
『アビリティー・マジカルファイアー』
サクセサーが言葉を発した瞬間、それに反応したベルトから電子音声が鳴り、同時にサクセサーが突き出した右掌から再び七色の火球が発射される。
「くっ!」
ウィザードは崩れた体勢のまま、半ば強引に横転して火球の弾道から逸れると、すかさず身体を起こしながら右手の指輪を交換した。
直前までウィザードがいた場所に火球が着弾し、爆炎と共に小規模なクレーターが生まれる。
ウィザードは背後におきたそれに気を取られることもなく、右手の指輪をベルトにかざした。
『コネクト・プリーズ』
出現した魔法陣に右手を突っ込み、専用武器ウィザーソードガン・ソードモードを取り出した。
「“虹色の炎”!!」
『アビリティー・マジカルファイアー』
そうしている間に、サクセサーは三発目の火球を飛ばしてきた。
ウィザードはウィザーソードガンのハンドオーサーを開き、左手の指輪をそれにかざして魔力を注入した。
『フレイム・スラッシュストライク』
ウィザーソードガン・ソードモードの銀色の刀身が真っ赤な炎に包まれると、ウィザードは近づいてくる火球に向かって勢い良く剣を振り下ろした。
上から下へと、真っ直ぐと振り下ろして火球を一刀両断したのだ。
炎の剣に斬られた炎の球は、ウィザードの背後で真っ二つに分離すると、空中で爆発して綺麗な火の粉を残しながら消滅した。
「か、かっこいい……」
飛んでくる火球を刃で切り裂くウィザードの様は、まるで居合抜きをする侍のようにも見え、その姿は“仮面ライダー”という存在に人並み外れた情熱を持つ友子の心を無意識に躍らせていた。
「へえ……、やるわね。さすがだわ」
突き出した右手を下ろしながら、驚くようにサクセサーは言った。
「いや、どうってことないさ」
刀身の炎を振り払い、ウィザードは謙虚に言葉を返す。
「そう? なら、これならどうかしら? “流星の雨”!!」
『アビリティー・メテオスコール』
言った途端、サクセサーは両手を空に掲げた。
すると今度は、サクセサーの頭上に大きめの魔法陣が展開し、そこから無数の光の弾がまさに言葉通り、流星雨のように降り注いできた。
「やばい!」
『ディフェンド・プリーズ』
ウィザードは慌てて防御魔法を発動。
マシンガンのように激しく降ってくる夥しい数の魔力の塊を、頭上に張った炎の壁でなんとか食い止めるが、ウィザードの周囲に着弾した光の弾が次々に広場を破壊していた。
着弾と共に起こる爆発がレンガ状のタイル床や花壇を吹き飛ばし、光の熱が芸術的に装飾されたフラワーアートを呆気なく燃やしていく。
既に広場は舞い散る砂埃とレンガの破片、そして黒煙が立ち込める荒れ果てた戦場へと変わり果てていた。
「うわうわ! ヤバイヤバイ、マジで死ぬってコレ……」
「なんだよこの攻撃、メチャクチャじゃねぇかよ……」
「きゃあっ!? 晴人君……早く何とかして!」
「うおおおっ!? ぼ、帽子、帽子が燃える!」
少し離れた所から、戦いを見守っていた仲間たちの悲鳴が聞こえてくる。
戦士ではないジェイクや凛子達ならともかく、戦い慣れしているはずの攻介や翔太郎までもがパニックになっているようにも聞こえる。
規模の大きな攻撃とその破壊力に、さすがに全員戸惑っているようだった。
- 七十四. 騎馬戦 ( No.82 )
- 日時: 2016/04/04 03:19
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)
「ウィザード、なんとかして接近戦に持ち込むんだ!」
飛び交う悲鳴の中で、唯一落ち着いて助言をくれたのはフィリップだった。
「接近戦……。一か八か、やってみるか……」
激しさの増す攻撃の中で、ウィザードは反撃を決断した。
『コネクト・プリーズ』
展開した魔法陣から、ウィザードは自身の専用バイク、マシンウィンガーを取り出した。
すかさずバイクに跨ると、ハンドルグリップを力強く捻り、炎の壁が消滅すると同時にアクセル全開で発進した。
激しく降り注ぐ光の流星雨を掻い潜りながら、マシンウィンガーの猛スピードでサクセサーに急接近するウィザード。
次々と起こる爆風を背中で感じながら、ウィザードは速度を落とすことなく突進する。
バイクを使った体当たり攻撃。
ウィザードの思惑に感づいたサクセサーの身体はすぐさま回避行動を取っていた。
展開していた魔法攻撃を中断すると、素早く横転してウィザードが操るマシンウィンガーの体当たり攻撃を紙一重に回避した。
サクセサーの背後でタイヤが摩擦する音を響かせながら急停止するマシンウィンガー。
「面白いじゃない。そういうのなら、私だってできるわよ。出てきなさい、“影の炎馬”!!」
『サモン・ヘルハウンドマジック』
サクセサーが音声コードを唱えながら右手を自身の影にかざした瞬間、影に魔法陣が重なり、そこから這い出るように現れたのは、ファントム・ヘルハウンドが乗り回していた黒い外見の異形のバイク、ブラックドッグだった。
サクセサーはブラックドッグに跨ると、ハンドルグリップを握り締め、ウィザード目掛けてマシンを発進させた。
その様子を見ていたウィザードもすかさずマシンウィンガーを走らせる。
二台のバイクが互いを目指してフルスロットルで駆けていく。
ウィザードは加速しながらマシンウィンガーの前輪を宙に浮かせ、ウイリー走行で突進する。
呼応するように、サクセサーもブラックドッグの前輪を浮かせてウイリーの姿勢をとる。
次の瞬間、二台のバイクが二人の中心で衝突した。
マシンウィンガーの前輪とブラックドッグの前輪が宙に浮いたまま力比べをするように激しくぶつかり合っている。
バイクを操るウィザードとサクセサーのハンドルグリップを握る手にも自然と力が入っていく。
先に状況を急転させたのはサクセサーだった。
サクセサーはブラックドッグのハンドルを左右に揺らし、ウィザードの操るマシンウィンガーのバランスを崩して前輪を地面に付かせた。
ブラックドッグの前輪も同時に地面に付いたが、サクセサーはその勢いのまま今度はブラックドッグの後輪を浮かせてジャックナイフターンを仕掛けた。
宙に浮いたブラックドッグの後輪が横に振り出し、ウィザードに襲い掛かる。
「あぶねっ!」
ウィザードは慌ててマシンウィンガーごと身を低くして間一髪で相手の後輪を回避した。
そしてすぐさまバランスを整えると、ハンドルグリップを回してバイクを急発進させ、サクセサーから数メートルほど距離を取ったところでUターンしてから停止した。
空振りした後輪を地面に付かせ、体勢を立て直したサクセサーは再びウィザードを視線に捉えると、休む間もなくブラックドッグを駆り出し、ウィザードを追いかけた。
バイクを走らせながら、サクセサーは右手を前方に突き出す。
「“虹色の炎”!!」
『アビリティー・マジカルファイアー』
唱えた瞬間、右掌に出現した魔法陣から七色に光る火球が発射された。
迎え撃つかのように相手目掛けてマシンウィンガーを発進させたウィザードの右手には、いつの間にかウィザーソードガン・ガンモードが握られていた。
近づいてくるサクセサーのブラックドッグと七色の火球に向かって真っ直ぐと走るマシンウィンガーの上で、ウィザードはウィザーソードガンのハンドオーサーに左手の赤い魔法石の指輪をかざして魔力を注入した。
『フレイム・シューティングストライク』
炎の魔力を取り込んだウィザーソードガン・ガンモードの銃口を正面から飛んでくる七色の火球に合わせると、ウィザードは戸惑うことなく引き金を引いた。
次の瞬間、銃口から撃ち出された炎の弾丸が一直線に飛んでいき、サクセサーが放った七色の火球と衝突した。
赤い炎の弾丸と七色の火球はウィザードとサクセサーの中心でぶつかり合った瞬間、弾けるように爆発してから黒煙を上げながら消滅した。
それはつまり相殺だった。
しかしそれでも尚、ウィザードとサクセサーは互いを目指してバイクを走らせた。
マシンウィンガーの上で、ウィザードは右手の指輪を付け替え、ベルトにかざした。
『チョーイイネ! キックストライク サイコー!」
ハイテンションな電子音声が鳴り、ウィザードの右足に炎の魔力が集中する。
ウィザードはマシンウィンガーの座席シートの上に両足を揃えると、ハンドルグリップから両手を離し、バイクを踏み台に空中に舞い上がった。
そして魔力が集中する右足を前に突き出し、飛び蹴りの姿勢で向かって来るサクセサー目掛けて急降下した。
炎の必殺キック“ストライクウィザード”がサクセサーに炸裂しようとしていた。
しかしその時、
「“月影の亡霊”!!」
『アビリティー・ミッドナイトゴースト』
サクセサーが呪文のように音声コードを唱えた瞬間、サクセサーの身体は心霊写真に写る幽霊のように半ば透き通った状態、つまり半透明と化し、向かって来るウィザードの必殺キックをスルリとすり抜けた。
「なにっ!?」
本来感じられるべきはずの攻撃が命中した手ごたえのような衝撃を感じることもなく、空振りした必殺キックの勢いでサクセサーの背後に着地したウィザードは、思わず呆気にとられた。
「どうかしら、私の魔法は?」
ほんの数秒で元の実体に戻ったサクセサーはブラックドッグを停止させ、バイクから降りると、得意げな様子でウィザードに尋ねた。
「ああ、正直驚いているよ。今のは絶対に当たったって思ったからな」
「私の魔法は私の想像が形となったもの。私が想像すればこのベルトはそれに応えてくれる。良い気分だわ。力を持つことがこんなに気持ちの良いことだとは知らなかったわ」
「そうか、そいつは良かったな」
「ええ。だから私にもっと力を振るわせて! もっと私を気持ちよくして!」
サクセサーは完全に力に酔っていた。
今まで持ち得なかった力、欲しくて欲しくてたまらなかった力をようやく手にすることができた達成感と、その力で他者を弄ぶ快感に。
サクセサーは身体中を駆け巡るそんな快感に思わず身を震わせると、右手に魔法の杖のような小振りのメイスを出現させ、ウィザードに襲い掛かった。
- 七十五. 仮面ライダーとは ( No.83 )
- 日時: 2016/05/25 17:48
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)
「栞さん……」
力を振るうことに心地よさを感じながら戦う今のサクセサーの姿に、瞬平は大きな不安を感じていた。
このまま戦いを続ければ、栞さんが栞さんじゃなくなるかもしれない。
今のサクセサーの姿は、彼女が語ってくれた理想の魔法使いとは、明らかに異なる程遠いものだった。
「フィリップ、こいつは……」
ウィザードとサクセサーの戦いを静観する翔太郎が隣にいる相棒に声を掛けた。
「ああ。サクセサー…シオリ・カナの心が暴走しかけている。原因は恐らく、ベルトに内蔵されたメモリーメモリの毒素の影響だろう。このまま戦いを続ければ彼女は……」
視線を眼前の戦いに集中させたまま、フィリップは答えた。
顔を合わさずともわかっている。
相棒の言いたいことも、懸念していることも。
ウィザードとサクセサーは互いに一歩も引かず、激しい攻防戦を繰り広げていた。
「はあ!」
サクセサーが両手に構えたメイスを勢いよく振り下ろした。
ウィザードはそれをウィザーソードガン・ソードモードの白銀の刃で受け止めた。
武器と武器が激しくぶつかり、鋭い音が響き渡る。
攻防が力勝負の鍔迫り合いへと移行する中、サクセサーが仮面の下でニヤリと笑みを浮かべた。
「そうだわ。たしか特別な力を持った人間のことを“仮面ライダー”と呼ぶんだったわよね? なら私も今日から“仮面ライダーサクセサー”と名乗ろうかしら!」
サクセサーの仮面の奥から聞こえてくるカナの声は、まるで別人のように狂喜に満ちていた。
そしてサクセサーのその言葉を聞いた瞬間、一人の男の顔色が変わった。
左 翔太郎だ。
「フィリップ!」
目つきが鋭くなると同時に、翔太郎の手にはダブルドライバーが握られていた。
「翔太郎……。わかった!」
その意味をすぐさま理解したフィリップは、コクリと頷くと黄色いガイアメモリを取り出した。
鍔迫り合いに痺れを切らしたサクセサーはウィザードの腹部に蹴りを入れた。
「ぐっ!」
体勢を崩し、後退するウィザード。
サクセサーは地面を蹴って跳躍すると、メイスを振り上げて頭上からの追い討ちを仕掛けた。
慌ててソードガンを持ち上げて防御を試みようとするウィザードだが、明らかに反応がワンテンポ遅く——間に合わない。
と、その時、
『ルナ・トリガー』
突然周囲に電子音声が鳴り響き、次の瞬間、ウィザードの背後の死角から無数の黄色いエネルギー弾が飛来した。
「なにっ!? くっ……」
唐突に現れた謎のエネルギー弾、その全てが吸い込まれるようにサクセサーに命中した。
予想外の死角からの追尾弾にさすがに対応できなかったサクセサーは、空中でバランスを崩し、そのままレンガ状のタイル床の上に倒れるように落下した。
「今の攻撃は……」
一体何事かと、ウィザードがエネルギー弾の飛んできた方向——背後を振り向くと、そこに立っていたのは銃を構えた青と黄色のダブルの姿だった。
「ダブル……」
「わりぃな、ウィザード。一騎打ちって話だったのに横槍なんて入れちまってよ。だけど今のそいつの言葉、それだけは黙って聞いてるわけにはいかなくってな。“仮面ライダー”の名前を踏みにじる奴は、俺達が許さねぇ!」
黄色い右半身に青色の左半身、仮面ライダーダブル・ルナトリガーは怒りを込めた台詞と共に専用銃——トリガーマグナムの銃口をサクセサーに向けた。
「なによ……、なにか文句でもあるっていうの!?」
サクセサーはゆらりと立ち上がりながら、戦いに割って入ってきたダブルをギラリと睨みつけた。
「ああ。大ありだぜ、魔法使いのねえちゃん! アンタは“仮面ライダー”のことをなにも理解しちゃいねぇ! その名前に込められた意味も、存在する理由も、なにもかもな!」
そう熱く訴えるのはダブルの左側、翔太郎の声だった。
ダブルはトリガーマグナムを構えたまま話を続けた。
「“仮面ライダー”は人類の自由と平和のために戦い続ける戦士の名前、その名前そのものが人々にとっては希望の象徴なんだよ! 特別な力を得て、それで好き勝手やったってそれじゃあ怪物となにも変わらねぇ! 力を持った意味とその正しい使い方、そいつがわからねぇうちは絶対に“仮面ライダー”を名乗らせねぇ!」
「希望の象徴……か。俺も昔、軽々しく“仮面ライダー”を名乗って別のある仮面ライダーに指摘を喰らったことがあったよ。あの時はなんでああ言われたのか、いまいちわからなかったけれど、沢山の希望と絶望を見てきた今なら、その意味もわかる気がするよ。人類の希望であり続けること、その覚悟を持つ者だけが“仮面ライダー”を名乗る資格を得られるんだ」
まるで自分に言い聞かせるようにウィザードは語った。
かつてウィザードは、宇宙鉄人の事件で苦戦する仮面ライダーフォーゼと仮面ライダーメテオを助太刀したことがあった。
ほんの気まぐれのつもりで戦いに参加したのだったが、その時に“仮面ライダー”の存在を知ることとなった。
「なんかカッコいいね!」と、軽い気持ちで“仮面ライダーウィザード”を名乗ってみたが、直後にメテオから指摘を受けてしまった。
「簡単に名乗るな!」、と。
その時はその場をフォーゼに宥められたが、ダブルの言葉を受け、そしてサクセサーの姿を見た今、改めて思う。
生半可な気持ちで名乗ってはいけないのだ。“仮面ライダー”という名前は。
「栞さん……。昨日、僕に語ってくれましたよね。「ウィッチちゃん」が大好きだったって」
いつの間にか背後に歩み寄っていた瞬平が、不意にサクセサーに言葉をかけてきた。
「瞬平……」
振り向いたサクセサーはその瞬平の姿に思わず言葉を失った。
瞬平は話を続ける。
「栞さんが魔法使いになりたかったのは「ウィッチちゃん」に憧れたからですよね? 「ウィッチちゃん」のような魔法使いになりたいって思ったから……。今の栞さんの姿は、その「ウィッチちゃん」に少しでも近づけていると思いますか?」
瞬平に問われて、サクセサーは我に返った。
熱くなっていた脳からスッと熱が消えるのを感じながら、辺りを見回し、自分の両手を見つめる。
その眼に映ったのは、荒れ果てた戦場と他人を傷つける野蛮な武器。
焦げた臭いと砂埃に塗れた自分の姿が、幼い頃から憧れていたテレビの中の魔法使いとは余りにもかけ離れていることにサクセサー=シオリ・カナはようやく気付いた。
「違う……。全然違う……。私がなりたかったのは、こんな魔法使いじゃない……」
呟くように言いながら、サクセサーは手にしていたメイスを足元に投げ捨てた。
「私がなりたかったのは……「ウィッチちゃん」のような優しい魔法使いだった……。ねえ、瞬平。自分勝手に暴れたこんな後じゃ、今更「ウィッチちゃん」のような魔法使いになりたいなんて、やっぱり虫がいい話よね……」
「そんな…そんなことは……」
「そんなことねぇさ!」
瞬平が言葉を詰まらせていると、それよりも先にダブルの左側——翔太郎の声が力強く答えた。
- 七十六. 罪と罰のライダーキック ( No.84 )
- 日時: 2016/06/20 02:10
- 名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)
「人間、誰だって間違いを犯すけどよ、それを正せるのも人間の強みだろ? 自分の罪を数えて、それからまた一からやり直せば良いさ!」
そう言ったダブルの右手に握られていたトリガーマグナムの銃口は、いつの間にか静かに下ろされていた。
「ダブル……。貴方の言うとおり、もし本当にやり直すことができたなら、その時は今度こそ“仮面ライダー”を名乗ることもできるかしら?」
「さあな。それはこれからのあんた次第だ」
「そう……」
「やり直しましょう、栞さん!」
何かを考えるように俯くサクセサーに、瞬平は笑顔で言い放った。
「瞬平……。そうね、まだチャンスがあるなら、もう一度……。ありがとう、瞬平。ダブルもありがとう」
顔を上げたサクセサーは素直に感謝していた。
瞬平とダブル——左 翔太郎の言葉のおかげで色々と気付くことができた。
これ以上過ちを重ねずに済むことができた。
そして、やり直しができることもまた……。
しかし、なんの咎めもなくただやり直すなんて虫が良すぎる話だ。
ダブルは言っていた。「自分の罪を数えて、それからまた一からやり直せば良い」と。
罪を数える。
もう一度やり直す前に、けじめをつける必要がある。
「ウィザード、貴方との戦い、まだ終わっていないはずよ。私は次の一撃に全力を賭ける。だからお願い、貴方にも全力を出して欲しいの。貴方の本気を受け止めて、私は自分にけじめをつけたい」
「栞さん……」
「……わかった。君の気持ちに俺も全力で応えるよ」
サクセサーの覚悟を理解したウィザードは、コクリと頷くと左手の指輪を付け替えた。
『インフィニティー・プリーズ ヒースイフードー、ボゥーザバビュードゴーン!』
真っ白に光り輝く魔法陣を潜り抜け、ウィザードはインフィニティースタイルへと姿を変えた。
「シオリ・カナ、君に一つアドバイスだ」
そう不意に声を掛けてきたのはダブルの右側——フィリップだった。
「君は既に理解していると思うが、今のそのサクセサーの力では、絶対にウィザードに勝つことはできない。それは力量的な意味でも、心構えの意味でも……」
「ええ。十分理解しているわ。ありがとう……」
ダブル——フィリップがなにを言いたいのか、シオリ・カナにはわかっていた。
今のサクセサーには決定的に足りないものが二つある。
一つは魔力。
ヤマトに命じたのは残留するファントムの魔力の記憶の回収。
しかし回収した魔力のうちの一つ、メデューサの魔力の量が予定よりも大幅に下回っていた。
これは以前出現したファントム、オーガが原因であることは既に判明しており、こうなることは想定していた。
想定しておきながら完成を急いだ自分の責任だ。
しかし、ダブル——フィリップが言いたいことはそんなことではない。
彼が言いたいことは恐らく“心構え”の方だろう。
わかっている。
“仮面ライダー”という名前に込められた本当の意味も理解できなかった今の自分が、ウィザードの足元に及ぶはずがない。
そんなことは重々承知の上で、自分はウィザードの全力に挑むのだ。
「最後の勝負だ! 俺も手加減はしない!」
そう言いながら、ウィザードは右手の指輪をベルトにかざす。
『チョーイイネ! キックストライク サイコー!』
ベルトから電子音声が鳴ると同時に、ウィザードの右足に魔力が蓄積されていく。
「ええ。いくわよ! “幻脚の衝撃”!!」
『アビリティー・キックストライク』
サクセサーも同時に魔法を発動。ウィザードと同様に右足に魔力が集中していく。
二人はジッと見合ったまま、腰を低くして溜めの体勢をとる。
両者ともいつでも技を放てる状態になっていた。
束の間の沈黙がその場を支配し、今にも雨が降り出しそうなグレーの空からゴロゴロと雷が鳴り響いた次の瞬間、その音を合図にウィザードとサクセサーは同時に力強く地面を蹴ってジャンプした。
「だぁああああ!!」
「はああああっ!!」
ほぼ同じ高さまで跳躍した二人は、魔力が集中した右足を前面に突き出した飛び蹴りの姿勢で激突した。
空中で両者の右足がぶつかり合った瞬間、凄まじい閃光が走り、直後に生まれた爆発がその光景を見守っていた者たちの眼にハッキリと焼き付いた。
空中に巻き起こった爆炎の中から先に姿を現したのはウィザードだった。
地面の上に華麗に着地を決めたウィザードは、背後を振り返りながら変身を解除した。
操真晴人が見守る先で、遅れて姿を見せたサクセサー——変身が解けたシオリ・カナが不恰好に地面の上に転げ落ちた。
「がはっ……」
戦闘で砕けたレンガ状のタイル床の上に叩きつけられた衝撃に、声にならない悲鳴を上げるカナ。
「栞さん!」
慌てて瞬平が彼女の元に駆け寄る。
「栞さん! 大丈夫ですか栞さん!?」
瞬平に抱きかかえられたシオリ・カナは、彼の胸の中で苦痛に歪みながらも満足げな表情を浮かべていた。
全身を激痛が襲い、息が詰まってまともに声を上げることもできない。
まるで全身に巨大なハンマーでも打ち込まれたような感覚だったが、その感覚、その痛みこそが自分に対する罰、けじめなんだとカナは納得していた。
「だ……大丈夫……。心配しないで……瞬平……」
震えた手で瞬平の頬にそっと触れながら、カナは声を絞り出した。
その姿に安堵した瞬平は、「良かった……」と、彼女の手を握りながら笑顔を浮かべるのだった。
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