二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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仮面ライダーウィザード〜終幕の先〜【完結】
日時: 2017/04/15 00:31
名前: 裕 ◆.FlbxpLDSk (ID: XGjQjN8n)

こちらでは初めて投稿させていただきます、裕と申します。
今回はこの場を借りて、平成仮面ライダーシリーズ第二期から
「仮面ライダーウィザード」の物語を積み上げてみたいと思います。

個人的解釈としましては、第二期である「ダブル」〜「鎧武」までの作品は、同じ世界観だと思って見ております。なので、今回の物語もそれに沿った流れで書いていこうと思います。それに伴い、第二期各作品(劇場版)の設定も拝借する予定です。

物語の時間軸は「ウィザード」本編の最終回後、さらに言えば冬の映画「戦国MOVIE大合戦」の後の話だと思っていただけると幸いです。

ではでは。


〜登場人物〜


・魔法使いとその関係者

操真晴人=仮面ライダーウィザード

仁藤攻介=仮面ライダービースト

稲森真由=仮面ライダーメイジ

奈良瞬平

大門凛子(国安ゼロ課・刑事)

木崎政範(国安ゼロ課・警視)

ドーナツ屋はんぐり〜・店長

ドーナツ屋はんぐり〜・店員


・財団X

シオリ・カナ(栞 可奈)=仮面ライダーサクセサー

ヤマト=メモリー・ドーパント

ネオン・ウルスランド(局長)


・宇宙仮面ライダー部

野座間友子

ジェイク(神宮海蔵)

仮面ライダーフォーゼ


・鳴海探偵事務所

左 翔太郎=仮面ライダーダブル(左サイド)

フィリップ=仮面ライダーダブル(右サイド)


・怪人

サザル=ファントム・グレンデル

ファントム・ラミアー

ファントム・ヘルハウンド(ログ)

ファントム・シルフィ(ログ)

ファントム・バハムート(ログ)

ファントム・メデューサ(ログ)

グール

クロウ・ゾディアーツ

ペルセウス・ゾディアーツ

黒ネコヤミー

オールド・ドーパント

マスカレイド・ドーパント(白服)

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六十三. 暴走 ( No.70 )
日時: 2015/03/26 07:50
名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)

「ふぃ〜」
 メモリー・ドーパントを撃破したウィザードは、全身の緊張を解すかのように独特のため息をついた。
 途端に肩の力がドッと抜けるのを感じながら、仲間のいる背後に視線を向ける。
 すると、ちょうど駆け寄ってきていたビーストハイパーが馴れ馴れしくウィザードの背中を叩いてきた。
「やったな、晴人。さすがは俺のライバルだぜぇ!」
「ハードボイルドな戦いぶりだったぜ。ウィザード」
 少し遅れて歩いてきたダブルも、キザな格好で人差し指を立てながら、ウィザードの勝利を称える。
 今の戦いのどこらへんがハードボイルドだったのか?
 そんな疑問を感じつつも、とりあえず「ありがとう」とウィザードは言葉を返した。
「でも、あのドーパントを倒せたのはあんた“達”のおかげさ、ダブル。改めて礼を言うよ」
「気にするな。言っただろ? ライダーは助け合いだってな」
「ライダーは助け合い……か。超良いね」
「だろ? 仲間の仮面ライダーの受売りだけどな」
 そんな言葉と共に、ウィザードとダブルはどちらからともなく手を出し合い何気ない握手を交わす
のだった。
「さてと、それじゃあメモリの使い手から色々と情報を聞き出して、これからのことを話し合わない
となぁ」
 そう言いながら、メモリー・ドーパントが吹き飛んだ場所に歩み寄るダブル。だったが、
「待て、翔太郎。少し様子がおかしい……」
 片割れであるフィリップが何かに気づき、すぐにその足を止めた。
「ん? なんだ、どした?」
 フィリップの言葉に違和感を感じ、ビーストハイパーとウィザードも首を傾げる。
「敵の変身が解けていない。メモリブレイクすれば体内のガイアメモリは排出されて、ユーザーの肉体
は元の人間に戻るはずなのに……」
「どういうことだよ? フィリップ」
「恐らく……戦いはまだ終わっていない…」
 と、そう言ったダブルの右側であるフィリップの悪い予感が的中するかのように、次の瞬間、事態は
急変する。
 フィリップの言葉通り、倒したはずのメモリー・ドーパントが怪人体の姿のままでうつぶせに倒れていた。
 本来、ガイアメモリで変身する怪人ドーパントは、一定のダメージを受けると体内のメモリを破壊
され、メモリ使用者は元の姿に戻るのだが、なぜかメモリー・ドーパントは怪人の姿そのままでウィザ
ード達仮面ライダーの眼前で倒れていた。
 三人の仮面ライダーがジッとその状況に警戒していると、横たわっていたメモリー・ドーパントに
異変が起き始める。
 突然、その不気味な身体がビクリと動き出し、まるで糸に吊るされたマリオネットのようにゆっくりと
立ち上がると、うわ言のようにブツブツと言葉を呟き始めた。
「ウィザードユルサナイカナサンノジャマヲスルヤツユルサナイウィザードユルサナイカナサンノジャマ
ヲスルヤツユルサナイウィザードユルサナイカナサンノジャマヲスルヤツユルサナイ…」
 感情の篭っていない片言な言い方で同じ言葉を何度も連呼するメモリー・ドーパント。
 その声の速さも声量も徐々に激しさを増していく。
「おい、なんかアイツ、気味がわりぃぞ…」
 あまりの不気味さに思わずたじろぐビーストハイパー。
 そんな中、唐突にメモリー・ドーパントの肉体が膨張し始めた。
 形を変えながらまるで風船のように肥大化し、巨大な肉塊へと変貌する。
 人型だった肉体は、やがて巨大な脳みそのような異様な形に変化し、下部からは夥しい数のプラグコード
がグロテスクな触手のように蠢きながら一斉に生え出してきた。
 その姿は宛ら巨大なクラゲのようだった。
 クラゲの形をした巨大な脳みそ。
 その巨体にとってこの地下の配管施設は酷く狭く、文字通り怪物化したメモリー・ドーパントの
デタラメな動きに合わせて崩壊を始める。
 壁に沿って剥き出しに設置されたパイプラインは触手の接触で破裂し、コンクリートでできた床や天井
にも亀裂が走り出す。
「やべぇ! 天井が崩れる!」
「ここは俺が!」
『ディフェンド・プリーズ』
 崩れ落ちる天井の瓦礫に対し、咄嗟の判断で防御魔法を発動させるウィザード。
 ダイヤモンド並みの硬度を持つ光の盾が、頭上に降り注ぐコンクリートの瓦礫からライダー達の身を
守護する。
 しかし、そうしている間に怪物化したメモリー・ドーパントが、天井に開いた巨大な穴から地上へと出
てしまっていた。
「おい、やべぇぞ! 化け物が外に!」
「俺達で止めるぞ!」
 そう言ったダブルは携帯電話型のガジェット、スタッグフォンを取り出し、素早くテンキーを操作して
“何か”を呼び出していた。
 暫くして瓦礫の雨が収まると、辺りは一転、静寂に包まれた。
 天井に開いた穴から覗く陽の光が眩しさを感じさせる。
「急ごう! 被害が出る前に、今度こそアイツを!」
 防御魔法を解除し、ウィザード達は積もった瓦礫の山を踏み越え、配管施設を後にする。



 ウィザード達が戦っている地下の配管施設の真上には、巨大なショッピングセンターが建っている。
 大きな建物と広大な駐車場、そしてそこに停められた何台もの自動車。
 建物の中を出入りする沢山の買い物客の姿を、ジェイクは赤いスポーツカーの中から人間観察のように
ジッと眺めていた。
「ふぁ〜…。ただ待つっていうのも、相変わらず退屈ッスよねぇ〜」
「のん気なこと言わないで…。この下では仮面ライダー達が…晴人さん達が必死に戦ってるんだから…」
 暇そうにあくびをしながら車の窓から顔を出すジェイクを、車体に凭れるように立っていた友子がキッ
と睨みつける。
 仮面ライダーダブルを地下の配管施設に通じる入り口まで案内した大門凛子、野座間友子、ジェイク
の三人は、戦いに出た仮面ライダー達の帰りを待つために、このショッピングセンターの駐車場で待機し
ていた。
 凛子の運転するスポーツカーでここまで来た彼女達。
 退屈そうに時間を潰すジェイクの傍らで、車の外で待つ友子は愛用のタブレットを両手でギュッと抱え
ながら心配そうにソワソワしていた。
 一方、凛子は駐車したスポーツカーから少し離れた所で、刑事としての職務を全うしていた。
 片手に持ったメモ帳に目を通しながら、携帯電話で誰かと話をしている。
 相手は上司の木崎で、互いの情報を交換しているようだった。
 それぞれがそのように時間を潰し、あるいは時間を有効活用していた。
 が、しかしその時、突如、異常な轟音が三人の耳に入ってきた。
 ゴゴゴゴゴという地面に響き渡る鈍い音。
 そして、直後に駐車場のアスファルトに亀裂が走り、地割れが起きる。

六十四. パニック ( No.71 )
日時: 2015/04/23 15:32
名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)

「な、な、なに!? 地震!?」
「これは……」
 大地が揺れているような感覚に襲われ、思わず取り乱すジェイク。
 友子もあまりに突然の出来事に驚きを隠せず、辺りをキョロキョロと見回している。
「二人とも、大丈夫!?」
 そんな中、異変を察知した凛子が慌てて二人の元へ駆け寄ってきた。
 周りを見ると、何人もの買い物客が戸惑い、怯え、慌てふためいている。
 友子とジェイクに寄り添いながら凛子が対応に困っていると、次の瞬間、ひび割れていた駐車場の一部が突然陥没し、穴の中からクラゲ状の不気味な巨大生物が姿を現した。
「ウィザァアアアアアアドォオオオオオ!!!」
 凄まじい声量の奇声を上げながら、クラゲ状の怪物は触手を器用に使いながら地上に這い上がってきた。
「なんすかぁアレぇ!?」
 駐車場の穴から出現した巨大生物、その不気味で醜悪な姿を目の当たりにしたジェイクは、車の中で情けない悲鳴を上げる。
 友子と凛子も開いた口が塞がらず、言葉を失ったまま、視線だけが目の前の怪物に釘付けになっていた。
 一方、周りの買い物客たちは突然の事態に混乱し、ショッピングセンターの中も外も、すでに大パニックに陥っていた。
 我先にと悲鳴を上げながら逃げ惑う人々。
 そんな中で、クラゲ状の怪物は凛子達の存在に気づく。
 目も耳も見当たらない外見でどうやって気づいたのかは不明だが、とにかく彼女達の姿を補足した怪物は、散在する買い物客には目もくれず、一目散に彼女達に近づき始めた。
「うそっ!? こっちに来るんスけど!?」
「なんで!? 目的は私たち!?」
 巨大な脳みそのようなフォルムから生えた夥しい数のプラグコードを手足のように使い、その見掛けに反して素早い動きを見せるクラゲ状の怪物に恐怖する三人。
 一本の太い触手が、友子や凛子、そしてジェイクがいる赤いスポーツカー目掛けて勢いよく振り下ろされる。
 が、しかし次の瞬間、複数のタイヤが回転する音と摩擦音を響かせながら、突然一台の巨大装甲車が何処からともなく現れ、ドリフトしながらクラゲ状の怪物に体当たりした。
 より一層大きくタイヤとアスファルトが摩擦する音を鳴らしながら、触手が振り下ろされる刹那に怪物を吹き飛ばす。
 鉄の塊の衝突を受けたクラゲ状の怪物は、無数のプラグコードを絡ませながら巨大なゴミ屑のように転がっていく。
「なにっ!? 今度はなに!?」
 目の前で繰り広げられる状況についていけず、戸惑う凛子。するとそこに、
「大丈夫? 凛子ちゃん」
 彼女の前に白銀色に輝くウィザード・インフィニティースタイルが現れた。
 ほぼ同じタイミングでビーストハイパー、そしていつの間にか緑と黒のサイクロンジョーカーに戻っていたダブルも姿を見せる。
「なんとかギリギリ間に合ったみてぇだな!」
 自分が呼び出した巨大装甲車リボルギャリーの絶妙なタイミングでの到着に、満足気な様子を見せるダブルの左側。
「良かった…。皆さん無事だったんですね…」
 帰ってきた仮面ライダー達の姿に安堵の表情を見せる友子。しかし、
「待って。晴人君、真由ちゃんは? 真由ちゃんは何処へ行ったの?」
 メイジ=稲森真由の姿が見当たらないことにいち早く気がついた凛子はウィザードに問いかけた。
「真由ちゃんは…、違う場所であの子だけの戦いをしているんだ」
「どういうこと?」
「詳しいことは後で話すよ。まずはあの怪物を倒さないと…」
 そう言って、ウィザードは凛子から離れていった。
「フィリップ、一体どうなってんだ、アイツ。なんであんな姿になっちまったんだ?」
 蠢くクラゲ状の怪物=メモリー・ドーパント暴走態を観察しながら、ダブルの左側に宿る翔太郎が相棒に尋ねた。
「奴が使用しているガイアメモリ、メモリーメモリの力は異質ゆえに未知数な部分も多いんだ。だから実は何が起きてもおかしくはない。かつて、三枚のコアメダルと融合して“仮面ライダーコア”なんて怪物が誕生したこともあるくらいだからね。ただ、今回のケースはそれほど大層なものじゃない。簡単に言えば、ユーザーがウィザードを恨む余り冷静さを失った結果、メモリの力に飲み込まれてしまったんだ。“メモリー”とは記憶の力。恐らくメモリの力がユーザーの恨みや憎しみの記憶を吸収しすぎて暴走を始めたんだろう。今の奴の行動はユーザーの記憶に沿った破壊衝動に過ぎない」
 片割れの問いに、ダブルの右側であるフィリップの精神が冷静に返答を返す。
 言葉を発するたびにダブルの赤い右目がチカチカと点滅していた。
「おまえ、敵について妙に詳しいんだな?」
 ペラペラと説明するダブルの姿に、ビーストハイパーは首を傾げる。
「当然さ。今はメモリを“壊す”側だが、かつての僕はメモリを“造る”側だったからね。…まあ、その話は後にして、今は一刻も早くこの戦いにけりをつけよう」
「そのとおりだぜ、相棒。で? どうやってアイツを倒す?」
 と、再び翔太郎が尋ねる。
「ここはエクストリームでいこう。検索能力で奴の急所を狙い、一撃で仕留める。その間、ウィザードとビーストには敵の触手を何とかしてもらおう。頼めるかな、二人とも?」
「ああ。ドーパントの相手は、どうやらあんた達の方が適任のようだ」
「任せとけって!」
 こうして話はまとまり、三人の仮面ライダー達は再びメモリー・ドーパントに挑む。
 今度こそ決着をつけるために。

六十五. エクストリームの力 ( No.72 )
日時: 2015/04/29 22:33
名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)

 エクストリームメモリ。
 それは仮面ライダーダブルを最強形態に導く鳥型のガイアメモリ。
 自律行動を可能とし、自らの意思で動き回るエクストリームメモリは、意識の抜けたフィリップの肉体を運んでくる役割を持っている。
 ダブルに変身する際、フィリップの意識はガイアメモリと共に翔太郎の身体に転送されるが、エクストリームへの進化時、残されたフィリップの肉体はエクストリームメモリによってデータ化し取り込まれ、戦いの場へと運ばれてくる。
 そして、エクストリームメモリがダブルのベルトにドッキングすることで、翔太郎とフィリップは身も心も一体化し、仮面ライダーダブルは最強の姿へと進化するのだ。


 今、ダブル・サイクロンジョーカーに宿るフィリップの心の声に導かれたエクストリームメモリが、機械的な鳥の鳴き声と共にダブルの元へと飛来する。
 ダブルは片手でそれを掴み取ると、閉じられたダブルドライバーに装填し、両手で左右に展開した。
『エクストリーム』
 エクストリームメモリがX字型に開いた瞬間、電子音声が鳴り響く。
 すると、ダブルのボディの中央にある銀色のラインが光と共に広がりだし、同時に頭部の触角や肩のアーマーの形状も見る見るうちに変化を遂げていく。
 主に黒と緑の二色カラーだったダブルの身体が、今ではクリスタル状の白銀色を挟んだ三色カラーになっている。
 仮面ライダーダブル・サイクロンジョーカーエクストリーム。
 それが最強形態に進化したダブルの名前。
「よし! じゃあ俺達は、空からアイツを攻め落とすか!」
 進化を果たしたダブルは、早々に携帯電話型のガジェット、スタッグフォンを開き、テンキーを素早く操作した。
 次の瞬間、スタッグフォンによるコールを受けた巨大装甲車リボルギャリーの車体が大きく左右に開き、中に格納されていたダブルの専用バイク、ハードボイルダーが姿を現した。
 巨大装甲車リボルギャリーには、ハードボイルダーの後部ユニットを換装する機能が搭載されている。
 ユニットパーツは三種類。マシンに驚異的な加速を可能にさせる緑のダッシュブーストユニット。水中・水上戦用の黄色のスプラッシャーユニット。そして、空中戦用の赤のタービュラーユニット。
 今、スタッグフォンの遠隔操作により、ハードボイルダーの後部ユニットは赤のタービュラーユニットに換装されている。
 空中戦用バイク、ハードタービュラー。その外見はタービン付きの赤い両翼を装備したまさに“空飛ぶバイク”である。
「それじゃあ手筈通りに。よろしく頼むよ、ウィザード、ビースト」
 ダブルは二人の魔法使いにそう言うと、待機中のハードタービュラーに跳躍して乗り込み、エンジンを起動させた。
 二つのタービンが回りだし、折りたたまれていた両翼が開いていく。
「よっしゃ、じゃあ、行くぜっ!」
 ダブルが気合い十分にハンドルグリップを回した瞬間、激しいジェット噴射と共にハードタービュラーは空へ飛び立つ。
「俺達も行こう!」
「おおよ!」
 空へ上昇していくダブルの姿を見届けながら、ウィザードとビーストハイパーも気持ちを切り替える。
 体勢を立て直しつつあるメモリー・ドーパント暴走態に視線を移し、その手に武器を出現させる。
 ウィザード・インフィニティースタイルはアックスカリバーを、ビーストハイパーはミラージュマグナムを構える。
「ウィ……ッザァアアアアドォオオオオオ!!!」
 最早、怨念獣と化したメモリー・ドーパント暴走態は夥しい数の触手を動かしながらウィザードとビーストハイパー目掛けて突進する。
「よくわからないことで恨まれても、正直困るだけなんだけどさ!」
 ため息交じりで呆れるように言いながら、ウィザードはアックスカリバーの持ち方を変える。
『ターンオン!』
 持ち方を変えることでカリバーモードからアックスモードへ、ウィザードの武器は剣から斧へと変わる。
 ウィザードは跳躍しながら斧で横に切り裂き、メモリー・ドーパント暴走態の巨体を後退させた。
「これでも喰らえっ! おらっ!」
 さらにビーストハイパーがミラージュマグナムによる銃撃で追い討ちをかける。
 怯むメモリー・ドーパント暴走態。
 その光景を、ダブルは上空を旋回するハードタービュラーの上から観察していた。
 勿論、ただ見ていた訳ではない。エクストリームの能力を活用してメモリードーパント暴走態を一撃で倒せるウィークポイントを探っていたのだ。
「敵の全てを閲覧した。奴の弱点は脳みそ状の頭部の天辺、頭頂だ!」
 エクストリームの最大の特徴、それは地球の記憶との直結。
 ダブル・サイクロンジョーカーエクストリームのボディの中央を走る白銀色の部分、それは“クリスタルサーバー”と呼ばれるデータベースであり、ダブルはこの変身形態時、クリスタルサーバーを通じて地球と繋がっているのだ。
 それは正に地球そのものを味方につけたも同然であり、ダブルはありとあらゆる情報や事象を瞬時に検索し、常に戦闘を有利に運ばせることが可能になる。
 メモリー・ドーパント暴走態の弱点を知るため、地球の記憶にアクセスしたダブルは、一瞬で敵の行動パターンや肉体の構造、そしてウィークポイントの位置を特定した。
 敵を一撃で倒すためには、核となる部分、つまり体内のガイアメモリに致命的なダメージを与える必要がある。
 今、メモリー・ドーパントの核であるメモリーメモリは巨大な肉塊に包まれている状態だが、そんな中で最も核にダメージを届かせることができる部分、それが頭部、頭頂であることが判明した。
「よしっ! ハードボイルドに決めるぜ!」
 ダブルは癖のように左手首を回すと、ハードタービュラーを一気に加速させて攻撃の有効範囲まで接近を試みる。
 しかし、それに感づいたメモリー・ドーパント暴走態が、今度は上空のダブルに襲い掛かってきた。
 地上のウィザードとビーストハイパーを無視して、メモリー・ドーパント暴走態は空に向かって無数の触手を勢いよく伸ばしだしたのだ。
「ヤベッ!」
 すかさずマシンのハンドルを切るダブル。
 ハードタービュラーが失速することなく触手の隙間を掻い潜っていく。
 主翼に装備されたバルカン砲が触手の動きを鈍らせる。

六十六. メモリー・ドーパントの最期 ( No.73 )
日時: 2015/06/04 03:05
名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)

「仁藤! 触手を破壊するんだ!」
「わかってるって! 皆まで言うな!」
 触手の妨害を受けるダブルを救うため、ウィザードとビーストハイパーは反撃に打って出た。
 ウィザードはアックスカリバーに備え付けられた掌型の紋章ハンドオーサーを左手で五回連続タッチする。
『ハイッハイッハイッハイッハイタッチ! プラズマシャイニングストライク!』
 次の瞬間、ウィザードはアックスカリバー・アックスモードをまるでブーメランのようにメモリー・ドーパント暴走態目掛けて投げつけた。
 一方、ビーストハイパーはミラージュマグナムのリングスロットに右中指の指輪を差し込んだ。
『ハイパー! マグナムストライク!』
 ミラージュマグナムを両手で構え、眼前のメモリー・ドーパント暴走態に狙いを定める。
 ビーストハイパーが引き金を引いた瞬間、銃口からビーストキマイラの幻影が放たれた。
 ウィザードの手を離れたアックスカリバーが、ウィザードの手の動きに合わせて宙を舞い、ダブルを狙う上空の触手を次々に切断していく。
「ギィエエエエエエ!!!」
 不気味な悲鳴を上げながら、暴れ狂うメモリー・ドーパント暴走態。
 そんな中、ミラージュマグナムから撃ち出されたビーストキマイラの幻影が、咆哮と共に飛び掛る。
 まるで獲物に喰らいつく獣のように、蠢く触手の数々をその鋭い牙で引きちぎり、噛み砕いて破壊する。
 夥しい数だったメモリー・ドーパント暴走態の触手が、見る見るうちに力を失い、消滅していく。
「翔太郎、チャンスだ!」
「ああ! マキシマム、決めるぜ!」
 ダブルの中の二人の気持ちは同じだった。
 敵に止めを刺す絶好のタイミング、今がその時だと。
 上空を飛翔するハードタービュラーに跨りながら、ダブルは敵に最も効果的な必殺技を発動させた。
 ベルトにドッキングしたエクストリームメモリを両手で一旦閉じた後、すぐにまた再展開させると、
『エクストリーム・マキシマムドライブ』
 と、電子音声が鳴り響き、同時にX字型に開いたエクストリームメモリの中心にある風車から凄まじい竜巻が発生した。
 竜巻は大きく渦を巻きながらダブルの背後へと回りこむ。
 ダブル・サイクロンジョーカーエクストリームはハードタービュラーを踏み台にしてさらに上空へ跳躍すると、両足を前に突き出した姿勢のまま竜巻に乗って急降下を始めた。
「「ダブルエクストリーム!! はぁあああああ!!」」
 翔太郎とフィリップ、二人の声が重なった瞬間、竜巻を身に纏ったダブルの両足から80トンもの破壊力を持つ必殺キックが放たれた。
 ダブルの渾身の一撃は真っ直ぐと標的に向かって伸びて行き、メモリー・ドーパント暴走態のウィークポイントである頭部の天辺、頭頂に見事炸裂。その衝撃は体内の肉塊に包まれたメモリーメモリにまで届いたのだった。
「グゥギャァアアアア!!!」
 刹那、悲鳴と共に崩壊するメモリー・ドーパント暴走態の不気味な巨体。
 まるで穴の開いた風船のように内側から破裂し、オレンジ色の炎を吹き上げながら爆発四散した。
 その光景をバックに、ダブルはスタッと華麗に着地を決める。
 直後に振り返ると、爆炎から吐き出された白服の青年の姿と、同時に彼の身体から排出された黄緑色のガイアメモリが確認できた。
 青年と黄緑色のガイアメモリはそのままアスファルトに投げ出される。
「あのメモリは……まさか」
 地面に転がる黄緑色のガイアメモリ、それを目にした途端、ダブルの中のフィリップが首を傾げた。
 そんな中、ウィザードとビーストハイパーがダブルの元に集まってきた。
「さすがだな、ダブル!」
「まったくだぜ! 今日からお前も俺のライバルとして認めてやるよ!」
 ウィザードはダブルの実力に素直に感心した様子でゆっくりと歩み寄るが、ビーストハイパーの方は何故だか両手を腰に当てて若干偉そうな態度を取っていた。
 嫌味なつもりではないのだが、それがビースト=仁藤攻介らしいところなのだ。
 クラゲ状の巨大な怪物の姿がいなくなったことで戦闘の終了を察したのか、安全な場所で戦いの行方を見守っていた大門凛子、野座間友子、ジェイクの三人が遅れてライダー達の元へとやってくる。
 戦いの途中で姿を消したメイジ=稲森真由の行方を気にしつつも、ようやく全員が一箇所に集まり一安心するメンバー達だったが、ダブルだけは真剣な様子で一点を見つめていた。
 やがて、アスファルトに倒れ伏していた白服の青年=ヤマトが正気を取り戻し目を覚ます。
 全身に伸し掛かる凄まじい疲労感と痛み、そして朦朧とする意識の中で指先を動かし、傍に転がる黄緑色のガイアメモリに手を伸ばした。
「うっ…ううっ…これだけは……このメモリだけは……守る……」
 なんとか手にしたガイアメモリを必死に握り締めながら、ヤマトは震える膝を押さえて立ち上がる。
 そんな彼に、問いかけたのはダブルだった。
「君がそんなにまでして守ろうとしているもの、そのガイアメモリはタイプ2……T2ガイアメモリだね?」
 ヤマトの眼前に佇むダブル、正確にはダブルの中のフィリップが指差したもの、それは紛れもなくT2仕様のメモリーメモリだった。
 T2ガイアメモリはフィリップの母、シュラウド=園咲文音が作成した設計図を基に財団Xが開発した次世代型ガイアメモリ。
 その特徴は、従来のガイアメモリを使用する際に必要だった生体コネクタを必要としないこと、相性の良い適合者と引き合う性質を持っていること、ダブルが使用するメモリと同型に設計されていること、そして、必殺技を介してのメモリの破壊——メモリブレイクができないこと。
 ダブル=フィリップはメモリー・ドーパント暴走態を撃破した後も粉砕されずにその場に残っていたメモリーメモリを目撃し、いち早くその事実に気づいたのだった。
「このメモリは……絶対に守る…。カナさんのために……。今……届けますからね……カナさん…」
 ダブルの問いに答えることもなく、うわ言のように呟きながら、ヤマトはフラついた足取りでその場を後にしようとする。
「おいっ! アイツとっ捕まえねぇと逃げちまうぞ!」
「いや、ここは奴を泳がせよう。僕に考えがある。野座間友子、君達の力を借りたい」
 この場を去ろうとするヤマトの姿に慌てるビーストハイパーだったが、それをすかさず制止したダブルは友子に声をかけた。

六十七. 検索、地球の本棚 ( No.74 )
日時: 2015/06/22 18:05
名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: HKLnqVHP)

 結局、ヤマトはその場を立ち去った。
 正確にはダブル=フィリップの提案であえて見逃したのだ。
 ヤマトが立ち去ろうとした時、ダブルは野座間友子に頼んで今一度フードロイド・ナゲジャロイカからツナゲット達を解き放ってもらった。
 サッカー場でメモリー・ドーパントを追跡してもらった時と同じように、今回もまた、ツナゲット達にヤマトの後をつけてもらい、敵の拠点を突き止めようという作戦を立てていた。
 ダブルの提案を、友子は二つ返事で引き受けると、言われたとおりにナゲジャロイカを起動させ、既に待機状態であった三体のツナゲットを出撃させた。
 友子の依頼を受けた三体のツナゲットは、満身創痍のヤマトの追跡を開始。敵の拠点が判明するまでの間、ウィザード達は作戦会議をすることにした。


 ショッピングセンターには警察や救急隊、騒ぎを聞き付けたマスコミや野次馬の人だかりで溢れかえっていた。
 晴人達はショッピングセンターの近くにある小さな公園に場所を変え、そこで話し合うことにした。
 騒ぎの影響か、幸いなことに公園の中に一般人の姿はなく、落ち着いて話せる環境になっていた。
 操真晴人と仁藤攻介、そして野座間友子がベンチに腰掛け、その隣で職業柄なのか大門凛子がペンとメモ帳を手に佇んでいる。
 傍にある青い滑り台の上にはジェイクが気だるそうに座り、うんていに凭れながら左 翔太郎は腕組をしている。
 クリップで髪を留めた小柄な少年フィリップは、彼らの視線の中央で足を止めると、普段から持ち歩いている分厚い白紙の本を片手に、両目をゆっくりと閉じながら口を開いた。
「さあ、検索を始めよう。知りたい項目は「敵の目的」。キーワードは……「財団X」「魔法」「T2ガイアメモリ」……」
 フィリップが見せた突然の行動に、翔太郎を除いたメンバー達は呆気に取られる。
 本を持ったまま両手を広げ、目を瞑りながら喋りだすというその異様な光景。事情を知らないメンバー達には、その行動の意味が皆目見当がつかなかった。
「いきなり何やってんだぁ? アイツ」
 誰もが不思議そうな表情をしている中で、思ったことをすぐに口に出しそうな性格をしている攻介が、案の定口を出す。
「フィリップの頭の中には地球の全てと言って良いほどの莫大な知識が詰まってるんだ。アイツは今、キーワードを元にその知識の中から答えを探している」
 と、そう皆に向かって相方の翔太郎は説明する。
 地球(ほし)の本棚。
 地球の記憶にアクセスする力を持つフィリップは、脳内空間にてその記憶に触れることができる。
 フィリップの脳内空間では地球の記憶は本の形となり、莫大な数の本がその棚の中に収められている。
 フィリップは検索ワードで本の数を絞ることができ、それにより目的の知識に辿りつく事ができるのだ。
「なんか……超高性能な検索エンジンみたいッスね」
「警察(うち)に来てくれたら色んな事件が一気に解決しそうだわ」
「地球の全ての知識ってことは……俺のマヨネーズ好きも簡単にバレちゃうってことか!?」
「誰も知りたいとは思わないけどな、お前のマヨ好きなんて…。っていうかバレバレだから! お前の食生活を見ていれば!」
 各々が思ったことを口にする。そんな中、
「本の数は減っているが、これだとまだ真実には近づけない。他にキーワードはないか? 事件に関することならなんでもいい」
 検索を続けるフィリップが両手を広げた姿勢のまま聞いてくる。
 脳内空間では、無数にあった本棚がある程度まで減っていき、本の数も指で数えられるほどまでに絞られていた。
 しかしまだ、真相に近づくにはキーワードが足りない。
 本の数を一冊に絞るほどの決定的なキーワードが。
 晴人や攻介、凛子は思考を働かせた。
 昨日と今日、今回の事件に関わったこの二日間に起こった全ての出来事を思い出そうと必死に考えた。
 途中参加の友子とジェイクも、この街に来てからまだ間もないが、自分達が目にしたものの中に何かヒントがないものかと、この数時間の間のことを振り返る。
 翔太郎は翔太郎で、長年の経験で得た探偵としての勘を信じて、依頼の際に木崎から聞かされた情報を頭の中で自分なりに整理していく。
 誰もが黙り込み、公園内に沈黙が広がる。
 暫くして、何かを思い出したかのように晴人が声を上げた。
「そうだ……。そういえば昨日、笛木の研究所で黒いゾディアーツと戦った時、灰色の鎧の戦士が乱入してきたんだ。確かそいつは自分のことを「サクセサー」って名乗っていた。俺の後継者になるとか言っていたけど、この件と関係があるのかな」
「その鎧の戦士が財団Xの者だとしたら、恐らく関係あるだろう。キーワードに追加、「サクセサー」」
 晴人が口にした「サクセサー」という言葉。
 その言葉を、フィリップは試しに検索ワードに加えてみることにした。その結果、
「絞れた!」
 脳内空間、地球の本棚に残った本は一冊。
 他の本は全て消え、残った一冊の本には「Kana Siori」と記されていた。


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