二次創作小説(紙ほか)
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- AsStory /予告用中編 『二人の精霊王』
- 日時: 2015/09/20 00:30
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 3qG9h5d1)
初めまして!
書き述べると申します。
この作品は以前、シリアスのカテゴリーだったのですが、第七話からはこのサイトに投稿されている他の方の作品の内容を混ぜ込ませていただくことになりましたので、このジャンルに引っ越してきました!
カキコ内二次(合作じゃないですよ)……結構珍しい様な気もします。
混ぜ込む作品は——
『Enjoy Club』(作:友桃様)
です!
そして
『ウェルリア王国物語』(作:明鈴様)
ぇ、二つもやって大丈夫なのかって?貴様のプロットどうなってるんだよって???
(黙殺。。。。。。)
1点注意していただきたい事が……。
冒頭でも触れておりますが、もともとシリアス・ダークの作品なので、そのカテゴリー特有の表現があるかも知れません。できるだけグロい表現は使わないつもりであはりますが……。
更新の間隔が2か月空いたりすることがよくありますが、寛大な御心で受け入れてくださいますと大変有り難いです!
【最新話直前の状況】
(現在修正中・・・・・)
【お客様(引っ越し前の方含みます)】
アメイジング・グレイス様
アサムス様
友桃様
通りすがりの者です。様
(朱雀*@).゜.様
【目次】
◆◆ 序章 ◆◆
1話 >>1
2話 >>2-3
3話 >>4-5
4話 >>6-11
◆◆ 第一章 ◆◆
5話 >>12-13
6話 >>14-19
7話 >>21-25
8(1)話 >>29-31
8(2)話 >>38 >>41 >>44 >>46 >>48 >>51 >>53 >>58 >>60-61 >>63-64 >>70-75
9話 >>81-82 >>87-88
9(2)話 >>90-91
9(3)話『時空間操作システム』 >>95-96
9(4)話『副長官、乱心』 >>98-100
9(5)話『時間を越えて』 >>105-107
9(6)話『地を駆る鳥』 >>110-114
10(1)話『ひかり、在れ』 >>118-119
10(2)話『幕開け』 >>129-132
10(3)話『交錯する時間』 >>142-153
10(4)話『混迷に魅入られし者たち』 >>160-166
10(5)話『絶体絶命』 >>172-175
10(6)話『PMC、対陸軍攻撃陣』 >>180-189
10(7)話『突入』 >>192-197
10(8)話『スナイピング』 >>200-204
10(9)話『ひかり、在れ』 >>209-210 >>213-214 >>227 >>229-230
◆◆ 第二章 ◆◆
11話『逃走』(更新中) >>232-239
〜〜小説紹介〜〜
『☆星の子☆』((朱雀*@).゜. 様) >>108
『Enjoy Club』(友桃様) >>109
書き始め 2010年冬頃
(もう3年経ってしまったんですねぇ)
〜〜予告用短編〜〜
『月光』 >>126-127
『二人の精霊王』 >>243-245 <<<<<<<<(現在作成中!)
〜〜クリスマス短編〜〜
『クリスマス・プレゼント』 >>217-225
〜〜キャラ絵〜〜
メクチ >>207
水希 >>208
水希(変装後) >>212
登場人物一覧
>>206 (リアルパート)
>>216 (ファンタジーパート)
〜追伸〜
ツイタやってる方。。。R18記事があってもOKって方は、ちょっとフォローしてやってくれませんか?? => @motto_e
あんまり呟かないですけどねぇ〜(ぇ?)
- AsStory /予告用中編 『二人の精霊王』 ( No.263 )
- 日時: 2016/01/11 13:05
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: BLMhacx0)
- プロフ: http://www.kakiko.info/upload_bbs2/index.php?mode=article&id=35&page=1
地面の揺れは収まったが、誰一人、立ち上がろうとする者はいない。逃げ場のない開けた空間で、三々五々としていたミダの雑兵の中で正気を保っている者たちが、両手を組み、一心に神の怒りが鎮まることを一心に祈っていた。
「一度目は慈悲である。尚も神意に抗う者は、我が雷で汝の魂と肉体を跡形もなく焼き尽くしてくれよう」
アロマ達から少し離れたところで、獣人の少年が魂の抜けた顔を天に向け、聞き取れないほどの小さな声で呟いていた。
「あれが……アーク…ドラゴン」
アロマの傍らで、隊長が天を仰いだまま首を左右に振っている。古の伝承には、眷属のドラゴンに跨り戦場の空を駆る竜騎士と呼ばれる者もいたとある。そのため、その上位のアークドラゴンはそれよりも遥かに体躯が巨大であろうと、彼は覚悟を決めていたつもりであった。だが、今この瞬間、彼に僅かに残された希望が風の前の塵の如く吹き散らされていた。
不意に、主戦場の外周で数名がが立ち上がる音がする。
「龍を 狩れ 龍を 殺せ 竜鱗を纏い——」
雷撃に気圧されていた歌に捕らわれた仲間達が、弱めていた声を、元よりも強く張り上げる。飛び抜けて大声を発しているアレスタに引っ張られるように、戦場全体に散った仲間たちが上を向き、狩りに臨む原住民の如く、勇壮に武器の柄で大地を強かに突き、胸の高さで振り回し、仲間の歌声と上空から降り注ぐ小動物達の声と共鳴した。まだ正気の残っているミダの兵士が、隣で縁起でもない歌詞を叫び続ける仲間の足に縋り付き、それを制止しようとしていたが、程なく彼らがしがみ付いていた仲間の体から己が身を離した。このまま生きていても、死の恐怖から逃れる術はない。正気を失えば多少なりとも最期の痛苦がやわらげられるだろう。そして次々に歌の嵐に心を投げ出し、件の一節を叫び、粗末な武器を頭の上で振り回し始めた。
喊声を交え、やがてぴたりと息の揃った歌は、ユニオナの兵士に神獣が悪ふざけ程度にかけていた竜の呪いを上から塗りつぶした。呪いによって心身共に疲労困憊の限界を優に超えているのユニオナの兵士達は、新たに彼らを襲う異状に抗する力を持ち合わせていなかった。歌声と戦場を二分していた野獣同然の唸り声が潮が引くように弱まり、彼らの祖国の軍歌が此処彼処で響き始める。戦場の景色が歌の熱気によって、その拍子に合わせて陽炎のように揺らめく。
アロマが、傭兵たちの方に声をあげようとすると、再び強い眩暈に襲われ、視界がホワイトアウトした。小動物達のノイズに呑まれた時よりも明らかに症状が重い。歌の力と恐慌で心臓が胸腔の中でのた打ち回る。白一面の空間で天地の感覚も失せたアロマが、凍てつく汗に塗れた両腕を下に突き出しているつもりで慎重に屈みこんだ。体躯の内奥から煮えくり返りながら突き上げてくる力を持て余し、全身が痙攣している。ついに二本の足で支えきれなくなり、左右の肘と膝を地に突き四つん這いになった。紺碧の髪が垂れ下がり、その先端が地面をなでている。アロマが肘を付いたまま両手を顔の前に組み、懸命に祈りの文句を唱えながら、歌精の力に抗おうとした。
アロマの左右の肩が不意に締め付けられると、本人の意志に反し体躯が持ち上げられ、暴発寸前だった恐怖がついに爆発した。目尻から涙が溢れ出し、祈りの声が大気と心を切り裂く悲鳴に変わる。
水の中で聞いているような、低くくぐもった声が白一色の世界で、小刻みにひっきりなしに響く。両肩を戒める力を振りほどこうと足掻く力と相まって、女の錯乱が一層激しくなる。間髪入れず、再びアロマの全身に衝撃が走る。そして今度は上半身全体を締め付けられ、体が浮かび上がる。つま先を地面にかすらせて、救いの祈りを言葉を叫んだ。
「アロマ!しっかりしろ!」音のぼやけが一瞬消え去った。声、人の声だ。隊長の声がすぐそばで聞こえている。脳裏に残る残響を確かめているかのように、焦点の合っていない双眸を声のした方に向けたまま、身じろぎをとめた。自分が地に足を着き上を向いて立ち上がっていることが認識できるようになると、ローブの生地を伝い己の肌を押さえつける銀の硬さと冷たさを感じた。我が身を締め付ける男の激しい呼吸の動き、昂揚する体温が僅かも漏れることなく彼女の肌に伝わってくる。アロマがやや落ち着きを取り戻したが、零れる涙は増すばかりだった。彼女を締め付ける腕もまた酷い痙攣に襲われていたが、二人はどうにか正気を保っていた。
既に精神を病んでいたりしなければ、不撓不屈の騎士の魂を以ってすれば、歌の力におかされずにすむのかもしれない。隊長がしきりに体全体で呼吸をするアロマを静かにその場に座らせ、この場にじっとしているよう言いつけると、天を仰ぐ。
白光の空間の上空に巨大なシルエットとなり浮かび上がる竜の頭部は、歌精の魂に肉体と精神の自由を奪われ、蜷局をまき喉が裂けるまで啼き叫ぶ無数の鳥達に囲まれた中で真下を向いている。ものがあまりに巨大で正確にどこに向いているのかわからないが、恐らく大声を上げて神の使いに武器を振り上げる此の開闊地の兵士達のほうを向いているのだろう。
古代の伝説が正確であれば、竜の眼——竜眼はどんなに遠くからでも地を這う蟻の一匹一匹までも区別することができるという。魔の属の精霊王であると同時に、星の守である龍族は、下界で過ちを犯した生命に制裁を加えるとき、正確無比な魔導の制御によって、その影響範囲を必要最小限に抑えるという。先の無数の光の矢が一発も兵士達に当たらなかったのは、それを知らしめるためだったのだろうか。そして、再び矢を放つ時は、我々人間達が一人でも生き残る幸運がおとずれる可能性は皆無である、と。
アロマの容態が落ち着いてきたのを見届けると、隊長がミダの雑兵たちの集団と二人の間でうずくまる獣人の少年のもとへ走り出した。
羽ばたくことなくその巨躯を天空に留めている神の遣いが、突如駆け出した人間に気付かないはずが無かったが、彼はそれをあっさりと看過した。目下天空の神獣にとって眼障り、気障りなのは、身の程を弁えずに挑むような眼差しをこちらに向け、虫螻以下の知性で吼えまくる卑賤の民共だった。
儂の警告の意味を頭で理解できないようだ。
ならば——。
——己が身に理解させるしかないだろう。
ドラゴンが肩慣らしに翼を一度羽ばたかせると、轟音を上げて白の波紋が雲の海を大陸の彼方に追いやっていく。頸を軽く左右に振ると、壁のごとく迫る龍の顔から逃げ遅れた数百数千の鳥達が、躯を甚く歪めて墜落していく。龍が姿を現してからは、黒光りする無数の鱗が全面に広がっていた夜空が、いつの間にか再び黄色に染まり始めている。龍の体躯が不吉な黄色いオーラに覆われている。
一発目を放った時は、己が姿を雲の裏に隠していたが、今度は光の矢の集中砲火のための魔導の凝集から発射、命中まで一部始終をその腐乱した瞳に刻み込ませてやるのだ。
龍が鼻孔を開き、大きく空気を吸い込むと凪いでいた開闊地の空気が俄かに渦を巻き、舞い上がった夥しい量の葉と木片で光を遮られ、開豁地に暫し深い闇が立ち込める。一人駆け出していた人間は仲間らしき人影を抱きかかえ龍の方を見上げていたが、多くの人間共は自分達の周囲で起きている異状に気付かず、武器を振るい、濁声で吼え続けている。一笑に付すにも値しない下賤の民。
——なぜ、我が先達はあのような者達を相手に同胞を失ったのだ。
竜眼の虹彩が急速に収縮し、遥か下の哀れな命たちを捕捉する。そして龍が眉間の前方に白光の球体を作り始めるや否や、何かが右目の脇を掠める。迂闊にも詳細を見逃してしまったが、鳥の成せる速度ではないことは確かだった。程なく謎の物体の正体はすぐに判明する。2個目が下顎と頸の境目辺りに飛んできたのである。そして、それは此の星で最も強固とされる竜鱗を破り、竜の頸に突き刺さった。
竜の動きと、巨躯の周囲で揺らいでいたオーラが暫し完全停止する。空だけ時間が止まったようだった。
槍だ。神獣の脳裏を細長いシルエットが掠める。インパクトの瞬間、柄が槍頭から捥(も)げて落地に落下していったが、鋳鉄の先端が原型を留めぬほどにひしゃげながらも、頸の肉に喰いこんでいる。
人間が投げた槍が、本来なら届くはずのない龍の居座る高高度の上空に到達し、彼を覆う最強の鎧を貫通したのである。
巨大な龍の体躯からすれば、それは棘よりも細い。
意識しなければ、首に刺さったことさえ気付かない、取るに足りないものだ。だが、何故だかわからないが愚の民が扱える程度の素材でできた武器が神聖なる鎧を破ったという事実は、文字通り龍の逆鱗に触れた。
龍が左右の眼を血走らせ、下界を睨みつける。その間に、第三波がドラゴンの右の頬を襲う。今度はユニオナの聖騎士達がロングボウから放った数十発の矢だった。槍よりも細く小さい銀の微細な「棘」がまたしても史上最強の装甲を破ると、龍の理解を超える衝撃が顔面全体に伝播し、驚愕と苦痛で龍が天に向かい盛大に咆哮をあげた。次の瞬間、衝撃波を上空に撒き散らしながら龍が向き直り開闊地の人間達を睥睨した。ガタイのいい、ぼろきれを纏った人間の女が竜眼の視界の中で一際目立っている。
——許さんぞ。下賤なる命共め。
竜の見下ろす開豁地で、歌に呑まれたミダの雑兵、ユニオナの兵士、魔導士達は否応なしに気炎を吐いた。調子のいい吟遊詩人の声の上の情景ではない。正真正銘、己の目の前で人間が神の遣いと対峙している。
国籍を問わず、兵士や雑兵達が口々に竜を罵倒する言葉を叫び、雷雨のように歌に荒れ狂っている。仲間達の行動に、アロマが不穏な空気を察知する。我を忘れているように見えるが、はっきりと竜を敵と認識している。歌に呑まれた人間同士で共闘している。これは偶然なのか。それとも彼らの意志の強さで、歌に呑まれていても敵を見失わずにいられるのか。歌の力を人間がある程度コントロールできているということなのか。どの推測も彼女をすっかり得心させるには至らなかった。彼女の全くの勘でしかないが、まだ隠れている闇がある気がした。氷山のように、目の前に現れている事象より遙かに深い闇。ユニオナは歌精が竜を牽制する立場にあると踏み、今のところは彼らの筋書き通り歌精は行動し、瞠目せざるを得ない成果を上げている。両国の集団から取り残され、開豁地のほぼ中央に居る隊長と獣人の少年は、左右の瞼を真円に見開いたまま息をするのも忘れ、天空を仰ぎ立ち尽くしている。
他の属の魔導のように、歌もまた人間が対等な立場で精霊の協力を得、歌の精霊の魔導を使いこなせているというのか?
——否。
ローブの女の瞼の裏に再び、一千年前に起きた全生命を巻き込んだ悲惨な戦場が浮かび上がる。
為す術無く空を見上げているばかりの指揮官らを尻目に、歌に呪われたスカユフが第4波攻撃準備の号令に声を張り上げる。ミダの部隊が一段と強さを増した喊声で空気を揺るがし、手製の槍や投げ斧を手にした者達が思い思いに鬨の声をあげる。
ユニオナ軍がライバルに後れを取るまいと祖国の国家を怒鳴るように歌い、全ての聖騎士がロングボウの弦を、弓の強度の限界まで引く。二つの陣営の声が絶頂に達すると、ミダの陣では、女傭兵隊長が号令をかけるべく上空の龍を睨み付けた。
大地が揺れる。大気が震える。歌精の能力ののった鳥達の声と共鳴する人間の声が、己が精神の奥深くまで浸食していく。
そして標的の様子に刹那両眼を眇め、刹那呼吸を止め、そして号令を叫んだ。女傭兵隊長の左右の瞳は確かに小さな煌めきを捉えていた。標的の顔面の中央付近に煌めく、微少な輝点を。だから号令を発するのが一時遅れた。ミダの全ての傭兵達もそれに気付いていた。だが、彼らはそれが攻撃を停止させるほどの重大な事態だと判断できる状態になかった。彼らには、単に竜の両目の間に浮かぶ光の玉から無数の何かが飛び出し、舞い落ちてくる程度にしか考えられなかった。ユニオナ軍もまた然り。彼らが飛び道具を発射した瞬間、わずかに機先を制した龍の無数の光の粒子が星の外殻を貫く白き光の柱となり、人間共の集団を一人残らず呑みこんでいった。
(保留)
〜2016/01/11〜
今次のシーン書いてる最中です。。。
で、リアルパートのキャライメージをイラスト板にアップしたので、ここにリンク張っておきます。。。
キャラは黒漆 黒衣、以前アップしたものよりもポートレート並みのアップにしてます。。。
〜2016/01/02〜
修正完了
次回更新は久々の新シーン突入ですっ!
〜2015/09/12〜
ちょっと加筆多めの修正です。。。。。
二つ前のページで、ミダの雑兵とアロマが再開するシーンの会話と、一つ前のページは、隊長とアロマの会話を大幅に加筆しました。あとは、ラストで歌を歌ってるのがスカユフ一人から、歌に呑まれたアレスタとその仲間達から始まり、ほぼ全員が巻き込まれる状況に直しました。。。
あと、隊長の指示内容もちょっと修正。。。
用兵術が絡むシーンはホント苦手だぁ。。。あとガールズトークも。。。リアルパートは光曳とECのシーンは厨二的に演出してどうにかしのぐけど、直近の宮火たちの会話どうすりゃいいんだ。。。ダレカオシエテ。。。(泣)
新しいシーンには入れてないです。。。(スミマセン)
そいえば、アロマの名前が"A"から始まることに昨日気付きました。。。なので、隊長の名前は"S"から始まるモノにします。。。
最後に、ミダの雑兵たちが歌うシーンの元ネタは、ラグビーのオール・ブラックスのHAKAっていう、試合前のパフォーマンスです(参照)
マジかっこいい!!
- Re: AsStory /予告用中編 『二人の精霊王』 ( No.264 )
- 日時: 2016/02/21 23:03
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: p/lGLuZQ)
「スカユフ!アレ!」
アロマの 両軍の間に取り残された3名の目の前で、神罰の光柱が地面を激しく軋ませながら地中へとめり込んでいく。上空からは、輝点の発射に巻き込まれた夥しい数の小鳥達が、真っ黒に焼け焦げた体躯を竜の鼻先に晒し、錐揉み状に回転しながら大地に墜ちていく。アロマの足下に墜ちたそれは、ただの黒い煤の固まりにしか見えなかった。
ミダとユニオナの集団の人数と同数の光の柱が礫を巻き上げながら地面を人一人分程度まで穿つと、漸く光の勢いが弱まる兆しを見せる。その間にも、開豁地に残された3名の足下を、黒い炭の固まりが乾いた音を立てて地面を闇色に染めていく。
竜が遥か上空で咆哮をあげた。先の一撃を免れた、己が頭部をぐるりと取り囲む人間よりも更に小さな命たちに、歌精の亡霊に憑りつかれた哀れな命達に、一切の幸運、例外などない最後通告として。
無論、竜の頭の周囲の小動物たちはそれを理解できるはずもなく、ひたすらに精神に直接響く、歌精の声を鳴り響かせ続けている。
地上では、光の柱が愚かな種族の体躯をまだ焼き尽くしたりないかのように、じっくりと時間をかけて減衰していた。生き残りの3名のうち、獣人の少年は衝撃のあまり気絶てしまっていたが、アロマと隊長は、惨劇の起きた瞬間の恐慌から既に脱しており、光の柱の消え去った跡には、ミダ、ユニオナの戦士たちが変わり果てた姿で、否、遺体の灰が一粒でも残っていれば幸いともいうべき状況で還ってくることも覚悟していた。そして次に彼ら自身があの光の柱の餌食になることも。
だが彼らの肉体は主の意に反し、尚もその内奥から力を湧きあがらせてくる。殊にアロマの魔導力の増幅が顕著で、彼女の前方で座り込んでいた隊長は気付く術もなかったが、彼女が右手に携える銀の細剣の刀身からは、平静の状態でも抑えきれなくなった彼女の魔導力が、魔獣のブレスのごとく噴出し、彼女の傍の地面を細く深く抉っていた。
——今更、どうしろと。
ローブの女が怪訝の面持ちで天空を仰ぐ。全員を生還させるどことか、眼前で自軍敵軍のほぼ全てを一瞬にして失った彼女は、未だに溢れくる自身の力に、もどかしさを通り越し、絶望に陥っていた。3人の人間獣人風情が、なまじ大きな力を持ったところで、神の右腕相手に何ができる。この場に残された人間、獣人はたったの3名。この中に更に強大な、神の遣いに対抗できるほどの歌精の力の憑代となり得る人物がいるとは、とても思えない。
竜に対抗する力の拠り所となる歌精が甚大な被害を受け、その力の媒体となる人間に至っては全滅の危機に瀕しているこの情況において、精霊戦争が直ちに勃発するシナリオを辿る可能性は消えたも同然だが、結局もう一つの最悪のシナリオに向かうことになってしまっている。どちらも破滅しか見えないが、いざ一方の途を進み始めると、手放したもう一方の途の方が、微かに希望があるように思えてきてしまう。
アロマの気持ち逆撫でするように、小動物たちの声が更に強く鳴り響く。不意にアロマが、己の精神をかき乱していた自身の声によるノイズを抑え込み、うねるような彼らの鳴き声に耳を欹てた。一瞬聞き逃してしまいそうになったが、、不規則に絡まる無数の声の中に、一定の秩序をもった旋律が所々で見え隠れしているのに気付いた。いつからその音があの声の塊の中に混じっていたのかどうかは定かではないが、その声の聞こえる頻度が着々と上がっている。そして、件の旋律が聞こえる度に彼らの鳴き声が倍加する。多くの仲間を一瞬にして失ったにも関わらず。
鳴き声の音圧が上がると言うことは、彼女や隊長、ミダ、ユニオナ全軍の兵士・騎士たちの力も増大していることを意味している。
「どういう、ことだ」
彼女の脳裏を過った言葉を一言一句違うことなく一足早く、隊長が声にする。アロマは隊長よりも先に、竜の頭部に覆われた空を仰いでいたが、その大きな異変を完全に見逃してしまっていた。
——増えている?
今まで竜の頭部が、ぐるりを囲む小動物たちの隙間から見えており、件の輝点が発射された直後には、小動物たちの壁に大穴が開き、その姿をはっきりと認識できていたはずが今、アロマの目には針孔ほどの隙間も無く覆われているように見える。
未だに仲間を灼き尽くしている光も、未だに上空から降り注ぐ無数の小鳥たちの遺骸の灰の塊も目に入らず、アロマの視線は、俄に堅牢化した小動物の壁に一心に注がれていた。心の中で同じ疑問詞を何度も唱えながら、一つの生命体のように蠢く小動物の壁に見とれていると、ふいに、壁を構成する小動物達が外側に押し出されて大きく膨らみ、やがてすぐに戻った。
石のように硬いつばが喉を下りていく時間が、数倍にも長く感じられる。あの輝点が再び射出されようとしているのか。アロマが我に返り、右手の細剣を握りしめ直すが、全く意味のないことに気付き、思い出したように光の柱を見遣る。人の躯が残っていれば、もうすぐ影が見えてきてもおかしくはない大きさまで光の勢いは減衰していたが、それは望めぬ話。
再びアロマが上空を仰ぐと、また壁が大きく膨らむのが見えた。本来なら槍も弓も届かぬ遥か上空。それでもはっきりのその形状がわかるほどに大きな「物」は、今度は周囲の小動物たちを脇に追いやり、人間の目でも色味のある表面の状態まで朧げに確認することができた。
竜の攻撃ではない。本能的にそう感じたアロマの頭上で、それは壁の内側に戻ることなく、形状を徐々に変え始めた。
「羽根?」
アロマがふと呟くと、隊長の声が割り込み、アロマが先の現象を確かめる間もなく声の方向に注意を向けた。
「おい、大丈夫か」
隊長の胸の中で少年の丸い耳が小刻みに動く。細身の肩を抱き上げて顔を確認すると、夢現の状態でうっすらと瞼を開けている。もう急いで叩き起こすような情況でもない。少年が自然と目を醒ますに任せようと、左腕で抱きかかえ、右腕でランスを持ち直すと、空気を漂うような少年の声が隊長の左耳に流れ込む。
「聞こえます…。楽器の、音…」
——何?
隊長が反射的に小動物たちの壁を見上げると、そこにあったはずの小動物がいない。だが、壁が消えたわけではない。竜の頭部は未だに見えない。それどころか竜の頭部を覆う壁は、更に大きさを増し、竜の首まで覆い始めていた。それは、無数の別の何かで覆われていた。遠巻きに見ても明らかに小鳥よりも、大型の猛禽よりも大きく瞬く無数の点。そしてその外側を幻影のようにたゆたう3つの巨大な羽根。
アロマもそれを一瞬たりとも無逃すことはなかった。天空に浮かぶ壁を構成する壁の表面が、どことなく様子が変わり、徐々に色づいてゆき、件の三つの膨らみが壁から完全に離脱し、一つの物体として空に漂い始めるまでを。
「1体と聞いていたけど、あれが歌司?」
すぐに、二つの疑問が彼女の脳裏を占める。一瞬前まで龍の頭部の周囲を埋め尽くしていた鳥達はどこにいった。ほんの数秒も経っていない。物音一つ聞こえていない。そして、小動物達と入れ替わりで現れた、これもまた夥しい数の色とりどりの点。目標からかなり距離が離れているので、形状は全く分からないが、歌司と思しき巨大な羽根よりもずっと小さく、鳥よりも遙かに大きいのは確かだ。
歌司とほぼ同時に現れ、聞こえてくる鳴き声も音色が一変している。あの点の一つ一つが歌精なのかとも思ったが、いまいち釈然とできない。アロマが見たことのある歌精は、彼女の小隊に所属している1体だけであったが、それは羽根こそ付いていれど、まるで灰色の枯れ枝が絡み合ったような、翼と言うにはあまりにみすぼらしく矮小な代物である。
「でも、声に大きな力を感じる。鳥の鳴き声の時よりもずっと大きな力・・・。あの群れは一体?」
その瞬間、アロマの視界が漆黒に覆われた。隊長も同じく、呻き声をあげて視界を失っていた。そして、無数の花弁が闇の中で舞い散り、やがて周囲を極彩色の花冠で包まれ、穏やかにほほ笑む歌精の顔が浮かび上がってくる。
意識の中の歌精が徐に口を開くと、楽器のような音が響いてくる。目の前に見える顔は一つしかないのに、何故か幾つもの音が絡まりあい、心に染み入るような旋律を奏でている。無邪気で、純粋で、目に映るものすべてが幸福の種であった子供の頃を思い出させる、子供を優しく包む母親の温もりを髣髴とさせるゆるやかな旋律。なぜ自分は剣を手にしているのか。何故、私は騎士の道を進んできたのか。孤児で生まれ育ち、力だけが自分を守ってくれると信じて突き進んできた騎士の道、己が人生。突然、それら全てを否定されたようだった。
力など無くても生きて行ける世界。わざわざ剣を振るわずとも、眼前の歌司の微笑みのすぐ向こうには、無限に広がるそれがあるのではないか?この不思議な空間に身をゆだねていれば、そこに辿りつけるのではないか。もっと近づきたい。もっと、聴いていたい。1秒でも長く。幸福と安寧のみで満たされた世界に——。
思いが彼女の意識に満たされそうとする一歩手前で、幻影が甲高い和音とともに弾け飛んだ。
白一面の世界から、アロマの視界が徐々に眩惑から回復し、現実の世界を映し出してくる。それに合わせて意識の中のあの旋律は、徐々に弱まっていく。代わりに彼女の精神を埋め尽くしにかかったのはそれまでの小動物たちの鳴き声ではなく、膨大な数の歌精の声と思しき、心そよぐような旋律だった。
そして、完全に視界の風景がもとの世界を取り戻すと、目を疑うような光景が彼女の瞳に飛び込んできた。
今しがたまであったはずのものがいろいろと消えている。
空から降っていた小動物の遺骸の灰。
足元にもその灰が積もっていたはず。
光の柱に巻き上げられた無数の礫。
大地が抉られる轟音。何より——
あの光の柱が無い。
アロマが固唾をのみ、瞠目する。
彼女の感覚では大して時間は経っていない。自然に消えたのではない。短時間に、外からの意志によって消されたのだ。
そして、失ったはずのものが今、目の前に「居る」。龍の光を耐え抜き、ミダの仲間達が、ユニオナの大軍勢が全て、以前よりも更に狂ったように声をあげている。
「みんな!」
〜2016/02/21〜
後半部分をちょっと修正。
〜2016/01/11〜
ようやくシーン進められました。
ついに歌司が?!
って、こういってる時点で答え言っちゃってますね。。。。(シマッタ)
誤字脱字、その他修正が後日入るのはお約束です。。。。(開き直るな)
じゃ!
- AsStory /予告用中編 『二人の精霊王』 ( No.265 )
- 日時: 2016/04/06 18:19
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: NSxNy3Qq)
仲間の生存を喜ぼうとするアロマの気持ちを驚愕が圧倒する。そこに更に拍車をかけたのが、騎士団の細剣から噴出する魔導と全身に漲る、桁違いの力であった。
アロマが細剣の柄を握り直すと、それを見計らったように歌精達の声が消え、数拍の休符を挟み、再び微笑みを見せた——恐らく歌司であろう——歌精の声が彼女の心に響き始める。今度は顔を現さない。旋律も一転して、戦場に臨む武人達の野性を奮い立たせる勇壮で激しいものである。それまでの、人の心に寄り添うような旋律に不覚にも心を許してしまっていた彼女の心の隙を瞬く間に広げ、楽器のような声が彼女の精神に肉体に、津波の如く押し寄せる。
「ドラゴンを、墜とす」
歌精の旋律に完全に心を掌握されたアロマが小さく呟くと、細剣に意識を集中させ、焔のように刀身から噴出していた白光が収束させてい。上空の龍も下界の異変に気付いてはいたが、無数の歌精と壁にあらゆる攻撃はおろか、咆哮することすら封じられ、手も足も出せずに足掻いていた。そして地上では細剣の刀身と白光が一体化し、長大な一振りの刃と化すと、龍の首の付け根まですっぽりと覆っていた歌精の壁が、巨大な3体の羽を残し、見る間に霧散していく。
漸く自由を得た龍が激情に任せ、特大の光球を充填している間に、蟻の足音さえも聞き分ける龍の耳が、地上で発せられた人間の女の声を克明に捉える。直後、竜眼が漆黒のローブを白く浮かび上がる開豁地のほぼ中央に見出した時、彼女の姿は既に剣を一閃し終えているものだった。龍が光球を直下に放った時には時既に遅し。
すぐ下で光球が真っ二つに裂かれ、大陸の夜空を白一色に染め上げながら滅していく中、空の横幅いっぱいに延びる白き刃が無数の光芒を呑み込みながら、龍の体躯の下端直下まで上昇していた。
二〇十二年四月四日夜 ウェルリア城——
東の最果ての小さな強国は、いつもと変わらぬ夜を迎えていた。王城の警備が夜番の衛兵に引き継がれる時間になっても、城下町は不夜城と言わんばかりの賑わいと喧噪に包まれている。王城も、衛兵以外全員が寝静まっているわけではない。一部の高位の貴族の中には深更まで政に精を出しており、殊に、国家の繁栄と安寧の維持という重責を双肩に背負う老年の男は、ここ2、3ヶ月、眠っている姿を見たことが無いと噂されるような日々を過ごしていた。まるで自分の最期が近いのを悟り、命の灯し火に最期の一華を咲かせようとするように——。
男は今日も王城の西に面するバルコニーに設置されたベンチに腰掛け、空の彼方を眺めている。否、一心に見入っている。王城には東西南北にバルコニーがあるが、殆どの者は城下町と大洋が一緒に見下ろせる東のバルコニーか、四季折々の花が所狭しと飾られている南のバルコニーを訪れる。北と西のバルコニーからは、城下町とその向こうには、広大な水堀代わりの湖、小規模な西側王都市街地、さらに向こうには田園地帯、未開の丘陵地帯が隣国まで続く。東と西に比べれば明らかに殺風景な景色であり、バルコニーそのものの最低限の装飾しか為されていない。昔は、どのバルコニーも一様に華やかに彩られていたのだが、利用者の数が大幅に偏ってくると、自然と装飾にも差が生じ、少しずつその格差はすこしずつ広がっていったのである。そんな殺風景な場所を訪れる者は決まって一人の時間が欲しい者達であった。
西の庭園に居る男——王国騎士団総司令ヨハン・ファウシュティヒもまた然り。二月ほど前に単身で、兵装も身分も完全に伏せたうえで西方に放った大切な部下の身を案じ、あれから一日も欠くことなく此処に来ては彼'(か)の地に思いを馳せているのである。
城郭をぐるりと囲む城下の賑わいと町灯りが、薄暗い広場に沈黙を守る男の寂寥を一層克明に浮き彫りにしている。
屋上と階下をつなぐ階段のほうから、巡回兵らしき二、三名の足音が響いてきたが、階段を上がることなく遠ざかっていった。一人を除いて。
急ぐでもなく、先客を窺う風でもなく、西の庭園への階段を——孤独に浸かろうとする人間が訪れる空間への階段を——、躊躇うことなく淡々と上がってくる。
「ヨハン様、少しは御身をお労り下さいませ」
ヨハンがベンチに腰かけたまま振り返ると、城内を若き王子と王女と共に賑わせている若いメイドがウールのガウンを左腕に提げ、バルコニーの入り口に佇んでいる。
「城中の者たちは皆心配しております。今日は特に冷えます故、どうかお戻りくださいませ」
「…そうだな」
日中とは打って変わってしとやかに振る舞うメイドの気遣いも虚しく、老獪の男はおざなりに返事をしたまま、ベンチから立つ気配が無い。春といっても、真夜中ともなると、時折身を切るような風がひだが深く折り重なる頸筋をさらっていく。
「ヨハン様」
「ああ、……ん、あれは?」
メイドの催促に応じようとしたとき、ヨハンの両眼には西の彼方の空がかすかに赤らんだように見えた。いや、見間違いではない。今は完全に日が落ちている時分。空がわずかにでも明るくなること自体異常なのだ。
ベンチから立ち上がった軍師の予感は確信に変わる。濃紺の星空に三々五々と漂っている薄暗い綿雲が、西の水平線の方から立て続けに霧消していったのである。 それまでの寒風とは明らかに強さも温度も異なる、西方より来る大気のうねりが、バルコニーの二人が1、2歩後ずさりしてしまうほどの衝撃を与えて後方に抜けていった。
眼下の市街から、市場のテントや器物の類が、荒ぶる音をたててとぐろを巻くように舞い上がっていく。すぐ後を追うように沸き上がってき、市民の悲鳴が、夜の賑わいを一変させる。
「ヨハン様!」「狼狽えるな。城内に戻り、騎士団長と内務大臣を呼ぶのだ」
「は、はい!」ウィンクが彼方の空に気を取られ、足下が覚束ぬまま応える。
「正気を保て。大臣達を呼んだ後は、王子等と地下に避難しろ」
ウィンクが姿勢を正し、頷きかけたところで、ふとヨハンに視線を向ける。「ヨハン様は・・・」
「ここからは騎士団の領分。お前は二人に声を掛け次第、一刻も早く王子達を安全な場所に導くのだ」
ウィンクが無言の首肯で応え、速やかにその場から立ち去る。ヨハンは彼女の姿が階下に完全に消えるのを確認すると、庭園の前方の縁まで出て真下を見下ろした。大気は平静を取り戻しつつあるが、眼下の恐慌は収まるどころか、騒ぎを鎮めようとする人々と衝突し、被害が広がる一方である。
海路に恵まれたこの地域は、王国成立以前より永きに亘り、西方の大陸諸国からの侵略を受けてきた。王国が国力を付け、諸国との和平が確立できたのはわずか200年前。たった一度の不自然な突風だけで、市中に不安が連鎖反応的に伝播しているのは、先人から受け継いだウェルリアの民族のゆえに他ならない。もし、先の正体不明の衝撃波が再び襲来すれば、混乱を極める群衆の心がどこに向かうか分からない。事と次第によっては、国家安寧の一翼を担っているはずの騎士団が国民に刃を向けざるを得ない事態にもなりうる。
ヨハンが、騎士団の派遣が必要な場所に目星をつけていると、ふいに顔を持ち上げて西の空の彼方を見やった。ヨハンの五感が、暫し西のかなたに向けられる。市中の喧噪が徐々にぼやけていく。
先ほどの巨大な突風が幻であったかのように、地平線の空には雲の残骸が絵画の如く宙に止まっている。
——あの風は一体。
歴戦の老将も、さすがに風の正体に気付くことはできなかった。伝説の生命体を、伝説の中でしか聞いたことがない。情報のないうちは警戒こそすれ、直面する脅威の一因にあげるほど、この男の意識の中で位置を占めていないのである。しかし、同じ方角に旅立っていった部下の身を思うと、齢を重ねた今も胸が裂けるような衝動に駆られていた。後継を任せようと思っていた部下を、これ以上失いたくはない。
雑音を拒絶していたヨハンの耳に、階下から忙しく床を叩く靴の音が入り込んできた。数は二人。ヨハンが呼んだ者に違いない。
「アロマ、死ぬでないぞ」
宙に小さく声を放つと、元いた場所に踵を返した。
二〇十二年四月四日夜 森の開豁地——
空は元の雨雲に覆われた腹を下界にさらしていた。天と地を隔てていた生命体の姿は、一片のかけらも残すことなく消え去っていた。だが、地に這い蹲る人間達は未だ、眼球が焼け焦げるかのような閃光の眩惑で、漆黒の世界を眺めていた。心に直接響く歌も、歌司と思しき歌精の声は聞こえなくなったが、他の歌精達の歌は依然として鳴り続けている。
「やったのかい?アーク・ドラゴンを」
歌のボリュウムが下がると、いち早く人の心を取り戻した女傭兵隊長が、腕をでたらめに振り回して手に当たった棒状の物体を杖にし、どうにかして片膝の体勢にたどり着く。
返事が返ってこない。
「みんな死んじまったのかい!」
〜2016/04/06〜
修正アップでも文字数制限かかるようになったので、既存分を分割しました。
- AsStory /予告用中編 『二人の精霊王』 ( No.266 )
- 日時: 2016/04/06 18:23
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: NSxNy3Qq)
漸く足下の方から呻き声がちらほらと聞こえてくる。やや離れた場所で彼女の相方の馬鹿でかい声が、矢庭に唸りをあげた。それを精神力の糧にして、周辺の連中が一段大きな声を上げる。開豁地全体に散らばっていたユニオナの聖騎士達も、想像を絶する閃光で暴れ出した馬から投げ出されたり、そのまま下敷きになったりと、満身創痍の体から声を絞り出している。本来なら閃光で眼窩の奥が焼け焦げ、巨躯の軍馬によって甲冑諸共潰されているはずなのだが、みな、歌精の歌声の加護によって辛うじて一命を取り留めていた。
だだっ広い大地の中で、ただ一人膝を突き巨躯を屹立させる女傭兵隊長は、双眸を分厚い瞼で塞いだまま、戦人共の、犬畜生のような呻き声にじっと耳を傾けていた。
まだ聞いていない。
呻き声、それを上から塗りつぶすかのように降り注ぐ歌精達の歌声。遮る術を失った荒野を吹き抜ける突風。龍が穿った深き穴に砂礫、虫螻がこぼれ落ちていく微かな音。あらゆる物音を捕捉せんと耳を欹てた。
「アロマ!どこにいる!」
ようやく、スカユフが望む声のうち、男の声と思しきものが、閃光の後遺症で揺らぎながら最後にその声の主を見た辺りから響いてくる。さらに、名前を呼んでいるのか雄叫びなのか判別不能な、少年の甲高い声が後に続く。
——あとは、あの娘。
だが、応える声はない。
代わりに生暖かい突風が、地に這い蹲る命共を嘲ろうと立て続けに2回、、天から叩きつけるように吹き下ろしてくる。
胸糞悪い感触に、スカユフがうなり声をあげて双眸を天に向ける。雲間から下界の人間共を串刺しにするかの如く降り注ぐ光芒に、目の奥で痛みを感じたが、直にその光も消え、彼女の瞳が天空の「異状」を捉えられるようになった。
何の報せだ。
神の右腕が現れた時に霧散していた暗灰の雨雲が時間を早回しで巻き戻すように、元の形状に戻ろうとしている。激しく渦巻く雲の塊同士がぶつかり、天空から更に神域に迫らんと彼方まで稲妻が立ち昇る。岩肌のような女戦士の頬を一粒の水滴が濡らしたかと思った瞬間、大粒の雨が一部の隙間もないほどに降り始めた。立て続けに広範にわたり冷気がゆっくりと舞い降りてくる。
異様に冷たい空気。戦士達の頭と頬を舐め、そのまま粘っこい油が垂れていくように、彼らの冷感と恐怖心をじっくりと刺激しながらつま先まで下りていく。呻き声がやみ、ミダとユニオナの戦士達が一様に雨粒が落ちてくる出所を仰いでいる。
大粒の雨と極端に強い冷気が重なれば、予測できる未来はひとつ・・・。
「おまいら、伏せるんだべ!」
ミダ兵の塊から声が発せられると、全員が頭を抱え、背中を丸めて泥沼化した地に伏した。すぐにビチャビチャという音が、固い物が柔らかい物に突っ込む鈍い音に変わる。
雨粒に代わり、暗黒の宙を埋め尽くす、特大の雹。
ほぼ全ての人間と騎馬が全身甲冑に身を包んでいるユニオナ軍は、甲冑のない軍属も騎士達にかくまわれ、人間は全員難を逃れることができた。が、間に合わせの装備しかないミダ隊は、惨烈な光景が広がっていた。どんなに小さく身を丸めても、氷の弾丸は天から降り、地を跳ねては人間達の肉と肌を穿ち、削り、褐色の肌を暗青と真紅で染めあげていく。
スカユフも片膝をついたまま、上半身全体に氷の集中砲火を喰らっていた。が、閃光による眩惑もおさまると、心に直接響く精霊の歌声の作用の個体差なのか、二、三の擦過傷は負わされたものの、闘志も体力も微塵も削がれることなく、彼女の双眸は戦場の情勢を克明に捉えていた。
神獣を斃した報いなのか。それならまだ希望が持てる。だが——。
スカユフが雹の襲撃に抗い、漆黒の空を睨みつけると、右手で己が左胸に爪を立てる。
なぜ強くなる。この胸騒ぎ。上空に神の右腕の姿が見えなくなったにもかかわらず、手練れの女傭兵隊長が見据える先は、未だ一筋の光明も見えない。
終わっていない。
歌精の声であれほど異常に強くなった戦士達が、いとも簡単に深手を負わされるのだ。この雹が自然のものではない。
天罰。
スカユフの意識の中で、二つの文字が重くのしかかる。
神の右腕が作り出した怪異はまだ消えていない。まだ、「何も終わっちゃいない」
男よりも低い呻き声と共に、ゆっくりと大きく息を吐く。足下のすぐ傍で雹に打ちのめされた雑兵が、然しもの傭兵長も腹をくくったと勘違いし、彼も末期の祈りを捧げるべくうつ伏せで体を丸めたまま両手を組み、頭上にかかげた。それを目の当たりにした周囲の兵士達も、なけなしの気力と体力を振り絞り後に続き、組んだ手を掲げる。生存への一縷の希望もみすみす手放し、死後の安寧のみを望む敗北の白旗の波が、スカユフを中心に外へと伝播していく。スカユフの他に死の運命に抗うとするものは、歌司の歌声にうなされ、調子の狂った歌をがむしゃらに吠え続けている野獣の相棒くらいだった。
スカユフが、戦場のでの己の迂闊さを悔いたが、部隊は既に敗北の断崖から転落している最中であった。仲間達の不可解な行為に叱咤を繰り返し、手近の兵士をひっぱたくが、一旦へし折れた彼らの心は戻ることはない。
「あんたたち、潮時にはまだ100年早いよ!残してきたカミさんと子供達はどうなっちまうんだい!」
「村のヤツらが何とかしれくれるダょ」
「オイラは草葉の陰から妻と子供達のシアワセを静かに見守ってくんダベェ」
体を丸め、頭を引っ込めたまま、付近の男共が口々に応える。
「ふざけんじゃないよ!イイ年のオヤジが情けない声出すんじゃないよ!まだやれる。絶対に生きて還るんだよ!」
歌司の歌声の作用で、音の衝撃波と化したスカユフの咆哮が、自身の周囲の礫を粉砕し、己の岩肌にまとわりつく氷を一瞬で昇華させる。だが、スカユフの奮闘も空しく、彼女の叫び声が止む頃には敗死の選択を表明する人間の腕の海が、全軍に広がっていた。
スカユフが怒気混じりに一番近くでうずくまる男の顔のすぐ傍に唾を吐き捨る。が、男に気付かれもしないと、顔面を真っ赤に染め、この窮地に救いの手を指一本差し伸べられない役立たずな神を愚弄する文句を、天を仰いで吐き続ける。言葉を吐く度に、スカユフの頭上一帯の氷が粉々に砕け散っていく。
——あいつは、あの娘は歌精と歌司の力を借りて、神の右腕と称されるアークドラゴンを撃破した。
アロマのいるはずの場所を再三にわたり凝視する。前にもまして雹が勢いを増し、ますます視界が悪くなり向こうの状況が全くわからない。一つ確かなのは、その場所が最も苛烈な氷の洗礼を受けているということ。あの娘も、雹の降り始めは気丈に直立姿勢で持ち堪えていたが、今となっては歌司達の加護を以てしても耐えきれなかったのか、氷の跳ね返る音の位置からしてアロマは体を小さく丸めたままじっとしているように見えた。
じっとしている?否、もう二度と動かないのかもしれない。
己の内なる声に目を瞠り、躍起になってそれを否定する。しかし、彼女の意に反し、続けて瞼の裏に湧き上がってくる映像は、歴戦の女傭兵隊長が、感覚が麻痺するほどに目の当たりにしてきた光景、敵将を討ち取った小兵が、直後に敵軍の執拗な反撃を受け、惨殺され、遺体が食肉の如く細切れにされていくまでの一部始終だった。
砕け散った氷の粒子が、宙に分厚い濃霧の層をつくる。そしてややもせず、霧は氷の嵐によって粉微塵にされ、無に帰されていく。
霧が消滅すると、スカユフが足下を睥睨する。
アロマの活躍の甲斐なく、争いは終わるどころか全滅の危機に瀕している。無限に雹を繰り出すあの闇空の向こうに、まだ何かがいる。その「何か」は子分を倒され、神の右腕と呼ばれる巨大な神獣の子分を倒され、人間達の前に現れたのだ。
〜2016/04/06〜
修正アップでも文字数制限かkるようになったので、既存分を分割。
スカユフのシーンを加筆しました。
後でアロマのシーンも修正予定です。
- AsStory /予告用中編 『二人の精霊王』 ( No.267 )
- 日時: 2016/05/16 15:22
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: NSxNy3Qq)
スカユフが再び闇空を仰ぐ。向こうにいる「何か」の正体は完全に判っている。が、その名を声に出す気がしない。常日頃から信頼をおいている己の直感は、今回だけははずれて欲しい。彼女の人生の中で片手で数えられるほどしか感じたことのない怖じ気を煽り立てるように、スカユフの太く浅黒い首筋を、冷え切った風が掠めていく。予想外の冷感にスカユフの怒気が刹那途切れた。スカユフの精神と肉体は歌司と歌精の歌によって、人の遠く及ばぬ領域にまで亢進し、よほどの衝撃や火炎、氷雪でもないかぎり彼女の感覚が認知することはないはずだった。
スカユフの心身は、ほぼ無傷の外観とは裏腹に、角を削られ、面を抉られ、少しずつ磨耗していた。不可解な雹が彼女の体躯を打ち据える度に、歌司達の加護をわずかに破り、氷にとけ込んだ呪わしき力が彼女の肉体と精神を浸食していた。
不意に彼女の胸中に、相棒を引き連れて逃走しろと、諭すような声が聞こえ、唐突に喚声をあげて雑音を振り払う。間髪入れず、雹の温度がこれまでよりも格段に深く肌を突き刺すように伝わってくる。見た目は全く傷ついていない。だが体が、心が急激に冷やされていく。
「向こうの大将は、千年前の伝説龍狩りの騎士でも倒せなかったんだ——」
ふとそんな言葉を漏らしていたことに、女傭兵体隊長は気付いていなかった。女の足下の周囲で、嗚咽が漏れる。
——今雲の向こうにいる奴は、エンシェント・ドラゴン。神の右腕なんかじゃない。神、そのもの。
スカユフが視線の先に、小さな絶望の黒点を見出すと、徐々に歌司達の声が女の意識の中から遠のいていく。今まで感じなかった極低温の感覚が黒い点を一気に拡大していく。
——百年もたずに逝っちまう人間がどうやって対抗しろってんだい。
「まだよ!」
百戦錬磨の戦士の怖気を見透かしたように、鋭利な声が宙を貫いた。
スカユフが左右の眼を真円に見開いたまま暫し硬直する。氷の集中射撃の中のうずくまる人影は僅かも動いたようには見えない。彼女の膨大な戦闘経験を以てしても未だ嘗て無い窮地に瀕し、いよいよ幻聴まで聞こえるようになってしまったか。スカユフが己の頬を強かに連打し、それでも怖れが払拭できていないとわかると、延髄に2、3発手刀を叩き込んだ。強い目眩で景色が大きく揺らぐ。やや腕尽くだが、痛みと意識の混濁が続く僅かな間は、彼女の中に巣喰う恐怖心は霧散している。再び前のめりのなって、氷柱と化している嵐の中央に全神経を向ける。
ミダ隊の隊長の声に続き、獣人の少年の声、そして体を小さく丸め、荒野のいびつな起伏に成り果てていたミダの農民兵達までもが、呻き声とも歓声ともとれる声で、同一の対象に向けてその名を叫んでいる。皆聞こえているのか?幻聴では無いのか?それとも——。
部隊全員が神に感覚を奪われてしまったのか?
今度はミダ隊と正対するユニオナ軍と、開豁地全域に散開する同国聖騎士団、総勢1万を超える兵士、騎士の注意が、最も苛烈な雹の嵐を受け、氷の壁同然となっているその向こうの一点に集中する。
雹に叩きのめされ続けているのも関わらず、両軍、そしてその間に立ち尽くす一人の人間と一人の獣人の中で、力尽きて倒れる者は誰一人としていない。
スカユフは、意識が朦朧としかけた瞬間、恐怖と入れ替わるように体験したことのない不可解な感覚が全身に染み渡ってくような感覚に襲われていた。その新しい何かに対する恐怖は感じない。自分の体内を正体不明のものが駆けめぐっているのに、危機感を抱くことがない。抱くことができない。見る間に指先までそれが伝播していくのを、呑気に眼で追うことしかできなかった。「感覚」は程なく「力」に変わる。角材のような己の指先を眺めていた彼女の注意が、再び氷柱に戻される。その僅かな間に、視界を右から左に流れていく風景に、彫像のように一様に同じ方向を向く仲間達の姿を認め、彼女の行為が完了する頃には、彼女もまた、彫像の集団の一員となっていた。スカユフは己の意志で動いたのだと思い込もうとしていたが、首と眼が動き出すのが、彼女の意志が決断するよりも一瞬早かった。
彼らの歌はとうに絶えていたが、たった一人の人間に身も心も制御を奪われてしまった一万余の戦士が、微動だにせず——どんなに激しく氷の塊が指先に直撃しようともーーまさに像のごとく硬直し、視線を開豁地の一点に向けている。
——鎮めなさい。
開豁地に居合わせる全軍が声に聴き入った。確かに、一瞬前まで雹の壁の向こうから聞こえてきた声と同じ声だった。だが、この声。
音の高さが一緒なだけで、全く別人のような声音だった。抑揚のない、感情のない、猛者どもを威圧するようなボリュウムもない。にも関わらず、頭蓋の内部全体を満たすように響き渡ってくる。確かに距離を置いた前方に声を発しているであろう人間がいるのに、眉間のすぐ上で鳴り響いている感覚に、戦士達がどよめく。
——心を、鎮めなさい。
ざわめいていた両軍の群衆が、申し合わせたかのように一斉に静まりかえる。その中に人として己の意志で沈黙したものはいない。
——聴きなさい。
大気が揺らぐ。
——耳で聴くのではない。心に響く、精霊の声。
氷柱の中にいる人間の言葉を、戦士達は皆、当然であるかのように受け入れていた。開豁地の全ての人間が左右の眼を閉じ、緊張の糸を張り詰めている。氷の礫は依然勢いが衰えず、むしろ苛烈さを増す一方だが、人間の五感からその存在がすっかり消え失せていた。彼らに届くのは、氷柱の中に封印された一人の女の声のみ。
——歌を・・・奏でなさい。憑り代は、生きています。
声と同時に、歌精の声の裏に埋もれていた歌司と思しき個体が、再びその巨大な翼を二度三度と空気をなでるように揺らめかせ、一気に歌の音圧をあげる。開豁地に居合わせる全ての人間が歌に心身を捧げ、声をあげる。やがて、大地にそびえる氷柱から、二つ三つと光芒が漏れると、すぐに幾筋もの鋭い光線となり、氷塊を蜂の巣にした。
——歌を、奏でなさい。
神罰の氷柱の跡を占拠するように浮かぶ光球に照らされた人間、獣人達は沸きにわいていた。あまりの眩しさに声の主の許に行くことはできなかったが、ミダの部隊が口々に彼女の名を叫ぶ。
歌司と歌精が漆黒の天空の下、色とりどりの翼を広げ、広大な円を描いて舞い踊り、歌の強さを増す。歌精達の歌と舞に共鳴した獣人と人間の軍勢が粗野な声で歌を叫ぶと、地鳴りとともに大地の表層がめくれあがる。
スカユフが天を仰ぐ。周りの仲間達も眼を剥き、真上を向いた。あの闇の奥に、古の龍がいる。
——神がいる。
歌精達の歌が、昂進する民の心を更に煽る。
「神を、狩れ!」うなされたように部隊の一人が発した声に、人間、獣人が興奮を爆発させた。
かつて森を蹂躙し、竜の呪いに囚われた人間を薙ぎ倒していった音の衝撃波は、今度は雹の嵐を逆流させ、礫と岩石を巻き込み天に突き返さんと闇夜を沸上がった。
(保留)
〜2016/05/16〜
アロマのシーン修正完了っ。次はドラゴン側のシーンです
〜2016/04/06〜
スカユフが絶望するシーン、ちょっと加筆しました。
次はアロマのところ修正する予定です。
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