二次創作小説(紙ほか)
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入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- AsStory /予告用中編 『二人の精霊王』
- 日時: 2015/09/20 00:30
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 3qG9h5d1)
初めまして!
書き述べると申します。
この作品は以前、シリアスのカテゴリーだったのですが、第七話からはこのサイトに投稿されている他の方の作品の内容を混ぜ込ませていただくことになりましたので、このジャンルに引っ越してきました!
カキコ内二次(合作じゃないですよ)……結構珍しい様な気もします。
混ぜ込む作品は——
『Enjoy Club』(作:友桃様)
です!
そして
『ウェルリア王国物語』(作:明鈴様)
ぇ、二つもやって大丈夫なのかって?貴様のプロットどうなってるんだよって???
(黙殺。。。。。。)
1点注意していただきたい事が……。
冒頭でも触れておりますが、もともとシリアス・ダークの作品なので、そのカテゴリー特有の表現があるかも知れません。できるだけグロい表現は使わないつもりであはりますが……。
更新の間隔が2か月空いたりすることがよくありますが、寛大な御心で受け入れてくださいますと大変有り難いです!
【最新話直前の状況】
(現在修正中・・・・・)
【お客様(引っ越し前の方含みます)】
アメイジング・グレイス様
アサムス様
友桃様
通りすがりの者です。様
(朱雀*@).゜.様
【目次】
◆◆ 序章 ◆◆
1話 >>1
2話 >>2-3
3話 >>4-5
4話 >>6-11
◆◆ 第一章 ◆◆
5話 >>12-13
6話 >>14-19
7話 >>21-25
8(1)話 >>29-31
8(2)話 >>38 >>41 >>44 >>46 >>48 >>51 >>53 >>58 >>60-61 >>63-64 >>70-75
9話 >>81-82 >>87-88
9(2)話 >>90-91
9(3)話『時空間操作システム』 >>95-96
9(4)話『副長官、乱心』 >>98-100
9(5)話『時間を越えて』 >>105-107
9(6)話『地を駆る鳥』 >>110-114
10(1)話『ひかり、在れ』 >>118-119
10(2)話『幕開け』 >>129-132
10(3)話『交錯する時間』 >>142-153
10(4)話『混迷に魅入られし者たち』 >>160-166
10(5)話『絶体絶命』 >>172-175
10(6)話『PMC、対陸軍攻撃陣』 >>180-189
10(7)話『突入』 >>192-197
10(8)話『スナイピング』 >>200-204
10(9)話『ひかり、在れ』 >>209-210 >>213-214 >>227 >>229-230
◆◆ 第二章 ◆◆
11話『逃走』(更新中) >>232-239
〜〜小説紹介〜〜
『☆星の子☆』((朱雀*@).゜. 様) >>108
『Enjoy Club』(友桃様) >>109
書き始め 2010年冬頃
(もう3年経ってしまったんですねぇ)
〜〜予告用短編〜〜
『月光』 >>126-127
『二人の精霊王』 >>243-245 <<<<<<<<(現在作成中!)
〜〜クリスマス短編〜〜
『クリスマス・プレゼント』 >>217-225
〜〜キャラ絵〜〜
メクチ >>207
水希 >>208
水希(変装後) >>212
登場人物一覧
>>206 (リアルパート)
>>216 (ファンタジーパート)
〜追伸〜
ツイタやってる方。。。R18記事があってもOKって方は、ちょっとフォローしてやってくれませんか?? => @motto_e
あんまり呟かないですけどねぇ〜(ぇ?)
- AsStory /予告用短編『二人の精霊王』(参照壱萬感謝! ( No.258 )
- 日時: 2015/12/25 12:51
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: NSxNy3Qq)
- プロフ: https://www.youtube.com/watch?v=LjGGOoyrUCw
森の地面にクレータを穿って以降、石像のように固まり、それこそ尻尾の毛1本も揺らさず、主人の窮状を瞠り続けていた白銀の甲冑で全身を固めた軍馬が、己が名前を呼ばれた途端、魔獣のような雄叫びをあげ、界隈に堆積していた沈黙を吹き飛ばし、森の大地を震わせた。あくまでこれは主人の指示に対する返事だ。
続けて、己を鼓舞するように左右の前足をもちあげ、自分の居場所を示すかのように更に気迫ののった遠吠えをあげる。最後に左右の前足に全体重をかけて地面を踏みつけると、付近の大地の標高が一瞬下がり、居合わせた3人の人間と獣人との間に少し隙間ができ、またすぐに戻った。
白帝号がクレーターの周囲を小刻みな歩調で走り始めると、一気に速度をあげた。動物に対する呪いは、人間よりも弱いのか、白帝号の甲冑を覆っていた薄い白光のオーラが強さを増す。同時に、一歩ごとに大地を揺らしていた白帝号の足音が軽くなっていく。頭上の二つの耳と人間にはない第六感が、天より降り来る騎馬の位置を正確に捉えている。
忌まわしき力によって天空を飛翔する騎馬が、密林の緑の層に突入するのは、もう間もなくだった。
意に反し、止めを刺されずに息の凝らされてしまった騎士が言おうとした言葉を、今度はアロマが言いかけて口を噤んだ。答えは既に何度も聞いている。そこへ、騎士が痛みに言葉を途切れさせながら、アロマに話し掛けた。
「人間が、竜に弄ばれている」言葉の末尾は息が混じって殆ど聞こえなかった。鼻をすする音がした。
「人間同士で刃を向け合い、並の兵士なら致命傷を受けた瞬間正気に戻り、死の恐怖に泣き叫びながら死んでいくのを竜が愉しんでいる」
打ち震える騎士の右の拳が大地を鷲掴みにする。アロマは、事態が己の推測に近いものだったものの、まだ眼前の敵将を信じきれず、剣を振り下ろした状態で体勢を固めていた。
「我々だけではもはや、生き残る術はない」眇められていたローブの奥の瞼が少し開かれる。
——我々、だけ?
普段なら単なる言葉のぶれとして聞き流しているところだったが、今、眼前の男の口から放たれる一言一句が部隊の命運を握っていた。撃破してきた戦場の数であれば、若いアロマを遥かに凌ぐであろう、強かさの塊のような敵将を、どこまで信じていいのか、その判断が彼女達の命運に直結していた。引っかかった二文字から、アロマはミダに共同戦線を張れという意味かという浅はかな考えが一瞬脳裏をかすめる。だが、直ぐに払拭した。
気になる言葉尻に答えを見出す間もなく、二人の意識の中に、勢いづいた白帝号の足音が割り込み、二人の注意が頭上に向けられる。
人間らしからぬ喉鳴り交じりの雄叫びが、はっきりと近くに聞こえ、秒刻みで大きさを増している。
「来るぞ」話を中断した途端、今更のように激しく疼き始めた右足に、歪んだ面相で騎士が声を絞り出す。獣人の少年がクレーターの円周を走る軍馬を避けて、アロマに駆け寄ってきた。
「アロマ、これ!」獣人の少年を、騎士の襲撃から守った白銀の細剣をアロマに渡す。アロマが騎士の体の右脇に立ち、受け取った細剣を胸の高さに掲げ、1秒間の瞑想を終えると、漆黒のローブを舞わせながら、静かに左膝を落とし、居合の体勢に入った。白帝号の援護がないつもりで、騎馬の多段攻撃を凌ぐのだ。
「そこにあった——」顔の右で低い姿勢をとるアロマの右手に握りしめられている、淡き白光を醸し出す細剣を見て、少年への一撃が阻まれた原因を見いだし、男が言葉を漏らした。が、それは途中で途切れた。もし、騎士が兜をかぶっていなければ、その双眸が柄の根元に刻まれた、大陸の果ての小国の紋章に釘付けになっていたのが、傍目にもわかったに違いない。
騎士が胸の中でその王国の名を言おうとした時、耳鳴りのような高い音が響いた。それはアロマにも聞こえた。そして、獣人の少年にも。
耳から聞くのではない。心に直接響く、不可避の歌声——。
「来たか——」
騎士がそう呟いた瞬間、遥か北の森の奥で地鳴りがした。地鳴りが一気に大きさを増し、接近してくる。空から来る騎馬よりも離れてはいるが、数段早くアロマ達に近づいてくる。騎馬の迎撃に全ての注意を注がなくてはならない情況で、アロマが北の方角に眼をやり、息を呑んだ。黄色く光る森の奥で、かなり幅の広い衝撃波のようなものが、ローラーの如く樹々をへし折り、木端微塵に粉砕し、木片と葉を盛大に舞い上げながらこちらに一直線に迫りくるのが見えた。それに加え、さっきの声とは違う、更に甲高い無数のノイズが入り乱れて響いているのが微かに聞こえる。
途方もなく巨大な風の魔導の爆弾が、そこら中の音の鳴る何かを巻き込んで爆発したかのような光景だった。
このペースでは騎馬の襲撃とほぼ同時に衝撃波が到達する。
——一つに絞るしかない。ユニオナの騎馬を迎え撃つ!あの衝撃波は……。
雑念を排除するべく、ローブのフードを深く被り、脇の視界を遮った。蒼天色の横髪がわずかに毛先をのぞかせ揺らめく。
「耐え凌ぐしかない」
アロマが改めて頭上を見遣った瞬間、クレーターの周りの樹々に止まっていた小鳥たちが、ちらほらと鳴き始めた。
鳴くという、原初の本能を忘れたしまったかのように、完全な沈黙を貫いてきた森の住民達がこのタイミングで鳴き始めたのは、単なる偶然とは考えられなかった。脅威を感じた獣人の少年が、ぐるりを取り囲む木々の枝を埋め尽くす小動物の様相を、左右の目を更にして見つめる。空からの襲撃に対する迎撃体勢をかためるアロマは、歌精の声は心から排除できずとも、ただの小鳥の鳴き声は持ち前の集中力で意識から排除できると思っていた。ところが、脳味噌をつんざくような高音で闇雲に叫びまくる彼らの鳴き声は、彼女の意識から立ち退こうとする気配は全くない。それどころか、音叉のように平坦で澄み切った歌精の声と共鳴し、アロマの意識の中で不可思議な熱を帯びてくる。
ただの鳥の声が何故、歌精の声と共鳴するのだ。頭蓋骨が巨大な万力に押さえつけられたように痛む。咄嗟に体勢を崩し、左右の耳を塞いでも状況は微塵も変わらなかった。
「ア、アロマ!」
人間よりも感覚の敏感な獣人の少年が悶絶しながら、掠れ声をアロマに投げかける。仲間の窮地を目の当たりにしたことが、動揺し掛けていたローブの女に冷静さを取り戻させた。
「音が増えた・・・・・・4つだ!」
痛みをおして、獣人の少年が声を絞り出す。
瞬く間に聞く者の精神の空間を埋め尽くすまでに広まり、その心身を砕こうとする歌精と荒ぶる小動物達の声の中で、獣人の少年は辛くも襲撃者の異変を聞き逃さずにいた。それを聞いた騎士が、クレーターを疾走する白銀の軍馬に警戒の合図を出す。少年はその後、緑の天井に魅入られたかのように天を仰ぎ、呼吸をするのも忘れ、沈黙の深淵に五感を沈めた。
「二つが先に来る。かなり速いよ!アロマァ!」
アロマはフードの奥から地面を見つめたまま身じろぎ一つせず、さも獣人の少年の言ったことは既に想定済みであるかのように冷静沈着を装っていたが、彼女の中は不可解に数の増えた敵に理性と恐慌のせめぎ合いがぶり返し、一瞬にして最高潮に達していた。
——二つって何よ。二人目が空中でが分身したとでもいうの?
前方から迫り来る壁と化した小動物の咆哮の本体と、3人を取り囲む無数の小動物の鳴き声がお互いの間隔を詰めるにつれ、共鳴を増し、大地の震えが強くなる。それがローブの奥の女の動揺に拍車を掛ける。
アロマが左右の目を剥き、勢いよく真上を向く。一人目の騎士が襲ってきたときの同じような軌跡を描き、二人目の騎士に次いで相棒の軍馬が時間差で降ってくるのをシミュレーションする。
前方からは衝撃波の露払いの突風にローブが煽られ、蒼白な女の面貌が露わになる。
上方では、先行する二つの何かが空気を震わす音をかき分け、密林の枝葉の層の最上部に突っ込んでいく音が一瞬響いた。
アロマの左下の方で、騎士が口を開き、叫んだ。
「ロングボウだ!」
歴戦の女性騎士が眼前の混迷を打破するには、たった一つの単語で十分だった。
ロングボウ——人の背丈に匹敵する大型の弓を用いて矢を高い仰角で射出し、その落下速度によって標的を射抜く武器。通常の弓はもとより、機械仕掛けの弩弓をも凌ぐ威力と飛距離、速射性を誇る。ただし、弓を引くほうの半身に相当の筋力が必要で、意のまま使いこなせるようになる頃には、弓を引く側の上半身の筋肉が異様に発達し、体型が崩れているほどの代物だ。
二つ目の騎馬は、竜の呪いによって得た桁外れの筋力を以て、かのロングボウから2発、立て続けに矢を発射したのだ。そして跳躍した騎馬よりも遙か上空で弾道の頂点を迎えた2発の矢は、急降下を始めると直ぐに騎馬の降下速度を超越し、目標に到達直前で騎馬を追い抜いてきたのだ。
アロマが意識の中で描いていたイメージを分身した甲冑の人間から2本の矢に切り替えると、それらの描く弾道曲線も即座に修正する。虚空の一点に目標を定め、左の鞘に収まる細剣を一瞥すると、顔の向きを保ち左右の瞼を閉じる。光を遮っても森を埋め尽くす不可解な黄色い光は意識の中に入り込んでくる。これが竜の呪い。この光がユニオナの騎士を狂わせているのか。アロマが一段と強く集中力を高めると、歌精の声を聞いたときから感じた全身を埋め尽くす熱が右腕に集まり、焼け付くような感覚をもたらした。煮えたぎる汗が顔面を滝のように流れていく。直ぐに熱が全身に伝播し空色のセミロングと暗色のローブが周囲の木片、葉を巻き込んで宙に舞う。騎士の傍らで立膝を突き、その光景に呆然と見とれている獣人の少年を、騎士が引きずり倒し、寝返りを打って己の下にやり、万が一の事態に備えて少年をかばった。
熱い——。
熱にうなされるように咆哮し銀の細剣を抜刀すると、ほぼ同時に一つ目の閃光が、そして2つ目の閃光が僅かに間隔をおいて連なるように緑の層の底を突き破ってきた。アロマは木剣でも騎士が見切れぬ程の剣裁きを見せたが、騎士団の祝福を受けた銀の細剣を手にした彼女の剣は将に神速だった。
細剣の細長い刀身が雷鳴を轟かせ、空気を切り裂く。明らかにタイミングが早く、切っ先が1本目の鏃に辛うじてインパクトする。同時に一瞬だけ刀身に火炎の魔導の熱を細い刀身に集中し、あらゆる金属を瞬時に溶かすまでに温度を高めて敵の防具を紙切れ同然に切断する——はずだったが、火炎の魔導の制御に失敗し、肩幅大の火柱が出現し、2本目の矢を巻き込んで頭上の緑の層を貫いた。しかし、3人はまだ敵の攻撃の第一波を、牽制の一撃を凌いだに過ぎない。我に返ったローブの騎士の真上には、既に第二波の影が緑の層の底の大小様々な枝葉をはたき落とし、視界を覆うほどに迫ってきていた。異様な威力を発揮する細剣を持て余すアロマは動作が遅れ、ようやく残心の体勢から戻ろうとしているところだった。枝と一緒に落とされた鳥達が懸命に羽ばたき、小さな体躯から想像も付かないような音圧の喚声を上げ、元いた位置に戻ろうと足掻く。
歌司の声とも、小鳥達の喚き声とも、はては竜の呪いに冒された人間の咆哮とも似つかぬ唸り声の音圧にアロマが1歩、2歩とよろめく。女が悔恨が漏れそうになるのを押し止めようと、左右の瞼をぴしゃりとおろした。騎士団の細剣を抜いたからには全ての攻撃を己が手で凌ぎたかった。だが——。
ここは譲ってあげるわ。
目も眩むほどに輝きを増した空間を、銀の装甲を全身につけた巨大な軍馬が丸太のような首を倒して跳躍し、標的の横っ腹に突っ込んでいった。
〜2015/12/25〜
修正。。。
〜2015/08/11〜
先週末から昨日まで、ちょっと台湾に行ってきました。。。
人生初の海外旅行で、出発の時から飛行機が10時間遅れたりとか、いろいろトラブルだらけでしたが、貴重な体験をできた3日間でした!
飛行機の中って結構うるさくて、書き物するにはあまりいい環境じゃない。。。
何にせよ、これがなんらかの形で執筆の糧にできたらいいなぁと。。。
またコメント欄の文字数上限超えてしまいましたが、コメ分けるには微妙な文字数なので、既存のコメ欄の更新って形にしました。。。
たぶんあと1、2レスでこのシーン終わると思います。。。。。。長いね。。。
〜2015/08/04〜
カキコのトップページに、歌詞投稿記事の削除報告が上がってるの、今気づいた。。。。。
やっぱダメか。。。
歌聴きまくりつつクライマックスシーン激しく再構成中。。。。。(超焦)
〜2015/08/02〜
珍しく、同日2回アップです。
騎士の一言、気になりますよねぇ。。。。
。。。。。ね???
(焦)
参照は、この短編で流す予定の歌をもう一度張り直します。。。
『聖剣伝説 Rise of Mana』 メインテーマ 『Believe in the Spirit』(KOKIA)
- AsStory /予告用短編『二人の精霊王』 ( No.259 )
- 日時: 2015/12/26 18:50
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: BLMhacx0)
- プロフ: https://www.youtube.com/watch?v=LjGGOoyrUCw
森中に響き渡るであろう金属で覆われた二つの重量物が衝突する音が聞こえない。敵の第三波を迎え撃つべくすぐに瞼を開いたアロマの双眸が捉えたのは、敵方の軍馬ではなく、騎士自身だった。一撃目に人間が来ることを想定した迎撃手順が読まれていた。アロマが細剣を切り返す姿勢になりながら顔を顰める。獣人の少年に覆いかぶさる体勢で首を捻じ曲げ、頭上の攻防の顛末を見届けようとしていた騎士の面相が凍り付いた。
左脇に短尺のランスを携えた二人目の騎士が巧みに身を翻らせ、横っ腹に突っ込んでくる白帝号の頭を体の下に躱し、迫りくる肩の装甲に右手を突き上に舞い上がる。勢い余った白帝号が横倒しになりながら、クレーターの向こうの地面に叩き付けられた。緑の層の天辺に第三波が突っ込む音が3人のいる空間に響く。
どっちにしたって次の攻撃を私が受けるのは変わりない。降ってくるものが馬だけなのか、乗り手もついてくるのかの違いだけ。アロマが左右の眼を鋭く眇める。
——来なさい。
クレーターの向こうで衝撃波によって樹々の影が緑の天蓋の上まで舞い上がっていく中、アロマが右膝を落とし、右から切り返す姿勢を固める。
「二撃目!」
気合の怒号と共に空間が暗転し、細剣の切っ先からクレーターの空間全体に無数の稲妻が放射状に迸る。そこに樹々をなぎ倒す轟音も入り混じり、地面が激しく揺さぶられる。既に自分が何を言ったのか全く分からない程に、歌精の声と小鳥たちの喊声が体中でこだましていた。3人のいる場所の前方から——北から——きた衝撃波の壁が、遂にクレータの外周を成す樹々を薙ぎ倒す。緑の天井を第3波となる軍馬が頭を下に突き破ってきた。白帝号の攻撃をいなして上に舞い上がった騎士が愛馬とすれ違いざまに、その手綱に右腕を絡め己が身を馬体に引き寄せると、鞍に跨り左手のランスを鉛直方向に向ける。瞬く間に人馬一体の垂直降下突撃体勢が出来上がっていた。
女の顔が鬼神も逃げ出すのではないかというほどに険悪に染まる。最悪のタイミングだ。このままでは一瞬のずれもなく、前方の衝撃波と頭上の騎馬の突撃を同時に受けてしまう。わずかにでもタイミングがずれていれば魔導壁で衝撃波を防ぎ、騎馬には反撃不能なまでの一撃をお見舞いすることができたのだが、その望みは打ち捨てた。
アロマが騎馬が彼女のリーチ外にいる段階で細剣を上段で右から左に一閃する。獣人の少年を守った時の魔導壁よりも数倍分厚い、表面に無数の細かいスパークが迸る雷撃の魔導壁が3人の頭上に広がる。当人は魔導壁に雷撃のおまけをつけた覚えはないが、原因を考える暇はなかった。剣先を左手に渡し、細剣を水平にして前方に意識を集中する。2枚目の魔導壁は全力だ。短い掛け声とともに細剣が白光を放ち、3人の目と鼻の先の正面に、幅がクレーターの空間いっぱいに、高さが樹々の天辺に及ぶ渾身の魔導壁が屹立した。
騎馬が咆哮をあげて頭上の魔導壁に突っ込む。そしてアロマの予想通り、衝撃波の舞い上げる無数の枝葉の破片が正面の魔導壁の裏で激しくぶつかっている音が3人のもとに聞こえてきた。
頭上の魔導壁は、竜の呪いによって人外の力を得た騎馬の突撃にも微動だにせず、逆に魔導壁を覆っていた細かいスパークが突然図太い鉄鎖の戒めの如く騎馬を縛り上げ、騎士、軍馬もろとも失神させた。アロマは魔導壁にそんな機構を付けた覚えはないし、そもそもやり方を知らないのだが、やはりこれも気にしている暇はなかった。正面の魔導壁では、3人が絶体絶命の危機を迎えていたのである。
衝撃波に巻き込まれた無数の破片の侵入を防いだ女性騎士渾身の魔導壁であったが、衝撃波そのものはまるで壁など存在しないかのように、魔導壁はすり抜けてきたのである。そして、魔導壁の裏の土や枝やらを巻き込んで3人に迫ってきた。
呆然自失となったアロマの意から分かれ、彼女の体が反射的に地面に突っ伏し、いつもより数倍ある腕力で左右の腕を地面に突っ込み、衝撃波に吹き飛ばされまいとした。獣人の少年をかばう騎士も、竜の呪いがしばし弱まり、腕力を格段に落ちていたが、土の地面に手首まで突き入れ、掌に当たるものを闇雲に握りしめていた。
衝撃波の壁が3人を通り過ぎる1秒足らずの瞬間、凶器と化した無数の声の嵐が3人の意識を滅茶苦茶に掻き乱した。ほんの一瞬にも関わらず、いくつもの声がはっきりと聞こえた。いつも町で聴いたことのある小鳥の歌声、猛禽の雄叫び、人の歌声、笑い声、自分たちが苦しんでいるのを愉しんでいるかのような嬉々とした歌の妖精の声ばかりが聞こえてくる。どこまで持ち堪えらるかしら、と——。
頭上では電撃で失神した騎馬が、羽毛のように舞い上がり、空中で人と馬に分かれると、騎士は衝撃波の裏の地面——3人の前方4、5メートル当たり——に背中から激突した。馬は不幸にも3人の後方に大口を広げる崖の底に、意識不明のまま墜ちていった。
突っ伏して上を見ていた騎士が、仲間が唯一無二のパートナーとして大切にしてきた、栗毛の軍馬の名を叫んだ。左足が折れているのを忘れて、両足をついて立ち上がり、崖に駆け寄ろうとしていた。
「行かないで。竜の創り出した幻影に呑まれるだけよ…」
背後から諭すように話しかける女性の声が、やや弱まった鳥たちの喧騒を横切り、騎士の耳に響くと、我に返り、大柄な体を地面に落とした。
「一体、これはどういうことなの」
元のクレーターがどこまでだったのか判別不能なまでに、樹々が吹き飛ばされ、辛うじて横倒しで難を免れた数本の大木の幹に、居場所を失った小動物たちが身を寄せ合い、鳴き声を強め始めているのが見える。
3人は何事もなかったかのように、元の場所から数センチもずれることなくやり過ごしていた。だんだんと騎士の左足の感覚が戻り、痛みに歪めた顔を俯かせたまま、騎士は黙り込んでいた。
頭上の騎馬は衝撃波の威力をまともに受け、飛ばされた。3人は、両手で大地を掴み、持ちうる力を全て出し切り衝撃に抗おうとしたが、その必要はなかった。衝撃波がローブをはためかせることはあっても、彼らに微塵も衝撃を与えることはなかったのである。アロマの推測だが、あの身の引き裂けるような声の集中砲火さえなければ、平然と衝撃波の中を歩いて通り過ぎれたようにさえも思える。
全く情況がのみ込めず、俯いて頸を振るばかりのだったアロマが、偶然視界に入った騎士の背中にし視線を止めた。
「あなた、何か、知っているんでしょう」
騎士は黙っている。ゆっくりと体を起こした獣人の少年が、ぺたりと座り込み、二人顔を代わる代わる見ていた。
「さっき、我々だけでは、って言っていたわね」
騎士の右手の指先がわずかに振れる。アロマは目敏くそれを見逃さなかった。騎士も自分の挙動を隠しくれなかったことに気付いていた。ローブの騎士に誠意を示そうと、騎士が兜をとった。前線で戦うには、だいぶ歳のいった男だった。目尻とこけた頬の深い皺が年季を漂わせる。生まれつきなのか歳ゆえなのか不明だが、白一色の髪の毛を軍人らしく短く刈り込んでいる。長年聖を冠する騎士の職務を務めていながら、ローブ姿のしかも若年で女性のアロマをたった一撃で騎士と見抜くのは、相当の手練れであろうと、アロマが無意識に感じ取っていた。どんなに優れた戦士でも慢心という弱点は常に付きまとうもの。今のところ眼前の初老の男には、それが無い。アロマの意識の中で、王国の軍の総司令を務める人物と印象が刹那重なり、背筋が戦慄した。
「それに気づいているのならば、私が黙っていてもお前がこの音の壁の正体に気付くのは時間の問題だろう。それに、お前には二度、命を助けられた。それに応えぬは、不義というもの」
初老の騎士が沈黙を破った。
「あれが歌精の力。歌を聴くもの、歌う者には力となり、聴かぬ者には刃となる——」
やや垂れ下がった瞼を、少し見開く。アロマを見据える双眸が鋭く煌めく。
「人間が築いてきた文明の中で、そして遠き将来においても竜族に対抗し得る唯一の手段」初老の騎士が更に瞼を開く。
「我々ユニオナは、この力が完全に解放される時を求め、ここに来た」
アロマと少年が暫し息をするのも忘れ、眼前の騎士を見遣っている。
この情況——。
歌精の力を借りた人間が竜を狩るというこの情況——。
巨体の女傭兵隊長の仲間が歌っていた内容と一緒。それの意味するところはつまり——。
アロマの、獣人の少年の全身に悪寒が走る。
「また、精霊戦争を始めようっていうの?」
千年前の、人類と精霊を巻き込んだそれこそ星の生命を賭けて繰り広げられた戦争がどれほどのものなのか想像すらできない。大抵の戦争は、軍人以外の農民や商人たちは無関係を装ってやり過ごそうと思えばできないことも無い、いざとなれば国の外に逃げることだってできる。だが件の戦争は、全ての人間と精霊が巻き込まれた。戦う意思の無い者も、逃げ場がなく、殺らねば殺られるという極限状態の場に放り出されたのだ。相手を殺した者だけが生き残った戦争なのだ。
座り込む騎士を女が怒りで揺らぐ眼差しで見下ろす。怒りで声がかすれた。
「狂ってる。まともな人間の考えることじゃない!」
〜2015/08/13〜
佳境間近ですっっ。
想定通りこの場面はもう1レスで終わると思います。。
- AsStory /予告用短編『二人の精霊王』 ( No.260 )
- 日時: 2015/12/30 18:00
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: BLMhacx0)
- プロフ: http://fast-uploader.com/file/6995022493790/
「そうだ。我が国王は……」白髪の騎士が素早く周囲を見回す。そして声をひそめた。「ご乱心だ」
アロマと獣人の少年が怪訝な面をする。言葉に詰まる二人の返答を待つ前に騎士が続けた。
「あらゆる手を尽くして原因を調べたが、わからなかった。だが、国王は仰るのだ。アークドラゴンを従えよ、と。国王は絶対だ。何人も逆らうことは許されない」
音量を上げる小動物たちの声は二人の耳に一切入らなくなっていた。二人は騎士の話に聞き入っていた。
「一度目の龍狩り、内外の民から国恥とも揶揄されるあの遠征を切っ掛けに、死んだ騎士、兵士らには申し訳ないが、我々は神獣を従えることの困難さにようやく正面から向き合うことができた」
騎士が上目づかいで二人に鋭い眼差しを向ける。
「我々は竜の生態や生い立ちについて早急に調査を進めたが、調査が進むほど人間風情の且つ可能性が閉ざされていった」騎士が徐に瞼をおろし、持ち上げる。「最後に残された…」
「たった一つの可能性。もはや出来事を誇大に捻じ曲げて伝える遊詩人の声の中でしか伺い知ることのできない史実だけが、我々の唯一の武器となったのだ」
アロマが声を出そうとしたが、あまりのショックで声の出し方がわからなくなっていた。
「第一次の遠征は生命の無い山岳地帯だったが、ここは命溢れる密林。我々の最後の武器はこの森にある。この森の生き物はかつて精霊戦争で死んでいった歌精たちの力が宿っているようなのだ。わが軍の所有する歌精を連れて行くと、日頃は何の変哲もない動物たちが、急に行動パターンを変える。例外はない。必ずだ。恐らく、歌精の魂の宿った無数の森の動物たちが、龍族を常に監視しているのだ」
騎士が語気を強める。
「それに気づいたわが軍は、ある可能性に賭けた」
アロマの勘が働いた。歌精が龍を監視している。人間は歌精の力が欲しい。歌精を動かすには、やることは一つ。
「だから大挙を成して竜の塒に——」
確かに辻褄が合う。人間が塒に侵入した。龍がそれに気づき、人間共に呪いを掛けた。それを見て歌精の力の宿る動物たちが力を解放した。森の動物達が数日間、頑なに沈黙を貫き、じっと見続けていたものは人間ではない。龍だったのだ。俄かに動物達の声が耳元に、否、心の中で直に蘇ってくる。
「もし、そうだったとしても、最後の詰めが不確定——神頼みになっているわ」
騎士が眉根を寄せ、アロマを睨み返す。
「精霊戦争で闘ったのは、この森の歌精達だけではないはずよ。相手は神の右腕。世界中の歌精を集めなくては、いえ、多くの歌精が死んでしまったのなら、全ての歌精を集めたって、1体のアークドラゴンに勝てるかどうかさえ——」
「賭けるしかない!」
野太い声が、アロマの声を圧倒した。だが騎士に居直っている雰囲気は感じられない。何かを信ずるものがあって言っている。
「この森の動物と界隈の歌精を集めたところで、アークドラゴンどころか、眷属のドラゴン一体すら相手にできる力を持てるかどうかわからない。なら何故——」
「彼らはこんなにも必死に啼くのだ」
絞り出すように言い放った言葉に二人が息を呑んだ。
「彼らは必ず呼び寄せる。あまねく世界に散らばる数多くの仲間を、そして——」
騎士の感情が亢進し、双眸が潤んでいる。
「歌司を」
3人が小動物達の喚き声に埋もれてしまいそうだった。
衝撃波さえつくるこの声が、ユニオナの、いやミダの、否、きっとこの星の運命の分岐路に導いているのだ。どちらの行く先も、暗澹としている。騎士の思惑通りいかなければ、動物たちの鳴き声に、世界中の歌精や歌司が共鳴しなければ、即ち、ユニオナ軍、ユニオナ国の滅亡を意味する。だが、騎士の思惑通りに事態が進めば、確かに一時はユニオナは生き永らえる時間を得られるかもしれない。しかしそれは、二度目の精霊戦争の勃発を意味することに他ならない。
一歩も動きたくない。動けない。どう動いても破滅に向かってしまう。身じろぎできずにいる二人に騎士が声を掛ける。
「自軍に戻れ。今の事態は我らユニオナが招いてしまったもの。できることなら、と荒唐無稽な希望を語れる資格もない。どうか、陣地に戻り人間同士で無用に命を失うようなことを、止めてくれないか。私はもう殆ど動けん。ここで後続の部下たちを止めるので精いっぱいだ」
騎士が左右の眼を細め、二人目の騎士の愛馬が消えていった崖の向こうを見遣った。
「竜に闘いで勝てば、呪いが解けるのかどうかもわからんが、今は一秒でも永く生き延び、奇蹟が起きるのに賭けるしかない」
アロマが、獣人の少年が、悔しさ、怒り、同情、様々な思いの入り混じった目で騎士を見つめる。熱いものがこみ上げる理由があり過ぎて、何に涙を流しているのかわからない。
アロマが左右の瞼を閉じ、暫し立ち尽くしていた。
——戻るしかない。
ゆっくりと瞼を開く。深く息をする。隣で立ち尽くしている獣人の少年に、黙って目配せをすると、落ち葉を踏む音がが最初は不規則に、やがて静かに速く、寸分 違わずタイミングが合っていく。
別れの言葉もないまま、二人の斥候は黄色い光の向こうに消えていった——。
頭蓋骨にひびが入りそうなほどの音量にも拘わらず、鼓膜が痛くもかゆくもない不思議な喊声を四方八方から浴びて走ると、風の絨毯に乗っているかのように、颯爽と静かに無数の倒木の間をすり抜けていった。速く走ろうと己が二本の足に力を篭めれば篭めるほど、足音は小さくなる。冴え渡る黄色の風景の下のほうでは、無数の鳥やその他の小動物が倒木の幹や枝にぎっしりと立ち並び、アロマの行く手のほうを一心に見つめ、叫び続けている。アロマと少年の脳裏で騎士の言葉が絶えずこだましていた。この小さな動物達が竜を見張っていた。動物達の様子では、竜は間もなくあの開闊地に現れるはず。だが、何処に居るのか。
空を埋め尽くすほどの大きさがあるというアークドラゴンの気配を、未だに二人は全く感じ取ることができないでいた。
動物達の声の音圧が一段と強まり、その影響で地を駆る二人の足に不意に大きな力が入り、1歩2歩と大きな跳躍をした。すぐに体勢を戻した二人がお互いを一瞥して速度を上げる。
脅威は竜だけではない。目下の敵は竜に操られているであろうユニオナ軍だ。少年の情報が正確であるならば、ユニオナの総攻撃を受けたら、圧倒劣勢のミダの部隊は数分も持たない。
「アロマ、もっと速く!・・・あれは?」
焦燥に駆られる少年の声の向こうから、小動物たちの絶叫の間を縫うように、低い轟音が聞こえてくる。フードの奥の面相が急速に青冷めていく。
——ユニオナの大軍勢の鬨の声。
「持ち堪えて」
唸り声と共にアロマが速力を上げ、横一線に並んだ二人の斥侯は、一陣の風となり金色に輝く<森を吹き抜け、5分も経たぬうちに部隊の影を視界の中に捉える位置にまで達していた。木という木が声の衝撃波によって薙ぎ倒され、吹き飛ばされ、見通しのよくなった今、遠巻きでも見間違えようの無い、熾烈を極める戦闘が繰り広げられていた。足を進めながら戦場をあらためて一望すると、ユニオナの軍勢は殆どが騎乗した騎士か重装歩兵で、傭兵達の姿が殆ど見あたらない。絶叫の衝撃波が聖騎士との戦闘場所の北から襲来してきたことからして、恐らく森の北端、最>となるここが衝撃波の発生源であり、大多数の傭兵は衝撃波で一網打尽にされてしまったに違いない。そして不幸中の幸いというべきか、敵方の騎士には聖騎士の騎馬らしき巨大な軍馬が一騎も見あたらないことだった。
一騎も、いない?
アロマが眉根を寄せ、数秒の間沈潜する。
違う——。
聖騎士がいないのは幸運でも偶然でもない。アロマが己の考えの甘さに、胸にうちで自身を叱咤した。ついさっき、敵将が言っていたばかりではないか。
西からユニオナの本隊が攻撃を仕掛け、騎馬が空から降ってきた南の方から、止めの刃となる全聖騎士の一団が本来は残っていたはずの密林を駆け抜け、ミダ隊の横っ腹に突っ込むセオリーなのだ。
ユニオナの当初からの作戦なのか、アークドラゴンが考えたことなのかはわからないが、覆しようのない勢力差がある中で、わざわざこのような小細工を仕掛けるとは。兵士達の命を弄ぶとは。
アロマ個々の人間の顔の区別がつくようになった風景に注意を集中する。
圧倒的な規模を誇るユニオナが数にモノを言わせて、ミダの傭兵一人に対し、ユニオナの騎士格の騎馬が二、三騎がかりで襲い掛かっている。ユニオナのセオリー通り、この戦場に聖騎士の一団に突撃を仕掛けられたら、捕虜すら残らない。確実に全滅だ。そして、聖騎士が突撃してくるということは、彼女を襲ったユニオナの聖騎士が追撃を阻止できなくなった——つまり、ユニオナ軍が完全に竜の呪いの虜になってしまったことになる。それは即ち、ここにいる人間達の全滅。……全滅。
——ダメ。
アロマが胸の内で声をあげる。アークドラゴンのことを、姿も居場所もどのような力をもっているかもわからず、ただ神に比肩する恐るべき神獣という伝説しかないこの情況で、冷徹に分析しようとすればするほど、破滅の結末しかみえてこないのは自明だ。
理屈ではない。ひたすら信じるしかない。
一人でも多く、1秒でも永く、人間を生き残らせ、あの聖騎士のいう奇蹟——世界の破滅のきっかけになるかもしれない事象をそう表現していいのかは不明だが——が起きることを。目の前の仲間たちが眼前の窮地から脱する破滅への分岐が開くことを。
視線を巡らせ最悪の情況の友軍を探すと、右手に1個小隊が組めそうな数の騎馬にぐるりを囲まれているのがすぐに見つかった。戦闘というより完全に集団リンチの様相をなしている。柱のような馬の足の隙間から、二本の足が敵方の攻撃に翻弄されて右に左に揺らめいているのが見えている。
正気の騎士ならば、傭兵から襲ってこない限り一対一の決闘すら避けるはず。あの騎士らは皆、竜の呪いにおかされているに違いない。
——これが神獣と崇められる者のする業か?
アロマが低い声で悪態をつくと、ほぼ同時にそれを見つけた獣人の少年が促すのを聞くより早く、酸鼻を極める集団暴行に及ばんとする騎馬の輪に体を向ける。そして、着々と威力を増す小動物のひび割れたような叫び声と歌精の透明感のある声の混じる音の弾幕に背中を押されるように、更に速度をまして騎馬の輪に猛進した。
〜2015/12/30〜
この記事の部分修正完了
〜2015/12/26〜
3人のシーン修正完了
〜2015/08/29〜
ちょっっっと更新。。。。
〜2015/08/22〜
ちょっっっとだけ更新です。
なんかお盆休み明けてから、ボーっとしてしまうことが多くて。。。。夏バテか。。。。
はやく持ち直さねば。。。もうクライマックスなのにぃ!
〜2015/08/13〜
ちょっと参照変えました。。。
「Believe in the Spirit」のインストゥルメンタル版です。。。
騎士の「歌司を」っていうセリフのところからこの曲がかかるイメージで書いてます。。。。
あとはクライマックスのちょっと手前まで流れてるって感じで書く予定。。。
パスワード設定してあります
kakiko
ですっっ
〜2015/08/13〜
またまた同日二度更新っっっ。
ついに、斥候のシーン、終わりました。。。
騎士の長広舌、書いてる身はとても気分が高揚しますねぇ!
残すはクライマックスのみ!
- AsStory /予告用短編 『二人の精霊王』 ( No.261 )
- 日時: 2016/01/02 17:35
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: p/lGLuZQ)
「先に行って!馬を牽制するのよ」
アロマの指示を受けるや否や、獣人の少年が荒ぶる熊の雄叫びをあげて一気に加速する。横からユニオナ側の援護射撃の矢が降ってきていたが、巧みに蛇行を織り交ぜながら高速移動する目標を捉えることができず、獣人の少年が目標の騎馬にある程度近づくと、矢の雨はピタリと止んだ。目標の騎馬の集団が数騎、虚を突かれ慌てて向きを反転させようとしていたが、馬が真横を向くころには地を這う漆黒の風が軍馬の鼻先を撫ぜ、前足の足元で足を止めて腰のダガーを右手で引き抜こうとしているところだった。
軍馬が歪められた本能に駆られ、足元の敵を踏みつぶそうとを起こし鋭くいななきながら胴体を起こして前足を高く掲げると、獣人の少年がダガーから手を離し、雄叫びをあげて円周に沿って疾走した。ターゲットの軍馬の嘶きと、猛獣の唸り声に他の軍馬達が混乱し、胴体をのけぞらせ、騎馬の円陣全体が途端に恐慌に陥った。
ターゲットの騎馬の騎士が怒鳴り声あげ、強く手綱をひいて力任せに馬を御しようとしたが、かえって馬の混乱を増長した。馬の胴体がほぼ垂直にまでせり上がると、手綱一本で辛くも持ちこたえていた騎士が、甲冑の重さに耐えきれず手を離そうとしたところに、漆黒のローブが、これ見よがしとばかりに大きくはためきながら矢の如く一直線に突入してきた。
一騎目を首尾よく仕留めて、他の騎馬を混乱が収まる前に一気に落とそうと、アロマが右手の木剣で最初の一撃を落下しかけている騎士に放とうとすると、騎士と軍馬が突然彼女の真っ正面に吹き飛んできた。アロマが目の高さでのけ反っ姿勢のまま飛翔しながら暴れる馬の背中を間一髪木剣ではじいて凌ぐと、女傭兵隊の相棒が巌のような体躯で、もう一騎目に体当たりを仕掛けて数メートル先に弾き飛ばしている瞬間を目の当たりにした。円陣を2周して戻ってきた少年が、風景を左右に横切って飛んでいく巨大な騎馬を呆然として見送っていた。西の遙か遠方から尽きることなく湧いてくる、竜の傀儡となった騎馬の一団から4騎が異状に気づき、アロマ達の方に拍車をかけて突進してきていた。
まだ遠方ではあるものの、アロマは後方の脅威に全く気づかないでいた。目の前で怪見せつけられた怪力にすっかり意識が持って行かれてしまっていた。動揺を胸の奥に抑え込みながら、声を絞り出す。
「アレスタ!無事なの?」
咆哮が止み、自身の二の腕と変わらぬ太さの首が重々しくねじられ、首の上に鎮座する岩石顔がアロマの方<*を向く。顔面の中程に収まる胡麻粒のような瞳が、しばしアロマの双眸を捉えたが、再び何かを言い始めながら3騎目に向き直り、体当たりで騎馬を突き飛ばした。そして誰も見なかったかのように、次のターゲットに向かう姿勢をとった。アロマがアレスタを呼び止めようとすると、森の住民達の圧倒的な音量の騒音の下、地表を抉るように目の前の男の声が響いてきた。その時は単なる呻き声にしか聞こえなかったが、円陣の騎手が残り二人となり余裕がでてきたところで耳を澄ませてみると、同じような調子が何度も表れてくる。更に耳を欹てると、それは龍狩りの英雄譚のあの一節であった。
龍を 狩れ
龍を 殺せ
竜鱗を 纏い
竜血を 浴び
竜骨の剣を 掲げ
真の龍狩りの騎士となれ——
2回目の冒頭が聞こえようとした時、アロマが強い眩暈を覚えたために数歩遠ざかり周囲に注意を払うと、4騎のユニオナの騎馬がここに到達するまであと十秒程というところまで迫っていることにようやく気づいた。残りの騎馬をアレスタに任せて獣人の少年が飛び出そうとすると、アロマがそれを静止した。彼女も木剣を右手で構え迎撃の体勢を整えたが、剣を振るう機会は訪れなかった。
アロマたちを一心に捉え続けていた騎手の顔が不意に左を向くと、その先には農具に毛の生えた程度の粗末な武器を手にしたミダ隊の雑兵二人が、襲歩の騎馬の左側面に突っ込むべく斜めに疾走していた。あまりに無謀な試みだが、二人の雑兵は瞬く間に騎馬たちとの差を縮め、4秒後には騎馬と並びながらお手製の武器を振るい、甲冑に身を固めた馬上の騎士に一撃を放っていた。騎士の精巧且つ頑丈な武器に雑兵の武器が跡形もなく破壊されると、間髪入れず雑兵が右手で騎手の左足を掴んで飛び上がり、左の拳で騎手の鳩尾に強烈なフックをお見舞いする。精錬された銀の甲冑が痛ましい音を立ててひしゃげ、騎士が周囲の大気を揺るがす悲鳴をあげて落馬する。残る3騎がアロマの目の前で静止し、もう一人の雑兵に対して竜の呪いの怪力で馬上槍を片手剣の如く振るい対抗したが、それを更に上回る雑兵の身体能力の前に、相手に傷一つ付けられず気絶に陥った。
二人の雑兵も何かにとり憑かたようにあの一節を叫んでいる。アロマが後ずさりすると、雑兵の一人が右手に木剣を下げているローブの女に気付き、ぎらつく双眸で女を睨み付けた。もう一人の雑兵が相方に背中合わせに立ち、再び放たれ始めた牽制射撃の矢を掌で弾いている。一糸まとわぬ生身の掌でである。アロマと少年が咄嗟に左右に並んで武器の切っ先を、正対する雑兵に向けると、雑兵が歌を止めた。バックコーラスに甘んじていた歌精と小鳥たちの声が、空いた空間を埋め尽くすように各々の精神で響き始める。
「姐さん。無事だったンケ」
雑兵の瞳から異様な光が消えていく。呆気にとられる二人に雑兵が話し掛ける。「歌ァ歌っとると力が湧いてくるんでサァ!今のオイラ達にゃ剣も槍もきかねぇ!」もともと図太い二の腕を更に膨張させてガッツポーズをとる。「んだが歌い続けとると、頭がイッちまうみたいでな」雑兵が、次なる餌食を求めて飛び出していったアレスタに目線をやる。「アレのオヤジが最初にやられて、もう仲間の半分以上がイカレちまっとる」二人の雑兵の束の間の笑顔が消える。アロマ達の面貌にも影が落ちる。時に戦意を掻き立て、怯ませもする戦場の喊声が、小動物達のノイズと相まって、彼らの体の内で荒れ狂う。
「ユニオナの軍勢は竜の呪いに侵されているわ。どうにかしてこの争いを沈静化しないと——」
アロマの言葉に雑兵がアロマ言葉を遮って返す。「竜の、呪い?やっぱバチがあたったんかァ」悄然として力なく首を振った。「もうオイラ達助かんネェよ」雑兵が言い放つ傍から、歌に呑まれた同志が鋳鉄の古びた剣を高く掲げて駆け抜けていく。雑兵達は一層顔色を曇らせ、ミダの農村で信仰されている豊穣、豊作の神に、残された家族を助けてくれと両手を組み、左右の目を潤ませながら唱える。傍目からは、漆黒のローブの神官に最期の祈りを捧げているように見えた。
だが漆黒の神官は慈悲のかけらも見せなかった。一通り言わせた後に、雑兵の泣き面をアロマが睨み付ける。鬼も泣く子も黙る女の鬼面に、年長に見える風貌の雑兵が顔を引きつらせ息を止める。アロマが続けざまに木剣の切っ先で地面を強かに突き鳴らす。雑兵が力なく曲がっていあ背筋を伸ばす。怒鳴られるよりも遥かに力のある叱咤だった。
「隊長はどこ?」アロマの言葉に、もうひとりの雑兵がミダの最前線を指さした。アロマが首肯で返す。その場から去る前に、アロマが雑兵二人に声を掛けた。
「私が状況を隊長に伝えれば、隊長が必ず全員が助かる方策を考えてくれる。だから今はとにかく生き残ることだけを考えなさい。いいわね」
そう言って一呼吸間に置き、厳しい表情を崩すと、不敵な笑みを雑兵に向ける。常に数で大幅に劣勢を覆してきた副騎士団長のそれは、何人も砕くことのできない自信に満ちているように見えた。二人の雑兵がどこで覚えたのか、ミダの敬礼で応える。獣人の少年が、刹那ローブの隣人に見惚れていた。少年の意表を突くアロマの号令で斥候の二人が隊長の許に駈け出した。
ミダの部隊の大半が使い古しの防具を身に着けて戦っている中で、一際輝きを放っている甲冑同士が剣と槍を振るう場所を見つけるのには、殆ど労を要さなかった。
「隊長!」ミダの隊長が3騎の騎馬を相手にして既に2騎を打ちのめしたところで、斥候にだした女の声を背後に聞くと、声のした方を一瞥する。隊長は件の歌を歌ってはいなかった。「戻ってきたか!ちょっと待て」
そういうと、隊長が騎馬に体当たりを見舞い、馬から払い落とされたユニオナの騎士の頭を思い切り蹴飛ばして気絶させた。
休む暇なく次の4騎が正面から馬上槍で襲撃してきたが、アロマが援護しつつ報告内容を列挙していく。歌の援護を受けたアロマと隊長には、龍の呪いを受けた騎馬4騎ですら敵ではなかった。
ユニオナ軍の暴走は竜の呪いによるもの、南からは聖騎士の一団が突撃を仕掛けてくる可能性があること、今は協力者が現れて聖騎士らの襲撃をとどめているが、このままでは長くは持たないであろうこと、聖騎士のへの呪いは一時的ではなるが抑える術があること、ユニオナは本気でアークドラゴンを生け捕りにしようとしていること、そして——。
そのために歌の精霊を争わせようとしていること。
隊長は新たな刺客にも的確に対処し、2騎を戦闘不能に陥れていたが、心は動揺を抑えるので精いっぱいだった。この星の歴史を少しでも齧ったことのあるものならば誰しもが思い浮かべる、生きとし生ける者を巻き込んだ忌まわしき戦争を、隊長も眼前の戦闘に重ね合わせていた。
だが今は絶望に浸っている暇は1秒もない。先に対処しなければならないことが山積している。隊長がアロマに返す。
「これがお前の言う歌精の力なのか、我々は歌を歌うことで異常なまでに強力な力を発揮できるようになった」歌を歌わなくても、恐らく歌精の力が宿っているであろう動物達の叫び声によって、人外の力を破棄できているのは、アロマと隊長自身が証明している。アロマが己の脳裏で補完した。そして耳をつんざく騒音の中、アロマが叫び声のような相槌で応える。
〜2016/01/02〜
修正完了
〜2015/09/04〜
5週続いた金曜の飲み会+徹夜カラオケも、今週は無かったので、ちょっと更新。。。
書きたいところが近づけば近づくほど、展開のつなぎ方に苦労する。。。。どうやってもってこう。。。。(悩)
そいえば、サイト公式でSSの大会やるそうで。。。。で、ふと思った。。。
「SS」って何の略だと思いますか。(to 不可視の読者様方)
「ショートショート」?「ショートストーリー」?
僕は前者の方が創作ってニュアンス強そうで、こっちだと思ってます。。。。。。謎ですね(謝罪)
- AsStory /予告用短編 『二人の精霊王』 ( No.262 )
- 日時: 2016/01/02 17:40
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: p/lGLuZQ)
「現状の攻撃なら、全兵力を注がなくても対応できる。問題は南の聖騎士達だ」アロマがユニオナの騎士の馬上槍を掴み、騎士を引き摺り下ろしながら返事をする。
「自軍の精鋭を聖騎士達に向ける。残りの部隊でバリゲートをつくらせ、その後背から精鋭を発たせる。バリゲートの統率はスカユフに任せる。精鋭を送った後はあの呪われた騎士どもを引きつけさせる」敵騎士の兜の上から、延髄を木剣で強かに打ち据えたアロマが、バネの如く身を翻し、両眼を血走らせて詰め寄る。
「待って!ただでさえ人がいないのに、それを更に分けて聖騎士の集団に向かわせるですって?自殺行為以外の何ものでもないわ」
眼前の騎士が、スリットの奥で瞳が殆ど見えなくなるほど瞼をおろし、鉄仮面のように表情を固めてアロマの言葉を聞き届けている。目の前の男が何も応えようとしないことがわかると、アロマが更に怒気をたぎらせて声をあげた。
「その精鋭っていうのがユニオナの聖騎士に立ち向かって勝算はあるの?無いでしょう、無いに決まってる。いくら歌の力で強くなっているっていったって、その力を制御できずに正気を失っている仲間が大勢いるわ。それに、いつまでその力が続くのかわからない。バリゲートが崩される前に、僅かな手勢で数がわからない相手を倒さなくてはならない。この部隊の人々の殆どは、家族のために来てる。この作戦が失敗したら、生きる希望を絶たれ路頭に迷う家族が、子供達が大勢いるわ」アロマが両腕を振り回し、全身で訴える。「剣を交えず、退却に徹すれば生き残る術があるはずよ」
アロマが持論を言い終える頃には、隊長は最後の騎手を気絶に追い込んでいた。そしてしっかと両眼を見開き、スリットの奥から眼光を横溢させ、漆黒のフードの奥の双眸を睨み付ける。
「お前の言う通りだ」眼前の男の声は低く、落ち着いていた。
「事態は一刻を争う。極端な劣勢。さらには祖国に置いてきた数多くの女子供の命運も背負っている。我々のたった一つの頼みの綱は、どれほどの効果を発揮するのか、いつまで持つのか、力を使ったことによる代償もわからない歌の精霊の力だ。聖騎士達への対処に手間取れば、ここに残された兵士たちは深刻な被害を受ける」これみよがしとばかりに、自軍の雑兵達の不器用な歌が隊長を四方から囲むように響く。獣人の少年が円い耳を立て、敵方の騎士の気配を見逃すまいと躍起になっていた。幸いと言うべきか、この一時だけは周囲の友軍にユニオナの騎士たちの注意が向いていた。それでも予断を許さぬ乱戦の真っ只中であったが、隊長の自若とした振る舞いは揺らぐことはなかった。相手を諭すように静かに話し続けた。
「だが退却に徹すればどうなる。隠れ蓑となる森の樹々のほぼ全てが薙ぎ倒され、竜が自在に地形を歪めているこの地で逃げ切れるはずがない。みすみす聖騎士達の突撃を許し、敵軍本体との挟み撃ちにされ、間違いなく我が部隊は全滅だ」
隊長がもうすこし話そうとするところを、アロマが怒鳴って遮る。
「聖騎士への勝算は同じくらいないわ。部隊が徐々に死んでいくのか、総攻撃を受けて一気に死ぬのかの違いしかないじゃない!」
動物達のノイズと、仲間たちの歌声をねじ伏せる怒号に、再び西から湧き出る騎馬数騎が3人に注意を向ける。
「それが重要なのだ。ユニオナが大挙を成してきたほどだ。龍への対抗手段が現れる可能性は高い。それまでに一人でも多く生き残らせるののだ。時間を稼ぐのだ。全員生き残らせるなどという綺麗事は抜きだ」
最後の一言に、アロマが両眼と口を開けたまま唖然としていた。獣人の少年の警告の声、銀と鋳鉄がぶつかり合う音、戦場の音という音が聞こえなくなった。
「……いつもそう言って、綺麗ごとを、できたことがないんでしょう……」漆黒のフードの奥に虚ろな目を隠して女が呟いた。
「やるまでもない。己が身を滅ぼすだけだ」堕天使の囁きと聞き違える程に、重たく、塗れた声だった。
隊長の目の前で、細い肩が震えているのが、ゆったりとしたローブ越しでもはっきりと見えた。獣人の少年が西の敵の来襲を言いよどむと、一呼吸おいて大声で知らせた。途端に隊長の声がいつもの調子に戻り、次の指示を話した。
「お前はスカユフに今言ったことを伝え、大至急バリゲートをつくらせろ。その後すぐに聖騎士達の前線の位置を調べるんだ。くれぐれも近づき過ぎるな。——行け」獣人の少年が戸惑いを払拭するかのように声を張り上げて返事をし、飛び出していった。立ち尽くすローブの女に、隊長が語気を強めて声を掛ける。
「わたしとお前ははバリゲートができるまでに使えそうなやつを10名ずつ探す。バリゲートが出来次第その裏から二手に分かれて南に向かう」
アロマが無言のまま、影になったかの如く音もなく揺らめくように一歩目を踏み出そうとしたその瞬間——。
仲間たちの方を見ようとした隊長とアロマの目線の先で、獣人の少年の駆け足が、派手に音と土埃をあげて止まっているのが見えた。少年が素早く右に転回した。どうした、と隊長が少年に怒鳴りつけると、少年が一心不乱に耳を欹てている。
「隊長、聞こえる——来る!」蒼白の顔面を遥か前方の上空に向けた。隊長は同じように見上げたが、アロマは少年の言う方向を向かなかった。否、向けなかった。ほぼ同時に彼女もまた、地面の異様な揺れと、敵の戦意を打ち砕く幾多の喊声を南の森の奥に察知していた。
二人の異変に気付いた隊長が即座に叫ぶ。「全軍散開!散れ!戦闘を止めて離脱しろ!」
隊長の号令に、ミダの部隊全員が蜘蛛の子を散らしたように開豁地の外周に向かう。駆けずり回るミダの雑兵のそばに、上空から降ってきた聖騎士の騎馬が立て続けに3騎、大地に強烈な一撃と巨大なクレーターを作った。ミダの部隊は全員、聖騎士の攻撃の直撃を免れはしたが、衝撃波に巻き込まれ吹き飛ばされたものが何人もいた。そして今度は、聖騎士一団が大地を揺らし、砂埃をかつてあった森の樹々も高く舞い上げ乍ら突撃を仕掛けてくる。主戦場に突入してきた聖騎士の騎馬を目の当たりにしたミダの雑兵たちは、今まで相手にしてきた騎馬との大きさと速さの違いに誰もが戦慄した。だが、よく見ると、聖騎士達の突撃は整然としていない。アロマと対峙した聖騎士の渾身の抵抗で、一時ではあるが正気を取り戻した聖騎士達が、呪われた仲間と騎乗で争いながら、あるいは騎馬同士で体当たりをお見舞いしながらと、仲間同士の乱戦が戦場に繰り広げられた。乱戦を抜け出した一部の呪われた聖騎士が、開豁地の外周にかたまっている敵兵たちを狙って突進してきた。
ミダの隊長が再び声を上げる。「私に続け!仲間を襲う敵聖騎士を片っ端から片付ける。乱戦には——」
急に大地の震動が激さを増し、しまいに隊長の声が聞こえなくなった。駆ける騎馬の震動や、小動物らの鳴き声の衝撃波などとは一線を画す、激烈な地震が開豁地のミダ、ユニオナ全軍を襲った。小動物達のノイズが益々酷くなり、空間を染める黄色の光が明るさを増して白みを帯びた。
地面が割れるのではないかというほどに揺れが激しくなり、馬から落馬する者、倒れた馬に巻き込まれるもの、地面にはいつくばる者が戦場を埋め尽くした。やがて立っている人間は一人もいなくなった。
「何事だ!」
叫んだ隊長が地面ではなく、無意識に空を向いていた。龍に呪われた騎士達も、正気を失ったまま上を向いた。歌に呑まれた者は、地震に負けじと、今まさに訪れようとしている脅威に負けじと一層声をあげ歌い、上を見据える。
そして、地面で歌い続けていた小動物達の中で翼をもつ者が一斉に飛び立った。空を埋め尽くす無数の点が波打つように揺れ、円い渦を巻き牽制するように空に向かい声をあげる。
黄色の光で埋め尽くされた空が再び漆黒の闇に染まり始めた。やがて分厚い雲を呼び寄せ、元の闇よりも深く重たい黒に染まる。
激烈な大地の悲鳴を覆い尽くすように、暗雲の向こうの天空から低い声が響き渡る。
「神に楯突く矮小な命達よ。汝の愚かさを躯と魂を以て償え」
声の残響が消えると、突如冷たい空気が人間達の頬を撫でた。鳥たちの声が急に聞こえなくなった。歌に呑まれた者は未だに歌を歌っているはずにも関わらず、声が聞こえない。呼吸も許される静謐な間が広がる。そして——。
無数の光の矢が、戦場の地面を貫いた。
誰もが聞いたことの無いような激しい雷鳴と共に、光の矢が戦場の地面を貫く。雷鳴の衝撃波で髪が逆立ち、甲冑が耳触りな金属音を立てて揺れた。兵士らが地面に這いつくばったまま、数メートル後ろに追いやられた。
光の矢の刺さった地面には、くっきりとした断面の拳大の穴があいていた。深くて底が見えない。穴を辿っていけば、マントルと呼ばれる溶けた岩石の層の、世界で一番目の発見者になれるはずだった。
勢いを削られた騒音と歌声と共に、空を覆い尽くしていた漆黒の雲がひいていく。だが、そこに見えてきたのは、黄色く染まった空は無い。巨大な鱗、巨大な口、首。真上に見える顔と首があまりに大きいために、胴体と翼は水平線の当たりに少し見える程度だった。
〜2016/01/02〜
修正完了
〜2015/09/06〜
今日は一日というか半日書くのに専念。。。午前中あんまり体がだるくてずっと寝てたら、昼飯後に急に書く気が湧いて来て今までPCに張り付いてました。。。
でも、だいたい一気に描くと誤字と書きたい内容がとんでたりするので、いつもの如く修正はいると思います。
にしても、スカユフ。。。。言っちゃダメだ!!
離れてしまっていた戦闘曲のスレ、早く返信しないとなぁ。。。
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