二次創作小説(紙ほか)

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AsStory /予告用中編 『二人の精霊王』
日時: 2015/09/20 00:30
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 3qG9h5d1)

初めまして!
書き述べると申します。


 この作品は以前、シリアスのカテゴリーだったのですが、第七話からはこのサイトに投稿されている他の方の作品の内容を混ぜ込ませていただくことになりましたので、このジャンルに引っ越してきました!

カキコ内二次(合作じゃないですよ)……結構珍しい様な気もします。

混ぜ込む作品は——
『Enjoy Club』(作:友桃様)
です!
そして
『ウェルリア王国物語』(作:明鈴様)

ぇ、二つもやって大丈夫なのかって?貴様のプロットどうなってるんだよって???

(黙殺。。。。。。)



1点注意していただきたい事が……。
冒頭でも触れておりますが、もともとシリアス・ダークの作品なので、そのカテゴリー特有の表現があるかも知れません。できるだけグロい表現は使わないつもりであはりますが……。


更新の間隔が2か月空いたりすることがよくありますが、寛大な御心で受け入れてくださいますと大変有り難いです!


【最新話直前の状況】

(現在修正中・・・・・)




【お客様(引っ越し前の方含みます)】
  アメイジング・グレイス様
  アサムス様
  友桃様
  通りすがりの者です。様
  (朱雀*@).゜.様



【目次】

◆◆ 序章 ◆◆

 1話 >>1

 2話 >>2-3

 3話 >>4-5

 4話 >>6-11

◆◆ 第一章 ◆◆

 5話 >>12-13

 6話 >>14-19

 7話 >>21-25

 8(1)話 >>29-31

 8(2)話 >>38 >>41 >>44 >>46 >>48 >>51 >>53 >>58 >>60-61 >>63-64 >>70-75

 9話 >>81-82 >>87-88

 9(2)話 >>90-91

 9(3)話『時空間操作システム』 >>95-96

 9(4)話『副長官、乱心』 >>98-100

 9(5)話『時間ときを越えて』 >>105-107

 9(6)話『地を駆る鳥』 >>110-114

 10(1)話『ひかり、在れ』 >>118-119

 10(2)話『幕開け』 >>129-132

 10(3)話『交錯する時間とき>>142-153

 10(4)話『混迷に魅入られし者たち』 >>160-166

 10(5)話『絶体絶命』 >>172-175

 10(6)話『PMC、対陸軍攻撃陣』 >>180-189

 10(7)話『突入』 >>192-197

 10(8)話『スナイピング』 >>200-204

 10(9)話『ひかり、在れ』 >>209-210 >>213-214 >>227 >>229-230


◆◆ 第二章 ◆◆

 11話『逃走』(更新中) >>232-239


〜〜小説紹介〜〜
『☆星の子☆』((朱雀*@).゜. 様) >>108
『Enjoy Club』(友桃様) >>109


書き始め 2010年冬頃
(もう3年経ってしまったんですねぇ)

〜〜予告用短編〜〜
『月光』 >>126-127

『二人の精霊王』 >>243-245 <<<<<<<<(現在作成中!)

〜〜クリスマス短編〜〜
『クリスマス・プレゼント』 >>217-225

〜〜キャラ絵〜〜
メクチ >>207
水希 >>208
水希(変装後) >>212


登場人物一覧
>>206 (リアルパート)
>>216 (ファンタジーパート)

〜追伸〜
ツイタやってる方。。。R18記事があってもOKって方は、ちょっとフォローしてやってくれませんか?? => @motto_e

あんまり呟かないですけどねぇ〜(ぇ?)

AsStory 〜予告用短編『二人の精霊王』〜(作成中) ( No.243 )
日時: 2015/10/12 01:22
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: BLMhacx0)
プロフ: https://www.youtube.com/watch?v=LjGGOoyrUCw

早速途中まで上げます。。。。。。



『二人の精霊王』


二〇十二年四月四日正午 某所原生林の中——

 分厚い枝葉の層を巧みにすり抜けてくる、陽光の光芒の角度からして、恐らく正午に差し掛かった頃だろう。そんな考えを見透かされたかのように、目の前の男の腹が盛大に不満の声をあげた。慌てて腹を押さえ込み、申し訳なさそうに猫背になる男の両脇から、からかいの視線が突き刺さる。程なく視線を投げた両脇から、腹時計が腑抜けたアラーム音を鳴らし始めた。左右の間隔は肩がすれ合うほどに、前後の間隔も同じ程度に詰めていたので、周囲の何人かに目の前の3人の体たらくが知れ渡っていた。だが、誰も彼らに対して非難の目を向ける素振りを見せなかった。

 深深しんしんと雨の降る夜明け前、ミダの辺境にある村から出発した龍狩りの行軍は、原生林に入ると、ぬかるんだ落ち葉の絨毯と、それらに覆われ形状のわからなくなった地形のせいで、ゆうに三時間分はロスをしていた。だが、朝飯を腰にぶら下げた堅いパンとバターの塊を歩きながら喰らってお終いという状況だった彼らにとって、昼飯を喰うことは何を差し置いても成し遂げるべき命題になっていた。

「隊長は今どこかしら」

 閑耕期の農家で穀潰しになっていたために龍狩りの徴兵に参加させられました、というようなみすぼらしい出で立ちの女が、腹の虫を鳴らした目の前の男に、背中越しに話しかける。

「ああ、たぶん随分先行ってるんじゃないか。っておいらの後ろに女がいたのかよ。黙りこくってねぇで面白い話とか歌でも歌ってくれりゃ、ちったぁマシな行軍になったのかも知れないのによぉ」

 この地域では、女性が行軍に参加することは珍しいことではなかった。戦闘の真っ只中に放り出されることはないが、長く陰鬱な行軍の時に場を明るくさせるために、女性兵士が必ず数人はいるように、部隊編成では女性兵士が必ず数人はいるように配慮されていた。にもかかわらず、雨粒を凌ぐために被ったフードの奥にひそむ深蒼の双眸は、空気を和ませるどころか男の背中を貫かんとばかりに睨み付けている。それだけでは眼前の男に何も伝わらないので、ローブの女がわざとらしく大きく鼻を鳴らした。

——こちらが下手に出れば。出稼ぎオンナが何様のつもりだ。
 男が前を向いたまま右の頬をひきつらせた。

 戦争の体験談なら数えきれないくらいある。美しい歌も、歌手には遠く及ばないが歌えないことはない。だが、ウェルリア王国騎士団副団長のアロマ・ナムロスには、雑兵の身分の彼らに理解できる話や歌は何一つ持ち合わせてはいなかった。今は、ある事情で身分を隠し、砂漠と緑の王国ミダの、龍狩りの行軍に参加していたのである。

「あら、ごめんなさい。私、畑仕事ばっかりしてて、そういうお話聞いたことなくて。歌も下手だし……」

 フードで鬼の形相と煮えたぎる感情と声の震えを隠し、穏やかに応えた。

「畑仕事ばっかできたって、嫁さんもらってくんねぇぞ。もちっと器量良くなくちゃなぁ」

 そこら中に張り巡らされていた感情の導火線を一気に断ち切るように、右の二つ隣あたりからとぼけた声が返ってくる。野卑な笑い声が二人の周囲で沸き起こる。

 図らずも彼女は自身の言葉によって、女性兵に求められることを遂行するきっかけをつくったのだが、これ以上言葉を出そうとすると、騎士団の隊長格の騎士ですら縮み上がる怒号を発しそうだったので、無言で行軍の脇を走り、遥か前方の隊長の下へと向かっていった。日頃の鍛錬で鍛え上げられた運動神経と体勢で、瞬く間に木々の合間に消えていった。

「なんだぁ、うちらの部隊の女は随分と変わりモンだのう。それに、足べらぼうに速いのう——」


 時間が押しているということで、結局昼飯も歩きながら摂ることになったが、隊長の計らいで、隊の食糧から追加の食事が配られた。貴重な物資ではあるが、目的地に到着したときに、戦意も体力もゼロではどうしようもないとの判断故だった。

 この対応が奏功し、昼食後は予定の5割り増しの速度で進軍していた。

  午後の道中、人の顔よりも大きく、肉厚な葉が幾重にも重なり雨粒の大半を弾いてくれたおかげで、ずぶぬれになる心配は無かったが、太陽の南中を迎えても、イトミミズのように細々とした陽光の光芒が幾筋か差し込むばかりで、少し目線を先にやると暗闇が口を開けて待っていた。

 密林の住民達も食事を終えたのか、それともこれから午後の狩りが始まろうとしているのか、喧騒が徐々に強くなっている。

 遭難を防ぐために、数本の2列縦隊で進むミダの龍狩りの部隊も、密林の形無き圧力に抗おうと、ところどころで鼻歌や猥談の声が沸き起こり、大きさを増していた。

 アロマのいる部隊も、本人にとって非常に不本意ではあるが、先ほどの一件で全員が打ち解け、今まで一言も話せなかった分を取り戻すべく、ここぞとばかりにアロマが情報収集のために積極的に喋り捲っていた。

 集めた情報によればこの龍狩り作戦、ミダ以外にも、大陸最大最強と言われるの国家ユニオナも行うらしい。但し、ミダと連合しているのではない。どちらが先にアークドラゴンを生け捕りにするか、出し抜きあいなのだ。そのため、作戦に関する日程は両国とも最高機密だ。

 表立って龍狩りの実行を表明しているのはこの2国だが、水面下では周辺の中小国家、部族もそのような動きは出始めているらしい。ちなみに、ミダでは今回が初めての龍狩り作戦ならしく、一方のユニオナも先行して一度行ったのみとのことだった。かの作戦が、一度二度で完了するとは到底思えない。大陸の内陸部の地理的、政治的な事情で東西の情報のやり取りが困難な情況で、今回の情報が長丁場の初期段階で本国にもたらされたことに、副騎士団長はひとまず安堵した。

 一点、アロマが非常に心外に感じたのが、彼女の自国を差し置いて、勝手にユニオナが大陸最大最強と評されていることだった。東西の情報のやり取りが極めて疎であるがために、庶民の層まで、大陸東岸に面する王国の名声は伝わっていないらしい。アロマの両親も生まれてもいない過去の話ではあるが、まだ大陸内陸の政情が今よりは安定しており、ユニオナが彼の地域と国交・通商があった頃、大陸最強を自負するその国が大陸を横断する大遠征を仕掛けてきたことがあった。大陸内部の情勢が安定しているうちに、大陸東部に進出する海路を開拓するための足掛かりとして、ユニオナの得意とする陸路で西岸に植民地を築くというのが、彼らの名分であった。確かに内部の地域は精霊の力が強く、人間の小さな部族が幾つも現れては、精霊らの人知を越えた力によって滅ぼされていくという、禁忌の地であったがため、数十年ぶりの短き安寧が訪れたこの時期に、肥大化した王国の王侯達は尤もらしい理由をつけて、大陸横断のための遠征軍を結成したつもりであった。だが、どんなに内陸が平穏であろうと、長大な大陸の東西のサイズが縮むわけではない。
 畢竟、疲弊しきったユニオナ遠征軍を相手に、当時の王国騎士団は数では劣勢だがウェルリアやや優勢という、ユニオナの国民を含む大陸西部の民衆の下馬評を更に上回り、一人の死者も出さずに哀れな大軍を返り討ちにした。

 件の遠征が計画されたころから、城下の市井ではみすみす国軍の自壊を招くような遠征のために重税を課された市民が、挨拶代わりに昨今の国王の暴走ぶりに憤懣を垂れていたといわれている。国王に対する批判は、当局に見つかれば反逆罪で極刑を免れないにも拘わらずだ。そして、惨憺たる戦果が本国にもたらされると、ユニオナ国内の緊張は頂点に達した。ユニオアの王室は、権謀術数の限りを尽くし国民を煙に巻いて窮状を凌いだが、文字通り一触即発、まさにあの時が大陸最大の国家ユニオナの歴史の分岐点であったと、末代までその時代の人々に色鮮やかに再現される、大国の歴史でも2番3番にあげられる語り種となっている。ちなみに1番の歴史的エピソードは——古くからある国全てに当てはまるが——、言うまでもなく精霊戦争である。

 ユニオナと一戦を交えたのはそれが最初で最後だ。肥大化しすぎた国家につきものの失態はこの頃から始まっていたのかも知れない。

 ウェルリアは建国以来、国境を広げたことはないが、大陸東部の数多の周辺国の侵略に対し、一歩たりとも国境を退いた記録もない。ウェルリア王国はユニオナよりも遥かに歴史が浅く、国土もその1割程度しかない。唯一の戦争も相手側が常軌を逸していると言っても過言ではない遠征であった。とはいえ、大陸全土で「最強」「無敵無敗」の二語を許されているのは、大陸東岸の王国のみなのだ。


 アロマが隣の男に、当初から抱いていた疑問を投げかけた。

 だが、神の右腕と呼ばれるアークドラゴンを生け捕りにするなど、他国と競り合う前に、そもそもそれら神獣と対等に渡り合えるようには思えない。ミダには、いや人間側には秘策があるのだろうかと、末端の雑兵に聞いても意味は無いのを承知の上で聞くと、「そんなのねぇよ。負けるに決まってるじゃねぇか」

 アロマが危うく足を止めそうになった。後ろからブーイングが跳んでくる。樹上から、姿の見えない獣達の卑しい笑い声が共鳴する。

「どういうことだ。お前達は死にに行くつもりなのか!」

 突然地の口調に変わったアロマに、男が驚きと憤懣たっぷりの表情で睨みつけてくる。一瞬にしてその場の空気が張り詰めた。薄暗いせいで男の顔の迫力が増していた。

「何バカ言ってやがる」いちいち癪に障る隣の男の物言いに、アロマの右頬が引きつる。

「逃げるに決まってるだろ。作戦に参加するだけで結構な金が貰えるからやってるだけだ。アンタも農家ならそれで来たんだろうが」

 怒りを通り越して、唖然とした。そうだ、この者達は雇われ兵士なのだ。ウェルリアは原則として傭兵を使わないため、戦争に対する姿勢が根本的に違っていることを今更ながらに思い知らされた。

「まぁうちらの隊長も、ドラゴンが動き出したらさっさと逃げを決め込むんだろけどよ」

 アロマの顔が一瞬にして凍り付く。「何故だ!あいつは騎士だろう!戦わずして逃げるとは何事だ!」勢いよく前に踏み込み、フードがめくれそうになった。

 ミダ全軍の進軍が止まった。猛禽類に捕まるまいと、息を潜めていた小鳥や虫達が異変を感じ、一斉に飛び立った。

 言い切ってから後悔の念がこみ上げかけたが、すぐに怒りがそれを心の奥底に押し返した。騎士が任務に背くなど納得できない。

あまりの怒号に、部隊の総隊長が直々に駆けつけてきた。足場の悪い原生林を通り抜けることはわかっていたはずなのに、場違いに燦燦と光沢を放つ壮麗な銀の甲冑に全身を包んだ隊長の騎士は、三十代くらいに見える。一挙手一投足に気品が感じられなく、大国の騎士の悪い面を前面に出したかのようにがさつで鷹揚に振る舞っている。甲冑の兜を外すと、短く切りそろえた濃い茶色の髪が汗で頭の形に沿って、撫でつけられていた。つり上がった太い眉の下に、ぽつんとたたずんでいる小さな目を豆粒のように眇め、アロマ達を鋭く睥睨した。そして、雑兵達の悶着のいきさつを、次に最後の雑兵の話の内容を聞き取ると、隊長はそれを否定しようとはしなかった。そして付近の雑兵達を集めると、静かに話し始めたのである。第一印象とは裏腹に、小さくても森の喧騒に負けない芯のある低い声。そして、一人一人をじっくりと見つめながら話す様子は、誠実そのものだった。

 龍狩りの動きは大陸全体に広がりつつある。だが、アークドラゴンの生態どころか、居場所すらまともにわからない状況で、たとえわかったとしても、とても人間が踏み込めるような場所ではないことが殆どである。ユニオナが作戦失敗した状況というのも、アークドラゴンとの戦闘に至っていない。過酷な道程の中で、部隊の戦力の大半を失い、撤退を余儀無くされたとのことだった。

 今回の作戦がこの地に決まったのも、ここのアークドラゴンの巣の近くまでの行程が、最も安全だったからである。それ以外に相手の情報が何もないのに、ましてそれが神の右腕という人知を越えるような相手にも関わらず、ただ向かっていくのは愚の骨頂、赤子でもわかることである。それがなぜ、この大陸で龍狩りの動きが広まっているか皆目検討が付かない。

 敵将と刃を交えることなく天に召されていったユニオナの騎士、傭兵は気の毒だったが、龍狩りが無謀だと戦争知らずの貴族達に説明する貴重な材料ができた。事例が一つでは足りないので、今回は龍の姿を見た上で退却する。見ずして帰れば、我々が証言を求められたときに辻褄が合わずに尻尾を掴まれるのが関の山。

 神の右腕とさえ呼ばれる幻獣の姿を目の当たりにすれば、詳細までわからずとも戦うことが無理だという理由は幾らでも浮かび上がってくるだろうし、お互いの意志も揃えやすい。

 国王を始め、貴族達が何故このような酔狂では済まされない馬鹿な真似をしでかしているのかがわからない。が、龍狩りの先遣隊にいきなり虎の子騎士団を寄越さず、雑兵を送り込もうという最低限の慎重さは残っている。彼らの中の理性に訴える余地はあるはずなのだ。できることなら体を張って訴えるようなことはしたくはないが、高貴な御仁達は常日頃から平民、農民達の言葉には聞く耳持たない人種であるから、我々が意見を言う手段は自ずと選択の余地がなくなる。

 国王の勅命を遂行しないという、一歩間違えば反逆罪にとられかねない重大な違反だが、故意だと悟られなければ、騎士でもなければ裁かれることはない。私は一人の犠牲者も出さずに、龍を目撃し、平穏のうちに乗り切る自信がある。そして勅命を遂行できずとも地元に戻れば、本物の龍を見てきた英雄として崇められるのは間違いなしだ。

 そこまで言い終えて、隊長の騎士はおどけるような微笑みを周囲で聞いていた連中に向けた。いつの間にか、薄暗い密林のど真ん中で、巨大なトンボが視界を横切るのも気にせず、耳元で巨大な蚊が低い羽音を立ててうろついているのも気にせず、脹ら脛に蛭が何匹か噛みついて、十数cmに不気味に膨れ上がっているのも気にせず、汗と泥でまみれた雑兵達が、誰かの号令があったわけでもないのに円陣を成して集結していた。大半の者が、ただ当面の生活費をできるだけ労せず工面しようと、それほど厳しくなさそうな指揮官を選んでこの作戦に参加していたのだが、その隊長の話に誰もが聞き入っていた。にわかに膨れ上がった話にある者は武者震いし、またある者は豆鉄砲を食った鳩同然の顔をして硬直し、またある者は露骨に怯えている。アロマは、かすかに俯いて面貌をフードの奥に隠し、眼前の騎士の弁舌を何度も繰り返していた。




〜2015/10/12〜
最期の隊長の口舌の部分を中心に更新です。。
〜2015/09/27〜
>>>アロマが隣の男に、当初から抱いていた疑問を投げかけた。
 の手前まで修正完了です。。。。
 主に各国家の関係と地理的な位置、そしてウェルリアがもともと強国である点を書きました。
 原作で、一、二を争う強国と書かれているを見落としてました。。。

 引き続き修正進めてきます。。。。相当時間かかるなぁ。。。(溜息)

AsStory 〜予告用短編『二人の精霊王』〜(作成中) ( No.244 )
日時: 2015/10/19 01:49
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: BLMhacx0)
プロフ: https://www.youtube.com/watch?v=LjGGOoyrUCw

 隊長の騎士が、甲冑の小手で二倍に膨れ上がった両腕を広げ、平手を威勢良く打ち付けた。

 そこら中の木々に共鳴し、すぐに円陣に跳ね返ってくると、浮き足立っていた雑兵達ははっとして隊長のほうに向き直り姿勢を正した。アロマはフードの奥に顔を隠したまま、右の眉を少し持ち上げただけだった。

「だからこそ!」

 隊長の騎士が、勝ち気な表情で周囲を睥睨する。

「死ぬなよ!金もらって生きて帰るんだ。わかったな!」

 大きく一度、鬨の声が密林の重たい空気を吹き飛ばした。全員がきびきびと縦隊の体勢に戻っていく。端から見れば、とても負け戦をしにいく軍の動きに見えなかったはずである。

 アロマも列に戻ろうとしたとき、隊長の騎士に声を掛けられた。相変わらずの突き刺すような目線を騎士に向けた。

「君は——」男の眉の先が下がり、笑顔とも困惑ともとれそうな顔つきになる。

「どこの出だ?」

 フードの奥の深蒼の瞳が険悪そうに煌めく。「どこって、カカ村の——」
 アロマが言い終える前に、騎士が大きくため息をついて首を左右に振った。

「嘘をつくならもう少し設定を綿密に詰めておくんだな」アロマの左右の瞼が夜のミミズクのように見開かれる。「う、嘘だなんて」

「あと、目つき。そしてもう少しけだるそうにな」アロマが言葉を詰まらせて後ずさりした。

「どこの国の密偵だがわからないが、いや本職の密偵だったらこんな下手糞な変装しないか」

「なんだと!」右の拳を胸の前で固め、配下を凄むときの声でくってかかる。通りすがりの傭兵が、訳もわからず冷やかしの口笛を吹いて去っていく。

「どこぞの騎士かわからないが、もう少し大人しくしないと、この軍は素性不明な人間だらけだからな。気をつけるんだな」

 騎士が兜を被ると、さっさとアロマの目の前から去っていった。アロマは唇を噛みしめ、呻くしかなかった。


 ミダの部隊は息巻いて目的地を目指していた。気紛らわしに、それぞれが故郷の唄を歌い合い、耳に馴染むものは自然と他の者も歌いだし、歌い飽きたらまた新たに他の歌を歌い始めると言った具合だった。行軍の速度はますます上がっていき、このペースを保てれば、予定通りの時刻に目的地——龍の巣近辺——に辿り着ける見込みだった。

 ミダのほぼ全部隊が意気揚々と行軍を進めている中、アロマの部隊だけは葬列のように静まり返り、時折甲高い叫び声が響いていた。

「おい、姐さん。そろそろ機嫌直さないか」

 フードを深く被り、頑なに押し黙り、闇に呑まれて見えなくなった隊列の先頭を睨みつけている。真っ白な肌にへの字にひん曲がった小さな口だけが見える様子が、女性騎士のヒステリックな怒りを忠実に表していた。

「世界の半分は男なんですから——」

「だから、そういうことじゃないって言ってるじゃない!」

 後ろから宥めてきた大人しそうな男性兵士に、振り返らずに怒鳴り返す。アロマの声の音圧に負けて、哀れな男性兵士は無様に尻餅をついた。

 アロマもどうにかして荒ぶる心を静めようとしているのだが、もがけばもがくほど蟻地獄のように深みにはまってしまっていた。更に、火にガソリンを注ぐかのように、名状し難い濁声が遙か後ろの分隊から響いてきた。前後の分隊も引き続き適当な歌は歌い合っていたのだが、そこに覆い被さるように、音量ばかり飛び抜けているどうしようもない音痴な歌、歌というよりは毒音波が飛んできたのである。

 先頭を行く隊長直属の分隊は、幸運にも難を免れたが、それ以外のミダ軍の傭兵達は耳をふさいでも手を貫いて聞こえてくる何者かの声で、皆地に膝を落としていた。ひっきりなしに放たれる罵倒の文句に、漸く声の主が気付いたのか、音波が止まった。怪音波が発生するまではあんなに騒々しかった密林が、完璧な静寂に包まれている。兵士たちが頭上に目を凝らすと、小型の猿の類は幹に必死になってしがみつき、枝から落下しないように身を固めていた。鳥達は大型の鷲から手のひらサイズのコマドリまで、大きさを問わず一切合財が何処いずこかに飛び去ってしまったらしかった。

 肉体の自由が戻るなり、殆どの兵士がへたり込んでいる隊列の脇を後方に向かって疾走した。変装を見破られていた腹立たしさ、先の不愉快な声、その声に屈してしまった口惜しさ。3つのうち2つは原因が自分にあるのだが、誰かにぶつけなくては気が済まなかった。

 萎れている野草に追い討ちをかけるように踏みつけて行くと、既に近くの分隊の男達に困り切った様子で頭を掻き、謝罪の文句を言っているような姿が見えてきた。会話の内容が判別できるまでに接近すると、実は男同士で冗談を飛ばして談笑しているようだった。完全な男社会の中で紅一点の彼女が見てきた、男の言う人間の暗部が眼前の彼らにピタリと合致し、男共の目の前で立ち止まった時怒りは絶頂に達した。

「アナタ達、自軍にこれだけ損害を与えておいて、何をヘラヘラしているのかしらねぇ」

 激怒のリミッターを破ったアロマの口調は、かえって静かにそして冷酷な笑みを浮かべていた。面貌に深い影が落ちている。

 一番近くにいた、アロマより20歳以上は年上の中年の兵士の二重顎にアロマの手がかけられると、中年兵はその冷たさに全身を凍り付かせた。自分が歌ったんじゃないと釈明する余地は失われていた。

「お嬢さんよォ、ガタガタ言うなや。もうそこいらに謝ったぞい」

 アロマが、顎を掴んでいた中年兵を突き放し、犬歯を剥いて声の方に向き直る。あの歌を聞かされた時の不快感が五感を通じて蘇る。アロマが声を出そうとして、相手の面貌を睨み付けると、言葉を失った。

——バケモノ。

 薄暗い茶色の、アロマよりも少し高さのある肉の塊のようなものが、右手を腰のありそうな位置に当てて佇んでいる。密林の行軍にも関わらず、半袖のよれた毛皮の上着に、腰布、そして露出した肌は今回の行軍中で毒虫に噛まれたものと、元々の傷でどこもかしこも凸凹になっていた。もはや見た目は肌というよりは、鱗だ。肌の黒さと、薄暗い環境のせいで、笑って目を細められると、眼が無いように見えたが、男が眼を開くともっと悍ましい光景がアロマの瞳に刻み込まれた。

 片目が無い。

 普通は眼帯をつけて隠すか、せめて片目を閉じておくか、そもそも瞼が力を失い開くことが無いはずなのだが、眼前のバケモノは、己の顔の左の方に空いた穴を、無造作に見せびらかしている。鼻も恐らく、昔はこんなに潰れていたかったに違いない。口だって、明らかに後から裂けて——。
 

 沸騰していた気持ちが瞬間冷凍され、口から洩れたのは、あまりに間抜けな言葉であった。

「あなた、にん、げん?」

 黒い肉塊が、あごが外れんばかりに、豪快に笑い声をあげた。容姿も声も、究極の醜悪さだ。今になって気付いたが、密林の中でさえ体臭が鼻をついていくる。

「あったりめぇだろうよ!さっきから人の言葉しゃべってんじゃねぇがぁ、嬢ちゃんよぉ」

 肉塊が短い左腕の先についている、分厚くてでかい左手でアロマの右肩をはたこうとすると、アロマが音も立てずにそれをかわした。男が驚いて低く唸ると、眼の無い左側とセットで瞼を皿のように広げ、ますますグロテスクさが強められる。

「アンタも、エルフのみてぇな身のこなしじゃのう」


 また、馬鹿でかく耳障り気障りな声で笑われた。「ところでお嬢ちゃん、何しに来たんだい。酷い剣幕だったけんど。損害って何さ?」

 また別の兵士から声をかけられ、直ぐにその答えが思い出せずにアロマは刹那混乱した。

「そうよ、そう……。なんなのよ!あの……え、と……あの酷い雄叫びは!」

「また説明すんのかよ。面倒じゃのう」

「面倒なら、アタシが代わりにしてやるよ。アレはどっか行ってな」今度は女性としてはかなり低音の、ドスと絶妙な掠れ具合で凄みあかっている声がすると、アレと呼ばれた肉塊の男の後ろから、バケモノ男よりも大きな、浅黒い人影が立ちはだかった。

「隊長。何でオイラがいちいち下がらなくちゃなんねぇんだ。別に喧嘩おっぱじめようってんじゃねぇよ」

「なんだい、喧嘩するんじゃないのかい。じゃぁ、アタシゃ下がるよ」

 人影が再びアレという男の陰に引っ込み、後ろを向いて胡坐をかいていた。アロマがもう一度アレの頭上を一瞥した。僅かな時間だったが、自分よりもだいぶ背が高かった。アロマは背が高くも低くもないが、さっきの浅黒い女性は、大女というにふさわしい背丈とガタイの良さだった。ちらっと見ただけではたぶん男女の判別がつかないかもしれない。それにしても、あのアレというバケモノ男、どうして後ろの女性のことをあのように呼んだ……。

 アロマが新たに浮かんだ疑問を、眼前の男に問い質そうとすると、横から割り込んできた男の声に、先を越された。

「隊長ってどういうことだ?この部隊で長のつく役職は総隊長のみ。つまり私だけだ。分隊長は誰にも頼んでおらんぞ」

 甲冑の兜を外した総隊長が今、騒動の現場に到着した。アレという男が頭を掻いて隊長に頭を下げた。

「すまねぇ。つい口癖でのぅ」

「『隊長』が口癖だと?どういうことだ」





〜2015/10/12〜
いろいろと細かいとこ修正

AsStory 〜予告用短編『二人の精霊王』〜(作成中) ( No.245 )
日時: 2015/10/12 02:39
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: BLMhacx0)
プロフ: https://www.youtube.com/watch?v=LjGGOoyrUCw

「そのままの意味じゃがね。昨日まではオイラの隊長じゃったから、そう言うてしもうたんじゃ」

「何?」場が俄かに剣呑な空気に包まれる。張りつめた空気を肌で感じた近くの雑兵たちが、二人から数歩下がった。隊長とアレという男と凡そ正三角形を為す位置で棒立ちになっていたアロマは、左足を後ろにやり、真剣なまなざしで二人の動きを交互に見張っていた。

 部隊を急ごしらえで編成したため、徴集をかけるときに個々の身元は確認しなかったが、もし作戦中に身元が怪しいことがわかれば、適切な対応をとるよう司令部から指示があり、本部隊の隊長もそのつもりでこの作戦に臨んでいた。

「その隊長というのは、単に町民農民共の雇い主か何かを指しているのか」アレという男が低く呻いて首を横に振った。

「もし、お前たちが他国の軍の軍人ならば」騎士が左の腰に差した両刃の剣の柄を右手でしかと掴む。それにつられて、アロマまで掩護しようと腰を落とし、雨除けの薄い外套に隠した細剣に右手を掛けたところで、周囲の農民兵の視線に気が付き、寸でのところでそれを戻した。

「それなりの対応をとらざるを得ない」

「ただの傭兵仲間の間の呼び名だよ。隊長さん」

 隊長とアロマ、そして周囲の雑兵たちの注目を一心に浴びて、大女がのっそりと片膝をついて立ち上がった。改めて女性離れした体格に、アロマがしげしげと女を見やる。アレという男より頭三つ分は背が高く、横幅もやや広い。体格が女性離れなら、顔付きもまた美しさ、可愛らしさとは対極にあるものだった。肌は日焼けと皮がむけることの繰り返しでまだらの黒褐色になり、背中の中程まで無造作に垂れ下がる灰色の髪の毛は、光沢を失い外側を向いて逆立っている。目は小さく瞳は黒目、眉毛は戦闘での傷のせいか、すっかり抜け落ち、オーガーが女装したかのようだった。いや、まだそっちの方がマシかもしれない。防具はアレという男と大差ない。アレよりも上衣も腰布もボロボロで、もう少し状態が悪くなったら目のやりどころが無くなりそうな状態だった。最後に目を引いたのは、背負い袋と背中の間に挟み込むように掛けている、長尺の刃物だった。カバーがかけられて形状ははっきりしないが、刃を長くした鉈のようなものに見えた。

 ウェルリアも大陸の大国、小国から幾度と無く侵略を受けたことがあり、彼らと刃を交えたことも数知れず。ミダに来るまでに様々な町を見てきた。だが、こういう形の武器は見たことがない。似たような武器はあるが、ウェルリア騎士団副騎士団長の精錬された選別眼が確実に見分けていた。

「こいつは、アレスタ。アタシゃスカユフだ」

 スカユフと名乗った大女がゆっくりとアレスタの前に出てきた。足も具足をつけず、草鞋一丁だった。何の躊躇いもなく無防備な体勢で、険の柄を握ったままの隊長の近くに来ると、頭の天辺がほぼ揃った。お互いが真っ直ぐに目線をぶつけ合う。

「ミダスを中心に傭兵をしているよ。傭兵は町民でも農民でもないだろう?だからアイツが妙な返事しちまったんだよ」

「わかった」隊長が柄から手を外した。「ところで」隊長がアレスタを睨む。

「どうやら、アンタの仲間がトラブルを起こしたらしいが」

 ここぞとばかりにアロマが白目を真っ赤にしてがなり立てる。

「そうなのよ。この男がとんでもなく酷い声の雄叫びで、本当に死ぬかと思ったわ」

「いつもその調子で喋ってくれると有り難いのだがな」隊長がボソリと呟く。

「何か言ったか」

「いや、何も・・・・・・」

「全て聞こえたぞ」

「・・・・・・(誰が上官だかわかったもんじゃないな)」


「ところで——」

 アロマが左脇で大袈裟に舌打ちをしているのを相手にせず、隊長がアレスタに当時の状況を確認すると。アレスタのいる分隊は、全員で歌を歌い、大いに盛り上がっていたという。確かに、この男の声は酷いものだったが、他の分隊のように、足を止めてしまうような頭痛を起こしたものはいなかった。寧ろ、アレスタの声と楽器演奏にあわせて歌っていると、どんどん声が出てくる感覚があったと、分隊の兵士たちが異口同音に返ってきた。

「楽器を持ち込んでいるのか」隊長が鋼の小手を軋ませながら腕組みをし、アレスタを見下ろした。「楽器なんて大層なもんじゃねえがぁ」同じ分隊の仲間たちも、外野から同じようなことを言ってくる。

 アレスタが背負い袋の口に右手を突っ込み、力任せに引っ張り出すと、その拍子で弦が1本千切れた、ウクレレくらいの大きさの弦楽器らしき物体が現れた。隊長が不信感を露わに、楽器のようなものを睨みつけた。

 よく見ると、巨大な楕円形の樹木の果実を半分に割り、断面に木の板を張り、真ん中をくり抜き、成形した木の枝を首として果実に差したものだった。切れているのを含めて5本ある弦は凧糸でできていた。表面の仕上げは丁寧だが、それぞれの弦を弾くと、未だに小鳥たちが戻らず、猿たちが樹上で怯えきっている静寂の空間で、弦が本体に当たるパチン、パチンという音ばかりが目立ってしまい、微かに楽器らしい音が聞こえるか聞こえないかという有様だった。

「本当にこれで伴奏を付けたのか?それにお前、楽器が弾けるのか?」

「隊長さん、オイラに音の高さなんぞはわからんで。適当に弦弾はじいて拍子取ってただけじゃ。そんでも、今日はよく鳴りよった気がしたのう」

 アレスタに返すと、それを確かめるように無造作に太い指で何度か弦をはじき、納得したように首肯している。いつもはもっと酷い音なのだろうか。

「先頭の分隊は、声の発生源から離れていたから被害を免れたのだとしても、お前と同じ分隊の奴らが平気だったというのは不思議だな」

 隊長が兵士の円陣をぐるりと見回し、一回転すると、正面の禿頭の兵士の頭越しに奥の方を見つめた。それに気づいた何人かの兵士が同じ方向に向き直る。アロマもそれに習って見やると、使い古した革製のマントを羽織ったやや小柄な人間のようなものが円陣の方を向いて佇んでいた。恐らく鳥系の獣人だ。頸から頬にかけて斑の灰色の羽毛でびっしりと覆われている。そして他の動物と同じく、瞼をあけるとほぼ全体が黒目で埋め尽くされ、愛らしい顔つきをしている。

「だが、そもそもお前たちが歌う必要ないだろう。そのために歌精を連れてきているんだからな」

 同じ分隊の兵士たちが気まずそうな顔をして目を見合わせた。「それがですね——」

「歌精って、あの獣人のこと?」一同視線が隊長からアロマに向かう。

「獣人は歌精じゃないわな」 誰かが言った言葉に、円陣からどっと笑い声が上がる。だが、顰め面を崩さず、周りを睥睨するアロマに、だんだんと声が止んでいった。

「アンタ……歌精を知らんのか」「知る必要が無かったから、敢えて知ろうとも見ようともしなかったのよ」

「アタシが教えてやるよ」まっ黄色の前歯を剥き出しにして、スカユフが眼下のアロマに笑顔を見せ、隊長に目配せをした。

「認めるが、あまり長引かないようにな」スカユフが岩石のような拳に親指を立てて精一杯の謝意を示した。

「できる傭兵ってのはねぇ」分厚い胸板の前で、丸太のような左右の腕を組み、背中を反らす。「剣術ばっかりやってないんだよ」

 喋りたい、話まくりたい気持ちのオーラが、大柄な体躯の此処彼処から横溢している。あの女戦士、話したいから自ずから説明役を買って出たのに決まっているのに、話が短くなるはずがない。隊長が己の判断の迂闊さを密かに後悔していた。

「その土地の地政、歴史なんかもちっとはかじったりするもんだ」

「前置きはいいからさっさと歌精とかいう種族について説明なさいよ」

 傭兵風情に偉そうな口をきかれ、この上なく不愉快なアロマが声を荒げる。スカユフが余裕の笑みでいなす。隊長が早くも右足で地面をたたき始めていた。

「長くなるぞ。ギヒヒ」アレスタが小さく呟いた。

「歌精ってのは、読んで字の如く歌の精霊さ。自然界には、姿は見えないが土やら水やらの精霊がうじゃうじゃいるのは知っているだろう?」
 スカユフの目配せに、アロマが小さく首を縦に振る。円陣の雑兵たちも、歌精は知っているがスカユフの語りに興味を持ち、耳を傾けるものがちらほらとでてきた。

「例えば土の精霊は土に含まれる効能を強化し、大地を豊かにするための土台をつくる。そして、土の精霊力を利用する魔法の威力にも影響を及ぼす。歌の精霊の場合は、歌を歌う者、歌を聴く者に力を与えたり、自ら歌を奏で、直接聴き手に力を与えていたらしいね」

 アロマと雑兵たちが女戦士の説明の同じ個所に引っ掛かりを感じた。「与えていた、ってなんで昔の話みたいに言うのよ」

「さぁね。アタシが聞いて回ってわかっていることは、今の歌の精霊、歌精には歌に関わる者達に特別な力を与えることはできないってことだけさ。歌を聴かせて人心を和ませるまで。それが今の歌精の力さ」

 スカユフを取り巻く者達は皆、消化不良気味な表情を浮かべてはいるが、とりあえず各々の心の中で新たに得た情報をまとめにかかっていた。更にスカユフの言葉が続く。









〜2015/10/12〜
スカユフのセリフ中心に細々と修正。。。

〜2015/05/05〜
今回もいつものように、長い短編になりそうです。。。
ファンタジーパートはウェルリアをカバーしていますが、もともとAsもハイファンタジー寄りの作品なので、独自の世界設定がこの短編内でもそろそろ出てきます。。。。。


〜2015/05/09〜
"歌精"。。。。読んで字の如くですが、わけのわからない単語が出てきました。。。
似たような単語が後ほど出てきますので、ちゃんと区別できるよう、スカユフ達に説明させます。。。。

AsStory 〜予告用短編『二人の精霊王』〜(作成中) ( No.246 )
日時: 2015/10/19 01:53
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: BLMhacx0)
プロフ: https://www.youtube.com/watch?v=LjGGOoyrUCw

「それと、歌精に近づく時、注意しなきゃいけないことがあるよ」円陣から、翼に触れるなだろ、という声が上がった。

 アロマは、顰め面を解く暇が無かった。

「そうだよ。だからいつも歌精にはローブを被せているのさ。何故だか知らないけど、こいつら、人間に翼を触られるのを酷く嫌がる。そうだ一度見てみるかい、歌精の翼を」

 スカユフは全員に呼びかけたつもりだったが、視線はまっすぐにアロマに向かっていた。思わぬ展開に、アロマは返事を忘れていたが、一層強く視線を返してくる彼女の蒼い瞳を見れば、答えは一目瞭然だった。


『歌精の翼には触れてはいけない。もし触れると、歌精が悲鳴をあげる。歌精の悲鳴は音圧だけで死者が出るくらい凄まじい音量になる。そうなったら、人間たちは歌精の悲鳴が聞こえなくなるまで離れるしか犠牲を免れる手は無い——』

 アロマを除く全員が、つまり大陸出身者は皆、歌精に対する注意をどこかで聞いたことがあった。だが、ローブを被っていない歌精を見たことがあるものは殆どおらず、好奇心と恐怖心が交錯する人だかりの円陣の中心が少女の顔をもつ歌精へと移っていった。歌精との間隔は十分過ぎる程にとられていた。

 上下の瞼に挟まれた領域を埋め尽くす黒目で、すぐ前に立ちはだかるスカユフの顔を見上げている。翼に触れようとする素振りさえ見せなければ、歌精は人間に対して全く警戒心を抱かない。ローブが被せられて翼が広げられないことも全く気にもしない。今この瞬間も、スカユフを見つめる艶やかな瞳の煌めきはいつものように無邪気そのものだった。いつもと違うのは、歌精が歌っていないこと、そしてローブの下でしきりに翼を蠢かせていることだった。

 隊長の騎士も、なぜ歌精に歌わせずアレスタ達が歌っていたのか、理由がわかった。隊長直属の分隊にも歌精は配属していたが、そこの歌精も今日に限って歌おうとしなかった。普段なら頼まれなくても、気の向くままに歌っていた。そして、同じように翼を気にしていた。ミダの部隊にもっと歌精がいて、全員に同じ現象が起きていれば、彼らは異変に気付いたかも知れなかったが、部隊には二人しか歌精がいなかった。そのため、スカユフをはじめ誰もが皆、この異変をこの2匹だけの気まぐれとして片づけていた。

 スカユフが、落ち着きのない歌精に声を掛け、ローブのフードを外した。顔面の半分が羽毛で覆われている様子は、鳥類系の獣人とそっくりだった。だが、頭部に注意を向けると、数本の薄茶色の植物の蔓のようなものが絡み合い、環状の冠のようにおさまっていた。この環は、どの歌精にもあるもので、植物のように見えるがここから葉っぱや花が生えているものを見た者はいない。触ってみると、表面はざらついていて乾燥しきっている。進化の過程で、何らかの理由により頭部の皮膚がこのような形状に変わったのではないか、というのが現在最有力の説となっている。

 いよいよ、胸元の留め具のフックを外し、ローブを取ると、歌精が勢いよく風切音を響かせながら翼を左右に広げた。甲高い風切音のせいで、歌精を取り巻いていた雑兵の連中は慌てて数メートル後ろに後ずさった。歌精の目の前にいたスカユフも、眼前で起きた意表を突く行動に、ローブを持ったまま後ずさり、足がもつれて危うく転倒しそうになった。


 仲間の無様さを笑うアレスタの濁声が人だかりの上で浮いたように響いていた。殆どの者は歌精の翼に驚嘆していた。美しい類のものではなかった。それどころか、不気味さや恐怖を見たものに植え付けるにはぴったりの外観だったのである。スカユフの説明では、威嚇に使われるらしいという翼は、高さが本人の身長の倍に達し、幅も高さと同じくらいある。羽根が無く、枯れ木の枝のようなものが幾重にも枝分かれし、翼のような形状を成していた。枝の先端は鋭く尖っている。そして頭部に絡まっていた蔓と同じものが、翼全体に滅茶苦茶に絡まっていた。所々で蔓が弛み、薄気味悪いシルエットを作り出している。スカユフの調べでは、翼も頭部の蔓と同じような成分でできており、植物のように葉っぱや花は付かない。大昔からこの形は変わっていないらしいとのことだった。ただ、実際に触れて確かめた者がいないので、推測の域を超えないとの旨を、最後に付け加えた。


 アロマも歌精を初めて見た時の違和感の一つが解消されていた。ローブの下の翼の膨らみが体の両脇ではなく、後ろにあったのか。鳥類系の獣人のように、腕に翼があるのではなく、腕とは別に独立した翼が背中に生えているのだ。だが、翼を微かに揺らしたり畳んだりする動作を見る限り、鳥類系の獣人に比べ、明らかに動作が緩慢だった。アロマが素朴な疑問をスカユフに投げた。「この種族は、飛べるのか?」

 スカユフが、小さな目をいつもよりも少し大きく瞠って応えた。

「おっと、忘れてたよ。歌精は飛ぶが、翼は使わないよ」

 隊長を除く全員が驚きの声と視線を、得意顔になっている大女に向けた。

「さっき言ったろう?あくまで翼は威嚇用さ。こいつら精霊だから、飛ぶのに翼が無くてもいいのさ。だからローブを被っていたって空中に浮かんでいることはあるよ。だいぶ可笑しな光景だけどね」

 さっきの驚きの声で、歌精もぽつぽつと声を出し始めていた。アロマが鳥類系の獣人との違いをもう一つ見つけていた。「歌精は喋れないのか?」

 スカユフが応えた。

「ああ、そうさ。ローブを被っていても、人の言葉を喋るかどうかで獣人との区別はつくねぇ」

 突然、隊長が割り込んで補足をしてきた。

「歌精のこの姿の始まりはわからないが、少なくとも一千年前の文献では確認されている」

「一千年前たぁ、まるで動く化石じゃのう」アレスタがにやけ顔でいう。

「あと、歌精は殆どが喋らないから、歌も本人に勝手に歌わせるか、人間の歌う歌をヴォカリーズで歌わせている」

 ヴォカリーズが、主に母音だけで歌う歌であることを、アロマ以外はわからなかったが、円陣の兵士たちは取りあえずわかった風に頷いていた。「ただ——」

 全員の首肯が止まる。

「一人だけ、人の言葉を話す歌精がいるらしい」

「また、一人たぁ、随分限定的じゃねぇガぁ」アレスタが図太い人差し指を深々と鼻の穴に抜き差ししながら言った。

「古代の文献にはそのような記述が残っているのだ。我々は特にその歌精のことを『歌司』と呼んでいる」

「かし?」人だかりからまばらに聞こえてくる。

「そうだ。歌を司る者、歌司だ。それぞれの元素を司る精霊には、王がいる。例えば火の精霊王イフリート、風の精霊王ジン、大地の精霊王ベヒモスなどがそうだ」

 男の雑兵たちはそういう話がツボらしく、眼を爛々と輝かせて聞き入っている。女性の兵士たちは、おざなりに相槌を打っている。アロマは、隊長を見定めるかのように、真剣な眼差しを向けていた。

「そして物体を伴わない現象にも精霊と精霊王がいる。人や魔物が操る魔法の精霊が龍族。そして精霊王がエンシェント=ドラゴンだ」名前を耳にしただけで兵士たちが固唾を呑んだ。

「歌の精霊は歌精、そして精霊王が歌司ということになる」

 隊長はこれで説明を切り上げようと、指示を出そうとしたところで、思い出したようにエピソードを一つ付け加えた。

「次いでだから教えておこう。今、貴族たちが生け捕りにしようとしているアークドラゴンは、今でこそ10体しかいないが、千年以上昔には100体以上いたそうだ」

 これには、スカユフもアレスタも、ウェルリアで教育を受けているアロマでさえも驚きの声をあげた。

「古代に人間と精霊たちが争った精霊戦争という戦乱で、アークドラゴンの大半が殺された。エンシェント=ドラゴンでさえも瀕死の重傷を負った。伝承では、強大になり過ぎた龍族を、神の使いと呼ばれる天界の魔導士達が制裁を加えたとなっているが、実は彼らは人間だったのではないかという説もある」

 興味津々な男性兵士たちの驚嘆の声を掻き分けて、アロマの声が響いた。

「人間たちに、歌精たちの『特別な力』が与えられた。歌の精霊王が魔の精霊王の命を狙った——」

 今度は全員の視線がアロマの方に向く。若い女の罰当たりな言葉に、反駁と不信の声が小さく響く。

「古い神話には、神々が争う話もあるくらいよ。神のような力を持っていても、彼らは神じゃない。強大な力ををもつ者が二つ以上現れれば、争いが起きたって不思議じゃないわ」言い終えるなり、吊り上がった目を声のした方に向ける。

 スカユフが笑い交じりに割り込んだ。
「特別な力って、そんな桁外れなもんじゃないだろう。精々魔法で肉体を強化する類のもんだろう?」

「——そうだ」隊長が応えた。

「わからねえぞ隊長さん。どっちに対する『そうだ』なんだ?」 人だかりから、野次が飛んだ。

「もちろん——」隊長が爽やかな微笑を向けた。「君の意見に対してだ」男の視線の先には、慌てて目を逸らすアロマの姿があった。

 気持ちの準備ができたアロマが、冷めた表情で返した。「今は歌精たちにその力はないそうだけどね」

「いいねぇ、そういうの!」 スカユフがにやけて叫んだ。

「ああ、オイラも逢ってみたいガぁ。アークドラゴンなんて小兵じゃなくてヨォ、ナントカの精霊王っちゅうのによ!」

「馬鹿野郎、そっちの『いいねぇ』じゃないよ」 スカユフが、アレスタに侮蔑の視線を向け、そのまま視線を二人の若い男と女に向けた。

 事態を察した兵士たちが、糞真面目な顔で派手に首肯する。「確かにいいことだな、姐さん」

 外野の妙な一体感に勘付いたアロマが、顔を紅潮させ、必死になって叫んだ。「だから、そういうことじゃないって!」

 人だかりからどっと笑い声が溢れた。

 好色事にうぶな某国副騎士団長の必死の弁明を等閑に聞きながら、部隊が隊列を戻す中、歌精が透き通るような唸り声をあげ、翼にローブを被せようと四苦八苦していた。







〜2015/10/19〜
細かいとこ修正

〜2015/05/09〜
さて、どうして歌精がこんなに落ち着かないのでしょう。。。。
この時点で理由が分かった人は、マジで勘が鋭いっっ


〜2015/05/10〜
ナントカの精霊王に逢ってみたいという、アレスタの願いは叶うのでしょうか。
。。。。。ってタイトルがタイトルだし。。。
書いてる側は、気持ちは既にクライマックスシーン流れまくりで盛り上がってます。。。そこまでのシーンをきっちり書かなくちゃいけないのが酷くもどかしいぃぃ。。。

〜2015/05/11〜
隊長がアロマの名を呼んでいる部分を「君」に修正しました。。。

AsStory 〜予告用短編『二人の精霊王』〜(作成中) ( No.247 )
日時: 2015/10/19 02:02
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: BLMhacx0)
プロフ: https://www.youtube.com/watch?v=LjGGOoyrUCw

同日 日没後——

隊長の停止の号令に全部隊が足を止めた。すっかり日も暮れ、もともと暗かった原生林の中は、随分前から暗い色合いの樹木の幹や葉と暗闇との区別がつかなくなっていた。木々の間隔が詰まっているため、松明は使えず、簡易な光の魔導が使える傭兵が先頭に立ち、暗闇の森の中を進んでいた。昼過ぎに、行軍の遅延の度合いについて全部隊に連絡があり、休憩の時間を大幅に削っての強行軍となったが、目的地はまだ先だと誰もが思っていた。そのため、直ぐに隊長から、明日の行軍に向けての野営の準備か、幾度目かの休憩の指示が伝わってくると全員が予想していた。深夜の行軍は命取りだガぁ、とアレスタが左右の鼻の穴に指を突っ込みながら文句を垂れていた。

「明日からはここでアークドラゴンが来るのを待つ。戦闘配置につき、武器はいつでも使えるようにしておくように、とのことです」

 各分隊の伝令が隊長の指示を伝えてきた。そんなに午後の行軍のペースが速かっただろうか。縦隊を崩して指示を聞いていた分隊の中で、アロマが少し頸を傾げた。

「先頭の分隊のすぐ先には広い岩場が見えました。恐らく、そこにドラゴンやアークドラゴンが飛来するものと思われますが」

「とりあえず、直ぐに戦闘配備につかんといかんな」

 伝令と隊員のやり取りの後、分隊が直ちに動き出した。

 戦闘配備と言っても、隊長の分隊を先頭に二列縦隊だった隊列が、隊長の分隊を中央に三列横隊になるだけ。移動で運ぶ荷物も補給物資は小型の荷車三台ほどあるが、雑兵各自については背嚢一個と持参した武器のみ、密林の木々のために駆け足で移動できないのが唯一の問題だった。

 また行軍が始まると見込んでいた隊員らの予想を裏切っての目的地到着と戦闘配備の指示に、早朝から歩き通しだった疲れも吹き飛び、隊員たちはきびきびと動いた。隊長も部下たちの動きの良さには甚く感心していたが、一点だけ、行軍中に習慣になってしまったのか、歌を歌いながら動いているのだけが改善の余地が求められることであった。

 この作戦で待ち伏せするのがアークドラゴンという恐ろしく巨大なものであるため、ターゲットが拠点に戻ってくるとなれば、森にも何かしら異変が起きるだろうし、羽音も小さくはないはずなので、息を潜めず普通に行動していても、事前に対応がとれるはずなのだが、さすがに今は声が大きい。外部の異変を見落とす恐れがあった。部隊の騒音が大きいせいか、森の喧騒も明らかに耳をつくほどに大きい。これがだんだんと広まっていてしまうのも好ましくない。

「全体!もう少し静かに動け。意気を高めるために歌うのは構わんが、声を落せ!」

 丁度、隊長が声を張り上げている真っ最中に、一番声がうるさい人間が目の前を通り過ぎた。部隊の足を止めた時よりも、大幅に音量を抑えてはいたが、相変わらずお手製の楽器で雑音を放っている。多少弾き方のコツを覚えたのか、弦楽器らしい音の割合が増しているように聞こえた。

「へへっ隊長、おいらミダの集合場所で吟遊詩人バードが謳ってた英雄譚の一つを全部覚えてきたんでさぁ。オイラの楽器も龍の巣が目の前でますますよく鳴りまさぁ!」

 隊長が感心して頷くと、まずはすぐに持ち場につくようせっついておいた。隊長にぞんざいな返事が返ってくると、焦げ茶色の体が上下に小刻みに揺さぶられながら、すぐ先の闇間に消えていくのが見えた。
 隊長がアレスタの言葉で、暫し出発時の様子を思い返していた。あそこでバードが謳っていたのは、確かドラゴンを狩った人間の騎士の話だ。

 バードの歌など、今まで腐るほど聴いてきたため、内容など考えず環境騒音程度にしかとらえていなかった。だが、今更乍らよく考えてみると、人間がドラゴンを狩るなど、空想であってもおこがましい限りの話ではあるが、永きに亘る人類の歴史の中で一度だけ、それができた時期があった。

 件のこげ茶の肌の兵士が巻き起こした騒動でも話した、精霊戦争の時期だ。歌精の力によって、人間が一時的に強大な力を得たというが、歌精の力を得て戦うには二つの方法がある。歌精の歌を直接聴きながら戦う。もう一つは、人間同士で歌を歌う、あるいは聴きながら戦う方法。

 龍狩りの英雄譚は、どれも歌精が登場するものはないが、主人公となる英雄の背後で、魔導士が強大な魔力で援護をしたり、配下の騎士たちが実際に歌を詠唱し、その気力が主人公に乗り移ったというものもある。

 そう考えてみると、英雄譚もあながち空想だけで書いたものではいように思えてくる。巨大なドラゴンを前にして、一人の騎士が仲間の歌を背中から受けて立ち向かう——。

 かなり突飛なシチュエーションだが、目の前に龍の巣であろう岩場があるおかげで、瞼の裏に克明にその様子が思い浮かべられた。

「昔の伝承も、捨てたもんじゃないな」隊長がそうつぶやくと、周囲の斥候にやっていた俊足の若い雑兵が、移動中の兵士たちの間をすり抜けながら、息を切らせ、顔を真っ赤に火照らせて帰ってきた。

「隊長!西の方角、早駆けで20分の森の中にユニオナの軍勢が待機しています!」斥候兵の声が周囲に伝わった瞬間、兵士たちの声と足音が止んだ。

「向こうはこちらに気付いていたかどうかはわかったか?」

 若い兵士が表情をゆがませて首を横に振った。

「ただ、向こうの軍勢も到着したばかりの様で、隊形を組み直しているところでした。向こうは臼砲と騎士もかなりの数を用意しています」

 隊長がゆっくりと呼吸を整える。向こうが我々に気付くのは、最早時間の問題だろう。大陸最大規模の軍を擁するあの国は、常に人海で押してくる。手勢が100名にも満たず、その構成も殆どが農民兵という、完全な劣勢に立たされている今、彼らがドラゴンを前に、人間同士で争うなどという愚行はさすがにしないはずだと願うのが精一杯であった。だが、もしそれが叶ったとしても——。

「アイツらは、本気でアークドラゴンとやり合うつもりなのか」隊長の視線が虚空を仰いだ。「なんということだ」

 前回の龍狩りが門前払い同然になってしまったがために、ユニオナの上層部が面目躍如とばかりに躍起になっているに違いなかった。いくら国家に忠誠を誓った身とはいえ、ユニオナの騎士、兵士達も無駄に命を危険に晒すようなことは避けたいはず。
 隊長が足下の真っ暗な地面に、大騎士団が火焔を纏う龍の足下に突撃していく光景を映し出し、沈潜する。

 犬死など騎士にとって、軍人として、敵に背を向けて逃げるよりも愚劣極まる行為。王侯の唐突な思いつきで、その運命から逃れられない他国の騎士達があまりにも哀れに思えた。

 隊長が顔を上げると、斥候の若い兵士に指示を出した。「各小隊の伝令を呼んでくれ。その後、もう一つ指示があるから戻ってきてくれ」

 若い兵士が歯切れのいい返事を返すと、草鞋で落ち葉を蹴りあげながら、視界の向こうに消えていった。掠れるような足音だけがしばらく聞こえていた。隊長がはっとして、耳を澄ませた。深い静寂——僅かに残っていた森の住民らの物音すらしなくなっていた。斥候の足音が聞こえるほどに、いつの間に森が静まり返っていたのか。人間達が急に静かになったせいで、かえって警戒心を強めたのだろうか。
 隊長はそれ以上、俄にわいた静寂に頓着することはなかった。他に気にしなくてはならないことが幾つもあった。

 退却する時は、どうにかしてユニオナ軍を巻き込まなくてはならない。彼らが龍から狙いをそらすための大義名分を与えなくては。

 ミダの隊長が、西に向き直ると、黒一色に染まる森の奥をじっと見据えていた。



 部隊が龍狩りの地に着いた時、冴えない天候のせいもあり、森が完全な暗闇に包まれたと思っていた。だが、あれから小一時間が経過し、ミダの全部隊が整列、点呼まで完了した今、まだ闇が深くなっていく最中さなかであることを隊長思い知らされていた。各分隊の伝令が来るまでの間、3、4分程、休息の時間がとれたので、抑えめな明かの灯る隊列から離れ、ストレッチをしていた。両手を組んで前に伸ばすと、手首より先が闇に呑まれている。己の履いている靴も見えない。

 隊長が人だかりから離れると、密林の本来の温度を感じた。じっとりとしていて、風もないのに体温が奪われていくような錯覚に陥る。そのまま居続けると、戦意まで冷気に煽られていく気がした。隊形の変形が収まってくると、ほんの僅かに残っていた虫の音も完全に途絶えてしまった。本当に人間達を見張っていたかのような、森の住民達の変わりようだ。
 あと2分は猶予があったが、30秒間の瞑想を最後に隊に戻ることにした。

 左右の瞼を下ろし、意識を空っぽに、黒一色にしていく——。

 名将と呼ばれるほどの知略も度胸も戦歴もないが、これをしておくと勝負時にも気持ちのどよめきが抑えられる、彼なりのおまじないを持っていた。

 真っ暗な闇の中で、息を吸っているのか吐いているのかもわからなくなる程に、弱々しい呼吸をし、最後にそっと息を止める。綿毛が柔らかな土の上に舞い降りるようなイメージで。そのまま暫く沈黙と静止を保っていると、だいたい30秒に・・・・・・。

「こんなところにいたのかい、隊長さん」

 清浄な闇に染まった風景のど真ん中にに、突如窓ガラスを突き破るかの如く巌の拳があらわれた。黒褐色の女傭兵の嗄れ声は、部隊のある背後からとんできた。隊長が姿の見えない足下の落ち葉を蹴散らして振り返る。女が頸の高さまで持ち上げた簡易火術のランタンが、敵に気づかれないよう明かりの強さを最小限に抑えられているせいで、持ち主の鼻から上を闇に隠したまま、その口元だけを、灼く禍々しく浮かび上がらせている。ほむらの揺らめきにあわせて、陰影が残像を引きずりながら変化する様は、悪魔信仰の儀式を彷彿とさせた。



(保留)





〜2015/10/19〜
細かいとこ修正

〜2015/05/10〜

いよいよ目的地到着です。クライマックス直前です!
あまり盛り上がってないって。。。。(スミマセン)

誰がどんな役割を担うのでしょう。。。。

ちなみに、臼砲っていうのは砲身の短い大砲のことです。弾丸が爆発するかどうかは、ものによるらしいですが。。。
オスマントルコvs騎士団の小説に頻繁にできたので、この方が大砲って書くよりも、中世っぽい雰囲気出るのかなぁと思って使ってみました。。。。



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