二次創作小説(紙ほか)

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AsStory /予告用中編 『二人の精霊王』
日時: 2015/09/20 00:30
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 3qG9h5d1)

初めまして!
書き述べると申します。


 この作品は以前、シリアスのカテゴリーだったのですが、第七話からはこのサイトに投稿されている他の方の作品の内容を混ぜ込ませていただくことになりましたので、このジャンルに引っ越してきました!

カキコ内二次(合作じゃないですよ)……結構珍しい様な気もします。

混ぜ込む作品は——
『Enjoy Club』(作:友桃様)
です!
そして
『ウェルリア王国物語』(作:明鈴様)

ぇ、二つもやって大丈夫なのかって?貴様のプロットどうなってるんだよって???

(黙殺。。。。。。)



1点注意していただきたい事が……。
冒頭でも触れておりますが、もともとシリアス・ダークの作品なので、そのカテゴリー特有の表現があるかも知れません。できるだけグロい表現は使わないつもりであはりますが……。


更新の間隔が2か月空いたりすることがよくありますが、寛大な御心で受け入れてくださいますと大変有り難いです!


【最新話直前の状況】

(現在修正中・・・・・)




【お客様(引っ越し前の方含みます)】
  アメイジング・グレイス様
  アサムス様
  友桃様
  通りすがりの者です。様
  (朱雀*@).゜.様



【目次】

◆◆ 序章 ◆◆

 1話 >>1

 2話 >>2-3

 3話 >>4-5

 4話 >>6-11

◆◆ 第一章 ◆◆

 5話 >>12-13

 6話 >>14-19

 7話 >>21-25

 8(1)話 >>29-31

 8(2)話 >>38 >>41 >>44 >>46 >>48 >>51 >>53 >>58 >>60-61 >>63-64 >>70-75

 9話 >>81-82 >>87-88

 9(2)話 >>90-91

 9(3)話『時空間操作システム』 >>95-96

 9(4)話『副長官、乱心』 >>98-100

 9(5)話『時間ときを越えて』 >>105-107

 9(6)話『地を駆る鳥』 >>110-114

 10(1)話『ひかり、在れ』 >>118-119

 10(2)話『幕開け』 >>129-132

 10(3)話『交錯する時間とき>>142-153

 10(4)話『混迷に魅入られし者たち』 >>160-166

 10(5)話『絶体絶命』 >>172-175

 10(6)話『PMC、対陸軍攻撃陣』 >>180-189

 10(7)話『突入』 >>192-197

 10(8)話『スナイピング』 >>200-204

 10(9)話『ひかり、在れ』 >>209-210 >>213-214 >>227 >>229-230


◆◆ 第二章 ◆◆

 11話『逃走』(更新中) >>232-239


〜〜小説紹介〜〜
『☆星の子☆』((朱雀*@).゜. 様) >>108
『Enjoy Club』(友桃様) >>109


書き始め 2010年冬頃
(もう3年経ってしまったんですねぇ)

〜〜予告用短編〜〜
『月光』 >>126-127

『二人の精霊王』 >>243-245 <<<<<<<<(現在作成中!)

〜〜クリスマス短編〜〜
『クリスマス・プレゼント』 >>217-225

〜〜キャラ絵〜〜
メクチ >>207
水希 >>208
水希(変装後) >>212


登場人物一覧
>>206 (リアルパート)
>>216 (ファンタジーパート)

〜追伸〜
ツイタやってる方。。。R18記事があってもOKって方は、ちょっとフォローしてやってくれませんか?? => @motto_e

あんまり呟かないですけどねぇ〜(ぇ?)

10(2)話〜交錯する時間(とき)〜 ( No.151 )
日時: 2013/10/08 18:23
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 7TaqzNYJ)

 ウィルが閃光手榴弾の安全ピンを引き抜こうとすると、女の子の悲鳴が上がった。空気を切るような喚き声が何度と無く繰り返される。それと重なるように、年の言った男性の怒号も聞こえてくる。男性の怒号の内容から、二つの声の主は親子のようだった。

 麗牙の牽制対象に確定した大男はまだ起き上がっていないらしく、ウィルと大男との直線上にちらほらと佇んでいる人々にさえぎられ、大男と件の親子の様子が判然としないでいる。

 不意に少女の父親の声が止んだかと思うと、野次馬の間からスーツ姿の男性が何かに吹き飛ばされて飛び出し、しばし宙をを舞った後、地面に叩きつけられた。何の変哲も無い会社員が争いに巻き込まれたことで、この争いが人ごとではなくなったではないと察した野次馬達が一斉に四散した。改札を乗り越える者、川沿いの道路をかけていく者、残されたのは名仮平と悶絶しているスーツの男性、そして男性の娘と思しき中学生風の少女——今は悲鳴がとまっている——、運び屋の二人、そしてウィルと水希だけになった。

 ウィルも驚いたふりをして周囲の人間からやや遅れて駅を出て、川沿いの道路にでたが、それでも単なる野次馬にしてはあまりに近すぎる位置にいる。運び屋であろう凸凹コンビが己の仕事を最優先にして、その場から去ってくれれば、ウィルたちもここにいる必要は無いのだが、厄介なことに、覆面の運び屋が怒髪天をつかんとばかりの形相で大男を睨みつけている。

 川沿いの道路にいるちぐはぐな組み合わせの——誰も二人が仲間だとは露ほども思わないだろうが——少年少女に避難を促す声が、改札の内側や道路の向こうから聞こえてくる。駅事務室内では、駅員が警察に、今日幾度目かであろう通報をしているのが見える。
 名仮平は仁王立ちになり、今度は右腕で中学生風の少女の首に図太い腕を回していた。まだ殆ど力を入れていないらしく、首は締め上げられてはいないが、少女が名仮平の腕を掴んで天を仰ぎ、足をばたつかせている。

——リーダー!

 部下の不安げなヒアに、ウィルが腰の高さに手を低く横に突き出して応じる。今は動きべきではない。絶好の好機が一瞬にして最悪のシチュエーションになってしまった。せめて背の低いほうの運び屋が品を持って安全な場所に避難してくれればいいのだが、彼は相棒の大男に張り付いたまま離れる気配が無い。

——もし、あの二人が介入者と本格的な戦闘になるようなことがあれば…。

 離れていはいたが、水希の緊張がウィルの肌にびりびりと伝わってくる。

——僕も衆目の下に能力を発動させなくてはならないかも知れない。

——リーダー…。



「てめぇ!」怒声が覆面を突き破り、一直線に飛んでいく。

「自分が今なにやってんのかわかってんのか!」

 名仮平が静かに応じる。

「軍は任務の遂行のためなら手段を選ばない」

 アビーが鋭くしたうちをすると、再びハンドキャノンを右手に構えた。すると、名仮平が半身になり、アビーと正対する位置に——名仮平の体躯の右側面に——少女をもってくる。

「貴様が俺を撃っても、俺の息のあるうちにこの女の首をへし折ってやるぞ」

 少女が激しく体をよじり、悲鳴を上げる。名仮平が右腕に力を込めてそれを抑える。そのときの反動で、少女の体が少し持ちあがり、天を仰いでいた少女の顔が正面を向いた。

「野郎……」アビーが右腕を硬直させたまま動かない。

「アビー」
 コードが目線を名仮平に向けたまま、右に立ち尽くす相棒に小声で話しかける。

「何だ、ボケナス」

 アビーの怒りの矛先が90度左に向きかける。

「運び屋の運ぶモノって、重要なものが多いんだろ」

「んだぁ?いまさら何言ってやがる」思わずアビーが声を荒げそうになった。

「たとえば…」コードが視線を右に寄越す。「人に命に代えても届けなくちゃいけないものとか、さ」

 アビーが顔を顰めると、カエルを睨む蛇の如く、左右の目玉を相棒の方へ向けた。

「…何が言いてえんだ」アビーが声を抑えて訊き返す。

「あの化け物の狙いはそれだろ。でもそれって、もしかして人の命よりも大切な…」

「知ったような口聞くんじゃねぇ!」

 予想したとおりの言葉が相棒から返ってきた。そして、予想以上に血走っている二つの眼球が覆面の奥に浮かび上がり、コードを睨みつけていた。覆面の裏につばを撒き散らしながらさらに言葉を継いだ。
「荷物より人の命だ。てめえの脳天にナイフで刻んでおきやがれ!」

「わかったよ。オッサン」

あの大男を見つけて突っ走ってった時と言ってることがまるっきし逆じゃないか。コードの口元がわずかに緩んだ。

 アビーが横目で相棒をいぶかしげに睨みつけえる。


「アビー、これ…」
 アビーの腰の高さのあたりにコードの右腕と件のケースが突き出された。
 名仮平が予想どおり少女とモノを交換するよう要求を出してきていた。モノは一対一で手渡しにすること。もうひとりは、モノの受け渡しをしている様子が見えない位置、もしくは30メートル以上離れた位置まで退くこと。手渡しに来た者が十分に離れた後、人質を解放するという、一方的なものだった。人質をとった大男は駅員が通報しているのを目撃していたはずだったが、そろそろ到着するはずの警察のことを気にかけている様子が全く見受けられない。威嚇射撃しかできないやつらなど歯牙にもかけぬということなのか。アビーが覆面の裏で舌打ちすると、青年から乱暴にケースを取り上げた。

 大股であれば10回左右の足を前に出せば、あの軍隊野郎の目と鼻の先にたどり着く。
 あの大男の要求に対し、うまい打開策を考え出すことができなかったアビーに対し、頭からつま先まで純粋な文民の
相棒が言い出したセオリーはあまりにも単純で不確定要素に満ちたものであった。

 1. アビーがケースを大男に渡す。
 2. アビーが大男から離れる。
  なお、アビーが受け大男にたどり着くまでにアビーの様子が伺えなくなった場合は、アビーの名前から始まる文句を叫ぶ。受け渡しの様子が見える場合は「オッサン」から始まる適当な文句を叫ぶ。前者の合図を受けた場合は、アビーが受け渡しの完了を音か光で合図をする(もちろん相手に察知されないように)。
 3. コードがダッシュで大男に突っ込む。
 4. 大男が意表を突かれて取り乱したすきをついて、ケースと少女を奪取する。

 もやしの相棒が言うには、自分は走るのだけは大の得意とのことだった。確かに、ついさっきほどアビーは己が左右の眼球で、相棒が大男に対し信じられないようなスピードで体当たりをかまし、大男の手からモノを弾き飛ばしたところを目の当たりにしていた。しかし、軍隊野郎が同じ手口で1回目と同じように、うっかりブツを手放してしまうとはとても思えなかった。加えて、あの大男に追いかけ回されたときに、コードは「足」を使っていないのが腑に落ちない。この状況下において、それを問いただす暇もなく、相棒の唱えた「作戦」の有効性を評価する間もなく、相棒の言うがままに作戦を進めるほかなかった。

10(2)話〜交錯する時間(とき)〜 ( No.152 )
日時: 2013/10/08 18:53
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 7TaqzNYJ)


 いつもの半分の歩幅で歩みを進めていた。退くことは許されず、ややもせず5歩、約10メートルある陸軍の脳みそ筋肉野郎にいたる行程の4分の1に達していた。覆面に覆われていて外からは窺うことはできないが、男の顔は冷蔵庫に放置され続けていた野菜のごとく湿気ていた。
 どんなに困難な状況にあっても、自分の実力と幸運の女神とかいうグラマスなブロンド女を信じていれば必ず道は開けるというのが覆面の男の信条であったが、今初めてそのどちらをも貫徹する自信が持てずにいた。

 行程の半分の地点に達すると、淡々と次の一歩を繰り出した。しびれを切らしたでくのぼうが、少女を盾にする体勢を保ったままアビーを罵倒する。
 覆面の裏では、血の気のひいた頬の肉が何度も引きつっていたが、幾多の修羅場をくぐり抜けてきた巨漢の運び屋の心を乱すまでには到底いたらなかった。

 所詮バカの遠吠え。やつがどんなに有利な立場にあっても、図太い剛毛に覆われたアビーの心臓を打ち震わせるだけの気の利いた啖呵のひとつも切れるはずがない。そして、人命と引き換えに眼前の馬鹿の手に品がわたってしまったとしても、やつから取り返す手段など星の数よりも多くあるのだ。やつが、一介の凡庸でバカでウスノロで木偶でくの坊なだけならば……。

 アビーの当座の問題は、あの大男が陸軍の兵士であるという点と、奴が一人でいるという、この2点だった。いや、もうひとつ挙げるならば、この取引にECが関わっているというのも非常に問題だ。軍とECが同じ場所、同じ時間に遭遇する。それだけでもこの国を亡国への道程を猛進させるには十分すぎるくらいのシチュエーションだが、今回の軍の目的は、ECと打ち合わせに来たのではない。アポも事前通告も無く、ECの関わっているブツを奪いに来たことは明らかだ。これがこの国のいや、俺の未来にどんな影を落とすのか、考える気すら失せる。
 覆面の目と鼻の先に人質の小学生か中学生くらいの少女の姿が迫っている。そのすぐ後ろには、半身になって銃を構えている木偶の坊の姿が見える。

 もう一歩足を進める。人質の頬を掠めてやつの不細工なツラに確実に痰を吹っかけられるほどに近づいていた。
 
 アビーが漆黒の覆面の奥の双眸を少女の瞳に向ける。極度に動転したせいで、少女の黒い瞳は尖頭銛のようなアビーの視線に一切反応しなかった。この至近距離なら、人質を力ずくで奪い去れるのではと、ベテランらしからぬ浅薄な考えが脳裏をよぎったが、すぐにそれを払拭した。アビーと名仮平の力比べに、少女のか弱い体躯が持ち堪えられるはずが無いのだ。アビーが顔を顰めると、徐に斜め左上方の大男の顔面を睨み据える。

「下手な時間稼ぎを考えるのはよせ、覆面。こいつの寿命が縮むだけだ。さっさとそれを寄越すんだ」

 名仮平の言葉にアビーが口汚く応酬すると、耳を澄ませる。柄にもなく心臓の拍動音がいやがうえにもアビーの分厚い鼓膜を打ち据えてくる。背後からは野次馬のしゃべり声が途切れながら聞こえるばかりである。

——まだか、もやし。



 相棒の無言の罵声がコードの軟弱な肉体と頭骸骨を容赦なく打ち据える。それでも元郵便局アルバイトの運び屋は一歩だに足を動かすことが出来なかった。
 生まれて20余年、軍隊はおろか、あらゆる争いごととは無縁であったであろう若輩者が即興で考え出した作戦は早くも破綻を迎えようとしていた。しかもその原因が彼自身という、最悪の形で。

「動け、動いてくれ、僕の足!」

 コードが右の握りこぶしを固めて同じ側の大腿を叩いた。だが、彼の悪あがきも虚しく、つい先ほど大男の手からモノを弾き飛ばすほどのダッシュを仕掛けられる力が一向に湧いてこない。
 30メートル先で大男たちが唾を飛ばし、烈火のごとく言葉の応酬を繰り広げている。人質の少女は、肉体的な損傷を被る前に、恐怖と怒号の音圧で意識を失っていた。このままでは大男が二人、可憐な少女を挟んで人外の怪力のぶつかり合いを繰り広げるのは火を見るよりも明らかである。

 鞭のようにふるっていたコードの右腕がだらりと下ろされた。拳が解かれた右手の指先が打ち震えている。

 アビーがあの大男に向かって駆け出したとき、この若者も相棒の後に続いた。映画のシナリオのごとく絶妙なタイミングで能力を発動させて。その時に、若者は己が身の能力のコントロールするコツを掴んだと感じていた。だがそれは浅はかな思い込みでしかなかったのである。
 己の左右の足に篭められた「能力」を発動させられなければ、彼は相棒の言うとおりただのもやし野郎でしかない。相棒が命を張って猛獣よりも凶暴な人型の生物と対峙しているというのに、自分はただ見ているしかない。余計な責任感に身を任せて、大男に向かって突っ込んでいっても、せいぜい相棒を盛大に邪魔してしまい、人質の女の子を危険にさらしかねない。

 若者が下唇をかみ締めた。

——本当にそう思ってるのか?怪物が怖くて言い訳してるだけなんじゃないか?

 腕を下ろしたまま、左右の拳を握り締め、頸を左右に振った。天罰のごとく若者のうなじに氷の弾丸がひっきりなしにぶつかってきた。

——アビー、今は退くときなんだ。

 背後の窮状を何も知ることなく、大げさなジェスチャーと怒号をあげる相棒の姿を一瞥すると、数分の光も入り込ませぬようにぴしゃりと双眸を閉じた。

——ごめん、アビー。

コードの視界に再び光が差し込んできた。
「おやじぃ」でも「アビぃ」でもない退却の一言を叫ぼうと、ありったけの息を吸い込み、声を発しようとした瞬間。

 人影が、動いた——。

 コードが、アビーが、そして名仮平も、遠巻きに虎視眈々と顛末を伺っていた秘密結社の少年と少女さえも目を疑うような光景が駅前の狭い一角で繰り広げられていた。

「わたしの、わたしの娘を返せ!」

 少女を人質に取る際に、名仮平に投げ飛ばされ、アスファルトの路面にしたたかに後頭部をぶつけて生死の境をさまよっていたはずの人質の女の子の父親が、ばねじかけのおもちゃよろしく体を起こし、身長230センチの大男に向かって突進してきたのだ。
 不意に聞き慣れた声に鼓膜を叩かれた少女が、大男の腕で目を醒ました。

「ああ、お父さん!だめ、来ちゃだめ!」

 意識はぼんやりとしていたが、筆舌に尽くしがたい危機感が彼女を叫ばせていた。だが、張り裂けそうな彼女の悲鳴も空しく、父親は見る間に名仮平との間合いを詰め、脇に佇む覆面男が男を制止させようと手を伸ばした時には、飛んで火にいる夏虫然と、名仮平の懐に入り込んでしまっていた。
 
「おっさん、無茶だ!」遠巻きに異状を目撃したコードが思わず叫んだ。

少女の父親がアビーと名仮平の間に吸い込まれていくのと、少女の顔が蒼白になり、引きつっていく様子がストップモーションのコマのように、ゆっくりと克明にコードの網膜に焼き付けられていった。

「それは合図かモヤシ!」

10(2)話〜交錯する時間(とき)〜 ( No.153 )
日時: 2013/10/08 18:55
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 7TaqzNYJ)

 親子の様子に完全に気を取られていたコードに、顔を正面に向けたままのアビーから不意打ちのように罵声が返ってきた。そしてコードがアビーに注意を向けている僅かの間に、名仮平が少女をかかえていない方の手——左手で中年の男の喉をわしづかみにし、血祭りに上げるかのように高々と左腕を上げていた。娘の時よりも格段に重たい肉体がために、フランクフルトよりも太い名仮平の指が、喉ぶえの両脇に深々と喰いこんでいく。名仮平の左手を引き剥がそうともがいていた男の腕から見るみるうちに力が抜けていった。

「野郎!そいつを離せ!」

 民間人がもうひとり巻き込まれてしまう不測の事態に、作戦中止を余儀なくされたアビーが、名仮平に掴みかかろうとすると、敵はすぐさま右腕の少女を盾にしてアビーの腕を阻止する。
 己が身をボロ切れのように振り回され続けた挙句、眼前に肉親の正視しがたき光景を突きつけられた少女は、華奢な体躯から野獣のごとき咆哮をあげた。四方に轟く自らの声にますます正体を失った少女は父親の方に目を剥き、あらん限りの力で身をよじり、両足を振り回し、丸太のような首かせから抜け出そうとしていた。

「人質の分際で騒ぐんじゃねぇ。親子ともどもぶっ殺すぞ」

 名仮平の視線が激情に任せて見開かれた少女の目線と重なる。名仮平が口の右端を持ち上げ、不気味な微笑みを浮かべた。「いや、貴様らは騒ぎすぎた……。片方ずつ逝くか」

 少女の首を緩く締めていた大男の左腕に徐々に力が込められていく。途端に少女の絶叫が消え失せ、上がることのない闇の帳が視界に下り始めてきた。

「や、やめて…。い、や…」

 アビーが右手にモノをぶら下げ、名仮平の左腕に利き腕ではない左手一本で掴みかかるが、人外の腕力をもつ巨躯の現役陸軍兵士に左腕一本ではまったく歯が立たない。モノを左手に持ち帰る考えも浮かばぬほどに、ベテランの運び屋が混乱と焦燥に駆られていた。
 徐々に膨張する巨漢の左の二の腕が確実に少女の白く細い頸を締め上げていく。数分前まで普通の中学生——家族と友人に囲まれ、一掴みの幸せと一掴みの悲しみを経験してきた——彼女が、神の気まぐれゆえなのか、名状しがたい白光に召され、生涯という舞台の早過ぎる終演を迎えようとしていた。名仮平の腕を掴んでいた左右の腕が力なく垂れさがっていった。少女の喘ぎ声が途切れ、最後に煌きを湛える瞳で父親を一瞥すると、天を仰ぎ、閉じゆく双眸からうっすらと二条の筋が頬を下っていった。

「畜生!」アビーがヤケ糞になって陸軍の怪物に金的をかました。膝頭がぶつかるはずであろう堅牢なサポータの感触がない。そのかわりに、柔らかいものがぐにゃりと潰れる感触が分厚いカーゴパンツの生地越しに伝わってきた。同時に、大男の断末魔の叫び声がアビーの鼓膜に、天使の餓鬼どもの合唱のごとく一糸乱れぬ協和音となって響き渡る。アビーが覆面の裏でニヤリと笑みを浮かべた。

「形勢逆転だぜぇ」

 ヨダレを垂らして俯いた名仮平の顔面に、アビーの咆哮に乗せて渾身の左アッパーが炸裂した。名仮平が己の上前歯2本と犬歯、さらに奥の歯を2本を血糊とともに飲み込むと、思わず左手から少女の父親を落とした。一人解放。

「よくも、運び屋風情が小癪な」

 名仮平が右腕に抱えていた失神している少女を、怒りに任せて勢いよく左に放り投げた。
 二人の巨漢の乱闘を見ていた誰もがその先を見やった。40kg前後の人体が一直線に飛んでいく先には鉄骨鉄筋コンクリート製の駅舎の壁が待ち構えている。この勢いでは3秒もすれば頭蓋骨がカチ割れ、頸があらぬ方向に折れ曲がった少女の死体を拝むのは必至。30メートル背後から己の名前を呼ぶ声がする。

——腐れモヤシ野郎!言われなくたってわかってるぜぇ。助けりゃいいんだろ。

 小包を放り投げて、230kgの巨体が地面すれすれを滑空する少女を追って、猛然と突進したが速度不足は明らかだった。

「朝っぱらから子供の死体なんか拝みたかないぜぇ!」
奥歯が下あごにめり込むほどに歯を食いしばって四肢を振り回したが、少女との差は広がるばかりだった。
 その時——。

 アビーの左脇を人影が抜き去っていった——。

「もやしぃ!」

 アビーの叫び声が切れるのとほぼ同時に、少女の頭と上半身をひしと抱きかかえた相棒が、地面を転がりながら背中から壁に激突していた。

——お、女の子は?

 コードが激痛にひどく顔を歪ませながら腕の中に埋もれている少女を見やった。意識はないが体が呼気に合わせて動く感触を感じ取った。激痛で腕が伸ばせなかったため、そのままの姿勢で右手の親指を持ち上げた。

「たまには役に立つじゃねぇか、野郎」

 倒れたまま、覆面の相棒に手荒い感謝の拳骨をお見舞いされていた。



——あの若い方の男、やっぱり……。

 そういうなり、麗牙の隊長がハッとして小包の方に視線を戻した。陸軍の大男が運び屋の二人組の顛末を見届けると、ゆっくりと体を前に折り曲げ、足元に落ちている例の小包に右腕を伸ばしている瞬間だった。
 それでも麗牙の二人は動かなかった。大勢の人々の前で能力を晒すことは彼らにとって命取りになりかねない、場合によっては組織の存続さえ危ぶまれてしまうほどの危険な行為であった。あの兵士が小包を手にしても、運び屋の大男がすぐに立ち向かいに行くはずだ。そして彼らが余程の窮状に陥らない限り、能力を使うような事態ではないのだ。

 万が一を想定し、麗牙の隊長が背中のウエストライン付近に忍ばせているダガーに手を伸ばす。緊張した面持ちで陸軍の兵士が地面に堕ちた小包を取り上げる様子を見届けようとした。兵士の右手の指先が小包に届くあたりまで下ろされる。だが、右手がそれ以上下ろされることはなかった。兵士の右手が小包のやや上方で左右に振られ、虚空を掻いた。

——水希、あの男、何しているんだろう?

 麗牙の指揮官が、ヒアでの問いかけに対する部下の返事をそっちのけにして、陸軍兵士の不審な動きに気を取られていた。小包を目の前にして、右手の振り子運動は終わったが、今度は膝をつき両腕も地面に突き立てていた。要は四つん這いの状態である。そしてその姿勢のまま顔を大きく歪ませて唸り声を上げていた。運び屋のガタイのいいほうが、相棒と少女の命に別条がないのを確認し、反撃に向かおうとしていたが、敵のあまりに不可解な動きに、身をかがめて警戒の姿勢に転じていた。

「…えねぇ!」うつむいたまま、陸軍の兵士が声を発した。

——え、今、なんて言った?

 氷の立てる騒音を貫き、ウィルの耳に届く陸軍兵士の声に全身全霊を傾けた。はるか前方で、四つん這いになっていた兵士が、突如上体をけ反らせ、さらに上体ををひねり、両腕をでたらめに回しながら地面に倒れ込んだ。そして両手で顔をおおうなり、うなされたように叫び始めた。

「見えねぇ、見えねぇぞ!地面はどこだ。世界が回転してやがる、ライトはどこだ!」

 ウィルの真っ白な顔面から一気に血の気が引いていく。

「ま、まっくらだ……」

 恐慌をきたした陸軍兵士の最後の一言で、ウィルが弾けるように身を翻した。



 真紅のベリーショートが、不可視の「気流」になびいていた——。

 闇に染まっていく真紅の瞳が、ひたすらに一点を見つめていた——。

 蒼白な薄い唇が、小さく呟いた……。

——ゆるさない。


 部下の名前を叫ぶ指揮官の声が、氷に満ちた虚空を引き裂いた。



〜第10話(2)『交錯する時間とき』完〜



Re: 10(2)話〜ひかり、在れ(3)〜12ページアップ ( No.154 )
日時: 2013/06/23 20:26
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: KZXdVVzS)


お疲れ様でした〜〜。

一回で済ませようと、書き溜めていた原稿全部アップしました。。。(苦笑)

そうしないと、次の回書く気がおきないんです。。(恥)。。怠惰なので。


 それにしても、読者の皆様は今どのあたり読んでいらしゃるんですかねぇ。。

 実は誰もまだ、2062年の話に達していなかったりするんだろうか。。。。

 ちょっとコメの終わり方歯切れ悪いですが、次回お楽しみに〜(これも自分だけか....)


じゃっ!!!

Re: As Story10(2)話〜ひかり、在れ(3)〜 ( No.155 )
日時: 2013/06/27 10:59
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: KZXdVVzS)


こんにちはー^^
なんだか無性にAsが読みたくなって勉強放り出してやってまいりましたv←

>>91まで読みました! で、水打ちゃんがでてきましたv
なんだか1人で暴走してる感じの水打ちゃんが大好きです(笑 ていうか妄想癖(笑 これはまぢな妄想癖なのか、それとも予知能力でももっているのかって考えちゃいました。
それと新堂さんも好きですーv 後輩の面倒見てる感じがv

それと機械の話がたっぷり詰まっていて、ほんとに1話1話が内容濃いなぁと思いながら読んでました!
機械視点で文章が書いてあるのも面白かったです。機械って勝手に重労働させられてつらいんだな><;

また読みに来ますー^^
ではでは(^^)


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