二次創作小説(紙ほか)
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- AsStory /予告用中編 『二人の精霊王』
- 日時: 2015/09/20 00:30
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 3qG9h5d1)
初めまして!
書き述べると申します。
この作品は以前、シリアスのカテゴリーだったのですが、第七話からはこのサイトに投稿されている他の方の作品の内容を混ぜ込ませていただくことになりましたので、このジャンルに引っ越してきました!
カキコ内二次(合作じゃないですよ)……結構珍しい様な気もします。
混ぜ込む作品は——
『Enjoy Club』(作:友桃様)
です!
そして
『ウェルリア王国物語』(作:明鈴様)
ぇ、二つもやって大丈夫なのかって?貴様のプロットどうなってるんだよって???
(黙殺。。。。。。)
1点注意していただきたい事が……。
冒頭でも触れておりますが、もともとシリアス・ダークの作品なので、そのカテゴリー特有の表現があるかも知れません。できるだけグロい表現は使わないつもりであはりますが……。
更新の間隔が2か月空いたりすることがよくありますが、寛大な御心で受け入れてくださいますと大変有り難いです!
【最新話直前の状況】
(現在修正中・・・・・)
【お客様(引っ越し前の方含みます)】
アメイジング・グレイス様
アサムス様
友桃様
通りすがりの者です。様
(朱雀*@).゜.様
【目次】
◆◆ 序章 ◆◆
1話 >>1
2話 >>2-3
3話 >>4-5
4話 >>6-11
◆◆ 第一章 ◆◆
5話 >>12-13
6話 >>14-19
7話 >>21-25
8(1)話 >>29-31
8(2)話 >>38 >>41 >>44 >>46 >>48 >>51 >>53 >>58 >>60-61 >>63-64 >>70-75
9話 >>81-82 >>87-88
9(2)話 >>90-91
9(3)話『時空間操作システム』 >>95-96
9(4)話『副長官、乱心』 >>98-100
9(5)話『時間を越えて』 >>105-107
9(6)話『地を駆る鳥』 >>110-114
10(1)話『ひかり、在れ』 >>118-119
10(2)話『幕開け』 >>129-132
10(3)話『交錯する時間』 >>142-153
10(4)話『混迷に魅入られし者たち』 >>160-166
10(5)話『絶体絶命』 >>172-175
10(6)話『PMC、対陸軍攻撃陣』 >>180-189
10(7)話『突入』 >>192-197
10(8)話『スナイピング』 >>200-204
10(9)話『ひかり、在れ』 >>209-210 >>213-214 >>227 >>229-230
◆◆ 第二章 ◆◆
11話『逃走』(更新中) >>232-239
〜〜小説紹介〜〜
『☆星の子☆』((朱雀*@).゜. 様) >>108
『Enjoy Club』(友桃様) >>109
書き始め 2010年冬頃
(もう3年経ってしまったんですねぇ)
〜〜予告用短編〜〜
『月光』 >>126-127
『二人の精霊王』 >>243-245 <<<<<<<<(現在作成中!)
〜〜クリスマス短編〜〜
『クリスマス・プレゼント』 >>217-225
〜〜キャラ絵〜〜
メクチ >>207
水希 >>208
水希(変装後) >>212
登場人物一覧
>>206 (リアルパート)
>>216 (ファンタジーパート)
〜追伸〜
ツイタやってる方。。。R18記事があってもOKって方は、ちょっとフォローしてやってくれませんか?? => @motto_e
あんまり呟かないですけどねぇ〜(ぇ?)
- Re: 10(2)話〜ひかり、在れ(3)〜 ( No.141 )
- 日時: 2013/06/23 19:54
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: KZXdVVzS)
ご無沙汰しております。。
執筆以外の活動にちょっと熱を上げてしまいまして、しばらく離れておりましたが、本家ECが活動を再開したとのことで、わたくしめも気持ちを改め、戻ってまいりました。
気まぐれ過ぎて、申し訳ない。
今回の更新で『ひかり、在れ』は完結する予定でしたが、話が長引いてしまいまして、分割することにしました。
なんか、予定外の話の分割、常態化してしまってますねぇ。。。
で、『ひかり、在れ(3)』は、なんと水希に始まり、水希に終わるという、(筆者だけ)テンション上がりまくりの話なのです!!!!
小生の水希に対する妄想が相当入ってますので、原作の彼女に思い入れのある方は、要注意です(ビシッ)
じゃ、『ひかり、在れ(3)』始まります〜!!!!
- 10(2)話〜交錯する時間(とき)〜 ( No.142 )
- 日時: 2013/10/08 18:09
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 7TaqzNYJ)
『交錯する時間』
ホームは他の駅と同様なんとなく小汚い印象を受けたが、駅舎内に入ると手入れの行き届いた、光沢をはなつタイル張りの壁が水希の最初の目的地、踊り場のトイレへと伸びていた。
もうすぐ8時だというのに学生らの姿が視野の大半を占拠しているのは、明け方から勢いの衰えが全く見られない豪雨のせいなのだろう。大小様々な人間の体躯が隙間なく並び、踏み面の見えなくなった階段を女子学生らが長年の経験を活かし、器用に早足で降りていく。水希は新雪雪崩に巻き込まれたスキーやのごとく、人並みになされるがままになっていた。
最小限の目線と頸の動きで周囲の人物に細心の注意を払う。彼女自身が中学一年生の姿をした暗殺者、あるいはスイーパー(掃除屋)であるがために、周囲が学生だからといって気を許すつもりは毛頭なかった。
電車を出た瞬間は、雨音が水希の聴覚を支配していたが、いくらも経たないうちに、女子学生らのマシンガントークが雨音を圧倒した。水希が耳をそばだてなくても、それどころか耳を塞いでも隙間を縫って彼女の鼓膜を叩く会話の内容は、老いも若きも、あまねく大和撫子の間で交わされる第三者への噂話——悪い噂が9割9分を占めるという代物である——に加え、豪雨にもかかわらず授業開始を少し遅らせただけにしたという学校への不平不満によって、いつも以上にヒートアップしていた。
水希の後ろで二つに分岐した色とりどりの人の奔流が仲間との会話に花を咲かせ刺を生やしつつ、彼女を追い越してく。小学生たちは雨をまち遠しにしていたかのように、キャラクターものや鮮烈な模様の描かれた値の張りそうな傘を携えている。そして年齢が上がっていくにつれ、無色であったり単純な半透明一色のビニール傘を持っている割合が増えていた。
右脇を通り過ぎざまに、水希の出で立ちに鋭く睥睨し、すぐさまそっぽを向いていった学生がいた。昔ながらの濃紺に大きな赤いリボンのセーラー服は、この駅の近くにある名門ミッション系大学付属中の学生だろうか。瞬く間に彼女との距離を広げる背中を、しばし見つめた。水希は、アクセサリとしてロザリオを身につけたりはするが、唯一の絶対神をおく形式の宗教には、明白な嫌悪を抱いていた。
姿なき「カミサマ」が私たちに何をしてくれるというのか。毎日お祈りをしていれば、私はこの呪われた力の魔の手を逃れることができたのだろうか。時折、そうやって自身に問いかけ、常に同じ答えを自身に返していた。
こんどは左方面から私服の女子校生と思しき人物から臙脂の制服に無言のチェックを受けた。
水希は電車から降りる前から、早くも己の手落ちを思い知らされていた。彼女は周囲の学生らに厳しい注意の目を向けているが、それは彼女らにとっても同じことだった。原因は水希の臙脂の制服にあった。車内が空いたわずかな時間を使ってウェブで調べたところ、この駅から通える学校はいくつもあり、さらに学校数の数倍にも及ぶ制服のバリエーションがあるのだが、彼女の身につけているような臙脂の制服はなかったのだ。水希のそばを通り過ぎる数多の女子学生らは、多岐にわたる制服のバリエーションと水希の制服を比較し、イージスシステム顔負けの素早さと正確さで彼女が「異教徒」か否かの判定をくだすのである。そして、水希はこれまでに彼女の両脇を通り過ぎていったすべての女子学生——もちろん水希への一瞥の有無にかかわらずである——に、「異教徒」の判定を受けていたのである。
集中豪雨警報で学生たちが家に足止めされていたためか、彼らそして彼女らにとって随分遅い時間にも拘わらず、駅の通学ラッシュは今まさにピークをむかえようとしていた。
ため息をつく間もなく、プラットホームの階と地階のあいだにある、広い踊り場にたどり着いた。そのまままっすぐ進めば、RC3(前話参照)を行う公衆トイレが、そしてここから折り返す階段を降りれば、改札口に、そしてそこをまっすぐに数メートル突き進めば、持ち場へとたどり着くことができる。
水希は唇をキュッと結ぶと、Uターンを始めた人の雪崩を横切り、女子トイレへと向かった。
残り3分10秒——。
水希が女子トイレの入口を横切った。電車を降りてから50秒が経過していた。左手に持った携帯で時刻を確認しつつ、右手で一番目の個室の扉の把手を掴んだとき、彼女の脳裏を至極不穏な予感が横切った。体の動きを滞らせることなく扉を開くと、すぐさま身を翻し、内側から扉を閉じた。
——確か、持ち場まで4分って計算してたよね?
水希が自身に問いかける。
便座の上の棚に、カバンの口がこちらを向くように横倒しにしてスクールバッグを置く。チャックを開けっ放しにしておいたカバンから、手提げの形をした小さなモノトーン調の紙袋を取り出し、便座の蓋を閉じてその上に置いた。外見は何処かのショップのバッグに見えるが、内側には保冷バックのような金属光沢を放つコーティングがされていた。
水希の頭と体が、着々と各々違うタスクを同時並行して実行していた。
1分経過、残された時間は3分——。
——でもそうなると、持ち場に着いた瞬間、うぃーくんが作業をお願いしたバックパックの人がロッカーに行くってこと?そんなにギリギリなのって、よくないよね……。
水希の頭脳が不吉な計算処理を進めていく。
1分5秒経過。残された時間は——。
2分25秒。
——RC3を1分25秒で済ませ、定刻の30秒前に持ち場につく。
水希に課せられた作業の所要時間を限界まで縮めた場合を想定した結果だった。
齢わずか13歳の暗殺者の無駄のない動きがさらにキレを増す。
臙脂の制服のチャックを開き、しなやかな身のこなしで速やかに制服を脱ぐ。制服が水希の指先から落ちると、そのまま便座の上に置かれた紙袋の中に吸い込まれていった。
折り目がくっきりと付けられている新品の白いブラウスは、ボタンが10個あるが、いずれもボタンホールにボタンを通すタイプではなく、スナップボタンと呼ばれる、下の生地に縫い付け荒れた凸型の部品に、もう一方のボタンをパチっとはめ込むタイプのものだった。
水希が襟元のV字にあいた部分に左手を持ってくると、一気に手を振り下ろす。刹那鈍い連続音がしたかと思うと、音が途切れるやいなや、ブラウスは水希の右手を離れ、紙袋と彼女の指先の間の狭き空間を落下していくところだった。
右手がブラウスとの別れを惜しんでいる間に、彼女の左手は棚のカバンから鮮やかな真紅のTシャツを取り出していた。Tシャツといっても、厳冬の冷気の侵入を許さない、分厚いウール製の長袖で、丸首の穴がかなり小さめで、襟元を完全に覆うデザインになっていた。水希がそのTシャツの両袖に同時に腕を通すと、裾を強く引っ張りシャツのヨレを伸ばした。
- 10(2)話〜交錯する時間(とき)〜 ( No.143 )
- 日時: 2013/10/08 18:10
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 7TaqzNYJ)
次にカバンから取り出したのは、ポケットが幾つも付いた、黒無地のミリタリー風ジャケットだった。綿かダウンかが詰められた背高の襟が首から顔にかけてすっぽりと覆い尽くしている。ジャケットは羽織るだけなので、ものの2秒もかからなかった。
個室の扉の向こうで革靴の甲高い足音が横に流れていくのがきこえる。
豪雨のせいで、やや遅い通勤通学ラッシュを迎えた今、トイレの出入りも頻繁であるはずだったが、一人目の利用者が来るまでに、小さなEC隊員はトップスの着替えを完了していた。経過時間は、携帯を開く間も惜しいので、己の感覚でいうと、20秒くらいだろうか。とすると——。
残り2分5秒。着替えに使える時間は1分5秒——。
——大丈夫。絶対間に合わせます!
自分にそう言い聞かせる間にも、水希がボトムスの着替えに取り掛かっていた。
トップスはまだ序盤、時間がかかるのはボトムスの方である。
未だに横に膨れているカバンからカーキのショートパンツを取り出した。脱いだローファーを踏みつけながら、臙脂の制服のスカートの下にショートパンツを穿いた。
スカートのボタンとチャックを開き、くだんの紙袋にほうりこんだ。気が急いているせいで、オーバースローで叩きつけるような格好でスカートを投げ入れてしまった。誰かに見られているわけではないが、みっともない振る舞いに思わず顔を赤らめた。
——落ち着いて、落ち着いて。
衣服関係が主だったアイテムは、残すところ二つとなった。そのうちの一つ、漆黒のニーソックスカバンからを取り出し、穿きにかかる。今回のRC3ではどうしてもショートパンツを穿いてみたかったので、パンツとの組み合わせを何にするかで大いに悩んだ。
ストッキングやタイツは厚手を選べば足全体が暖かくなるが、穿くのに恐ろしく時間がかかる。外見上、着替えの所要時間上のベストは短めのソックスかと思ったが、この季節にそこまで頑張れる気がしなかった。それでニーソックスを選んだのだが、これもかなり穿くのに時間のかかるしろものであった。
右足で片足立ちになり、個室の壁に体をもたれかけさせながら長い靴下と格闘した。事前のシミュレーションの際はスムーズに履けたのだが、やはり気がはやっているのか、ふくらはぎのあたりに、ねじれたソックス独特の不快な感覚が伝わってくる。いつもは大人しく口数少なめな水希が、いらだちをあらわにしながらソックスのズレを直し、右足に取り掛かる。
最期のアイテムは本革のロングブーツ。任務中は激しく動くことが多々あるので、ヒールのついていないものを選んだ。我ながらよくもこんなに服や靴をあまり大きくはないスクールバッグに詰め込んだものだと、苛立ちの中でも己の行いに感心していた。
ブーツは靴紐で幾重にも編み上げられいた。残り時間が1分を切ったこの状況で少女のまえにダークブラウンのロングブーツが屹立している。だがロングブーツには内側に当たる部分にブーツの天辺から靴底まで縦に貫くジッパーかあり、全開にすればすんなり穿ける代物であった。
ニーソックスのときと同じく、片足でローファーを踏みつけながらの作業はみっともなかったが、今日この日のために、幾度もシミュレーションを重ねてきた水希にとって、片方のロングブーツを穿くのに10秒ではお釣りが返ってくるほどであった。
今更ではあるが、携帯を開いた状態で棚に置いておくべきであった。ボトムスを着替えるのにかかった時間は、彼女の感覚では30秒だと思ってはいたが、時間が経てば経つほど確実に誤差が広がっていくことを鑑みると、極めて不安だった。
今着ている漆黒のジャケットの右ポケットに、事前に入れておいた次なるアイテムを取り出す。そして眼前のスクールバックに目をやった。
カバンから携帯をとり出して時間を確認するだけでも、5秒程度の貴重な時間が失われてしまう。暑くもないのにこめかみから雫が垂れ、小刻み現れる白い息が水希の顔をうっすらと覆った。
——迷っている暇はないですね。
右手に次のアイテムをつかみ、左手を鞄に突っ込み、二つ折になった携帯を取り出して、直角に広げる。棚をしたたかに叩く音がしたとき、水希の瞳と正対する携帯電話の画面に、「7:57:57」の文字が映し出されているのが見えた。
——やった、ほぼぴったりです!
心の中で二つの拳を固めてガッツポーズをした。現実界の彼女の右手は今、数センチ程度の透明な滅菌パウチから小さなお椀上の物体を取り出し終えたところだった。一方、彼女の左手は、天井を仰ぐ彼女の右の瞼を押し開くように親指と人差し指を押し当てていた。
いよいよここからがEC隊員ならではの変装のメインイベントだ。裏表を問わず、世界中で最も恐れられるマッド・サイエンティストの、地味ではあるがかゆいところに手の届く、ささやかな発明のオンパレードである。
大崎影晴の裏世界での所業と、水希が右手に持っている「発明品」とのギャップに、思わず笑みが浮かぶ。
時間がなくても気持ちの余裕まで無くしてはいけないよ。時間がないのを楽しむんだ。
よく仲間——特にリーダー——からいわれ、自分でも言い聞かせ、そして時折仲間——特にリーダー——にも言い聞かせてきた文句が脳裏を横切った。
——そうよ、余裕をもって、楽しんで!
水希が左手に持ち替えた空のパウチを紙袋に放ると、右目にコンタクトレンズをはめ込んだ。大崎影晴のささやかな発明第一弾は、色合い変更機能つきカラーコンタクトレンズだ。
このコンタクトレンズは、装着中にレンズの色を変えられるのである。しかも色を変更するのに、リモコンのような別途の機器が必要ない。ではどうやって変更するのかといえば、色を意識するのである。色を変えろというメッセージを脳内に創り出し、その次に変えたい色を想像する。操作に慣れるまでに多少訓練がいるが、慣れればこれほど便利なものはない。コンタクトが駆動するためのエネルギーは、装着者のECのエネルギーである。コンタクトは者が小さいだけに、消費するエネルギーも、任務に支障が出ることなどまず考えられないほどの小さなものである。その上、ECの能力は人間の体力と同じように、使えば減るが、休息や水分、食事などの補給で回復する。つまりはコンタクトが燃料切れになることは事実上ない。そして、組織のメンバーではない何者かに不正に使用されるのを防ぐこともできる。
みるみるうちに、水希の瞳が血のように鮮やかな真紅に染まっていった——。
- 10(2)話〜交錯する時間(とき)〜 ( No.144 )
- 日時: 2013/10/08 18:15
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 7TaqzNYJ)
間髪いれず水希が髪の毛を結わえている左右のヘアバンドを指を巧み絡めてちぎった。乙女にはあるまじき所作であるが、彼女の髪の長さに加えツインテールというスタイルでは、ヘアバンドを髪を通して取り出すの時間が馬鹿にならないのである。ちぎったヘアバンドも便座の上の紙袋に放り入れた。
右手をミリタリージャケットの右ポケットに突っ込みまさぐると、再びパウチを取り出した。今度はグレーの地のパウチだ。コンタクトのものより倍くらいの大きさがある。虹色のラインがパウチの真ん中あたりを水平に貫いている。
水希がパウチの封を切り、白濁した薄緑色のゲル状の液体を左の掌に絞り出した。
大崎の細やかな発明第2弾は、色調整用トリートメントジェルである。色調整機能付きコンタクトで培った技術を応用し、それを頭髪にも応用したものであった。
水希が重量に逆らわずにおろした長い髪にジェルを擦り込み始めた。頭頂部の毛根のあたりから大雑把にジェルをのばしていく。このジェルは、大崎影晴の途方もない数の試行錯誤の末に生み出された、高い伸展性と流動性と浸透性、そして耐水性を兼ね備えた素材でできていた。そのため、ジェルをつけた手で軽く表面の髪の毛に触れるだけで、奥深くの頭髪までジェルが伸展し、ムラなく毛髪に浸透するのである。さらにこのジェルの優れているところは、40度前後の少し熱めのお湯ですすだけで跡形もなく流れ落ちるのである。そして、件のコンタクトと同じく、ECの能力者でなければ使うことができない。
襟足の辺り—毛先までではないのがポイント—までジェルをなすりこむと、水希は手を止め、手持ちのハンカチでジェルを拭き取った。頭の中で命令を発行する。そして深みのある紅をイメージする。
彼女の髪の毛の上半分が地毛の艶やかな光沢を残したまま、数秒の作業によるモノとは到底思えない見事な深紅に染まっていった。そして、ジェルが拭き取りきれていない両手も、うっすらと赤みを帯びていた。
ケイタイの画面に自分の顔の一部が映りこんでいる。右の眉毛に鮮やかな赤毛がかかっているのが見えた。そして眉毛、まつげにもジェルをすり込んだので、何もかもが深紅に染まっている。水希が満足そうに笑みを浮かべた。
だがRC3はまだ終わっていない。いよいよ最後の発明の登場である。赤毛の自分にやや陶酔している間に、彼女の右手は次のアイテムを右のポケットから取り出していた。今度もパウチである。そして、色調整用ジェルと同じように、右手にジェルを搾り出し、頭髪にすり込んでいった。今度は色調整用ジェルを擦り込んでいる髪が少し重なるあたり、耳たぶの高さのあたりからジェルを大雑把に伸ばしていく。今度は水希お気に入りのロングヘアーの端まで擦り込まなくてはならないので、ますます所作に乱雑にが増している。
すると、本来の艶やかな黒をしていた彼女の毛髪の色合いが目に見えて弱まっていき、数秒もせぬうちに消え去っていき、トイレの個室に入る前まではウエストにかかりそうなほどの長さのツインテールをしていた少女が、2分も経たないうちに、真っ白なうなじの上の端を覗かせる、ベリーショートの中性的な妖艶に様変わりしていた。
本ミッション最後の大崎影晴の発明は、不可視化ジェルである。このジェルを擦り込むとジェルの付着した部分だけ光を透過させ、人間の目には認識されなくするのである。まだ生成過程が多岐にわたり、品質も不安定なため、辛うじて少女一人分の頭髪に塗るだけの量を用意したのである。
このジェルを使うにあたり、指揮官から大反対があった。色調整用ジェルのテストのときでさえ、ウィルは驚きを通り越し、怒りをにじませていたのである。水希が日を改め、ちょっと驚かそうとベリーショートの状態でウィルのいつもの部屋に入り込んだとき、丁度ウィルはカフェラテを飲もうとコーヒーカップを持ち上げたところだった。見る影もなく豹変してしまった部下を目の当たりにしたとき、麗牙光陰の隊長の銀髪が蒼白に、瞳も光を失い真白に、コーヒーカップを持ち上げたまま金縛りにあったように動かなくなってしまった。あまりの反応に憤慨した水希は、硬直したウィルからコーヒーを取り上げ、飲みほして去っていったのである。
開発品の効果を確かめてもらうべく、開発者本人、つまり大崎の目の前で例の髪型に変化したとき、なんと大崎影晴からも芳しくない反応が返ってきたのである。さすがこれには堪えたが、それが返って思春期真っ盛りの少女の反骨精神に火をつけてしまった。
——完了!アイラインとか入れられたらもっと面白かったんだけどなぁ。
最後にスクールバッグから折りたたみ側を取り出し、バッグを紙袋にいれ、口を閉じて左手に提げると、棚の携帯を手に取った。
——7時58分40秒、かなり遅れちゃった!
トイレのレバーを引き水を流すと、内開きの扉に顔を刹那顰めながら個室を飛び出した。その瞬間丁度個室の前を通り過ぎた水希の後に入ってきた人と思しき女子中学生とぶつかってしまった。
「あ、す——」
「す、すみません、すみませんっ」
水希の言葉をさえぎるように、相手が顔を伏せ、必死になってお辞儀をしている、女の子の過剰ともいえる誤り方に両手を突き出してなだめていると、ふと目の前の鏡に映し出された己の姿が瞳に飛び込んできた。
いかにも粋がった服装に、髪も瞳も、眉毛も何もかもが燃え盛る炎のようなショートカットの女の子がこっちを見つめている。目線だけで相手を殺せそうな迫力に自身も体を硬直させそうになってしまった。
「いいんですよ、ね。そんなに謝らないでくださいね」
見た目からは想像もつかないほどの柔らかな高音と温和な物言いに、女の子がまぶたをいっぱいに開けて呆然としていると、水希が紙の手提げを正面に提げ、穏やかに頸を傾げて笑みを浮かべた。真紅の髪がかすかに揺らめく。
眼前の少女が顔を甚く紅潮させベリーショートの少女に魅入っている中、軽く右手で会釈をしてトイレを飛び出していった。思わぬタイムロスである。携帯を確認すると、12秒が経過していた。
残り38秒——。
水希が右手に提げた紙袋を上下左右に小刻みに振り始めた。この紙袋もくだんのマッド・サイエンティストの発明品であった。紙袋の口の内側から袋の内側に向かって微小なレーザーの射出口があり、そこから発射されたレーザーが、紙袋の不規則な凹凸で乱反射し、無数の刃となって中の布切れやジッパーなどの金属を塵芥に帰すのである。レーザーの供給源は、影晴が開発した、単4乾電池サイズの大容量バッテリーである。およそ20秒程度で処理が完了するので、電池を抜き、ゴミ箱に捨てることで完全な証拠隠滅が成立する。たとえ紙袋を調べ、同じサイズの電池をはめ込んでも、電力量が全く足りずに動作させることが出来ない。粉末化した証拠品を内包した紙袋は、ごみ集積車に詰め込まれて永遠に姿を消すのである。
- 10(2)話〜交錯する時間(とき)〜 ( No.145 )
- 日時: 2013/10/08 18:16
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 7TaqzNYJ)
真正面に現れたくだり階段は、多少人がはけたものの、水希の前進を妨害するには十分すぎるほどの人ごみがある。
水希が意を決し、前方を見据える。勢いよくロングブーツでコンクリートの床を蹴った。
「すみません」
言葉とは裏腹に押しのけるように肩をぶつけられた女子高生が声のしたほうを睨みつけると、さらに顔をしかめて身を引いた。赤毛の少女が人波間をすり抜けようとするたびに彼女のそばの人々はモーゼの力がかけられたかのように次々に左右に分かれていった。
改札を通り抜けるとさらに駆け足の速度を上げ、道路に達した。すばやく左右を確認し、反対側の柵にたどり着いた。走りながら傘を差したために、束の間氷の粒が刺すように可細い体を打ちすえてきた。耳を弄するほどの轟音を上げて降りしきるあられは、わずかの間に当たっただけでも水希の衣服の肩の辺りに白く積もっていた。
かすかに水しぶきをあげながら体を翻すと、RC3最後の時刻確認を行った。水希が食い入るように深紅の瞳でケイタイの画面を見つめる。
——7時59分……30秒……。
双眸を力いっぱいに閉じ、喜びをかみ締めた。目標時間達成である。
記念すべき第1回目のRC3は、所要時間1分6秒。ほかと比べるものがないが、水希の中では最高の出来栄えであった。
しばし閉じていた目を開くと、姿勢をただし、傘越しに駅入り口の向かって左奥のコインロッカースペースに視線をやり、周囲の情況を確認する。
——RC3終わりました。いま持ち場にいます。今のところ周囲に異状はありません。
——予定通りか……さすがだね、みぃちゃん。
部下から作業を滞りなくすすめているという報告をうけたのに、リーダーのヒアにはため息が混じっていた。
意識に直接響くヒアの声はよく聞こえるが、傘が破れそうなほど苛烈なあられのたてる音は非常に耳障りであった。
——もうすぐあの人来るはずだから、まわりの情況にはさい…の注意を払うようにね。……あったらすぐ連絡。僕は荷物の受け取りで引き続き構内に待機し……。
声なき会話を邪魔するかのように、稲妻が轟音をたてて下界に墜ちた。最初にきたときより大幅に近付いている気がした。
——了解です、リーダー。
水希がヒアを終えようとすると、寸でのところでウィルがヒアを割り込ませてきた。
——ごめん、一番大切なこと言い忘れてた。
水希が気持ち表情を顰めた。今までの見張りの任務で、一番大切なことというような特別な指示など今までなかったはずだ。
——今回の任務、暗闇の能力の使用はできる限り控えて。能力を使わなくちゃいけない状況になるまえに僕を呼んで、絶対だよ。それじゃぁ、よろしくね。
——え?
水希の明確な回答を待たずにヒアが途切れた。途端に右ポケットにいれた携帯のタイマーがマナーモードで作動した。8時だ。
ウィルとの会話が予測外に長引いてしまった。ウィルの最後の指示をひとまず頭の隅においやると、右手に持った傘をやや低く持ち、学生たちでごった返している駅の出入り口付近に警戒の眼を光らせる。改札の数メートル奥にある階段の中程に、例の男性の姿が見えた。男の進路を妨害するかのように横にひろがり会話に花を咲かせる女子高生の一団を目の前にしてまごついていた。
”まだ”不審な人物や現象は確認できていない。麗牙の二人はこの任務において必ず何らかの事件が起きると踏んでいた。どんなに情報の流れを厳格にコントロールしていても、必ず情報は漏洩するものなのだ。二人以上の人間が世界に存在する以上、逃れることのできない宿命なのだ、彼らの敬愛する「神」が言っていた。そして、その理を彼らは自らに課せられた侵入、窃盗などの任務を遂行することで、身をもって知っていたのである。
ようやくバックパックの男が眼前の集団を追い越すところが見えた。
水希の眼球が一層ひっきりなしに動く。
荷物の回収時刻が8時という情報が何らかルートで漏れていれば、帝国までに界隈で不審な動きがあってもおかしくないはずだが、今のところそのような兆候は全く見られない。念のため空も見てみたが、雨雲の中から鈍い音とともに光が漏れだしているだけで、不審な影などは見当たらなかった。
このような荒天では防御側は空からの襲来を察知しにくいが、攻める側も目標地点に達するのに困難を極めるのだ。それは攻撃手段が有人であろうと無線誘導であっても同様であることを、13歳の可憐な——今は見る影もないが——日本人中学生は遥か昔に知っていた。
だとすれば、次に警戒しなくてはならないのは、バックパックの男性がコインロッカーに寄り、くだんの荷物の入ったロッカーの番号を特定し、扉を開け、荷物を手にするのが確認できた瞬間。そこでもなければ、男性がロッカーから離れ、男性に代理を頼んだ依頼主のもとに戻る途中だ。
男が一番コインローカーよりの改札を小走りで抜けると、問題なくロッカーにたどり着いた。そして、右手に持った銀髪の少「女」から渡されたメモを見ながら番号を探している。
水希はロッカーにモノが入っているかが気になり、つい男性の様子に気を取られてしまった。
突然右から男声の薄っぺらい怒号がとんできて、本来の任務を思い出した。
不審者?
水希が体を回して右を向くと、痩身の男が前方の何かを睨みつけ、人間らしからぬ速さで駆けている。咄嗟に男の向かう先に体を戻した
「なにするんだ。はな——」
——あの人の声。しまった。いつの間に?
特徴的な怒号に反応してコインロッカーの方を見た学生たちの耳をつんざくような悲鳴が交錯する中、水希が深紅の瞳をロッカーに戻すと、目の当たりにした光景に愕然とした。
バックパックの男の手前に巨大な石像のようなオブジェが立ちはだかり、彼の姿が確認できない。
水希はしばし目の前で何が起きているのか理解できなかった。男の手前の石像が奥に一歩踏み出したのを見て、ようやくリーダーにヒアを飛ばした。動揺を抑えて、落ち着き払った声を送る。
——不審者が現れました、リーダー。不審者が現れ……。
水希のヒアが突然途絶えた。隅に追いやられていた土砂降りの轟音が再び指揮官の少年の聴覚を占拠した。
——こちらウィル。不審者、了解。何かありましたか。まだ待機してください。
灼髪の少女が眼前の光景に、返事をするのを忘れていた。傘を手にしたまま右手を落とし、呆然と立ち尽くした。あられに全身を叩かれても痛みを感じることすら忘れていた。
——水希、返事をしてください。水希?
黒壁の男に加勢するように、もう一人、真っ黒な覆面をかぶった妖怪ぬりかべのような魁夷がコインロッカーの一角に突っ込んでいくのが二つの灼眼に映り込んでいた。
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