二次創作小説(紙ほか)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

AsStory /予告用中編 『二人の精霊王』
日時: 2015/09/20 00:30
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 3qG9h5d1)

初めまして!
書き述べると申します。


 この作品は以前、シリアスのカテゴリーだったのですが、第七話からはこのサイトに投稿されている他の方の作品の内容を混ぜ込ませていただくことになりましたので、このジャンルに引っ越してきました!

カキコ内二次(合作じゃないですよ)……結構珍しい様な気もします。

混ぜ込む作品は——
『Enjoy Club』(作:友桃様)
です!
そして
『ウェルリア王国物語』(作:明鈴様)

ぇ、二つもやって大丈夫なのかって?貴様のプロットどうなってるんだよって???

(黙殺。。。。。。)



1点注意していただきたい事が……。
冒頭でも触れておりますが、もともとシリアス・ダークの作品なので、そのカテゴリー特有の表現があるかも知れません。できるだけグロい表現は使わないつもりであはりますが……。


更新の間隔が2か月空いたりすることがよくありますが、寛大な御心で受け入れてくださいますと大変有り難いです!


【最新話直前の状況】

(現在修正中・・・・・)




【お客様(引っ越し前の方含みます)】
  アメイジング・グレイス様
  アサムス様
  友桃様
  通りすがりの者です。様
  (朱雀*@).゜.様



【目次】

◆◆ 序章 ◆◆

 1話 >>1

 2話 >>2-3

 3話 >>4-5

 4話 >>6-11

◆◆ 第一章 ◆◆

 5話 >>12-13

 6話 >>14-19

 7話 >>21-25

 8(1)話 >>29-31

 8(2)話 >>38 >>41 >>44 >>46 >>48 >>51 >>53 >>58 >>60-61 >>63-64 >>70-75

 9話 >>81-82 >>87-88

 9(2)話 >>90-91

 9(3)話『時空間操作システム』 >>95-96

 9(4)話『副長官、乱心』 >>98-100

 9(5)話『時間ときを越えて』 >>105-107

 9(6)話『地を駆る鳥』 >>110-114

 10(1)話『ひかり、在れ』 >>118-119

 10(2)話『幕開け』 >>129-132

 10(3)話『交錯する時間とき>>142-153

 10(4)話『混迷に魅入られし者たち』 >>160-166

 10(5)話『絶体絶命』 >>172-175

 10(6)話『PMC、対陸軍攻撃陣』 >>180-189

 10(7)話『突入』 >>192-197

 10(8)話『スナイピング』 >>200-204

 10(9)話『ひかり、在れ』 >>209-210 >>213-214 >>227 >>229-230


◆◆ 第二章 ◆◆

 11話『逃走』(更新中) >>232-239


〜〜小説紹介〜〜
『☆星の子☆』((朱雀*@).゜. 様) >>108
『Enjoy Club』(友桃様) >>109


書き始め 2010年冬頃
(もう3年経ってしまったんですねぇ)

〜〜予告用短編〜〜
『月光』 >>126-127

『二人の精霊王』 >>243-245 <<<<<<<<(現在作成中!)

〜〜クリスマス短編〜〜
『クリスマス・プレゼント』 >>217-225

〜〜キャラ絵〜〜
メクチ >>207
水希 >>208
水希(変装後) >>212


登場人物一覧
>>206 (リアルパート)
>>216 (ファンタジーパート)

〜追伸〜
ツイタやってる方。。。R18記事があってもOKって方は、ちょっとフォローしてやってくれませんか?? => @motto_e

あんまり呟かないですけどねぇ〜(ぇ?)

AsStory 『ひかり、在れ』〜クリスマス短編更新中(7) ( No.223 )
日時: 2014/12/21 11:13
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: WkkVAnf4)


——くそっ!アイツ、また体のキレがよくなってやがる。

「亜弓!絶対そこから動くな!」

 前に踏み出そうとする亜弓を睨みつけて制する。風也が南に向かって疾走した。

 いつになったら二人でゆっくりとイルミネーション見れるのだろう。
 片側だけのイルミネーションを横目に、想いがぎる。そして瞬く間に小さくなっていく恋人と、一向に小さくならない町田を確認し、更に強く地面を蹴った。

 直後黄色い悲鳴が後ろから風也を追い抜いた。恋人の声を聞き間違えるはずもないが、もう片方の人間が本当の意味での悲鳴を出すはずもなく——悲鳴のような歓声は腐るほど聞いているが——、やむを得ず速度を落として後ろを振り向いた。そのまま男の前進が止まった。何があった?

 町田が全速力でのまま、何も無いところでバランスを崩し、土石流の岩石の如くバウンドし、転がり、新調したコートやスカートに砂を巻き込みながら風也の足下で止まった。最初は演技かと思ったが、どうやら本当に痛がっている。俯せになり、髪の毛で顔を覆い隠し、呻いてはいるが身動きがとれる状態ではなさそうだった。

「お、おい、大丈夫か」

 無言のまま髪の毛の塊がゆさりと揺れる。本人は頷いたつもりだった。そして、何かを呟いた。風也が少し身を乗り出して聞き返す。

「目が、見えない・・・・・・」

「なに?」

「何も・・・・・・見えないの」

「突然なに言ってんだ。嘘だろ?」

 今度は髪の毛の塊が横に揺れた。

 少しの沈黙のあと、鼻をすする音がする。

「おい・・・大丈夫か?」

「・・・・・・」


 あの不屈の少女が、泣いていた。



2014年12月24日 23時44分 丸の内イルミネーション 東京駅正面——

——あの人起きてこないよ、恵怜。ちょっとやり過ぎちゃったかな。

——優し過ぎよ、みぃちゃん。あの子にはちょっときついお灸を据えてやらないと、いつまでも同じ事の繰り返しになるだけよ。

 以心伝心よりもよりはっきりとした意思疎通ができる声なき会話、遥声ヒアが交わされる。

 風也たちが立ち止まっているポイントから約100m南。東京駅丸の内北口から延びる通りが水希の目と鼻の先で交差する。
 親友と彼女の彼氏の様子が明らかにおかしいのが心配になり、恵怜が指揮官に状況を報告し、急遽二人を追跡することになった。更に町田が来ていることを知った恵怜と水希が、指揮官の許可をもらったうえで、ターゲットの町田に能力攻撃を仕掛けたのである。

 水希は通りの真ん中で東京駅の駅舎を眺めるふりをして町田を照準に収めつつ、亜弓たちに顔の割れている恵怜は、もう少し風也たちから離れたビルの陰からスポッターを担っていた。今の水希なら、五感を無効化することができるが、それはさすがに生命の危機に陥らせる可能性が極めて高いので、今は視覚だけを無効化している。

——みぃちゃん、僕が終了の合図を出すまで能力を続けて。恵怜はいつでも飛び出せるようにね。

——了解です。

——オッケー。

 指揮官ウィルは水希が一人だと思われない程度に少し離れたところで、周囲の状況把握に努めていた。すっかり意識がミッションモードに切り替わってしまった3人が他のカップルやグループのように1カ所に群れることははなかった。

 万が一、まずないと思うが、水希の能力だけで事態が収拾できない場合は、恵怜を動かすことになっていた。顔が割れているとはいえ、仲通りを偶然通りかかったことにすれば言い訳は立つし、彼女の能力は極端に力を発揮しなければ、目撃者の記憶違いや見間違いで言い逃れができる。ウィルの能力は、それが難しい。少年の能力の目撃者は基本的に抹殺。今回は指揮に徹することになりそうだった。
 
 指揮官が碧眼を眇め、風也たちの監視を続けた。


2014年12月24日 23時44分 丸の内イルミネーション 東京駅正面から2ブロック北——


 彼氏を奪おうとする傍若無人な同級生が遠くで派手に転んだのを目撃すると、根っからのお人よしはいてもたってもいられず、風也たちのいる方に駆け寄ってきた。

「亜弓、戻れ!」

「でも」亜弓が風也に懇願の表情を向ける。大人しそうな顔をして、中身は不良集団のトップすら突き動かす芯がある。風也がしばらく亜弓を睨み付けた後、少しだけ離れろと彼女に目配せをする。亜弓が黙って従う。

 気を取り直して風也が、町田の腕の射程に入らない程度に距離を置き、左側にしゃがみこむ。救急車を呼ぶから、と風也がスマートホンをとろうと目線を落としたとき、町田の左手の当たりに煌めくものがあった。

 薬指にダイヤの……指輪?
 風也の背中に悪寒が走る。全身の関節が軋みながら硬直していく。

「左手の……なんですか……それ」

 亜弓の声が向こうからした。てっきり、町田の左手の事を言っているのだと思った。そう思いたかった。
 だが、友賀亜弓は、町田の右側に立っている。亜弓から見える左手は……。

 風也の体の異変は関節に収まらず、呼吸すら困難にした。恐怖で震えることすら許されない少年が、左右の眼球をぐるりと左下に回す。鷲の足のごとき形に左手が固まっている。人差指、異常なし。中指、異常なし。

 薬指……。思わず瞳のピントをぼかした。更に瞼を下ろす。サルヴェ・レジーナ——。

 ゆっくりと、瞼を開く。

 見覚えのない、プラチナの指輪が、数分のサイズの狂いもなく、綺麗に収まっていた。

「風也くぅん、私の目が見えなくなっても、私たち別れたりしないよね?」

 町田にとって目が見えないことなど、彼との永遠とわの愛を一層鮮やかに飾るアクセサリでしかなかった。町田が顔の周りを髪の毛で覆ったまま、ゆっくりと立ち上がる。亜弓が声を失い、しりもちをついた。

 風也が思わずスマホを落とし、立ち上がれぬまま後ずさりした。それでも少年は果敢に応えた。

「もともと付き合ってねぇし!」自身の怒声で辛うじて奮起し、足をもつれさせながらも立ち上がり、とにかく亜弓から化け物を離すべく、三度南に走り始めた。

「ああ、待ってよぉ。風也くぅん!」

 24日24時0分までは恋の追いかけっこは続くのだ。絶対に置いてかれるものか。町田が力強く右足を踏みしめた瞬間——。

「いい加減にしなさいよ!」

 後ろから声が聞こえるなり、左右の二の腕を掴まれ、肩甲骨まで捻りあげられた。

「イッタァい!」

「え?恵怜?!」
 
 既にしりもちついてしまい、驚愕を顕す術を失った亜弓は、ただ友の名を呼ぶばかりであった。

「ここはもう大丈夫!行って、紫苑君のところに!」

 ミニスカートを揺らめかせ、お決まりの勝気な笑みを親友に向ける。

 亜弓が両目を涙いっぱいにし、声を詰まらせながら何度も頷き、南へと走って行った——。



2014年12月24日 23時46分 丸の内イルミネーション 大通りの交差点付近——

 大通りとの交差点の前で、二人はイルミネーションは眺めていた。向かい側には、丸の内ブリックスクエアのガラス張りのビルと、美術館や小さなビルがいくつか並んでいて、建物の列の向こうから、人々の声が聞こえてきていた。向こうには美術館の中庭があり、あの盛り上がりようだと、アルコールの出るレストランか何かがまだやっているようだった。
 
 光曳たちは、先行していた3人組の中高生らが急にバラバラに動き出し、来た道を戻って行ってしまったあと、取り残されていた。とりあえず拍手と歓声のした方に行ってみたのだが、あの3人組にペースを合わせていたせいで、目的の場所についたころには大きな白い袋が一つ、道端に放置されているだけだった。

 美術館が何かクリスマスにちなんだアクセサリでも配っていたのだろうか。今となっては勝手に想像する他なくなってしまった出来事に思いを馳せている巨漢の周りでは、メクチが電飾の施された街路樹を見上げながら、おおいにはしゃいでいた。レースの黒手袋をはめた小さな両手には、光曳が持って来ていた大型のレンズ一体型カメラを抱えていた。写真の撮り方を教えると——といっても、ズームダイヤルとシャッターボタン、画像の確認ボタンの使い方を教えただけなのだが——、最初は光曳に言われるがままに、そしてカメラで風景が残せるということを理解し始めると、勝手動き回っていたるところを撮り始めた。

 時々、この子の年齢は見た目と、生きてきた時間のどっちで考えたらいいのか、わからなくなる時がある。

「光曳さん、二人と夜景を写せませんか?」

 ひとつ向こうの街路樹の下にいたメクチが声をかけてきた。「ああ、三脚って道具を使えばいいよ」

 光曳が背中に抱えていた三脚のソフトケースをおろし、畳まれている三脚を取り出して組み立てはじめた。

「光曳さん、ビルの間から広場が見えますわ。騒ぎ声のもとはここでしたのね」

 メクチが最初に連れに話したことをそっちのけにして、手招きしている。光曳が三脚を抱えて行くと、建物の間が、人が3人ほど通れる程度に空いていて、その向こうにはトランプの兵隊を模した装飾が一面に飾られた、人の高さほどのクリスマスツリーが半分だけ姿を見せていた。

 時々ほろ酔いの客が、間を横切るのも見えたりして、とても賑やかそうだった。何か買うつもりはなかったが、中庭の向こうが垣間見える巧みな仕掛けに、二人が見事に引っかかってしまい、中庭に誘われるがままに入っていった。




(2014/12/19 追記)

そろそろ尻に火がついてきました。。。。
こんなに長引くとは思ってなかった。。。

ぁぁ、誰か助けておくれ。。。。


〜2014/12/20 追記〜

2度目の忘年会の二日酔いに苦しみつつ。。。追加。
先の見え過ぎな展開でスンマセン。。。。(涙)

もうすぐエンディングです!

AsStory 『ひかり、在れ』〜クリスマス短編(8) ( No.224 )
日時: 2015/06/08 02:50
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: EMf5cCo0)
プロフ: https://www.youtube.com/watch?v=MptnOJsIlyE

 1分後、例の大通りの交差点の手前に設定してあるベンチに、困憊しきった風也と亜弓がへたり込んでいた。亜弓がついてきた理由は、走っているときに聞いた。風也が真黒は天空を仰いだ。際限なく気温が下がり続けているような錯覚を覚えた。

 偶然なのかのもしれないが、荒木恵怜がそこにいた疑問が一つ残ったとしても、あいつには大きな借りが出来てしまった。どうやって返すか。

「綺麗ですね……ルミネーション」

 彼女をおいて沈潜してしまっていた風也の左脇では、亜弓が顔の周りを真っ白に曇らせて上を見上げていた。「恵怜、どうしてるのかな」
 電飾の光を浴びて輝いていた笑みが、途端に消えた。

「そうだな……」

 確かに、町田からは解放され、当初の目的通り、イルミネーションをゆっくり楽しめる状況にはなったが、会話は途絶え、心あらずな面持ちで、正面の真っ暗な中層ビルを眺めてばかりだった。

「あれ?」

 亜弓が、耳を澄ませる。クリスマスキャロルだ。確かこれは"Oh, Holy Night"だ。混声のア・カペラ。なんて透明感のある響きなんだろう。頬の力がほのかに緩んだ。

「あっちから聞こえるな」風也が美術館の中庭の入り口になっている、ビルの隙間を目配せで示した。

「恵怜にも聞かせられたらなぁ」
 なんとなく亜弓の口から、言葉が漏れた。風也の眉間に、深く皺が刻まれているのに気付くと、亜弓が思わず目を伏せた。風也も亜弓の素振りで初めて自分の表情に気付き、目を反らした。
 気まずい沈黙が続いた……。淡々とアカペラが、冷え切った空間で響いていた。

「……一緒に聴きたいよな、この歌」
 沈黙を破った風也の言葉に、亜弓が彼に顔を向ける。そしてゆっくりと頷いた。


 しばし俯いていた風也が、不意に不敵な笑みを亜弓に向け、右腕を掴む。「行くぜ!悪ぃがまた走ってもらうぜ」

 亜弓が少し目を丸くして応える。

「風也が慌てるなんて珍しいですね。大丈夫ですよ、スマホでちゃちゃっと呼び出すのです」

 完全に虚を突かれた風也が赤面し、顔を空を仰ぐ。隣で亜弓がスマホを2タップして、相手が出るのを待った。

「……」

「……」

 数秒後、淡々とした調子で、電波の届かないところでという旨のメッセージが返ってきた。

「うぅ、つながりません。たぶん、恵怜の電話電池切れしてます」

 待ってましたとばかりに、風也が泣き顔の亜弓の右手首を再度掴み引き寄せる。危うく落としかけたスマホを、風也が空中でキャッチし、亜弓に手渡した。「じゃぁ、行くか」

「え?!でも間に合い——」

「間に合わせるんだよ!」

 亜弓の驚きの声もやまぬうちに、風也が全力のスタートダッシュを決めた。一足早く、イヴの夜空低く、友賀亜弓に姿も大きさもそっくりの凧が向かい風にあおられて舞っていた。

 ガラス張りのブリックスクエアの中にある時計が、午後23時53分を指していた——。



2014年12月24日 23時52分 丸の内イルミネーション 東京駅正面から2ブロック北————

 台風一過の静寂しじまに心を委ね、通りのベンチに腰掛けて光廊の向こうの闇をじっと見続けていた。常に威勢良く振る舞っているせいか、親友を慮る本人の気持ちに反して、黒目の大きな彼女の瞳はいつもと変わらず爛々と輝いていた。

「亜弓、ちゃんと紫苑君に逢えたかな」

 恵怜が誰に話しかけるでもなく、ふと言葉を漏らしていた。隣では権謀術数の限りを尽くそうとしているのか、町田が不気味に黙りこくって虚空の一点を凝視している。やぱりこの子を連れて歩くのは危険すぎるわ。

——寒いなぁ。

 恵怜がほう、と大きく息を吐き、小さな綿雲を目の前につくると、空を見上げた。片側だけのイルミネーション、星空の見えない大空。イルミネーションは12月だけは点灯時間が延長されるが、それも24時まで。残り8分を切った。ウィルと水希も、危険分子の見張りのため、あまり遠くまで行けない。

——ごめんね。こんなことになっちゃって、来年はしっかりイブ愉しもうね!

 少し離れた場所に立っていた二人が、不意に飛んできた遥声に、とんでもない、と手を振り、首を振る。

——それよりも、さっき恵怜のスマホ鳴ってたみたいだけど?

 ツインテールの後輩の指摘で初めて気づいた恵怜が、ショルダーバッグを引っ掻き回すと、光を失った6インチのディスプレイがかばんの底に埋もれていた。

 恵怜が苦笑いで返事に応え、もう一度肩を落したとき、何度となく聞かされてきた情けない悲鳴がイルミネーションの列の向こうから聞こえてくる。その後に、3人を呼ぶ力強い青年の声。

 想定外の事態に、麗牙の3人が声も出せずに立ち尽くしていた。一人町田だけは、金切り声を出し、大はしゃぎをしている。

「ど、どうして?どうしたのよ亜弓ぃ!」眉を吊り上げて亜弓に詰め寄ろうとする恵怜を風也が遮った。

「ちょいまち。クリスマスキャロル、聴こうぜ」不良集団のトップの口から、全くらしくない単語が飛び出してきて恵怜が思わず噴き出した。先ほどまでのいろんな感情が全部笑いに変わってしまった。

「聴くのです!みんなで!……あれ?この人達は、恵怜のお知り合いですか?」

 亜弓の何気ない一言で一気に笑いが止まった恵怜が、必死に取り繕う。風也どこか腑に落ちない顔をしているが、亜弓はキャロルを聴く仲間が増えて、手を叩いて歓喜していた。
 改めて全員がお互いの顔を見回すと、全員の表情に光が戻っていた。風也も、今日だけは素性の知れない人間と行動を共にする気持ちを決めたようだった。町田の顔は輝き過ぎて風也が手で目を覆っていた。

「時間がねぇ、突っ走れ!」

 先頭を風也、そして往路と同じく右腕を掴まれた亜弓が後に続き、そのすぐ後ろを驚異的な脚力で町田が追いかける。そして、眼前のストーカー少女の潜在能力にすっかり舌を巻いた恵怜が跳躍の様な走りを見せ、最後にウィル・ロイファーが水希と手をつなぎ、非常に小刻みに瞬間移動を繰り返して、疾走する一団に続く。

 進路上のカップル達を脇に飛び退かせ、驚愕と憤懣の視線を背後に浴びつつ、6人の学生達が、111万球の光点の廊を走り抜けていった。

 東京駅正面を通り過ぎた時、駅舎中央の時計が23時55分を指していた——。



2014年12月24日 23時54分 丸の内イルミネーション 大通りの交差点付近——

 サンタ姿のABとCDが東京国際フォーラムの北側の通りを西に行き、丸の内イルミネーションと交差する、信号のある交差点に辿りつくところだった。

 ABの面貌は常にバラクラバで隠されており、表情を読み取ることはできないが、口が露出するタイプであったので、極めて鋭角にへの字に曲がった唇を見れば、子供でもこの凶暴なサンタが、噴火寸前まで憤懣を溜めこんでいることが一目でわかるに違いなかった。

「っキショウ!アンだけ危険な思いして探したのによぉ!」

 巌の様な左右の拳を胸の前で突き合わせ、界隈に鈍い音を響かせた。左脇を歩いていた痩身のサンタクロースが、相棒の顔を見上げてなだめる。

「ますます目立っちゃうよ。もう少し落ち着きなよ」

「こんなわりのいい依頼、滅多にねえってのに、落ち着いてられっかヴォケ!」

 二人が、会話に気をられ、無意識に交差点を右に曲がる。すると、ABが急に足を止め、喋るのを止め、相棒の顔の前に左手を広げて黙らせた。CDはその理由が分からぬまま、指示に従った。
 長年、平和な環境に身を置くことが無かった巨漢の運び屋が、記憶のある中で初めて、静かな環境で聴くクリスマス・キャロルだった。名前くらいは知っている。"O, Holy Night"だ。女声がわずかに混じる変則的な編成のコーラスのようだった。人数もそんなに多くは無い。コーラスの居場所はすぐに分かった。

 建物の隙間から人だかりの端が見える。その中に飛びぬけて背の高い、そして横幅をある人影にも気づいていたが、それが誰かなど考えもしなかった。

「おい、モヤシ」

 CDが数えきれないほど使われ続けてきた己の蔑称に、眉間に皺を深々と刻み、斜め上を見上げる。そして思わず目を瞬かせた。ABが柄でもなく微笑みを浮かべていた。ニヤけていたのではない。人並みに微笑みを浮かべていたのである。これが聖歌の魔力だとは思わなかった。ついに世界の終りが来たのだと、CDが胸の前に不可視の十字を組んでいた。

「おい!ちょっと顔出してくぜィ」

 デコボコのサンタクロースのコンビ、広場へと吸い込まれていった——。

 広場の時計が示す時刻は23時55分。丁度、疾走する6人組が東京駅正面を通過したところだった——。



2014年12月24日 23時55分 三井一号美術館前パブリックスペース——

 広場の前の通りにいたカップル達は殆ど、いや全てがこの狭い空間に集まってきたのではないか思えるほどの混み具合だった。だが混雑している様子はなく、皆、広場中央に小さく聳える、トランプの兵隊のデコレーションが施されたツリーのオブジェを囲むように、整然と弧を描いて並び、沈黙を守り、透き通るような無伴奏コーラスに耳を澄ませていた。

 ここに居合わせている聴衆の約半数は、世界一有名な「アリス」が冒険した世界から着想を得たツリーをカメラに収めるために、わざわざこの狭い空間に来ていた。だが、広場に面するレストランのテーブルで盛り上がっていた一団が、様相を一変させたのだ。

 彼らはクリスマスコンサートの帰りのアマチュア・アカペラ・アンサンブルだった。そして彼らがコンサートの打ち上げで大いに盛り上がり、酔っぱらい、その勢いで歌い始めたのである。

 アルコールでのどが痺れ、ベストコンディションからはほど遠い状況であったが、余りに有名でまっすぐなコード進行のこのキャロルを歌うには、お釣りが返ってくるほどの理性と音感が彼らには残っていた。

 光曳がそっと右下に視線を落とすと、メクチが左右の瞼を優しく閉じ、旋律に心を委ね、安らかな笑みを浮かべていた。








〜2014/12/21 追記〜

諸般の事情で、チェックあと回してあげてしまいます。。。誤字脱字だらけでスミマセン
時刻を修正しました。

(風也)「間に合わせるんだよ!」
↑我にはかなり痛い。。。。


急げ、風也!!


〜2014/12/21〜
スマホという文明の利器の存在をすっかり忘れてました。。。
まだ、ガラケーなので。。。(言い訳になってない)

(私事)『ico(上・下)』(宮部みゆき)の小説買った。。。。うぉぉぉ


〜2014/12/23〜
学生のグループを登場させると、全員で走らせるシーンを描きたくなるのは年のせいか。。。。。(溜息)
でも、町田が一緒に走らせられたのが、我ながら少々嬉しかったりする。。。
本当の嫌われキャラがいないのがECのいいとこだと思ってるので。。。。



ヤヴァイ、今日仕上げないと、明日書く暇が無い可能性が。。。。。
急げ、我。。。!

AsStory 『ひかり、在れ』〜クリスマス短編(9) ( No.225 )
日時: 2014/12/24 20:49
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: ..JV/GOK)
プロフ: https://www.youtube.com/watch?v=pFjdfjrtf1Q

 讃美歌を愉しむ魔物なんて——。光曳の心が針で刺されたように痛んだ。でも、今日だけは、せめて今、この歌が流れている間だけは・・・・・・。

 本人が笑っているのに、取り巻きが悄げているなんて、可笑しいじゃないか。

 光曳の意識が黒衣の少女の笑みで埋め尽くされていった。少女がメロディにあわせてほのかに髪を揺らすと、光曳の体も自然と左右に揺れていた。周りの聴衆も、それぞれの思いをそれぞれの方法で表現していた。
 暫しの間、氷点を下回った気温を忘れ、広場が興奮と思慕の熱気に包まれていた。

 キャロルの演奏が終わる少し前から気の早い拍手が鳴り始めたとき、巨躯のサンタの格好をした運び屋が、彼らの正体の目撃者である超肥満体の青年を見つけていた。青年もまた、背後に不穏な人の気配を感じて振り返り、運命の分岐点に立たされていることを意識せざる終えない状況に陥っていた。

 束の間にらみ合っていた二人だったが、サンタはすぐには襲ってくるつもりではなさそうだった。最期の哀れみなのだろうか。だが、自分には何もすることがない。何もできない。右隣の少女はアンサンブルに気をとられていて、光曳の挙動の不穏さに気付いていなかった。
 光曳は正面に直り、メクチと一緒に、全力で歓声と拍手をアンサンブルに送り続けていた。
 
 己の素性を知られている恐れがあるのだから、相応の対処をするのは当たり前のことだ。だがABはそれを実行に移す気になれなかった。
 人間は何かにつけて殺し合いをしたがる生き物だが、そんな彼らにも共通認識している休戦期間というものがある。世界規模ではオリンピックの開催中、中世ヨーロッパなら寒さの厳しくなる冬季、同の日本であれば足軽になる農民が集まらない稲刈りの時期などがそうだ。そして、未来の運び屋は初めて最後まで聴いたそれを、その一覧もう一つ、キャロルの演奏中という項目も追加していた。

 ところが既にキャロルはもう終わり、賞賛の拍手ももうすぐ止むにもかかわらず、ABは動き出す気配を見せなかった。

 まだある。まだ、何かある気がするのだ。


「もう、演奏・・・・・・終わってしまいましたか?」 か細い声と同時に、広場の時計の長針が低い音を立てて、「56」を指した。

 通路をすり抜け、高校生くらいの少女が広場の入り口に立ち尽くしていた。その後間髪入れず、目つきの悪い少年、そして頸根を掴まれて喘ぐ少女、頸根を掴む背の低い少女、そしてゲルマン系の少年、ここまでは先頭の少女と同じ年齢のようで、最後にツインテールの小学生らしき女の子が連なってきた。

 最後の少女が、子供の夢を木端微塵にしそうな風体のサンタクロースに唖然としていた。

 拍手を止めた聴衆のあちこちからため息が聞こえてくる。
 アンサンブルの一団がばつの悪そうにお互いの顔を見合わせ、一言二言言葉を交わすと、更に困惑の気色が強くなった。

「アンコール・・・・・・お願い、できますか?」

 亜弓が、消え入りそうな声で言った。程なく、騒然とした空気の中に霧散してしまった。

「アンコールだ!」
「アンコール!」

 風也が叫ぶと、すかさず町田が続いた。ようやく気付いたアンサンブルが6人組を一瞥し、再び仲間内で顔を突き合わせ、談義を始めた。

「おぅ、俺からもアンコールたのむぜぇ!」

 ABの地響きのようなコールが周囲を圧倒した。

 アンコールを期待していなかった他の聴衆も、予想外の展開に、口々にコールを始め、最後には一つのコールとなり、空気を震わせた。

 アンサンブルが動き出したのは、コールが揃いはじめてからすぐだった。時刻は23時57分。

 リーダと思しき男性が左手で聴衆を制し、やや沈黙をおいてじらした後、オーバーなアクションで右手で丸をつくると、広場から雄叫びと歓声と拍手で埋まった。

 風也が真上に息を噴き上げて前髪を揺らした。
 町田を含めた女子の4人はさっきまで牽制しあっていたのもお構いなしに、お互いの手を取り合って、跳ねて歓喜した。

5人組のポジションが一部入れ替わり、やや弧を描くようにして整列しなおす。それを見て歓声が一気に止んだ。

 中心の男が歌い出しの音をハミングで発声すると、僅かの時間差をおいて残りの4人がハミングで和音を合わせる。
 広場の空気が一気に緊張で張り詰める。あまりの緊張感に、胸の前で手を組んだり、音を立てて息を吸い込んだりと、場の空気がやや乱れた後、すぐに元の静寂に戻った。

 列の真ん中の男性メンバーが、右手を前にだすと、メンバー全員が少し前かがみになった。
 今度は本番だ。
 男の右手に、メンバー、聴衆全員の視線が隙間なく突き刺さる。

 右手が軽く振り上げられ、 囁き声でリズムをとる。「one…two…one,two,three」

——The fireplace is burning bright, shining along me...

最初のワンフレーズが、非の打ち所のないハーモニーで決まった。早速拍手と指笛が鳴り響く。

 曲目はPentatonix(ペンタトニックス)『That's Christmas to me』

1コーラス目は全員でのコーラスで華やかに奏でられていく。
殆どの聴衆がイルミネーションに包まれた空間で瞼を下ろし、神がかったコーラスに耳を澄ませた。

 2コーラス目。
 バスのソロで始まった。他のパートは伴奏にまわり、先ほどまでとは一変して落ち着いた雰囲気が広がる。凛とした冷気も手伝い、聴衆の感覚が一層鋭敏になっていく。

 そして5人がハミングで奏でる間奏に入った。
 肩まで夢心地に浸っている水希が、ぼんやりと左右の瞼を持ち上げた。全体がぼやけた水希の視界を何かが上から下に横切った。
 はっと目を醒ました水希が上を見上げる。そして双眸を星空の如く輝かせ、思わず叫んだ。

「あ、雪だ!」

 亜弓や恵怜達がそれを聞いて上を周りを見回し、ちらほらと舞い降りる雪の結晶に小さく歓声を上げた。そして次の瞬間——。

 広場が闇に呑まれた。

 24時を回ったのだ。仲通りのイルミネーションの消灯に合わせ、広場のイルミネーションも消され、付近の灯りは、広場に面する店仕舞い後のレストランの薄暗い明かりだけだった。
 アンサンブルの5人組は演奏家の意地で、何事もなかったかのように演奏し続けたが、視覚が闇に慣れて鮮明に映し出された夜景の変容には心を動かされずにはいられなかった。

 無数の輝点が一面に散りばめられた漆黒の天空。

 地上10数メートルまで降りてきた雪の粒は優雅に舞い降り、上空で煌めく結晶は、その場に止まり続けているかのように振る舞い、1等星のような輝きを見せていた。

 完璧なハーモニーで演奏を終えると、拍手も程々に、広場を埋めていた聴衆が、アンサンブルの5人までもが、仲通りに繰り出した。


 光曳が一層広がった空を見上げ、天に向かって腕を広げた。

 風也と亜弓が肩を寄せ合い、静かに空を仰いだ。

 ウィルと水希が手をつなぎ、ぐるりを見回した。

 恵怜と町田が手を取り合い、子供のようにはしゃいでいた。

 CDがくしゃみをした。
 
 怪物サンタが拳を振り上げ、叫んだ。「よっしゃぁ!てめえら、縁もたけなわなところで、一発いくぜェ!」

 そこら中から、地割れのような歓声と拍手、待ってましたと囃す声が上がる。

「おぉし!お手を拝借!関東一本じ……!」

「違うだろ、オッサン!」

 突っ込みを入れた痩せのサンタに、巨漢のサンタが3倍返しで突込みを返し、笑いの熱気で通り一帯が曇った。

「気を取り直していくぜィ!」

 ABが掛け声をあげる。
 それに続き、全員が同じ言葉を——何世紀にも亘り、あらゆる場所で、あらゆる方法で、何億回も言われ続けてきた——、未だに輝きを失わないあの言葉を、天に向かって叫んだ。


「メリー!クリスマス!!」


余韻が空気を震わせる中、黒衣の少女がが最後に呟いた。

——to you….



(クリスマス短編『クリスマス・プレゼント』完)



〜コメント〜

どうにか終わらせました。。。。

アンサンブルが最後に歌った"That's Christmas to me"がどんな曲なのか知りたい方は、速攻リンクをクリック!!(前にも紹介しましたけどね。。。)

 ラストを水希にするかメクチにするか、それとも"to you"削除するかでものすごく悩みましたが、結局こうなりました。。。。。



それでは、


Merry! Christmas!!

AsStory クリスマス短編『クリスマス・プレゼント』 ( No.226 )
日時: 2014/12/24 20:42
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: ..JV/GOK)


短編完成したので上げますっ!!

AsStory 〜10(9)話『ひかり、在れ』〜 ( No.227 )
日時: 2015/01/03 10:38
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: WkkVAnf4)

 弾丸がアスファルトにめり込む音をわずか数cm離れたところで聞いているのに、飛び散った無数のアスファルトの破片が顔面の皮膚に突き刺さっているのにびくともしない巨躯の頭を、軍靴で全く手加減せずに蹴り飛ばす。その音の大きさと仕打ちの酷さに、ウィルと水希、そして静がわずかに声をあげて息を呑んだ。

 人工頭髪を五分刈りにした頭皮がぱっくりと裂け、真っ赤な筋が2本3本と瞬く間に増えていく。陸軍中尉に遭遇してから、突如流血を見続けさせられている静が、胃袋から突き上げてくるものを抑え込もうと上体をびくつかせる。だが驚くべきことに、背高で緑色の宅配車が配達先を目指し、無謀にも対岸の道路をゆっくりと走り、丁度駅の正面の当たりで止まった頃には、名仮平の傷の流血は止まっていた。

 そして、虫の息であった巨人が、たった今呼吸するのを思い出したかのように、鼻から深く息を吸い込み、顔の周りのアスファルトの隙間に積もった粉塵を吹き飛ばしながら息を吐いた。舞い上がる粉塵の靄の大きさと、息を吐き終えるまでの時間の長さに、域七を除く居合わせた人間全員が、巨人兵士の身体的能力の高さを見せつけられていた。

 並の日本人の3倍はあると思われる巨大な二つの掌を、重たげに地面に突き立て、さらに重たい膝を左、右とつくと、地面を揺るがすうめき声と共に立ち上がった。まだ視界がぼやけ、平衡感覚もまともに戻っていないが、敵味方を問わず、彼らの肌にかかる場の緊張の圧力が一気に高まった。

 直接その様子を見ることができない新堂も、背中に夥しい量の冷や汗を流していた。間近で奴の存在をじっくりと味わうのはこれが初めてだった。人間の気配がしない。完全に野獣だ。何も知らないで背後に気配を感じたら、迷うことなく振り向き様に撃ち殺している。

——本当に、こいつが味方になるのか?

 MP5の2つのグリップを握る拳に、力を篭めた。


「私は…任務を…、二つの・・・任務を・・・完遂せねば、ならない…」頭部の傷口を押さえ、右足を引きずりながら半歩進む。

「己が軍に居残るために…残された……唯一の道」

 白目を剥いたまま、新堂の1歩右後方で立ち止まった。

「授受の妨害——」

 左右の眼球が本来の向きに戻ると、飢えに荒ぶるヒグマの様な唸り声を漏らし、10メートル先の覆面の大男の背後にある、小さな四角い箱を凝視する。ABが右腕をわななかせながら、M500を新堂から名仮平に向ける。名仮平が顔を背けた。「そして・・・・・・」朦朧とした双眸が、ウィル・ロイファーを捉える。

「ECの・・・身柄の・・・確保」

 静の懐の中で、灼髪の少女の顔が一気に青ざめていったのに気付く者はいなかった。ウィル・ロイファーは、頬を一度ひくつかせたが、それ以上表情が動かなかった。出来損ないの二等兵の早まった言動に、域七が露骨に非難の視線を向ける。

——先に片付けるのは。

 鋼の頭蓋の巨身兵が、再び横たわるもう一人の巨身兵に目を向けた——。


二〇一二年一月二十日 午前9時22分 上り方面ホーム——

 階上に続く階段の奥、2階のホームへの出口付近から男女数名の声のような音が一瞬響き、直ぐに消えた。その後に悲鳴が続かなかったので、余程注意して乗客たちのほうに耳をそばだてていない限り、空耳にしか聞こえなかったかもしれない。
 しかし、事件は続いていた。悲鳴だけではなく、他のあらゆる声も消えていた。
 1点を中心に波紋を描きながら、人々が眠るように、力なく倒れていった。程なく、ホームに溢れんばかりに押し寄せていた人々は全て、光を失い、意識を失っていた。
 中心が人波をゆっくりと押しのけ、階段を階下に移動していく。 一歩、一歩。中心が階段を一段下に移動すると、倒れる人々の前線が一歩前進した。

 円の中心に、頭のてっぺんからつま先まで光を呑む漆黒の衣装で覆った小柄の少女の姿があった。

——運命の分岐。

——絶望へ続く分岐・・・消さなくては。

——貴方も、消さなくてはならない。

 漆黒のローブから、蒼白のか細い頸を囲むように、ロングの灼髪がこぼれ、胸の辺りに毛先がかかる。


——棚妙水希。


 また一段、階段を降りる。
 深紅の光沢を放つ少女の大きな瞳に、出口の弱い光が入り込んできた——。


二〇一二年一月二十日 午前9時25分 ポイント駅前——

「イーシー、だと?」

 新堂の問い掛けに誰も反応することなく、時間は流れていく。目を醒ましたばかりの巨人が、目線の行く先を変えることなく、また一歩謎の小箱に近づいた。本当は突進して一瞬で片を付けたいところなのだろうが、大男が前進するために、片足を地面から浮かせている僅かな間にも、200kgを優に越える体躯が左右2往復分はブレているところからして、新堂の目と鼻の先にある情況が、大男の全速力であるらしかった。
 現場で活動する警察組織の関係者、もっと言えば、武器を扱う職業に就く人々でで、かのアルファベット2文字で略される組織の凶悪さを知らない者はいない。それだけに、MP5の銃口の先で制止させている少年の様子に、幾つもの疑問が浮かんだが、全て片手で全部を胸に押し込んだ。この沈黙こそが回答なのだ。そんなことは確認済みだ、と。
 もう少しマシな質問を考えるならば、確実に厳罰が処されるリスクを犯してまで遂行しているこの任務が、誰の差し金か、誰がECを生け捕りにし、何を企んでいるのかだ。陸海空を統べる全軍の「内閣」に当たる組織、統合幕僚本部の勅命なのか、それとも軍部の一組織、あるいは一個人の陰謀なのか。
 だが、これは訊く類のものではない。少年と少女の身柄を確保できたら、軍曹どもを騙し討ちにして、東京、中野の薄暗い個室でそれなりの手段と時間を費やして調べるものだ。
 目下、警察代行の二人が今なすべきことは現状を維持し続けることだった。新堂は少年を一歩手前に釘付けにしておき、静は人質になり続け、灼髪の少女の動きを封じておく。2、3分も待てば巨体の陸軍兵の働きによって敵方の手勢が一人減り、警察側が一段と有利になる。

 その間に、名仮平が2歩前進する。水希と静の左を通り過ぎる。呆然と上を見上げる静、敵愾心を露わに上目遣いで睨み付ける水希、そしてい出し抜けにぐいと右下を向いた名仮平の感情の無いしばし目線が交錯する。

「待っていろ。お前は次だ、ECの少女よ」

 ようやく見せた人間らしい表情はにやけ笑いだった。名仮平が喉の奥で笑いながら顔を戻そうとすると、少女の声がそれを制した。

「無理ですよ」

 ふらついていた巨人の足取りが俄かに、平衡感を取り戻す。声のした方を向かぬまま立ち尽くしていた。新堂が一瞬灼髪の少女を一瞥し、すぐに少年の見張りに意識を戻す。少年は表情を必死に保ちつつ、部下の声に耳をそばだてていた。

「あなたの上官、私達が斃しました」

 もっと上の指揮官がいるのかも知れない。陸軍の総勢を知らない水希が、一か八かの勝負に出ていた。声の震えを隠すために、極めて慎重に言葉を絞り出した。

——わたし…達?

 ウィルがその意味を理解しようとしたが、わからなかった。新堂の注意が再度水希に逸れる。

「勲章をつけていました」

「はったりを言……」

「外野、於呼曽、階級は……」少女がどもると、すかさずもう一つの女性の声が続く。「少尉よ」

「部隊の狙撃手に撃たれて意識不明になったから、私が身柄を確保したわ」

 水希が目を丸くして静の顔を見上げる。すぐに表情がもとの険しさを取り戻したが、人質に拳銃を押し付けることはしなかった。

「残念だが、少尉はこの任務の指揮官じゃねぇ。お前たちの状況は何も変わらねぇよ」
 域七が二人を威圧するように、どすの利いた声と、余裕の笑みを作り、応える。求められるシチュエーションは、名仮平が自らの手で失敗することだ。多少手間がかかっても、そうしなくてはならない。何より、現地の指揮官がいなくなったことを奴らに隠し通さなくてはならない。
 少女が域七に反駁しようとしたが、表情をゆがめて言葉を飲み込んだ。急転しかけた戦況を鎮め、域七が密かに胸を撫で下ろす。木偶よ、そのまま任務を遂行しろ。
 域七が前方を睨み付けると、顔を顰めた。名仮平の様子がおかしい。

 状況は全く沈静化していなかった。立ち尽くしている陸軍2等兵が顔を俯かせ、何かをブツブツ呟きつづけている。

「名仮平!任務を遂行しろ!」域七が、怒声を飛ばしたが、名仮平はそれが耳に入らず、呟きを続けていた。だんだんと、大男のつぶやきが大きくなっていく。

「少尉が捕まった。任務は失敗だ。少尉が捕まった。任務は失敗だ。任務は失敗だ。任務は失敗だ…」

「そうよ!何をやっても、無駄なの!」名仮平のつぶやきが聞き取れるようになるや否や、水希が畳みかけた。

 名仮平の声が止まった。域七の呼びかけが全く耳に入っていない。名仮平が全身を打ち震わせている。寒さのせいではない。思い詰め、体を動かすことを忘れてしまったかのようだった。

 しびれを切らした域七が飛び出そうとすると、域七の頭一つ分上のあたりを弾丸の閃光が走った。ABのM500の銃口から煙が漏れていた。図体がでかい方は、どこを狙っても運が良くて気絶程度。ならばABにできる最後の足掻きは、あの軍曹の足止めくらいだった。あとは、奇蹟が起きるのを待つしかない——。





〜2014/12/30〜

今日はコミケ最終日です!(だからどうした)
僕は初日にNHKブースを拝んできました(人多過ぎ)。。。(だから何なんだよ)

やっとクリスマス短編から意識を切り替えられつつあります。。。
短編では手慣らし足慣らし程度しか能力を発揮していなかった麗牙光陰の二人も、ここでは120%全力です。
短編ではメクチとカップル気分でちょっと(どころじゃなく)粋がってる光曳梓も、本編では(未だに)病院のベッドで呆然とし続けているキモオタです。。。そしてメクチに出合ってすらいない。。。。
外野で話進めすぎたな。。。。

ちゃんと書き分けないとね。。。

年末年始休みで何とかしたいなぁ。。。。

〜2014/12/31〜
AM3時過ぎに寝てAM4時30分の目覚ましで起きて、飯食ってうだうだして二次板見たら参照数上がってるって、ここの住人の活動時間帯って。。。。改めて思ふ、大晦日の朝。。。

今年もいい年でありますように。。。(え?)


〜2015/1/1〜
黒服の少女、登場しましたっっ。。。書き手だけ勝手にテンション上がってます。。。。(苦笑)
 登場人物の外観の特徴を、よく確認しておくと、ほんの少し、今後の展開が面白く思えてくるかもしれません。。。(ニヤ)


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