二次創作小説(紙ほか)
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- AsStory /予告用中編 『二人の精霊王』
- 日時: 2015/09/20 00:30
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 3qG9h5d1)
初めまして!
書き述べると申します。
この作品は以前、シリアスのカテゴリーだったのですが、第七話からはこのサイトに投稿されている他の方の作品の内容を混ぜ込ませていただくことになりましたので、このジャンルに引っ越してきました!
カキコ内二次(合作じゃないですよ)……結構珍しい様な気もします。
混ぜ込む作品は——
『Enjoy Club』(作:友桃様)
です!
そして
『ウェルリア王国物語』(作:明鈴様)
ぇ、二つもやって大丈夫なのかって?貴様のプロットどうなってるんだよって???
(黙殺。。。。。。)
1点注意していただきたい事が……。
冒頭でも触れておりますが、もともとシリアス・ダークの作品なので、そのカテゴリー特有の表現があるかも知れません。できるだけグロい表現は使わないつもりであはりますが……。
更新の間隔が2か月空いたりすることがよくありますが、寛大な御心で受け入れてくださいますと大変有り難いです!
【最新話直前の状況】
(現在修正中・・・・・)
【お客様(引っ越し前の方含みます)】
アメイジング・グレイス様
アサムス様
友桃様
通りすがりの者です。様
(朱雀*@).゜.様
【目次】
◆◆ 序章 ◆◆
1話 >>1
2話 >>2-3
3話 >>4-5
4話 >>6-11
◆◆ 第一章 ◆◆
5話 >>12-13
6話 >>14-19
7話 >>21-25
8(1)話 >>29-31
8(2)話 >>38 >>41 >>44 >>46 >>48 >>51 >>53 >>58 >>60-61 >>63-64 >>70-75
9話 >>81-82 >>87-88
9(2)話 >>90-91
9(3)話『時空間操作システム』 >>95-96
9(4)話『副長官、乱心』 >>98-100
9(5)話『時間を越えて』 >>105-107
9(6)話『地を駆る鳥』 >>110-114
10(1)話『ひかり、在れ』 >>118-119
10(2)話『幕開け』 >>129-132
10(3)話『交錯する時間』 >>142-153
10(4)話『混迷に魅入られし者たち』 >>160-166
10(5)話『絶体絶命』 >>172-175
10(6)話『PMC、対陸軍攻撃陣』 >>180-189
10(7)話『突入』 >>192-197
10(8)話『スナイピング』 >>200-204
10(9)話『ひかり、在れ』 >>209-210 >>213-214 >>227 >>229-230
◆◆ 第二章 ◆◆
11話『逃走』(更新中) >>232-239
〜〜小説紹介〜〜
『☆星の子☆』((朱雀*@).゜. 様) >>108
『Enjoy Club』(友桃様) >>109
書き始め 2010年冬頃
(もう3年経ってしまったんですねぇ)
〜〜予告用短編〜〜
『月光』 >>126-127
『二人の精霊王』 >>243-245 <<<<<<<<(現在作成中!)
〜〜クリスマス短編〜〜
『クリスマス・プレゼント』 >>217-225
〜〜キャラ絵〜〜
メクチ >>207
水希 >>208
水希(変装後) >>212
登場人物一覧
>>206 (リアルパート)
>>216 (ファンタジーパート)
〜追伸〜
ツイタやってる方。。。R18記事があってもOKって方は、ちょっとフォローしてやってくれませんか?? => @motto_e
あんまり呟かないですけどねぇ〜(ぇ?)
- AsStory 『ひかり、在れ』〜クリスマス短編更新中(2) ( No.218 )
- 日時: 2014/12/13 13:39
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: fWEbTo5I)
確かにイルミネーションや花見の会場で、周りを気にせず三脚を広げる一部のカメラ小僧、カメラオヤジがトラブルることはあるが、今はどうみてもそこまで混み合っているようには見えなかった。
ネットでは偉そうに異端の民族を断罪している根暗が、心細さで声にならない悲鳴を上げる。
綺麗な夜景撮ろうとしているだけなのに、混雑していない時間選んでるのに、そんなに悪いことなのかよ。
悄然としたまま進んでいき、一つ目の信号のある交差点で立ち止まった。青信号になっても溜息をついてそのまま立ちすくんでいた。信号の向こうにもイルミネーションで彩られた並木が続き、向こうの端は闇に呑まれている。一番手前の並木のしたには光曳と同じくらいの年の女性の3人組が黄色い声を上げてスマホで写真を撮り合っている。
一人が光曳のいる方を一瞥した。
また、男の背中の方を見た。
光曳は目が合う前に視線を逸らし、遠方にサンタクロースのコスプレをした、背丈のずいぶん違う二人組を見つけた。深夜のクリスマスのイベントか、それとも血の気の多いヤロウが、イブの夜にサンタのコスでナンパでもしてるのだろうか。
ヲタにとって完全にどうでもいいことだったが、なんとなくサンタの顔を見て、思わず声を上げた。
「サンタが覆面って、マジかよ」
遠巻きだが見間違えるはずがなかった。
「あのデコボココン——」
「へっ?」
男の虚を突いて背後の少し下の方から子供の声がした。これも聞き間違えるはずが無かった。
「え?!」
風を巻き起こしながら、恐るべき速度で巨躯を翻すと、いつも通りの漆黒のドレスと帽子を被り、スーパーロングの茜色の髪をこれ見よがしになびかせて立ち姿を決める少女の姿があった。
「メクチ」声を潜めた分を、瞼を開ける勢いに回して驚きの表情を満面に浮かべる。
「やっと気づいてくれましたね。どうしたのですか?声なんか潜めてしまって」
メクチが不満をめいっぱいに主張しようとしたつもりが、目の笑いが隠しきれていなかった。
「男爵の娘を置いてきぼりにして、こんな夜遅くになんの悪だくみでしょう?」
決めておいたセリフを言い切る前に、声が笑ってしまっていた。
「メクチ、どうやって?って、それどころじゃないんだ」
期待する反応がもらえず、ぽかんとしているストライヴァンをよそに、光曳が交差点の脇に飛び退いた。直後に身をかがめて少女を手招きした。
少女が子犬のように灼眼を輝かせて、てくてくと「飼い主」に寄っていく。
太すぎる太股とふくらはぎのせいで、屈むことのできない光曳が地に膝をつき待ちかまえていた。イルミネーションから離れた物陰では、都心といえど深更の闇が巨躯のまわりに落ち込み、白く浮かびあがるはずの息も覆い隠していた。
光曳のすぐ側で、漆黒の少女が身のこなしも軽やかに、静かにしゃがみ込む。この少女のユニフォームとなりつつあるゴスロリ風の漆黒のドレスのスカートが、内側の漆黒のパニエをちらちらと見せつつ、整った半球状に膨らみ、地面に舞い降りた。スカートの前面は光曳の体でつかえて波打っている。チュールの柔らかな感触と、香りというよりももっと淡い、場の空気を柔らかくする何かが、男の全身に電撃を走らせた。
寸でのところで意識がとびそうになり、白目を向いていた光曳が目線を戻すと、男の顔の中に、縦横3つずつは入りそうな小さな顔が、目と鼻の先に見えていた。
近い。膝を抱えてちょこんとしゃがんでいる少女の灼眼は、目の高さもピッタリ揃えられ、瞳の中に幾つもの星を瞬かせながら、光曳から発せられる言葉を待っていた。
——か、可愛い。
今なら赤ずきんの狼の気持ちがいたく判る。危うく丸飲みにしそうになる衝動を、鋼鉄の意志で抑え込み、全身から湯気を立ち上らせながら声を絞り出した。
「メ、メクチぃ、そんな楽しそうにしないで。今とんでもなくヤヴァいんだよぉ」
己の言葉がブーメランのように胸に突き刺さる。
危険な状況なのは間違いないのだが、誰が誰に対してどう危険なのか、これ以上触れるのはやめておくことにした。
「え?」
紅い瞳が期待で一層明るく煌めいた。
残酷な笑みに光曳が顔をひきつらせた。左右の瞳孔が2倍ほどに散大するなか、少女の周りに無数の蝶々と花びらと後光の幻影を見ながら口を動かした。
サンタクロースの格好をした二人組が、もしかすると銃を持っているかもしれないこと、嘗て自分があの二人組に絡まれたこと、そして最後に自分が夜景を撮りにここに来たことを話した。写真を撮りに来た理由までは、本人の前で言うのは照れくさいので、適当にはぐらかしておいた。
「まぁ、神様の預言者の生誕をこんなに素敵な場所でお祝いすることができるのですね」
ストライヴァンが驚いた拍子にやや身を引くと、胸の前で手を合わせ、鈴のような声を上げてではしゃぎ、そこで正体を取り戻した光曳がため息交じりに頭を振った。
説明する順番を考えるべきだった。そして、もう少し距離を置くべきだった。
一気に話したせいで、少女の頭から、最初に話した内容がきれいさっぱり抜け落ちてしまい、最後のクリスマスの話題で少女の気持ちが否応なしに高揚していた。
幸い、光曳たちの声はサンタの二人組には聞こえていないようだった。以前と違ってデコボココンビは、イルミネーションを見ている人々のそばを何事もなく通り過ぎている。
凶悪犯がまた凶行に至るかもしれないという切迫感と、せっかく夜景を見てほしい相手がすぐそばにいるのに、この機会をどうしても逃したくないという下心が、光曳の胸の内で激しくせめぎ合っていた。
とりあえず、背後で口を結び膝を抱えて男を見上げている少女にもっと奥に下がるように指示し、光曳はビルの陰からしばらく様子を伺うことにした。
2014年12月24日 23時15分 東京メトロ有楽町駅出口付近——
今年のクリスマス・イブは平日になってしまったためか、飲み屋のあつまるこの街も、毎週金曜ほどの賑わいを見せていなかった。
「なんで俺様がこんな無様な格好しなきゃなんねぇんだよ!」
見るからに凶悪そうなサンタクロースが、凹凸の目立つ巨大な白いサンタの袋を背中に背負い、独り言とは思えない声でつぶやく。数メートル先でぼんやりと星空を見上げていた、酩酊している男性が急に素面に戻り、何かを思い出したかのように足早にその場から立ち去った。
「だいたい、ミッションは終わったんだろうが。なんでまたカイワレ大根野郎と組まなきゃなんねぇんだよ!」
付近にいたカップルが、彼氏が手を滑らせて落としたスマホを拾い上げつつ、彼女が足を地面にひっかけつつ、巨大なサンタから距離を置いた。
「アビー、もう少し静かにしようよ。サツに通報されたら、この仕事失敗しちゃうよぉ。報酬がもらえなくなるよぉ」
二人の不審なサンタクロースは、目的地である大型のホールが背後に聳えているのに気づかず、よく地図を確かめぬまま、人の集まりそうな丸の内イルミネーションに足を踏み入れていた。
ABとCDは、未来の全国の運送業者らが協働して展開しているクリスマスキャンペーンに駆り出されていた。二人の所属している運び屋は法人格をとっているとはいえ、地下組織なので本来このようなキャンペーンに参加するのはあまり好ましいことではないが、なんらかの形で社会貢献したいという社長の意向で、毎年この行事に参加しているのであった。もちろん、架空の業者を装ってでのことである。
「なんで、見たこともねえ餓鬼のお願い事なんか聞いてやらなくちゃならねえんだよ。だったら俺にも金髪の美女一人か二人寄越せっつうんだ」
「しょうがないじゃん。そういうイベントなんだから」
声を出すのが億劫になったABが、憮然として赤いジャケットの左袖の裾を引っ張った。
「サンタの贈り物」と名打たれたこのミッションで必要となる衣装等については、運び屋にまず始めに支払われる手付け金で購入するよう指示されていたために、費用を節約するべく秋葉原のドン・キホーテでサンタクロースの衣装を購入したのだが、ABのがたいに既製品があうはずもなかった。
ズボンは膝より上に上がらないので、手持ちの服で赤系のカーゴパンツを選び、上は黒系の保温素材の肌着を何枚も重ね着した上に、赤いシャツを着て、サンタのジャケットを羽織っていた。バラクラバを脱ぐことは頑として拒んだため、ボンボンのついた赤い帽子をそのまま被るという、クリスマス限定の変質者然としたオーラをいかん無く放出して闊歩していた。
「でも、あれを見せられたら断るとどうなる——」
「るせえ!少し、だ、黙ってろ・・・」
傭兵上がりの屈強な運び屋が、長い人生でまだ片手におさまるくらいしか、どもったことの無い男が、動揺を露わにしていた。
「この時代とは、呪われたどす黒い綱で結ばれてる気がするぜぇ」
冷えきった大気の寒さをしのぐため、そして心の震えを隠すためか、ABが左の拳を固めると、右の掌でしきりにさすっていた。
- AsStory 『ひかり、在れ』〜クリスマス短編更新中(3) ( No.219 )
- 日時: 2015/06/08 02:21
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: EMf5cCo0)
仕事柄殆ど人前に姿を見せない、見せたとしても、それは影武者だとか言う噂が常につきまとう、運び屋の社長が手紙ではなく、社長室で直々に面会を通して、二人に「サンタ」のミッションの依頼をしたのは、二日前だった。
2064年12月22日 1時00分 某ビル10F 役員室——
「サンタ」ミッションは、少年少女等がクリスマスのエピソードを短い文章にして、運送協会のサイトに投稿し、当選者のもとに、本人の希望するものを、運べるものなら何でも届けるというものである。運送会社の意地があるため、法的政治的な問題にならない限り、秘境だろうと極地だろうと、どこへでも赴き、取り寄せてくるので、この季節に注目度の高いイベントとなっていた。
二人が社長室で見せられたのは、広辞苑よりも分厚く積まれた、A4の紙の山だった。これが、キャンペーンに投稿されたものだという。普通投稿はオンラインで行うので、紙での応募は極めて珍しい。そして文章が見あたらなかった。山積みされた紙は、どれもスクリーントーンのような模様が紙面いっぱいについているだけであった。
本人もかつて裏家業をしていたという、でっぷりとした体つきの社長が、平時ならばどこにでもいそうな人のいいおじさんに見えるであろう面貌が、この紙の山の前では変わり果て、血の気もひいて土気色をしていた。
呪われている。
これを、どうにかして欲しい。
金は幾らでも払う。
少なくとも、仕事を提供する側の人間の、殊に隙あらば(無くても)足下をすくわれ命を狙われる業界のトップが使うべき言葉ではなかった。
二人が1枚目の紙を見て、その意味がすぐにわかった。スクリーントーンに見えていた黒い点々は、実は文字だった。しかも手書きだ。それだけなら、驚くべき技術だと、その少年か少女を称えたいところだが、書かれた内容を見て、二人が社長と同じ結論に至るのに、1分を要さなかった。
縦書きにつづられた文章の書き出しはこうだ。
『風也くんとクリスマス・イヴ(ハート)』
紙の山の5合目あたりの紙面の内容はこうだ。
『風也くんとクリスマス・イヴ(ハート)』
山の2合目、つまり麓付近の紙面の内容はこうだ。
『風也くんとクリスマス・イヴ(ハート)』
最後の一枚の内容はこうだった。
『風也風也風也風也風也風也風也風也』
最後の一枚の左下は、筆者が興奮し筆圧が高くなり過ぎたせいか、乱暴に破れ、飛び散った鉛筆の粉が所々にこびりついていた。痩身の運び屋が、音を立てて唾を呑んだ。やや間を置いて、右にいる相棒を一瞥した。鋼の心臓をもつ覆面の男の鼓動が、机に突き立てた腕をつたい、CDの腕に伝わってきた気がしたのだ。
「鉛筆だと?」
しばし呼吸をするのを忘れていたABが、呻くように言葉を吐いた。固まっていた社長室の時の流れが、再び動き出した。
最もこの物体の呪わしいところは、これがこの時代、2060年のものではないことであった。年代解析をかけてみると、2013年12月26日に書かれていたことが判明した。
考えたくもないシナリオだが、2013年のクリスマスを、恐らく彼氏ではない、一方的に思いを寄せる青年と一緒に過ごせなかった怨念を、紙にぶつけた。そして強過ぎる怨念が50年という時間を超え、この地に来てしまったのだ。
「風也」という少年の将来の身の安全のためにも、筆者の気持ちを鎮めなくてはなんらない。あるいは既に「成仏させる」と言わなくてはならない状況かも知れない。
ミッションの目的は極めてシンプルなものだった。
【目的】筆者と少年「風也」をクリスマス・イブに一緒に過ごさせる
ミッション遂行のために必要な情報は、社長がもつ一枚の紙に書かれていた。
件の紙の山を作り出す前に、筆者本人が書いていたものをもとに調査をかけ、まとめたものということだった。
〜ミッション・ブリーフ〜
【場所】東京国際フォーラム前
【日時】12月24日23時30分(厳守)
【運搬物】紫苑風也(17歳)(写真は別紙)
最後に、A4縦の紙に印刷された、少女の顔写真が机上に放り置かれた。少しウェーブのかかったポニーテールに、首の上端までのびる前髪の両サイド。これも少しウェーブがかかっている。目はパッチリとしていて、小鼻。今でも通用しそうな、都会風で華のある顔立ちだ。
「なぁんだ、結構可愛いじゃん」
「餓鬼にしちゃよくできてるぜ。男の方が贅沢すぎるんじぇねぇか」
ブリーフィングの最後の欄に依頼主の姓名が書かれていた。
【依頼主】町田
「おい!下の名前はどうした!」
一旦緩みかけた場の雰囲気が、一番の緊迫感に包まれていた——。
2014年12月24日 23時15分 丸の内イルミネーション有楽町側入り口付近——
丸の内仲通りにパトカーのサイレンが未だに響かないのは奇跡と言うほかなかった。
不審極まりない二人のサンタクロースが、相変わらず地図を確認せず、漫然と北上を始めた。デザインから案内標識まで多カ国語対応で1ブロック毎に、歩道に小さな周辺地図もある。それが目に付いたCDが唐突に声を発した。
「そういえばさ、国際フォーラムって確かこの辺だよね?」大股で1歩先を行くサンタの帽子を見やる。
「そんなの知るかボケ。それは貴様の仕事だろうが」
「え、そんなのいつ決まったんだよ!」「今だぜぇ。言い出した奴が調べやがれ!」
この状況で反抗するのは文字通り身を滅ぼす羽目になるのを、身を持って思い知らされているの若者は、相棒に聞こえないように唸り、眼前の周辺地図を見に行った。
ABが先に行ったカイワレダイコン野郎をしばらく眺めていると、ふと背中に背負っている白い袋の様子が気になった。
ターゲット(依頼人)は23時30分に会いたいという願望をメモに残していた。その願いを叶えるべく風也の身柄を確保しに行ったが、念のため「町田」に会う気はあるか最後の確認をとったが、恐怖に顔を歪めて必死に否定していた。既に予定があると。
名前は聞き出せなかったが、丸の内で午後7時。風也のお相手には悪いが、今年はそれはさせられない。彼女はきっと、ここ数日で特に厳しく冷え込んだ今夜、さんざん待って、お怒りになって帰ってしまっただろう。
地図を読むのに手こずっている細ものサンタクロースに、サンタクロースの格好をしたヤクザが怒鳴り声をあげる。
「モヤシサンタ、遅刻するぜぇ!早くしやがれ!」
CD慌てふためく様に、嘲笑を浮かべていたABの目線が、ふと、更に奥のイルミネーションの下で止まった。
前方50mくらいのところに、ブラウンのウールのコートに身を包み、一人たたずむ女性の人影が見える。「町田」と年齢が近そうだった。厳しく冷え込む予報だったので、しっかりと着込んでいるが、右手は手袋を外してスマートホンの画面を眺めていた。頻繁にキョロキョロと周囲を見ては、虚空を見上げてため息の綿雲を天空に放っている。
——まさかな。
この糞寒ぃときに4時間以上も待つバカはいねぇよ。そう言い聞かせると、コードが戻ってきてフォーラムのある方を指さしたときだった。
ブーンと低い振動音がどこからともなく響いてくる。1秒間隔くらいで鳴り続けている。CDが首を適当に首を振って、あたりを見回している間、素性のわからない音に神経質なABが、慎重に耳をそばだてる。
更に3回、鳴動し終えると、覆面のサンタの両目が少し細められた。
「とんだバカがいたもんだぜぇ」
自分のことと勘違いして文句を言う相棒の頭越しに、再びさきの女性の人影を睨んだ。右手のスマートホンはまだ持ったままだった。
「あ・・・ゆ・・・みぃ」
掠れ声が細切れになって袋から漏れてくる。何かをまさぐる音がした直後に鳴動音が切れた。睡眠薬が切れた。まずい。
CDが、1歩、2歩後ずさった。「風也」が起きる前に「町田」に渡す予定だったのに、またあんな命がけの格闘はごめんだよ。
袋を背負う大男は、金縛りにかかったかのように、四肢が硬直していた。
——あいつが「あゆみ」なのか?
再び50m先に目を戻すと、いつの間にかスマートホンを握る右手が胸に当てられ、顔が、全身がまっすぐこっちを向いていた。
「なんでこんなに離れてて聞こえてやがる」
ABの心臓がのたうち回っている。呼吸が乱れに乱れまくっている。
気合いの声と同時に、袋を掴んでいた手を開いた。
「ずらかるぜぇ!もやしぃ!一時避難だ」
動かせるようになった左腕をラリアットと変わらない勢いでCDの首に引っかけると、サンタが二人、フォーラム方面に猛然と疾走していった。もはや変質者が警察から逃げているようにしか見えなかった。
もぞもぞと蠢く白く巨大な袋がイルミネーションのオレンジ色がかったライトに照らし出されていた。
- AsStory 『ひかり、在れ』〜クリスマス短編更新中(4) ( No.220 )
- 日時: 2014/12/20 07:35
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: WkkVAnf4)
- プロフ: https://onedrive.live.com/?cid=E58D6A0AAEE260B3&id=E58D6A0AAEE260B3%214510&v=3
「あ、え・・・・・・と、風・・・・・・也?」
不審者が立ち去った後に残された不審な白い袋の傍らにしゃがみ込み、袋の中の風也にあゆみと呼ばれた少女が、瞼を全開にしてしげしげと眺めている。
「早く袋を開けねえと・・・・・・コロス」
「え、許してくださいぃ、風也ぁ」
泣き顔になりながら、友賀亜弓が4時間30分も待たされたことも空の果てに吹き飛び、死に物狂いで、袋の紐を解いて、口を広げようとする。
だんだんと、周りから集まってきて、亜弓に声をかけてくる。亜弓が、友人のどの過ぎた悪ふざけと言うことで、その場をうまく切り抜けていた。
袋の中にたまっていた熱気が、パンドラの箱から飛び出した災いののように一気に散った。亜弓が屈んだまま指先を地面について、顔を傾げて中をのぞき込んだ。残されたひとかけらの希望が、窮屈そうに手足を折り畳み、いつも通りのむすっとした顔を確認すると、安堵の息をつき、頬を赤らめ小声で声をかけた。
「メリィ・・・クリスマァス」
「コロス・・・・・・」
亜弓が取り乱して尻餅をついた。頭をくらくら揺らし、とにかく何か言わなければと、泣きながら返す。「え、え、どうして、どうしてですかぁ」
風也の双眸が刃の切っ先の煌めきを宿した。
「袋から出るの手伝えって・・・」
情けない格好のまま、風也がため息をついた——。
2014年12月24日 23時20分 丸の内イルミネーション 大通りの交差点付近——
遠巻きなのではっきりと確認はできなかったが、サンタの人影が建物の脇に消えていったように見えた。
「行ったのかな」
通りに三々五々としている人々らが、夜景に目もくれず話し込んでいるのは、その話題なのだろうか。もしそうであったとしても、それ以上騒ぎが大きくなることが無いところからして、やはり、イヴの台風は去ったのだろうか。
「ものすごく<ヤヴァイ>状況は無くなったのでしょうか?」
すぐ後ろから、楽しそうな声で話しかけてくる。確かに、一つ目の危機的状況は回避できたかもしれない。だが、もうひとつの危険な状況は、全く回避のめどが立っていない。
そもそも公共の場で、しかも日本では実質クリスマスイベントのクライマックスであるイヴの夜に、筋金入りのヲタが女の子と二人きりでいることが既に「ヤヴァイ」で済まされる一線を越えてしまっている。この状況を回避するなんて、完膚無きまでに叩きのめされて終わった戦を、引き分けになるまでやり直すようなものだ。言うまでもなく相手は手加減することを知らない。敗者がぼろぼろになっている事にさえ気付いていない。
今の光曳とストライヴァンの間隔が、男の鋼鉄の意志が己が身の衝動を抑止できる限界点であった。1mmでも少女の顔やドレスが男に近づこうものなら、間違いなく2014年度版赤ずきんの再現になってしまう。
クリスマス・イヴの夜に、二人でビルの影に隠れて、息を潜めている。空間と時間を共有していることを否が応でも意識させられてしまうこの瞬間が、この上なく胸を高鳴らせるのだが、同時に不安も際限なく膨らんでいってしまう。
「メクチ」「はい」
「・・・・・・」
つい声の余韻に浸ってしまって、自分の声で台無しにしてしまうのが嫌になる。
「光曳さん?」
光曳が唇を噛みしめ、左右の瞼を、眼球が押し込まれそうになるほどに強く閉じる。そして決意の鼻息の噴射と共に全開にした。後ろは絶対に振り向かない。
「メクチ」
「はい」今度は可笑しそうに笑っているみたいだ。
「・・・・・・まだ・・・」
「・・・はい」
「<ヤヴァイ>状況はまだ続いてるから、もう一歩、後ろに下がった方がいいかも」
「そうなのですか。わかりました」
言ってしまった。メクチとの距離が一歩離れる。ため息と共に魂が一緒に抜けていった。
「でも、少し様子を見させてもらえませんか?」
不吉な天使の矢が光曳の心臓を背中から貫く。
「いいでしょう?レディのお願いを聞いてもらえないのですか。まだ光のデコレーションも殆ど見られておりませんわ」
光曳の返事の冒頭が口から飛び出すよりも速く、男の右脇に茜色の艶やかなスクリーンが現れていた。<ヤヴァイ>状況の現場を見ようと、右を向くと、少女の長い髪が音もなく、光沢が完璧な弧を描きながら、さらさらと小さな背中を流れていく。少女と隔てられているのに、不意に丸い鼻先を撫でられたような感覚に襲われた。
——息を呑んだ。
絢爛豪華なイルミネーションと言えど、単なる電飾。聖夜と言えど、それは神でもない、33歳で死んだ一介の人間の誕生日に過ぎない。そんな
——人為にまみれた、些末な奇蹟に、
——人々が心酔しているのに、
何もかもが枯れ木のように見えた。しまいには全部真っ黒に見えた。
——900年もの歳月を凌駕した、
——魅惑に……
——己が心が屈して、
——何が悪い!
20cmたらずの空間を隔てて、見える漆黒のドレスと帽子が、暗闇でくっきりと見える。茜色の髪が、己が心を紅蓮に燃え上がらせる。音を立てて殻を砕く感情が、心臓から迸り、抑えきれない一部の塊が目尻に押し寄せる。
形を失い、揺らめく紅い影を見つめたまま、魔力に導かれるように、光曳の右手が前に伸びていった。
「この時間帯に来るのって、結構当たりかもね」
歯切れのいい女の子の声が至近距離で聞こえて、光曳の手が止まった。ドレスの襟のレースが揺らめくその先に、右手の人差し指の先端が触れる寸前で小刻みに震えている。二粒の氷の汗が、熱い頬を舐めながら垂れていく。我に返った男の右手が、風切音を立てて引っ込んでいった。
——触れたら、きっと自分が自分でなくなる。ダメだ。絶対にダメだ。
「メクチぃ、気は済んだ?もう少し下がっててよ」
少女は何が危ないのか、しきりに左右に首を傾げながらも、言われるがままにすごすごと後ろに下がっていった。
男の人生最大の窮地を救った声の主に、光曳が声無き感謝の言葉を投げかけていた——。
「感激です!ゆっくり風景が楽しめて、とても綺麗ですね」
まだ小学生風な背丈のツインテールの少女が、脇でエスコートする少年の顔に感激の目線をぶつけた。
「はは、みぃちゃんそんなにじろじろ見られると、ちょっと・・・・・・」
少女に一瞬目線だけ向けると、火照った顔を伏せ、セミロングの銀髪で覆った。
「あとは、明日が平日じゃなきゃいいんだけどねぇ。ってなんでわたしが一歩後ろなのよ!」
右手を肩の高さまで持ち上げ、物知り顔で語っていた高校生くらいの年端の少女が、打って変わって口をとがらせた。図らずも、光曳の暴走を間一髪のところで止めた声の主である。
「ぐ、偶然だよ、恵玲。ほら駅のコンコース狭かったから、自然とそうなっちゃったんだよ」
麗牙光陰の3人も、今日は「仕事」を休み、クリスマス気分に浸ろうとイベントスポットに繰り出していた。恵玲は、亜弓がクリスマス・イヴに予定が入っていることは知っていたが、場所も時間も知らなかったので、麗牙のリーダーのウィル・ロイファーが突然、深夜の街を見に行こうと言い出したのは、心底感心していた。ふつう、デートするなら、待ち合わせはせいぜい21時くらいまでだろう。まさか、亜弓達が深夜に、しかも自分らと同じ場所にいるなんて、予想だにしてなかった。
巨漢のヲタクが、想像を絶する重力をかけられ、コンクリートのタイル地にスニーカーをめり込ませながら前進したあの道程は、裏組織にいる身とは言え、根は光曳よりは格段に普通な3人の少年少女にとって、とりわけ女子の二人には、聖夜を華やかに彩る仕掛けでいっぱいの空間だった。
フェンディ、プラダ、その他やたらと長い名前の(英語ではない)ヨーロッパ系の言語の看板を掲げる高級ブティック。イルミネーションには目もくれず、明らかに日本人の体型とはかけ離れた頭身、長足のマネキンが並ぶ店頭のディスプレイに釘付けになっている。
置いてきぼりをくったウィルは、からかう気持ちでそれを眺めていた。地区全体が高級ブランドになっているこの場所では、ブランドのもつ魔力を、さらに高めるようなオーラのようのものが漂っているのだろうか。二人を見ていると、あながち間違いでは無いようにも思えてくる。これがもし、深く考えもせずに19時集合にしていたら、神と崇める科学者に途轍もない金額の請求書を持っていく羽目になっていたに違いない。裏組織の中でも最も凶悪かつ狡猾な部類に入るECは、常に暴利を貪っているため、ブランドの服を何着買おうとも痛くもかゆくもないのだが、トップの心証を悪くするようなことは絶対にしたくなかった。
女子二人があの調子なので、少年もイルミネーションから視線を外し、何か興味を引くものがないか、ざっと見回してみたが、目につくのは、小さなモーターショーが開けそうなほどに、海外の高級車がならんだ路上駐車の列くらいだった。
前後が異様に長い、アメ車のリムジンが一際存在感を放っているが、その向こうにクラシカルなデザインのロールスロイス・ファントムⅥが止まっているのに気付くと、つい笑みをこぼした。
まだ年端もいかない頃から既に日本に住んでいた少年が、世界の自動車の絵本で祖国イギリスの自動車として載せられていた車だった。実用性重視でずんどうな形の車しか知らなかった少年にとって、ひたすら優美さを求めて複雑な曲線が取り込まれたデザインと、乗り手を導くようにスピリット・オブ・エクスタシーがフロントで優雅に舞う英国のリムジンは、幼心にも高貴、優美の代名詞として刻まれていたのである。
「なぁにニヤけてんのよ、ウィー君!向こうにいい人見つけちゃったのかしら?」
有能な暗殺者であるはずのゲルマンの少年に、後頭部を強打されたような衝撃がはしった。
寄り道ばかりしていて遅れていた女子の二人組にいつの間にか追い越されていた。演技派の恵怜の険悪な表情は、8:2で冗談が勝っているとみて問題なさそうだが、更に離れたところで、閉店後の証券会社の店先で、文字の消えた株価ボードとにらめっこをして頑なに少年の方を向こうとしないツインテールの中学1年生は、本気で何かを誤解していた。
調子にのった恵怜が肩をすくめ、冷やかしの微笑みを浮かべて頭を振っている。
「誤解だよ、みぃちゃん!」
- AsStory 『ひかり、在れ』〜クリスマス短編更新中(5) ( No.221 )
- 日時: 2014/12/20 07:50
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: WkkVAnf4)
- プロフ: https://www.youtube.com/watch?v=ifCWN5pJGIE
冷や汗を滝のよう垂れ流すウィルが、恵玲の髪が舞い上がるほどの勢いで脇をかすめ、4歳年下の部下に駆け寄っていく。
漆黒のセミロングの髪が勢いを失い、あるべき位置に戻り始めると、程なくしてか細い色白のうなじを覆い隠した。二人に背を向けたまま、恵玲がもう一度ため息をついた。今度は軽く、でも僅かに寂寥を込めて。
——みいちゃん、能力を強くするって言い出してから元気なかったしな。
こんなに元気いっぱいの水希の姿を見るのは何か月ぶりだったろう。
徐に深更の冷気を深く吸い込んだ。体と心の隅々まで、清々しい気持ちで満たされていく——。
少し後ろから聞こえる二人のやり取の内容が、よく聞こえてくる。リーダーの狼狽ぶりと、後輩が心底困惑している様子がなんとも微笑ましい。
——よし。
今回はあの娘に塩を送ろう。みぃちゃんが全快になったら、その時はわたしも全力で張り合っちゃうからね。
膝上のハイソックスで防寒は完璧という口実で、この酷寒のなかでも逞しく着用しているミニスカートを軽やかにはためかせながら、二人の方に向き直ると、ちょうど向かう先のほうで、数名程度の歓声と拍手が聞こえてきた。
恵怜がそちらを一瞥すると、ふと店のショーウィンドウの向こうの時計を気にした。
もう23時半だ。親友は彼氏との時間を満喫して、家に帰ったところだろうか。それとも今帰途についているところか。
明日は根堀り葉堀り聞いてやろう。顔を仄かに赤く染めて楽しげに語る友人の顔を、瞼に浮かべながら、二人に声を掛けた。
「ねぇ、向こう行ってみようよ!」
二人の危険なサンタクロースがいた場所から人々の歓声と拍手。そして、光曳の目の前で盛り上げっていた中高生の3人組が、その方に走り去っていった。
二つの事実を総合すると、完全に危険は過ぎ去ったということなのだろうか。
「みなさん、向こうでとても盛り上がってるみたいですね」
「……」
「お城で舞踏会をしていたころを思い出しますわ」
「……」
「束の間でいいから、あの頃をもう一度……」
少女は伊達に900年もの歳月を過ごしてはいなかった。髪の毛を威嚇で舞い上がらせる程度の魔力しか持ち合わせることのできない人間共の世界で、最弱の烙印を捺された魔物が作り出した武器に形は無かった。
男の背中から漏れる逡巡を見透かしたかのように、恨めしさたっぷり、色気たっぷりの溜息ひとつ。そして男の背後にもかかわらず、物憂げに流し目を決めたのは、眼前のヲタクが背中についた心眼で少女の気配を感じ取り、Retinaディスプレイも驚きの精緻さで、彼女の様子を己の脳裏に再現している習慣を巧みに利用した、ダメを押す一撃であった。
間もなく、3人の中高生の50メートル後を、少女と野獣の黒影が追随していった——。
2014年12月24日 23時30分 丸の内イルミネーション 大通りの交差点から1ブロック南——
僅か1ブロックを進んだところで足を止めたのは、先頭を行く荒木恵怜だった。それを見て即座に二人の麗牙光陰の仲間が前進をやめる。イルミネーションの南側(有楽町側)の端まで、恵怜たちの場所から4ブロック、約200〜250mあり、そこにいる人々の顔は点かごく小さな丸にしか見えない。だが、それでも小さな二つの人影が、何か見覚えのある形に、そしてそれが知り合いの影だという確信に至るまでには殆ど時間を要さなかったのである。
——ストップ、ストップ!
恵怜の声が後続の麗牙の仲間の意識にダイレクトに響く。間隔を詰めて走っていた二人が、恵怜と真横の反対側の歩道にウィル・ロイファーが、そして水希がやや後退して恵怜と同じ側の沿道の建物に体を寄せる。ECの能力者間でしか聞き取ることのできない遥声が発せられ、恵怜を除く二人に、一気に緊張が張りつめる。
遥声は聞こえないが、前の3人が突然止まったので、光曳とメクチも様子を窺うべく歩道の脇に寄り、止まっていた。ただ、光曳に限っては、前が止まらなくとも、既に酸欠と激烈な動悸のために、歩みを止めるのは時間の問題であった。
——ごめんっ。大したことじゃないんだけどね。
少年が瞼を半分おろし、氷のように冷たい眼差しを右に向ける。それを見るなりツインテールの少女が、遥声でリーダーを牽制すると、リーダーが身ぶり手ぶりで必死の釈明をする。会話の聞こえない後方の二人が、少年の挙動不審さにすこし後ずさりした。
——なぜか亜弓がいるの、風也と一緒に。私たちには気付いてなさそうだけど、こっちに来てる。
今度は二人の視線がリーダーに集まる。ウィルと水希が恵怜と居合わせているところを見られるのは勿論避けなくてはならないが、恵怜だけであっても、今夜は会うべき時ではないのは明らかだった。全員未成年という重たい制約付きで、この時間帯にイヴを愉しめるところはあるだろうか。
確かに事態は大したことではないが、なかなか対応が面倒になりそうだった。
——とりあえず、少し道はずしてやり過ごそう。
3人が急に進路を変えて、東京駅方面に走り去っていった。残された二人は、全く事情が呑み込めずしばし立ち尽くしていたが、気を取り直して歓声の上がる現場へと先を急いだ。
2014年12月24日 23時30分 丸の内イルミネーション有楽町側入り口付近——
「すみません、すみませんっ。お騒がせしてしまいました」
過激なサンタクロースのプレゼントの演出に集まってきた人々の拍手に囲まれて、友賀亜弓がお辞儀する人形のように、何度も頭を下げていた。観衆は、彼女を非難するどころか、ボーイフレンドが窮屈そうなプレゼントの袋から出てきたことに感動の雨嵐に包まれていたのだが、亜弓はそんなことお構いなしに、ひたすら頭を下げていた。
亜弓の手助けのおかげで、無事袋から脱出できた風也が、彼女の顔よりも先に目の当たりにしたのは、二人をぐるりと囲む人垣だった。
風也は周りの拍手などお構いなしに、露骨に気難しそうな表情を見せると、亜弓の右腕を乱暴に掴んで引き寄せ、人の壁をかき分けて大股で北へと歩き出した。
亜弓がバランスを崩しながらも、首だけで最後のお辞儀をすると、彼の顔を見上げた。久しぶりに声もかけられそうにないくらいに怒っている。わたしの手伝い方が悪くて風也を怒らせてしまった。
途中で風也が手を放すと、お互いの間隔を少し開け、彼は前を睨み、彼女は俯いたまま、歩き続けた。静寂の時は尚も続き、大通りまで来て、自動車がほとんど通らない交差点の信号待ちになったときに、やっと沈黙が破られた。風也が亜弓の方に向き直って、静かに話しかけた。
「悪ィ」
亜弓が少し驚いた顔をして、小さく首を横に振った。「そんな、わたしの手際が悪くて、みんなが集まってきちゃったから・・・」
「そんなんじゃねぇよ」
亜弓がわずかに口を開けたまま考え込んでいるうちに、風也が再度話し始めた。
「オレ、人に拍手とかされたことねぇからさ。つい、な」
左手で髪をかきあげて顔を逸らすと、軽く息をついた。「強かったな・・・あのサンタ」」
何となく言ってみただけのように見えたが、そのために亜弓の思考時間が延長された。そういえば誰が、風也をこんな目に合わせたのだろう。人を袋詰めにするなんてもっての外だが、この人を喧嘩で遣り込める人なんて——。
横の街並みを見ながら思索に耽っていた風也が、不意に声をあげた途端、凍りついたように動かなくなった。
「風也?」不安にかられた亜弓が、左手で風也の手を握る。彼の手が震えていた。
「そういえば、あのサンタ達、俺とやりあう前に、妙なこと訊いてきやがった」
風也の右手を握る亜弓の掌に、彼の手の甲の血管の脈動がはっきりと伝わってくる。
「え?」
何か悪いことを思い出しつつあるのか、風也の顔が見る間に蒼白になっていく。瞳の動きが、必死に何かを求めるように、左右にひっきりなしに振れる。
「風也?何、何を訊かれたのですか?」
風也が肩で息をし始めた。極冷の環境で、汗をかいている。
「風也?どうしたんですか?ねぇ、かざや!」
うわの空で彼がつぶやいた。「俺は、あのサンタ達にここに運ばれてきた…」
亜弓が風也を落ち着けるように両腕を掴み、彼の双眸をまっすぐに見つめてゆっくりと頸を縦に振った。
「そこに偶然、亜弓がいた」亜弓が彼に言い聞かせるように応える。「偶然じゃないですよ。ここで待ち合わせようって……」
「違う!」風也が目を真っ赤にして亜弓を睨みつける。「アイツら、亜弓のために俺を運んできたんじゃない!」
「どういう、こと・・・ですか?」
風也の震えと恐怖が、亜弓にものりうつりかけていた。亜弓の両手に異常に力が籠められる。
「最初に訊かれたんだ、あいつらに……」
亜弓の大きな目が、涙でいっぱいになっていた。
風也が、続きをいう恐ろしさで暫し沈黙し、下を向いた。そして、再び亜弓を見つめると、静かに言った。
「町田に・・・・・・会うつもりはないかって」
界隈を覆い尽くす黒雲の深奥部で、痛苦に喘ぐように雷が小さく轟いた。
光は、見えなかった——。
〜2014/12/10 コメ〜
そろそろ真打登場です!あぁぁぁ怖い
〜2014/12/13 コメ〜
>>221
町田登場直前まで追加
>>220 >>221
メクチと光曳のやり取りちょっと修正。。。。
町田も怖いが、メクチもなかなか強烈。。。
リンクはPentatonix "Mary did you know"です。なんか絶望な感じしませんか??歌詞の意味知らないけど。。。(恥)
〜2014/12/20 コメ〜
風也が町田の件について告白する部分の、二人の口調をより原作に近づけました。
- AsStory 『ひかり、在れ』〜クリスマス短編更新中(6) ( No.222 )
- 日時: 2014/12/21 11:15
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: WkkVAnf4)
2014年12月24日 23時37分 丸の内イルミネーション 大通りの交差点付近——
鈍い雷鳴が鳴り止むと、建物の陰からウィルが一瞬顔を出し、二人の様子を窺った。麗牙の3人は亜弓たちが赤信号で立ち止った信号の交差点の、東側(東京駅側)に伸びる道沿いにある複合型施設「ブリックスクエア」の外壁や柱の陰に散開していた。全員、風也と亜弓と面識があるが、あの二人はECの絡んだ事件に深入りし過ぎたために、ECに関わる記憶を消されているはずだった。それでも、3人は不安があった。
信号が青く点灯した。早く通り過ぎてくれ。風也たちがそのまま北側(大手町側)に抜けてくれれば、お互いに何の心配も無くクリスマスを祝うことができる。風也が東京に来た経緯を知らない麗牙のリーダーは、そうなることを信じて疑わなかった。。
風也の右足が動き出す。ウィルが即座に顔を引っ込め、建物の壁に背中をぴたりと貼り付けた。左右の瞼を下ろし、彼方に走り去るであろう足音に耳をすませた。
一歩。それに追随するように、細い足音が響く。二歩、三歩。二つの足音は急速にテンポを速めていく。ただ、その向かう先は北ではなく、ウィル達が身を潜める東側だった。
どうして?俄に3人に緊張が走る。指揮官から遥声で指示が飛び、各自不審さを漂わせず、面貌の割れないように振る舞う。
一心不乱に疾走する風也と亜弓は、周囲に目を遣る間もなくブリックスクエアのブロックに東端まできた。東京駅。理由はわからないが、ウィルは、件の二人が何らかの理由で、イルミネーションの散策を中断し、東京駅に戻ろうとしているのだと推測していた。
だが、二人は麗牙のリーダーの予想をことごとく裏切り、今度はその交差点で立ち止まったままでいたのである。
東向きの通りの一番東寄りの柱の陰に隠れていた荒木恵怜が、僅か数メートル先の二人の会話に耳をそばだてる。一度だけ紫苑とは拳を交えたことがあるが、こんなに近くに居続けながら、自分の気配に気付かないのが疑問だった。
紫苑風也の呼吸音が止まった。微かなに聞こえてくる音は恐らく、亜弓のコートの擦れる音。それもやがておさまった。気配からして、二人は微動だにしていない。恵怜が慎重に、二人の様子を窺うと、凍りついた表情で、南東方向を向き、一点を凝視していた。
「ダメだ、こっちだとやつの気配が強くなった。戻るぞ」
——紫苑君がこんなに怯えているなんて。ヤツって…誰なの?
再び、漆黒の天空の奥深くで、雷鳴がぼやけて轟いていた。
2014年12月24日 23時37分 東京国際フォーラムガラス棟前——
丸の内仲通りから1ブロック隔てて聳える、全面を3,600枚ものガラスで覆われた巨大な建造物。このガラスの壁と自分の心とどっちが透き通っているだろう。……嗚呼、愚問だった。自分の心の方が透き通っているに決まっている。
ガラスの向こう側にのびる、電飾で彩られた歩道を並木を眺めていた一人の少女が悩ましげに溜息をついた。目の前に対峙していた己の顔がガラスの曇りで覆われる。
ガラスは目の前にあるもの全てを自らに映し出すが、自分の心に映し出されるものは常にただ一つ、いや、一人というべきなのかしら。
程なくして曇りがひいてゆき、赤地にライトグレーを合わせたタータンチェックのマフラーに埋もれて仄かに笑みを浮かべる少女「町田」の鏡像が再び目の前に現れる。
ガラスや鏡に映る自身の隣に何度、幻想の「彼」を描いてきただろう。去年、そして一昨年、更にその前の年も、「彼」があまりにシャイであったために、両想いのカップルとしてクリスマスイヴを過ごすことができなかった。でも、今年は「彼」もついに心を決めたようである。
彼の帰りの足を絶つために、夜通し彼と過ごすために、待ち合わせの時間を23時30分にしたのに、「彼」は更に遅れてやってきた。今、フォーラムの裏から——「彼」との間に巨大な遮蔽物があるにもかかわらず、「彼」と100m近く離れているいのもかかわらず——「彼」の声が聞こえた。こっちにアイツが居る。早く逢いたい!とはっきり聞こえたのだ。
「もうっ、明日の学校のことなんか放っておいて、夜明けまで、いえ、クリスマスもずっと、…まさか、永遠に一緒にいようってことなの?!」
頬を真っ赤に染めて黄色い歓声を上げる。
彼女の足元で何かを漁っていた大型の野良犬が驚いて彼女に吼えたてようと首を上げた瞬間、昂揚する気持ちを抑えきれない女子の平手打ちの連撃が犬畜生の反撃の隙を与えず脳天に炸裂し、犬は為す術もなく尻尾を巻いて逃げていった。
ひとしきりはしゃぎ終えると、耳を澄ませた。紫苑風也の足音が北に向かっている。また、遠ざかっている?
ああ、そうか。今の時刻からして、イヴ夜12時に運命的な出逢いを演出するつもりなんだ。
「なんてことなの。逆シンデレラなんて!」
深紅のティアード・スカートをはためかせて華麗にターンを決める。彼方でガラス棟沿いのイルミネーションを愉しんでいた人々が一斉に声のした方を向いた。町田が胸の前で両手を組み、黒雲で埋め尽くされた空に満天の星空を見ながら、天に向かって叫んだ。
「でもね、わたし……」
空だけでは飽き足らず、己が双眸にも天の川を煌めかせる。街の明かりが弱まっていき、突如スポットライトが町田に当てられる。
「待てない!」
街並みが元の明るさを取り戻した。
「風也くん!今行くわ!」
ブーツのヒールが少し高めなのもものともせず、少女が颯爽と北に向かって駆け出した。
2014年12月24日 23時40分 東京国際フォーラム西口——
東京国際フォーラムのガラス棟の裏に広がるオープンスペースは、表側よりもさらに多くの人が集まり、翌日が平日であることを忘れているかのような賑わいだった。ある一角では大きな人だかりができ、その中心に行こうとしたり、腕を高く上げてそこを撮影しようとしたりと、やや騒然としていた。人だかりの中心には、明らかに他の人間たちとはサイズの違うサンタの仮装をした男の姿があった。そして、その傍らには、一般的なサンタクロースのイメージとは正反対の、ひょろ長いサンタが身動きが取れずに足掻いていた。
寝床に紛れ込んだ蚊でも追い払うかのように、ABが図太い腕を力任せに振り回した。
「チキショウ!なんで払っても払っても人が寄ってきやがる!俺たちゃ棘抜き地蔵じゃねぇぞコラァ!」
クリスマス当日へのカウントダウンが間近になり、ますます盛り上がりを見せる仲間連れや酔っ払いたちが、怖いもの見たさに入れ替わり立ち代わりABに寄ってきていた。超弩級のガタイのせいか、殴られたら縁起物のように思われており、ABが荒れるほど人だかりが大きくなる始末の悪さであった。
「でもさ、これだけ人が集まってれば、町田って子もたぶんいるだろうね」
「直接ブツを渡さなくても、女が男に会ってる現場を撮れば同じことだぜィ」
ABが左手首に装着しているガジェットのビデオカメラレンズを示した。
「あんな糞餓鬼とまた一戦するよりは、女に居場所を知らせて会いにいかせる方が1万倍スマートだぜぇ!」
「オヤジ冴えてんじゃん」
「人を褒めんのは手前がいっちょ前に仕事できるようになってからだ、ボケ!さっさと仕事しやがれ」
大男が、宛先の人物の名字を必死に連呼する。CDが謝りながら名前を呼ぶ。
裏家業が生業の男にとって、己が身を隠すための人混みは大いに歓迎であるが、自分が中心に据えられた人だかりなど、殺してくれと首を出しているのに等しい愚行以外の何物でもない。1秒でも早くこの情況から逃れなくてはならない。
ターゲットがガラス棟の反対側を突っ走っているのに気づかぬまま、終わりの見えない試みは暫く続けられることになるのである。
2014年12月24日 23時40分 丸の内仲通り北端(大手町側の端)——
「大丈夫か?」
片側の並木だけ電飾が煌めく通りの歩道の真ん中で、風也が膝に手をつき、肩で息をしていた。不良どもの巣窟で肉体的、精神的に鍛えに鍛えられた少年が、たった300m走っただけでここまで乱れるのは、彼の町田に対する脅威のほどを如実に著していた。
沿道の建物のガラス張りの壁に寄りかかっている風也の連れは、更に情況が深刻だった。息が凍り付きそうなほどに冷えた外気に4時間もの間晒され続けた体は、いつもの身軽さを失っていた。履き慣れない、高めのヒールのついたブーツも、文字通り彼女の足を引っ張った。顔は火照るどころか、酸欠で蒼白になっている。
「もう・・・・・・大丈夫でしょうかぁ。・・・・・・走りたくないです」
大丈夫だ、と言いたいところだが、なぜかヤツの気配が弱まった感じがしない。呼吸を整えることに集中しつつ、情況を整理していた。
姿も見せてないのだから、気付かれることなど無いはず。周囲を見回してみたが、不審な人影はない。さすがに杞憂だったか。
「ああ、大丈——」
「風也ぁ!」
久しぶりに聞いた亜弓の絶叫と同時に、風也が至近距離に殺気を察知し、咄嗟に体を翻す。恐れていた笑顔が激突の6歩手前まで迫っていた。
「風也くぅん!」
「テメェ、いつの間にっ」
「今年のプレゼントはぁ〜」
町田が三段跳びの跳躍の準備態勢に入る。
風也が即座に車道に飛び退く体勢をとった。
「わ・・・」1段目。跳躍が始まった。風也が植栽を踏み破り、横に大きく跳ぶ。
「た・・・」2段目。町田の踏み込み足が風也に向いた。
「し!」3段目。
町田が風也に向かって渾身の跳躍。抉れたコンクリートタイルの破片が頭を越えて舞い上がる。風也はタイルをひび割れさせながらも踏みとどまり、相手の突撃を横にかわす。町田の体が風也の目の前を横切る際、彼女が思い切り横に広げた左手の指先が風也の胸の当たりの服をかすめた。
ポニーテールの長い後ろ髪を激しく舞わせながら、町田がコンクリートタイルの上を前転しながら着地した。
「そんなに恥ずかしがらないで。風也くぅん」
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52