二次創作小説(紙ほか)

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AsStory /予告用中編 『二人の精霊王』
日時: 2015/09/20 00:30
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 3qG9h5d1)

初めまして!
書き述べると申します。


 この作品は以前、シリアスのカテゴリーだったのですが、第七話からはこのサイトに投稿されている他の方の作品の内容を混ぜ込ませていただくことになりましたので、このジャンルに引っ越してきました!

カキコ内二次(合作じゃないですよ)……結構珍しい様な気もします。

混ぜ込む作品は——
『Enjoy Club』(作:友桃様)
です!
そして
『ウェルリア王国物語』(作:明鈴様)

ぇ、二つもやって大丈夫なのかって?貴様のプロットどうなってるんだよって???

(黙殺。。。。。。)



1点注意していただきたい事が……。
冒頭でも触れておりますが、もともとシリアス・ダークの作品なので、そのカテゴリー特有の表現があるかも知れません。できるだけグロい表現は使わないつもりであはりますが……。


更新の間隔が2か月空いたりすることがよくありますが、寛大な御心で受け入れてくださいますと大変有り難いです!


【最新話直前の状況】

(現在修正中・・・・・)




【お客様(引っ越し前の方含みます)】
  アメイジング・グレイス様
  アサムス様
  友桃様
  通りすがりの者です。様
  (朱雀*@).゜.様



【目次】

◆◆ 序章 ◆◆

 1話 >>1

 2話 >>2-3

 3話 >>4-5

 4話 >>6-11

◆◆ 第一章 ◆◆

 5話 >>12-13

 6話 >>14-19

 7話 >>21-25

 8(1)話 >>29-31

 8(2)話 >>38 >>41 >>44 >>46 >>48 >>51 >>53 >>58 >>60-61 >>63-64 >>70-75

 9話 >>81-82 >>87-88

 9(2)話 >>90-91

 9(3)話『時空間操作システム』 >>95-96

 9(4)話『副長官、乱心』 >>98-100

 9(5)話『時間ときを越えて』 >>105-107

 9(6)話『地を駆る鳥』 >>110-114

 10(1)話『ひかり、在れ』 >>118-119

 10(2)話『幕開け』 >>129-132

 10(3)話『交錯する時間とき>>142-153

 10(4)話『混迷に魅入られし者たち』 >>160-166

 10(5)話『絶体絶命』 >>172-175

 10(6)話『PMC、対陸軍攻撃陣』 >>180-189

 10(7)話『突入』 >>192-197

 10(8)話『スナイピング』 >>200-204

 10(9)話『ひかり、在れ』 >>209-210 >>213-214 >>227 >>229-230


◆◆ 第二章 ◆◆

 11話『逃走』(更新中) >>232-239


〜〜小説紹介〜〜
『☆星の子☆』((朱雀*@).゜. 様) >>108
『Enjoy Club』(友桃様) >>109


書き始め 2010年冬頃
(もう3年経ってしまったんですねぇ)

〜〜予告用短編〜〜
『月光』 >>126-127

『二人の精霊王』 >>243-245 <<<<<<<<(現在作成中!)

〜〜クリスマス短編〜〜
『クリスマス・プレゼント』 >>217-225

〜〜キャラ絵〜〜
メクチ >>207
水希 >>208
水希(変装後) >>212


登場人物一覧
>>206 (リアルパート)
>>216 (ファンタジーパート)

〜追伸〜
ツイタやってる方。。。R18記事があってもOKって方は、ちょっとフォローしてやってくれませんか?? => @motto_e

あんまり呟かないですけどねぇ〜(ぇ?)

AsStory /予告用短編『二人の精霊王』(参照壱萬感謝! ( No.253 )
日時: 2015/11/17 16:20
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: NSxNy3Qq)
プロフ: https://www.youtube.com/watch?v=ig8COgoI-dI

二〇十二年四月四日夜 ミダ軍陣地より南方の森の中——

 夜目の利く獣人の少年の視覚を以てしても、樹の幹の低いところに生えている太い枝のシルエットが、影絵のごとく伸びたようにしか見えなかった。それは、アロマの5メートル先を行く斥候の少年兵が、丁度節くれ立った幹をした赤松の巨木を右の真横に見た瞬間に起きたのである。

 暗い藍色に浮かび上がるシルエットの先端部分を先鋭化させながら迫り来るアカマツの枝が、少年兵の振り向きざまに右の頬をかすめると、次の瞬間には真黒に表面を焼きこまれたダガーとそれを掴む長い体毛に覆われた手、夜戦用のローブの袖という本来の姿に戻っていた。

 相手が魔法などで擬装したのではなく、あまりに見事に幹と一体化し、そこから枝の上を流れるような匍匐前進で飛び出してきたので、それが樹の枝ではなく生き物の動きだと、刃を受ける瞬間まで全く気づけなかったのである。

 ミダの少年兵が後ろに転倒寸前のところまで仰け反らせた上体を、生まれ持っての肉体のばねを使いどうにか持ち直すと、後ろの方で小動物が走り去るような小さな足音が遠ざかっているのが聞こえた。少年兵が咄嗟に身を翻し、追いかけようとしたが、彼を襲った人影の足先が刹那見えただけで、すぐに消えてしまった。少年の頭の内側で引っ切り無しに響く心臓の動悸と息切れの呼吸音が徐々に音量を増すにつれ、標的を取り逃がしてしまったのだという彼の実感を増長していく。

 相手の逃げ足は獣人である少年の足を明らかに凌いでいるのが、足音の遠ざかりようを聞いただけでわかった。

「さっきの音は」

 数秒遅れでアロマが追いついてきた。人間には非常に動きづらい環境であることを鑑みて、少年は幾分か力を抑えて走っていたが、だんだんとその差は開き、少年が襲撃を受けた頃には、アロマの姿は少年の視界のすぐ外側まで離れてしまっていた。

「待ち伏せされてた。たぶんユニオナの斥候だよ」

 アロマが唇を噛みしめる。獣人の少年が追っ手となっても、向こうは待ち伏せできる余裕があるのだ。

「ということは、向こうも獣人と言うこと?」

 少年が無言で首肯する。そして襲撃された情況と待ち伏せ方からして相当の手練れであること、攻撃は一撃だけで逃走したこと、獣人の中でも特に敏捷性に優れた種族であろうこと等を手短に説明すした。そして少年が最後にこう付け加えた。再び遭遇するような事があれば、その時は一撃で去るとは思えない、と。

 わかった、とアロマが頷くと、すぐに少年に指示を出した。

「行くわよ、予定通り」

 少年がフードの奥から大きな黒目で睨みつけた。四方八方に注意を向けながら、声を潜めて返した。

「俺の話聞いてなかったんですか?今度アイツに遭ったら——」
「それでも行くのよ」

 少年が右足を踏み込み、お互いの息がかかるほどに迫る。

「相手は獣人の俺でさえも気配に全く気が付かなかったくらいの相当の手練れです。予定の行程を行くとしても、それは俺だけにして、アロマさんは身を隠しやすいところで、万が一の時に備えて待機しててください。異状があれば、信号用の爆竹を鳴らします」

 今度はアロマが同じようにフードの奥から射るような目線を向ける。「あなたが合図をする間も無く倒されたらどうするの?誰がユニオナ軍の最前線の動きを伝えるの?」

 少年が激しくかぶりを振り、アロマから目を逸らした。

「だめですよ。今度あんな奴に襲われたら、俺、アロマさんまで……守れない」

「自分の身くらい、自分で守るわ」

 少年がアロマを窘めようと、再び彼女に顔を向ける。アロマの真っ直ぐで澄んだ視線が、少年の双眸を捉えた。思わず少年が、アロマを窘めるために言おうとしていた言葉を、喉元で押しとどめて黙り込んでしまった。

 彼女の表情に迷い、弱気の類が一切感じられない。あの斥候兵と直接刃を交えてない、相手を知らないが故の強さなのか。違う。もっと大きな、泰然とした自信を感じる。

「二人で行くのよ」

 囁き程度の声が強くダメを押した。少年が肩の力を抜いて深くため息をついた。

 こんな言葉のやり取りが無くても、黙って1分間も睨み合いを続けていれば、決着はついていたかもしれない。

 少年はあの隊長の統括する作戦に何度も参加しているが、それは言うまでもなく人望の篤い隊長にあこがれていたからである。その隊長が珍しく、一人の女性だけに向ける目線が違っていた。少年はその理由を、彼女の女性的な魅力、そして元貴族の娘という特別な来歴故と思っていた。だが、少年はアロマとの束の間のやり取りで、それだけではないことを、寧ろ、このやり取りで感じた名状しがたき何かのほうが、彼女の女性的な要素よりも隊長の心を突き動かしている大きな理由となっていることを確信していた。

「アロマさん、少し速度を落として行きますから、ちゃんと着いてきてくださいよ」

「わかった。暗闇に慣れて少し見通しが良くなってきたから行けるわ」


——え?


少年がアロマの言葉に違和感を覚えた。陣地から離れてそれなりに時間が経っている。人間の目はそんなに目が慣れるのに時間がかかるものなのだろうか。少年がフードの奥から大きな黒目を左右に向けて、周囲の様子を一瞥した。
 確かにどことなくあの戦闘の時よりも、木々の輪郭や樹皮の模様が克明に見えている気がする。少年が口をへの字に曲げて、眉を寄せた。これは、目が慣れているというよりは——。


——森が明るくなっている?


 そんなはずない。少年の脳裏によぎった思いをすぐに否定した。これから夜は深くなるのだ。やはり単に目が闇になれるのにちょっと時間がかかっているだけだ。

「それでは、お願いします」

 少年が腰の帯に仕舞っている短剣の位置を整え、帯を引き締めると、軽快な足音と共に駈け出した。アロマが、裾が広がり過ぎないように、腰と、膝のあたりで紐をゆるく回したローブを小さく揺らめかせながら後に続いた。右折地点の川まで、あと十数分はかかりそうだった。


 少年の感じた違和感は気のせいなどではなかった。

 森は、少しずつ、だが確実に明るさを増していた。森の住民達が深き沈黙を破る、その瞬間を迎えるために——。



二〇十二年四月四日夜 ミダ軍陣地——

「伝令は分隊に戻り、ユニオナ軍陣地に斥候を送っていることを伝えてくれ」

 地図を中心に据えたミダ部隊司令の円陣では、残された伝令に対し、隊長が指示を出していた。

「そして、必ず伝えてくれ」隊長の視線が弧を描き伝令たちを睥睨する。「ユニオナ軍との交戦の可能性がある。戦闘準備をしておくように」

 交戦という言葉を改めて聞かされ、スカユフや一部の手練れの傭兵以外の伝令達が強張った表情で、いつも駄弁っている時の2割くらいの音量で返事をした。敵の斥候を気にして声を抑えているのとは明らかに様子が違った。隊長が声をあげて苦笑いした。この部隊の殆どの兵士たちは、本職の兵士ではない。経済的な理由で参加しているだけの者たちが殆どなのだ。

「おい、そんなビビッてたら勝てる戦も、逃げ切れる退路もフイになっちまうぞ」

 隊長が両手を腰に当て胸を張り、絵に描いたような仁王立ちになった。隊長が明いっぱいに息を吸う。

「声を出せ!昼間のように喧しく歌を歌ってみろ。こうなった以上、気持ち負けするな、人事を尽くせ!いいな!」

 下っ腹がビリビリと痺れるような隊長の特大の叱咤に、伝令達がまばらに、先ほどの倍の音量で返事をした。

「小さい!」隊長が全員を睨み付ける。伝令達の声がさらに倍になる。スカユフが可笑しさで笑みを漏らす。

「もっとだ!」伝令達の声が更に倍に膨れ上がる。

「こん畜生!絶対に生きて還ってやる!」やけくそになりがら、全員が拳を振り上げたり、腰の高さに腕を構え、雄叫びをあげた。

 隊長が右腕を前に突き出し、一気に右に振ると伝令達が各々の分隊へ散っていった。


 スカユフは、他の者と調子を合わせ、円陣から駆け足で去って行ったが、ややもすると歩き始めていた。スカユフの分隊はミダ部隊の最右翼に位置するのでまだ少し距離がある。伝令がすぐには帰ってこないだろうと見越し、のっそりと歩いていた。

 日頃の鍛錬は大切だが、戦場に来てみだりに体を動かしまくるのはただの馬鹿だ。戦場では休めるときに休むのだ。

 他の分隊の脇を通る時に、のんびり歩いているスカユフを他の兵士たちが怪訝そうに睨んでくるのを尻目に、大女の傭兵は、隊長の先の言葉の可笑しさに鼻を鳴らして笑っていた。

「喧しく歌を歌ってみろ、かい」

 確かに日中のアレスタの歌声は酷くて大音量だった。あれだけの音量が、この暗闇でも出せたらなら、鋼の武器以上の威力になるだろう。スカユフは八割くらい冗談のつもりで瞼の裏にその情景を思い浮かべたが、残り二割の切実な思いでその絵に動きをつけてみようと試みた。

 何も見えない漆黒の空間の奥から、鬼も畜生も腰を抜かすような怒号が無数に重なって聞こえてくる。ユニオナの大半を占めるであろう傭兵たちは敵の威嚇を真に受けて浮足立つ。無数の怒号がだんだんと近づいていくにつれ、ユニオナ軍の傭兵たちの恐慌は激しさを増し、ついにはユニオナの騎士たちの制御不能な状態に陥る。

 古くから、陸戦の戦術に耳と目の錯覚は頻繁に使われてきた、森にひそむ自軍の数を多く見せるために、森中に農奴たちを配置して一斉に雄叫びをあげさせたり、夜戦の攻城戦では、外から来た城の援軍が、城を囲む敵の大軍を破るために、少数の部隊が、敵の視界の外で城を囲むように配置した部隊がラッパと太鼓を鳴らし、敵軍を撹乱、目立つのぼりを多数立てた囮の騎馬隊が敵陣を縦横無尽に駆ける中、本隊が無傷で入城を果たしたという史実もある。

 スカユフが微かに頸を左右に振る。やはり空論だ。そのためにはユニオナ軍の陣地の一辺をカバーする範囲に自軍の兵士た分散させなくてはいけない。各自があの時のように驚異的な声を出せたとしても、肝心のユニオナの陣形と大きさがわからない。アロマ達も大きさはわかったとしても、この闇の中で、陣形までは調べる時間は無いだろう。

「しかしねぇ——」未練がましく、再び胸の内で持論を翻す。浅黒く焼けた巌のような二の腕を見せびらかすかのように。力こぶを盛り上げて左右の腰に手を当てて歩み続ける。

 アレ達の歌を聴いていた時、戦闘状態になっていないのに、騎馬に載った敵将と相対した時のような、尋常ではない気持ちの昂ぶりを覚えたことを思い出していた。アイツらが謳っていたのは、龍狩りの騎士の英雄譚の中でも、主人公の騎士が今まさにアークドラゴンの立ち向かう場面の歌だ。


 龍を 狩れ


 龍を 殺せ


 竜鱗を 纏い


 竜血を 浴び


 竜骨の剣を 掲げ


 真の龍狩りの騎士となれ——


 と、その一節をひたすら繰り返していたのだ。

「歌、ねぇ。あ、そういえば」スカユフが不意に歩みを止め、後ろに振り返った。

 隊長のいる第一分隊には歌精がいたはずだが、円陣を組んで打ち合わせをしている時には歌声が聞こえてこなかった。今もしばらく第一分隊のある方に耳を澄ませていたが、それらしき声を聞こえてこなかった。

——まだあの子たちは黙りこくったままなのかい。

「歌を歌っていいっていうんなら、どうせなら歌精の歌声を聴きたいねぇ。アタシの完璧な美貌が益々洗練されていく気にさせてくれるからねぇ」

 山女の口のあるあたりから、「アタシノビボウ」という響きを聞きとった付近の兵士の体が一瞬にして凍り付いた。周囲の兵士たちの声が途絶えた。

 スカユフが満足げな笑みを浮かべ、再び己の分隊に踵を返すと、一言残し、豪快ながに股で去って行った。

「こんなに男共の注目の的なってるんだねぇ。照れちまうよ」


 歌精たちが彼女たちの「歌」を取り戻すその瞬間は、すぐそこまで迫ってきていた——。








〜2015/06/21〜

 久しぶりに更新できました。。。。

 最後、気になりますねぇ〜。。。。。ぇ、全然気にならない??!

 。。。気にしてください、マジで。。。クライマックスへの露骨な伏線ですから。。。

 お願いしますね〜

 じゃっ!!

 そいえば、聖剣ROMのイメージソングを歌っている人(KOKIA)の、他のシングル買ってしまいました。。、

 なので、その曲の動画リンク貼っておきます。。。。

『宇宙戦艦ヤマト 2199』第4章ED 『記憶の光』です


 森雪、古代が原作より120%可愛さカッコよさ充填されてるっっ(悶絶)


〜2015/06/21〜
大ミスをしてしまった。。。。。

話を一部飛ばして載せてしまいました。。。。

既に修正済みです。



AsStory /予告用短編『二人の精霊王』(参照壱萬感謝! ( No.254 )
日時: 2015/12/14 02:19
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: BLMhacx0)
プロフ: http://bit.ly/1GKmlEw

二〇十二年四月四日夜 ミダ軍陣地より南方の森の中——


 アロマと獣人の少年兵士が前進を再開してから10分が経過しようとしていた。何回か立ち止まっては、地図を確認し、少年が樹上にのぼり、右折地点付近にある丘を位置を確認していた。そして、今も現在地確認のため、少年が登りやすそうな大木を見つけて樹上に登るところだった。

 少年がアロマにこれから登る、と声を掛け、熊の獣人らしく指の爪を目いっぱいに伸ばすと、一気に駆け上がった。暗闇の中でも、枝のわずかな隙間を潜り抜け、樹幹に爪を掛けるわずかな音だけを伴い天辺に辿りついた。木に登る時に下に見張りが立てられるという点で、二人で来て正解だった。先の獣人以外の脅威に関しては、人間の女性兵士でも何とか太刀打ちできるはずだと見込んでいた。

 もし、あの獣人が現れた時は、自分が樹を飛び下りて即座に応戦しなくてはならない。

 注意を自分の外に戻し、丘のある方角を見やる。視界いっぱいに映り込んだほぼ濃藍色の風景を目の当たりにして少年が何度も左右の瞼を瞬かせた。だが、少年の希望に反し、全く風景は変わることはなかった。でも・・・。

——なにか変だ。

 丘の向こうの水平線付近のわずかな層が薄らと赤味を帯びている。陽光?いやそんなはずはない。まだ日の出まで数時間はある。それに方角が——。

 少年が東と思っている方向に体の向きを変えた。今度は瞼を少しさえも動かす余裕も失っていた。南から東にかけて、一様に水平線付近が深紅に染まっている。はっとして、身を翻す。南から東に書けてではない、全方位でこの現象が起きていた。足元の森も、色はわからないが、何となく明るくなっている気がする。おかげで丘の位置はよくわかって助かるのだが、これは一体——。

 森の異変を確信したのは、斥候で一度目に樹を登った時だった。それまではあくまで地上の斥候だったので、森の樹に登ったことはなかったのだが、この時、木の天辺を目指して枝の脇をすり抜けると、枝中にびっしりと小さな体を寄せ合って並ぶ小鳥たちが、同じ姿勢で、同じ方向を向き、じっと身を固めていたのだ。樹の上の方の枝に行くと、小動物の食物連鎖の頂点に位置していそうな梟等の猛禽類までもが羽を畳み、ある方向——恐らく竜のねぐらと思われるあの開けた空間だろう——を向いてじっとしていたのである。

 確かに森の住民は、小鳥に限らず、全ての生き物が沈黙していたのである。相方に相談すると、それでも前進を優先するとのことだった。森の住民がここまで沈黙しているのは確かに異様だが、それがために何が起きるのか皆目見当がつかない。それよりも、もっと確実な脅威について、我々は報告をあげなくてはならないのだと。

——とにかくアロマさんに報告だ。

 少年が手足の爪を特に深く幹に喰いこませ、足を上方に、頭を地面に向ける姿勢になると、自由落下より速く大木を下って行った。


「アロマさん、森全体の異変がだんだんと進んでます。おかしいのは動物達だけじゃない」

 少年が登った大木のそばで、飾り気のない樫の剣を右手に提げ立哨をしていたアロマに話し掛ける。同時に、アロマの武器の貧相さに胸の内で溜息をついた。少年自身も装備の武器は鋼の短剣一艇だが、獣人の最大の武器はその身体能力だ。それに比べ、人間は身に付けている武具以上の武器はない。それらを失えば野良犬一匹にも苦戦する貧弱な生き物に成り下がってしまう覚束ない生き物なのだ。

「どういうこと?」

 アロマが返してすぐ、南の奥の方から、かなり離れたところから、女性の悲鳴と思しき、切り裂けるような声が一瞬聞こえた。

「アロマさん!」少年の呼びかけにアロマが首肯を返す。「あくまで慎重に。私たちも命を狙われている身であることを忘れないで」

 少年が同じように首肯で返す。「行きます」

 駈け出した少年のすぐ後ろで、アロマが右手に樫の剣を握り、更にローブの裏のもう一艇の細剣を抑えて続いた。




二〇十二年四月四日夜 ミダ軍陣地——

 戦闘準備の指示を受けて慌ただしくなり始めたミダの部隊の騒音にのって、聞き慣れた濁声の歌を歌う空耳が聞こえたような気がした。空耳と思ったのは、まだ少し分隊まで距離があったからだ。相棒のアレは、生真面目に声を潜めたまま、あの英雄譚の一節を念仏みたいに唱えているはずだ。<*いくら地声が大きいとはいえ、ひそめた声がこんな距離まで響くはずがない。もし相棒の声が聞こえてきたのなら、それは他の分隊から出撃準備の指示を立ち聞きして、歌うのを止め、いつもの会話と音量に戻った時だ。

 先程の空耳は、いかにも声を潜めている感じの、抑揚のない歌声だ。


 今聞こえたと思ったのは、いかにも声を潜めている感じの、抑揚のない歌声だ。

「気味悪い森に居過ぎて耳がおかしくなっちまったかねぇ」

 そういって人目も気にせず、右耳と右の鼻の穴を右の人差し指で交互にほじりながら歩いていると、スカユフの分隊に属する大柄の中年の兵士が、目立つ身なりの彼女の姿を認めるやいなや、血の気のひいた面貌で駆け寄ってきた。

「大将!大変でさぁ」

 取りあえず、右の鼻の穴に突っ込んでいた人差指を抜いたところで、中年兵士がアロマのそばに辿りついた。

「どうしたぃ」

「アレのオヤジさんが——」

 緩み切っていた女傭兵の左右の目尻が瞬時に引き締められる。女の聴覚から余計な喧騒がしとられる。

「歌うのを止めてくんないんでサァ」

 一瞬言葉を失いかけたが、すぐにスカユフが頬を緩めて笑い飛ばした。「そんなのいつものやんちゃが出ただけだろ。棍棒で脳天殴っときゃ直るよ」

 スカユフが背中に担いでいる、サメの歯のような無数の突起が縁に並んだ大剣を渡す素振りを見せると、中年兵士が両手を掲げ、大ぶりなジェスチャーでそれを静止した。

「そ、それ棍棒じゃ・・・と、そうじゃないんでサァ。何かに取りつかれたみたいに。おやっさんの顔つきもなんか変なんでサァ。冷や汗滝のように流してよォ」

 屈強な中年が涙ながらに訴えた。女傭兵の双眸に緊迫の火が灯り始めた。スカユフが背中から大剣を完全に外すと、刃を下に向け、駈け出そうとした。そしてすぐに足を止めた。止めざるを得なかった。

——何か聞こえた。

 スカユフが左右の瞼を下ろし、唇を引き締め、心のざわつきを鎮めることに専心した。この声は耳に響いてくるのもじゃない。

——そうだ、聞き間違えるはずがない。

 どこから響いてくるのかわからない、全方位を囲まれているかのように響くこの声——。


——歌精が、沈黙を破った。


 理由はわからない。しかし、いつもなら大歓迎のはずの歌精の声を聞いて、女の全身が戦慄していた。いや、彼女だけではない、部隊全体が動きを止め、その声に気付き、血の気を失っていた。

 心に直接響くその声は、少しずつ大きさを増していた。

「あまり事態は芳しくなさそうだねぇ。おい、お前、ついてきな!」

 
 今度こそスカユフが走り始めた時、森の住民達が、まばらながら鳴き声を発し始めていた。
 雀のチュン、チュン、といういつもの鳴き声がところどころで聞こえ始めている。それだけで、部隊全体がどよめいた。

 それを見透かしたように、椋鳥が彼方此方で鳴き始め、直ぐに雀の鳴き声を圧倒した。

「森が怒っている」

 どこからともなく聞こえてきたその一言に、部隊の動揺は爆発した。

 歌精の声は着々と音圧を増し続けている。

 ミダ軍のほぼ全兵士が、スカユフとは逆方向に、第一分隊の方へ雪崩を打って動き始めた。
 スカユフの人生の中で滅多に感じ無いような動揺を、左手で胸を打ち据え、雄叫びをあげて霧散させながら相棒の許へ、歌を奏でる歌精の許へと向かっていった——。



二〇十二年四月四日夜 ミダ軍陣地より南方の森の中——

 頭上を常緑樹の肉厚な葉で隙間無く塞がれた密林の獣道を、黒きチュニックを着た若い獣人とやや年上の人間の女が、2、3メートルの間隔をあけて走り抜けていった。先導の獣人は優れた夜間視力を有しているため、地面を埋め尽くす濡れ落ち葉や木の根に足を取られることはまずないが、後続の女性兵士も人間の夜目では到底無理なはずの速度で夜の密林の障害物をかわし、獣人の少年の数歩後ろをぴたりとついていた。

「向こうで林が切れてる。川か川の痕跡があるかも知れないわ。声がしたのも確かあの辺り」

 アロマがゆうに100メートル以上は離れている前方の風景を指さし、前を走る獣人の少年に声を掛けた。

「了解」

 獣人の少年が逸る気持ちを抑え、眼球を上下左右に向けて周囲の状況を窺う。数分前に樹上から森の外の様子を確認した時には遠方に霞のようにしか見えなかった赤みがかった光が、今や視界全体をうっすらと黄色味がけて照らし出していた。おかげで視程が広がり、予定よりも遥かに早く、そして安全に予定の行程を進むことができているが、この不可思議な黄色い光が、何故発生したのか、人間や獣人にどのような影響があるのか、何もわからないままであった。ただ、二人の生存本能が、決して良い予兆ではないと感じていた。

 昼夜を問わず陽光が殆ど射し込むことのない樹々の深淵に人の声。アロマの意識が前方の少年を追い抜き、樹々の切れ目の向こうにの開けた空間に向けられた。
 ここまで来るために数日の行軍が必要だった事を鑑みると、人が迷い込んだにしてはあまりに人里から離れ過ぎている。
 考えられる可能性は、何らかの理由でユニオナの部隊からはぐれた兵士若しくは軍属、または——。

 少年を襲ったという人影。

「気をつけなさい、もうすぐよ」

 アロマが暫し思考に耽った間に、少年と彼女との間隔は10メートル近くにまで開き、少年は川若しくは露わにになっている川床に沿って並ぶ樹々の隙間を埋めるように生い茂る、低木と背の高い草本の列のすぐ手前にまで来ていた。樹々の間から垣間見える夜の気色は、件の黄色い光とも霧とも思しきもので、一面が黄色く染まっている。アロマがその風景に違和感を感じ、顔を顰めた。
 アロマの声が聞こえてか聞こえずともか、足の爪を引っ込め、柔らかな足の裏で殆ど足音もたてずに茂みに沿ってゆっくりと歩き始め、予定通り川のある地点に来たかどうか目標物を探そうとしていた。が、すぐに足を止め地面から目を逸らし、遠方を見遣るようにして呆然と立ち尽くしてしまった。

「どうした——」

 アロマが少年に追いつき左に並ぶと、樹々の間から改めて外の風景を見た瞬間、二人揃って声を失ってしまった。

——何が、あったの?

 先ほどアロマが感じた違和感の正体がすぐに分かった。
 黄色い光は霧がそうであるように、近くでは殆ど色がわからず、遠くのものほど不透明度を増して色合いがはっきりとしている。二人が来ているのは、森の切れ目ではあるが、森の南端ではない。川の流れのために数メートルから数十メートルの幅の開けた土地があり、その南側から再び森が広がっているはずだった。
 だが、彼女の意志に反して向こうの風景に、木立らしきシルエットは全く見当たらない。人間より優れた視力をもつ、アロマの右隣りで立ち尽くす獣人の少年も、恐らく黄色い空間の向こうに森の樹々を見いだせていないはずだ。濃くなり過ぎた黄色い光のような霧のようなもののせいで視程が悪くなっているのが原因ではないことも確実だった。なぜなら——。

 樹々の切れ目の向こうの地面が、消えていた。

 二人が右から左まで風景を確認したが、どんなに目を凝らしても、樹々の切れ目を境にして断崖絶壁が広がり、草や土の大地に代わり、巨大な底なしの暗黒の空間がぽっかりと口を開け、哀れな獲物が森の中から飛び出して落ちてくるのをじっと待っているようだった。正気を取り戻したアロマが記憶と理性を総動員し、状況を整理しようとした。

——ミダ部隊は、ここから少し東側の地点を、南から北に進行していたはず。この暗黒の空間が付近一帯に広がっているとなると、私たちが通ってきた森は?






〜2015/06/28〜
物語と全然関係ないけど、時々(誤)昭和後期->(正)平成初期のアニメの動画見てるんだけど、なんか懐かし過ぎて泣ける。。。
1.『不思議の海のナディア』
2.『絶対無敵ライジンオー』
3.『恐竜惑星』
4.『ロビンフッドの大冒険』
5.『スプーンおばさん』(ルゥリィィィ!)
6.『少年アシベ』
7.『アリス探偵局(SOSの方じゃないよ)』(アリスゥゥ,イナバァァ,テレスぅぅ!)(2期のOPで"ツー"ってポーズ取るアリス犯罪(参照))(そこまで言うか)
 つか天テレ神。。。

ちょっと雑音が入りましたが。。。もし死ぬほどお暇でしたら(暇じゃなくても)見てみてください。。
笑いも涙もあり且つ難しいこと抜きで素直に見れる感じです。。。
5,6,7はSDキャラなのに昨今のリアル頭身キャラより遥かに魅力を感じる。。。年なんだろうか。。


〜2015/06/28〜


 微妙にブランクが入ってしまって、前の話を一生懸命思い出しながら書いたのですが、もしかすると話のつながりがおかしくなっている箇所あるかも知れない。。。。

 地面が無い。。。誰が何をしたんでしょうねぇ。
 そろそろアロマ、戦闘モード突入です。。。。

 1ページ4,000字超えてしまった。。。。分けるの面倒なのでそのままでイコ。。。。

〜2015/06/21〜

ついに、歌を歌う者達が動き始めました。。。

アロマ達斥候隊は、ミダ部隊本体の運命は如何に?

ユニオナ軍の動きは?


そして、アークドラゴンはいつ、どうやって現れるんでしょうね。。。


そして、ここからスカユフのターン、始まります。


アロマとスカユフ、二人のターンが同時に進んでいきますっ!

頑張らねばっっ

AsStory /予告用短編『二人の精霊王』(参照壱萬感謝! ( No.255 )
日時: 2015/12/14 02:27
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: BLMhacx0)
プロフ: http://www.kakiko.info/upload_bbs/index.php?mode=article&id=4662

 ほぼ同時に、少年も同じ懸念を抱いたのか、二人揃って東の方角——南下してきた二人から左の方——を向き、不吉の予感が示す通りに足下の断崖絶壁が視界の果てまで続いているのを目の当たりにし、絶句した。

 絶対にあったはずの森がない。ミダの部隊が暗闇と荒天と蠢動する無数の正体不明の生命体の間を幾日もかけ、進んできた森が、物音一つ無く、目立った残骸もなく、それこそ数分もしないうちに消えてしまっていた。
 アロマよりも少し早く、我に返った少年が全神経を張りつめさせた。わずかの間とはいえ、二人とも無防備な状態で棒立ちになっていたのに、件の人影が現れない。

 さっきは完全に虚を突かれ、相手の姿を見ることすらままならなかったが、体勢を整える猶予を得た今なら、反撃までは叶わずとも、敵に接近される隙を与えないだけの警戒体勢をとることは可能だ。あの人影はまた完璧な擬装を施し、獣人の少年と片田舎の領主の娘という、兵士らしからぬ二人組を、彼らの頸に一番近い枝先に止まり、虎視眈々と止めの一撃を、牽制ではない、確実に標的を絶命させる必殺の一撃を理想的な形で浴びせる瞬間を待っているのだろうか。先ほど二人が見せた僅かな隙を見送ってでも、待ち続ける何かがあるというのだろうか。

 或いは——。

「あの斥候が現れない。この超常現象、いえ、幻術に巻き込まれたのかしらね」

 少年の脳裏をかすめた思いが、本人が口にするより早く、声となって聞こえてきた。フードの奥から黄色い風景を睨めつけていた少年が、体はそのままに大きな黒目を、左に佇む相方に向けた。「幻術・・・・・・」

 フードのせいで、少年の目線が己に向けられていることはわからなかったが、アロマは右に顔を向けて話を続けた。「くれぐれも警戒を解かないで聞きなさい」

「あの悲鳴を聞いたとき、さきの斥候兵士が、友軍以外の何者かに目撃されたかしたせいで、目撃者を亡き者にしたと考えていたわ。でも、この瞬間にもあいつが襲撃する気配がない。あなたの様子を見るまで私達に決定的な隙ができていたことに気が付かなかったのは迂闊だったけど」

 アロマの言葉を受けて、ますます己の考えに確信を得た少年が、事態の深刻さに愕然とし、身動きを止めた、確かに、音も光も発することなく、僅かな時間で地形を変えるなど、何らかの錯覚や蜃気楼の類でしかない。だが、もしアロマの言う通り、そして自身の直感の通り、これほどの広大幻影がこの星の為す極めて希有な自然現象等ではなく、なにがしかの意図を以て一瞬にして発生させたのだとすれば、それは最早人知を遥かに越えた次元の話。文字通りこの幻術の使い手は人間でも、人間にくみする他の種族の魔導士でもない。この魔導の使い手は——。
 少年が固唾を呑む。


 此の森のあるじ、アーク・ドラゴン。

 
「思い返してみれば、私たちが予定よりも3時間も早く目的地に着いたのも、川を渡ったタイミングが人によって主張が異なっているのも、全部こんな幻術のせいだったのかも知れないわ」

 獣人の少年の全身を覆う体毛が針の如くよだつ。アロマの足が、無意識のうちにもと来た道のほうに向く。「この森の主は、アークドラゴンは、ずっと前から侵入者に気付いていたのよ」アロマがローブの上から、細剣の柄を握りしめる。

「竜のねぐらにいる本隊が危ない。斥候は中止よ。もう人間の軍隊を気にしていられる暇なんてんない!」

 アロマが少年を一瞥し、退却の一歩目を踏み出そうとすると、少年の声が鋭くそれを牽制した。

「待ってください!」「なに?どうしたのよ」

 少年がアロマの方を向かぬまま、ユニオナの部隊がいる西の方に全身を向け直し、フードを下ろして毛皮に覆われた丸い耳を真っ直ぐに立てた。

「さっき、遠くで不審な物音がした」

 アロマがつい己の耳を欹てていた。やはり人間の耳には何も聞こえない。恐らく、暗闇でなくとも対象を視認することもできるはずがなかった。少年の感覚では、物音までは凡そ1キロメートル近く離れていたのである。

「何の音?」

 アロマの問いかけを背中越しに聞きつつ、少年が耳の脇に両手をあて、息を止め、全身を石像のように静止させた。アロマは、あまねく森の全住民が黙りこくった静寂しじまの中で、己の心臓の鼓動の数を数えながら、明る過ぎるほどに輝く、濃密な黄色い霧の向こうを睨み続けていた。少年が応えるまでの間が途轍もなく長く感じられた。

「騎馬の足音…」

 アロマの気色が剣呑な赤色に染まる。そんな答えを聞くためにこんなに長く酷く待っていたのではない。獣人の少年も、音を識別するのに時間がかかり過ぎてしまったと焦っていたが、まだ10秒も経っていなかった。

「こんな密林、どうやって騎馬が走るのよ」

「確かに、馬の足音なんだ。しかもかなり重い。枝を弾き飛ばしながらこっちに来てる」

 アロマがどう返したらいいのかわからず、黙って少年と同じ方角を眺めた。

「跳躍した」
  少年が足音を識別してから3秒後、一際大きい足音を一回だけ捉えていた。その直後、騎馬の頭上にあると思われる、密林の樹々の分厚い緑の天蓋に突っ込む音がした。

 アロマは言い返したい衝動を抑え、ひたすら黙りつづけていた。

 少年も聞き取った物音から何がどうなっているのかわからなくなっていた。ただ一つ、件の足音意外に判明したことは、緑の層に突っ込んだ騎馬の乗り手は、マントか大きな布切れをつけているらしかった。斜め前方の相当上の方、樹々よりも更に上の夜空から、何かが荒々しくはためく音が聞こえてくる。

「飛んでる」
 左右の耳の脇に手を当て、斜め上を向いている少年にアロマが苛立ちで覆わず声をあげそうになった。森の中の騎馬。10メートルはゆうにある緑の層に騎馬が突っ込む。そして、今度はそれが飛翔しているというのだ。全く状況が掴めない。本隊が神獣に今にも襲われかねない事態と重なり、大抵の戦争なら、氷の冷徹さを保つアロマの理性も今や、沸点到達の秒読みが始まっていた。

「どんどん近づいてる、アロマさん!やっぱり騎馬みたいなのがマントみたいなのをはためかせて、空からこっちに来てます!」

「もうちょっと何か——」

 アロマが言い返しかけて、不意に言葉を切った。何か聞こえた。
 耳鳴りにしては低い音だった。少年の言うマントの音でもないようだった。聞き間違いかと思ったが、直ぐにもう一度同じ音が聞こえた。森が沈黙に包まれていなかったら、間違いなく聞き逃していた。眼前に立ち尽くす獣人の少年に声を掛けると、少年も察知した旨の合図を返してきた。

「咆哮?」
 おざなりに腰の木剣に右手を添えるアロマが、狐につままれたような面持ちで、ぽつりとつぶやいた。だが、彼女のそんな状況は、2秒と続かなかった。少し間を置いて、謎の物体の3度目の咆哮を彼女が耳にした時、同時にマントの靡く音もはっきりと聞き取り、恐らく武器か防具の突起が風を切る鋭く甲高い音も聞こえてきていた。

 そして、相手の移動速度が、生き物の出しうる速度を遥かに超越した、大砲の弾丸のごとき速さで接近していることがようやく分かったのである。

「来るわ!」

 アロマが警告を発すると同時に、お互いがその場から反対方向に駈け出していた。一瞬、隙間なくからまる密林の樹々の枝が、激しくへし折らる音が響いた後、それらを突き破って大地と枝の層を隔てるわずかな空間に、大きなな黒い影が姿を現した。アロマが3歩目で渾身の跳躍をし、背後に目線を向けた瞬間、緊張と興奮が最高潮に達した彼女の時間の流れが極端に遅くなる。

 黒い影が地面に衝突するまでのわずかな間に、アロマは克明にその姿を捉えていた。それは彼女が経験してきた幾多の戦場で、よく目にしてきたものとよく似ていた。筋骨隆々とした4本の足。全身を覆う艶やかで短い漆黒の体毛。同じ色をした長い尻尾の毛。相手を威嚇するため、仲間に己が身の存在を知らしめるために、全身に過剰なまでに豪奢に施された貴金属の装飾、そして、己と主である乗り手を鼓舞するために発する、野生の原種では到底考えられないような大地を揺るがす咆哮。眉間にあてがわれた装甲は、詳細まではわからなかったが、わざわざ見るまでもなくそこにはの国の紋章が精緻を究る技巧を以て刻まれいるのことは、字の読めない貧民でさえも知り得る——。

 ユニオナの聖騎士の軍馬が、大砲の弾丸の数十倍に匹敵する衝撃力を伴い、二人の兵士が一瞬前まで居た地面に突撃していた。

 4本の図太い脚が大地にめり込む瞬間、二人の斥候兵の視界一帯にある地面の土が落ち葉を巻き込み、球体となって一気に膨張し、破裂した。層をなす樹々の枝葉が土や落ち葉の塊に弾き飛ばされ 所々に夜空が垣間見える穴があいた。そして軍馬の着地点に近い数本の木々が、根こそぎなぎ倒され、人間がすっぽりと入りそうな深さの土のクレーターができていた。アロマと獣人の少年も衝撃波にあおられ、数メートル余計に遠くに飛ばされていた。アロマは運よく木々にぶつからずに地面に落下し、獣人の少年は、卓抜した運動神経で飛翔途中にあった樹の幹に捕まり、難なく着地していた。

 舞い上がった大小様々な土や枝葉の雨が音を立てて降りしきる中、アロマが呻きながらも、右腕を地面に突いて即座に体を起こすと、軍馬の様子を窺う。そして、直ぐにその異変に気が付き、叫び声をあげた。

「乗り手がいないわ、探して!」

 アロマが警告を発するや否や、緑の層を天辺から粉砕していく音が再び鳴り響く。音の発生源は、アロマの斜め前方——。

 獣人の少年の、真上から響いていた。
 
 恐怖で少年の下半身から力が抜け、片膝が落ちる。虚空を仰ぐ獣人の少年の、黒目の大きな左右の眼が恐怖に見開かれる。そして、頬のあたりの、体毛が無く肌が露出したわずかな領域が、蒼白に染まっていく。

 次の瞬間、粉々に砕けた枝葉を下方に噴き飛ばし、白き煌めきを放つ魔法銀の全身装甲に身を包んだ巨躯の騎士が、両手で構えた剣の切っ先を大地に向け、少年の真上の空間に姿を現していた。

「逃げて!」

 アロマの絶叫と同時にローブの下の細剣の柄を掴むと、途端に細剣が鞘ごと淡い白のオーラを帯び始める。アロマがその完了を待つ間もなく、居合の如く細剣を抜き去り、右手から放つ。甲高い風切り音が一瞬すると、白き閃光が一直線に二人に向けて走った。

——衝撃波で再び空間が飛び散った葉と枝で埋め尽くされた。

——木の葉の幕の向こうから、騎士の勝鬨が響いた。

——声を枯らした女が、両膝を落とした。


 森は、束の間の静寂を迎えようとしていた。







〜2015/07/07〜
発作的に、メクチのイメージをゲームのキャラメイクで再び作ってしまいました。。。(参照)
ホント病的な発作みたいだ。。。

アクエリオンOPカラオケで歌えるようになりたい。。。。ってことで聴きまくってる。。。(突然なんだコイツ)

〜2015/07/04〜
あんなに大きな物体が着弾したのに、土埃が無かったり、穴があかないのはおかしいですね。。。。(恥)
ということで追加しました。。。


〜2015/07/04〜

 最悪な形での戦闘開始です。

 相手は元々は通常の騎士にして、甲冑もオーラ抜きで書いてましたが、やっぱ相手がアロマだし。。。。

 頭に"聖"の字付くくらいの階級じゃないとねぇ。。。

 ユニオナ騎士団vsウェルリア王国騎士団をタイマンでやるのかみたいな様相になるのかどうかは、次回のお楽しみに。。。


 まぁ、アロマ強いしね。。。。(ぇ?)

AsStory /予告用短編『二人の精霊王』(参照壱萬感謝! ( No.256 )
日時: 2015/12/14 02:36
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: BLMhacx0)

 虚空に舞い上がっていた樹々の枝や葉はほぼ全てが地面に落ちたが、依然として土埃と黄色い光を放つ正体不明の霧がミダの女性斥候と空から降ってきた騎士を隔てる虚空の視界を遮っていた。
 漠々とした霧がかった風景の向こうに映る、前傾姿勢で腰を落とした大男のシルエットは、愛馬との完璧な連携、標的の急所への数分違わぬ一撃を見舞わせたことで、自己陶酔に浸り、しばし身動きするのを忘れているかのように見える。女性兵士は銀の細剣を放つ瞬間、簡素な防御の魔導壁を発生させる力を篭めていた。白兵戦の時に盾代わりに使う、魔導の入門編のような代物である。だが彼女は魔導士ではないため、そのような魔導でさえも時間が無かったために、魔導壁に十分な耐久性を持たせることができなかった。圧倒的な騎士の破壊力の前では地面を覆う落ち葉の如く木端微塵にされてしまったのだ。

 注意を視線に戻すと、動いていないのは騎士のシルエットだけではなかった。光の靄も凪ぎ、森の樹々も枝葉を微動だにさせていない。
 仲間を、高々14、5の、兵士としては若過ぎる少年を、目の前で、己の警戒が甘かったばかりに、あのように情け容赦なく殺され、女性兵士の心がこれ以上時間の流れに乗り、先の世界を目の当たりにすることを拒絶していた。

 空から降ってきた騎士が、真っ先に次に狙うのはわたし。もう一つの剣を抜け。

 心の隅の隅に微かに残っていた理性があるじに叫んで警告を発するが、体が全く言うことを聞かない。

 わたしよ、いかれ。仲間を殺されたのだぞ。
 
 あの子を殺したのはわたし。私があの音を聞いたときに、もっと機敏に対処していれば。もっと力があれば。

 残された木剣の柄を右手で握りしめるが、その力は剣を振るうために使われなかった。悔恨の念をその一点に集めるように、ただひたすら柄に力を篭めている。

 数メートル先の靄の向こうから低く呻く声が地を這うように、アロマの方に響いてくる。この時の彼女には全く気付く余地がなかった。向こうから響いてくる声が、凡そまともな人間の発する声とはかけ離れた、野獣の如く喉を鳴らすような音であったことに。

 死ぬ気なの?!アロマ、剣を!

 内なる声に応えず、女性兵士はじっと柄を握り絞め続けていた。光の靄の向こうから、更に荒れ狂う野獣の|漢|ほうこう|が大地に響く。

 わたしよ、剣を——!

——助けて。

 か細い声に即座に荒ぶる唸り声が覆いかぶさる。呆然自失の中、幻聴かと思った。だが、思い直す間もなく、それが紛れもない現実であることを確信した。

「助けて、アロマ」

 今にも泣きそうな声で、彼女を先導していた時の逞しさ溢れる雰囲気はなりを潜め、裏返った声が彼女の名を呼んだ。

 女性兵士が息を止めた。剣を握り震えていた右手から、ふと力が抜けた。半ば閉じていた左右の瞼がしっかと押し上げられ、大きな瞳が再び靄の黄色い光を全体に浴びた。左膝が持ち上がり、落ち葉と枝葉の欠片で埋め尽くされる地面を足の裏が静かに捉える。

 声を発して、騎士の注意をこちらに向けるなどと、そんなうすのろなことはしない。

 左手がローブの裾を掴み、失われていた力が全身にみなぎる——。

 次の瞬間、名残りに2、3枚の葉を舞わせて、女性兵士が光の向こうに姿を消していた。


 総毛立つような唸り声で獣人の少年は意識を取り戻した。そのまま気絶していたほうが、殆ど戦闘の経験のない斥候兵にとって良かったのかもしれない。だが、運命を司る神はそれを良しとしなかった。しゅは、少年とって死よりも恐ろしい時間を与えたのである。

 瞼を開ける前に少年の五感が、今自分が仰向けになっていることを伝えてきていた。不思議と痛みがない。自分は死んでしまったのだろうかと、眼下に広がる世界を目の当たりにする前に己の心に問うてみた。が、己の心が答えを返す代わりに、先の唸り声がすぐそばで聞こえた。一度目は朦朧としていたので、漠然としか聞こえなかったが、二度目の声は、その高さも、大きさも、そして発生源の位置も正確に把握したつもりだった。あの甲冑の騎士は僕の足元の方で自分を見据えて立ちはだかっている。そう思ったからこそ、少年はすぐに左右の瞼を開けたのである。
 
 ところが眼球の前面を覆う獣人特有の大きな瞳に真っ先に迫ってきたのは、白きオーラを放つ両手剣の先端、そして少年の視界を覆い尽くすように屈みこむ全身甲冑の騎士。平らな何かに全身を押さえつけられ、胸の真ん中で左右の掌を重ねて仰向けになってい少年は、寝返りどころか足や頸を一寸たりともあげることもままならない状況が、彼の恐慌に追い打ちをかけた。

 少年はなぜ剣の切っ先が己の顔面の寸前で止まっているのかの理由も考える余裕もなく、声を上げようとしたが、全身が恐怖で痙攣して殆ど声が出なかった。そうしている間にも、見えない何かを隔てて少年の顔面の真上では、白銀の騎士が、人とは思えぬ唸り声をあげて両手剣を高々と天に向けて持ち上げている。顔面と頭部をすっぽりと覆う兜の中ほどに細長く開けられた覗き穴の奥に、周囲の光を呑みこまんとばかりに邪気の闇が待ち構えているのが一瞬、見えたように思えた。

——人間、じゃ、ないの?

 甲冑を軋ませ、両手剣を下向きに握りしめる左右の拳を頂点に掲げた騎士が、一段と音圧をあげて雄叫びをあげ、少年の詮索を恐怖で粉砕した。

「助けて……アロマ!」

 己の最期を俄かに実感した少年が、咄嗟に脳裏に浮かんだ人の名を叫んだ。いつか王国の騎士になることを目指していた彼が、どこぞの馬の骨ともおぼしき女の名を呼んで最期を迎えるなど、想像だにしないことであった。

 少年の目に映る風景は瞼の裏から噴き出るもので滅茶苦茶に歪み、断罪の剣を振りかざす甲冑の執行人の姿が無数に分裂した。それでも尚、天高くそびえる剣の切っ先が己の眼窩を貫く瞬間まで、少年は見えない何かを押し退けようと、狂気の叫び声をあげて、何かと己の胸の間に挟まれた左右の腕に全身全霊を込めて足掻いた。最期の瞬間ときがくるまでの数秒、否、1秒が何十倍にも長く感じられた。

 狂気の最中さなかに止めを差されれば、少年を容赦なく襲うであろう死の苦悶が多少紛れるかも知れなかった。

 だが、またしても、神はそれを許さなかった。

 少年の運命に終止符を打つ瞬間は遂に、おとずれなかった——。

 騎士が両手持ちの銀の剣を持ち上げたまま、雄叫びをあげたまま、図太い両腕をわななかせて、固まっている。少年の小さな体躯の中で起きた刹那の嵐が、絶頂をやや越えたとき、その丸い耳が銀の騎士の異状を察知していた。騎士が一番最初に現れたときの、飢えた野獣のような喉鳴り以外に、別の音が混じっていたのである。

 人間の声。

——男の人の声だ。

 頭上の騎士が、剣を振り下ろそうとしているのを、水際で押しとどめている。聖なる甲冑の内側で、激しいせめぎ合いが起きている。少年が本能的にそう感じたとき、彼の胸に水を打ったような静けさが広がった。


 程なく、静寂は破られた。

 ほんの一瞬の出来事だった。

 白銀の甲冑に守られた巨躯が、突如、少年の頭の向こうに吹き飛ばされた。


 間髪入れず入れ替わりで少年の目の前に、漆黒のローブの裾と、細い右足側の革靴が見えたかと思うと、音もなく騎士の飛んでいった方に飛び去っていった。

 少年は息をするのも忘れて、何も無くなった空間を眺めていた。


 突然前につんのめった姿勢で3、4メートル前方に突き飛ばされた騎士が、枝と葉の破片の積もる地面に衝突する間際に、猛然と雄叫びをあげながら体を右に捻った。一瞬体の下側に回った左肘の甲冑が地面を削り、弾き飛ばされた木片と葉が、真横を向いた騎士の目と鼻の先を下から上へと舞い上がる。そして一段と大きな声を張り上げ、仰向けになりながら地面すれすれのところを滑空しながら右手に握りしめる銀の剣を左から右に振りぬこうとした。

 よりによって大陸最大の規模を誇る軍の聖騎士を背後から襲うなどという愚か者には、然るべき死に様を与えなくてはならない。この騎士の剣には、刃の切れ味を強化するための魔導が、そして甲冑には重量を軽くするための魔導がかけられており、彼を背後から襲った愚昧な刺客の胴体を目にも留まらぬ速さで一閃し、胴体と足に両断するのである。

 フルフェイスの兜の前面中ほどの高さに、水平に開けられた細長い二つのスリットから通してみる光景に、漆黒のローブをはためかせて飛翔する盗賊の様な出で立ちの女が、己が体躯に飛び乗ろうとする瞬間が映し出される。皮肉にも騎士が獣人の少年に真上から飛びかかったのと丁度同じ体勢である。女の靴が騎士の甲冑に振れる直前、女が鋭く低い声で掛け声をあげるのとほぼ同時に、騎士の右手が身の程知らずな女の刺客の体を、想定と全く違わぬ軌跡を描き、体の右側へと振りぬけていった。

「なに?!」

 兜の内側で、騎士が勝利の喊声ではなく間の抜けた声をあげる。男が我に返った時には、既に背中の甲冑が地表の枝葉をかすめていた彼の体躯が、ついに高度0となり、数秒間、枝葉と土埃を盛大に巻き上げながら地面にのめりこんでいった。頭部は全面を兜で守られていたものの、不時着している間に、地面に喰いこんでいた小さな岩や図太い木の根に強かにぶつかり、危うく意識を失うところであった。

 果たして、眼前の女の胴と足は、血飛沫をあげて真っ二つになることはなかった。騎士の体が深々と地面を抉り完全に停止すると、ぴたりと騎士の体に付いていた女が、彼の心臓の真上の当たりに右足を置き、左足は腹のあたりに、そして右手は真下に下ろし、その先に延びる木製の剣の切っ先を兜と胴の甲冑の間に見えるわずかな喉笛の皮に食い込ませていた。






〜2015/07/14〜
久しぶりにECの第1話読んでみたら、懐かし過ぎてマジで泣きそうになってしもうた。。。。。
もう一回EC再開しないかなぁ。。。。。(溜息)


〜2015/07/12〜
ここ最近、お気に入りのゲームの次回作の体験版に現を抜かして、殆ど書いてなくてこの体たらく。。。。
今日から(少〜〜し)気持ちを入れ替え、執筆に戻ります。。。。


〜2015/07/10〜

アロマ反撃開始です。。。。

にしても、今に始まったことじゃありませんが、話の終わり方がワンパターンで困る。。。。(激悩)

大会期間中に1回は更新掛けられたので、もういいや。満足。。。(ぉぃ)


さて、今日はこれからオーケストラのコンサート行ってきます!
。。。といっても、曲目がFFだったりロマンシングサガだったり、往年の、特にスクエア(スクエニじゃないよ)系のゲームミュージック中心のコンサートです。

どれほど待ち遠しかったことか。。。(涙)


じゃ、行ってきますっっ!


AsStory /予告用短編『二人の精霊王』(参照壱萬感謝! ( No.257 )
日時: 2015/12/14 02:44
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: BLMhacx0)
プロフ: http://fast-uploader.com/file/6993659407797/

 騎士もまた、先の少年と同じく、全く予想だにしない最期を迎えようとしていた。だが騎士は、恐怖に声をあげることはせず、無様にのたうち回る己が心臓と呼吸を鎮めることに専念しようと深く息を吸い込もうとした。ところが胸の装甲が大きくに凹み、騎士にそれをさせなかった。戦神の祝福を受け、巨獣に突撃されてもびくともしないはずの聖騎士の鎧が凹むなど、騎士の動揺は収まるどころか一層拍車がかかる。のしかかる人間の重さも異常なまでに重い。騎士の動揺が極致に達したのは、男が悪あがきで銀の剣を右手で振り回した時だった。右手がすっぽ抜けたような感覚に陥る。体の上の人間は無言のまま一歩も動いていなない。はっとして騎士が右手を戻し、兜を傾げて細長い視界を剣に向けると、銀の剣の刀身が根元近くから切断されていた。

 限界まで開かれた瞼を閉じることはままならなかったが、できるだけ呼吸を静かにして、徐に兜を上に向けた。己を襲った「盗賊」の面をこの時初めてしっかりとまみえていた。暗がりでも仄かに光沢を放つ、薄青色の髪を左右に垂らし、そのあいだに挟まれている小さな顔は、冷徹さと激情に覆われていた。騎士は命乞いなど名誉にかけてするつもりもなかったが、もしどんな条件を出したとしても、この者は意にも留めることが無いように思われた。

 男の全身から冷たい汗が一気に噴き出す。身のこなしのしなやかさ、あの気迫、目つき…。どうして、聖騎士の甲冑が凹まされたのか。

 騎士が静かに瞼を閉じ、背後から突き飛ばされ今に至るまでの、途轍もなく密度の高い30秒足らずの過去を振り返ってみる。頭上の女は、未だに沈黙と静止を続けている。随分とした余裕だ、盗賊如きめ——。

 久しく相見まみえることの無かった生命の危機、それをも覆い尽くそうとする名状し難き胸騒ぎを掻き消さんとばかりに己が胸の奥で吠えてみるが、ますます心の水面は波立つばかり。それでも悪足掻きに文句を絞り出そうとしたその時、聖騎士が脳裏をぎるものを感じた。胸中の波が急速に鎮まってゆく。まさか。

 魔法銀の面のスリットの奥から、激情に揺らぐ二つの瞳を黙って見つめる。

——やはり、そうなのか。

 再び、漆黒のローブの女の瞳を見据え、その奥に深紅の焔を見いだすと、聖騎士は己の犯した大きな思い違いを胸中で恥じた。

——それが矜持。それが名誉と剣に命を懸ける我々の矜持。

 最期の言葉を聞き届け、一突きで止めを刺す。それをあの女は、貫こうとしているのだ。

 俄然、騎士の全身から強張りが抜けていく。そして瞼を開き、再び頭上の女に刺すような視線を向ける。ゆっくりと、騎士が口を開いた。

「喉を突け、女。私は命乞いなどするつもりはない」

 騎士が動揺を相手に悟られぬよう、殊更声に毅然さを篭めて言い放つ。だが漆黒のローブの女の表情も剣も微塵も動かなかった。

——死を前に、絶対に動揺を見られてはならない。

 下賤な盗賊風情に舐められないためではない。

 私が聖騎士であるがだけではない。相手もまた——。


「騎士に止めを刺されるなら、本望」

 ローブを纏う女性騎士が、その氷のように冷たき眼を、微かに眇めた。

 それを見て、騎士が言葉を続けようとすると、不意に声が呻き声に変わった。あの不穏な喉鳴りが一瞬響く。すると、アロマの後ろの方で、騎士の右足がまるでそれだけが別の生き物であるかのように痙攣し、のたうち回っている。すぐに騎士の上半身も震えが伝播し、大地の魔導で体重を倍に増したアロマをものともせず、左右に揺れ始めた。

 騎士の右腕が人間離れした敏捷さでアロマの左足首を掴もうとするのを、アロマが間一髪でかわし、騎士の体躯の左側の地面に飛び退いた。

「竜の呪いが・・・はやく!わたしに、止めを・・・」

 騎士が、兜のスリットの奥から血走る二つのまなこをアロマに向け、叫んだ。左右の手で地面にしがみこうとすると、白銀の甲冑の内側で隙間無く膨張した両腕の筋肉が尋常ならぬ力を発揮し、地面に押しつけた左右の手が手首まで埋まる。騎士とは別の意志が手を地面から引き剥がそうと逆方向に腕を動かそうとする力とせめぎ合い、腕が上下に小刻みに震える。

 アロマが暫しそのさまに立ち尽くしていたが、すぐに右手の拳に力を込めた。

 竜の呪い。

——やっぱり、もうドラゴンが動き出している。

 アロマが左右の目を細め、足下で震える騎士の兜のスリットを見据える。暗闇の奥で小さな輝点がアロマの方を向いて瞬いた。それを見て、アロマが瞼を下ろすと、木剣の切っ先を天に向けて胸の中央に掲げた。

 そして雑念を排除するべく、彼女が仕える国王への忠誠の言葉を短く唱える。胸の中で言葉の余韻が完全に消えると、アロマが小さく息を吸い、瞼を瞼をしっかと開き、両足に体重をかける。そして木剣の柄を両手に持ち帰ると、騎士の体躯の一点を睨みつけたまま一気に剣を上段から振り下ろした。漆黒のローブが音をたてて舞う。

 一瞬、騎士の呻く声が響き、甲冑に覆われた四肢が小さく跳ねた。

 沈黙を守ったまま、アロマがユニオナの騎士の傍らで姿勢を正した。表情は全く変わらない。そして剣を構える前と同じように、兜の真ん中の二つのスリットを見つめた。ローブの女の足下で、脈打つように激しく息が切れる音がしている。

 騎士がまだ生き長らえさせられたことで、眼前の騎士に激しく失望し、怒りにまかせて掴みかかろうと体をよじらせたが、右足に力を入れた途端、全身に電撃のような激痛としびれに襲われ、地に倒れ込むのを余儀なくされた。騎士は己が足を見ることすらままならないだったが、彼の経験が右の脛が折れていることに気付くと、暫し痛みを忘れ愕然としていた。それはつまり、聖騎士のみ身につけることが許された白銀の鎧の脛当てが、得体の知れない木剣に破壊されたということに他ならなかったのである。

——竜の呪いは、生身の人間の能力を高めることこそすれど、戦神の祝福に守られた聖騎士の装備は逆に蝕まれている。

 それに気付くと、騎士が歯を食いしばり、細長い世界の向こうに見える蒼き双眸を見つめた。


 足下の騎士が味あわされた屈辱が如何程のものか、騎士が恥と怒りでどれほど顔を歪めているか、たとえ相手が兜で面貌を覆っていたとしても、一国の騎士団のナンバー2という重責と昔ながらの男中心の環境で、潰されまじと自身の限界を超えて気炎をはいてきた女性騎士にわからぬはずがなかった。

 それでも今彼女は一介の斥候。加えて、人ならぬ力を得て変貌してた騎士を目の当たりにしたからには、騎士の名誉を潰してでも訊き出さなくてはならないことがあった。

「二つ。質問に答えなさい」騎士は沈黙したままだったが、アロマが言葉を続けた。

「貴方たちの目的は何?ミダの部隊を潰すこと?それとも、アーク・ドラゴン?答えれば一瞬で逝かせてあげるわ。答えなければ、その代償は左足——今度は絶ち切るわ」

 肉を裂き、骨を折った鎧が露わになった無数の神経に触れる痛みが、直ぐに引くはずもないのに、騎士の呼吸が俄かに落ち着きを取り戻してきた。

 沈黙が続く——。

 四肢を拘束しているわけでもないのに、抵抗する素振りも見せない。

 兜のせいで足元の男の表情が読めない。
 アロマの言葉は伝わったているはず。そして、彼女のこれまでの態度を見て、言ったことは必ずするということを男は理解しているはずだった。

 男は呼吸だけではなく、身じろぎひとつしなくなっていた。表情はわからないが、男の刺すような視線だけは痛いほど感じる。そして劣勢にもかかわらず強くなり続ける気迫も。

 足をへし折られた激痛のショックで、まだ混乱から抜けきれないのだろうとアロマは踏んでいたが、騎士の立ち直り方は彼女の予想をゆうに超えていた。

 アロマは気付くはずもなかったが、皮肉なことに、騎士が漆黒のローブの中から否応なしに横溢する彼女の凛然たるオーラに触れ、錯乱しかけていた彼の心が、聖騎士という高みにまで引き戻されていた。

 軍の情報は命に代えて漏らせない。なまじ生き延びても、また竜の呪いに呑まれるだけだ。騎士としての意識があるうちに死ぬのだ。

 その為にこそ漆黒のローブの騎士は導かれたのだ。


 彼女の歴戦の記憶が、吐き気のするような幾つもの映像を引き出していた。戦場で華々しい最期を迎えることができなかった敗軍の騎士に待ち受ける、双方の理性が破壊されるような、おどろおどろしい状況。

 アロマは表情にこそ出さなかったが、全ての腸がもみくちゃにされたような感覚に陥りかけていた。

 次の一撃の準備をするふりをして、右手の木剣を力の限り握りしめる。ミダの命運はわたしに懸かっている。
 
——やらねば。

「どこまで持ち堪えられるかしら?」

 脅しかけるように右足の折れた部分を力の限り強く踏みつける。騎士はわずかに声を漏らしただけだった。

 アロマが左足の甲冑の膝の下の当たりに、左足をのせて押さえつける。

「二つとも足を失えば、戦場に立てなくなるわね。その方が後々まで騎士の名誉に泥を塗るんじゃないかしら?」

 騎士は動かない。

「国のために両足を失った。一時はそれで仲間からも、国王からも尊敬の眼差しを向けられるかもね」

 アロマが右足の時と同じく、木剣の切っ先を天に向け、柄を胸の高さに掲げた。横目で騎士を見下ろす。

「でも、いつまでも前線に立たずに、あなたの世代の騎士が、城内でふんぞり返ってる様を、いつまで周りは許してくれるかしら」

 目線を戻し、柄と刀身の境目を見つめ、静かに目を閉じる。

「そんなのが、騎士なのかしら?今ここでしゃべったって、私はあなたの名前を出さない。あなたの名誉は保たれる。折れただけの片足を治すだけなら復帰も格段に早い。戦神の祝福を受けた聖騎士ならば、次の戦までには殆ど回復しているでしょうね」

 アロマが左右の瞼を持ち上げる。「最後のチャンスよ。ユニオナの部隊の標的は何?」

「アロマ!」

 不意に、獣人の少年の声が後ろから聞こえてきた。眼前で繰り広げられる二人のやりとりを、固唾を呑んで見守っていた、というよりは、呆然として見ていたのだが、少年の耳が再び凶兆を捉えていた。

「また、騎馬が跳躍する音がした!」

 アロマが瞠目し、足元の兜を睨み付けた。罠だ。挟み撃ちにされる。アロマが男の左膝下にのせていた右足を胸の上に移動させる。狙いは騎士の喉元。もはやこの男を生かしておく時間はない。
 ローブを羽織る両腕が高々と天に向かって持ち上げられた。


 跳躍した騎馬の騎士は、恐らく聖騎士である彼の部下だという考えが、騎士の脳裏でよぎった。彼自身がそうであったように、竜の呪いが発現している間は、人知を超えた、魔導ですら実現不可能な身体能力を有し、加えて緑に覆われた下の大地に標的がいたとしても、それらの居場所が手に取るように見えてしまうのだ。

 ローブの騎士が男に止めを刺してからでは、彼女が第2波の攻撃を凌ぐ準備が間に合わない。

 不意に騎士の左右の拳が大地を掴み、胸が張りだされた。

「白帝号!ローブの騎士を——」

「させない!」

 騎士の不審な動きに、アロマが反射的に彼の喉元めがけて木剣を勢いよく振り下ろした。

「守れ!」

 二人の世界から、刹那、音が消えた。

 刀身の起こした風に巻き込まれた数枚の落ち葉が、低く虚空を舞い、音もなく地面に降りた。

 二つの声が止んだ時、木剣の刃が騎士の喉の右側面に深々と喰いこんでいた。

 刃が標的に接した瞬間に火焔の魔導を発動するはずの木剣が、沈黙を守っている。

 甲冑の胸板に膝が触れるほど踏み込んだローブの騎士が、その清瞳を騎士の首ではなく、二つのスリットに向けている。

 古びた木剣が、聖騎士の喉の皮を切り裂くことはなかった。







〜2015/08/02〜
いい加減なコメばっかり更新してましたが、久しぶりに本文更新しました〜〜。
 つい、「本文」じゃなくて「本編」と書こうとしてはっとした。。。

 これって、予告用の「短編」なんだよな。。。。

 全っっ然終わらない。。。。


〜2015/07/29〜
最近夜も暑過ぎて、全然書く気になれない。。。。
ってことで。。。。気分だけでも涼しい、というか冷えそうな感じの曲をアップします。。。
 ちょ〜っと耽美な歌です。みんな寝静まってから、物凄く静かな環境で最後の一音までじっくり聞く気持ちで臨んでもらうのがお勧めです。。。
 たぶん好き嫌いはっきり別れると思う。。。。。
西村 朗 作曲『秘密の花』より『髪』

はやく続き書かなきゃなぁ。。。。


〜2015/0727〜
 クライマックス直前で細切れになってしまい、で申し訳ないです。。。。

 ところで今日、ワタクシメの○○○!(伏せ過ぎ)
 おかげさまで◆△歳になりました〜〜〜(超焦)
 祝っとくれ〜〜〜


〜2015/07/23〜
何も更新してません。。。。どんな展開にするか、思い浮かばない。。。
なんか、自分の本心が分からなくなってきた。。。。(沈鬱)


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