二次創作小説(紙ほか)

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AsStory /予告用中編 『二人の精霊王』
日時: 2015/09/20 00:30
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 3qG9h5d1)

初めまして!
書き述べると申します。


 この作品は以前、シリアスのカテゴリーだったのですが、第七話からはこのサイトに投稿されている他の方の作品の内容を混ぜ込ませていただくことになりましたので、このジャンルに引っ越してきました!

カキコ内二次(合作じゃないですよ)……結構珍しい様な気もします。

混ぜ込む作品は——
『Enjoy Club』(作:友桃様)
です!
そして
『ウェルリア王国物語』(作:明鈴様)

ぇ、二つもやって大丈夫なのかって?貴様のプロットどうなってるんだよって???

(黙殺。。。。。。)



1点注意していただきたい事が……。
冒頭でも触れておりますが、もともとシリアス・ダークの作品なので、そのカテゴリー特有の表現があるかも知れません。できるだけグロい表現は使わないつもりであはりますが……。


更新の間隔が2か月空いたりすることがよくありますが、寛大な御心で受け入れてくださいますと大変有り難いです!


【最新話直前の状況】

(現在修正中・・・・・)




【お客様(引っ越し前の方含みます)】
  アメイジング・グレイス様
  アサムス様
  友桃様
  通りすがりの者です。様
  (朱雀*@).゜.様



【目次】

◆◆ 序章 ◆◆

 1話 >>1

 2話 >>2-3

 3話 >>4-5

 4話 >>6-11

◆◆ 第一章 ◆◆

 5話 >>12-13

 6話 >>14-19

 7話 >>21-25

 8(1)話 >>29-31

 8(2)話 >>38 >>41 >>44 >>46 >>48 >>51 >>53 >>58 >>60-61 >>63-64 >>70-75

 9話 >>81-82 >>87-88

 9(2)話 >>90-91

 9(3)話『時空間操作システム』 >>95-96

 9(4)話『副長官、乱心』 >>98-100

 9(5)話『時間ときを越えて』 >>105-107

 9(6)話『地を駆る鳥』 >>110-114

 10(1)話『ひかり、在れ』 >>118-119

 10(2)話『幕開け』 >>129-132

 10(3)話『交錯する時間とき>>142-153

 10(4)話『混迷に魅入られし者たち』 >>160-166

 10(5)話『絶体絶命』 >>172-175

 10(6)話『PMC、対陸軍攻撃陣』 >>180-189

 10(7)話『突入』 >>192-197

 10(8)話『スナイピング』 >>200-204

 10(9)話『ひかり、在れ』 >>209-210 >>213-214 >>227 >>229-230


◆◆ 第二章 ◆◆

 11話『逃走』(更新中) >>232-239


〜〜小説紹介〜〜
『☆星の子☆』((朱雀*@).゜. 様) >>108
『Enjoy Club』(友桃様) >>109


書き始め 2010年冬頃
(もう3年経ってしまったんですねぇ)

〜〜予告用短編〜〜
『月光』 >>126-127

『二人の精霊王』 >>243-245 <<<<<<<<(現在作成中!)

〜〜クリスマス短編〜〜
『クリスマス・プレゼント』 >>217-225

〜〜キャラ絵〜〜
メクチ >>207
水希 >>208
水希(変装後) >>212


登場人物一覧
>>206 (リアルパート)
>>216 (ファンタジーパート)

〜追伸〜
ツイタやってる方。。。R18記事があってもOKって方は、ちょっとフォローしてやってくれませんか?? => @motto_e

あんまり呟かないですけどねぇ〜(ぇ?)

AsStory -キャラ絵アップ(棚妙 水希)- ( No.208 )
日時: 2014/09/14 15:49
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: WkkVAnf4)
プロフ: http://www.kakiko.info/upload_bbs/index.php?mode=article&id=3129

今度の話はちょっと長くなりそうなので、もう一人キャラ絵をアップします。。。。

今のところ完全にヒロインのポジションを独占している「棚妙 水希」です。。。
ツインテールが設定より結構短くなってしまってるのですが、そこはキャラメイクの機能の限界なのでどうかご容赦ください。。。。

あと、現在の話の中では変装のため髪の毛は真っ赤なベリーショート、瞳も真っ赤に染めて黒のジャケットにショートパンツ、膝丈のこげ茶のブーツをはいてますので、この画像のイメージでお読みにならないようよろしくお願いいたしますっっ!!

それでは、また〜〜〜!!

AsStory -第10(9)話 『ひかり、在れ』 ( No.209 )
日時: 2014/10/14 20:07
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: Vkpu3Lr3)
プロフ: http://youtu.be/wRKrAnc4XPU

AsStory 第10(9)話

〜ひかり、在れ〜

二〇一二年一月二十日 午前9時10分 ポイント駅付近——

 星の数では言い足りない程の戦闘を経験してきた。単に目の当たりにしたのではない。戦闘の当事者として、られる前に殺る、を文字通り実践してきた。無数の称賛と挫折に満ちた戦歴を礎とする男の不動の精神は、数分前に20メートル前方に見える、銀髪のゲルマンの少年に大きく揺さぶられた。更に今、国内最強の誉れ高き男の心は、陸軍の一介の兵士によって、大地震の中の吊り照明器具の如く上下左右前後に振り回されていた。
 ポイントから10メートル上流。建物の陰に身をひそめ、呼吸音一つたてずに様子を窺う新堂甲の左右の瞼は、興奮のあまり閉じることを忘れていた。
 拳銃で頭を撃ち抜かれても死なない人間。正確には、拳銃でも、ライフルにさえも頭を撃ち抜かれない人間だ。肉体の震えは不死身の敵への恐怖故ではない。新堂の小さな双眸が、草原で身を縮め、虎視眈々と獲物を狙う肉食獣の如き煌めきを宿していた。

——強化装甲兵。こんなところでお目にかかれるとは。

 陸軍が、撃たれても死なない歩兵を作り出そうとしているとの情報を初めて耳にしたのは、7年前。初めは誰もがデマだといって、どこの情報機関も究明する素振りを見せなかったが、1年前に突如としてラットを使用した強化装甲兵のテストモデルが関係機関に公開され、彼らの度肝を抜いたのである。

 頭蓋骨を人骨から最先端のセラミクスに入れ替え、マッハ5で飛来する電磁ライフルの弾丸をも防ぐ。被弾時の首への衝撃にも耐えるため、顎の付け根から肩口までの皮膚の内側に、新世代ケブラーネットを編み込んで強化してある。

 強化装甲の詳細が明らかになると、その余りにも荒唐無稽な実現手段は、人体への影響が予測不能と言うことで、再び世界の関係機関は件の発明を相手にせず、日本国防衛軍の黒歴史にしようとした。だが今、新堂の目の前には、確かに頭部への銃撃に耐えた人間の形をした強化装甲兵がゆっくりと、右、左とアスファルトを踏みしめ、首から下がどす黒く染まる巨躯を立ち上げようとしていた。

 最優先ターゲットにしている少年が、目と鼻の先で陸軍の化け物の左手に左足首を掴まれ、ウサギ狩りの帰路の獲物のごとく、こうべを地に向けて吊られている。少年が拳銃からダガーに持ち替えようと、ベルトの後ろに右手を伸ばすが、体をおもちゃのように振り回されて全く手が届かない。

 新堂が正面に抱え込んでいたMP5を構えた。少年の怒鳴り声に混じり、閃光手榴弾の衝撃から気を取り戻したらしい民間人の金切り声が聞こえてくる。

——突入のタイミングは……。

 陸軍の木偶を迂闊に攻撃して、あの少年が兵士の手から逃れるようなことになれば、新手のテロリストのしっぽを捕まえる千載一遇の機会を失ってしまうかもしれない。

 約2メートルの高さに宙づりになった少年が、大男にいいように振り回され続けながらも、卓抜した平衡感覚と柔軟性で、前後不覚に陥らないよう必死に堪え、反撃のダガーを引き抜こうともがいている。

——あの兵士に一瞬でも隙ができれば。

 少年なら確実に兵士の手から逃れられる、そう思った矢先。

 空気が震えた。

 後方から押し寄せる重低音の波動が、瑠璃色の襟に隠れた男の左右の耳を擦過した。
 建築物の影からわずかにせり出していた体を引き、川の上流の対岸を睨みつけ、再度ポイント付近に目線を戻し、そして再び後方を見やった。

 何が起きたのかは即座に理解していた。しかし何故起きたのか、皆目見当がつかなかった。
 ポイント付近に着弾した形跡はない。通信装置が使えない体たらくに、胸の中で考え得る中で最も卑しい悪態をついた。
 轟音の発生源であろうポイントから上流の方角を見やったが、巧みに部屋に仕掛けられた擬装で、部屋の中の様子まで伺い知ることはできなかった。一つわかっていることは、狙撃手はこの瞬間から移動を開始しているということだ。居場所がさらされている狙撃手ほど命が危ういものはない。稲森は手練れの狙撃手であるから、必ず待機位置を変えてくる。そして何らか形で準備完了の合図を送ってくるはずだ。今から数分間は——2、3分程度ならよいのだが——後方支援がない。

 銃撃の残響が鳴り止まぬうちに、今度は駅前の方から、下腹を揺るがすような悲鳴が響いてきた。今度の悲鳴は新堂が待ちわびていたものだ。身を翻して建築物の影からポイントの方を窺った。
 

 少年は未だに何が起きたのか理解できずにいた。だが、運よく銃声のようなものが化け物の軍人に隙を与えたおかげで、ナイフ抜き、己の左足を掴んでいる方の腕に一撃を加えて窮地を脱することができた。
 大男が土気色の顔をして、ナイフで抉られた腕の傷口を抑え込んで立ち尽くしているのを尻目に、少年が機敏に運び屋達のほうに向きなおるやいなや、銃声のした方角から自分の名前を呼ぶ声がする。思わず声をあげて振り返り、目に飛び込んできた光景を見て全身が凍り付いた。

「みず——」少年の声を遮り、数十メートル向こうから警備員風の女性と灼髪の少女が、悲鳴を上げた。

「ウィル!」
「後ろ!」
 
 え?少年が振り返ろうとすると、件の軍人と同じ制服を着たやや小柄な男に背後から腕をまわされて羽交い絞めにされた。さらに背後から、意識を取り戻すなり目を疑いたくなるような光景をひっきりなしに見せられて、恐慌をきたした乗客たちの悲鳴が、界隈にこだましている。水希が女性警備隊員の背中から飛び降り、全身を駆ける激痛に顔をしかめながらも、意識を高めようとリーダの背後の軍人を睨み付けた。

「やめろ!水・・・希!」

 少年の声が聞こえていないかのように、少女は燃え上がる双眸を少年の後ろに向け続けている。

「僕・・・が、なん・・・とか・・・」

 軍人の太い腕が少年の白魚のような首を万力のごとく容赦なく締め上げる。
 青い瞳が重さを増す瞼に半分覆われ、少年の脳裏で黒髪のツインテールの少女が己の名前を叫ぶ声が激しく鳴り響いている。

 抜き差しならぬ情況に追い込まれた少女の脇から、今度は静が飛び出した。

——銃は撃てない。手錠も使ってしまった。でも体当たりでどうにかする!

 静が少年を羽交い絞めにしている軍人との距離を一気に詰め、掛け声をあげようとすると、片腕を切り裂かれてじっとしていた巨躯の軍人に不意を衝かれ、左脇から体当たりを喰らった。暫し地面すれすれを滑空して、背中と肩を激しくアスファルトにこすりつけながら進路の右側に逸れていった。

「なんで、警察がいやがる」

 地面に倒れこみ呻く女性警備隊員を目の高さに見据えながら、己も地面に飛び込んでいた名仮平が右手を突き、体を起こす。

「あの銃声はなんだ……」

「名仮平ぁ!」

 左側からもう一人の軍人の怒号が飛び、名仮平が己に迫り来るもう一人の気配に気付いたとき、彼の右顎に金属製のブーツの靴底が牙を剥いていた。双眸が針穴のように小さくなった顔面が右90度に傾き、立て続けに下からの一撃を喰らい巨体が海老反りになると、コンクリートの床に仰向けで泡を吹いていた。

 少年を人質に取っている軍人が唖然としているうちに、MP5をストラップで背中に留めている瑠璃色の人影が鼻先まで迫っていた。戦闘に居合わせた全員の盲点を知っているかのように、人影は20メートルという距離を誰にも気付かれることなくほぼ0まで詰めていた。
 皿のように見開かれた軍人の両目に、面貌が露わになった人影の右手のサミングが突き刺さった。左手で両目を覆いう身を屈める軍人から、人影が片腕で少年を引き離した。

「し、新堂。なぜここに」突如光を失った軍人が、両手で地面を探りながら辛うじて平衡を保っている。

「時空間移動法違反だ」

 目が見えずにうずくまっている男を軍靴で容赦なく蹴り倒す。

ついでに俺はお前を見も聞きもしないのに、呼び捨てとはいい度胸だ。誉めてやる」

 仏頂面をくずさぬまま言い終えると、仰向けにさせた男の喉笛を右足で踏みつけ、80kg近くある体重をじわりとかける。男が新堂の足首を掴み、つばきを盛んに飛ばしながら、くぐもった声で吠えたてた。

「閻魔様の前に引っ立てられたくなかったら、無駄な抵抗はするなよ」

 新堂が少年を掴んでいた手を放し、内ポケットから電気ショック付手錠を引っ張り出す。

「君もわたしから離れないように」

 命を助けてもらった恩を切り捨て、運び屋の元に駆け出そうとしていたウィルが息を呑んで新堂を睨みつける。青いジャンパーの男は優しく声をかけたつもりだったが、ウィルは否応なしに伝わってくる男の威圧に、己の情況が全く好転していないことを悟っていた。

——この人も僕を狙っている。

 重たい青のジャンパーの男の、隙のない動きと注意の払いように、ウィルは瞬間移動でも逃れられない不可視の網に捉えられている気がした。もがけば更に事態は困窮する。紺碧の双眸を瞼で塞ぐことなく、押し黙ったままその手捌きを観察するしかなかった。

 搬送手段がないため、拘束した男が強硬に抵抗をしないのを見届けたうえで、手錠の電気ショックを与えずに作業を終えると、新堂は右の傍らで身を固くして佇んでいる少年の左腕を掴んで引き寄せた。「これで君も安全だ」少年が露骨に己を訝るような視線を向けているのに気付いているのかいないのか、頑丈そうな白い歯を見せて微笑んだ。目が全く笑っていなかった。

AsStory -第10(9)話 『ひかり、在れ』- ( No.210 )
日時: 2014/10/14 20:12
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: Vkpu3Lr3)
プロフ: http://youtu.be/wRKrAnc4XPU

 張り付いた笑みの裏では、奥歯が歯茎に埋もれそうになるほどに歯ぎしりする、もう一人の新堂がいた。少年を拘束するために片手が塞がってしまった。できることなら、足下に平伏している陸軍の軍曹のように手錠をかけたいのだが、目撃情報が、20メートル離れた位置の建物の影から見ていたというものだけでは、現行犯で拘束するには、あまりに証拠が弱かった。普段なら警察の強権を発動して、無理やり捕まえる手もありだが、なぜか今日に限って警察と足を引っ張り合っている陸軍の野郎がそばにいる。ここで証拠不十分で民間人、しかも未成年を拘束すれば、不祥事が100倍に膨らんで流布されるに決まっている。

 そしてもう一つ厄介な事態が発生していた。小学生でもわかるような単純な計算が新堂の脳内で狂い始めていた。時空間走査システムには、42個の反応があり、それらは空間的に2個の点の集団が2つと1つの38個の点の集団に分かれていたはずだった。だが今、彼が目の当たりにしてる現実は、彼と同じ時代の軍人が2名と、走査システムによって氏名と容姿まで確認済みの運び屋が2名、そしてこの時代の技術力では到底再現不能な挙動を示す少年が一人、そして隊長の命令に背き、1,000m向こうからのこのことやってきた似非隊員が引き連れてきた、件の少年の仲間と思しき少女を男に突きつけてきた。2名勘定が合わない。

 少年につかの間見せた下手くそな微笑みから一転、いつもの彫像のごとく冷たく動きのない表情もどった新堂の脳裏では、6名の顔写真がひらひらと乱れ飛んでいた。

 38名の集団から二人がここに送り込まれてきたということなのか。この時代の時空間犯罪者等の本体であろう38名の集団が我々の動きを察知し、動き出したと見るべきなのか?

 本来の標的である2つの2点として検知された時空間犯罪者を差し置いて、姿の定まらない2つシルエットが、新堂の意識の中で俄然存在感を増してくる。

 件の2名が己の足下に蹂躙している軍人らなのか、或いは正体不明の少年と少女なのか。新堂の周囲から光が退いていき、闇に取り残された男の前には、ぼんやりと淡く白く三叉路が浮かび上がっていた。

——分岐路。運命の、分岐路なのか。

 どちらの分岐もその先は徐々に道の両脇から溶けていくかのようにぼやけていき、端は底なしの闇に呑まれていた。夜空の星の煌めき程度の光があれば、周囲の風景を鮮明に映し出すというスターライトスコープを以てしても、破ることのできない暗黒。奥から不審な呻き声や鬼火が聞こえたわけでも見えたわけでもないのに、ただの黒に染まった空間を目の前にして、現代の武人が戦慄した。

 どちらに向かったとしても、碌でもない未来。そしてその分岐は己が選ぶことができない。運命はおのが力と知性で切り拓くものだが、どうやらここではそれができないらしい。

 闇の中で男が瞼をぴしゃりと閉じると闇が雲散し、霧氷が漂う朝の駅前に戻ってきた。足下には曹長の徽章をつけた男が後ろ手に手錠をかけられて俯せになり、本オペレーションの相棒であろうデカブツは白目を剥いて、生命の維持が危惧されるような浅い呼吸を続けている。当分起きないはずだ。或いは二度と・・・。そして最後に新堂が右に注意を向けた。絶対逃がすまじと、左手首を捉えているゲルマンの少年は——。

 沈黙し、わずかに顔をうつむかせていた。新堂に向かい合うでもない、仲間の少女の方を向いているわけでもない、足掻くのに疲れて、ただ漫然と虚空を眺めているかのようにも見えた。そんなはずはない、と己の感覚を即座に一蹴した。陸軍の強化装甲兵をサバイバルナイフ一本で血祭りに仕立てたような人間が、1秒として無為に時間をやり過ごすはずがない。一秒、一挙手一投足に理由があるのだ。たかが数秒間の沈黙と静止ではあるが、この情況に置いては、歴戦の戦士にとって十分不自然な行動だった。

 そっぽを向いているのは少年だけではない。少女の方も目線を相棒から逸らしているようにも見える。目も唇も体も動かさず、お互いを見ずして如何にして意志疎通をとるというのか。半世紀も未来の世界の人間にも、少年少女に残されたもう一つの交信手段に気づくことはできなかった。

——水希、聞こえるか。
 
 沈黙が続いた。少年がわずかに瞼を落とした。だが、これも少年の予想の範疇だった。できることなら自分の左手首を掴んで離そうとしない警備員風の男の右手を離させるために、水希を動かせるだろうかと考えたが、まだ早すぎた。自力だけでこの状況を打開しなくてはならない。

 ウィルが、男に気付かれないように水希を一瞥した時、水希が痛みに顔を顰めて、左手を左の肋骨のあたりに当てていた。そして、2,3回呼吸をすると、左手を下ろしていった。ウィルが瞬きを止め逡巡した。気のせいだろうか。偶然タイミングが合っただけか。

 ウィルが少女の横顔が視界にギリギリ入るあたりに顔を向け、思念を集中させた。

——水希、聞こえるか。

 一呼吸おいた後、水希が再び顔を顰めさせて、左手を胸に当てると、しばらくして手を下した。確かに、聞こえている。

——水希、僕がナイフを抜いたら、包みを持っていえる二人組のところまで走れ。包みを受け取れたら受け取ってくれ。

 水希が先ほどよりもゆっくりと、いかにも痛みが酷くなって、腕を上げるのも辛いといった様子で、左手を左胸に当て、ぎこちない動作で左手を下していった。

——水希、続きだ。、包みをもらえても、手間どってもらえなくても、そのまま川沿いの道路を走って離脱して。その混乱に乗じて、僕がこの男の手から逃れる。あとは僕が能力でフォローするよ。

 水希の手が動かない。

——水希?

 ウィルがう危うくめき声を出しそうになり、奥歯を噛みしめ踏みとどまった。

——水希!僕の指示を聞いてくれ。このままでは何もできない。お願いだ、水希!

 霧氷が地面に舞い降りるよりも静かに、水希が瞼を閉じた。彼女の左手は動かなかった。勘付かれたのだ。この指示の不確定要素に満ちた部分に。

——僕はどんな手を使ってでも、ここから逃れる!絶対だ!

 鼻をすする音が聞こえた。少女が唇を噛みしめ瞼を下ろしたまま、左手を拳で固めて胸に当てた。

——ありがとう、みぃちゃん。

「スイレン、女の子の身の安全を確保しろ!」

 ウィルの安堵の気持ちを見透かしたように、左から怒号が飛んだ。水希が咄嗟に身を翻すと、スイレンと呼ばれた女性警備隊員が、両手を宙に泳がせて呆然と立ち尽くしていた。

「え、身の安全って、今あの子は安全……」

 女性警備隊員が要領を得ない事を言っている間に、水希が地を蹴った。ウィルがサバイバルナイフを引き抜いた。順序は交錯したが、要は相手に隙を作らせられればいいのだ。

「とにかく……」

 新堂の言葉に割り込むように、人間離れした速さで襲いくるナイフの一撃を、人間離れした反応で防いだ。右手首の前に突き出した左のジャンパーの袖に、ナイフの刃1〜2cmほど埋まっている。完全武装していなかったら、少年の動きを一部の隙もなく監視していなかったら、確実に右手が切断されていた。

「捕まえろ!スイレン!」

 部下の悲鳴をねじ伏せるように、怒号を飛ばした。それを呼び水に、再び改札の奥から何人かの悲鳴が響いた。

 ジャンパーからナイフを抜いた少年の、二撃目が襲い掛かる。今度は斜め下からジャンパーの左の裾とアンダーウエアの隙間を狙ってきた。新堂が体勢を低くして、再び左腕でかばった。一直線に飛んできたサバイバルナイフが、堅牢なボディーアーマ—をわずかに食い破り、腕の肉に到達していた。だが男は少年の予想だにしない、いや、かすかに少年の瞼の裏をチラつきはしたが、まさかしないだろうと思い込んでいた行為をそのままに再現しようとしていた。

 新堂がナイフの食い込んだ左腕を、傷口が抉られるのもお構いなしに、思い切り上に引き上げる。少年が全体重をかけて食い下がろうとしたが、腕ずくでは勝負になるはずもなかった。少年の右手からナイフが引きはがされ、果敢に抵抗するもやがて男に両腕を後ろ手に締め上げられる体勢になった。少年が一歩でも動こうものなら自ずと脱臼するまでに肩関節を捻等れていたために、新堂は左手一本で少年の動きを完全に封じていた。

 水希は力の限り走ったが、健常者の足には全く歯が立たず、10メートル足らずの道程を完走する前に小さな右肩が後ろに引っ張られた。少女が手を振りほどこうと、必死に体を腕を振り回したが、静が両肩に腕をまわして強く抱きかかえられると、観念したのか、途端におとなしくなった。少女が逃げようとした方向に、ヒグマのような大きさの、覆面をかぶった大男が横たわり、拳を振り上げて静に罵声を浴びせてきたので、必死になって後退した。

「ゴメン、命令なの。お願いだから、大人しくしてて」

 静の胸の中で、少女は顔を伏せ、押し黙っている。

「そうすれば新堂さんも酷いことはしないはずよ」

 突然、ジャンパーの裏から、さらにボディーアーマ—の裏をすり抜けて、下腹部のあたりに金属が押し当てられた。冷気で冷やされた金属の感触と恐怖で、静の全身が鳥肌に覆われた。

「ごめんなさい。こっちも命令なの」

 冷たく燃えさかる真紅の双眸で、下から静を睨み付けてきた。静が思わず少女を突き放そうとする。

「動かないで!」

 少女の鋭い声が、静の肉体を凍り付かせた。少女が静の懐に入り込んだまま、1、2歩左に回り込み、スナイパーがいると思われる上流方向に、静の背を向けさせた。水希は警備隊員の体越しに川の上流が、そして真右には川の対岸が、左後方にウィル達がいる形になった。

「スイレン!」


>>213 に続く

Re:AsStory第10(9)話 『ひかり、在れ』(保留) ( No.211 )
日時: 2014/09/15 07:01
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: WkkVAnf4)

 また、ンか月とか間隔があいてしまうのも何なので、途中までをアップしておきます。。。。

 また書き直しになるかも知れませんが、、、、。

 タイトルは、第10話の始まりの話と同じにしてあります。

 第10(1)話は、少年と少女の運命を暗示する意味を込めて、そして、第10(9)話は、起きてしまった運命に対して、このタイトルを付けてます。

 リンク先は、タイトルの由来の『祝福』(作曲:木下真紀子 作詞:池澤夏樹)という合唱曲です。
実際に作品の中で流す予定です。。。

AsStory〜キャラ絵:水希'(変装後)〜 ( No.212 )
日時: 2014/10/05 12:19
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: WkkVAnf4)
プロフ: http://www.kakiko.info/upload_bbs/index.php?mode=article&id=3277

すみません、、、、第10話書き途中なのですが、キャラ絵をアップしてしまいます。。。。

前回、平時の水希をアップしたので、今回は大崎影晴の発明を利用して変装した後の水希です。。。。
もちろんモデルは同じものを使ってます。。。

キャラ作成に使用したゲームに、ピッタリの衣装が無かったので、こんな格好になってます。。。。本当はジャケットは袖も黒いはずです。。。
あと、本編での背景は雨ではなく霧のような氷の粒が舞ってるはずです。。。。


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