二次創作小説(紙ほか)

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AsStory /予告用中編 『二人の精霊王』
日時: 2015/09/20 00:30
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 3qG9h5d1)

初めまして!
書き述べると申します。


 この作品は以前、シリアスのカテゴリーだったのですが、第七話からはこのサイトに投稿されている他の方の作品の内容を混ぜ込ませていただくことになりましたので、このジャンルに引っ越してきました!

カキコ内二次(合作じゃないですよ)……結構珍しい様な気もします。

混ぜ込む作品は——
『Enjoy Club』(作:友桃様)
です!
そして
『ウェルリア王国物語』(作:明鈴様)

ぇ、二つもやって大丈夫なのかって?貴様のプロットどうなってるんだよって???

(黙殺。。。。。。)



1点注意していただきたい事が……。
冒頭でも触れておりますが、もともとシリアス・ダークの作品なので、そのカテゴリー特有の表現があるかも知れません。できるだけグロい表現は使わないつもりであはりますが……。


更新の間隔が2か月空いたりすることがよくありますが、寛大な御心で受け入れてくださいますと大変有り難いです!


【最新話直前の状況】

(現在修正中・・・・・)




【お客様(引っ越し前の方含みます)】
  アメイジング・グレイス様
  アサムス様
  友桃様
  通りすがりの者です。様
  (朱雀*@).゜.様



【目次】

◆◆ 序章 ◆◆

 1話 >>1

 2話 >>2-3

 3話 >>4-5

 4話 >>6-11

◆◆ 第一章 ◆◆

 5話 >>12-13

 6話 >>14-19

 7話 >>21-25

 8(1)話 >>29-31

 8(2)話 >>38 >>41 >>44 >>46 >>48 >>51 >>53 >>58 >>60-61 >>63-64 >>70-75

 9話 >>81-82 >>87-88

 9(2)話 >>90-91

 9(3)話『時空間操作システム』 >>95-96

 9(4)話『副長官、乱心』 >>98-100

 9(5)話『時間ときを越えて』 >>105-107

 9(6)話『地を駆る鳥』 >>110-114

 10(1)話『ひかり、在れ』 >>118-119

 10(2)話『幕開け』 >>129-132

 10(3)話『交錯する時間とき>>142-153

 10(4)話『混迷に魅入られし者たち』 >>160-166

 10(5)話『絶体絶命』 >>172-175

 10(6)話『PMC、対陸軍攻撃陣』 >>180-189

 10(7)話『突入』 >>192-197

 10(8)話『スナイピング』 >>200-204

 10(9)話『ひかり、在れ』 >>209-210 >>213-214 >>227 >>229-230


◆◆ 第二章 ◆◆

 11話『逃走』(更新中) >>232-239


〜〜小説紹介〜〜
『☆星の子☆』((朱雀*@).゜. 様) >>108
『Enjoy Club』(友桃様) >>109


書き始め 2010年冬頃
(もう3年経ってしまったんですねぇ)

〜〜予告用短編〜〜
『月光』 >>126-127

『二人の精霊王』 >>243-245 <<<<<<<<(現在作成中!)

〜〜クリスマス短編〜〜
『クリスマス・プレゼント』 >>217-225

〜〜キャラ絵〜〜
メクチ >>207
水希 >>208
水希(変装後) >>212


登場人物一覧
>>206 (リアルパート)
>>216 (ファンタジーパート)

〜追伸〜
ツイタやってる方。。。R18記事があってもOKって方は、ちょっとフォローしてやってくれませんか?? => @motto_e

あんまり呟かないですけどねぇ〜(ぇ?)

As Story10(2)話〜混迷に魅入られし者たち〜 ( No.163 )
日時: 2013/10/08 19:09
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 7TaqzNYJ)
プロフ: http://www.nicovideo.jp/watch/nm8070136?group_id


 彼女がが生まれたときには既に自力で生命を保つことが不可能になっていた祖父。全ての医者が目を丸くし、顔をしかめ、唸り、首を傾げ、最期に「わからない」の一声を言わせる彼の肉体は、警察直轄の研究所の検体として当時の状態を完全に保ったまま、当時最新鋭と謳われていた生命維持装置とつながれ、警察庁直轄の病院に保存されていた。本来は件の研究所に保管されるべきものであるが、遺族の、特に静の強い要望により、一般の人々が訪れることのできる病院に保管されることとなっていた。

 静は時々病院を訪れては彼とまみえ、彼が生前、警察官だった頃の装備品や映像等の記録、彼の個人的な趣味で秘密裏に保有していた銃器を通して、正義心をたぎらせていた頃の祖父の姿を彼女の脳裏に描いていた。勇敢で、正義感に満ち、優しいけど厳しいときもある。そして、拳銃の射撃にかけては全国の警官でも右に出る人はいない。 幼き日の、そして物心ついたころも、成人を迎えても、思い描く一人の警官の姿は常に完璧だった。20余年という歳月が過ぎても、想像の中の、後光が差す肖像は少しも色褪せることはなかった。

 それゆえ祖父を生ける屍と化し、狭小な病室のベッドにはりつけにせざるを得なくさせた犯人に並々ならぬ復讐心を燃えたぎらせていた。警察の見解では祖父は病気による脳死ということであったが、静ははなからそれ信じるつもりはなかった。外傷は一切無いにもかかわらず、大脳、小脳、脳幹にいたるまで、あらゆる組織が細切れに千切られていたという報告を、祖父の遺体の観察を担当した監察医から訊いていた。警察も苦渋の判断だったはずだ。身内が殺されたというのに、参考人はおろか、物的証拠も情況証拠すらも上げることができず、病気による脳死という判定を下さざるを得なかったのだ。

 憎むべきは、真実とことなる判断をした警察ではない。全く想像の及ばぬ方法で祖父を殺した犯人こそが全ての怨さの根元なのだ。

 怒りの憎しみに己を駆り、満を持して望んだはずの帝栄警備の新卒高校生向けの入社試験。身体能力は女子としては極めて優秀な成績を残したが、それでも運動能力系の試験通過ラインギリギリだった。そして判断の適格性、判断速度等を評価をする思考能力試験でも、採用ラインぴったりであったものの、通過の判定を得ることができた。だが、最後の——おまけ程度にしか考えていなかった性格の適正で、つい先程、新堂が指摘した理由により、隊員として不適合の烙印を押された。

 試験の結果とともに返却される試験の講評では彼女の性格が極限状態——例えば多くの人民を助けるために、一人の仲間を切り捨てなくてはならない場合など——における判断を著しく鈍らせており、あらゆる判断が不適切なほうに傾いていると断じられたのである。辛うじて採用試験をパスしたものの、配属されたのは世界屈指のPMC、帝栄警備保障の「経理」部門だった。

 齢18にも満たぬ少女の落胆の、否、絶望は計り知れなかった。生殺しのような日々。魂の燃え滓となった静は、ろくに業務をこなすことさえできなかった。本人も役員会も何度となく彼女の解雇、或いは退職を検討した。だが、同じ部署の先輩社員や上司が懇切丁寧に、ねばり強く彼女を支え続け、核シェルターよりも堅牢な殻に閉じ籠もってしまった女子社員の心を開かせることに成功したのである。
 以来、静は経理業務に打ち込んだり、先輩や同僚と噂話に華を咲かせたりと、一介ののOLとしての日々を過ごしていた。祖父を殺した犯人への怨さは弱まることはなかったが、その想いのたけを実行動に移そうとは思わなくなっていた。それが決して自分を見限らなかった帝栄への、そして仲間や上司への恩返しだと思っていた。
 そうして1年が過ぎ、2年が過ぎ、3年が過ぎようとしていた時だった。

 陰険きわむ神の悪戯としか思えなかった。

 人員の配置には常に抜かりのない社長が、よりによって今朝——50年前の早朝に転送されても、静は未だに2062年の感覚が残っていた——に限って、緊急やら事故やらで実戦部隊の全員が出払っており、あらかじめ今回の任務を任されていた新堂と出動する羽目になったのである。
 そして悪意に満ちた天の戯れの最たるものは、今回の事件発生による転送先が、彼女の恭敬する祖父の亡くなった、否、殺された年——2012年であったということだった。 一度は消沈し、幾重にも重なる地層の奥深くに埋没していた、彼女の暗澹とした青春時代の記憶が、本人の意に反して地表に這い上がってきた。
 そして持ち前の思いこみの強さで、怨差の炎を赤々と燃え上がらせ、時空間犯罪者取り締まりの特殊任務班に参加したのである。

 だが、今彼女は現場ではなく、時の流れを忘れそうになるほど悠然とした雰囲気の喫茶店にいる。どうやっても言い訳のしようのない、一重に己が身の能力不足が原因で、彼女の復讐は脆くも潰えたのである。

——「今回は」しょうがない。きっと・・・・・・きっと次があるわ。

 生来、あまり前向きな性格ではなかったが、今は無理矢理、根拠があろうと無かろうと、自分にそう言い聞かせでもしないと、すでに肩を小刻みに震わせ、鼻孔の奥に痛みを感じるほどの熱いものめいっぱいにため込んでいる自分を、抑止し続けられる自信がなかった。

 押し黙ったまま、窓の向こうの冷酷な景色を見やるだけでも居た堪れなくなり、彼女の右脇に、客の視線のバリゲート代わりに置いていたバックパックの一番外側のポケットに徐に右手を差し入れた。30kgあるはずの装備の3分の2を上官に託してしまったため、ポケットの中はがらんどうとしている。永らく銃火器を触れることのなかった静の細長い指が虚空を掻いた。もう少し腕を突っ込むと、冷たくて堅い、角張った金属の感触が右手の指先に走った。店内の雰囲気をしきりに気にしながら、こそこそとそれを取り出すと、音を立てないように、慎重にテーブルに置いた。そして、静の手よりも二周りほど大きい直方体状の物体のつまみをひねった。
 窓の外の氷の雨よりも激しいノイズが、間断無くスピーカーから射出される。静の見込みを遙かに上回る耳障りな大音響に、お客達が一斉に、驚愕の声を上げて静を睨みつけた。

「おや、お嬢さん、懐かしいものをもっているじゃありませんか」

 静が慌ててテーブルに置かれたもののつまみを戻そうとすると、それを遮るかのように、店の主人の声がカウンターの方から飛んできた。心底驚いたらしく、思わずカウンターを出て、静のテーブルに寄ってきた。主人の口振りの表情からして、さっきの騒音のせいで心証を悪くしたような雰囲気は無さそうだった。

「これは私が太平洋戦争でビルマに派兵されたときに使っていた通信機ですよ」

 今度は静が驚愕する番だった。太平洋戦争?それって、いつ?即座に4つの数字が脳裏に浮かんできたが、彼女の意識がそれを瞬く間に霧消させた。

「お嬢さん、どうしてこれを?」


As Story10(2)話〜混迷に魅入られし者たち〜 ( No.164 )
日時: 2013/10/08 19:12
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 7TaqzNYJ)
プロフ: http://www.nicovideo.jp/watch/nm8070136?group_id



 呆然としていた静が、目と鼻の先で問いかけられたことに気づかず、心配そうに店主が2度声を掛けてきたところで、声を裏返して応えた。

「え?あ、これ、これですか?これ、は、そう、知り合いのコレクション、コレクションなんですよ」
 途切れ途切れに前線の二人の会話が粗末なスピーカーから漏れてくる。本来なら隊員以外に聞かれてはいけない内容だが、たけるノイズ達によって、話している内容の判別が到底不可能な程に乱されていたので、静が冷静を装ってその場をやり過ごそうとした。
 だが、人生で最も血気盛んだった頃を思い出し、否応なしに意気が亢進していた店主が、たった一言で、静の浅はかな芝居を打ち砕いた。

「わたしが直してあげよう」

 精神の抑止力を失った静が、すっとんきょうな声を上げると、今まで静を猜疑の目でにらみつけていたお客達が、いかにも愉快そうに目を細めながら、静の席に集まってきた。そして店主と年齢の近い者は、静の通信端末を見ると、口々に思い出話——どれも例外なく武勇談であったが——を話し出して、店内が十数年ぶりかの喧噪に包まれた。
 身を挺して部外者が通信端末に触れるのを阻止しようとする静と、いつの間にやら親切心が、通信端末の分解に拘泥する気持ちへと変貌してしまった店主との、息もつかせぬやりとりがしばし続いた。

 不毛な争いに終止符を打ったのは、店主の方だった。正確には、店の常連客の一人が、年寄りの言うことは素直に聞くもんだぞ、と口元は微笑みつつ目は鋭く、やんわりと凄んだのである。そして刹那、静が全身を強ばらせた隙をついて、彼女の向かいの席に回り、これ見よがしにゆっくりと、己が今より50歳程若かりし日の最先端の精密機器を持ち上げた。

 まだ通信機を取り戻すチャンスはある。静は店の主人がドライバーを持っていないことに気付いていた。あのお爺さんが、ドライバーを持ってくるために席を立ったところで端末を持ってここを出よう。端末を持ったまま席をたたれたら、手も足も出なくなってしまうが、今は唯一の望みに賭けるほか無かった。
 だが、一向に向かいの老人が動き出す気配がしない。静がテーブルの下で小刻みにつま先で床を穿ち始めると、出し抜けに老人が端末の外郭の上下を諸手でつかみ、引っ張り始めた。動転した静が、あからさまに双眸を皿のように見開き、前のめりになって店主に詰め寄った。

「ご、ご主人?」つい語尾がうわずってしまった。
「はい、どうしましたか?」

「ドライバーは・・・・・・要らないのですか?」
 一瞬、店の主人が顔をしかめたが、すぐに表情をゆるめ、おもちゃを買ってもらった少年のように明るい笑みと声で応じた。

「お嬢さん、こいつはな、分解に工具がいらんのだよ」
 
 静が返事をするのも忘れ、老人の節くれ立った手に収まっている、憎き金属の箱を睨みつけた。前線でもすぐに修理ができるように、素手で全ての部品が分解できるとか、そもそも部品数が最小限に抑えられているだの、あたかも自分が創ったかのような勢いで、店主の老人が喋りまくっていた。そして老人の左右の手は主が(あるじ)が己の口上に陶酔している間に、鈍い金属光沢を放つ、端末のいかつい外郭を表側と裏側の二つに分けていた。
 腹を決めて天井を仰ぎ、双眸を下ろした静を尻目に、彼女のテーブルにハイエナのごとく群がった戦中戦前世代の御仁等は、60年もの時を経て、小さな戦友の御開帳の瞬間を目の当たりにして興奮もたけなわになっていた。

「ん、なんじゃのぅ、これは?」

 店主の左脇に陣取っていた、サンタの如く見事な白髭を蓄えた老人が、右の人差し指を小刻みに震わせながら通信端末の右上にはまっている丸みを帯びた部品を示していた。途端に、一瞬前までの喧噪がはたと止んでしまった。武勇談を披露していたご老人の面々が、眉根を寄せ、しきりに頸を左右に傾げて見るが、うめき声しか発することができなかった。

 元日本兵の老獪どもを一瞬にして黙らせてしまった事態に、いたずらな好奇心をかき立てられた静が、軽く会釈をして頸を突っ込んできた。明らかに他の部品と形状や材質が異なる部品が右上にはまっている。
——これ、未来の部品?
 心でつぶやくなり、いくつもの疑問が芋蔓式に姿を顕わにしてきた。

——何の部品?

——これが時空間通信チップ?

——ならどうして時空間通信ができないの?

「はて、こんな部品、この通信機にあったかの?お嬢さん、ちょっと顔をひいてくれんか」

 ようやく言葉らしい言葉を発した店の主人が、部品の全容をあらためようと、節くれ立った右手の3本の指を狭いケースの隙間に突っ込んだ。
 店主に押しのけられた静が、謎のチップと店主の指を交互に睨みつけながら、考えを巡らそうとしたとき、目の前で店主の指がチップを掴んで取り出す瞬間が、ストップモーションごとくゆっくりと静の瞳に飛び込んできた。

「あれ、とれた」
「とれた?」
 店の主人と静が同時に同じ疑問を抱いた。コードは?基盤につながってたんじゃないのか?
 二人が同時に虚空の一点に視線を移した。基盤との謎のチップをつないでいたはずの、黒い絶縁体の皮膜で覆われている銅線。その先端は銅線部分が露出せず、皮膜が銅線をきれいに覆い尽くしていた。

——おかしい。これでは基盤と接続できない・・・・・・。

 二人がぴったりと息をあわせて通信機に視線を落とした。そこで主人は間の抜けた声をあげ、一方では静が激しく瞠目した。

「ケーブルが・・・・・・切断・・・・・・されてる」

 静が基盤に残されたチップとの接続ケーブルの残骸をしばし呆然と眺めていた。だが、妄想癖のある若き女性隊員は不吉な予感を感じていた。

——これは偶然じゃない。

 燃え滓のようにくすんでいた静の瞳に、刹那、強烈なハイライトがきらめく。その勢いにまかせ、目力だけで主人を通信機から退かせた。静がいくつかの部品の接続ケーブルを軽く押さえてみた。ケースの内部に隙間無く部品が詰められていたため、ケーブルが辛うじて接続を保っていたが、少し力を加えると、いくつかのケーブルで切断された箇所が顕わになった。

「な、なんじゃ、導線が切られとるじゃ・・・・・・」

言葉を言い終えぬうちに、再び静ににらまれた店の主人が、蛇に遭遇した蛙のごとく身をすくめた。

——誰が、一体、何のために?

 事態の全容を殆ど掴めていなかったが、静の脳裏には不吉な予感が作り出した虚構の世界が見る見るうちに形と色を成し、己の精神と体躯を否応なしに駆り立てた。
 いつもの浅はかな妄想なら、己の頬をひっぱたいて止めていたかも知れない、だが今日は、サーバールームでのHEIBの炸裂の瞬間など、不吉な虚構の世界が真っ赤な血の一滴に至るまで吐き気がするほど精細に見えるのだ。

——わたし達の任務を妨害しようとしている人たちがいる。

「新堂さん、稲森さん!」



As Story10(2)話〜混迷に魅入られし者たち〜 ( No.165 )
日時: 2014/01/02 21:03
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: KZXdVVzS)
プロフ: http://www.nicovideo.jp/watch/nm8070136?group_id

 音を立てて静が立ち上がった。テーブルに群がっていた老人達が声を上げて身をのけぞらせた。静が彼らを素早く睥睨すると、荷物をよろしくおねがいしますと、機敏に目礼をした。鬼気迫る静の気迫に圧倒された店の主人が会釈を返そうとしているうちに、紺色の人影が喫茶店の外へ飛び出していった。慌てて静を見送りに主人が店を出ると、アスファルトに叩きつけられ砕け散った無数の氷片が作り出す濃霧に、仄かに青みがかった女性の人影が呑み込まれる寸前であった。
 そしてそれが完全に彩度を失い、乳白色の空間に消え失せる将にその時、小さな機械音を立てて、彼女の右手には不釣り合いに大きな拳銃を掴む様子が、店主の目に、深く刻まれていた。
 

同日 午前8時33分 ポイント駅前——


 どうしてもっと早くに気が付けなかったのか。せめてあの時——痩身の運び屋の青年が自分の足をはたいてまごついている時。あの時、水希に投げたヒアが返ってこないのに気が付いてさえいれば——。

 銀髪碧眼の若き指揮官が、下の唇を、その薄青い皮膚が破れんばかりに噛みしめる。そうしている間にも、ウィルは部下の最悪の状況を回避するべく、周囲を一瞥すると、野次馬のいる方に背を向け急にその場にしゃがみ込んだ。少年の不可解な動きに顔をしかめる野次馬もちらほらと見受けられたが、パニックに陥っている大半の人間は、少年が革靴の靴ひもがほどけてしまい、逃げ遅れているのだと思いこんでいるか、安全な場所を求めて、すでにすし詰め状態の階段に、我先にと体躯を押し込むのに必死になっているかのどちらかであった。
 野次馬の最前列の何人かが、ウィルに声をかける。ほぼ同時にウィルが機敏な動作で立ち上がると、予想外に素早い少年の身のこなしに、群衆の最前列の何人かが思わず息をのんだ。
 少年は右足で何かを地面に抑えつけており、立ち姿がぎこちない。人の群のほうからは、少年の膝下と、煙幕のように地表付近にひろがる氷の飛沫のせいで、革靴の下になにを挟んでいるのか伺い知ることはできなかった。

 対して、ウィルの正面——兵士が狂ったように声をあげ、悶絶している方の一団は、麗牙の指揮官が突然しゃがみ込み、右の足の下に黒い缶のようなものを仕込み、素早く立ち上がるという、少年のとった行動の顛末を、一瞬の欠落もなく見届けていた。そして、歴戦を生き抜いてきた覆面の運び屋は、その後に100%の確率で起きるであろう、修羅場を克明に脳裏に映し出していた。外見からは想像もつかないほどの俊敏さで150kgを優に越える巨躯をを翻すと、二人で仲良く横たわり、意識朦朧としている似非運び屋の相棒と少女らに覆い被さるように、高度0.8mの中空なかぞらを跳躍した。

——何であんな餓鬼が物騒なものもってやがる!

 地表に達するまでのわずかな間に、アビーが少年の方を見遣る。凶行に及んだ少年の蒼い視線が覆面を貫いてきた。が蛇ににらまれた蛙のごとく、アビーの全身が強烈な金縛りにかかった。

——あれは、あれは餓鬼のじゃねぇ。人間の命を殺めるような・・・・・・それも衝動的なもんじゃねぇ。兵隊みてぇにそれを仕事にしてる奴らの・・・・・・。なんでだ!なんであんな糞餓鬼が・・・・・・。

 言葉が途絶えた。ある確信が脳味噌をミキサーで滅茶苦茶にかき回し、衝撃が全身を貫いた。
 突如相棒の悲鳴がアビーの鼓膜を貫いたとき、アビーは危うく地に横たわる相棒を潰しかけるところだった。

「気を付けろよ!アビーさん」

「野郎!いつまでも女と仲良く寝っ転がってるのが悪ぃんだろ、ボケ!おい、目を瞑れ!フラッシュ・バンだ。それと——」

 いつのもの大男の怒号が一気に萎んだのに驚いてコードが耳をそばだてる。

「あの銀髪の餓鬼——」アビーの唾を呑み込む音が、異様に重たく響く。
「ECだ」

 アビーが若造の顔を見ると、思ったほどショックを受けていない。

「ああ、そうだね」

「・・・・・・なに?!」

 二人とも目も耳を塞ぐのを忘れたまま、彼らの背後で麗牙光陰専用小型閃光手榴弾が炸裂した。



同日 午前8時35分 川沿いの道に接続する裏路地——

——みずき・・・・・・みずき!

 無数の氷がアスファルトを、コンクリートを穿つ音がする。

 自分を呼ぶ声がする。

 体がひっきりなしに荒々しく揺さぶられた。無限に落ち込む闇の深淵に陥っていた世界に、一筋の光が差し込んだ。光芒は瞬く間に太さを増し、あまねく世界が光の恩恵を享受するのに数秒とかからなかった。白トビしていた世界が徐々に色味を取り戻していく——。世界は重たい灰色に染まっていた。可変色コンタクトレンズで紅く染まった瞳が、正面の灰色の空からわずかに漏れ出る陽光を認識すると、同時に視野の左隅に微動だにせずこちらを見つめる二つの蒼き瞳を捉えていた。瞳は涙をめいっぱいに讃え、打ち震えていた。

「リー・・・ダー」

 雪のように白い両手の指が、すがるように指揮官のジャケットの左右の肘に深く食い込んだ。

「あれほど、能力を使ってはいけないと、言ったじゃないか!」

 ヒアは使わない。自分の声で伝えなくてはならない。押し殺した声だったが、己がした行為のために八つ裂きになった少女の心に、残酷なほど重たく、幾重にもこだました。

「ごめんなさい・・・」

 少女は目を伏せ、悄然としていた。
 少年は暫し押し黙ったまま、紅のベールに覆われた少女の顔を見つめていた。

「でも——」少年指揮官が一層声を絞り、沈黙を断った。

「良かった、無事で。——水希」

 最愛の部下の顔を、頬からこめかみにかけて、右の掌で優しく撫であげる。再び頸をあげ、蒼瞳そうとうを見やる紅き瞳から、一気に雫がこぼれ落ちた。

「ごめんなさい!ウィル・・・・・・わたし、わたし・・・」

 少女が灼髪の小さな頭を指揮官の胸に埋めた。

「いいよ、みぃちゃん」

 水希がすすり泣く度に、ウィルの胸の中で小さな体がかすかに揺れ動いた。

——水希。

 そのままの体勢でウィルがヒアを投げると、水希が顔を上げ声をあげて応じようとする。咄嗟にウィルが部下の唇の手前に人差し指をかざし、頸を左右に揺すった。
 指揮官の腕の中でたゆたう二つの真っ赤な瞳が、彼の目を真っ直ぐに見つめていた。

——水希はここで待ってて。あの荷物を何としても手に入れ、送り届けなくてはならない。

 水希がヒアを飛ばそうと精神を集中させようとした途端、激しいめまいに襲われた。それでも指揮官の両腕をつかむ手に力を込め、必死になって指揮官の命令に抗おうとする。可変色コンタクトレンズの色が、刹那薄らぎ、ウィルの眼前に彼女の本来の漆黒の瞳が垣間見えた。可変色ジェルに染まっているはずの髪も同じような症状が発生していた。ベリーショートヘアの先に艶やかな光沢を放つ長い髪が不規則に明滅しながら風になびいている。
 目を疑うような光景に、ウィルの表情が凍り付き、暫し次の言葉が脳裏に現れてこなかった。
 ごく僅かしか能力を消費しないはずのアイテムが、動作不安定になっている。

——水希の力が尽き果てようとしている。

As Story10(2)話〜混迷に魅入られし者たち〜 ( No.166 )
日時: 2013/10/08 19:14
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 7TaqzNYJ)
プロフ: http://www.nicovideo.jp/watch/nm8070136?group_id



 もうあと一回でも能力を使おうものなら、この子がどうなってしまうのか。全く想像がつかなかった。いや、そんなこと絶対想像したくなかった。

「水希、ここで待っているんだ、絶対に動いてはいけない。絶対だ」

 限界まで声を絞っているのに、氷どもの喚声を貫き、水希の鼓膜をしたたかに鼓く上官の肉声。そして仲間ではなく、ターゲットを睨みつけているかのような鬼気迫る視線。それも束の間、気を取り直した少女が声を掛ける間もなく、少年の姿は消え失せていた。
 辛うじて赤みを保っているベリーショートをしおらせ、少女が地面にくずおれた。無数の氷に身を穿たれる地を見つめたまま、己の耳にも届きそうにないか細い声で指揮官の名を一度、叫んだ。



 たった一つの小さな小包によって運命を歪められた人間たちが、愚かにも更なる混沌へとその身を投じようとしていた。




『As Story10(2)話〜混迷に魅入られし者たち〜』(完)

Re: As Story10(2)話〜ひかり、在れ(4)〜 ( No.167 )
日時: 2013/09/23 18:47
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: KZXdVVzS)

こんにちはー^^

スローペースですが地道に読んでおりますv
一話一話が本当に読み応えがあって、私もこれくらい中身の詰まった小説書いてみたいなぁってしみじみ思っちゃいました。

それと>>109の『Enjoy Club』を紹介してくださった件、私の方のスレでは御礼を申し上げましたがこちらではまだでした、すみません(><)
本当にありがとうございました! 自分の小説の内容紹介読むのって楽しいですね^^

続きの執筆がんばってくださいねー(^^)/
また顔出します。ではでは


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