二次創作小説(紙ほか)
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- AsStory /予告用中編 『二人の精霊王』
- 日時: 2015/09/20 00:30
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 3qG9h5d1)
初めまして!
書き述べると申します。
この作品は以前、シリアスのカテゴリーだったのですが、第七話からはこのサイトに投稿されている他の方の作品の内容を混ぜ込ませていただくことになりましたので、このジャンルに引っ越してきました!
カキコ内二次(合作じゃないですよ)……結構珍しい様な気もします。
混ぜ込む作品は——
『Enjoy Club』(作:友桃様)
です!
そして
『ウェルリア王国物語』(作:明鈴様)
ぇ、二つもやって大丈夫なのかって?貴様のプロットどうなってるんだよって???
(黙殺。。。。。。)
1点注意していただきたい事が……。
冒頭でも触れておりますが、もともとシリアス・ダークの作品なので、そのカテゴリー特有の表現があるかも知れません。できるだけグロい表現は使わないつもりであはりますが……。
更新の間隔が2か月空いたりすることがよくありますが、寛大な御心で受け入れてくださいますと大変有り難いです!
【最新話直前の状況】
(現在修正中・・・・・)
【お客様(引っ越し前の方含みます)】
アメイジング・グレイス様
アサムス様
友桃様
通りすがりの者です。様
(朱雀*@).゜.様
【目次】
◆◆ 序章 ◆◆
1話 >>1
2話 >>2-3
3話 >>4-5
4話 >>6-11
◆◆ 第一章 ◆◆
5話 >>12-13
6話 >>14-19
7話 >>21-25
8(1)話 >>29-31
8(2)話 >>38 >>41 >>44 >>46 >>48 >>51 >>53 >>58 >>60-61 >>63-64 >>70-75
9話 >>81-82 >>87-88
9(2)話 >>90-91
9(3)話『時空間操作システム』 >>95-96
9(4)話『副長官、乱心』 >>98-100
9(5)話『時間を越えて』 >>105-107
9(6)話『地を駆る鳥』 >>110-114
10(1)話『ひかり、在れ』 >>118-119
10(2)話『幕開け』 >>129-132
10(3)話『交錯する時間』 >>142-153
10(4)話『混迷に魅入られし者たち』 >>160-166
10(5)話『絶体絶命』 >>172-175
10(6)話『PMC、対陸軍攻撃陣』 >>180-189
10(7)話『突入』 >>192-197
10(8)話『スナイピング』 >>200-204
10(9)話『ひかり、在れ』 >>209-210 >>213-214 >>227 >>229-230
◆◆ 第二章 ◆◆
11話『逃走』(更新中) >>232-239
〜〜小説紹介〜〜
『☆星の子☆』((朱雀*@).゜. 様) >>108
『Enjoy Club』(友桃様) >>109
書き始め 2010年冬頃
(もう3年経ってしまったんですねぇ)
〜〜予告用短編〜〜
『月光』 >>126-127
『二人の精霊王』 >>243-245 <<<<<<<<(現在作成中!)
〜〜クリスマス短編〜〜
『クリスマス・プレゼント』 >>217-225
〜〜キャラ絵〜〜
メクチ >>207
水希 >>208
水希(変装後) >>212
登場人物一覧
>>206 (リアルパート)
>>216 (ファンタジーパート)
〜追伸〜
ツイタやってる方。。。R18記事があってもOKって方は、ちょっとフォローしてやってくれませんか?? => @motto_e
あんまり呟かないですけどねぇ〜(ぇ?)
- AsStory 〜予告用短編『二人の精霊王』〜(作成中) ( No.248 )
- 日時: 2015/10/19 02:06
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: BLMhacx0)
「今戻るところだ。もう各分隊の伝令は集まってるのか?」漆黒の虚空で魔族も怖じ気つきそうな不気味に笑みを浮かべる口元に話しかける。
「ああ、どいつもこいつも結構息巻いてるよ。ただ隊長様の指示を伝えるだけなのにねぇ」口元だけのお化けが器用に変化する様を隊長が顔をしかめて眺めている。
「特に伝令に命かけてますってっていう面した奴も一人いるねぇ」スカユフが含みのある笑みを浮かべる。隊長の左右の眉が、お互いの間隔を一段と狭める。
「そういや、アタシの分隊は今回からアタシが伝令だよ」
隊長が素っ気ない返事をした。勝手に役割分隊を変えて、お小言の一つ二つ、或いは元に戻せだのと言われるものと思っていたスカユフが、珍しく拍子抜けした顔をしていた。だが、男より勇ましき彼女の間の抜けた顔を目にした者は、目と鼻の先にいる隊長を含め誰一人としていなかった。
上官や王侯貴族の面前では、何事も律儀にこなしていくストイックな騎士を演じるが、今回のように上官のいない遠征軍では生来のおおざっぱな性格が、大いに前面にしゃしゃり出てくる。伝令などやりたい奴がやればいいのだ。分隊長を決める事に関してさえ同じような感じだ。いざとなればリーダーシップをとる奴とそれに従う奴に自然とわかれてくるものだ。
瞑想が中途半端で途切れてしまったせいで澄み切らない意識を振り払うように、頭を左右に2度振り回し、甲冑の兜をかぶる。正対する大女の横を通り過ぎたところで、ふと足を止めるた。落ち葉が砕ける音が、耳元に異様に響く。虫の音一つしない、異様な静寂はまだ続いている。
「おい」スカユフがランタンの高さを保ったまま振り返る。「あん?」
「明かりは足下を照らすものだ。もう少し下げておけ」
隊長が前を向いたまま言い、スカユフが返事の代わりににやけた声を返す。
「隊長さんも頑張りや!」
クールに歩き去ろうとした隊長の背中をスカユフが大きな平手で打ち据え、むせている上官の右脇を大股で追い越す。
あまりの怪力に膝を落とした隊長が思わず声をあげ、スカユフを呼び止めようとしたが、向こうは完全に無視して闇の向こうに消えていた。
「おい」
隊長が慌てて立ち上がり、足下も碌に見えない漆黒の空間を走って追いかける。
返事がすぐ目の前から返ってきたが、足音は止まなかった。しょうがなく隊長はもう少し急ぎ足で進み、足下を濡れ落ち葉に掬われそうになりながらも、大女の左脇に並ぶことができた。
「君、本当にミダスの傭兵なのか?」
スカユフが相手の方を向きもせず、せせら笑いながら返す。
「そう訊かれて、嘘でした、なんて答えるうすらバカはいないよ」
隊長が返す言葉を無くして呻く。いつもならこのような要領の得ない質問などしないのだが、今日は彼の調子が乱れに乱れていた。
「ミダスは大陸でも有数の歴史を誇る魔導の国家。だが、魔導士達を脇で支える武人達があまりに不遇なために彼らが北方へ逃げ、できた国家がこのミダと聞いている。君はミダスの傭兵と言っているが、どこをどう見ても生粋の戦士のスタイルだ。それに——」
「それになんだい?アタシは嘘はついてないから、隊長さんの質問には、はい、そうです、としか言いようがないねぇ」
隊長が、それもそうだな、と苦笑いで返した。そばに人が居なければ、己の脳天をひっぱたいてやりたかった。
「腕っぷし自慢の奴らがみんな居なくなっちまって競争相手がいない分、傭兵稼業がやりやすいのさ」
沈黙が我慢できない性質なのか、それともただ喋りたいだけなのか、聞かれもしないことを話し始めた。
「永いことこの稼業やってるけどねぇ、ミダスが一番報酬がいいね。魔法使いのオヤジ、オバサン共のいびりさえ気にしなきゃ都だね、あそこは」
隊長が思い出したように両眼を見開き、スカユフの方を向いた。「あのドワーフのような奴とはいつも組んでいるのか?」
スカユフの相棒に対する隊長の例え方に、女が恥じらいの欠片もなく大口を開けて笑った。
「アイツを見た奴はみんなそう言うねぇ。ああ、出身も一緒で餓鬼の頃から何かとつるんでたよ」
スカユフの歩みのペースが急に落ちてくると、落ち葉を踏みしめる音が暗闇の向こうからちらほらと聞こえてきた。陣地はすぐそこだ。
「君の仲間も傭兵なはずだが、掴み所がわからん。あいつは戦士なのか?それとも吟遊詩人なのか?」
驚きのあまり、大女が足を止めた。闇に朦朧と浮かぶ隊長の顔をしげしげと見下ろしている。隊長が眼を剥いて返す。
「なんだ、なにかまずいことでも言ったか?」
「隊長さん、結構バカ正直なんだねぇ」色気のない分厚い唇が上下に広く開き、手入れのされていない黄色い歯が、唇に沿って不気味に浮かんでいる。
「上官に向かってバカとはなんだ」声を殺しつつも、できる限り語気を強く言った。
「アレは生まれながらの戦士さ。猿よりも身軽で、熊よりも怪力、そして鶏よりも単細胞な奴さ」
最後の例えに、隊長が口を歪めて笑いをこらえる。
「実際アレは字の読み書きが全くできやしない。ま、アタシも読むのはできても、書く方はカラっきしなんだけどねぇ」
スカユフは僻むでもなく、それ己のチャームポイントなのさとばかりに、楽しげに言い放った。
「そんなことは身なりを見ればすぐにわかることだ。寧ろ君が文字が読めることの方が私には驚きだ」
「悪かったねぇ」女の顔はまだにやけていた。
「アタシゃね、文字は便利だとは思ってるさ。だが、書けるとなると、何か記録を残そうとした時に、アタシが字を書く羽目になりかねないだろ。字なんてな書くのが得意な奴に書かせときゃいいんだよ。アタシは気ままに喋るだけさ」
隊長が頸を左右に傾げながら、同時に縦にも振る高度な相槌を打っていた。沈黙の穴埋めと思われた雑談は、完全にエンジンが回り始めた女のお喋り好きな本能によって、さらに続けられようとしていた。
隊長が露骨に顔を逸らし、伝令達が集結しているであろう方角を睨んだ。スカユフが苦笑いを浮かべ、右手を低く掲げて歩き出した。だが女の独演会は止まらなかった。
「読むのは絶対身に付けなきゃぁいけないね。字を書くのを頼まれた奴が本当に言われた通りに書いてるかどうか、特に金品の契約書類なんかは紙に穴が開くくらい確認しなくちゃなんないからねぇ」
スカユフが右手を腰に当て頷きながら、己の言葉を感慨深げに反芻していた。「あと、文字が読めないと——」
スカユフがまた立ち止まり、隊長に満面の笑みを浮かべた。隊長が行く先へ顎をしゃくる。毅然たる表情を見せるつもりが、右の頬が引き攣り、震えていた。何度も見ているはずの笑顔だが、闇に浮かぶこの女の笑みは、永遠に慣れる気がしなかった。
「読めないと何なのだ。早く済ませろよ」
「ほれ、耳を澄ませてみな」結局、隊長が渋々足を止め、左右の瞼を下ろし、静寂の森に耳を澄ませる。スカユフもそれに続いた。
自陣の兵士の控え気味な足音と雑談の声が聞こえてくるが、それ以外に耳につく音はない。隊長が眉間に二筋の皺を深々と刻み込んで思案に耽ったが、先のスカユフの話とのつながりを推測することができなかった。さっさと答えを聞いて兵士達の下に急ごうと、右隣の女傭兵のほうに体躯を向けると、彼女もまた、隊長と大差ないしかめ面でたったまま体躯を硬直させていた。
隊長の瞼の裏に嫌な予感が過ぎる。
「ありゃ・・・」
「ありゃとはなんだ」隊長がすかさず問い質す。
「残念だねぇ、聞こえない。アイツ、珍しく人並みに声抑えてやがるよ」
隊長を足止めしておきながら、悪びれるわけでもなく飄々と相棒のことを口にした。
隊長が軽く叱咤する。もし相手が他の者であれば、叱りの言葉も程々に、距離を置いて見放す所だが、この女傭兵は、黒き肉塊の彼女の部下よりも掴み所を失っていた。一時は、戦場に対して、野獣並の鋭敏な嗅覚を持つ優れた兵士だと思っていたが、眼前の女の不用心さ、時間に対する甘さはどうにも解せなかった。わざとなのか生来の癖なのか——。
「アイツとは、あの相棒のことか。もう行くぞ」隊長が闇のすぐ向こうの召集場所に足を向けた。
「字が読めないから、アイツずっとあの昼間に歌った歌を呟き続けてるんだよ。四六時中——」
「わかった、もう行くぞ。他の者達を待たせてしまっている」露骨に声を荒げて、スカユフを睨みつけた。
「さっきから、静かだねぇ」
「な——」
女がまだ何か喋るようなら、怒鳴りつけるつもりであった男の意志に反し、女の意表を突く発言で隊長の怒号が一瞬にして途絶えた。
隊長も気にしていたのである。この暗黒の森が、神獣の塒であるこの深き森が、俄に騒がしくなったり、潮が退いたように静かになったり・・・。
まるで小さな住民達が連携して、この森の侵入者に示威をしているかのようだった。
〜2015/05/14〜
出先で待ち時間があったので、つい書いてしまいました。。。
そして、帰社したらこっそりアップとか。。ね。。(ちゃんと仕事しろ!)
今日は『聖剣伝説 Rise of Mana』の Vita版配信開始の日です!
まだVita買ってない。。。。ぁぁぁぁぁ
〜2015/05/27〜
PS Vitaついに購入し、聖剣伝説Rise of Manaを始めたら、どっぷり浸かってしまい、全然小説が進められてない。。。。(ダメじゃんっっ)
ぁぁぁ。。。生活もとに戻さないと。。。。
- AsStory /予告用短編『二人の精霊王』(参照壱萬感謝! ( No.249 )
- 日時: 2015/06/04 14:51
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: NSxNy3Qq)
- プロフ: https://www.youtube.com/watch?v=LjGGOoyrUCw
——しかし、それと思しき羽音も声もしない。アーク・ドラゴンはまだ近くに居ないはず。
「君の杞憂だろう。鳥達がいつまでも鳴き続けている方が不自然じゃないか」
見え透いた屁理屈を、無用の混乱を避けたい一心で、否、己の心の臓の奥底に巣喰う臆病心に押されて言い放っていた。そして、相手に口答えの間を与えずに、一気に大股で歩いていった。どうして最初からこれができなかったのか。心の中で項垂れ、音の無い溜息をついてる間に、伝令たちの円陣が暗闇の奥から現れてきた。
森の際より2,3メートル後退したラインに沿って三列横隊で部隊が展開しており、全分隊の伝令達と斥候役の兵士の円陣は、その隊列の中央部に位置していた。隊長を探しに出た女傭兵の野太い声が闇の向こうから飛んでくると、円陣の中央に最低限の光量に抑えられた魔導のランタンに赤々と照らし出された人間の顔が一斉ににその方向を向いた。声に続きはっきりと二つの足音が入り交じって聞こえてくると、程なく甲冑で全身をかためた隊長の姿が、そしてわずかに遅れてスカユフが暗闇の奥から飛び出してきた。
隊長直属の第一分隊の伝令に目線を合わせ、よし、と声を掛けると、間の抜けた沈黙がしばし続いた。隊長が再度先の伝令を睨み付けると、呆けたように口を微かに開け、両眼を泳がせている。それを見た隊長が、刹那目を見開き、声を抑えめでの点呼の指示を出した。先の女傭兵の一言のせいで、意識が心配事で埋め尽くされ、正規兵のみの部隊で指揮する際の癖がつい出てしまっていた。
1番から末番まで綺麗に連呼がつながったあとに颯爽とブリーフィングを始める己を想像していた隊長の内心の意表を突くように、連呼が半分ほど進んだところで途絶えた。
「どこの分隊だ。もう集合時間は過ぎているぞ」
隊長の円陣からちらほらと、全員来ていることを一度は確認したはずという声も聞こえてきていた。つまりその伝令は、集合した後にまたどこかに抜け出した可能性があるということ。さきのスカユフのように、分隊内で伝令役を変えるのは許容範囲だが、戦場において指示した時間に来ないというのは致命的な失態だった。その点では、スカユフは時間も気にせず、よりによって隊長を足止めさせて喋っていたのだから相当の問題児だった。
点呼を続け、伝令が来ていない分隊が1つだけと確認が取れると、隊長に問題の分隊の番号が伝えられた。
番号を聞いて隊長が強く眉をひそめた。すかさず、スカユフのしゃがれた声が隊長の側頭部に叩き付けられた。
「それ、アロマのいる分隊だねぇ」女傭兵のいかつい顔が無邪気な笑顔で満ち溢れている。
アロマの分隊で何か問題でも発生したのだろうか。彼女のスタンドプレイ好きな性格からして、自隊だけ独自に動き出しかねない可能性も否定はできない。今回の行軍体で分隊長は設定していないが、あの分隊に限っては明らかに彼女が指揮をとっている。今更ながら思い返してみると、これまでは彼女の意志と彼の意志が偶然一致していたために、滞りなく事態が進んでいたのか? 隊長が腕組をして低く呻いた。
「おいそこの君、アロマを呼んできてくれ」
声を掛けられた伝令の雑兵が、軽くお辞儀をして駈け出そうとすると、闇の向こうから当の本人の声が響いてきた。円陣の面々は、隊長とスカユフが集合場所に現れた時よりも、素早く声のする方に顔を向けていた。
「私ならここだ」
また、女性らしさの微塵も感じられない堅い口調に戻っている。途轍もなく悪い予感がした。
嵐が来る。
「君の隊の伝令はどうした。もう集合時間は過ぎているぞ」
スカユフの時の同じように、時間を守れていないのに全く悪びれる素振りが無い。加えて彼女の場合は、上官に対して命令口調なので、一層質が悪い。
「伝令は私になった。少し気になるところがあって、外していた。すまない」フードを深く被り、目線を隠したまま、言葉だけの謝罪だった。どのような事情であれ、さすがにこれほどの身勝手な行動を看過しては、周囲に示しがつかない。
——一発ビシッと言ってやるか。
隊長が表情を豹変させ、フードの女の方に進み出ようとした時、左手の方から一足早く男の怒鳴り声が轟いた。敵陣が近いこともあり、誰もが声と足音を可能な限り抑えていただけに、男の声が殊更強く、円陣の雑兵たち、そして付近の部隊の人間たちの鼓膜を打ち据えた。
「女!さっきから偉そうに、何様のつもりだ!」
すると、その言葉に続き数名が加勢するように野次を飛ばす。昼間の一件では誰もそんな様子を見せていなかったために、隊長はてっきり、アロマが腫れ物に扱いされているものと思い込んでいた。実際はあの時、隊が二つに分かれてしまっていたのか。
「分かった。だが今は一刻を争う状況になりつつある。彼女には私から後で注意しておく。それと、声は抑えてくれ」
件の男性兵士は、歯切れ悪そうに退いたが、続けて第二波が襲来した。
「隊長、あの女にはやけに甘くないですかぁ?デキちゃったんすかぁ?」声は冗談めいてはいるが、言い出した男の表情は卑下の一色に染まっていた。
「なにィ!」「…わかったわ。謝るわ」
隊長が拳を固めて応える声と、アロマの低く静かな声が重なった。全員の視線が粗末なフードの奥の顔に集まる。
「みんなには本当に申し訳ないと思っております」
全員が耳を疑った。言葉に対してではない。
霞のように儚く高い声が人々が囲む小さな虚空に響いたのである。
皆が呆気にとられていると、アロマの右手がフードの縁を掴み、静かに後ろに引いていった。
カカ村とかいう、僻地の農村から来た割には手入れが行き届き過ぎている水色の髪、ランタンに照らされ、仄かに赤く染まる珠の肌。申し訳さなそうに俯きがちに目線を横に逸らしているのが、男性兵士の心を木端微塵にした。嫌味を飛ばした先の兵士は、返す言葉を無くしてしまっていた。
よれたローブの下の細い肩が静かに、小さく震えていた。暫し沈黙が続く——。
「わたしは、つい一月前まで貴族の娘でした。子爵であった父は、とても寛容な方で、女であるにも関わらず戦に興味を持ち、その学問を積んでいた私に、領内の警備隊の隊長を任せてくださいました。その時の口癖が…抜けなくて」
か細く、悩ましげに溜息をひとつ——。
暗闇の中、胸のあたりのローブの生地を弱弱しく掴む白魚のような右手の指一つ一つに、柔らかなランタンの灯りが覚束なげに揺らめいていた。
「しかし、ある日の兎狩りに父が山へ繰り出したとき、山賊達の襲撃に遭い——」蒼き双眸が僅かに持ち上がる。
「殺されました」
女の眼は、決して他の者と共有することのできない、去りし日の光景を見ているかのように、仄暗い空間の一点を見つめていた。
「山賊は界隈では名を馳せていて、下級貴族の領土を幾つか略奪するほどの力を有しており、わたし達はそのまま城を奪われ、臣下のものも皆殺しにされました」
男女を問わず、円陣の面々は身構えたまま、体を凍り付かせていた。瞬きも忘れていた。隊長もそのエピソードを初めて耳にした。スカユフだけは、バツが悪そうに腕組をして、アロマのいる方とは反対の空に目線を反らしていた。
「女官たちは…どうなったのか……。あたし…恐ろしくて……本当に…、怖くて……」
最後まで言葉が続かなかった。鼻をすする音と、肩を竦め、濡れた頬を拭う手に、か細い嗚咽だけが聞こえていた。
「そういう事情だったのか。辛い話をさせて済まなかった。何か訳アリだとは思っていたのだが」
野次を飛ばしていた連中も、あとは隊長に任せると、自ずから引き下がった。
「だが、そんな状態で伝令ができるのか?」
アロマが、ローブの袖口を掴んだ両手で、口と鼻を覆ったまま、真っ赤になった目を向けて無言でうなずく。
「わかった。では、これからの部隊の動きについて説明する。わからなくなったら、すぐに質問してくれ」
アロマを除く伝令と斥候兵を合わせた円陣の面々が綺麗に息をそろえて首肯した。
「我が部隊は、アーク・ドラゴンの姿を確認したら、即座に退却するのは昼間に言ったとおりだ」
ここで一旦言葉をきり、全員が話についていけているかどうか、一人ひとり表情を確かめる。話が進んでいっても、同じパターンで大袈裟に頷いているのは、話が理解できていない可能性もある。まずは最初の状態の確認だ。
「だが今は昼間と状況が変わった」再度円陣を睥睨する。アロマはまだ両目だけを露わにしたまま、隊長の言葉を一心に聞いていた。
「ユニオナの軍勢が西の方に、それもかなり近くに陣を貼っていることが判明した。規模も相当なものだ」
兵士たちが食い入るように隊長を見つめていた。敵の名前が出れば次の話題は、彼らと闘うのか否か、その一点である。
「我が隊は、大軍相手に負け戦はしない。剣と弓を交えることは決して無い」多くの兵士たちが安堵の息をつく。「だが——」 緩んだ緊張の糸が一気に張りつめる。
「退路を変える。ユニオナの陣地の背後に一旦回り込み、そこから一気に退却する」
それではまるでユニオナを挑発するようなものだ。どうして首輪の無い猛犬に石を投げるような真似をするのか。
兵士たちがその思いを声に変換するまでに相当のタイムラグがあったが、彼らの声を聞くまでもなく、その顔いっぱいに文字として書かれていた。
「どうしてそんなわけわからない真似、しなくちゃならないんだい?」口火を切ったのは、アロマの話からずっと腕組をして聞き続けていたスカユフだった。隊長の意図するところに気付けず、全く以て理解不能とばかりに、普段より重みの無い声を出していた。
〜2015/05/31〜
今回はちょっとアロマの見せ場です。。。
だいぶキャラ違くない??ってご意見あるかと思いますが、ちょっと保留。。。
ここから本格的に、「アロマのターン」「スカユフのターン」が始まり、クライマックスを迎える予定ですっっ。
あと何度がお伝えしておりますが、参照蘭の歌、この短編中に出します。。。予め聴いておいていただけると、情景が想像しやすいかと。。。。(汗汗汗)
〜2015/06/04〜
アロマの独演シーン、ちょっっと修正。。。
なんか、アロマのイメージが、勇敢な騎士からだんだん歪みつつあr(ぉぃぉぃ)
- AsStory /予告用短編『二人の精霊王』(参照壱萬感謝! ( No.250 )
- 日時: 2015/11/02 01:50
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: BLMhacx0)
- プロフ: https://www.youtube.com/watch?v=LjGGOoyrUCw
「ユニオナの軍の狙いが我々と同じ、アーク・ドラゴンであることはほぼ間違いない」
隊長がスカユフのほうを見やる。スカユフが腕組みをしたまま頸を動かさない。隊長の発言に納得していないのではなく、何度も聞いたフレーズにうんざりで、頷く事さえ億劫であった。
「そして我らミダと同じく、アーク・ドラゴンを欲しているのは目の前に陣取る騎士達ではなく、本国に引き籠り彼らの報告をのうのうと待ち続けるだけの王侯貴族達だ」
アロマと勘のいい1、2名の傭兵が困惑の表情を露わにした。スカユフは嘲笑混じりに言い放った。
「まさかアンタ、敵方の騎士達の面子を立てるつもりかい?」
隊長の左右の眼が、反射的に血走る。「面子などという、浅薄なものではない。騎士としての道を通すのだ」
少数の会話から置いてきぼりを喰った多数派の伝令、斥候兵が俄然ざわつき始めた。ただ、彼らも何となくではあるが、鬼面の女傭兵の方が己等にとって正論を言っているような気がしていた。騎士の出で立ちの隊長は、見た目とは裏腹に、弱き俄傭兵にあれだけ理解のある態度を示していたが、ここに来て本心が顕れたのか。スカユフが話すときと、隊長が応える時とで、その他大勢の伝令達が向ける眼差しは、あからさまに違っていた。
「どういうこったよ、隊長さん」「そうです、教えてください」
最高齢の農民兵から、若輩の斥候役の少年まで、口々に隊長に問い掛けた。
いつの間にか、円陣が緩やかに形を変え、隊長が円の中心に押し出される形となり、文字通り傭兵等にぐるりを取り囲まれていた。円陣の騒ぎを聞きつけた付近の傭兵たちも円の外に加わり、状況の説明を受けると、場が一気に緊迫していった。それでも隊長は動じることなく、己の意志を訴えた。
「確かに私の考え方は騎士独特のものかもしれない。だが、この行為で、騎士の誇りがために失われようとしている命を、それは騎士に限らない、それに巻き込まれようとしている、ユニオナの軍勢に含まれている君たちのような家族を養うために参加した人々の命も救うことになるんだぞ」
隊長に詰め寄っていた伝令のうち数名が、歯痒さに堅くかためた拳を力任せに虚空で振り回した。
「どこまでお人好しなんだい、隊長さんはよぉ。それでワシら死んだら元も子もねえじゃねえがぁ!」
後ろの方から飛んできた声に、再び傭兵たちが勢いづく。「ユニオナと戦うなんて、契約にもねえぞ。俺らドラゴンと戦うってんできたんだぞ」
「戦うのではない!彼らを退く方へ引きつけるのだ」
「それが戦闘と変わらんと言うとるんじゃ!」
敵陣が近いのもお構いなしに、隊列の中央では怒号が飛び交う、否、隊長が部下に襲われかねない、一触即発の事態にまで張り詰めたその時——。
「待ちなさい!」
円陣の内側から発せられた女性の叫び声が、野郎共の喧騒を一蹴した。野郎どもがびくついて目線を向けた先には、顔面を紅潮させたアロマがいた。さっきまで同じ人間が涙を流して萎れていたとは思えぬ豹変ぶりだった。
フードを取り、露わになった鋭い眼光を放つ左右の鷹目で、じわりと一団を睥睨する。女の視線の向いた先では、兵士たちがおずおずと後ずさりした。目線が円陣を一回りすると、最後に円陣の中心の男を睨みつけた。兵士たちを睨みつけた時と変わらぬ、怒りに満ちた眼差しだった。
「あなたの、ユニオナの狙いはアーク・ドラゴンだっていう、根拠は何?」
再び暴発しようとする激情を力の限り抑えつけながら絞り出す女の声は、普段なら到底聞き取れる大きさではなかった。だが、周りの者が息をするのも憚られるような緊迫の中で、未だ完全な沈黙を守り続ける深き森に囲まれたこの空間で、元貴族を名乗る女の低いかすれ声は、人間の聴覚に訴えるには十分過ぎる程に響いていた。
「騎馬、臼砲、諸々の大軍を率いて、アーク・ドラゴンの塒に来ている。そして、ユニオナは前回、竜狩りで失敗している!」 銀の小手を鳴らして右の拳を胸の前に振り上げる。「これ以上の理由があろうか!」
円陣の面々、そしてその外側で座り込んで成り行きを見守っている兵士たちの注意が一気にアロマに向き、言葉が発せられる瞬間を、両眼を剥いて待つ。
「ユニオナが、私たちを狙っているっていう可能性は無いの?」
周囲が小さくどよめく。2,3名は、依然瞼の裏にこびりついているか細いを出していたアロマの幻想に囚われ、魂の抜けたような面を晒して立ち尽くしている。
「それは……それならばもっと前に我々を攻撃しているはずだ。わざわざ神獣の前で争う馬鹿がどこにいる」
途端に兵士らは雪崩をうって、隊長の意見に賛同し始めた。皆、人知を超えた神獣よりも、幾度となく刃を交えてきた敵国と対峙する方に現実的な恐怖を抱いている証左であった。
「あなたがここに来る前に、わたし、森の様子が気になって少し回ってきたわ。その時、足音がしたわ。この暗闇だし、追いかけることができなかったけど」
これには、動物の足音じゃないかと、異様に力のこもった声で兵士たちから返事が返ってきた。
「もし、人間だったら?ユニオナの斥候だったらどうするの?こちらもすぐに斥候を。隊長の作戦を俎上に載せるのはその結果を見てからよ」
アロマがひとしきり意見し終えると、隊長の騎士が瞼を下ろし、暫し思索に耽った。平静を装ってはいたが、胸の内は一介の雑兵に面子を潰されたせいで、胸腔を満たす憤懣が心臓の鼓動にあわせて波立っていた。同時に、彼女に対する感服の念が時化る心を鎮めようとしていた。揺れる心の傍らで、隊長は先のアロマの身の上話に茫洋とした違和感を感じていたが今やそれは確信に変わりつつあった。彼女はまだ本当のことを語っていない。彼女の動きが我々にとって益となるか害となるかはまだ不明だ。注意深く彼女を見続ける必要がある。
斥候については、隊長もユニオナの陣形を把握するために使うつもりであったが、このタイミングで斥候をだすのはいささか分が悪い。
「それともう一つ、ここに来るまでに、森で気になったことがあるわ」
隊長が思案が引き延ばす中、アロマが周囲の兵士たちに向かって話していた。隊長も傍らで耳を欹てていた。
「森が、静か過ぎるの」隊長の全神経が束の間女性の声に向く。「有りえない話だけど、まるで森全体が、意思を以て物音を立てないようにしているような……」
アロマが少し目線を落とす。「あの足音も、こんなに静かでなければ聞き逃していたかもしれないわ」
それを聞いた隊長が、左右の瞼を開いた。鬼神の女傭兵隊長に続き、アロマまでもが……。
眼前の光景は、隊長がスカユフから森の異様をさを聞いた<*瞬間に、彼が真っ先に瞼の裏に思い浮かべたものであった。振る舞いには多少問題があるが、アロマの軍人としてのセンスは今のところ隊長の期待する水準を維持している。身分を偽る女性雑兵に対する隊長の興味が益々募る。
隊長が真っ暗な視界に、深い沈黙に包まれた森と、枝の上で黙り込む小鳥達、そして森の奥に広がる暗黒と更にその向こうで虎視眈々と出撃の機会を窺う大騎士団を順番に映し出していく。我々は多くの脅威になりうる事象に取り囲まれている。本当にそれらが脅威なのか、それらが脅威ならばどれを先に対処すべきなのか、竜が現れるまでに見極めなくてはならない。些末な事象で、残された時間を空費してはならない。
俯いているのをやめ、正対する女の蒼き双眸をまっすぐに見つめた。「いいだろう。斥候兵、出発の準備をしろ!」
円陣に混じっていた1名の少年兵が、威勢のいい返事をして輪から抜け出る。
「隊長、私の要望を言っていいかしら」アロマが一歩、隊長ににじり寄る。隊長が、目配せで応える。
「わたしも、一緒に斥候に出させて」 隊長がアロマに向き直り、顰め面で睨み付ける。「上官に具申するときの物言いではないな」アロマがバツの悪そうに頬をゆがめる。
「隊長、私も、斥候に出させて下さい」
一部の伝令の兵士たちが溜飲を下ろすかのような表情をアロマが眼の端に捉えると、口元を引きつらせ、不愉快さを露わに睨み付ける。注意を隊長のほうに戻すと、隊長が表情を微塵も揺らさず、アロマの瞳を尚も見つめ続けているのに気づき、負けじと挑戦的な視線を返す。
目に映るものを全て目で殺すつもりか——隊長が口元に微かに可笑しそうに笑みを浮かべる。
静かに左右の瞼を下ろす。
——見極めなくてならない人間もいたな。
「よし、行け」
アロマが1秒も惜しいとばかりに目礼だけすると、分隊へ残した装備を取りに、風の如く駆け出して行った——。
アロマが分隊から戻ってきたとき、彼女は部隊の補給班から支給してもらった官製の暗色系のローブに着替えていた。密林の中の行軍があるというので、何枚かミダの市場で買っていたのだが、密林の環境が想像以上に劣悪だったのと、ローブが想像を遙かに越えて粗悪品だったせいで、あっという間に使い果たしてしまっていた。今身に着けているのは着丈も身頃もちょうどいい。重さはあるが、これは生地のつくりの良さ故なのだろう。
時間が無かったので、大雑把にしか物資を確認することができなかったが、大国故の物資の豊富さと女性兵が珍しくないお国柄のせいか、3台の橇に詰め込まれた補給物資の中には被服品以外にも武装とは関係のない日用品が広範にわたり揃えられていた。全軍で100名に満たない、しかも正規兵といえば隊長の騎士だけという編成の部隊に対して、少し多過ぎるくらいにさえ感じた。資源に乏しく、男社会の自国の軍とのあまりの物資の違いに、余計にもう一度物資を眺めてきてしまっていた。
アロマが、隊長のいる位置と丁度真向かいの円陣の壁をすり抜けると、フードのついた、夜間向けの暗色系のチュニックを羽織った少年が隊長の傍に立ち、隊長と短い会話のやりとりをしているところだった。あの少年は、一足先に指示を受けて駆けだしていった本来の斥候兵だと、アロマがすぐに気付いた。アロマが隊長の許にたどり着くまでに、少年が横を向いたとき、ウエストのあたりに巻いたチュニックと同じような色合いの、帯のような腰紐の背面に、小型の武器を忍ばせているのが見えたのである。
アロマと斥候兵の少年が隊長の前に並び直すと、女性の中でもそれほど背が高くない彼女の肩と少年の肩がほぼ同じ高さに並んだ。隊長の指示に対する返事もまだ声変わりし始めたばかりらしい甲高い声だった。
隊長が足下に置いていた大きめの腰袋から地図を自身の正面に広げている最中に、周りに控えている伝令の兵士達に、もっと近くに寄るように命じた。この時既に雨は止んでいたが、地面を隙間無く覆う落ち葉達は、未だに人間の足を取る程に濡れていたため、件の斥候の少年兵が自らの背嚢を窄まった円陣の真ん中に置くと、それにならって数名の兵士が次々に背嚢を適当に並べ、瞬く間に背嚢が膝の高さまで積みあがると、即席の図面台が出来上がった。
〜2015/06/02〜
アロマのターン、始まりました。。。。(笑)
〜2015/06/04〜
アロマのセリフを微妙に修正。。。。
読み返してみると、結構唐突なとこ多いので、暫く細かい修正続くと思います。。。
斥候のシーンは、できれば見どころにしたいなぁ。。。。
〜2015/06/05〜
地味〜に少〜しだけ更新。。。(汗)
- AsStory /予告用短編『二人の精霊王』 ( No.251 )
- 日時: 2015/11/17 11:44
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: NSxNy3Qq)
- プロフ: https://www.youtube.com/watch?v=LjGGOoyrUCw
羊皮紙に綿布の薄い裏地が付けられた、約1メートル四方あるドラゴンの塒の森の地図が、デコボコの図面台の上に広げられる。豪華な見た目とは裏腹に、人間がわざわざ入り込む必要のない土地であったため、かなり大雑把な出来栄えである。今、ミダ軍が木々の向こうに見ている開けた土地が図面の北の辺りを占め、それより南側のほぼ全域を森を示す緑の塗りつぶしが広がり、その中にペン先のように細い茶色い道のラインと、そこから更に細い枝分かれの道が茶色の細い破線で数本描かれているだけである。
隊長の話では、地図が作製された時期も20年以上昔という年代物であるらしかった。
アロマの右隣にいる中年の男の兵士が緊急事態の最中、よくもこんな地図でここまで辿りつけたものだと、腕組みをして感慨深げに地図を眺めている。隊長がそこに割り込むように、もう一枚、西側の地図を左隣に並べると、地図の反対側が暗闇で見えなくなっるほど幅が広がった。近くにいる兵士が円陣の外で駄弁っている兵士に、至急魔導のランタンを持ってくるように指示を出した。
追加のランタンがくる間も惜しく隊長が跪き、斥候ルートの始点、現在地から最寄りの道路の始点を右人差し指で示した。
天候が悪いせいで、方角の頼りになる星も月も出ていない。深い闇のせいで、目標物になりそうなものも全く分からない。上空の目標物に頼らない、微妙な方角を気にすることのないルートにしなくてはならない。
「これからルートを説明する」
両隣を挟むように跪いた斥候の二人を交互に睨みつける。
「二人とも一発で頭に刻み込んでおけ」二人とも真一文字に閉めた口を開けずに、頸だけの返事で応えた。周りの伝令兵達も地図の前にいる者はしゃがみ、後ろに並んでいる者は中腰で前のめりになり、小手を付けた無骨な隊長の指を一心に見つめた。
「先ずは——」
地図上の茶色い実線上に置かれた隊長の人差し指が、一息に地図を下に向かった。指を置いていた道路を飛び出し、隊長の右人差し指が深い森を南北方向に突っ切り、地図の南端付近をほぼ東西方向に延びる細い破線に到達していた。赤みがかった弱々しい灯りのせいで、誰もが破線の色が茶色と思い込んでいたが、その破線を東に辿っていくと、右下、つまり南東の隅で太めの青い実線から枝分かれしている事がわかった。皆が茶色と思いこんでいた色は、ランタンの灯りの色に加え青の染料が長い歳月を経て変色してしまったもので、実際は青の破線は季節によっては枯れることもある、若しくは地下を流れる伏流水となる川であるはずだった。ミダの地図の表記では、季節的な枯れ川と伏流水が間隔と線幅の異なる破線で表現されるべきなのだが、表現が雑なせいで枯れ川なのか伏流水なのか、区別が付けられなかった。
破線の川の流域の現地を確かめる暇もない情況で、隊長も、そして雑兵の中で唯一正確に地図を読みとることのできるアロマも、無意識によく見かける方の枯れ川と思いこんでいた。そして地図を多少読める程度の者達も、枯れ川の表現は知っていたので、彼らもまた、眼前の青の破線が枯れ川だと思っていた。
「今は日照りの季節ではないから川は存在するはずだ。そこまで一直線に下り」
隊長が中指も添えると、二本の指が潔く直線を描き、地図の左端(西端)まで移動した。
二本の指の移動先のすぐ南側には、蛇行を繰り返しながら指先を追ってきた先の幻の川を表す青い破線が描かれていた。少年は隊長の左隣で、彼の年齢の3倍は老け込んだかのように深い皺を眉間に刻みながら、至極単純なルートを付近の目標物になりそうなものと一緒に瞳の奥に刻み込もうと必死になっていた。
——ユニオナの陣地が川で途切れるはずと見ているのか。
アロマが斥候の目的地点と青い破線を見つめていた。確かに陣地は必ず川で途切れるか分裂するものである。隊長の考えは理に適っているように見えたが、それはあくまで破線で地図を横切る川がちゃんと地図の通りに流れていればの話。
流れが弱ければ、川の流れが蛇行し、地図とは全く違う経路を流れていることも大いに考えられる。それに——。
アロマの双眸が破線の川を遡るように西から東に向いていく。
彼女胸の奥から最大の懸念が脳へと浮上してくる。
この川が現在地より南にあるならば、ミダの部隊はこの川を渡っているはず。
——どこで渡った?
アロマがぴしゃりと瞼を閉じ、今日一日の記憶を走馬灯の如く脳裏に走らせる。
アロマが左右の瞼をゆっくりと開き、己が身の左右を窺う。そして、この疑問を確かめようと、隊長に顔を向けると、少年が顔こそ見えなかったが、隊長の方を向いているのが分かった。
「隊長、俺たちこの川いつ……」
「我々はこの川をいつ……」
少年の大人しいそうな声と鉄芯の通ったようなアロマの低い声が唱和し、お互いが体を傾かせ、隊長を挟んで互いを見合った。
「ここに到着する1時間ほど前に渡ったぞ」
隊長ががアロマの方を向く。アロマが隊長に猜疑の念を露わにして見返す。
「本当だ。地図とよく比べないと気付かないが、その川のある地点で、隊の地面の下を潜っていくような水の流れを聞いた」
アロマが怪訝そうな目つきで睨みつける。口の中に籠もらせた呻き声は外にでることなく消えていった。水の流れは何度と無く聞いた。それが雨のせいで発生した、仮初めのせせらぎなのか、地図にある川の音なのか、この遠征の地図を殆ど見ることの無かったアロマには、区別する術がなかった。不安は一向に払拭されなかった。
今度は隊長の背後から、少年の斥候兵が問いかける。
「俺は斥候で部隊からかなり離れたところを駆け回ってましたが、せせらぎ程度の水の流れしか聞きませんでした。光の無い中、流れも不確かとはいえ、何か気づけそうな気がするのですが」
「あぁ、アタシも同意見だ。部分的に地面を潜ってるだけなら、水の流れが聞こえてもいいんじゃないかい?」
地図を挟んで向かって斜め右の当たりに立つスカユフが、少年とアロマに加勢した。
「あっしは隊長の言うように、ここに来るまでに一度、川らしい水の流れを聞きましたゼ」
スカユフの真向かいに立つ伝令の一人がそいういうと、ちらほらと隊長の意見に同調する声が聞こえてきた。スカユフが思わず冬籠もり前の飢えた熊顔負けの唸り声をあげて地面を踏み均す。隊長も混乱の最中にいた。凹凸のある地図に両腕を突き、己の視線を翻弄するかのように蛇行を繰り返す青い破線を睨みつけた。水の音を聞いたのが自分の空耳ですんだ方が気が楽だったかもしれない。注意しなければならないのは、深閑とした森の最奥部に棲む神の右腕と呼ばれる龍族と大陸最強の陸戦隊<だけ>でよかったはずが、森自体も、退路に通り抜けなくてはならないこの森も何か脅威を孕んでいる。冷え切った雫が数滴、骨ばった褐色の肌から滴り、皮の地図にシミをつくる。
ざわめく伝令達の円周の中央で、ただ一人落とし穴のように沈黙を続けていた騎士が、徐ろに面を持ち上げた。右手を持ち上げると、全員が静まり返った。人間の理解を超えた振る舞いを為す森に対し、どのような指示を出すのか、全員の視線が指揮官の口元に集結する。
隊長が円陣の前半分を睥睨し、そのまま一歩ずつ濡れ落ち葉の積もった地面を踏みしめるように足の向きを変えると、円陣の残り半分も同じように睨め回した。
「地図に破線で描かれているところが季節的な枯れ川か伏流水かは、今のままでは、判断のしようがない。そうなると、ユニオナの陣地も予想とは異なってくるだろう。今回の斥候は限られた時間の中で、それも調べなくてはならない」
僅かな逡巡をはさみ、最後の一言を言い切る。すかさずアロマが詰め寄ってくる。
「それもそうだけど、あたし達、どうやって曲がるポイントを見つけるのよ。もし伏流水じゃなくても、流れが変わってるかもしれない、川が枯れてるかもしれない。川が無い可能性の方が高いのよ?」「待ってください!」
隊長の反駁より先に、少年が割り込んできた。人間の声が森の静寂を破るたびに、周囲の伝令たちの瞳が目まぐるしく右に左に振れる。その度に、彼らの顔に浮かぶ不安の気色が濃くなっていく。
「右折するポイントの付近に、小さな丘があります。太くはありませんが道もあるみたいです」
アロマが右手を突き出し、自陣の外を指さして言い放つ。
「こんなに暗いのに、丘とか細い道とか、絶対に見逃すに決まってるわ」
「僕が先導します」剣幕のアロマに対し、少年がやや声を落し、沈着に返事をする。
「答えになってないわ。誰も目標物が見えないって言ってるのよ」
暗色系のフードの奥から少年が無言で左右の眼を剥き、アロマを睨み付ける。アロマが負けじと睨み返した。
「おい、二人とも落ち着け」
「あなたのせいでしょ!」アロマの金切り声に、隊長が怯んで上体を仰け反らせた。
少年が図面に寄りかかっていた体を素早く起こすと、大股で隊長の背後を回り、彼を睨み続けている女性兵士の脇に立った。対抗するように、アロマも一歩も譲らんとばかりに、必要以上に胸を張って対峙する。「・・・なによ」
伝令兵達も異様に意気が昂揚している。既に拳を振り回す仕草をする血気盛んな者もいる。アロマが、黒きフードの奥のに隠れている少年の双眸を改めて睨みつけると、白目の殆どない、人間とは似て非なる面貌に、思わず眼を眇めた。
「そうです、俺は森の獣人です。この暗闇でも、丘程度の大きさのものなら、時々樹に上って確認できます」
己に向く隊長の視線を傍らで強く意識しながら、少年がアロマに返した。そして少年がフードをとると、人間ならば顔の横にあるはずの耳が、頭の上部に、人間の耳の4倍くらいの大きさのものが生えている。
だからこんなに若いのに斥候を任されていたのか。これ以上口論を続けるのは隊にとって得策ではないとみたアロマが、あっさり手をひき、隊長に鉢を回した。
「こいつは俺が指揮する作戦では何度か斥候を任せていて、その実力は確かだ」
隊長が、即席の図面台に両手を突き、少し身を乗り出してアロマと、その他の伝令を見回しながら言う。
「もし、しばらく南下しても流水の存在が確認できなければ、こいつの言う目標物を頼りにしてくれ」
隊長の指示に、アロマが淡々と返事をすると、傍らで少年が耳をびくつかせ、小さく声を漏らした。即座に隊長が振り返る。
「足音?」少年がぼそりと言った言葉に、図面台を囲むすべての面々が息を潜める、瞬時にして空気が凍り付くような緊張に包まれた。
人間の連中には、何も聞こえなかった。
「動物の、じゃないの」アロマが森の方を見たまま、声を殺して話しかける。「違う。二足歩行の足並み」
全員が完全に息を止め、左右の瞼をおろし、沈黙の森に意識を向けた。
やはり、何も聞こえない。
しばし瞼を伏せ、耳を澄ませていた隊長が、意を決して目線を前に向ける。そして、二人の斥候に目配せをした。すぐに二人から無言の首肯が返ってきた。
「行け」
隊長が短い指示を言い切る前に、少年が円陣の周囲を風の如く疾走した。ローブの下の腰に携えた武器を押さえ、アロマが少年と反対側の円周を疾駆すると、ぴったりと後ろについた。
「急ぐよ。しっかりついて来て、オバサン」
「仲間なんだから、アロマって呼んでいいわよ!」顔を引きつらせ、声を荒げてアロマが返した。
瞬く間に、二人の姿が闇に呑まれ、二つの足音が聞こえるばかりになると、時を置かずして標的が速度を上げたのか、3つ目の足音が二人のさらに奥から微かに聞こえてきた。
ミダの龍狩り部隊の現地作戦が今、始まった。
依然として森は、異様な沈黙を続けていた——。
〜2015/06/12〜
話の展開が唐突にならないように慎重になり過ぎかな。。。。
ちょっと進め方が遅いかもしれない。。。
むずかしぃぃ。。。。
〜2015/06/12/修正1〜
ユニオナの陣地が西にあるのに斥候のルートが東に向かってた。。。あり得んっっ(恥)
ってことで数か所修正。。。。
はやくクライマックス書きたいぃぃぃ。。。ぁぁぁぁ(泣)
- AsStory(キャラクターのスケール) ( No.252 )
- 日時: 2015/06/13 19:56
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: EMf5cCo0)
- プロフ: https://kie.nu/2BkS
ふと、魔が差して、本作品のキャラクターのボディーサイズを比べたくなってきました。
完全に自己満の世界なのですが。。。。。
とりあえずオリキャラの主要メンバーの体のサイズを"Design Doll"というソフトで再現してみました。(URL参照)
本来DesignDollは、絵を描くときのポーズの参考に使うツールで、それから絵を描いていくものなのですが、当人は絵心が皆無なのでマネキン状態です。。。でもこうやって並べると、作者的にはやっぱとても楽しい!
大柄な登場人物が結構多いこの物語ですが、やはりABと名仮平は2大巨塔。。。。
時間があったら逐次キャラを追加してきます。。。できれば、二次派生元のキャラとかも入れていきたいなぁ。。。とか。
外見年齢が近いキャラとか並べるの面白そう。。。
梓と静とアロマとか、メクチと水希とか。。。
どうも失礼しました〜〜
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