二次創作小説(紙ほか)
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- AsStory /予告用中編 『二人の精霊王』
- 日時: 2015/09/20 00:30
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 3qG9h5d1)
初めまして!
書き述べると申します。
この作品は以前、シリアスのカテゴリーだったのですが、第七話からはこのサイトに投稿されている他の方の作品の内容を混ぜ込ませていただくことになりましたので、このジャンルに引っ越してきました!
カキコ内二次(合作じゃないですよ)……結構珍しい様な気もします。
混ぜ込む作品は——
『Enjoy Club』(作:友桃様)
です!
そして
『ウェルリア王国物語』(作:明鈴様)
ぇ、二つもやって大丈夫なのかって?貴様のプロットどうなってるんだよって???
(黙殺。。。。。。)
1点注意していただきたい事が……。
冒頭でも触れておりますが、もともとシリアス・ダークの作品なので、そのカテゴリー特有の表現があるかも知れません。できるだけグロい表現は使わないつもりであはりますが……。
更新の間隔が2か月空いたりすることがよくありますが、寛大な御心で受け入れてくださいますと大変有り難いです!
【最新話直前の状況】
(現在修正中・・・・・)
【お客様(引っ越し前の方含みます)】
アメイジング・グレイス様
アサムス様
友桃様
通りすがりの者です。様
(朱雀*@).゜.様
【目次】
◆◆ 序章 ◆◆
1話 >>1
2話 >>2-3
3話 >>4-5
4話 >>6-11
◆◆ 第一章 ◆◆
5話 >>12-13
6話 >>14-19
7話 >>21-25
8(1)話 >>29-31
8(2)話 >>38 >>41 >>44 >>46 >>48 >>51 >>53 >>58 >>60-61 >>63-64 >>70-75
9話 >>81-82 >>87-88
9(2)話 >>90-91
9(3)話『時空間操作システム』 >>95-96
9(4)話『副長官、乱心』 >>98-100
9(5)話『時間を越えて』 >>105-107
9(6)話『地を駆る鳥』 >>110-114
10(1)話『ひかり、在れ』 >>118-119
10(2)話『幕開け』 >>129-132
10(3)話『交錯する時間』 >>142-153
10(4)話『混迷に魅入られし者たち』 >>160-166
10(5)話『絶体絶命』 >>172-175
10(6)話『PMC、対陸軍攻撃陣』 >>180-189
10(7)話『突入』 >>192-197
10(8)話『スナイピング』 >>200-204
10(9)話『ひかり、在れ』 >>209-210 >>213-214 >>227 >>229-230
◆◆ 第二章 ◆◆
11話『逃走』(更新中) >>232-239
〜〜小説紹介〜〜
『☆星の子☆』((朱雀*@).゜. 様) >>108
『Enjoy Club』(友桃様) >>109
書き始め 2010年冬頃
(もう3年経ってしまったんですねぇ)
〜〜予告用短編〜〜
『月光』 >>126-127
『二人の精霊王』 >>243-245 <<<<<<<<(現在作成中!)
〜〜クリスマス短編〜〜
『クリスマス・プレゼント』 >>217-225
〜〜キャラ絵〜〜
メクチ >>207
水希 >>208
水希(変装後) >>212
登場人物一覧
>>206 (リアルパート)
>>216 (ファンタジーパート)
〜追伸〜
ツイタやってる方。。。R18記事があってもOKって方は、ちょっとフォローしてやってくれませんか?? => @motto_e
あんまり呟かないですけどねぇ〜(ぇ?)
- 【三千突破】AsStory-序章最終話前お知らせ【謝謝】 ( No.178 )
- 日時: 2013/11/16 20:42
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 7lLc0QEy)
こんばんは〜
最近、カキコからご無沙汰になっているスレ主です。。。。
なんと、3,000突破!!
読者に苦痛しか与えない、駄文というか毒文にも拘わらず、ここまでこれたのも、ひとえに不可視の読者の皆様方のおかげであります!!(涙涙)
カキコに顔出してないですが、ブツは遅々としてではありますが書いております。
序章最終話は、6つの場面からなる予定ですが、現在2つめの場面をかいているところです。
なんといっても、水希に始まり水希に終わる、水希の水希による水希のための水希な話になるはずなので、楽しみにしていてください!!(それはてめぇだけだろ)
たぶんアップするの年明けになるかなぁぁ。。。。。
それでは失礼しました〜〜〜
- Re: AsStory10(6)話〜PMC、対陸軍攻撃陣〜 ( No.179 )
- 日時: 2014/01/02 21:36
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: KZXdVVzS)
新年明けましておめでとうございますっ!
会社の面々には年賀状出しそびれてしまった輩が、カキコではしっかり新年の挨拶してるという。。。。何だろう、これは。。。。
ってことで、本来ならこの回が序章の最終話になるはずでしたが、予想以上に話が伸びてしまったため、話を分割することにしました。
なーんか、いつものパターンですねぇ。。。。同じようなミスばっかりして、我は救いようの無い人間なんだろか。。。(溜息)
でも、だいぶ終盤直前まで書けたんで、いい加減序章は次回で終わらせられるかと。。。。
この話、3年前に、午前1時の設定ではじめたのに、まだそれから7時間分しか進められてない。。。(汗)
本気で話進めないと!!!
今回は、水打静編とEC編が中心になります。運び屋の二人は、出番あったかなぁ。。。
EC編では水希が、水希がぁっっ(泣泣泣泣)
でも、今後の展開のためには、どうしてもこうしなくてはならなかったんです。。。あぁ、マジ辛い。
そして、水打編では、今まで物凄く影の薄かった登場人物、中年オヤジの稲森吾妻の出番が多いです。作者的にはこの回でちょっと稲森のポイントアップしました。。。
あぁぁ、早く最終回書きたい。。。。(ぉぃ)
では、10(6)話『PMC、対陸軍攻撃陣』始まりです!!
- AsStory10(6)話〜PMC、対陸軍攻撃陣〜 ( No.180 )
- 日時: 2014/01/02 21:41
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: KZXdVVzS)
〜PMC、対陸軍攻撃陣〜
二〇一二年一月二十日 午前8時50分 川沿いの道路に接続する裏路地ーー
「小娘の分際で、小癪なまねを」
両膝、両肘をつき、著しく前傾した四つん這いの姿勢のまま、徽章の男が正対する少女の瞳を見据えた。彼は小刻みに肩で息をしているが、人並みはずれた肺活量のせいで男の顔の周囲数十センチに限り濃霧警報が発令されそうな程にじっとりとした靄がかっていた。少女は次の一撃のタイミングを計るべく、左右の灼眼でターゲットを見下ろしつつ、無言で攻撃の姿勢を保ちつづけていた。
男の右の掌を、おどろおどろしく暗赤色の筋が全体を地割れのごとく横切っていたが、男の強靱な骨格とそれを取り囲む筋肉のおかげで、手のひらは辛うじて本来の形状を保ち続けていた。絶えず傷口から鮮血が滴っているものの、致命傷からはほど遠かった。
それでも傷口から露わになった、視認不可能な太さの神経繊維がかすかな空気の揺らぎに触れるたびに、或いは氷が傷口を穿つたびに巨躯を天から地に貫くような疼痛が徽章の男を襲い、全身の筋肉を強ばらせ、殺気がむき出しの面貌をより一層険悪なものにしていた。
血——。
氷に打たれながら灼髮の少女は、顔一面にかぶった返り血を拭おうともせず、斜め下に見える男の苦痛でゆがんだ顔面の前に掲げられている、右の掌から血の滴るさまをちらちらと見ていた。
護身だけでなく攻撃にも使えるようにと、蒼瞳銀髪の指揮官が実の妹の如く接する隊員に託したやや重量感のある銀のダガーは、彼女の予想を遥かに凌ぐ性能を発揮し、徽章の男の手に着けていた軍装の厚手のグローブごと彼の手を縦に一刀両断にしていた。ダガーを振るった当の本人でさえ、ポーカーフェイスを装ってはいたものの、その威力に暫し唖然としていた。
気を取り直し、再度敵の右手に刻まれた暗赤色の地割れを一瞥する。今の一撃は致命傷には至らなかったが、狙いどころさえ間違っていなければ——。
不意に水希が紅き瞳の頂点とダガーの切っ先を結ぶ直線をピタリと敵の眉間に向けたまま、深く息を吐いた。
敵の手中に堕ちることを選ばず、巨躯の軍人に戦いを挑むと決めた瞬間から、戦闘が長引くのは絶対に避けなければならないと思っていた。しかし、少女の状態は決して芳しくはなかった。なかなか鎮静化しない息切れ、動機、眩暈——。
精神的に満身創痍の情況で放った一撃は、少女の肉体も知らぬ間に疲弊しきっていることを肉体の主に突きつけてきた。
想定以上に状態の悪い己が身の状態を目の当たりにし、小さな暗殺者が思い巡らせていた思惑は大きく変わりつつあった。
ECの能力なしに左手のダガー、そしてポケットの中の護身用の小型の拳銃だけで、あの大男から、しかも格闘戦の訓練を受けているであろう兵士(正確には士官だろうが)にとどめの一撃を狙いに行くのはあまりにもリスクが大きい。必殺の一撃は首筋か頭部を狙わなくてはいけない。そのためにはあの男の懐深くに入り込むか、余程こちらに都合の良い体勢に崩れてもらう必要がある。それよりも、もっと男のリーチから離れた体の部位の数箇所に、ある程度の深さの傷を負わせて放っておけば、向こうが出血性ショックで動けなくなる。
至極基本的なことなのに、可及的麗しやかに目標を殺するというチームのポリシーが体に染みついてしまっていたが為に、すっかり見落としてしまっていた。
水希が左手に力を込めた。
——このダガーなら、あの男の装備を貫くことができる。
水希が目をつけたのは足の止血点の2箇所。左右は問わない、太腿の付け根と膝の裏だった。止血点は体の表面から浅いところを動脈が通っているため、そこに深手を負わせれば、相当の出血をもたらすことができる。それに——。
水希が、男の手のさらに奥で体躯を支えている左右の膝のあたりを見やる。
徽章の男が履いているズボンは、明らかに現場での任務遂行を想定していない「制服」。貼り付いた無数の氷の粒が解けても、体に貼り付かない様子から厚手のシルクだろうか。難燃性強化の加工はしてあるだろうが、耐斬撃、耐銃撃はあるのだろうか。もし加工されていれば、多少なりとも生地がごわついたりするはずだが、全く天然生地と雰囲気が変わらない。見た目を全く変えずに生地に高い防行性能を付加するのなどと言う離れ業は、影晴様ならできるかもしれないが・・・・・・。冗談とも本気ともとれる己の物言いに、思わず胸の内でほくそ笑む。
でも何故?
斜め下で這い蹲っている徽章の男の着ている服が、正真正銘の制服ならば、彼はなぜ制服を着たまま、戦闘行為を行っているのか。
今すぐにでも確かめなくてはならない事であったが、恐らくあの男は口は割らないだろう。目標点への最初の一撃を加える前に時間を掛けることも避けたかった。
眼下の男が一瞬でも直立の姿勢をとれば、屹立する男の左腕の射程範囲の際から最短の所要時間を以て侵入し、ダガーで止血点を穿ち、離脱する。
1ヶ所目は早い段階で(できれば一太刀目で)命中させるに越したことはないが、それ以降は、点差のついた蹴球の試合の終盤のごとく、のらりくらりと相手の攻撃を見きりながら駄目押しの斬撃を加えていけばよいのだ。
水希が刹那の思索から現実に全神経を引き戻すと、氷が天からこぼれ落ちるかのように、まばらに地面を叩く音が聞こえてきた。やっぱり少し弱まった気がする・・・。
真っ白な頬をかすめる白い礫の感触も柔らかくなっている。
半身の姿勢を正す振りをしながら右手を動悸のする胸に当てると、唇を引き締め灼眼で徽章の男を再度睨みつけた。
−−どういうことだ。あの小娘はなぜ立ち上がる、なぜナイフを向けるのだ。
四つん這いのまま、徽章の男が答えられるはずもない疑問を内なる自分にぶつけた。
男はダガーを振るう小さな悪魔に右手を切り裂かれる前後のわずかな間に、相手の衣服の不自然な膨らみの有無を確認していた。タイトなジャケットのポケット押し込められたブツが生地を複雑な形状に引っ張り、L字型の輪郭を浮かび上がらせていた。間違いない。あれは隠匿性の高い超小型の拳銃か何かだ。少なくともこの時代には、周囲の人間を確実に殺傷できる威力をもつほど手榴弾で、あの華奢な少女の衣服のポケットに収まるものはないはず。あの小娘はナイフと殺傷性の低い武器で自分と対抗しようとしているのだ。
徽章の男は、左胸に提げた大振りな徽章に相応しい戦歴を持っていたが、生き延びれば自分が生け捕りにされるとわかっていながら、尚も抵抗しようとする末端の工作員を、今までに一度として見たことがなかった。
とるに足りない氷の粒に、右手の傷口を穿たれる音無き拷問に表情をゆがめつつも、対峙する少女と視線を合わせた。
敵の視線が全く逃げない。
それどころか、軽薄そうに見える風貌に惑わされて見落としそうになるが、眼前の少女の隙のない目線の運びと、間合いの取り方は虎視眈々とターゲットの隙を窺うプロのハンターそのもの、使い捨ての工作員の悪あがきにはとうてい見えなかった。
- AsStory10(6)話〜PMC、対陸軍攻撃陣〜 ( No.181 )
- 日時: 2014/01/03 05:30
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: KZXdVVzS)
——肩で息をしているのを隠しきれないほど疲労困憊しているところに、私に分が・・・・・・。
胸の内の言葉を言い終えぬ内に、徽章の男の顔の右半面がひきつった。己の放った言葉を脳裏で何度も反芻した。その言葉の屈辱感に、胸が焼き鏝を当てられたが如く熱をもった。
——何が分がある、だ。
奥歯がかち割れんばかりに食いしばった。
——自爆の可能性さえなければ、とるに足りない餓鬼がナイフを持っているに過ぎないのだぞ。先の一撃はわたしの手の置き場が悪かっただけだ。私の油断が過ぎただけだ。
胸腔いっぱいに空気を吸い込むと、体内に充満していた動揺を吹き払わんとばかりに勢いよく息を吐いた。
——何を恐れている。分があるもなにも、子供相手に敗北などあり得ない。あの小娘はナイフ一つでこの局面を打破しようとしている。ナイフ一つでこのわたしを斃そうとしている。日本国防衛軍陸軍少尉のこのわたしをだ。
刃を向ける敵が目と鼻の先に居合わせているにも関わらず、徽章の男が視線を地に落とす。
「ふざけるな」
またとない好機と、一撃を加えようと後ろの足を蹴り出していた水希が、男の声に虚を突かれ、咄嗟に前に突き出していた左足でブレーキをかけた。再び突撃前の体勢に戻り、左手のダガーで間合いをとった。まだ男は下を向いている。
「たかだか片手を負傷させたくらいで、何たる無恥、何たる不遜!」
男の表情は窺い知れないが、彼の声色が心なしか高く掠れたように、まるで亢進する意気を無理矢理抑え込んでいるような響きを含んでいるように聞こえた。
徽章の男の言葉に取り合わず、水希が彫像のごとく表情を固めたまま、体勢を整えようと後ろ足で地面を擦った瞬間、彼がだしぬけに左手を制服のボタンの隙間に突っ込み、瞬く間もなく黒い円筒状の固まりを取り出し、正面に突き出した。そして片膝をつき、上体を起こすのに合わせ、どす黒い血の滴をまき散らしながら、左腕が黒い固まりの先端にかかろうとしていた。
——あれは閃光手榴弾、どっちを狙えば!?
水希が瞠目し、奥歯をかみしめた。タイミングを外され瞬きひとつ分の出足の遅れが、さらに一瞬の逡巡を生み、一歩を踏み出すチャンスを逸してしまった。
徽章の男が勝ち誇ったように黄色い犬歯を見せると、力なく伸ばされた右手の人差し指で黒い円筒から安全ピンを引き抜いた。
一撃を浴びせるのを諦めた水希が、ナイフの切っ先で風切り音をたてて左手をひく。
徽章の男が縦にした黒い円筒の上端を両手で包むように抱えると、これ見よがしに起爆スイッチを勢いよく音を立てて右手の親指で押さえ込む。間髪入れずに頭上へ高々と放りあげた。こうしてしまえば、閃光手榴弾の炸裂まで何人も手も足も出せない。
「このわたしを侮った事、後悔させてやる」
閃光手榴弾が意図した通りに軌跡を描いているのを確認しつつ、徽章の男が左腕のバックスイングをとり、鬨の声をあげ2歩先のターゲットに向かって突進した。
一歩——。
ターゲットは将に激烈な光の矢の凌ぐべく伏せているはず。男はその隙をついて、利き腕ではないほうの腕一本で、少女の姿をしたECの末端の工作員を締め上げようとしていた。
自身が装着しているサングラスには、閃光に耐えうる程の防眩効果はなかった。そして遮音ヘッドセットも耳に付けていなかった。だが、それでも全く問題は無かった。あれはカモフラージュなのだ。手榴弾の安全ピンを抜きこそすれ、起爆スイッチは押していない。スイッチ音は引き抜いた安全ピンで手榴弾の金具を叩いて起こしたのだ。
徽章の男が顔を水希に視線を戻し、二歩目を踏み出したとき——屈んでいるはずの目標の首根を上から鷲掴みにしようとしたとき、己を射るように睨みつける少女の真紅の瞳が飛び込んできた。
「なに?!」
ECの能力者の少女がとった行動。それは閃光のダメージを軽減するべく目をつぶり顔を伏せることではなかった。それでは音を防ぐことができない。何より全身を無防備な状態で晒してしまう。畢竟、彼女のとった行動は——。
「何だ?・・・前が見えん!前が、ウオォォ!」
咄嗟に左腕を折り曲げ顔を覆った。だが動き出した巨躯の慣性を止めることはできなかった。
水希の右袖に装備と制服の生地を擦過させながら、男が通過していく。己が身の大きく傾いでいる事にさえ気付くことなく、
水希の視界から巨躯が消え失せたとき、側頭部防御スクリーンにしたたかにぶつけ、ウシガエルの喚声のごとき音をもらしながら、防御スクリーンの下に崩おれていった。
——まだ無理・・・だった・・・みたい・・・、リー・・・ダー・・・。
水希の体躯はすでにバランスを失っていた。眼前の虚空に浮かび上がる何かを手繰り寄せようとするかのように、右手が前に差し出されている。だが、彼女は右手が本当に前にあるのか、己の肉体にひっついている感覚さえも失っていた。
——ごめん、ウィル。・・・命令、守れなかった。
漆黒の闇に堕ちた二つの瞳から、一滴の涙を流すことすら叶わず、濃紺のアスファルトに張られた水たまりに倒れていった。
地に向かう氷に抗うように、水飛沫が一瞬、わずかに天に向かって舞い上がる。
炸裂することのない閃光音響手榴弾が、横たわる二つの体躯に挟まれた狭いアスファルトの地面に墜ち、乾いた金属音をたてて低く二度、弾む。
勢いを失いつつある氷の粒が虚空を漂いながら、静寂の訪れた路地にひっそりとと舞い降りていた。
同日 8時25分 ポイントより上流の対岸の道路ーー
川沿いに建つある賃貸マンションの入り口。
新堂と途中で別れた稲森が、駅から上流方向で2つ目位置する大きな橋を渡り、このマンションのすぐ下に辿り着いたとき、3階の窓の並びでカーテンの掛かっていない部屋を見つけた。
マンションの入り口脇の管理人室で、NHKの朝の情報番組をふんぞり返って見ていた管理人を受付の窓で呼び出すと、警察手帳を見せて件の部屋の鍵を借りた。
稲森がエレベータのドアに達すると、無人のエレベータのかごが、上階でボタンを押した主の下へと上昇を始めたところであった。
笑みとも焦りとも何方つかずな面持ちで鼻息を強く吐く。齢五十にかかろうかという年季物のPMC隊員が、よし、と軽く気合いを込めると、凡そ50kgの重量のあるバックを担いだまま階段を駆け上がった。
鍵を解錠し、勢いよくドアを開けると、鍛錬行き届いた男の肉体が自然と廊下の壁に背を付け、前屈みの姿勢をとっていた。
視界の奥で周囲より微かに明るく浮かび上がる南向きの窓からは、煤で濃灰色に染まる高速道路の巨大な橋脚で上半分が覆われた殺風景な景色が見える。高速道路の防音パネルを以てしても、川の流れの如く絶え間なく駆け抜けていく自動車の騒音は抑え切れていなかった。
冬の冷たい雨は身に滲みるが、部屋の奥深くまで照らし出す冬の日の光を完全に遮るどす黒い雨雲は大歓迎だ。
- AsStory10(6)話〜PMC、対陸軍攻撃陣〜 ( No.182 )
- 日時: 2014/01/02 21:55
- 名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: KZXdVVzS)
蛍光灯のない、僅かな陽光さえもない暗い部屋を、勘とインスピレーションを利かせて廊下から居間へと滑るように移動する。人の温もりも、天の日の恩恵も受けない空間は、外気の侵入が遮られていても吐く息が長らく白い靄として止まっていられるほどに冷え切っていた。南の窓際まで出て、駅の位置を確認しようと窓際から顔を出すと、バルコニーが無いことに気がついた。バルコニーがないので窓も床まで届く寸法である必要もなく、窓枠の下端が中年警備隊員の臍の高さほどで途切れているものだった。
ターゲットが絞れていないので、レンジファインダーで駅までの距離を大まかに計測すると、凡そ250m。窓までの標高が約8m。俯角、1.83度。
稲森が左手首に巻いた腕時計を確認した。新堂と分かれてから5分が経過していた。隊長と別れるときに10分ごとに交信するよう決めていたので、交信は5分後だ。
帝栄の女性警備隊員が離脱してから程なくして、調子の悪かった時空間通信装置付無線が完全に逝ってしまったため、交信にはSIG550に付けたスコープ若しくは背嚢に入れてあるスポッティングスコープのレーザーを使うことになっていた。
再び稲森が窓から顔を覗かせ、左右を一瞥すると顔を引っ込めた。腕組みして荒々しく鼻息を吐き、意図せず虚空に綿飴をつくると、慌ただしく部屋の四方を見回し始めた。
新堂が持っているSIG550は数あるアサルトライフルの中でも精度の高さは随一だが、今回の目標は距離が約250m。窓が床まで達していれば匍匐姿勢で狙撃ができるのだが、あいにくの窓のデザインだ。だからと言って、バルコニーのない窓に銃身をおいて狙撃など目立ち過ぎてあまりに危険であった。どうにかして窓から奥まったポジションで、狙撃体勢をとれないものか。
稲森が対面型になっているキッチンの入り口に来たとき、男の所望する什器が奥の壁際にひっそりと置かれていた。真新しい光沢を放つ乳白色のキッチンの天板より10cmほど低い、ステンレス製の小さなワゴン。稲森が急いでキャスター付きのそれを南の居間まで転がしていくと、窓際から3歩ひいたところでキャスターにストッパーを掛け、50kgの重量のある背嚢を横倒しにして静かにワゴンに載せた。天板を支えるステンレスの部材がギリギリと痛ましい悲鳴を上げて軋んだ。最大耐荷重を400%もオーバーしている荷物を載せられた天板は音を立てて数cm凹んだ。ステンレスの天板のたわみが収まるのを見計らい、今度は横倒しの背嚢の一番内側のジッパーをを開くと、黒いシュラフ(寝袋)のソフトケースを引っ張り出し足下に落とした。
負荷が若干軽減され、ワゴンの呻き声が鎮まりかけると、稲森が新たに満身創痍のステンレス製ワゴンに仮借無く追い打ちをかける。ひかりセキュリティ社独自のバレル折りたたみ機構を施したSIG560の銃身を伸ばすと、やや身を屈めて銃身の先端部分をステンレス製ワゴン上の背嚢に載せる。スタンディングよりも銃身のブレは抑えられてはいたが、狙撃手の姿勢が中腰で安定しない。しかめ面の上にさらに眉間にしわを寄せ、今度はがワゴンを己が身に手繰り寄せると、銃身の根本付近を背嚢に載せた。バレルの半分以上がワゴンの前方に突き出し、中世の沿岸地域によく見られた固定砲台のような
外観になった。
右の人差し指をトリガーに掛け、右肩を銃床に当てる。前に伸ばした左腕と着膨れした上半身でワゴンを挟み込むと、先ほどよりも姿勢の安定性が格段によくなった。胸の内でよし、と小さく声を立てる自分をイメージしていた。
左手首の腕時計が、最後に時間をチェックしてから3分が経過していることを無言のまま伝えていた。
隊長との交信は2分後——。
狙撃の立ち位置と体勢が決まると、すぐさま足下のシュラフのソフトケースの口を開き、力任せに中身を引っ張り出す。バックパックの中から姿を現したのは、ゴアテクス製の寝袋ではなく、殆ど黒に近い、1枚の布地だった。しっかりと押し固められながら幾重にも折り畳まれ、最後に寝袋然に円筒形に丸められたその布切れは、完全に展開すると部屋の左右の端に届逝いて尚あまりがあるくらいの長さがあった。幅についても、天井からぶら下げた下端が床をこすっている。稲森が急いで布地を部屋の左右の壁の、できるだけ高い位置から粘着テープをつかってぶら下げた。布切れは彼が狙撃姿勢をとるステンレス製ワゴンに掛かっていた。
交信まで残り1分——。
生地は非常に薄手であったが、織り目のないその布切れは、光を完全に遮断する性能を有していた。
陽光を遮る黒雲。天空より俯瞰される暗澹とした町並み。光のない町並みの宙に無数の穴を穿つかのように、無彩色のコンクリートの壁面に規則正しく開いた窓の穴。その穴の奥に、部屋全体を横切るように吊り下げられている暗色のベール。これを窓の外から認識することは、人知を以てしてはどだい無理な話であった。まして、件のベールを被り、視界確保のために割いている必要最小限の隙間から10数センチだけ黒光りするバレルを突き出し、200m先の駅に向ける者を穴の奥に見いだせる人間など、いるはずがなかった。
中腰の状態で左腕と上半身でステンレスワゴンを抱え込むという、つい先ほど編み出した奇妙な狙撃の体勢をとると、軽く息を吸い込み、息を止めた。
瞳から拳一つ分間隔を置いたレーザー・サイトののぞき窓に、36倍に拡大された狭い世界が映し出される。虚空を揺らめく特大の氷の滴に、時折視界をぼかされながらも標的の駅の出口を捉える。思った通り現場は由々しき混乱に陥っており、出入り口のほうに乗客がペンギンのコロニーのごとく密集している。それ以上の現場の状況把握は後にし、慎重にSIG550の銃身を、川沿いの道路に沿ってそろそろと動かしていく。
新堂は駅前の現場から川を遡る方向に1ブロック、約20mほどのビルの狭間の路地に身を潜め、顔だけを表に出して現場を哨戒している最中だった。
交信時刻だ——。
ステンレスワゴンを抱え込んでいた左腕をレーザ・サイトまで伸ばす。サイトの接眼レンズ側のそばについているリングを90度時計回りに回すと、サイトの下部に付けられたレーザ照準器が静かに覚醒した。人差し指ほどの太さの赤色レーザが、氷点下の霧雨の降る空間を秒速30万kmで直進し、レーザのスイッチが入れられたのとほぼ同時に200m先の瑠璃色のジャケットを着込んだ警備隊員の足下に赤い点を描いた。レーザ・サイト越しにそれを確認するや否や、リングスイッチを逆方向に回しレーザ光を消した。サイトから顔を反らすと低くうめいた。
——天は我らには向いていないのか。
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