二次創作小説(紙ほか)

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AsStory /予告用中編 『二人の精霊王』
日時: 2015/09/20 00:30
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: 3qG9h5d1)

初めまして!
書き述べると申します。


 この作品は以前、シリアスのカテゴリーだったのですが、第七話からはこのサイトに投稿されている他の方の作品の内容を混ぜ込ませていただくことになりましたので、このジャンルに引っ越してきました!

カキコ内二次(合作じゃないですよ)……結構珍しい様な気もします。

混ぜ込む作品は——
『Enjoy Club』(作:友桃様)
です!
そして
『ウェルリア王国物語』(作:明鈴様)

ぇ、二つもやって大丈夫なのかって?貴様のプロットどうなってるんだよって???

(黙殺。。。。。。)



1点注意していただきたい事が……。
冒頭でも触れておりますが、もともとシリアス・ダークの作品なので、そのカテゴリー特有の表現があるかも知れません。できるだけグロい表現は使わないつもりであはりますが……。


更新の間隔が2か月空いたりすることがよくありますが、寛大な御心で受け入れてくださいますと大変有り難いです!


【最新話直前の状況】

(現在修正中・・・・・)




【お客様(引っ越し前の方含みます)】
  アメイジング・グレイス様
  アサムス様
  友桃様
  通りすがりの者です。様
  (朱雀*@).゜.様



【目次】

◆◆ 序章 ◆◆

 1話 >>1

 2話 >>2-3

 3話 >>4-5

 4話 >>6-11

◆◆ 第一章 ◆◆

 5話 >>12-13

 6話 >>14-19

 7話 >>21-25

 8(1)話 >>29-31

 8(2)話 >>38 >>41 >>44 >>46 >>48 >>51 >>53 >>58 >>60-61 >>63-64 >>70-75

 9話 >>81-82 >>87-88

 9(2)話 >>90-91

 9(3)話『時空間操作システム』 >>95-96

 9(4)話『副長官、乱心』 >>98-100

 9(5)話『時間ときを越えて』 >>105-107

 9(6)話『地を駆る鳥』 >>110-114

 10(1)話『ひかり、在れ』 >>118-119

 10(2)話『幕開け』 >>129-132

 10(3)話『交錯する時間とき>>142-153

 10(4)話『混迷に魅入られし者たち』 >>160-166

 10(5)話『絶体絶命』 >>172-175

 10(6)話『PMC、対陸軍攻撃陣』 >>180-189

 10(7)話『突入』 >>192-197

 10(8)話『スナイピング』 >>200-204

 10(9)話『ひかり、在れ』 >>209-210 >>213-214 >>227 >>229-230


◆◆ 第二章 ◆◆

 11話『逃走』(更新中) >>232-239


〜〜小説紹介〜〜
『☆星の子☆』((朱雀*@).゜. 様) >>108
『Enjoy Club』(友桃様) >>109


書き始め 2010年冬頃
(もう3年経ってしまったんですねぇ)

〜〜予告用短編〜〜
『月光』 >>126-127

『二人の精霊王』 >>243-245 <<<<<<<<(現在作成中!)

〜〜クリスマス短編〜〜
『クリスマス・プレゼント』 >>217-225

〜〜キャラ絵〜〜
メクチ >>207
水希 >>208
水希(変装後) >>212


登場人物一覧
>>206 (リアルパート)
>>216 (ファンタジーパート)

〜追伸〜
ツイタやってる方。。。R18記事があってもOKって方は、ちょっとフォローしてやってくれませんか?? => @motto_e

あんまり呟かないですけどねぇ〜(ぇ?)

As Story 〜突然ですが、光曳梓編予告〜 ( No.125 )
日時: 2013/02/18 12:33
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: NSVLab2D)
プロフ: http://www.youtube.com/watch?v=ZIsQPdC9YnY

こんにちは〜。

最近寒すぎ、風強すぎ、花粉飛びすぎ、仕事の納期近すぎ、最悪の季節到来ですねぇ。

さて、今回のアップ内容は、タイトルのとおりです。
あまりにも本作品の主人公、光曳梓の出番が来ないので、作者がこの男の話の予告編を作りました。

 というか、光曳梓でバレンタインの短編つくろうと思ったんですが、全然間に合わなくて...(汗)
それじゃぁ作品中のバレンタイデー用に書き換えてるのを、未完成のままアップしてしまえ〜!、というのが実のところです。(ぉぃぉぃマジかよ)

ちなみに、現在のASの日付はもうひとりの主人公、水打静曰く「ふたまるひとにぃまるいちふたまる」要は2012年1月20日です。1ヶ月もしないうちにV'デーがくるのです。

 とりあえずこんな雰囲気の話が今後あるんだなぁと漫然と思っていただければ、我が目論見は成功裏のうちに終えることができます。が、この話も由縁のある曲がありますので、リンクから聴いていただけると、もう少し話の雰囲気が伝わるかなぁと。。。。

この次は、本編第10話(1)〜光、在れ〜の完結編書くので、しばしお待ちを。。。。


 予告編なので、前提の説明がかなり欠けててわけわからないかもしれませんが、何卒ご了承の程を。。。



 それでは、光曳梓編 予告短編『月光』ですっ

As Story 〜光曳梓編予告用短編『月光』〜 ( No.126 )
日時: 2013/02/19 12:58
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: OHW7LcLj)
プロフ: http://www.youtube.com/watch?v=ZIsQPdC9YnY

短編『月光』



 階下の天井よりも1.5倍ほども高さのある屋根裏部屋の南側に据え付けられ縦長の格子状の窓枠をすりぬけて、青白い月の光が入り込んでくる。永らく人が入ることのなくなっていた空間には、所狭しと漂う埃が、雪の精霊が粉雪とじゃれて巻き起こすダイアモンドダストのようにチラチラと煌めいている。
 屋内の「粉雪」が克明に浮かび上がらせる青白い光芒の先にも、永年積もり続けてきた綿ぼこりや粉塵が雪原のようにフローリングの床を真っ白に染め上げていた。

 一人のキリスト教司祭の処刑された今日この日に、愛する人にお菓子を贈り愛を表明するという、至極不謹慎な行事で世の中が盛り上がりをみせる今日この夜、閑静な新興住宅街の真ん中にたたずむ広大な廃屋は、まだ建築物としては健全な状態を保っているにもかかわらず、どこからともなく忍び込んでくるすきま風によって身を切るほどの寒さに見舞われていた。

 大人の男性がぎりぎり手が届くか届かないかの高さにあるの窓のすぐ下のあたりで、綿あめのような白い靄がゆっくりと広がる。少し間をおいてもう一度。靄のすぐわきで、冷蔵庫よりも冷えた室内にも拘わらず、七分袖の黒い無地のワンピースに薄手のこれも黒い無地のカーディガンを羽織り、座り込んでいる中学生くらいの少女の人影があった。傍らには無造作に置かれたキャンバス地で黒無地の小さな手提げ。そして、右手のそばにはモノトーンを基調にした楕円形のポータブルスピーカーと「W」の文字が右下に印字された黒いMP3プレーヤーが床に転がっていた。
 月光の光芒と少女を包む暗闇とのコントラストで、ほぼ全身の輪郭の内側が一様に濃い灰色に染まっている。人影の頭頂部だけがわずかに蒼白の光芒にかかり、薄汚れた赤茶色の髪の毛が輝きを取り戻す。そして、髪の1つ1つが艶やかな白い光沢を放ち、沈んだ赤茶色の流麗なドレープの中で絹糸のように繊細な無数の光条の弧を描いた。

 魔術を使って描いたような真円形の満月が、地上を睥睨するかのように、一番上の格子からその表に描かれたユニークな模様を、斜め下に向けている。

 でも、本当に下を向いているのかしら?上を向いているようにも見えるし、それとも真横?

 少女が出窓のすぐそばに座り込んだまま、とりとめもなく考えているうちに、格子にくりぬかれた夜空を、月の光に照らされた灰色の雲がゆっくりと左から右に流れていく。屋根裏部屋の窓は幅が狭いので、すぐに雲が舞台袖へ隠れてしまう。だが、ややもすればまた新しい雲が右やら左やらからあらわれて、しばらくするとまた消えてしまう。
 窓枠のいちばん上で偉そうにしているあの月も、あともう少しも待てば、この狭い夜空から消えてしまう。

 私のいる部屋にも月明かりが入り込まなくなってしまう。
 
 不意に少女の脳裏に言葉がよぎると、心の中で何かが弾けた。
 あたりが完璧な静寂に包まれているのに気がつくと、少女の華奢な体を強い寒気が襲った。温度の感覚はあるが、どんなに暑かろうと寒かろうと、この世界の人々のように苦痛に感じることはない。だが、意識が吸い込まれていきそうな、常に暗闇のなかに沈むこの屋敷の沈黙にはなぜかいっこうになれる気配がなかった。
 月が格子窓に入りかけたころからずっと、深い静寂がこの屋敷を覆っていた。でも、少女の心はどこかざわついていた。それが自分に何かを伝えようとする声だったのか、それとも無為な雑音だったのか、まるでわからなかった。目を覚ますと、細に入り微に至るまで克明に描かれていた夢の中身を忘れてしまうように。

——それならば、わからないままでいいのかも知れない。沈黙に気づいて、それまでの胸騒ぎを忘れてしまうのであれば、その程度の惑いなのだから。

 膝を抱えて座り込んでいた黒服の少女が足を横に崩す。白い綿埃を押しのけるようにして、青白い小枝のような左手が、しなやかに床を滑る。やや左にかしげた上体を左腕で支えるような姿勢をとった。再び左腕が床に積もった大小さまざまな埃を巻き込みながら少しずつ床を滑り始める。青白き月の光芒の外に広がる黒一色の世界では、漆黒の衣服はおろか、きぬから露出した真珠のように透き通った白色の少女の肌さえも判別するのは難しい。
 綿ぼこりや粉塵が床にこすれてたてる乾いた音が止まると、少女は埃まみれの冷たいフローリングの床に横たわっていた。両腕を腕枕にして左の頬を置き、目の高さにまで積もった綿ぼこりを眺めていた。ほぅ、とやさしく息を吹きかけると、大きい綿ぼこりは億劫そうに床を転がり、細かな粉塵は少女の視界を右へ右へと渦巻き、煌めきながら真っ暗な雪原を乱れ飛ぶ。
 廃屋の正面で荒れ果てた体を晒す広大な前庭のせいで街灯からは遠く離れ、電気もガスも止められてしまった空間の月明かりの届かない場所で、埃の類を見ることなどこの世界にはびこる人間の誰にもできない芸当だが、夜目が異常に利く少女の瞳には、細かな粒子があちらこちらで白く煌めき、漂うさまが、鮮明に映し出されていた。
 瞼を細めると光の粒の輪郭がぼやけ、より一層雪の結晶のように見えてくる。あたり一面にぼた雪が音もなく漂う光景は、かつて彼女が最も幸福を感じていた時——雪深い北方の丘陵地帯の大きな屋敷で、家族全員が一つ屋根の下、平穏な毎日を送っていたあの時を彷彿とさせていた。
 だが、一家の安寧は、父親の行き過ぎた娘への愛情が引き起こした神への背徳行為によって、跡形もなく崩れ去ったのである。
 その報いは、過ちを犯した張本人である少女の父親だけではなく、父親の行為に対する被害者であるはずの、少女自身も受けることとなった。彼女が背負わされた宿命は、俗世の穢れとは遠く隔てられた大自然の只中で、与えられたものを真っ直ぐに、素直に受け入れてきた無辜な子供の心には、苛烈を極めるものであった。黒曜石のように深くしとやかな艶を放つ黒髪は、欲望と憎悪にまみれて濁りきった人間の血の色の如く薄汚い赤茶色染まり、少女の身につけるすべての衣服は、華奢な体躯の深奥に植え付けられた呪いを滲み出すかのように、黒く染まっていったのである。
 少女が嫌というほど目の当たりにしてきた、極限状態で垣間見せる見せる人間という生き物の本性よりも、はるかに純粋な偽りの粉雪の白さに、胸が疼いた。

 あの時から900年余り、わたしは何とかして宿命さだめを受け入れようと努力してきました。でも、やはり無理でした。わたしはあの世界を捨ました。そして、気がつくと、ここに辿りついていました。

 闇にただよう粉塵は、目の前に横たわる人間のことなど意に介す様子もなく、淡々と虚空を漂い、音もなく舞い降りていく。
 
 宿命から逃れられないのはわかっています。……でも、戻りたくない。あんな陰惨な光景をわたしが見て、どうしろと。

 視界の右側の外側から、月のなでるような視線を感じた。

 際立った信仰心があるわけでもない、魔術師としての訓練も受けたこともない、辺境の寂れた地方貴族の末娘に生まれたわたしが、遥か昔、大き過ぎる生を拝受したときに、どうして自分の心は壊れてしまわなかったのでしょうか。

 こみ上げる感情が声になろうとしていた。

「どうして神様は—ー」

「わたしを、壊してくださらなかったのでしょうか」


As Story 〜光曳梓編予告用短編『月光』〜 ( No.127 )
日時: 2013/02/23 17:14
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: KZXdVVzS)
プロフ: http://www.youtube.com/watch?v=ZIsQPdC9YnY

 青白い唇をかみ締め、眉間に眉を寄せ、薄目を開いてピンとのずれた光景を見つめながら、彼女の頭上を通り過ぎる、蒼き光芒を発する天体に、静かな告白をした。

 始めは自分をこのような運命に貶めた張本人である父親を激しく呪った。だが、幾百年もの歳月を経て、父の行為は人の子の親ならば誰しもが持つ、親心がすこし度を越してしまった程度に片付けられるまでの寛容さを持つようになっていた。
 彼女の父も、己の背徳に対する相応の報いがために、正体を失い、世界のいずこかを彷徨い続けているのである。彼女の怨嗟の矛先は、自分を痛め苦しめ続けながら、世界中の人々に敬われている神に向けられていた。

 飛び疲れて舞い降りていくる一部の塵によって、いつのまにか彼女の黒服を、黒ずんだ赤茶色の髪を、ほのかに白く染め上げていった。これ以上心をすさませるなと、取るに足りない塵たちにたしなめられているようだった。
 少女が腰のあたりに放り出されたままの、MP3プレーヤーに右腕をよろよろと伸ばす。どうしようもないくらい、落ち込んだとき、心がすさんだとき、少女は音楽に癒しを求めた。それは向こうの世界にいたときも、ここでも変わらなかった。
 向こうでは、音楽は自分達で歌い、奏でるものであった。しかし、この世界では少々事情が違うようだった。少女の小さな手にさえ収まる小さな鉄の塊から、いやそこから離れたあの網の張ってある物体から音が出てくるのは、見ているだけでも陰鬱とした心がすこし紛れた。そして、件の鉄の塊にはめ込まれた画面で、あの曲を——あの人が自信なさげに薦めてくれたピアノの独奏曲を——選び、画面の下のほうにある右向きの三角印を押さえるだけで、900年余りに亘って鬱積してきた悲嘆、怨恨を、束の間、完全に霧消させることが出来るのだ。

 手のひらの小さな塊がこれから奏でようとする旋律を一足早く心の中で思い浮かべる。そしてこの曲を教えてくれた、この世界で一番初めにあった人物——不気味に黒一色に染まった少女の衣服を絶賛し、彼女の薄汚れた赤茶色の髪をあかね色といって気に入ってくれたあの人の姿を思い浮かべる。

 昨日、一昨日、もう一日前からだろうか、毎日のように足しげくここに通っていたその人間の姿を見ていない。今度はいつくるのだろうか。この世界の音楽をもっと知りたい。音楽を知れば知るほど、その場しのぎではあれ、陰鬱な気持ちから逃れていられる時間が長くなるのだ。
 舞い降りる粉雪の流れが一瞬、乱れたような気がした。

 ——何処からか隙間風が入り込んでいるのかしら。

 少女がまぶたを閉じ、準備が整うと、MP3プレーヤーの画面下にある、右向きの三角印に親指を持っていった——。


 町の真ん中に居座るあるじを失ったやしきは、主が生前、よく手入れをしていたので、一年以上たった今も床板や壁がしっかりしていた。110Kg以上の負荷をかけてもきしむ音一つたたない。
 町が寝静まりかえった深夜、魁夷のオタク、光曳梓は人目を忍んでお化け屋敷と呼ばれている町の廃屋に侵入していた。特段荒らされた形跡もなく、きっちりと窓が閉められた一階は、口がかじかんでしゃべれなくなる程の外に比べればずっと温かかった。

 —ー屋敷の南側に並んでいる大きな窓が日中の陽光を取り込んでいるからか。
 それでも目の前で吐く息が暗闇で白く浮き上がり、次の靄と一瞬重なると、虚空に溶けていった。
 暗闇に目が慣れても、伸ばした腕の先が見えない深い闇に覆われた廊下を、スニーカーのラバーと塵がこすれる音が不安げに響く。それと同時に淡白なLEDライトの光線が廊下の床や壁、天井を縦横無尽に走る。この廃屋に侵入するのは既に10回をこえていたが、時々廊下の曲がる場所を間違えることがある。
 お化け屋敷と仲間内から呼ばれているこの屋敷にはじめて忍び込んだとき、廊下が入り組んだ屋内では曲がり角を迎えるたびに、その向こうに人の形をした人ならぬものが立っていそうな妄想に囚われていたが、その日のうちにそんな妄想は吹き飛んでしまった。光曳は凡庸な幽霊がたっているくらいでは話にならないほど、恐ろしい体験をしていた。あの階段の向こうで——。
 光曳の足音が止まると、目の前に幅の狭い、やけに急な木製の階段が大きく口を開けた暗闇へ呑み込まれるように伸びている。
 ごくりと図太い喉から音がした。階段は屋根裏へと続いている。光曳が重たげに、(実際この男の足は酷く重たいのだが)右足を階段の一段目に置く。わずかな音も立てず、きわめて慎重な一歩だった。

 歩みが慎重なのは、暗闇へ向かうのが恐ろしいからではない。
 ——音の在る無しを確かめようとしているのだ。暗闇の向こうの屋根裏から発せられる音の有無を。

 何も物音がしないのを確かめようとしているのではない。
 ——音がしているのを確かめたかった。暗闇の向こうの屋根裏から音がするのを。

 この階段を何回も上がっているうちに、屋根裏に上がりきるまでのわずかの間に、視界の向こうから飛んでくる人間味あふれる物音を耳にするのが楽しみになっていた。気分が高揚してきたところで階段を上がりきり、ヒソヒソ声でお決まりの言葉を発する。
 2次元の世界に肩まで浸かっているはずのこの男にとって数少ない例外である、現実界での最高の瞬間だった。3日ほど大学の仲間内とのようでここに来ることが出来なかった。殆ど上の空ですごした3日間だった。1分1秒が果てしなく永く感じられ続けた3日間だった。
 忍びがたきを忍び、耐え難きを耐え、今日再び、あの瞬間があと少しで訪れようとしている。

 LED懐中電灯で足元を照らしながら左足を2段目に置く。真下を向いていた光曳の顔が、矢庭に頭上の暗闇に向けられる。男の顔は不安の色で染まり、口が情けなくへの字に曲がっている。

 音がしない。どうしたのだ。

 音は立てずにすこしペースを速め、3段目、4段目と進んだ。

 やはり音がしない。

 いい年をした男の双眸から、今にも涙があふれそうになっている。ついにこのときがやってきてしまったのだろうか。初めて会ったときから、常々ここを早く出たい、こんなに静まり返ったところ、わたしには耐えられないとぼやいていた。だから4日前、ウォークマンをあげた。自分の使い古しだと相手には説明したが、光曳が長らく購入するのを躊躇していた最上位のモデルを、バイト代が入るなり電気屋に全力疾走して買ってきたのだ。ついでに彼のセンスでというオマケつきだが、おしゃれと思えるアクティブスピーカーを、それも無線接続のものをセットで買った。

 6段、7段とあがる。10段ある階段は残り3段を残すのみとなった。階段を上りきる前に次の1段を上がればドアのない屋根裏の、微生物の砦と化した床面の階段付近の様子がはっきりと目に入る。そして残り2段を上がるころには、否応なしに屋根裏の全容が光曳のつぶらな瞳に飛び込んでくる。ただし、光があればという条件付で。

 物音がしないという、眼前に立ちはだかる現実が受け入れられず、足音をさせないまま8段9段を昇った。しおれる巨漢を哀れむかのように、斜め上の窓から慈悲深き月が、床面の一段下に立ち尽くす巨漢の手前まで静かに光の手を差し伸べている。

 夜目はあまり利かないほうであるが、月光の光芒の向こうにも全く何も見えなかった。

 惰性で最後の段を昇りきると、膝からゆっくりとくず折れる。衝撃で左胸のたがが外れないように、そっと音を立てないように、ゆっくりと、静かに。

 行ってしまった、遂に。

 声が出せず、唇だけが空しく形を描いた。

 メ…ク…チ—ー。

 不意に、窓際の床のほうから、澄んだピアノの音がした。
 光曳が聴いたことのある曲だった。
 今まで聴いた中で最高の弾きだしだった。
 男が思わず光芒を溯るように視線を走らせた。ふと笑みがこぼれた。

——この曲は絶対、忘れられない。

 曲の名は、クロード・A・ドビュッシー作曲『月の光』



〜『月光』 完〜

As Story 第10話(2)〜光、在れ(2)〜予告 ( No.128 )
日時: 2013/02/24 00:40
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: KZXdVVzS)

こんばんは〜!

さて、、、、まず最初に謝らせてください。スミマセン。。。

前のコメで、『光、在れ』の完結編を書くと述べていましたが、完結できませんでした。たぶん『光、在れ』は3つに分かれると思います。

なんだかこういうパターン、予告した回数より長引いてしまうというパターン、癖になってしまってます。直さないといかんなぁ。。

あと、最初から最後まで水希一色というのも、まったく持って守れませんでした。。。。。
 って、誰もそいういうの期待してないですよねぇ(苦笑)


ということで、『光、在れ』中篇です。
今回はAsとECそれぞれ出番が半々くらいです。そして、4ページです。。。

じゃっ!

As Story 第10話(2)〜幕開け〜 ( No.129 )
日時: 2014/01/02 17:43
名前: 書き述べる ◆KJOLUYwg82 (ID: KZXdVVzS)
プロフ: http://www.nicozon.net/watch/nm8070136

『幕開け』


二〇一二年一月二十日 午前8時 神奈川県横浜市中村川沿道——

 昨夜の天気予報の通り、未明から降り出したみぞれのように冷たい雨は、天気予報が更新される午前5時時点でも気象庁の思惑通りの経過をたどった。

 モノの受け渡し場所であるJR線停車駅からも望むことのできるはずの、全国の高層ビルの中で第2位の高さを誇る横浜ランドマークタワーの雄姿は、自身の重さで徐々に沈みゆく雷雲によって大半の部分を覆われ、閃光ほとばしるいかずちいましめによって、296.33メートルの巨躯が羽交い絞めにされていた。
 港をすっぽりと覆い尽くす雷雲はそれでも遊び足らず、凍りかけの大粒の雨と無数の稲妻をかれこれ1時間近く下界に落とし続けていた。

「現在南関東に激しい豪雨を降らせている雨雲は、午前中には北へ抜け、午後は冬らしい快晴になるでしょう」

 ターゲットの二人から西へ約1,000メートルほど離れた地点では、新堂らの一行が二人が20分あまりの移動後、とどまり続けている駅へと通じる川沿いの道を東へと駆け足で前進していた。分刻みで増え続ける歩行者の傘が彼らの前進を意図的に妨害しているかのように、変幻自在に歩道を車道を行き交っている。時空間転送システムは、転送地理的誤差が最大1,000メートルという仕様を大きく逸脱し、目標地点から2,000メートル近く離れた場所に3人を転送していた。

 出発前に用意しておいたゴアテクス製の黒いレインウェアを羽織った男が、顔をすっぽりと覆うフードの奥で鋭く舌打ちをすると、ヘッドセット型の無線通信装置のチャンネルを、社の内規で定められている番号に合わせた。

「ダリア。到着して早々、俺たちはなんてツいているんだ。どうぞ」
 通信を相手に渡す直前に、フンと鼻を鳴らす音が紛れ込んでくる。

「リリー。そうですね。秋の南紀で豪雨に打たれながら、夜通し要人の宿泊施設の周辺警備に就いていた時のことを思い出しますよ。どうぞ」
「ダリア。……ああ、南紀か。それはご愁傷様でしたね。どうぞ」

 いささかぞんざいな返事をし、新堂がフード越しに目玉をむき、頭上に垂れこめる雷雲を睨みつける。

 アスファルトやフードを強かに打ちすえるあられまじりの雨粒の轟音のせいで、通信端末のヘッドホンを介してもところどころ言葉が聞き取るのが困難な時があった。
 新堂ら一行のように、極秘とは言わないまでも、公衆の面前で大立ち周りができない任務の隊員たちにとって、雨天は決して悪い環境ではない。道行く人々の視界が、傘や雨具で大きく遮られているために、彼らの姿を目の当たりにされることが少なくなるうえ、彼らが面貌を覆っていても、不審がられる可能性が大幅に減少するからである。

 だが、今日に限ってそんなメリットを微塵も享受することができなかった。仲間との会話に支障をきたすほどの騒音が任務の遂行の足かせになりかねかったのである。そして、豪雨よりも憂慮すべき事案が、新堂のすぐ後ろの稲森からさらに離されること20メートル、たかだか10kgの装備に四苦八苦し、顔面をゆでダコのように真っ赤にして走っては立ち止りを繰り返している女性隊員が一名。フードで頸を覆っているにもかかわらず、女の頬や額を無数の雫が滝のように流れている理由を考えたくなかった。

 新堂が部下の様子を確認するために後方を確認すると、稲森が後ろを気にする姿が、しんがりの部下よりも先に目に入ってきた。これで2度目だ。

 「あいつ、肝心な時に発熱か」

 新堂が激しく苛立ちながら、後方の稲森に肉声でも聞こえるように声をあげた。
 何人なんぴとも最後尾の隊員の正体について微塵も疑念を抱くことはゆるされない。新堂が胸のうちでしかと己に言い聞かせた。

 あの女は平時は色白なだけに、今のつらは見ようによっては高熱を出しているようにも見えなくもない。
 遥か後方で静が声を掠れさせながら、少しずつこちらに接近してくる。また立ち止った。
 俯いたフードからわずかにのぞかせる静の顔色を見ると、本当に発熱しているようにも見える。新堂がフード越しに右耳のすぐ下にある通信端末のスイッチを押しかけたところで右手を戻した。そしてようやく数メートルというところまでたどり着いた静に自ら近寄っていった。前かがみになり、膝に手をつき立ち尽くす静の前で仁王立ちになった。

「スイレン、聞こえるか」

 俯いた頭の上から、轟音に混じって男の声がする。怒号が飛ぶのかと思い、思わず身を硬直させたが、静の意に反して低く、ゆっくりとして抑揚のない調子だった。体を起こす気力がなく、顔だけを持ち上げ上目遣いで睨みつけているような姿勢になった。肩と背中を激しく上下させながら、辛うじて声を搾り出した。

「は、はい」
「向こうにファーストフード・ショップがある。そこで休んでいろ。必要があれば私が無線で呼び出す」

静が顔を俯かせ、下唇を噛み締める。フードを叩きのめすあられの鈍い音が、同時に静の鼓膜も打ち据えようとしていた。

「わたしも一緒に…」体を持ち上げ、新堂と正対した。
「行かせてく——」

「だめだ」あまりにも淡々とした調子に、隊長の決定が翻る余地が無い気配を、静がひしと感じ取っていた。

「ただでさえ当初の予定の倍近い距離を移動しなくてはならない状況にある。君のペースに合わせていては日が暮れてもポイントに辿りつけない」

「新堂さん!」

 なんと言われようと引きがらない部下に、それを払いのけようとする上官。互いに一歩も譲らない二人は豪雨にもかかわらずしばらくの間、押し黙ったままにらみ合いを続けた。

 貴重な時間を浪費しつつ延々と続く根競べに音を上げたのは上官のほうだった。

 突如、新堂が半歩身をひいた。

 そして、強かにかかとを鳴らし、部下に対し気をつけの姿勢をすると、頭を深々と下げた。静があわてて新堂を起こそうとする。彼女の動作を遮るように新堂が体を折り曲げたまま声を発した。

「すまない、水打。このような事態に陥ってしまったのは、全て私の責任だ。私が己の能力を過信してしまったのがそもそもの原因なのだ。わたしが適宜立ち回ればお前の至らぬところは全てカバーできると思っていたのが間違いだった」



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