複雑・ファジー小説
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- DARK GAME=邪悪なゲーム=
- 日時: 2012/09/14 21:51
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 3TttADoD)
えーと同じくファジーで能力もの書いてる(打ってる)狒牙です。
今回は結構暗そうなものをしたいなということで・・・
まあ、言ってしまうと時折(多分頻度は少ない)グロイかな?
基本的には普通ですので・・・
アドバイスとか変なところ(誤字脱字)があったら言ってください
よろしくお願いします
下手に内容を説明するとネタバレみたいになるんで
一気に一話目打ちます。
そしてこの作品では文章の形式を変えてみたいと思います。
一話目 招待状
「暗いなぁ・・・」
夜道を、一人の男子高校生が帰っていた。もちろん一人でだ。
等間隔に設置されている街灯の光を頼りにいつも通りまっすぐ家に帰っていた。
高校に行き始めてもう三カ月程度経っている。二回目の定期テストが終わり、その手ごたえを塾に伝えに行った帰りだ。
辺りはもうすっかり暗くなっているが、今日はたまたま曇っているだけでまだ八時にもなっていない。普段ならもう少し明るめだろう。今は月の光すらほとんど届いていないのだから。
家にたどり着く寸前の急な坂道に青年は差し掛かった。ここだけは何年暮らしていても全く慣れることはできない。角度がそれなりに急な上、それがダラダラと百メートルも続いているのだから疲れている時にはお手上げだ。疲れる意外にここを説明することばはパッとは思い付かない。漢字で表すなら『苦』だ。しかし、苦あれば楽ありということわざもある。
息を荒くして切らしながらその坂を登りきった彼は汗で少し濡れた顔を上げた。そこには、いつも通りの自分の家の景色があった。隣にある家も普段と何一つ変わらない。
その家の門の前を通った時にチラッとその中の様子を見た。そこには、住人の一人であるまだ制服を着たままの女子高生がいた。
「あっ、先輩こんばんは」
「おー、楓じゃん。塾?」
それは紛れもなく自分の部活の先輩だった。楓と呼ばれた彼の本名は楓秀也(かえで しゅうや)。二人とも同じ高校の陸上部員だ。
といっても、楓は長距離、先輩の方は短距離だった。この時間がまさに『楽』の時間だ。
楓は先輩のことを尊敬している。なぜなら、目の前にいるこの人間は去年インターハイで優勝したからだ。距離が何であろうと関係なく、速い者にはすぐにあこがれる性格だから家がすぐ近く、というより隣の家にその人が住んでいるのは光栄だった。
ここで一つだけ勘違いしてはいけないのが、別に恋愛対象として見ているのではなく、好きは好きでもスポーツ選手のファンのような感覚だ。思慕の念よりも崇拝と言う方が近い。それほどまでにこの先輩を慕っている。
ついでに言っておくならこの人の名前は竹永叶(たけなが かな)という。
「普通科は大変だね」
重い教科書を何冊も詰め込んだ大きなリュックサックを背負って地獄と読んでもいい坂を登り終えた楓に笑いながらそう言った。
彼らが通っている高校は、体育科と普通科に分かれている。竹永の方は体育科で、楓は普通科だ。しかもこの学校は体育科の連中はスポーツに強く、普通科の連中は勉学ができるというものだ。だから地元でもかなり有名な行きたい高校ナンバー1に選ばれ続けている。
「そうですね、でもテストが一段落したんでしばらくは楽な生活ですね」
そう言うと、今度は先輩があからさまに疲れたような顔つきになった。その理由は簡単だ。夏休みは腐るほど大会がある。一年にしてインハイで優勝したのだから大会に出されまくっているのだ。相当にだるそうな顔をしている。
もうすぐ鬼の合宿と呼ばれるイベントが近づいているからだろうか?
「たまにさ、裏側の世界があったら言ってみたいと思うよ」
このポツリと特に重要な意味を持たない言葉が発せられたのを聞いたとき、ふとある噂を思い出した。いや、都市伝説というべきかな。内容はこんなものだ。
真夜中は気を付けないといけない。特に招待状を受け取ったなら。
招待状は突然現れる。血のように紅い封筒にどこまでも続く深い闇のように冷たい黒い紙に『You are invited』と白く描かれた紙が入っている。
それが招待状だ。そこでは夜な夜な残酷なゲームが行われているという。
まあ、この話はまだそこまで出回っていないので、元からそういうのに興味の無い先輩が知るはずもないからただの愚痴だと思ってスルーしようとした。でも、自体は思っている以上に深刻だった。
「なんかさっきポストを見たら真っ赤な封筒が入ってたんだ」
これを聞いた瞬間にはまだただの世間話だと思って普通に接していた。
だが、その一秒後にまたしても噂を思い出した楓は硬直した。それでも、先輩はその封筒がどういうものなのか説明しているからこっちの違和感に気付いていないが、楓の胸の中では胸騒ぎがしていた。
先輩は、その中からどす黒いハガキを取りだした。そこには、やはり文字が書いてあった。
『You are invited』
これが視界に入った瞬間、瞳孔は一瞬にして開いた。そこには、幽霊を連想させるように白い字でそう書かれていた。
かく汗の中に冷や汗が混じる。これではまるで噂と同じだ。
「後ろにも変なことが書いてあるのよね」
そう言って今度は紙をひっくり返した。そこには、今受けた衝撃よりもさらに強いショックを与える文が書いてあった。
『おめでとうございます。あなたはご当選いたしました。裏の、闇の世界へのペアチケットです。あなたと、もう一人誰かをお誘いください。何、迷うことはありません。隣家の後輩で結構です。[げえむ]は今晩の八時から、次の日の午後八時まで行われます。それまでにもう一人の方とご一緒しておいてください。』
背筋に悪寒が走った。この内容を見る限りこれの差出人は明らかに先輩を狙っている。隣家の後輩とはまず俺で間違いない。
怪しい雲がさらに月の光を隠すようにもうもうと寄ってくる。ふと時計を見るともうすでに時刻は七時五十九分を示し、秒針はもう・・・
十二の文字にかかろうとする瞬間だった。
秒針が五十九秒から六十に動いて行く。その動きがとてつもなくスローに感じられる。体は、ピクリとも動かなかった。
刹那、手紙から迸った漆黒の闇は叫び声を上げさせる暇なく一瞬で楓と竹永を包み込んだ。グチュグチュと妙な音を立てて闇の繭を作り、ゆっくりと地面に溶けていくように小さく下から萎んでいった。
続きます
第一章 鬼ごっこ編
>>1>>2>>3>>4>>5>>6>>7>>9>>10>>11>>13>>14>>17>>18>>19>>20>>21>>22>>26>>27>>29>>30>>33>>36>>37>>40>>41
>>42>>48>>49>>50>>51>>52>>55>>56>>57 総集編>>60
第二章 日常—————編 募集キャラ>>70
>>61>>64>>65>>66>>67>>68>>69>>72>>73>>76>>79 総集編>>80
第三章 楓秀也編 プロローグ>>81
>>83>>85>>89>>91>>94>>95>>96>>97>>99>>100>>103>>104>>105>>106>>110>>111総集編>>112
第四章 氷室冷河編
>>113>>114>>115>>116>>117>>118>>119>>122>>123>>124
コメントしてくれた人です(一度でもしてくれたら嫌でも載ります。すいません・・・)
ryukaさん「小説カイコ」「菌糸の教室」「壁部屋」の作者さん
千愛さん 総合掲示板の方でお仕事なさってます
赤時計さん「花屑と狂夜月」「他人の不幸は毒の味」の作者さん
ゆヵさん 「SNEAK GAME」「めいろ」の作者さん
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 第二十六話更新 ( No.38 )
- 日時: 2011/10/13 22:58
- 名前: 赤時計 (ID: u5ppepCU)
ジール死んでたーーー・・・!
赤時計です。こんばんわ(笑)
いやはや・・・痛みという恐怖はない代わりに、消えるという恐怖が!私的には、どちらも怖いです。ビビりなので(笑)
氷室ちゃんのSっぽいキャラが好きです
アダムの使者ご愁傷様ですねぇ。。。
では、更新頑張って下さいませ!
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 第二十六話更新 ( No.39 )
- 日時: 2011/10/14 20:55
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: biv7vyHq)
- 参照: http://www.kakiko.cc/bbs2/index.cgi?mode=view&no=5780
ジール、ご臨終になりました、はい。
俺も消えるも痛いもどっちも嫌ですね、消える方は想像するだけで冷や汗ものです。
あっ、氷室気に入りましたか、ありがとうございます。
いや、もうあの人ちょっと言葉づかい悪くしすぎたかと思いましたが大丈夫そうですね。
確かにあの人はSです(笑)
しかし楓にはもう悪口ではなく揚げ足取りしか未だできず・・・
この作品結構一人一人の個性が弱く感じることがちょっとずつあるんですよね・・・
天の声は個性が多少あると自分では思っていますが。
ていうかアダムの使者三人とも全員ですね、個性はそれなりにあり?ぐらいの。
後、キャラ募集的なのやってます。参照どうぞ。
もう残り一人なので、誰かお願いします・・・・・
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 第二十六話更新 ( No.40 )
- 日時: 2011/10/17 21:50
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 8TfzicNZ)
- 参照: DARK GAME更新ラッシュの始まりー
第二十七話 追う者と追われる者
市街地で、次々と爆炎が上がる光景を誰が見たことがあるだろうか。平和な日の本の国に生まれた人々はほとんどいないだろう。戦争の体験者は見ていても当然だが、その後に生まれた若者は皆が知らないだろう。そんなことはもう、画面の中や紙の上でしか見ることはできないだろうと何年も思っていた。そんな状況に直面したくはないとも思いながら。
現実的にその状況に直面した今となっては、やはり意見は変わらず絶対に直面したくない。なぜなら、簡単に死んでしまうからとしか言いようが無い。まだまだやり残した事もしたい事も沢山残ってしまっているし、死という物は本当にとても怖い。永遠に、他人との干渉を隔絶される。
今、すぐ後ろ五百メートル地点の辺りから、さっきからずっと耳をつんざくような爆発音とともに、天をも焦がすような激しい爆炎が立ち上り、黒い煙はもうもうとその姿を見せている。爆発音の中にコンクリートの倒壊音が入り混じり、その威力を効果音だけで伝えてくれている。
十年程度前に、どこかの国で起こったテロを間近で直面した人々はやはりこんな気分だったのだろうかと、楠城はふと示唆してみた。
「どこが知性あるリーダーだ・・・理性すら無いじゃないか。誰だ、こんなことをするように指示したのは・・・」
まだ対面すらしていない、名前も知らない相手に、聞こえなくともクレームを付けていた。さっきからずっと、音の大きさが変わっていないことから自分たちと同程度の速さで迫っていることが分かる。とするとだ、このまま逃げ続ければその内弾薬等が切れてもはや戦力として機能しない。そうなったらもうこの行動の原因の首領格には怯えなくて良い。
「何だかいきなり吹っ切れた感がありますよね。ジールさんでしたっけ?が消えたという報告が入ってからのあの咆哮の後にいきなり遠くから爆発音が上がったんですから」
楠城も、確かにそれはそう思っていた。一応奴らの仲間が消えたのだ。少しのダメージも無いということは無いだろう。あったとしたらどれだけ薄情な集団だ。
まあ、やり過ぎもどうかと思うがな、と楠城は失笑する。行き過ぎた愛情が相手から冷められて見られるように、行き過ぎた情熱や友情もその身を滅ぼす要因となるのかもしれない。
「楓、氷室の二人は無事に済んでいるどころか、成果を上げた。だったら俺達も一人ぐらい・・・」
そうぶつぶつと呟きながら堅苦しい顔つきをしている楠城を眺める竹永の目には、心配そうな色がうかがえた。責任感を勝手に背負って、根を詰め過ぎて死なれては困ると、竹永は楓と分離してからずっと考えていた。杞憂に終わって欲しいとも思いながら、気軽に口を挟む訳にはいかないような雰囲気に呑まれて、何を咎めることもできなかった。
こういう時に、楓なら一体どうするだろうかと、空を見上げて心の中で詰問する。答えてくれる楓は、こんなところにはいないというのに。
「神様に祈りたくなったのは初めてかな・・・」
だが、その神様でさえ敵だということを未だ彼女らは知らない。それだけではない、このげえむの真の意味や、主催者の正体を。自分たちが本当に巻き込まれているのは何かということにも。
斎藤には、どのように対応すればいいかなんて、全く分からなかった。竹永に口を出すことも楠城に何か言うことも自分にとっては難しすぎる偉業のように感じてしまっていた。
その光景を見て喜んでいたのは、他ならぬ主催者だということは、聞くまでもなく彼にとっては明らかだった。薄暗い空間に閉じこもっている彼にとっては、苦渋の顔しか浮かばないが、茶化すような口調のあいつにとっては最高のショーだと思われる。
「くそっ・・・楓秀也だけが生き残っても意味が無いんだ。この五人が生き残らないと。イグザムが出てきていないのにこの様では・・・」
イクスやジールなど問題ではなく、最も注意しなくてはならないのは、今回の場合はイグザム。幹部入りしているだけあって、相当に頭の回る奴。容姿は特に、骸骨という訳ではない。V以下の称号を持つ者が骸骨のような姿をしている。
「それにしても静かだな。イグザムは動くつもりがあるのだろうか」
気まぐれな使者は、未だに動こうとしていない。
「あの爆発・・・先輩たち大丈夫かな・・・」
イクスという、使者の内の一人が起こしているであろう暴動に、気を配っている楓はさっきからずっと心の落ち着く瞬間が無かった。絶えず聞こえる爆発音には全てを破壊してやると勧告しているような声が聞こえてならない。
「大丈夫よ。爆発音が止むということが目標の死滅を確認ということなのだから」
それを少しでも落ち着かせようと、氷室は正論を説く。それでも、あまり心配の虫は静まらなかった。落ち着いていたら、スーパーの時のように珍しいことがあるなと、追及してくるがそれすらもできない焦燥感。
それに対して、氷室は一つ疑問を抱えていた。なぜ、このように竹永はただ単なる先輩後輩の関係以上に楓から尊敬され、思慕の念を送られているのか。特にこれといった理由は思い浮かばなかったが、無性に訊きたくなった彼女は訊いた。
「理由・・・か。分かんない。多分、あの人と比べちゃうんだろうな」
何も言わずに去って行った最も慕っていた彼の姿を思い出す。最近になって知ったことだが、彼が去った理由は離婚、ということで実家に帰ったらしい。
「あの・・・人?」
それ以上訊こうとしても、どこか訊けないようなプレッシャーがかかっているような気がした。
そして二人はついに、イグザムに目を付けられるということになる——。
続きます
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はい、今日から一章の鬼ごっこ終了までこの小説をずっと更新します。
一日か二日に一回のペースで行きます。
では、次回に続きます。
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 第二十七話更新 ( No.41 )
- 日時: 2011/10/21 18:55
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Ikb4yhFE)
第二十八話 イグザム降臨
「五月蠅いぞ、イクス・・・」
爆撃音に取り囲まれて、瓦礫の散乱する現実離れした市街地に、さっきから全く姿を現していなかった人型の何かがそこにいた。美しい雪のように厳かに煌めく、白銀の髪の毛。上質なエメラルドのように綺麗な、透明感あふれる翡翠色の眼。それは、彼が負っている使命とはかけ離れるほどに淀み無く、何度も言うように澄んだ瞳をしていた。端正に整った顔は冷静な雰囲気を発し、西洋系の顔立ちを示している。
さっきからずっと鬱陶しく思っていたと、反吐が出るとでも言うように爆発音に対して文句を言う。最も、無線を繋いでいないのだから全く本人には聞こえていないのだが。
「楓秀也がこっちでジールを消したはずなんだが・・・どこにいることやら・・・」
ふぅっ・・・と誰もいない町中に消え入るような溜息を吐きだして、面倒くさそうな色を露わにする。人間一人になぜそこまで恐れる必要があるのか、それも全く腑に堕ちない。先代も心配症なのだなと、今さらながらに面倒になる。
アダムの使者には二十六人の人員がいる。アルファベットの称号を与えられた彼らはさるお方の唯一の側近たるアダムを先頭としているのでアダムの使者。だが、聖騎士団にはアダムが側近として控えている実質的な最高位の者がいる。それは、先代の『E』の称号を持っていた者。
それまでイグザムは、どの階位にいたかと言うと、どこにもいなかった。最高位の彼女と、アダムとの間にいきなり子ができた。それは、難なく十カ月後に出産された。その瞬間だ、あのお方の力がいきなり増加したらしい。元々の彼女の力はどれほどかは知らないが、昔は必ずアダムよりも弱かった。しかしそれがいきなりアダムを圧倒した。では、この子にはその弱みのような物のみが凝縮されているのではないかと危惧する者もいたが、そんな心配は無かった。幼い彼は知力という才能を生まれたその次の日から開花させた。それが、イグザム——。
「母さんも、本当面倒なの押し付けてきたよなー」
ボスだからって良い気になんなよ、将棋だったら全勝だと、聞こえないように悪態を吐いた。
そして一つ思い出す。こんな風に吹けば飛ぶような奴らが一つだけ、殊勲を上げていたことを思い出した。
「つーかジールは何してんだよ。ヴァルハラの使者のお気に入りって言ったってただの人間の餓鬼な訳。ちっと本気出しゃあすぐに片の付く問題だろうが。だらしねえな、流石最低位だ」
ヴァルハラの老いぼれは本来もうとっくに死んでいるはずの奴だというのに、二度も軌跡が起こって生き延びている。死人は墓場に行かないと駄目だろうが、仲間が待ってんぞ、と嫌味を言ってみた。
それにしても何で骸骨組しか動いてないんだよと、舌打ちを鳴らした。遥か遠くの爆発音意外に、ノイズの無いこの空間にそれは簡単に響いた。『V』以下の連中は箸にも棒にもかからない馬鹿どもだというのに。
「アダム父さんとかDeathのじじいが出てこいっつーの」
将棋は互角だけどチェスでだけは未だにDeathには勝てないというどうでもいいいことを思い出す。戦士の生き帰らないこの状況ではDeathの方が適任だろうと、振り返る。
とりあえず、楓秀也とか見つからないかな、と呟きながら辺りを見渡す。多少の物音も拾いたいのだが、地味な爆音が耳を塞いでいる。
「つーかジーニアスでも良い訳。何で幹部が出陣?まあ、本気出した俺が負けたらちょっとは認めてあげる訳」
—————面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒面倒—————。
「だるいんだよっ!」
生死を賭けた戦争も、楓秀也抹殺も、あのクソ婆が母親だということも、アダムの息子だということも、アダムの使者だということも、全部全部気に入らなかった。
自分は、アダムの使者なんかよりも、人間として生まれたかった。楓のような友人が欲しかった。竹永のような先輩が欲しかった。楠城のような父が良かった。アダムのせいで自分にも軽はずみな根性が座っている。
「楓は本当に、僕にとってお気に入りなんだよな・・・ボードゲームで闘いてぇ・・・」
勉強さえしたら人間界なんて最高の世界だと思っている。向こうには将棋とチェス意外にも面白そうなゲームがありふれている。生死のかかったげえむにも刺激はあるが、そろそろ飽きが来る。
「監視役の須佐乃袁尊もそろそろ出てこないかな?あの隻眼の野郎にも多少の腕はあるだろ。ま、須佐乃袁尊自体には両の眼が付いていることになっているがな」
そうそう、片目なのはヴァルハラにいた時だと頷く。高天原では、両目に見せかけていたのだから。
「さあ、彼の歴史に終止符を打とう」
そしてようやく視界の端に映った楓秀也に狙いを定める。
「その前に、楓と氷室からいこうか」
続きます
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面倒の辺りはゲシュタルト崩壊しそうになりました。
そろそろ詳しい人はヴァルハラの使者の正体が分かったはず。
言わないでね・・・
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 第二十八話更新 ( No.42 )
- 日時: 2011/10/20 20:40
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: GIxrqpJQ)
第二十九話 イグザムの策
見つけた——。そう、歓喜の声が心の底から湧き出て、叫び出しそうになる。だがそんなことをいきなりしてしまうと折角見つけた標的が逃げてしまうかもしれない。昂ぶる気持ちを冷静になるように落ちつけて、自分の支配下にある骸骨どもを全集合させた。一つ捕捉を入れると、骸骨の兵団は人間のなれの果て、正確にはアダムの使者ではない。
あの二人は確実に、楓秀也と氷室冷河・・・やっと、やっとあの二人に出会える。黒髪で黒い瞳の完全な純日本人的な容姿。発せられる暖かい雰囲気と対照的な冷たいもう一人。
イグザムは内心、興奮が抑えきれなかった。武者震いが全身を揺らして、ゾクゾクと冷たい寒気にも似た高揚感。さあ殺し合いを始めよう、と歪んだ喜びが体の芯を這いずり回っている。
抑えきれない渇望は遂にはち切れて、その瞬間に彼らの目の前に颯爽と降り立った。自慢にもしている白銀の髪がキラキラと日光を受けて煌めいている。案の定、二人はいきなり現れた自分に対して驚きの感情を隠すことができずに見せつけている。
やりすぎたか・・・と少々先程の自分に対して嘆息する。思い返すと狂気じみた狂喜だったからだ。まあ、公平な殺し合い<ゲーム>を楽しむためには一旦落ち着いてもらいたい。迫りくる兵団共の武装の擦れる金属音に戦慄を感じているようにしか見えない。
その場で立ち止まるように大声で指示をする。重苦しい騒音は止んだ。
「まずは自己紹介。僕の名前はイグザム、アダムの使者で『E』の称号を持つ幹部の一人さ。それよりもさ、早く始めようよ。ずっと君と闘いたくてうずうずしてたんだよ。あっ、変な意味じゃないよ。火とか使うエスパーみたいなのじゃなくて知略戦だよ。だから今から五分の猶予を上げるから早く逃げてくれる?」
戦々恐々としている二人を落ちつかせるためか、彼はポンっと、軽く方に手を置いた。その掌から楓の肩にまるで人が持つような温もりが伝わってきた。飄々とした余裕のある態度、そしてさっきの言い草から即座に察した。こいつは、ジールのようないわゆる三下とは全く異なっていると。
「五分も猶予なんてくれて、大丈夫なのか・・・・・?」
その驕りにも似ている余裕綽々の態度に、楓は舐められたかもしれないという少しの苛立ちと幹部のまだ見ぬ実力に向けた恐れで緊張が緩むことは無かった。余計に表情は強張ってくる。
「いいから早くしてよ。君なら僕を盛り上げてくれると期待しているんだからさ」
ケラケラと、無邪気に笑う彼の姿は幼い子供そのものだった。この瞬間に察した。こいつは現状に飽き飽きしていると。“君なら盛り上げてくれる”ということは要するに、一緒にいる奴らは盛り上げてくれないということだと。
「お前、そんな所にいて楽しいか?」
楽しげな笑顔の下に隠れた陰鬱な表情が見えたような気がした楓はふと、そう訊いてみたくなった。上辺だけ見せかけていたって、見える人には本心は見えるものだ。
「今だけはね、君と遊べるこの瞬間は最高にぞくぞくしてもう最っ高!だから、早くその手で火蓋を切ってよ。君と話しているのも良いけど、やっぱり敵対した方が楽しいんだ、だから・・・早く殺し合おうよ」
殺し合う、その言葉を聞いた時、言いようの無い恐怖に襲われた。さっきまで馬鹿みたいに笑っていたのに、いきなり出てきたこのプレッシャー。一瞬だけ、指先一つすら動かせないかと思うほどだった。
淀みの無い透き通った翡翠色の眼からは貫かれるような殺気が、射抜いているように感じられる。このまま時間が凍結するかとまで思ったほどだ。隣の氷室に声をかけられるまで。
「楓、早く行くわよ。痺れを切らす前に・・・」
ハッと彼は現実に戻ってくる。目の前の銀髪の少年の表情も笑顔に戻っている。一旦の落ち着きを取り戻した彼は策を練るために、時間を稼ごうと遠くに向かって走り出す。
その光景を見て、やっと踏ん切りがついたかと、憐れむような目で氷室が見てきた。それに対して少しむっとしてしまったことから、かなり自分の気持ちは元に戻りかけていることを感じた。
「ま、逃げても無駄なんだよね。もうすでに僕の策は始まってるから」
ちょっとズルさせて貰ってるけどね。そう呟いて空を見上げた。びっくりするほどにその空は眩しい。青く青く澄んでいる。いつかは海も見てみたいと、心の中で切望した。
「そろそろ・・・五分経ったか?」
必死で逃げだした二人は複雑な経路などを通って、地元民、つまりは楓と竹永ぐらいしか上手く通れないような細く、迷路のような路地を突き進んでいた。
一旦この辺りで休みながら策を練ろうとした時の話だ。氷室の表情が少し陰る。どういうことか問いただしてみると、音が聞こえているらしい。
下手に動いて鉢合わせたくないと思った氷室はもう少し様子を見ようと思ったが、そう悠長なことは言ってられないことにふと気付く。確かにその音は、こちらに向かって近づいて来ている。
どういうことかと考えている暇は無く、二人は休息を止めて駆け出した。腑に堕ちない、そんな気分を心の中に浮かべながら。この辺は住民の自分でさえ転校してから慣れるまでの二年はかかったというのに、それをすぐに・・・
楓がそのようなことを不安げな想いで考えている時、イグザムは確かにその音の発信源であり、まっすぐ二人の下へと向かっていた。
「やっぱりそうだよね。最初に幹部だと宣言しておくと、必要以上にびくびくして上等な策ばかり使うと思いこむ。もっと簡単な策が目に見えなくなるんだよ。今僕が君たちを終えている理由は、さっき肩に手を置いた時に発信器を付けさせて貰ったんだよね。まさか、幹部がこんなこすい手を使うとは誰も思わない。でも、盲点っていうのはとても怖い。さあて、彼はどうやって生き延びてくれるかな?」
今までの人生・・・人でないから人生とは呼べないかもしれないが、これまでの中で最も、彼が生き生きとしている瞬間だった。
続きます
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何と言う陳腐な作戦・・・自分の発想力の無さが思いやられます。
かといって戦略なんて募集したら読む人的に面白くないのでしませんが。
遂に幹部が動きました、では次回に続きます。
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