複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

DARK GAME=邪悪なゲーム= 
日時: 2012/09/14 21:51
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 3TttADoD)

えーと同じくファジーで能力もの書いてる(打ってる)狒牙です。

今回は結構暗そうなものをしたいなということで・・・

まあ、言ってしまうと時折(多分頻度は少ない)グロイかな?

基本的には普通ですので・・・

アドバイスとか変なところ(誤字脱字)があったら言ってください

よろしくお願いします

下手に内容を説明するとネタバレみたいになるんで

一気に一話目打ちます。

そしてこの作品では文章の形式を変えてみたいと思います。



一話目 招待状





「暗いなぁ・・・」

 夜道を、一人の男子高校生が帰っていた。もちろん一人でだ。
 等間隔に設置されている街灯の光を頼りにいつも通りまっすぐ家に帰っていた。
 高校に行き始めてもう三カ月程度経っている。二回目の定期テストが終わり、その手ごたえを塾に伝えに行った帰りだ。
 辺りはもうすっかり暗くなっているが、今日はたまたま曇っているだけでまだ八時にもなっていない。普段ならもう少し明るめだろう。今は月の光すらほとんど届いていないのだから。
 家にたどり着く寸前の急な坂道に青年は差し掛かった。ここだけは何年暮らしていても全く慣れることはできない。角度がそれなりに急な上、それがダラダラと百メートルも続いているのだから疲れている時にはお手上げだ。疲れる意外にここを説明することばはパッとは思い付かない。漢字で表すなら『苦』だ。しかし、苦あれば楽ありということわざもある。
 息を荒くして切らしながらその坂を登りきった彼は汗で少し濡れた顔を上げた。そこには、いつも通りの自分の家の景色があった。隣にある家も普段と何一つ変わらない。
 その家の門の前を通った時にチラッとその中の様子を見た。そこには、住人の一人であるまだ制服を着たままの女子高生がいた。

「あっ、先輩こんばんは」
「おー、楓じゃん。塾?」

 それは紛れもなく自分の部活の先輩だった。楓と呼ばれた彼の本名は楓秀也(かえで しゅうや)。二人とも同じ高校の陸上部員だ。
 といっても、楓は長距離、先輩の方は短距離だった。この時間がまさに『楽』の時間だ。
楓は先輩のことを尊敬している。なぜなら、目の前にいるこの人間は去年インターハイで優勝したからだ。距離が何であろうと関係なく、速い者にはすぐにあこがれる性格だから家がすぐ近く、というより隣の家にその人が住んでいるのは光栄だった。
 ここで一つだけ勘違いしてはいけないのが、別に恋愛対象として見ているのではなく、好きは好きでもスポーツ選手のファンのような感覚だ。思慕の念よりも崇拝と言う方が近い。それほどまでにこの先輩を慕っている。
 ついでに言っておくならこの人の名前は竹永叶(たけなが かな)という。

「普通科は大変だね」

 重い教科書を何冊も詰め込んだ大きなリュックサックを背負って地獄と読んでもいい坂を登り終えた楓に笑いながらそう言った。
 彼らが通っている高校は、体育科と普通科に分かれている。竹永の方は体育科で、楓は普通科だ。しかもこの学校は体育科の連中はスポーツに強く、普通科の連中は勉学ができるというものだ。だから地元でもかなり有名な行きたい高校ナンバー1に選ばれ続けている。

「そうですね、でもテストが一段落したんでしばらくは楽な生活ですね」

 そう言うと、今度は先輩があからさまに疲れたような顔つきになった。その理由は簡単だ。夏休みは腐るほど大会がある。一年にしてインハイで優勝したのだから大会に出されまくっているのだ。相当にだるそうな顔をしている。
 もうすぐ鬼の合宿と呼ばれるイベントが近づいているからだろうか?

「たまにさ、裏側の世界があったら言ってみたいと思うよ」

 このポツリと特に重要な意味を持たない言葉が発せられたのを聞いたとき、ふとある噂を思い出した。いや、都市伝説というべきかな。内容はこんなものだ。




 真夜中は気を付けないといけない。特に招待状を受け取ったなら。
 招待状は突然現れる。血のように紅い封筒にどこまでも続く深い闇のように冷たい黒い紙に『You are invited』と白く描かれた紙が入っている。
 それが招待状だ。そこでは夜な夜な残酷なゲームが行われているという。



 まあ、この話はまだそこまで出回っていないので、元からそういうのに興味の無い先輩が知るはずもないからただの愚痴だと思ってスルーしようとした。でも、自体は思っている以上に深刻だった。

「なんかさっきポストを見たら真っ赤な封筒が入ってたんだ」

 これを聞いた瞬間にはまだただの世間話だと思って普通に接していた。
 だが、その一秒後にまたしても噂を思い出した楓は硬直した。それでも、先輩はその封筒がどういうものなのか説明しているからこっちの違和感に気付いていないが、楓の胸の中では胸騒ぎがしていた。
先輩は、その中からどす黒いハガキを取りだした。そこには、やはり文字が書いてあった。



『You are invited』



 これが視界に入った瞬間、瞳孔は一瞬にして開いた。そこには、幽霊を連想させるように白い字でそう書かれていた。
 かく汗の中に冷や汗が混じる。これではまるで噂と同じだ。

「後ろにも変なことが書いてあるのよね」

 そう言って今度は紙をひっくり返した。そこには、今受けた衝撃よりもさらに強いショックを与える文が書いてあった。

『おめでとうございます。あなたはご当選いたしました。裏の、闇の世界へのペアチケットです。あなたと、もう一人誰かをお誘いください。何、迷うことはありません。隣家の後輩で結構です。[げえむ]は今晩の八時から、次の日の午後八時まで行われます。それまでにもう一人の方とご一緒しておいてください。』

 背筋に悪寒が走った。この内容を見る限りこれの差出人は明らかに先輩を狙っている。隣家の後輩とはまず俺で間違いない。
 怪しい雲がさらに月の光を隠すようにもうもうと寄ってくる。ふと時計を見るともうすでに時刻は七時五十九分を示し、秒針はもう・・・









 十二の文字にかかろうとする瞬間だった。








 秒針が五十九秒から六十に動いて行く。その動きがとてつもなくスローに感じられる。体は、ピクリとも動かなかった。



 刹那、手紙から迸った漆黒の闇は叫び声を上げさせる暇なく一瞬で楓と竹永を包み込んだ。グチュグチュと妙な音を立てて闇の繭を作り、ゆっくりと地面に溶けていくように小さく下から萎んでいった。










                                 続きます


第一章 鬼ごっこ編

>>1>>2>>3>>4>>5>>6>>7>>9>>10>>11>>13>>14>>17>>18>>19>>20>>21>>22>>26>>27>>29>>30>>33>>36>>37>>40>>41
>>42>>48>>49>>50>>51>>52>>55>>56>>57 総集編>>60

第二章 日常—————編 募集キャラ>>70

>>61>>64>>65>>66>>67>>68>>69>>72>>73>>76>>79 総集編>>80

第三章 楓秀也編 プロローグ>>81

>>83>>85>>89>>91>>94>>95>>96>>97>>99>>100>>103>>104>>105>>106>>110>>111総集編>>112

第四章 氷室冷河編
>>113>>114>>115>>116>>117>>118>>119>>122>>123>>124

コメントしてくれた人です(一度でもしてくれたら嫌でも載ります。すいません・・・)

ryukaさん「小説カイコ」「菌糸の教室」「壁部屋」の作者さん
千愛さん 総合掲示板の方でお仕事なさってます
赤時計さん「花屑と狂夜月」「他人の不幸は毒の味」の作者さん
ゆヵさん 「SNEAK GAME」「めいろ」の作者さん

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム=  鬼ごっこ編第十三話更新 ( No.17 )
日時: 2011/09/03 09:48
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: lv59jgSm)

第十四話 each side






楓と別れてから、数時間が経過した。楠城、竹永、氷室は三人で逃げていた。それからの鬼からの逃走劇はかなり容易だった。楓や天の声が言う通り、上手くおびき寄せることができる。別にルールを使って消す必要は無い。適当にロープなんかを活用し、罠を張っておけば良い。ロープは適当に探したら見つかった。正確には、たった一つだけルールが無く、何分でも滞在してもよい空間があったのだ。

「でも、確かにあそこぐらい自由に使えないと終わりよね」

ふと、竹永が言葉を漏らす。唯一ルールに感知されない空間、それはコンビニエンスストアだった。この世界でも、腹は減るし喉も乾く。他にも必要なものが色々と出てくるだろうということで、コンビニだけが生き残っていたのだ。しかし、鬼にもその恐るべきルールが適用されない空間、という決まりは生き、そこで襲われたら袋小路になっているので、細心の注意を払わないといけない。しかし、竹永はこの辺りに住んでいる以上、鬼が来てもすぐに分かるほどの大通りに面しているコンビニの場所を知っていた。そこから、ヘッドライトや食料、電池などを失敬してきたのだ。

「さて・・・楓秀也はどうなったのかしら?」

チラッと氷室が道端の時計を見る。十一時五十分ぐらいの時間を示している。楓が消えた直後に天の声は言っていた。クリアしようとしまいと、十二時に生存者はげえむ会場に戻ってくると。しかし、生き残っていてもみにげえむにクリアしていなかったら、その後のげえむ難易度は格段に跳ね上がる。これは、楓や自分たちだけでなく、参加者全員の死活問題なのだ。そう考えていたら、まだ十二時になっていないというのに、いきなり五発の花火が上がった。黄色、オレンジ、紫、藍色、緑の五発の炎が芸術的に炸裂する。一つ一つがアルファベットを表わしていた。


———C,L,E,A,Rと


その花火に対して、歓喜の声があちらこちらで上がる。ひとまず、三人はほっと息を吐いた。鬼どうこうではなく、楓が無事であることについて、だ。十分と経たぬうちに楓たちはこっちに戻ってくるだろう。

「さあ、六時に学校に行くわよ」










「帰って・・・きた」

秀也が現れた場所は、げえむが開始されたその場所だった。一旦吸い込まれたところではなく、スタート位置。不味い、先輩たちから大分離されてしまった。学校は空港よりかなり先にある。さあて、無事にたどり着けるかどうか・・・

「あの〜」

そういう風に考えていた時のことだ。後ろから声が聞こえた。聞き覚えのある声だったのですぐに後ろを振り向いた。そこにはあの、本来なら四番目にコイントスをするはずだった女性がいた。だとしたら、もう一人の男の人もいるだろうと考えたが、そこにはもういなかった。遠くでよろよろと歩く人影が見えた。あの焦りまくりの姿は確かにあの人だろう。動けるなら大丈夫そうだ。ひとまずそっちは放っておくことにした。目の前にいる方の女性に応答する。

「はい、何ですか?」
「賢いんですね。どうです、一緒に行動してくれませんか?」

どうしようか、それが秀也の感想だった。見た感じ、普通のOLだ。最初に空港まで走った時は体育科のそれなりに体力のある叶と、成人の男性である楠城だったのだが、ただの女の人に自分の足に着いて来られるかが心配だ。九割無理だと思う。いざとなった時にこの人はやむを得ず走り出す自分に着いて来られるのだろうか・・・って訊くまでもないということに今気付いた。目の前にいたのは、昨年の大阪女子マラソンの若き優勝者と謳われた斎藤選手だった。ああ、自分の方が置いていかれそうだ。ふと、そう考えてしまった。





                                 続きます



______________________________________




斎藤選手の下の名前?考えてないよ、まだ

次回一気に時間が飛ぶことを予告します、大体四時間ぐらい

合流予定時刻まで後二時間ってぐらいですね

焦るおっさんは今のところ再登場の見込みは無いです

では、次回に続きます。今回いつもより少し短いけど

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム=  鬼ごっこ編第十四話更新 ( No.18 )
日時: 2011/09/06 20:57
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: GsncfwNf)

第十五話 問題発生





流れるように景色が動いている。口から洩れでる吐息は、不規則に時間を刻んでいる。額に、背中に、全身に汗が浮かび、べっとりと制服が貼りついていた。こっちに戻って来てからのことを思い返す。それからの数時間、鬼が嘘のように見つからなかった。見つけられることが無かった、と言った方が正しいかもしれないが、こっちの場合鬼を見つけたい訳ではない。できるだけ見つからずに、視界に入らずに視界に入れずに進めば進むほど、情勢はこちらに傾くのだが何だか流石に怪しく感じられる。嵐の前の静けさと表現してもいいかもしれないが、静かではなく、無音のようだ。動乱の類のものは一切起きず、爆発音や発砲音が聞こえない。もうすぐ、後十分程度で六時になろうとしていた。ようやく、学校のすぐ近くまで来ることができた。電車が動いていない以上、徒歩しか無い。まあ、はっきり言ってみると・・・

「大丈夫?後少しだったよね?」

凄く足の速い人に前で引っ張ってもらっているのだが。引っ張ってもらうと今言ったが、紐か何かでくくりつけて物理的に引っ張る訳ではなくあくまでも比喩だ。先頭に立ってもらって、ペースメーカーや風避けの役目を果たすことを引っ張るとかいう風に表現したりする、という訳だ。陸上、競輪、などをやっている人ならそんなこと言われなくても分かるだろうが。

「はい、このペースなら、後五分ぐらいです」

数時間の間、三十分走って一時間歩くぐらいのペースで来ている。鬼がいきなり出てきてもすぐに逃げられるように、体力を温存している。幸い、履いていた靴がランニングシューズだったから走れているが、マラシューだったらこれは辛い。マラシューというのは、マラソンシューズか何かの略で、靴底が驚くほど薄く、驚くほどに軽い。だが、その反面衝撃をもろに足に伝えてしまうので、すぐに筋肉痛になったりしてしまう。ペースを伝えておくなら、やはり体力を残しておくために一キロ当たり五分ぐらいのペースだ。

「じゃあ、このままのペースで行くよ」

もうすでにかなり消耗していたのだが、面目が立たないので、分かりましたと答える他無かった。


                        ▲




「さて、もうちょっとで六時ね・・・」

そう、氷室は呟いた。聞き耳を立てていた伊達もすぐに反応する。

「そうね。楓がどこに戻ってきたかにもよるけど、そろそろ来るんじゃない?」

時計は今、六時ちょっと前だ。そして竹永と氷室と楠城の三人は校庭に立っている。さっき看板があったのだが、学校という空間はかなり特殊で校庭は建物にみなされず、廊下は一つの建物として扱う。ルールはおそらく「走るな」だろう。そして、ホームルーム教室は、全てを一緒くたにして一種類の建物とカウントする。三年五組に三十分滞在すると一年四組にももう入れないということだ。そして、理科室や家庭科室などは、それぞれ一つ一つのルールがある。

「二人とも、校門が開いたぞ」

楠城が話している二人に声をかける。咄嗟に彼女らは校門側を見た。楓だったらいいのだが、鬼だったら・・・という訳だ。しかし、そこにいたのは一人見知らぬ女の人が共にいたが、楓だった。

「ちゃんと帰ってきましたよ、せんぱ・・」
「良くやった!」

近寄るや否やいきなり、竹永は秀也の後ろ側に回り込み、おもいっきり背中を叩いた。当たり所が良かったのか、大きな音が鳴り、秀也は一瞬息を詰まらせた。若干涙目になりながら、その痛みを訴えている。

「あんたにしては頑張ったんじゃない?」

語尾が疑問形なのは挑発なのだろうか、そもそもそのセリフ自体が憎まれ口なのだが、冷河も賞賛の言葉を口にする。そう判断した理由はちょっとしたものだが、楠城や竹永が自分に向けるような暖かみが、こもっていたからだ。

「まあ、あれでクリアできなかったら、あなたと私を比べることができないからね。帰って来てくれて嬉しいとは思ってるわよ。これからが勝負よ」

何の勝負だよ、思わずそう言いたくなった楓だったが、そんな勝負をするおかげで生き残れるなら良しと判断した。そのまま黙り続ける。

「で、結局そこの人は誰だ?」

当然の質問を、ようやく楠城が口にした。そのために、みにげえむのコイントスのルール説明から全てが始まった。




〜説明中〜




「何で説明に三十分もかかったんだか・・・」

楓がしきりに頭を押さえている。一分に一回のペースで話が脱線したせいでおもいっきり時間がかかった。陸上関連の人という訳で竹永と斎藤はもうかなり仲良くなっていた。そんな折だ・・・



———あいつの声が聞こえてきたのは



「やあ、おおよそ七時間ぶり?司会進行は未だ健在だよ。さて、新ルール追加〜」

新ルール?ここに来てまたそんな物出しやがって。今度は一体何だというんだ。もう後三十分したら七時になって首領格の鬼が来るはずだろ。

「さあ、これからみんなに本来みんなが持っていない才能をランダムで配って行くよ。活躍している人ほどショボイ才能が来るけど、気にしない気にしない」

才能を・・・配る?意味の分からぬ言葉に目を丸くする。

「今から、一人一人、活躍した回数が少ない人から才能を配って行くよ」

まず、楠城に光が当てられる。

「君には、アクロバットの才能を授ける」

その次に、光が当てられたのは氷室。

「君には、銃を撃つ才能を与える」

さらにその次、斎藤より先に、先輩が射された。

「君は、物を投げる時のコントロールを上げる」

今度射されたのは、斎藤だった。

「君は、気配を消す才能だ」

そして、予想通り最後に秀也が射された。まあ当然だ。こっちでも色々活躍して、みにげえむも易々とクリアしたのだから。

「最後に楓君は、手品の才能だよ」

て・・じな?最早目が点になる。他の人は逃げたり多少抵抗できる。何だよ!手品って!だが、そんな批判の念は次の瞬間にすぐに消えた。

「以上五名に、才能を与える」

何かが、身体の内で、心の底から湧きあがってきた。





                                 続きます


________________________________________


今回は、ちょっと長かったんでここには特に書きません。
では、次回に続く。

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム=  鬼ごっこ編第十五話更新 ( No.19 )
日時: 2011/09/13 19:54
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: lm8tIa56)

挫折含めて何度目かの作品なんだけど
一番この作品が参照多いということに気付いた。
参照200、自分の中での最短記録・・・




第十六話 激動






「何・・・だと・・・?」

先ほど言われた言葉がすぐには飲み込めなかった。だが、言っているその言葉をまだ理解していないタイミングで、何か胸の奥でザワザワと感情が滾ってくる。黒く淀んだような気持ちが、スローペースでゆっくりと浸食してくるように、じわじわと溢れ出てくる。そのことから今感じているこの感覚は嫌なものなのだと分かり、それによってようやくさっき天の声が言ったことの重大性が呑み込めてきた。

「残っているのは・・・五人」

今この場にいるのは、楓秀也、斎藤さん、竹永叶、楠城怜司、氷室冷河の五人。つまり、自分たち以外の人間は全てしん・・

「おかしいじゃない!私達は十二時を過ぎてから一度たりとも鬼の姿を見ていないのよ!なのに、なのに他の人だけが狙われるなんて虫が良いことが・・・ある訳が無い!」

動揺を隠すことなく、隠すことができずに竹永は空に向かって叫んだ。確かにそうだ、ここに来るまでも一度たりとも鬼の姿は見なかった。自分たちだけが襲われないなどという、都合のよい偶然が起きる訳が無い。それこそ本当に、自分たちの処理を後回しにするために鬼が意図的に追わなかったとしか・・・

「何言ってんの?原因を伴わない結果は起きない。偶然という言葉は、原因があまりにも都合が良すぎて起こりえないことが起こる条件が、確率低いそれが揃ったときに生まれた妄言のようなものだよ。まず、楓秀也に竹永叶、この二人はみんなが見知らぬ土地で理性を失う中、地元民というアドバンテージのおかげで空港にたどり着けた。次に楠城怜司、君はその二人に着いていったのだから助かった。そして氷室冷河、君は因縁のある楓秀也を見つけて追ってきただけに過ぎない。この四人は最初から慌てふためく他の人達と別々の方向に逃げた。大多数の鬼が大多数の、空港と反対方向に逃げた人達を追いかけた。君たちを追った鬼は全体のごく一部だった。しかもその鬼をほとんど全て、空港で消してしまった。しかも楓君のいないタイミングで、鬼に囲われた時に警察署に逃げ込んでやはり鬼を消してしまった。その段階でもう君たちの方面にいる鬼はいなくなった。だから君たちは簡単に今生き残っている。そして、反対側の狩りが勢いを増したのは午前二時ごろ。もうすでに斎藤さんもこっちに来ていた。ほら、君たち五人だけが生きているのは偶然じゃない。全て、原因をきっちりと伴っている結果であり、必然なんだ」

天の声が珍しく、こっちに息つく暇も与えぬほどのペースで、まくしたてるように話し続ける。おそらく、今までで彼が話した中で最も長い会話だろう。でもこの話は非常に合点がいった。全てが理にかなっている。

「殺られた人達は今、そっちに向かっているよ。君たちしかいないんだからね。そして、後もう少しで鬼の中のトップが現れる。窮地に陥るのも時間の問題だよ」

被害者のみんなに追悼するように、ただ斎藤は声にならない嗚咽を漏らして、ただ俯いて涙を流していた。どうしてこんなに彼女は見ず知らずの人に優しく、慈悲深く、その人の哀しみに共感することができるのだろうか。こんな人が、小学校にいたら良かったのに。楓は、心の底からそう思った。けれどもう少し考え直す。もしかして、そういう人がいなかったから今このタイミングで氷室が生きているのかもしれない。ふと、楓はそう考えを正した。あんなことがあったせいで、彼女は自分に憎悪を燃やした。だからふと見つけた自分に対し、追うように着いて来たから今まだ生きているのではないか、と。これもまた、彼の言うとおり、都合のよい原因を伴う一つの結果なのであろうか、とも。

「・・・待てよ」

ここでようやく、被害者のためにも絶対に逃げ切って見せるとスイッチを切り替え得ようとしたのだが、そうすると現実的な問題が一つ浮き彫りになって戻ってくる。あまりにも楓への対応が酷過ぎる点だ。

「何で俺だけ手品なんだよ」

他の人は銃を使えたり、気配を消して逃げたりとそれなりに戦えそうな才能が与えられている。しかしだ、手品って何なんだよということになる。なんで一番活躍している方が待遇が悪いのかは、大体の察しがつく。そんな物無くとも逃げられるからだ。

「君に手品は合っていると思うよ。ついでに言うと、それは手品を実行する才能だからね」

そう言って、天の声は楓達との会話を止めた。










誰かが、真っ暗な空間にいた。真っ暗な空間にたった一人だけの何かが、画面の中の楓を眺めていた。

「君の知力と手品、つまりは人の意識の裏をかく才能が合わせることに気づいたら、君は一気に化けることになる」

そうして、モニターの横に置いてあるグラスを取った。中に入っているのはコーラのようで、茶色い液体の中を無数の泡が立ち上っている。スライスされたレモンも浮かんでいる。それを一息に一気に飲み込んだ。

「もう、時間が無い。後もう一年も無いんだ。こんな強行的なやり方を許してくれるだろうか?」

そう、時間が無い。もうすぐそこまで迫って来ている、選択の時が。人類全体の行き先をも左右する大きな試練が・・・

「ジ・アダプション・トライアル・オブ・アン・エンド、か」

直訳すると終末の採択試練。それを採択させないためには今いる人類を強くさせないといけない。

「もう一度、ヤマトタケルノミコトのような者を育てないと・・・もう一度、あの剣で奴の復活を止めるしかない」

古くは、自分が倒した超獣から生まれた存在なのだが、あまりにもその力が強大になりすぎて、対処法はすでに復活させないことのみになってしまっている。

「八本の首と八本の尾から転生したあいつを・・・」

しかしあいつら、もうすでに楓たちを殺して、全ての可能性の芽を摘もうとしている。少しずつ自分も助け舟を出しているが、時間の問題だ。

「こっち側の奴らも、ついに俺一人か」

深く重く、彼はため息を吐いた。聖騎士団に、自分たちだけで勝てるか、その確率は無いに等しかった。





                                  続きます


_______________________________________



何か色々新しい単語が出ました。

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム=  鬼ごっこ編第十六話更新 ( No.20 )
日時: 2011/09/14 21:26
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: lm8tIa56)

第十七話 違和感





ぷっつりと、いきなり天の声とのコンタクトが切れた。ここで、楓は違和感に気付いた。今の話し方は何だか変な感覚がした。まずそもそも、原因と結果の関係の辺りの話が今までと比べて尋常ではないほどに長い。今まではどこかしらふざけたような口調で、中身はともかくとして、その伝え方もふざけているような言い草だったのに、今度のあの堅苦しい説明。加えて、いつもこっちと鬼側に不平等が起こらないためか性格からか、あるいはもっと違う理由があるのかは分からないが、アドバイスをするような奴だったのか、あいつは。こっちに鬼が迫っていると一々伝えるなんて・・・

「どうした楓?考え事か」

より逃げづらくなった鬼に対抗して、髪が邪魔にならないようにたまたまポケットに入っていた紅いリボンで髪の毛をまとめてながら、竹永はそう楓に問いかけた。

「いえ、ちょっとぼうっとしていただけで・・・」

この違和感を一々説明したとしても混乱を呼ぶだけだ。できるだけ動揺を見せないようにして必死で楓はそれを隠そうと務める。実際、彼はほとんどその身の中に感じている動揺を見せずにそう答えた。

「そう、ならいいけど」

そう言い残すと、一旦背を向けて氷室たちの方に向かって行った。ここで、一時中断した思考を楓はもう一度考え直す。そう、一番気がかりな点、納得できない点は、一番活躍していないものから有能な才能を分け与え、一番最後に配給した人間の才能は一番使えないという仕組みにしていると言ったはずだ。それなのに、次に言った言葉はそこからかけ離れていた。自分にあるらしい知力、そしてこの才能を組み合わせればかなり有能な力になるとも聴きとれる類のセリフ。まるで、一番の目的は自分に手品の才能を渡すことで、その他の才能がカモフラージュだとしたらどうだろうか。それなら意味が変わってくる。今接触してきた人物はこのげえむの開催者は、自分たちに有利に、と言うよりも生かすためにそれを譲渡したことになる。じゃあ、何のためにそれをしたかという疑問が沸々と沸き起こってくる。自分たちに死んでほしくないならそもそもこのげえむ自体に招待しなかったら良いはずだ。可能性があるとすれば・・・




「やっぱり、何か考えているわね」

楓を見ながら氷室と楠城に、そう話しかけた。二人ともそうだな、と頷いている。さっき何か考えているか訊いた時にほんの一瞬、少しだけ眉が持ち上がった。何か隠そうとしているに違いない。

「今話しても無意味な中身かもしれない。ただ、俺たちを混乱させるような予測が立っているのかもしれないからな」

楠城の意見に、隣にいる冷河が賛同する。今までの彼は何かしら有益なことや本当に危ないことは全てちゃんと話してきているなずだ。だから彼が自分から話そうとしないということならば、今はまだ訊く時ではないということでもある。

「ていうかあいつ気付いているのかしら?考え事する時に寡黙になり、空中のどことも知れぬ一点だけに集中する癖」

じっと睨みつけながら氷室はその癖を指摘した。出来る限りの眼力で睨みつけているのだが気付くそぶりすら見せない。しかしそれは、竹永は気付いていないものであった。

「よっく見てんのねーあんた。嫌いじゃなかったの?」

これに対し、冷河はひどく動揺する。が、内面でのその闘争はそれに対する反論が圧倒的に勝利した。

「大っ嫌いよ。嫌いな奴を倒す・・・っていうか相手に勝つためにはよく観察することから始めるものでしょう?」

ハァっとため息を吐いて竹永は斎藤と楓に集合を呼び掛けた。その間に、叶は氷室にこう言葉を発した。

「あたしだったら、本当に嫌いな奴とは口をきかない。まるで、今のあなたは楓があなたに告ったことを正当化させたいように見えるけど?」

これにも咄嗟に反論しようとしたが、できなくなった。当の本人が来てしまったのだから。ここで、論争は終わったのだが、今にも言葉は口から出そうだった。



—————嫌いな奴にこそやり返してやりたいのだ、と



今の時刻は七時、今からげえむはさらに過酷になっていく。




                                 続きます



______________________________________



さあ、そろそろ第二戦開始です。
次回からまた逃げまくりに戻ります。

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム=  鬼ごっこ編第十七話更新 ( No.21 )
日時: 2011/09/18 10:36
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: PJWa8O3u)

第十八話 才能






「さて、こんな袋小路で時間潰す訳にはいかないわね」

建物を指差して、竹永はそう端的に意見を述べた。言いたいことは大体理解できる。今までの鬼なら袋小路でも、この学校という場所なら適当にルールを組み合わせて対処できただろうが、知力のある首領はそうはいかない。巧みにルールを回避してくるなら、学校だけではなくあらゆる建物からは逃げ出せなくなり、最終的に殺される。相手が今まで放棄していた考えることを取り戻したとなると、今度はいかに相手を消すかではなく、相手から隠れるか、もしくは逃げるかに重きを置いた方が良いはずだ。人によっては闘うといった選択肢でも正解かもしれないが、おおよそ戦闘用ではなく、騙すような才能を授かった楓としては逃げる以外に選択肢が無かった。

「そうだな、鬼が来る前に」

まだ辺りには武装したものが奏でる重苦しい金属音は聞こえてこない。それほど近くにはいないはずだ。小走りで校門に近付いていく。念には念を入れて隠すようにして門の影から顔をすっと出し、目線を辺りにやった。しかし、動くものは一切見当たらず視界に入るのは見慣れた街並みとこんな世界であっても上空遥か彼方に浮かんでいる、煌めきを上げている太陽だった。黒く淀み、死に満ちたこの裏の世界でも日常と変わることなく太陽は昇っている。

「・・・裏の世界?」

ふと、一瞬ここの言葉に何かしらの疑問を感じる。なぜ自分はこの世界が裏の世界だと知っているのか、いきなり不安になったのだ。確かにここに来る前から知っていたはずだ、都市伝説の知識として。だから知っていても何の問題も無いように、楓以外の者には感じられるだろう。実際に、竹永や氷室、楠城は気にしていない。じゃあこの都市伝説を広めたのは一体誰かと訊かれたら、多分大勢の人間は血相を変えて考えると思う。都市伝説は一種の作り話のはず、なのにそれがここまで正確に現実で起きているということはただの偶然で済む訳が無い。彼だって言っていたじゃないか、『原因の無い結果は存在しない』と。だとしたらだ、この噂を流した張本人は、ここに来たことがあるんじゃないのか?そしてなおかつ、げえむにクリアして生き延びた。もしくはこのげえむを開催している張本人、この裏側の世界の主は現実世界に干渉できる・・・もしくは現実世界の住民ではないのか?考えていけばいくほど、楓の中でのその疑いは強くなっていく。

「楓、聞いてるか?」

突然に楠城の声が聞こえる。言葉が耳に入るより先に方を叩かれていたような気もするがよく分からない。何の話をしていたのかもう一度言ってもらおうとしたが、その必要は無かった。金属がこすれることで奏でる不快音、自分以外の四人が今にも逃げださんとする構えを取っている。鬼が来ている以外に、このような状況になる訳が無い。緊張や焦りのような雰囲気も漂っている。思考を一時中断する。逃げることに専念しようと。内向的な気分から、外に対して能動的な気分にギアを入れ替える。力強い光を返し、駆け出す。音が聞こえてくる方向は東側、とすると一番定石として思いたつ逃げ道は西側。一番体力の無さそうな楠城、氷室の二人を先に立たせる。その後を追うようにして竹永も走り出す。最後に、殿(しんがり)として長距離組二人が駆け出した。その大通りを、かなりの速さで駆け抜けている。ただし問題として、大通りな上に曲がり角がほとんど無い。後もう少しで曲がり角までたどり着くといったところで、遥か後ろに角から、兵団がやってくる。それを視界に収めた斎藤と秀也は冷や汗を流した。湧き上がる恐怖を無理やりにでも押し込めて鎮静化させて一気に駆け込む。もうすでに、氷室と竹永は曲がりこんでいる。真っ直ぐ前だけを見て走る斎藤と楓の代わりに、少しだけ顔を覗かせている楠城が後ろの見れない二人の目となる。骸骨の先頭集団のうちの十名ほどが銃のようなものを持っている。

「二人とも、早くしろ!撃ってくるぞ!!」

血相を変えた楠城のその一言で楓はスピードを上げる。全くの同タイミングで曲がろうとすると、衝突する危険性があるからだ。勢いを落とさずに、しかも転ぶことも無くそのコーナーを曲がり切る。楠城もそこから入る。最後に、斎藤が残ったが、鬼達は撃つことができなかった。斎藤の姿が消えたように感じたからだ。このことからうかがえることは、授けられた才能が本物であること。天の声が言っていたことが本当かどうか斎藤は試してみた。するとそれは本当に役に立った。自分が相手の意識から外れたいと思い、息を殺すようにしていると、鬼達は自分に反応しなくなったのだ。これなら何もしなくても逃げ切れるのではないかとも思うが、実はそうではない。適当な場所に爆弾をばら撒かれたら終わりだからだ。

「結構近くまで来てるな・・・」

辺りに目を配りながら楓は走り続けている。手品なんてものが無いと使えないから辺りに使えそうなものが落ちていないか探しながら進みたいのに、こうも近いと探せる訳が無い。そのことに対して不平を漏らすような感じでそのように呟いた。最後尾はさっきのあれで楠城に交代していた。そんなことを気にせずに曲がり角に当たる度に道を変えて鬼とは一直線上に存在しないようになるようにと努める。

「まだ後半日以上あるのかよ・・・」

先は遠い、気が遠くなるほどに。この後自分たちは誰一人の犠牲者もなく逃げのびることができるのか。それが分かることなら誰かに訊いてみたいぐらいだと、漏らしたくなった。




                                 続きます


_______________________________________


後十二時間・・・長い、無駄に長すぎる。
第二げえむや第三、第四まで思いついてるのに状態。
きっと鬼ごっこが終わるまでにさらに四時間ぐらいは普通に
はしょっちゃうと思います。
ていうか第一げえむだけで二十話越えそうってどんだけだよ・・・
愚痴はさておき、次回に続きます


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24