複雑・ファジー小説

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DARK GAME=邪悪なゲーム= 
日時: 2012/09/14 21:51
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 3TttADoD)

えーと同じくファジーで能力もの書いてる(打ってる)狒牙です。

今回は結構暗そうなものをしたいなということで・・・

まあ、言ってしまうと時折(多分頻度は少ない)グロイかな?

基本的には普通ですので・・・

アドバイスとか変なところ(誤字脱字)があったら言ってください

よろしくお願いします

下手に内容を説明するとネタバレみたいになるんで

一気に一話目打ちます。

そしてこの作品では文章の形式を変えてみたいと思います。



一話目 招待状





「暗いなぁ・・・」

 夜道を、一人の男子高校生が帰っていた。もちろん一人でだ。
 等間隔に設置されている街灯の光を頼りにいつも通りまっすぐ家に帰っていた。
 高校に行き始めてもう三カ月程度経っている。二回目の定期テストが終わり、その手ごたえを塾に伝えに行った帰りだ。
 辺りはもうすっかり暗くなっているが、今日はたまたま曇っているだけでまだ八時にもなっていない。普段ならもう少し明るめだろう。今は月の光すらほとんど届いていないのだから。
 家にたどり着く寸前の急な坂道に青年は差し掛かった。ここだけは何年暮らしていても全く慣れることはできない。角度がそれなりに急な上、それがダラダラと百メートルも続いているのだから疲れている時にはお手上げだ。疲れる意外にここを説明することばはパッとは思い付かない。漢字で表すなら『苦』だ。しかし、苦あれば楽ありということわざもある。
 息を荒くして切らしながらその坂を登りきった彼は汗で少し濡れた顔を上げた。そこには、いつも通りの自分の家の景色があった。隣にある家も普段と何一つ変わらない。
 その家の門の前を通った時にチラッとその中の様子を見た。そこには、住人の一人であるまだ制服を着たままの女子高生がいた。

「あっ、先輩こんばんは」
「おー、楓じゃん。塾?」

 それは紛れもなく自分の部活の先輩だった。楓と呼ばれた彼の本名は楓秀也(かえで しゅうや)。二人とも同じ高校の陸上部員だ。
 といっても、楓は長距離、先輩の方は短距離だった。この時間がまさに『楽』の時間だ。
楓は先輩のことを尊敬している。なぜなら、目の前にいるこの人間は去年インターハイで優勝したからだ。距離が何であろうと関係なく、速い者にはすぐにあこがれる性格だから家がすぐ近く、というより隣の家にその人が住んでいるのは光栄だった。
 ここで一つだけ勘違いしてはいけないのが、別に恋愛対象として見ているのではなく、好きは好きでもスポーツ選手のファンのような感覚だ。思慕の念よりも崇拝と言う方が近い。それほどまでにこの先輩を慕っている。
 ついでに言っておくならこの人の名前は竹永叶(たけなが かな)という。

「普通科は大変だね」

 重い教科書を何冊も詰め込んだ大きなリュックサックを背負って地獄と読んでもいい坂を登り終えた楓に笑いながらそう言った。
 彼らが通っている高校は、体育科と普通科に分かれている。竹永の方は体育科で、楓は普通科だ。しかもこの学校は体育科の連中はスポーツに強く、普通科の連中は勉学ができるというものだ。だから地元でもかなり有名な行きたい高校ナンバー1に選ばれ続けている。

「そうですね、でもテストが一段落したんでしばらくは楽な生活ですね」

 そう言うと、今度は先輩があからさまに疲れたような顔つきになった。その理由は簡単だ。夏休みは腐るほど大会がある。一年にしてインハイで優勝したのだから大会に出されまくっているのだ。相当にだるそうな顔をしている。
 もうすぐ鬼の合宿と呼ばれるイベントが近づいているからだろうか?

「たまにさ、裏側の世界があったら言ってみたいと思うよ」

 このポツリと特に重要な意味を持たない言葉が発せられたのを聞いたとき、ふとある噂を思い出した。いや、都市伝説というべきかな。内容はこんなものだ。




 真夜中は気を付けないといけない。特に招待状を受け取ったなら。
 招待状は突然現れる。血のように紅い封筒にどこまでも続く深い闇のように冷たい黒い紙に『You are invited』と白く描かれた紙が入っている。
 それが招待状だ。そこでは夜な夜な残酷なゲームが行われているという。



 まあ、この話はまだそこまで出回っていないので、元からそういうのに興味の無い先輩が知るはずもないからただの愚痴だと思ってスルーしようとした。でも、自体は思っている以上に深刻だった。

「なんかさっきポストを見たら真っ赤な封筒が入ってたんだ」

 これを聞いた瞬間にはまだただの世間話だと思って普通に接していた。
 だが、その一秒後にまたしても噂を思い出した楓は硬直した。それでも、先輩はその封筒がどういうものなのか説明しているからこっちの違和感に気付いていないが、楓の胸の中では胸騒ぎがしていた。
先輩は、その中からどす黒いハガキを取りだした。そこには、やはり文字が書いてあった。



『You are invited』



 これが視界に入った瞬間、瞳孔は一瞬にして開いた。そこには、幽霊を連想させるように白い字でそう書かれていた。
 かく汗の中に冷や汗が混じる。これではまるで噂と同じだ。

「後ろにも変なことが書いてあるのよね」

 そう言って今度は紙をひっくり返した。そこには、今受けた衝撃よりもさらに強いショックを与える文が書いてあった。

『おめでとうございます。あなたはご当選いたしました。裏の、闇の世界へのペアチケットです。あなたと、もう一人誰かをお誘いください。何、迷うことはありません。隣家の後輩で結構です。[げえむ]は今晩の八時から、次の日の午後八時まで行われます。それまでにもう一人の方とご一緒しておいてください。』

 背筋に悪寒が走った。この内容を見る限りこれの差出人は明らかに先輩を狙っている。隣家の後輩とはまず俺で間違いない。
 怪しい雲がさらに月の光を隠すようにもうもうと寄ってくる。ふと時計を見るともうすでに時刻は七時五十九分を示し、秒針はもう・・・









 十二の文字にかかろうとする瞬間だった。








 秒針が五十九秒から六十に動いて行く。その動きがとてつもなくスローに感じられる。体は、ピクリとも動かなかった。



 刹那、手紙から迸った漆黒の闇は叫び声を上げさせる暇なく一瞬で楓と竹永を包み込んだ。グチュグチュと妙な音を立てて闇の繭を作り、ゆっくりと地面に溶けていくように小さく下から萎んでいった。










                                 続きます


第一章 鬼ごっこ編

>>1>>2>>3>>4>>5>>6>>7>>9>>10>>11>>13>>14>>17>>18>>19>>20>>21>>22>>26>>27>>29>>30>>33>>36>>37>>40>>41
>>42>>48>>49>>50>>51>>52>>55>>56>>57 総集編>>60

第二章 日常—————編 募集キャラ>>70

>>61>>64>>65>>66>>67>>68>>69>>72>>73>>76>>79 総集編>>80

第三章 楓秀也編 プロローグ>>81

>>83>>85>>89>>91>>94>>95>>96>>97>>99>>100>>103>>104>>105>>106>>110>>111総集編>>112

第四章 氷室冷河編
>>113>>114>>115>>116>>117>>118>>119>>122>>123>>124

コメントしてくれた人です(一度でもしてくれたら嫌でも載ります。すいません・・・)

ryukaさん「小説カイコ」「菌糸の教室」「壁部屋」の作者さん
千愛さん 総合掲示板の方でお仕事なさってます
赤時計さん「花屑と狂夜月」「他人の不幸は毒の味」の作者さん
ゆヵさん 「SNEAK GAME」「めいろ」の作者さん

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 3/11三章十三話完成 ( No.106 )
日時: 2012/03/22 20:06
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: tBL3A24S)

三章十四話



「おっ、出てきた出てきた。あれじゃあねえの?」

 現れた七人の女子の中の、青いユニフォームの女子は、間違いなく乙海だった。横に並ぶ高校の者たちは、赤やら緑やら、とりあえず青系統は無い。その中でも落ち着いた雰囲気でいるのが、乙海だ。とりあえず、竹永二世と上の学年から呼ばれているぐらいだ、代介も楓も知っての通り、彼女は相当に速い(実際は竹永の一年時代の方が速い)。
 大舞台に立った経験や、試合自体のキャリアの差のせいか、竹永と違い、彼女は予選からプレッシャーを感じていた。心臓が波打って、そのまま喉から飛び出てきそうな威圧感。先輩のように、多少出遅れても何とかなる筈が無いと思っているためだ、このように緊張しているのは。実際には四百メートルなので百メートルに出場した竹永の方がよっぽど出遅れた時は危ないのだが。
 強い緊張を、確かに乙海は感じていたが、その方が丁度いいだろう。緊張感は無いよりも有った方が失敗しないというものだ。何事においても危機感を失った時が最も危ないのだと、かの有名な孔子も言っている。
 そういう重圧に顔を強張らせ、審判員の声に従って手と膝をゴムに付ける。真夏のゴムのグラウンドは太陽で充分に熱されていて、焼けるように熱い。暑いを通り超える。
 自分の試合でもないというのに、楓はちょっとした緊張感を持っていた。理由は単純、もうすぐ自分も走るのだ、四百メートルという距離を。その種目がどのようなものなのか、普段以上に目を凝らして見届けないといけない。
 変な感慨にふけっている間に、いつの間にか銃声のような発射の合図は鳴り響く。すぐに我に帰った楓はレースに集中する。最初はやはり、どの人も全力で飛ばしている。後々の失速など考えてはいられない。四百メートルとは、短距離なのだから。おいていかれたその瞬間に、敗北が確定するのだ。
 全員が全速力を出しても、その速度は当然のように一人一人違う。嫌でも、『差』というものは必然的に現れる。乙海はと言うと、これまでの説明で分かっている通り、前に立つ方だ。まず、同じ組のメンバー的に強力なライバルがいないことから、トップに立つ。その表情は、百メートル走っただけなのに涼しげに見えた。ただし、勝負はこれから。まだこの先、四十秒前後の時間が残っているのだ。
 それでも、九割五分程度の力で進んでいるのは明白で、ベストを出した時のタイムと比べると少々遅い。そのまま、差を詰めさせることなく、むしろ開かせて二百メートルを通過、半分が終わる。後続の選手たちはもうすでに、精神的に折れてしまいそうな顔をしている。明らかに辛そうで、歪んだ表情。相当にしんどいのであろう、先頭に着いていくのは。
 こんな地獄のような競争、その中でも最もプレッシャーの圧し掛かるアンカーなんて任されて良いのだろうかと楓は考える(実際は、マイルは四走までにかなり差が開いていて、よっぽどで無い限り四走で順位は変わらないことが多い)。
 そのまま、逆転劇の怒ることなどなく、予選は終わる。悠々と乙海は準決勝に残り、一秒差程度でゴールラインを通過した女子も上に上がる。

「あいつはあいつで速いな。普通に俺より速いんじゃね?」
「あ? 何言ってんだ? んなこと言ってもあいつを代わりに出す訳にいかねえだろが。お前が走るんだよ」

 楓が溜め息を漏らし、その後に放った感嘆のセリフに代介の眉間に皺が寄る。もうすぐ出番だというのに自身を喪失して良い訳が無い。むしろ、気持ちは高く持って行かないといけない。ジャージのポケットに手を突っこんだままで呆れ顔で説教する。バツの悪そうな苦笑で、申し訳なさそうにする楓に嘆息し、視線を落とす。どうやら、ちょっとずつ凍った感情も溶けてきているようで、ひとまずは安心だろう。
 それでも、どこか不安定かもしれないが、これ以上は楓を信頼するしかない。他人が踏み込める領域はこの程度しか無い。後は、酷な話だが楓自身の力で乗り越えないといけないのだ。そのために、周りの負っている責任は容赦なく突き放すこと。

「ま、良い。とりあえずやって来い。小西先輩来たぞ」

 代介の視線の方向に楓が振り向くと、確かにそこには短距離の小西先輩がいた。名字に“小”とか入っているが、非常に身長は高く百八十五センチメートル。見上げないと会話はできない。非常に速い先輩で、専門種目は二百メートル。四百メートルのタイムも、五十秒を切っている(正直速いです)。
 スタートダッシュに特に強いのでマイルと四継の一走を任されている。無論、男子なので竹永よりも速い。楓に向かって手招きしていることから、もうすぐ試合のために準備しろということだろう。軽く一礼した後に楓は代介に「また後で」と言い残して去って行った。残された代介は空を見つめて、祈るように目を閉じた。親友の、成功を願って。

「久しく中学の連中にもあってねえな。今度八組に行くか」

 中学時代に仲良くつるんでいた友人のことを思い出す。別に疎遠になった訳では無く、今でも同じ高校の一人とは登下校を共にしているが、他の面々には中々会わない。お互い忙しくて会う機会が無いのだ。
 そう言えば、あいつは精神面は相当に強かったと、彼は思い返した。挫折という言葉を知らなかった。負けたら、それすら糧にしていた。どれだけ悲しくても、人前でそれを見せようとしないのは楓とそっくりだとは思うが、例の人の場合はそれを周りに悟らせない。
 それはさておき、今は楓の方だと思いなおす。自分の試合もあるが、それまでまだまだ時間はある。のんびりしていこうと思う。

「さて……どうすっかな」

 退屈そうに佇む彼の下に、一人の少年が歩み寄る。代介には、彼に対して見覚えは無かった。

「なあ、楓秀也って知ってるか?」
「ん? いきなり出てきたけどあんた誰だ? 楓の友達?」
「……友達とは、呼んでもらえないだろうな」
「……で、俺に何の用?」
「ああ、自己紹介がまだだったな」

 その瞳は、今まで見たことの無い綺麗な色だった。淡々と彼は、自分の名前を述べた。

「俺の名前は、白石琥珀って言うんだ」



                                                続きます。

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 3/22三章十四話完成 ( No.107 )
日時: 2012/03/27 17:05
名前: 水瀬 うらら ◆.0WzqdBiXs (ID: G0MTleJU)

狒牙さん、こんにちは。
水瀬うららと申します。
(既にご存知かとは思いますが、改めて一応。)

ざっと六話まで読ませていただきました。

あまりのクオリティの高さに思わず噴いてしまいました。すみません。凄いと感じたもので。一体どうやったらこのような素晴らしい文章を捻り出すことができるんですか。気になります。
個性のあるキャラクターですね。特に竹永さんの場合、怯むことのない堂々とした人間なのだと、台詞からしっかりと感じ取ることができました。また、そのときの楓くんの人を思いやる気持ちが結果的に無駄となったときの空しさなども、文章にこそ書かれていないものの、伝わってくるものがあります。

大変緊迫感のある作品です。その構成から緻密さを感じました。

読んでいて気になった部分は二つあります。

一つは各登場人物の服装や髪形など、外見の説明があまり拝見できていないような印象があったことです。

キャラクターのポジションは分かりやすかったです。

二つ目は連続する台詞です。
その例が三話ですね。台詞に込められた心情を察することはできますが、表情や動作がないので、私の頭の中では連続する台詞の前後に書かれてある動作のみを礎としたシーンとなっています。個人的な意見ですが、もう少し連続する台詞の間に細かい動作や表情を入れてみるのはいかがでしょうか。
あと、会話(内の説明)でストーリーが展開されている多々あるのが印象的でした。

一話目に誤植と思われる語句を発見しました。
「意外に」→「以外に」

時間の空いたときにまた読ませていただきます。
執筆、陰ながら応援しております。
では、失礼します。


追記
参照千越えが近づいていらっしゃいますね!
何故か期待に胸を膨らませております。


※この返信は後に編集される恐れがあります。ご了承ください。

どこか上から目線のコメントですみません。

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 3/22三章十四話完成 ( No.108 )
日時: 2012/03/28 16:47
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: mz4TuiXV)
参照: 合宿より帰還なのです

この作品読んで下さったのですか、ありがとうございます。
六話というと氷室のあたりですね、氷室はセリフに苦労します、この作品内で最も……

基本的に人物の描写が今でも苦手で、書き始めた当初はさらに酷い物でした。
苦し紛れに情景描写を詳しく書こうとした、といったところです。
竹永は後々も結構堂々としてます。例外があったような、無かったような……

一時期セリフがさらに増えちゃうんですよね……とりあえず続きをマイペースに更新していきます。

誤字……色々ありそうですね、見つけ次第修正入れます。

1000……行って欲しいなぁ……
とりあえず今年の十二月までに完結させたいので頑張ります。

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 3/22三章十四話完成 ( No.110 )
日時: 2012/05/12 11:15
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: NHSXMCvT)

三章十五話





「白石、琥珀……?」
「そうだ、俺のこと知ってんのか?」
「いや、知らねえけど。強いて言うなら八百で同じ組にそんな奴いたな、っていう感じ」

 いきなり声をかけられたというのに、臆することなく代介は言葉を返した。目の前に出てきたのは、彼の全く知らない人間。正直対応が面倒くさくてしょうがない。一応楓の知り合い、ということらしいが、当然のごとく代介にとって白石は、赤の他人だ。会話が合うはずもなく、何を話せば良いかも分かったものではない。あからさまに嫌そうな顔をして、早く帰って欲しいという雰囲気を出す。
 そういうオーラを察してくれたのか、白石は代介に前置きをしてから語りだした。もうすぐマイルの方にいかないといけないから、長々しい説明をする心配は無い、と。

「で、結局何の用だよ」
「……何なんだろうな。でも、このままでいいとは思っていない……。まあ、贖罪だな」
「ハア、いきなり出てきて、アンタ何言って……」
「俺、小学校時代のあいつの、同級生なんだ」








「うっし、楓緊張は取れたか?」
「はい、大体。他の試合を見た感じ、四走までに順位ってほとんど決まってるんですね」

 もうすでに、マイルは始まっていた。一組、二組、三組と進んで行くうちにちょっとずつ緊張のほぐれてきた楓は顔つきも変わっていた。冷たく凍りついたようなものから、少しだけ余裕が生まれてきていたのだ。それを見通したメンバーの一人が、声をかけた。案の定大分リラックスできているようで、ハキハキとした声音で答えが返ってきた。
 メンバーは、さっき楓を呼びに行った小西という先輩が一番目、次にもう一人二年生が二走を走り、三走に同級生の平谷、そして楓だ。楓は、その三人と比べると確かに微妙だが、それでも一歩学校を出て、一人の一年生としてみると、決して遅いとは言われない。五十四秒は一応切れる……筈。
 闇戯高校は最終組なので、他と比べると大分時間的な余裕がある。もうすでに、大半の学校は試合を終えている。残すところはもう残り二組のみとする。
 ガヤガヤとしているスタート地点で、黙々と準備をしている男子が一人、居た。楓の視線の先には、走者の中で唯一の一年のために会話に入りづらい、琥珀がいた。隣で先輩方が大盛り上がりしている横で、一人静かにスパイクに履き替えている。
 もう、彼の中には、恐怖はほとんど残っていなかった。

「絶対負けない、乗り越えるんだ。そういう期待、乗せられてんだろうなあ……」

 代介曰く、楓が何らかのトラウマを抱えているのは分かっているらしい。しかもそれは、代介一人に限ったことではなく竹永を筆頭として過半数の陸上部員に。
 何だかさらっと、トラウマってのは引きずるものじゃあなくて乗り越えるものだって、宣告されていた。誰にかと言われると分からない。昔に言われたはずなんだけど、誰に言われたのだろうか。父親だろうか、母親だろうか、はたまた全然違う人だろうか正直分からない。
 それでも、何だか暖かい感じがした。家族のような温もりで、やっぱりそれは母さんに言われてたのかな、と彼は思いなおした。

「っていうかあの人の訳がねえしな」

 途端にさっきまでの緊張はどこへやら、彼の表情は憎いものを見つめるように険悪になっていた。大嫌いな人間を頭のどこかに浮かべているようで話しかけづらい。
 だが、誰かに指摘されるどころか、チームメイトに見られる前に自分で抑制してみせた。緊張が抜けるのはいいことだが、周りにとって訳のわからぬ理由で顔をしかめ続けている訳にはいかない。
 覚悟を決め直すために、さっきの怒りの残像を心の支えにして琥珀を見つめてみせた。もう、何も感じてはいなかった。勝ちたい、それが今の楓の唯一の望みだった。

「よっしゃあ、行くぞ皆」

 この四人組の中でのキャプテンである小西が、三人に呼び掛けた。二走、三走の二人は慣れた様子で歩いていった。他の皆に合わせて軽く走って体を動かして、最後の調整をした楓は、琥珀のプレッシャーよりも試合のプレッシャー多く感じていた。
 だけど負ける訳にはいかなかった。しわがれ声が言った気がしたのだ、次のげえむまで、この世で最も邪悪なゲーム、現実を楽しめと。その声は、彼が何度思い返してみても、Deathの声でしかなかった。
 きっとあいつらは俺がどこかで、精神でもいいから、壊れることを願っているんだろう。そのように呟いて楓は昨日一日のことを思い返した。離れよう、近づきたくないと思っても宿命じみたように白石琥珀は楓のすぐ傍に来た。氷室だってそうだ。もうそろそろ、琥珀の方も楓に気付いているはずだと、楓自身も分かっていた。
 きっと、琥珀は自分同様にアンカーであり、同じタイミングでバトンは回ってくる。今までの流れから考えると、そっちの方がよっぽど自然な話だと思えてきた。
 考えている間に、小西を含む一走のメンバーが走りだした。不意に静寂を斬り裂いた発砲音と、それを皮切りに始まる応援の大合唱が耳を貫いた。スターティングブロック(スタート時に踏んづけてるあれです)を蹴りだした彼らの体は、電光石火という言葉がふさわしい速度で飛びだして行った。
 全員が全員、前傾姿勢で加速する。脚を回すスピードは目では追うには分かりにくい。その中でも抜きんでて早かったのは、小西……と、その隣の日向高校。
 日向といえばと、楓は思い出した。昨日、琥珀が怒らせ、なおかつ怒っていた女子の居る学校だ。もうすでに説明した通りの、不良高校で、今走っている奴もかなり筋肉質で、出発前に太ももの青痣を確認した。

「それでも……速いのかよ」

 だが、本人の素行がいくら悪かろうとも、速い者は速いのだ。正直、楓はそういうのが嫌いだった。
 二百メートル地点、楓が呆気に取られている間に彼らが進んだ距離だ。もうすでに半分を回っている。そろそろ疲労が溜まる頃のようで、苦悶の表情で走り続けている。どちらかというと、日向の人間の方が辛そうにしている。明らかに飛ばし過ぎたようだ。
 どうやら自分の先輩の方が上手だと悟った楓は落ちついた。小西はペースを維持しているが、前に居る奴は逆に落としている。もうすでに、そいつを抜いたところだ。しかし、今度は後ろから琥珀の学校が上げてきた。
 残り百メートル、そこで琥珀の学校が、小西に並んだ。しかし、そっちは一レーン外側だ。真横に並んでいたら、闇戯高校の方が前に立っている。現に、二走にバトンが渡されるその瞬間、それはこちらの方が先だった。プレッシャー、そして高揚感が楓の中で膨れ上がった。
 二走が飛び出した十数秒後、オープンのレースへとチェンジした。もうここから先は決められたレーンでなく、好きなだけ内側に入ることが可能だ。楓の高校は4レーンに位置していたので、さっさと内を取った方が賢明だと判断した楓の先輩は内側のレーンに入った。
 そこでの実力は拮抗、特に差が広がりも狭まりもせずにただ時間が流れて、三走との距離も埋まっている。
 「やっぱり予想通りだ」と、楓は呟いた。




__________________________________________________

                                          次回に続く。

まさかの一か月放置……すいませんでしたっ!

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 5/12三章十五話完成 ( No.111 )
日時: 2012/05/13 09:48
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: QxAy5T6R)

三章十六話





 苦しさに顔をゆがめている楓の先輩の手から、真っ黒なバトンが、楓と同級の平谷に渡された。後続の、琥珀の居る高校との差はおおよそ二十メートルといったところだろう。だが、その差はもうすぐ埋まることが、もう分かっている。きっと、そういう定めなんだろう。
 リードを無駄にしないためにも、円筒形の金属が渡されたその瞬間に、責任感いっぱいの彼は走りだした。楓は今まで何度か彼が走るのを見てきたが、最初からこんなスピードで走っている姿は見たことが無かった。
 そこで楓は自分自身を嘲るように微笑んで見せた。それもそうだ、いつもはアンカーが先輩で、信任に足るのだ。だが、今日に至ってはその人がいない。そのせいで、急きょ中長距離から拝借してきた楓に走らせざるを得ないのだから。
 じわじわとだが、予想通り、二人の間の差はつまっていっていた。ああ、やっぱりと楓は思った。なぜなら、百メートルの通過で縮んだであろう差は、大体五メートル。全体の、四分の一。
 平谷が気負う必要はないと、はっきりと確信する楓が、応援することはなかった。なぜなら、きっと戦闘の二人は横並びでこっちに帰ってくると断言できた。奇妙な、確信があった、そういうことだ。

「闇戯の四走、入りなさい」

 二百メートルを通過し、どちらが内側かの順番が決まり、彼はトラックの最も内側に入った。その直後に、白石琥珀がゆっくりと、名を呼ばれた後に入った。
 その顔を見てみると、別に、嬉々として喜んでいるようにも、真っ黒な笑いも浮かんでいなかった。だが、不思議な事にどうにも安堵の表情を浮かべていた。まるで、楓が楓で本当に良かった、とでも言うように。
 もう、観察の暇は残されていなかった。奥の方にはようやく直線に入りこんだ二人の男子。もう残り十数秒もしないうちに、彼らが持っているバトンは、自分の掌の中にある。
 変なことを言う場面ではないなとは、薄々どころかはっきりと楓は感じていた。だけど、口にしないと、折角注入された気合いがすぐさま抜けて言ってしまうような気がした。

「俺の運命は、目立たずに、ひっそりと、誰に注目もされずに、安寧と暮らすこと」

 隣に立った男が、小さく痙攣するのが、彼にはよく分かった。その言葉を初めて使ったのは、他ならぬ、隣に居る白石琥珀なのだから。

「それが、運命がどうかしたのか?」

 もうすぐ、自分のところに順番が回ってくる、そのような、普通は緊張する場面で、楓は自分が何を考えているのか分からなかった。ただ、ぐるぐるといくつもの言葉が脳裏を駆け巡っていた。


————目立たずに、それは髪の毛のせいで果たされなかった。


————ひっそりと、そのように振る舞うのは、虐めにあって以来簡単に試みることができた。


————誰にも注目されずに、不可能だろう。親からは愛を、氷室からは怒りを受けた。


————安寧と、それは、俺だって望んでた。どっかの神様が邪魔してくるまでは。




 運命なんていくらでも変わるし、変えられる。たとえ神じゃなくて一人の人間であっても、それはできる。もしも神様が俺を殺そうと本当に思っていたのなら、最大の好機をあいつらはもう逃した。一番のチャンスは、鬼ごっこの時だったんだと思う。でも、あいつらはその一番確実だった機会を失った。現に俺は二番目のげえむは、あっさりと抜けられたじゃないか。



 平谷の手から、四人分のプレッシャーが詰め込まれたそれが託された。真横で駆け出す琥珀に負けないように楓は、地を蹴った。目の前に立たれたらどうにも走りにくいだろうから。



 もしも本当に、最大の好機があの時だったというならば、それ以上のチャンスがあいつらに回ってくることはない。だったら、その最大の架橋を越えた今なら絶対に、あいつらは俺を殺せない。
 ヴァルハラの使者が誰とかも、もう関係無い。あいつが味方だと言うなら味方だろうし、敵だったとしても俺たちを殺すのは無理だ。その場合、彼のベストの状況は何も分かっていない俺たちに説明するあのタイミングがそうだったはずだ。ってか、それ以前にヴァルハラの使者はアダムからあからさまな嫌悪を浮かべられていた。


 走りながらも考え事を続けている自分自身に対して、楓は溜め息を吐いた。もう、琥珀の姿はどこにも見れなかった、横にも、前にも。



 正直、この程度のプレッシャーは、アダム主催のかくれんぼと比べると、明らかに小さなものだ。たった一回の回答に、俺と氷室の命————信じ難い話だがついでにパラレルワールドそのもの————がかかっていたあれと比べると、あまりに小さな責任感だ。
 それに、走ること事態だが、こんなもの鬼ごっこの時の疲れと比較すると、何の苦でもないように思える。初めてアダムが話した時に言っていた通り、本当にあいつらは俺を鍛えていたのかと思うが、ただ単に殺し損ねているだけだろう。

 歓声が鳴り響くホームストレートに戻ってきた楓は、息こそ上がってはいるが、涼しげな表情だった。もう、誰の足音も聞こえない。昔の自分が泣いてる声も、今の彼には遠く聞えた。追い風が、自分を後押ししてくれているのが、心地よかった。

「そう言えば……あの時もこんなんだったな……」

 小学校のマラソン大会、古い記憶を掘り起こした楓はゴール手前のあの爽快感をゆっくりと思いだした。
 同じように、空は真っ青に澄んでいた。




第三章・楓秀也編は、ここで完結です。
第四章は、氷室冷河編(予定)です。
白石琥珀の真実は、きっと第四章にて……。
あ、後次回は高齢の総集編となります。
正直長い間ほったらかしなので読んでる人は少ないでしょうが、この作品はさすがに完結まで持って行きたいので、最後まで書かせて頂きます。
最後に一つ報告です、次回から書き方を変えます。
『Invincible ability』みたいな書き方になると思います。


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