複雑・ファジー小説

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DARK GAME=邪悪なゲーム= 
日時: 2012/09/14 21:51
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 3TttADoD)

えーと同じくファジーで能力もの書いてる(打ってる)狒牙です。

今回は結構暗そうなものをしたいなということで・・・

まあ、言ってしまうと時折(多分頻度は少ない)グロイかな?

基本的には普通ですので・・・

アドバイスとか変なところ(誤字脱字)があったら言ってください

よろしくお願いします

下手に内容を説明するとネタバレみたいになるんで

一気に一話目打ちます。

そしてこの作品では文章の形式を変えてみたいと思います。



一話目 招待状





「暗いなぁ・・・」

 夜道を、一人の男子高校生が帰っていた。もちろん一人でだ。
 等間隔に設置されている街灯の光を頼りにいつも通りまっすぐ家に帰っていた。
 高校に行き始めてもう三カ月程度経っている。二回目の定期テストが終わり、その手ごたえを塾に伝えに行った帰りだ。
 辺りはもうすっかり暗くなっているが、今日はたまたま曇っているだけでまだ八時にもなっていない。普段ならもう少し明るめだろう。今は月の光すらほとんど届いていないのだから。
 家にたどり着く寸前の急な坂道に青年は差し掛かった。ここだけは何年暮らしていても全く慣れることはできない。角度がそれなりに急な上、それがダラダラと百メートルも続いているのだから疲れている時にはお手上げだ。疲れる意外にここを説明することばはパッとは思い付かない。漢字で表すなら『苦』だ。しかし、苦あれば楽ありということわざもある。
 息を荒くして切らしながらその坂を登りきった彼は汗で少し濡れた顔を上げた。そこには、いつも通りの自分の家の景色があった。隣にある家も普段と何一つ変わらない。
 その家の門の前を通った時にチラッとその中の様子を見た。そこには、住人の一人であるまだ制服を着たままの女子高生がいた。

「あっ、先輩こんばんは」
「おー、楓じゃん。塾?」

 それは紛れもなく自分の部活の先輩だった。楓と呼ばれた彼の本名は楓秀也(かえで しゅうや)。二人とも同じ高校の陸上部員だ。
 といっても、楓は長距離、先輩の方は短距離だった。この時間がまさに『楽』の時間だ。
楓は先輩のことを尊敬している。なぜなら、目の前にいるこの人間は去年インターハイで優勝したからだ。距離が何であろうと関係なく、速い者にはすぐにあこがれる性格だから家がすぐ近く、というより隣の家にその人が住んでいるのは光栄だった。
 ここで一つだけ勘違いしてはいけないのが、別に恋愛対象として見ているのではなく、好きは好きでもスポーツ選手のファンのような感覚だ。思慕の念よりも崇拝と言う方が近い。それほどまでにこの先輩を慕っている。
 ついでに言っておくならこの人の名前は竹永叶(たけなが かな)という。

「普通科は大変だね」

 重い教科書を何冊も詰め込んだ大きなリュックサックを背負って地獄と読んでもいい坂を登り終えた楓に笑いながらそう言った。
 彼らが通っている高校は、体育科と普通科に分かれている。竹永の方は体育科で、楓は普通科だ。しかもこの学校は体育科の連中はスポーツに強く、普通科の連中は勉学ができるというものだ。だから地元でもかなり有名な行きたい高校ナンバー1に選ばれ続けている。

「そうですね、でもテストが一段落したんでしばらくは楽な生活ですね」

 そう言うと、今度は先輩があからさまに疲れたような顔つきになった。その理由は簡単だ。夏休みは腐るほど大会がある。一年にしてインハイで優勝したのだから大会に出されまくっているのだ。相当にだるそうな顔をしている。
 もうすぐ鬼の合宿と呼ばれるイベントが近づいているからだろうか?

「たまにさ、裏側の世界があったら言ってみたいと思うよ」

 このポツリと特に重要な意味を持たない言葉が発せられたのを聞いたとき、ふとある噂を思い出した。いや、都市伝説というべきかな。内容はこんなものだ。




 真夜中は気を付けないといけない。特に招待状を受け取ったなら。
 招待状は突然現れる。血のように紅い封筒にどこまでも続く深い闇のように冷たい黒い紙に『You are invited』と白く描かれた紙が入っている。
 それが招待状だ。そこでは夜な夜な残酷なゲームが行われているという。



 まあ、この話はまだそこまで出回っていないので、元からそういうのに興味の無い先輩が知るはずもないからただの愚痴だと思ってスルーしようとした。でも、自体は思っている以上に深刻だった。

「なんかさっきポストを見たら真っ赤な封筒が入ってたんだ」

 これを聞いた瞬間にはまだただの世間話だと思って普通に接していた。
 だが、その一秒後にまたしても噂を思い出した楓は硬直した。それでも、先輩はその封筒がどういうものなのか説明しているからこっちの違和感に気付いていないが、楓の胸の中では胸騒ぎがしていた。
先輩は、その中からどす黒いハガキを取りだした。そこには、やはり文字が書いてあった。



『You are invited』



 これが視界に入った瞬間、瞳孔は一瞬にして開いた。そこには、幽霊を連想させるように白い字でそう書かれていた。
 かく汗の中に冷や汗が混じる。これではまるで噂と同じだ。

「後ろにも変なことが書いてあるのよね」

 そう言って今度は紙をひっくり返した。そこには、今受けた衝撃よりもさらに強いショックを与える文が書いてあった。

『おめでとうございます。あなたはご当選いたしました。裏の、闇の世界へのペアチケットです。あなたと、もう一人誰かをお誘いください。何、迷うことはありません。隣家の後輩で結構です。[げえむ]は今晩の八時から、次の日の午後八時まで行われます。それまでにもう一人の方とご一緒しておいてください。』

 背筋に悪寒が走った。この内容を見る限りこれの差出人は明らかに先輩を狙っている。隣家の後輩とはまず俺で間違いない。
 怪しい雲がさらに月の光を隠すようにもうもうと寄ってくる。ふと時計を見るともうすでに時刻は七時五十九分を示し、秒針はもう・・・









 十二の文字にかかろうとする瞬間だった。








 秒針が五十九秒から六十に動いて行く。その動きがとてつもなくスローに感じられる。体は、ピクリとも動かなかった。



 刹那、手紙から迸った漆黒の闇は叫び声を上げさせる暇なく一瞬で楓と竹永を包み込んだ。グチュグチュと妙な音を立てて闇の繭を作り、ゆっくりと地面に溶けていくように小さく下から萎んでいった。










                                 続きます


第一章 鬼ごっこ編

>>1>>2>>3>>4>>5>>6>>7>>9>>10>>11>>13>>14>>17>>18>>19>>20>>21>>22>>26>>27>>29>>30>>33>>36>>37>>40>>41
>>42>>48>>49>>50>>51>>52>>55>>56>>57 総集編>>60

第二章 日常—————編 募集キャラ>>70

>>61>>64>>65>>66>>67>>68>>69>>72>>73>>76>>79 総集編>>80

第三章 楓秀也編 プロローグ>>81

>>83>>85>>89>>91>>94>>95>>96>>97>>99>>100>>103>>104>>105>>106>>110>>111総集編>>112

第四章 氷室冷河編
>>113>>114>>115>>116>>117>>118>>119>>122>>123>>124

コメントしてくれた人です(一度でもしてくれたら嫌でも載ります。すいません・・・)

ryukaさん「小説カイコ」「菌糸の教室」「壁部屋」の作者さん
千愛さん 総合掲示板の方でお仕事なさってます
赤時計さん「花屑と狂夜月」「他人の不幸は毒の味」の作者さん
ゆヵさん 「SNEAK GAME」「めいろ」の作者さん

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 三章五話完成 ( No.95 )
日時: 2012/01/14 20:54
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 0.f4Pw3t)

三章六話 最悪






 結局試合の直前になった今でも楓は全然集中しきれていなかった。茫然と、ただ機械的に普段しているように試合前の準備をする。コールをしたり、スパイクを準備したり。ただし、普段とは確実に異なっている点が一つあった。俯いているのだ、ずっと。明らかに意気も精気も無くて見ているだけでこっちまで疲れてくるような。いつもならば誰かが凹んでいたら励ますのだが、それをするのさえも億劫になるほどに楓は沈んでいた。
 誰から見てもその気持ちの沈み方は明確で、何とかしてやりたいと思うのだが何をすれば良いのか分からない、そう言った矛盾がぐるぐると頭の中で巡っていた。特にそれが顕著に表れていたのは竹永と乙海で、対照的に代介はと言うと、気にもしていないようにして黙々と自分の用意をしていた。
 途端に楓の鞄から携帯のバイブ音が聞こえてきた。三回程度で収まったことからきっとメールだろうと気付いた。かろうじてそれには気付いたようで、ゆっくりとした動きでその携帯を開いた。

『オイコラ楓、どうやら今日は試合らしいじゃねえか。まあ、頑張って来いよ』

 デコメが二、三個貼りつけられた激励の簡素なメールが送られてきた。送り主のところには“神田桐哉”と名前が表示されていた。

「神田さん……」

 何だかこの人はある意味凄いと楓は思っていた。たまにだが、この人は楓が悩んだり塞ぎこんでいる時に無意識のうちに支えてくれていることがある。本人にとっては全くの無意識らしいのだが、不器用で本心が伝わりにくいこの人は分かっていてしてくれている時もあるのではないかと思ってしまう。
 だが、今日に限っては必ず偶然だと楓は納得した。だって神田さんには過去の事を一切言っていないのだからと、楓は少し明るさを取り戻した。その様子を見守っていた竹永も、ここでようやく安心し、放っておいても大丈夫だと落ちついた。
 バイブ音がもう一件、今度は赤弥空だった。今日はよくメールが来るなとか考えながら。

『リンから聞いたぞ! 精神的に死にかけてるんだって! まあ、元気出してけよ』

 リンっていうのは、乙海の事なんだっろうなと、チラッとその方向を見た。一瞬視線の合った彼女は知らぬ存ぜぬという風な顔で違う方向を向いた。
 なんだよ、結局皆にバレバレじゃないか……楓は心の中で溜息を吐いた。本当に無力な自分がどうしようもなく惨めで仕方がない。もう一度携帯が鳴る。今度は奇妙な話で、二件とも自分の知らないアドレスだった。

『神田先輩から聞いたよ。凛からも事情は聞いたし。あっ、アドレス登録しといて。       青宮葉月』

 青宮までかよと、楓はやれやれと首を振った。何だよこのメールの送り主の女子の多さ。俺に男子の友達がいない、って言うか女たらしみたいじゃねえか。別に恋愛なんて興味の無い楓は冗談交じりに苦笑した。もう一通のメールもついでに開く。

『試合……ねえ……。せいぜい頑張りなさいよ。竹永さんに頼まれたから、それだけ』

「誰だよ、こいつ」

 竹永の知り合いなおかつ自分の知り合いって、陸上部以外にいたかどうか彼は考えだした。考えても一向に思い浮かばない。ふと肩を叩かれる。代介が行くぞと手で示した。手元の腕時計を見ると、かなりの時間だ。最後に謎のメールを送った人間のアドレスを目にしてからそこを抜けだした。
 そのメールアドレスには、『non-met.mother』と出ていた。一瞬の思考の後に一人の候補が出てきたが、すぐにその考えは否定した。あの者が楓に激励をするなんて……一度あったが、あの時とは場合が違う。こんな事で送ってくるとは思えない。
 口調はいかにもそれっぽいけどと、微笑する。すっかり気分の落ちついた楓は軽快にスパイクを拾い上げて代介に続くように駆けだした。





                               ◆◇◆




「これで、良かったのかしら?」

 真っ黒で薄型の無機質な携帯電話をパタンと閉じて、軽く息を吐き出しながら彼女は呟いた。先日彼女は一人の女性と連絡先を交換した。理由は教えてと言われた時に断る理由が無かったから、そして個人的にその人のアドレスが知りたかったからだ。
 だがこのような頼みが来るとは思ってもみなかった。嫌かもしれないけどと最初に前置きがあって、塞ぎこむ楓秀也を元気付けてくれという内容。そんな事よく自分に頼もうと思ったなと彼女は思ったが承諾した。軽い贖罪の一つのために、多少毒気は混じっているが応援のメールは送った。

「あっ、自分の名前入れてなかったけど……まあ良いでしょ。ここで補足したらいかにも登録してくださいみたいな感じで癪に障るし」

 氷室冷河は、部屋の中で一人淡々とそう言ってカーテンを閉めた。今日から部活なのだから着替えないと。一週間ほど前に受け取った体操服を箪笥から引き出した。




                                               続きます


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久々に登場するキャラがいっぱいいましたね。
ていうか楓すごいね、メールくれたの神田さん以外は皆女子だ。
では、次回に続きます。

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 三章六話完成 ( No.96 )
日時: 2012/01/18 21:44
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: CR1FbmJC)

三章七話 発見





 終わった今となっては仕方の無い事だが、その日の千五百メートルは元々得意な種目ではなかった上に、あんな精神的にも身体的にも不安定な状態だったので、あまり結果はよろしくなかった。はっきりと断言すると悪いだろう。
 ゼエゼエと、自分自身が切らす息を耳に収めながら楓はその場に座り込んだ。一日目、その日の自分の出る種目はこれにて終わった。それにしても不味かったなと、楓は下を向いて溜息を吐いた。終わったのはつい五秒程度前。まだ全然体力は回復していない、よってゴムのグラウンドの上に座り込むしかない。
 遡るのは七分程度の時間の話、自分たちの前のレースが終わり、予選の第二組に突入しようとした時だ、群青と翡翠は楓のすぐ近くでストレッチだの靴の履き替えなど、すぐそこに迫る試合に対して敬意を払うかのように準備していた。だが、その隣にいたさっきの楓は戦々恐々としていた。見る限り仲の良い友達だ、いつ琥珀がここに来るとも限らない。
 昂ぶる半面冷やかになっていく楓の心情を置いておいて、刻一刻と時間はただただ過ぎて行く。体の震えも強くなってくる。その原因は果たして緊張だろうか、恐怖だろうか。

「翡翠、群青」

 名前を呼ばれた二人は真後ろを振りかえった。友達に話しかけられた時のように、軽いノリであっさりと。ついに来たかと楓はその場を立ちあがった。それには目もくれず三人は会話を続ける。

「もう始まるのか、頑張って来いよ」
「分かってるさ。それより何だよ、そのスタートリスト。一々持って来なくても良かったろ?」
「ああ、面白いもの見つかったんでな、報告に来たんだよ」

 面白い物? そう訊き返して群青は琥珀の手元にあるスタートリストに目をやった。何事だろうかと思った翡翠も覗き込んだが、多分お前は知らないと思うときっぱりと琥珀に言い捨てられる。
 それならば仕方ないかと下がった翡翠を気にせずにもう二人は話の続きを始めた。

「これにな、懐かしい名前が載ってたんだよ。同一人物だったら面白いんだと思ったんだ」
「ハア? 懐かしい名前?」
「そうだよ……」

 そうだよという言葉の語尾がかすれるように濁ったのに楓は違和感を感じた。多少恐怖を過大評価している部分もあるのだろうが、それでもこれとはギャップが有り過ぎた。

「……! こいつって……嘘だろ!?」
「まさかと思って見渡したけどここにはそれらしい奴はいないからな。同姓同名なのかと思ったけど……」
「だけど、あいつの引っ越したのってやっぱり闇戯町だろ? やっぱり同一人物……」
「周りを見てみろよ、ち……つなんて全然見つからないだろうが」

 何が見つからないと言ったのかは楓には聞えなかったが、下手にばれたら困ると思ったので彼はその場をすぐに立ち上がった。その連中を置き去りにするかのようにさっさと歩いていく。
 だが、確かにその耳にもはっきりと聞こえてきた。今から試合が始まるから選手はこっちに来いと指示されて皆が動き出した時の話だ。すれ違いざまに群青の口から自分の名前が出てきたのを。
 都合良くその時、呆然とする楓を我に返すような強くまっすぐで、涼しげな風が吹いた。ざあっとそこいらの芝をなでて、地に落ちたまだ緑色をしている木の葉を舞い上げて、前髪を揺らすように。心地よい風になびく髪は、ほんの一瞬とても美しいブラウンに見えた。
 またかよと、嫌そうに小声で呟いて楓は舌打ちした。意味の分からない幻覚に今日だけで何度驚かされたことか。でも文句を言う暇も気持ちを整える時間も今は無い。ただ、使命感に駆られて白線の前に並んだ。緊張はもう無かった。ぶつける場所の無い苛立ちが、心の中を覆い尽くしている。
 なんだかやる気とかモチベーションとか、そういうものが一切合財持って行かれた楓はもう、目の前のレースに無気力になっていた。面倒だとも思い始めていた。でもそんな事を言ったり行動に移したりは嫌だ。それの方がより望まない方向に働きだす。
 ここでようやく使命感の理由が分かった。自分が一番したいのは周りの人に迷惑をかけないこと、それならば何事も無かったかのように平然と走りきらないといけないのだ。エントリーしたから、もう始まるから。それは理由として成立していない。
 だから、ただとりあえず走った。見掛け上だけの話だ。やらなきゃいけないとは分かっているのだが、さっきの群青の一言で発覚した事実に怯えてばかりいる。もうすでに自分がいることは琥珀の既知のところだ。
 それだけを考えてただ足を動かしていると、いつの間にか疲れていた。もう残り一周になっていると知らすための鐘が短く響いたのを聞いて大体冷静さを取り戻したが、もう遅かった。最後の一周だけを精魂込めたところで結果なんてそうそう変わらない。

「くそっ……幸先悪いなあ……」

 額から流れ落ちる汗、その中にごくごく微量の涙が混じっていたことは、まだ本人は熟知していなかった。
 そしてこの瞬間に楓は完全に琥珀に、とりあえず名前が楓秀也だと知られていた。琥珀の思う楓秀也かどうか、それは分からないがとりあえずといったところだが。
 翌日、彼ら二人は本当の意味で再会する。




                                               続きます


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最近結構微妙な回が続いてますね……
楓秀也編もそろそろ折り返し地点です。果たして琥珀と楓ってどうなるんでしょうね……
いや、自分の中ではどうなるか分かってますよ。
では、次回に続きます。

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 三章六話完成 ( No.97 )
日時: 2012/01/24 21:09
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: mjEndXDA)

三章八話 再対峙





「うっし! 今日も気合い入れてくか!」

 前日同様に試合会場に集合時間よりも十分程前に到着した代介はすでに来ている他のメンバーと共に気合いを入れなおした。左手をパー、右手をグーにして、叩きつける。
 隣にいるのは今日マイル(4×400メートルリレー)を走る楓以外の三人の面々。一人目は参田先輩、二年生の男子で一走を走る。はっきり言って四百メートルはこの、楓達の高校の中では最も速い。二人目は黒山、一年でありながらも五十秒台という中々に速い期待のホープ。三人目が緋杏(ひあん)先輩。二年生で、大体タイムは黒山と同じくらい。この三人でかなりいい線まで持って行って、最後は大概本来出る予定の短距離の柊(ひいらぎ)先輩が抜かれないように請け負うのだが……一身上の都合で今回は休んでいる。
 だから楓が代わりにアンカーとして走ることになっているのだ。緊張感はかなりのものだろうなと思いながら当の本人の到着を待つ。昨日通りだったら行っている間に来るだろうと思っていたら案の定彼はすぐに現れた。
 その姿を見て楓は手を上げて話しかけようとしたのだが、それはできなかった。想像を絶するほど、彼の顔は未だに暗いままだったのだ。一体何があったのだと問いただしたくもあったし、落ちつかせてやりたいとも思ったが、そうすることは不可能だった。
 話しかけないでくれと直接彼がその口から発した訳ではないのだがそういう雰囲気は無意識のうちに彼から放たれていた。今はどんな人にどんなに優しく触られても割れて砕け散ってしまいそうなほど軟いシャボン玉みたいな状態だったのだから。
 おはよう、ただそれだけが楓の口から洩れる。最初代介を初めとする面々はその挨拶が耳に入っていなかった。一拍どころか二拍や三拍遅れてようやく言葉を返すことが出来た。

「よう、楓……なあ、その…………大丈夫、か?」
「えっ、ああ。大丈夫に決まってんじゃねえか」

 大丈夫かと訊かれた楓はパッと明るい笑顔を作って代介に見せてみせた。大丈夫じゃないだろうと、悔しそうに代介は歯ぎしりをする。何かあったら言えって言ったろうがと、忌々しげに楓を睨みつける。
 瞬間視線を外した楓はそこには気づいていなかった。それにしても昨日、一体何があったのだろうかと思いなおす。昨日帰ろうとしている時はこんなにも酷くなんてなかった。

「何で……あいつまでも、俺の事心配してるんだよ……くそっ!」

 明らかにあいつというのは、代介の事を指している訳では無かった。昨日会った事を思い出しながら楓は一人俯いた。




 昨日の帰り道、やはり塞ぎこんでいる楓が高校の目の前を通った時に何人かのサッカー部の友達に会った。中学が一緒の、近所に住んでる奴とか、先輩の友達の人とか、何人かと出会った。
 できるだけ彼らには動揺を見せないように努めた。笑顔を作って、明るい声で会話した。こぼれ落ちそうな涙を瞳の奥に残したまま。
 するとふと、校門の中から出てくる二人の人間と目が合った。片方にはおもいっきり見覚えがあり、もう一方はそういえば青宮のクラスにいた男子だな、という程度の奴だった。男子は隣で歩いている女子と楽しく談笑しているが、相手の女子は慣れない相手に社交辞令的に会話しているだけに見えた。
 てめえ俺の時とはえらく違った態度だなと、数日前の共に行動していた時間なら文句の一つでもつけてやるところだが、今はそいつにだけは話しかけられたくないと思った楓は早足で通り過ぎようとした。だが、その場で足を止めざるを得なくなる。

「ん? そこにいるのは楓か。オイコラ、今日の結果はどうだったんだ」
「あっ、神田さん……」

 学校での部活を終えた神田が楓の所に来る。それだけの事なのにホッとしたのはつかの間、すぐに顔面蒼白になりかける出来事が起きる。

「……あんたこんな所で何してんの?」
「っつ……! 氷……室…………!」

 まさか神田に止められている間に一々声をかけてくるとは思っていなかった楓は咄嗟に身構えた。ようやく琥珀から遠のいたので収まってきた冷や汗がぶり返してくる。

「何身構えてんのよ。で、試合は?」
「ハア!?……何でお前がそんなの知って……」
「五月蠅いわね。どうでもいいことでしょう?」
「そうかもしれないけどさあっ!」
「何だ楓知り合いか?」
「氷室さんこいつ誰?」

 氷室に声を掛けられて完全に蛇に睨まれた蛙状態になった楓はただ言われたことだけにリアクションを取ることしか出来なかった。受け身の態勢を取り続けている楓に容赦なく氷室は言葉を浴びせる。
 そろそろ蚊帳の外に出されたことに気付いた二人はそこに乱入する。神田は氷室に、良く分からないサッカー部員は氷室に。今折角話せていたのにというのが丸分かりなほどに、サッカー部員はあからさまに嫌そうな顔をしている。

「こいつは、うちのクラスの転校生ですよ」
「こいつ……この人は楓秀也、うちのクラスの学級委員よ」

 こいつってもう言ってるじゃないかと、楓は呆れかえって頭を押さえて苦笑する。やっぱり自分なんてそんなもんだろうと。

「何だ、そんだけの話か。にしても青宮と気が合いそうな雰囲気だな」
「なーんだ、それだけか。何だか昔からの仲みたいでびっくりしたよ」

 その通りだよと、楓は塞ぎこんだ。今日でなかったら力強く言いきって見せるのに、今日に限ってはそんな事は言えない。

「今日は、最低人間とかどうとかは、言わないんだな」

 ぼそぼそと掠れた声で微かに言っただけのそれを氷室の耳は全て聞きとった。そう、彼は忘れていた、氷室の耳の良さを。

「あなたがそれを引きずってどうするの? もうそれについては私は納得したつもりよ」
「そう……なんだ。なら良かった」
「何が言いたいのよ」

 完全に、もう一度二人を蚊帳の外に追い出して二人は会話を続ける。どうせならもう本人に訊いて確かめたいとも思っていたからだ。

「今日、琥珀を見た。白石琥珀だ。覚えてるか?」

 ざあっとその空間を一筋の涼風が吹き抜けた。ようやく氷室の顔にも変化が訪れた。



                                                 続きます

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 三章九話途中 ( No.99 )
日時: 2012/02/05 17:12
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: .pdYDMor)

三章九話 氷室の現状





「白石琥珀……って?」
「忘れたとは言わせない。同級生にいたはずだ」

 そりゃあ、そんな事は覚えているけどさと、氷室は呟いた。その会話の内容を聞いて隣に立つサッカー部員はやはり知り合いだったんじゃないかと顔色を変える。
 こんなに沈んだ状況でも、簡単に見てとれるほど彼は氷室にぞっこんのようだ。本人はおそらく気付いていないだろうと楓は思った。相手の感情を読み取れるタイミングって言うのは自分の感情だって悟られてしまう。それぐらいの事はおそらく氷室は理解している。よく知り合いもしない初見の相手に簡単に心を許すような性格の持ち主ではないことぐらい楓は分かっている。腐っても二回のげえむを共に生き抜いた仲だ。
 何だかあまり有効的な色でもなさそうだと、神田は感じる。氷室という初対面の女はサッカー部の奴と二人きりで話す状況を打破するために話しかけたのはすぐに分かった上に、楓に至っては氷室を見た瞬間に一気にテンションが落ちた。とするとこの二者の間には何かがある。不器用な性格で、自分の心情を人に伝えるのが苦手な彼でも、人の感情を感じるのは鋭敏だ。彼自身簡単に人に心を許すから、容易に人の心を読み取ることが出来る。

「白石って確か、私が勝手にあなたに対して怒るようなことを仕向けた張本人でしょ?」
「そうだよ、知ってたのか……」
「ヴァルハラの奴から見せてもらったのよ。だからもうとっくにそれに関して言及することは無いわ」
「そうか……ありがとな。じゃあ、神田さんちょっと俺、今日はさっさと帰ります」

 そう言い残して踵を返した。もうそこの三人に見せられるような顔ではなかった。氷室は既に許していると言った。勝手に引きずっているのは自分自身、それがさっぱり分かっていなかった。理不尽に人の命を奪う鬼ごっこのルールで激動に駆られたところからも察せられる通り、根は優しいものがあるんだろうなと、誰にも言わず、彼自身にそう言い放った。

「やっぱり何かあったんじゃねえの、楓? お前普段と全然違うこと、気付いてるか」

 一旦は反対側に向けた顔を噛んだの方にもう一度向ける。いきなり彼は振り向いたその顔をがっしりと両手で挟むようにして掴みこんだ。

「精気が全然ねえんだよ! この顔にな!」
「そうよ、そこの……誰かさんの言う通り。あんた本当なよなよしてるわよ、今」
「誰かさんとは失礼な。俺は神田桐哉、男バスの二年だ」
「ああ、大谷要って有名人の……コンビ?」
「人を勝手に付録みたいに言いやがって……楓、こいつ誰だ?」

 喋りたくても彼は喋ることができなかった。左右から抑えつけられているせいで口が思うように動かせないからだ。
 気付くのは確かに遅かったが、気付いた神田はすぐさまその手を離した。途端に風船が割れたように楓の口からは空気が、声が漏れだした。

「ぶはぁっ! いきなり何するんですか神田さん! 一切喋れないんですよあれ!」
「悪い悪い、でこいつ誰? 本当にただの転校生か?」
「……本当に転校生ですよ。でも、初対面じゃないです。俺、小学校の頃に転校してきたんですよ。前の学校のクラスメイトがこいつです」
「それだけか? それ以外に接点はないのか? 何かしら因縁が無いとあんな雰囲気にはならねえだろ」
「本当に鋭いですね……ちょっと諍いがあったんですよ」

 そこで楓は言葉を切った。それ以上言い続けることはできなかった。それ以上口を動かしたら本当にダムが決壊して、泣きだしてしまいそうだったから。
 ちょっとした諍い、客観的にはそう見えたんだと自分でも思っていた。ただし当事者の彼にとっては、琥珀から植えつけられた感情としては絶対的な恐怖とトラウマ。氷室に対して植え付けてしまったのは、今はもうないが怒り、自分には罪悪感。負の感情ばかりが蓄積されて今にも壊れてしまいそうな時に、引っ越すことになった。
 思い出したくもない忌々しいあの男が唯一楓のためになった行動は引っ越しだった。何で引っ越しなんてするのか、したのか、昔も今もその理由は理解できていない。楓の父親の職業は確かに全国を転々とするが、妻子を連れて一々住所を変えないといけないとなると面倒だから単身赴任で終わらせるべきなのだ。なぜあのたった一回だけ自分たちも連れて行ったのか分からない。
 虐めを察してくれていたなんてことはありえないと最初から分かり切っている。彼は母親には言ってもいないし気付かれてもいなかった。それよりも楓について何も知らない父親の方がそれを理解しているなど、ないに決まっているのだ。
 それよりも、どうやってこの状況から逃げ出そうか考えていた。本当にどうしようもなくて、怖くて怖くて何をしたらいいのかさっぱり分からない彼を、運命はさらにどん底に突き落とした。



 瞬間、彼の足元の影は渦を巻いて踊りだした————。



「何だ……これ……!」

 不意打ちにあった楓は抵抗しようと手足を動かす前にその影に呑みこまれた。ぐちゃぐちゃとした不快音を耳にしながら妙な既視感に襲われた。彼の目の前では同様に氷室、サッカー部の奴、神田も漆黒の何かに捕われている。

「まさか……これって!」

 とんでもない時に来たと、彼は一人この現象に納得した。これはげえむ開始の合図だろうと。精神的にどん底に押し込められている時にこれとは、図ったかのようだ。それに、まだ鬼ごっこが終わって一週間も経ってないのにもう三つ目のげえむが始まるのかと絶望する。これでは、来週も再来週も、週に三回程度の割合で死と隣り合わせになって暮らすことになる。いつ始まるか分からない焦燥感、それも加味すると毎日が不安になるだろう。
 不味い、どうする?頭の中でそのように楓は考えた。こんな頭の回転しないコンディションでハードなげえむは乗り越えられないぞと冷や汗を流す。自分はどうでも良いが、神田と氷室を助けないといけないと、勝手な使命感が彼の中で生まれていた。自分が全ての者を助けるのだと言う盲信、そのような感情すらいつ湧いたか分からない。
 そして、気付いた時に目の前に広がっていた景色は、闇戯町の西端にある大きなレジャーランドだった。しかし、休日のその場所にしては信じられないほどに閑散としていた。人っ子一人どころか生き物が存在していない。

「フムゥ……貴様が楓秀也か?」

 目の前には白髪を貯えて、巨大な刃の付いた鎌を持った老人がいた。その風格と威厳は人間のものとは思えず、神々しくもあった。
 ただし、禍々しさも兼ね備えていたのですぐに分かった、『アダムの使者』だと。


                                             続きます


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すいません、mixi始めて更新ペースガタ落ちですね。
飽きずに読んでくれる方が果たして何人いることか……。
そして久々のげえむです、次回……だけで終わるかなぁ?

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 三章九話完成 ( No.100 )
日時: 2012/02/14 20:48
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: rtUefBQN)

三章十話 かくれんぼpart2





「貴様らが楓秀也と氷室冷河か。不必要な者が二人も来たがまあ良い。儂の名はDeath、覚えておけ。『D』の称号を冠する幹部の一人じゃて」
「D……イグザムよりも上の階級……!」

 以前散々苦しめられたイグザムの事を思い返す。基本無邪気な子供なのだが愉しむことにかけては貪欲で、冷酷さも否めない我儘な少年。しかし見かけに反して頭は回り、鬼ごっこの時には死の瀬戸際まで持って行かれた。
 そして楓は目の前に立つ髭を蓄えた老人を見て思う。あのイグザムよりも上に位置する、つまりは頭が周る。イグザムから逃げ切るだけでも精一杯だったのに、それ以上が出てきたらもう……。でもそこですぐに現実に帰る。よくよく考えてみるとついこの前にクリアしたかくれんぼは最も上級のアダムのげえむのはず。それを生き抜いたのなら何とかなる、そういう事から安堵の溜め息を吐き出した。
 ただしそれを見てすぐにDeathは別の理由から溜息を吐く。どうしようもなく蒼く幼い少年を見下すような雰囲気。そのまま老翁は語り始める。

「貴様らはアダムの使者を少し間違えている。階級が上がれば神通力は強くなるが賢くなる訳ではない。ああ、軽く貴様らの心を読むことだってできるぞ、儂には」
「なるほど、プライバシーもへったくれもねえな」
「フムゥ……神とは全てを見通さないといけないからのう?」
「御隠居が言ってくれるわね。じゃあ、ヴァルハラの使者正体でもあたしたちに教えてくれないかしら?」

 それはどうしたものかと翁は髭に手をやる。ヴァルハラについての情報を渡すか示唆しているようだ。順当に考えるならば何も言わないだろう。だが、相手は腐っても神であり、何かしら策があって吐いてくれるかもしれないと氷室は考えた。
 どちらに転ぶかは全て白髭の彼の采配一つだ。散々顎の辺りを弄った後についに決めたようで頷いた。

「ヴァルハラの使者と言うのはじゃな、聖域“ヴァルハラ”に使える者だ」
「ちょっと、答えになってないわよ」
「別にヒントはこれで充分じゃろうて。楓秀也の方は分かっているだろうに」

 やや不機嫌そうな目で楓を睨むように見据えた氷室はそちらに寄った。知っているのかと耳打ちするとあっさりと肯定を示す。ただし、何かに体を震わせて、おずおずと。
 スッと彼女は目を細める。鼻で笑いながら踵を返し、アダムの使者の方と対峙する。

「で、次はどんなゲームなのよ?」
「今回はそこまで本気ではない、余興じゃ」
「へえ……暇つぶしに命賭けてあげられるほど私は優しくないんだけど?」
「気にするな。今回のげえむはかくれんぼじゃ。アダムの考えたちんけな割に時間をかけるものとは違うぞ」
「ふーん、芸が無いからちょっとルール変えただけなんじゃないの?」
「それは耳が痛いわい」

 一本取られたと、老人は肩をすくめる。その様子にも注意を払い、ほんの欠片であっても集中力は落とさない。普段ならば楓もそうしている、でもその日はそんなに余裕がないので、気を配らせていたのは氷室一人だった。
 そういう、傍らの男が注意力散漫なままに氷室はルールを聞き始めた。今回のかくれんぼは鬼から逃げ切ったら勝利。それもたった五分間の間だけ。しかし逃走範囲は高校の敷地内のみ。
 なお、面倒だから神田ともう一人の男子は、別空間に幽閉してあると言う話。直に現世に返すらしい。
 五分後、鬼を放つと言う。鬼に見つかったらではなく鬼に噛まれたら負けらしい。基本的にこのげえむというのは命を賭けるものなので、きっと鬼は猛獣の類。

「鬼は結局何なのよ?」
「キングコブラ、そう言われているな。それが一気に五百匹ほど校門から放たれる」

 さあっと、二人の顔から血の気が引いていく。そんなことはお構いなしにDeathは、後五分で始めるぞと真剣な口調で言う。命とは決して軽々しいものではない、それは分かり切っているのか、アダムのように茶化すようなことはなかった。
 でも、何度も言うように、今日の楓は、げえむなんてできるモチベーションではない。もう死んだって良いんじゃないか、そういう低すぎる感情がドロドロとしていて、氷室をさらに苛立たせる。

「楓ぇ……あんた本当に何してんの?」
「ごめん、でも……何も考えられないし、体だって動かないし……」
「だから、何ふぬけたこと言ってんのよ?」
「分かってるよ、ダメだってことぐらい。最悪、お前の盾にでもなってやるから、このままそっとしてくれ」
「アンタねえ……ふざけるのも大概にしなさいよ!」

 楓の耳元で血相を変えた彼女は怒声を飛ばした。一瞬、ほんの一瞬楓は表情を変えて驚いたがすぐに普通に戻り、瞳には深海のような暗黒が戻る。

「アンタ……楠城さんと最初にコンタクト取った自分を覚えてる? 銃で撃たれて、怪我したあの人を助けたのはなんで? 誰かが死ぬの、嫌だったんでしょう? 今の私の気分、察しなさいよ。楓が死んで、良い訳無いだろ!」

 どこかに行ってしまいそうで、それが怖くて、だから離れてしまわないように楓の腕を掴んで氷室はそう叫んだ。その目には一切の卑下の感情はこもっておらず、どう見ても仲間思いで、竹永に似ていた。
 竹永と氷室の姿が重なり、楓は少なからず動揺する。そもそも氷室が自分が死んで良い訳無い、そういう風に言ってくれるとは微塵も思っていなかった。

「ごめん……少し反省した?」
「どう? 頭の調子は」
「いつもほどじゃあないけど」

 眼は覚めた。仮初めで、その場限りに終わったのだが、確かな眼光はそこにあった。




                                              続きます

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遅れてほんっとうに申し訳ありません。
次回、普通にかくれんぼ終わります


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