複雑・ファジー小説
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- DARK GAME=邪悪なゲーム=
- 日時: 2012/09/14 21:51
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 3TttADoD)
えーと同じくファジーで能力もの書いてる(打ってる)狒牙です。
今回は結構暗そうなものをしたいなということで・・・
まあ、言ってしまうと時折(多分頻度は少ない)グロイかな?
基本的には普通ですので・・・
アドバイスとか変なところ(誤字脱字)があったら言ってください
よろしくお願いします
下手に内容を説明するとネタバレみたいになるんで
一気に一話目打ちます。
そしてこの作品では文章の形式を変えてみたいと思います。
一話目 招待状
「暗いなぁ・・・」
夜道を、一人の男子高校生が帰っていた。もちろん一人でだ。
等間隔に設置されている街灯の光を頼りにいつも通りまっすぐ家に帰っていた。
高校に行き始めてもう三カ月程度経っている。二回目の定期テストが終わり、その手ごたえを塾に伝えに行った帰りだ。
辺りはもうすっかり暗くなっているが、今日はたまたま曇っているだけでまだ八時にもなっていない。普段ならもう少し明るめだろう。今は月の光すらほとんど届いていないのだから。
家にたどり着く寸前の急な坂道に青年は差し掛かった。ここだけは何年暮らしていても全く慣れることはできない。角度がそれなりに急な上、それがダラダラと百メートルも続いているのだから疲れている時にはお手上げだ。疲れる意外にここを説明することばはパッとは思い付かない。漢字で表すなら『苦』だ。しかし、苦あれば楽ありということわざもある。
息を荒くして切らしながらその坂を登りきった彼は汗で少し濡れた顔を上げた。そこには、いつも通りの自分の家の景色があった。隣にある家も普段と何一つ変わらない。
その家の門の前を通った時にチラッとその中の様子を見た。そこには、住人の一人であるまだ制服を着たままの女子高生がいた。
「あっ、先輩こんばんは」
「おー、楓じゃん。塾?」
それは紛れもなく自分の部活の先輩だった。楓と呼ばれた彼の本名は楓秀也(かえで しゅうや)。二人とも同じ高校の陸上部員だ。
といっても、楓は長距離、先輩の方は短距離だった。この時間がまさに『楽』の時間だ。
楓は先輩のことを尊敬している。なぜなら、目の前にいるこの人間は去年インターハイで優勝したからだ。距離が何であろうと関係なく、速い者にはすぐにあこがれる性格だから家がすぐ近く、というより隣の家にその人が住んでいるのは光栄だった。
ここで一つだけ勘違いしてはいけないのが、別に恋愛対象として見ているのではなく、好きは好きでもスポーツ選手のファンのような感覚だ。思慕の念よりも崇拝と言う方が近い。それほどまでにこの先輩を慕っている。
ついでに言っておくならこの人の名前は竹永叶(たけなが かな)という。
「普通科は大変だね」
重い教科書を何冊も詰め込んだ大きなリュックサックを背負って地獄と読んでもいい坂を登り終えた楓に笑いながらそう言った。
彼らが通っている高校は、体育科と普通科に分かれている。竹永の方は体育科で、楓は普通科だ。しかもこの学校は体育科の連中はスポーツに強く、普通科の連中は勉学ができるというものだ。だから地元でもかなり有名な行きたい高校ナンバー1に選ばれ続けている。
「そうですね、でもテストが一段落したんでしばらくは楽な生活ですね」
そう言うと、今度は先輩があからさまに疲れたような顔つきになった。その理由は簡単だ。夏休みは腐るほど大会がある。一年にしてインハイで優勝したのだから大会に出されまくっているのだ。相当にだるそうな顔をしている。
もうすぐ鬼の合宿と呼ばれるイベントが近づいているからだろうか?
「たまにさ、裏側の世界があったら言ってみたいと思うよ」
このポツリと特に重要な意味を持たない言葉が発せられたのを聞いたとき、ふとある噂を思い出した。いや、都市伝説というべきかな。内容はこんなものだ。
真夜中は気を付けないといけない。特に招待状を受け取ったなら。
招待状は突然現れる。血のように紅い封筒にどこまでも続く深い闇のように冷たい黒い紙に『You are invited』と白く描かれた紙が入っている。
それが招待状だ。そこでは夜な夜な残酷なゲームが行われているという。
まあ、この話はまだそこまで出回っていないので、元からそういうのに興味の無い先輩が知るはずもないからただの愚痴だと思ってスルーしようとした。でも、自体は思っている以上に深刻だった。
「なんかさっきポストを見たら真っ赤な封筒が入ってたんだ」
これを聞いた瞬間にはまだただの世間話だと思って普通に接していた。
だが、その一秒後にまたしても噂を思い出した楓は硬直した。それでも、先輩はその封筒がどういうものなのか説明しているからこっちの違和感に気付いていないが、楓の胸の中では胸騒ぎがしていた。
先輩は、その中からどす黒いハガキを取りだした。そこには、やはり文字が書いてあった。
『You are invited』
これが視界に入った瞬間、瞳孔は一瞬にして開いた。そこには、幽霊を連想させるように白い字でそう書かれていた。
かく汗の中に冷や汗が混じる。これではまるで噂と同じだ。
「後ろにも変なことが書いてあるのよね」
そう言って今度は紙をひっくり返した。そこには、今受けた衝撃よりもさらに強いショックを与える文が書いてあった。
『おめでとうございます。あなたはご当選いたしました。裏の、闇の世界へのペアチケットです。あなたと、もう一人誰かをお誘いください。何、迷うことはありません。隣家の後輩で結構です。[げえむ]は今晩の八時から、次の日の午後八時まで行われます。それまでにもう一人の方とご一緒しておいてください。』
背筋に悪寒が走った。この内容を見る限りこれの差出人は明らかに先輩を狙っている。隣家の後輩とはまず俺で間違いない。
怪しい雲がさらに月の光を隠すようにもうもうと寄ってくる。ふと時計を見るともうすでに時刻は七時五十九分を示し、秒針はもう・・・
十二の文字にかかろうとする瞬間だった。
秒針が五十九秒から六十に動いて行く。その動きがとてつもなくスローに感じられる。体は、ピクリとも動かなかった。
刹那、手紙から迸った漆黒の闇は叫び声を上げさせる暇なく一瞬で楓と竹永を包み込んだ。グチュグチュと妙な音を立てて闇の繭を作り、ゆっくりと地面に溶けていくように小さく下から萎んでいった。
続きます
第一章 鬼ごっこ編
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>>42>>48>>49>>50>>51>>52>>55>>56>>57 総集編>>60
第二章 日常—————編 募集キャラ>>70
>>61>>64>>65>>66>>67>>68>>69>>72>>73>>76>>79 総集編>>80
第三章 楓秀也編 プロローグ>>81
>>83>>85>>89>>91>>94>>95>>96>>97>>99>>100>>103>>104>>105>>106>>110>>111総集編>>112
第四章 氷室冷河編
>>113>>114>>115>>116>>117>>118>>119>>122>>123>>124
コメントしてくれた人です(一度でもしてくれたら嫌でも載ります。すいません・・・)
ryukaさん「小説カイコ」「菌糸の教室」「壁部屋」の作者さん
千愛さん 総合掲示板の方でお仕事なさってます
赤時計さん「花屑と狂夜月」「他人の不幸は毒の味」の作者さん
ゆヵさん 「SNEAK GAME」「めいろ」の作者さん
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 三章開始 ( No.89 )
- 日時: 2012/01/05 14:38
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: gzQIXahG)
三章三話 take a look at his life
「ちょっと外走ってくる」
結局大した量を走ることができなかった楓は他の皆にそう告げて、不足分を走るために競技場の外に出て行った。アップ用の靴を履いたまま。あんだけ時間あったのにと、代介を始め数人の者があきれ顔になる。しかし、色々とあったとしか言い訳ができなく、結局の話口をつぐんでしまった。これがただ単に楓の立場が劣勢だから抵抗しないのだろうと感じた他の連中は何も疑わずに楓を外に行かせた。
同級生達に送り出されて楓は外に出た。外では試合を直後に控えた楓とは少し事情の違う選手たちが数十人走っていた。この真面目な面子の中で間抜けに遅れただけの自分が走ることに楓は抵抗を感じたが、こんな所で止まっている場合ではないと一歩を踏み出した。ゆっくりと階段を駆け降りる。
するとまたしてもあの男を見つけることとなる。今朝から何度もその姿を目に収めている、琥珀という男。見ただけで涙が溢れそうになるほどの冷たさを、背筋に与える男。もしかしたら、過去に楓と接点があった少年が成長した姿かもしれない男子。きっとその名字は、白石。
それにしてもこの男子は、本当に自分のいるすぐ近くに現れるなと楓は感じていた。三回もすぐ近くに現れるだなんて本当に偶然としか思えない。
「偶然……か。なんか天の声も一回、そんなこと言ってたかな?」
一度だけ、尋常ではないほど長く意味を呑みこむのにかなりの時間と理解力を必要とした、『偶然なんて無いんだ』という発言。だとしたら今回もその偶然に見合うだけの理由が潜んでいるはずだ。どういう理屈があるのか、ゆっくりと考えてみる。少しの考察の後に大体の考えはまとまった。
楓が三回も琥珀に遭遇したと考えるとかなり確率が低いかもしれないが、琥珀の行動のタイミングが日向高校の女子とのちょっとした喧嘩の野次馬の一人と重なったと考えると特に不思議ではない。両者ともに同じ所で同じ時に足を止めたのだ。解放されたタイミングも同じため、その後の行動を始める瞬間だって一緒だったに決まっている。
サラサラと、髪をなびかせるためだけに、風が吹いたような気がした。瞳のすぐ前で黒い前髪がサラサラと揺れる。過去の自分との決別の証が自分に感情を想起させるために自我を強調している。その弱い風に地に堕ちている新緑の木の葉が飛ばされた。まだ木の葉が緑色であることを楓は確認した。そしてもうすぐ秋が来るのだと彼は気付いた。
彼は秋という季節が嫌いだ。世の中の木という木の、その伸ばした枝につく葉が全て、この世で最も忌み嫌う茶というカラーに染まる。枯れて地面から落ちた茶色い葉っぱなんて誰も興味を示さない。それどころか、死をちらつかせて嫌われる。そんな理不尽な、自分とは関係のない理屈をこねて今までずっと楓はその色を拒絶してきた。
なぜ自分はこのような姿に生まれたのか、なぜ他と違うだけでこれほどまでに疎外感を味わわなければならないのか、全然理解できなかった。今ならすぐに分かる。彼らは自分たちが上手くいかないことに対しての苛立ちを当てる、いわば欲求のはけ口が欲しいのだ、と。それならばできるだけ普通ではない方が良い。その方が罪悪感が薄れたり、楽しいのだろう。非人道的に思えるこの考え方は人類共通だ。きっと誰にも変えられない。
楓は思い出す、氷室に対して嘘の告白などという事を『やらされた』、一週間ほど前の出来事を。
その日は確か学校行事のマラソン大会だったと思う。当時の楓の学年は確か三キロ程度走ったのだろう。その日優勝するだろうと皆から言われていたのは、他ならぬ白石琥珀だった————。
硝煙の臭いと火薬の炸裂する十世に酷似した効果音、いわゆる雷管の音をスタートの合図として、そのマラソン大会は始まった。戦闘に飛びだしたのは予想通り琥珀だった。その後ろに続く形で、二位集団が出来上がっていたと思う。その中の一人が楓だった。
その大会で走るコースは決められていて、上りと下りが交互に現れる学校の外周だった。その外周を三周して、不足分を肯定のトラックを何週か走ることで大体の距離を合わせていた。
一週目は戦闘の琥珀と自分たちの間の距離は目測にして百メートル程度とかなり開いており、勝負は彼の圧勝かと思われた。しかしそれは二週目で変化を向かえる。
その差をせめて拮抗に埋めようと立ちあがったのは群青という同級生だったと思う。その群青が無理を押してペースを上げたのに、大多数の二位集団はその集団から引きはがされたが、楓は残った。最終的に残ったのはその二人だけだったはずだ。
最終的に残った群青と楓はお互いに少しずつ速度を上げて、どんどん琥珀との距離を詰めて行った。二週目が終わるころには差が二十メートル程度になっていたと思われる。自分たちのペースも上がったがそれと同じく先頭の琥珀のペースも落ちていた。
外周のラストの一周、それが終わった頃には楓は完全に追いついていた。正確には群青も追いついたのだが、その直後にまた離された。琥珀の中の王者の意地が、負けず嫌いの一面が最後に力を振り絞ったといったところだろうか。何にせよ、琥珀も楓も体力的に限界に近付いていた。その後は大して速度も変わらずに横並びの状態が続いた。お互いの息遣いが聞こえる程、差は無くて、息は荒かった。
その後にどうなったのかは詳しくは覚えていないのだが、勝ったはずだ。
そして知ることとなる。今まで、勝ちとは心地よく、楽しくて嬉しくて、皆から祝福されるものだと思っていた。でも……異端児と言えば聞こえは悪いが、出た杭というのは気に食わない者の手で打たれるもので、その日からいわゆる……世間で言う『虐め』が始まった。
続きます
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あけましておめでとうございます。
一気に話を更新です。
久々に最初の方を読み返すとなんかヴァルハラの使者の言葉が好きだったんでもう一度出してみました。
書き忘れてますが楓達に鬼ごっこの際、才能を与えたのはあいつです。
この話でようやく楓の嘘の告白事件の全容が見えてきました。
では、次回に続きます。
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 三章三話完成 ( No.91 )
- 日時: 2012/01/05 17:05
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: gzQIXahG)
三章四話 Hell in a diary
最後に一体何があったのかはよく覚えていない。ただ、どうにかして逆転し琥珀よりも先にゴールラインを走り抜けた結果だけを覚えている。その後の出来事のトラウマがきっと忘れさせようとしているのだろう。その勝利の瞬間さえも記憶の中に残っていない。でもそれで良いと思っていた。もうそんな事を話す相手も虐められることもなくなったのだから。一々そんな過去の栄光に似たものを引きずる必要は無いのだ。
そうやってずっと、長い間忘れようとしてきた。早く忘却の彼方に追いやりたかった。氷室に再び会うまで、確かにその記憶は蓋を閉めて鍵をかけて、封印されていた。だが、鬼ごっこの途中で氷室と再会した時に施錠は解かれ、蓋はずれた。思い出したくもない嫌な思い出が奔流して、凍りついたように全ての皇后が取れなかった。反論しようと思っても説得しようと思っても口は動かなかった。そして今日、琥珀を見つけてから……心の傷は完全に開き、ずれていた蓋は完全に外れ切ってしまった。
楓は琥珀の事を覚えていて、すでに気づいている。向こうはどうだかは分からない。覚えているかもしれないし、そうでない可能性もある。少なくとも自分はまだ彼の視界に入っていないのだから、覚えていたとしても今ここにいることまでは知らないと思う。できれば楓は彼に自分の存在がばれる前にこの大会が終わって欲しいと思っていた。
もし彼が心変わりをして、昔とは全く違ったまともな人間になっていたとしよう。だとしても楓を形成する一番深いところに琥珀に対する恐れが染み付いているせいで、見ただけで拒絶反応が起きる。全身の汗腺から冷や汗が滝のように噴き出して、心臓の鼓動は速く、なおかつ自分に聞こえるほど強くなり、背筋に悪寒が走りガタガタと体が震える。思考は飛んで何も考えられなくなる上に、何もできなくなる。過呼吸が彼の理性をさらに奪っていく。蛇に睨まれた蛙よりもよっぽど情けないだろうと、自虐的に思えてくる。
それほど根本に居座っている存在なのだ。楓秀也にとって、白石琥珀とは。どのようなことがあったのか、それを聞いたらその辺りによくある虐めと何ら変わりないだろう。
でもいくつかが普通とは異なっていた。今の楓の頭髪は確かに黒い。何せ彼は自分の髪の毛を染めているから。本当の彼の髪の毛はそれこそ髪の毛を染めているように鮮やかな、茶髪。今まで特に触れられることの無かったそれが、虐めという雰囲気のせいで迫害に似た対象となった。抜かれることはなかったはずだが、強く引っ張られたり、「何だこれ?」と厭味ったらしく言ってきたり、酷い時には上半身裸にされて頭に墨汁をかけられた。衣服に黒い墨が付いて親たちにばれることを防ぐためだ。
そしてもう一つ異なっていたのが、この学年でブームになっていた罰ゲーム制度だ。楓が引っ越す直前の、虐めの中身にそれが追加された瞬間に『あの罰ゲーム』が起きた。本当にタイミングが悪かったのだ。
もう、その罰の内容は察することができるだろう。誰でもいいから「好きだ」と言ってこい、そういう内容だった。本当に好きな奴でもそうでなくても良い。できるだけ冗談と理解してそうな人間や、絶対に断ってくれるであろう人間、ないしはどのような結果が出てもバカにされない相手。その中で楓がその相手に選んだのは三つ目の、どのような結果が出てもバカにされない人間、つまりは誰しもが可愛いとか美しいとか思う女子にその告白を決行した。ついでに、きっと断られるだろうと思っていたので後腐れなく終わると思った。どうせ明日転校するからその前に自分の意志だけを伝えると言って、何か言葉が返ってくる前に逃げたら良いとも分かっていた。
そして翌日、楓はそれを実行したことを思い出す。今さらになって考えるとバカな事をしたなと思う。空港での再開の時に氷室は相当恨んでいた。女子だったらそれも当然かと思われる。いきなり告白されたかと思うとそれは嘘だった、想像するだけで怒りが沸き起こるだろう。女子に限らず男子でもこれは怒るだろう。でも、虐められていた自分に拒否権は無かった。ただ自分可愛さに氷室を対象としてそれを行った。
確か、その時楓は本当に告白ではないというのに、ひどく緊張していた。喉がからからで夏でもないのに熱くて意識が朦朧としそうになった。心臓が暴れ狂ってはち切れそうで、ただただプレッシャーに呑まれて緊張していた。都合のいいことに、教室には氷室一人でいた。
そこから先はあまりにも緊張していてどのよいうな事を口走ったのかは覚えていない。ただ勢いで告白まがいの事をした。そしてそれを怒鳴るように告げた後にようやく我に帰った。先ほどまでの緊張感と焦りと暑さが嘘のようで、もう落ちつき払って、なおかつとても涼しくなった。そしてそれを言われた等の本人はと言うと、自分の方を「こいつ何言ってるんだ?」と、少なくとも事態を上手く呑みこめていない表情だった。
確か驚き呆れたその表情を見た時だったと思う。彼の心の中に、一かけらの罪悪感が芽生えた。真っ黒な感情が心の中を少しずつ蝕んでいった。急に自分のした事が怖くなった。人としてしてはいけない事をしてしまい、誰も何を言っている訳でもないのに非難の声が聞こえてくる。急に辺りが何も見えなくなった気がした。
怖くなった楓は氷室が自我の意思を取り戻す前に乱暴に扉を開けて走りだした。小学生の力だから壊れそうにはならなかったが、それでも廊下の端まで届きそうなほど大きな音がした。隣の教室で控えていた琥珀を初めとする虐めのグループが大声で自分に呼び掛けているのさえ、ただのBGMにしか聞こえなかった。そいつらの嗤い声がより一層幼い楓の責任感を駆り立てた。
そして、謝ることも間違いを正すこともできずに、彼は転校した。都道府県は変わらなかったが、県内の端から端まで移動した。
ただ一言、当時の三人の者に言いたいことがある。
まず最初は氷室だ。幼稚な事をしてすまなかったと、許されなくてもいいから謝りたい。よくよく考えると今の氷室にもまだ謝れていない。その次に琥珀になぜあんな虐めなんてしたのかを問いただしたい。謝られなくて良い。何が気に食わなかったのか教えて欲しい。
そして最後に過去の自分に言いたい。なぜ言われるままにそんな事をしたのかと、咎めたい。今になって恥ずかしくなる。あんなバカな事をした自分自身がとても————。
続きます
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 三章三話完成 ( No.92 )
- 日時: 2012/01/05 19:40
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: 6KYKV6YZ)
虐めが予想以上に……エグいっすね……(;Д;)ヒー
楓さんそんな深設定だったんですね、これからどう物語が発展していのか楽しみや(´∀)
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 三章三話完成 ( No.93 )
- 日時: 2012/01/06 15:58
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Jagfnb7H)
ちょっと酷いですよね、この過去。でもまあ虐めがメインではないので社会問題ではなくここに書きました。
楓の物語りに関わる設定は後一つぐらいなので、きっと土我さんの方が設定が凝ってると思います。
今年の目標はこの作品を書ききることにしたいと思います、では。
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 三章四話完成 ( No.94 )
- 日時: 2012/01/08 16:50
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Jagfnb7H)
三章五話 1500メートル走
そんなこんなでまたしても琥珀と遭遇してしまった楓は全くと言って良いほどに体を動かせなかった。確かに動かしたには動かしたのだが、全く身が入っておらず、意識の無いものになっており、全然アップの意味をなしていなかった。
朦朧とした、と言っては少々意味合いがずれるが、何だか何に対する集中力が無くなっていた。何でこんなに嫌な事ばかりが次から次へと、自分を嫌うかのように襲ってくるのか、考えれば考えるほどとても理不尽な気がして、嫌気がさしてくる。神様に嫌われてしまっているようだ。
ああ、そうかよくよく考えたら嫌われて当然だ。楓は思い返した。この世界の神々というのは、自分が散々喧嘩を売って、売られて、コテンパンに叩きのめしてきたあの『アダムの使者』の連中なのだから。やはり神様というのは碌でもない連中の吹き溜まりのようなものなのかと嘆息する。神様は公平だと宗教団体は喚くが、絶対にそれは真実からはほど遠い。世の中には貧富があるし、戦争なんて立っている位置一つで生死が決まっている。どこが公平だと言うんだ。
考えながら階段を上っていると、ちらりと一人の女子が目に入った。日向高校の、メガネをかけた女子。絶対に会ったことは無いが、どこかで見た気がするなぁとか考えている間に思い出した。さっき琥珀に絡まれていた女子だ。
それにしても、あのセリフは強烈だったなと思い返す。日向に在籍すること自体が自分の立ち位置を下げていると。そこにはあまり反論できないというのが、大半の県民の反応だろう。
日向高校、県内屈指の不良達の集まる偏差値四十も無い高校。不良の道に足を踏み入れている者やその覚悟がある者以外は絶対に入学しようとしない。それほどにヤバい学校だという訳だ。とすると清楚に見えなくもないさっきの女子もそういう道に踏み込んでいると察せられる。見た目からはあまり想像できないが、あそこにいるということは八割がたその道に踏み込んでいることを暗示している。
その辺りはどうでも良いと思ったので、楓はその女子をスルーした。そんな関係の無いところに意識を向けている暇はない。試合も近づいているが、何よりも琥珀にばれないようにしたい。切実に種目が被っていないことを願う。とりあえず今日は千五百メートル走。今大会で楓が最も自信の無い種目。
帰ってきた楓にストレッチをしながらパック入りのエネルギー補給のゼリーを飲みながら代介は眠たげにお帰りと言ってくれた。返さないと余計な心配をさせるかもしれないのでただいまとだけ言って、座席に座った。さっきまで見ていたのであろう、代介のすぐ脇にはスタートリスト兼プログラム表が置いてあった。
「ちょっと借りるぞ」
確認を取ってからその小冊子を取り上げる。パラパラとページをめくって一年の千五百メートルのページを開く。自分は確か五組目ぐらいだったはずだ。一組から順に五組まで見渡す。自分は記憶通り五組にいて、レーン番号は七番だった。とりあえずその組のメンバーを位置から順に確かめていく。いないでくれと願う反面いるのではないかという予測も生まれていた。理由は簡単だ。ここまで不幸が続いていきなり途切れるなんてことは無いだろう。
だが、その予想は外れてくれた。白石琥珀との名はその同じ組に載っていなかった。一組から全て見渡してみたがそれらしい人物すらいなかった。妙なモヤモヤ感が残ったが、そう悪くないと思って閉じる前に、二つの名前を発見した。
『柊 群青(ひいらぎ ぐんじょう)』と『宮川 翡翠(みやかわ ひすい)』の名前。おそらく翡翠というのは、あの口論を途中で止めさせたあの生徒だろう。そしてもう一人の群青だが、この男子は確か自分の記憶に残っている過去の同級生。マラソンの大会で共に琥珀を追い上げたもう一人の男。
やっぱり因果とは斬ろうとしても斬れないもので、拒絶しようとも硬く結ばれた鎖のようなものらしい。応援のために琥珀は翡翠に付き添ってくる可能性がある。それに群青までも同じ学校だ。この総体という大きな大会は一つの種目に二人までしか出場できない。
「ハア……出てないんじゃなくて人数の問題かよ」
結局嫌な事尽くめの中に良いことがいきなり混じりこんでくるなんてことはなく、またしても溜息を吐いた。
「おい楓、前に俺が言ったこと覚えてっか?」
「何だよ。お前になんか言われたか?」
「水泳の時の話だ。あん時も今みたいに緊張しやがって」
ああ、とふと思いかえしたような相槌を打って楓は何も無い斜め上を見上げた。どうやらアダムの使者は後処理の能力に優れているのか、向こうの代介の記憶をこっちの代介に送ることができるらしい。
「いっそ楽しんだ方が良い結果が出るってあれか?」
「そうだよ、前よりも死んだ顔つきしやがって」
仕方ないだろと、喉から出かかった言葉を無理やり呑みこんだ。無駄な心配はかけたくないんだろうと、無理やり叫びを求めて軋みを上げる自分の意思を抑えつける。
自分の真っ暗な過去に絶対に他人は巻き込みたくないんだ。
そのためならばどんな苦痛にも耐え抜いて見せよう。当時の自分だって親にずっと虐めの事を隠し通していたじゃないか。成長した今になって、その虐めの、掠れて消えそうな残像に捕われる必要なんて一切無いんだ。
「言いたいことあったら言えよ」
「えっ……」
その心の中を読み取られたように感じて、楓の声は裏返った。どこかで助けを求めてることがばれたのかと思った。
「言い過ぎだとか、冗談にならないとかさ。結構俺って口調とかキツイしな。イラつく前に注意してくれ」
「ああ、そういうことか」
どうやら想像していたのと違う意味合いだったようだ。ホッとするのと同時に落胆してしまった。でも、またしても楓の声は裏返ることになる。
「真意も受け取ってくれよ」
言い残して、代介は歩いていった。残された楓は何も言えず、体も動かなかった。どうしていいのか分からない。泣きたいけど、泣きたくない。立ち向かいたいけど立ち向かえない。周りを不安にさせたくなくてもさせえてしまう。
別に琥珀のせいなんかじゃない。自分の無力さが全ての元凶なのだ。あんな事に負けて髪も一般人らしく黒くしたのも、弱さの証。過去との決別とか綺麗事行っても、逃走の証拠に変わりない。
しわがれた老人の声が聞こえた。“せいぜい楽しむが良い。現実という名の、最も邪悪なゲームを”と。
続きます
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