複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

DARK GAME=邪悪なゲーム= 
日時: 2012/09/14 21:51
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 3TttADoD)

えーと同じくファジーで能力もの書いてる(打ってる)狒牙です。

今回は結構暗そうなものをしたいなということで・・・

まあ、言ってしまうと時折(多分頻度は少ない)グロイかな?

基本的には普通ですので・・・

アドバイスとか変なところ(誤字脱字)があったら言ってください

よろしくお願いします

下手に内容を説明するとネタバレみたいになるんで

一気に一話目打ちます。

そしてこの作品では文章の形式を変えてみたいと思います。



一話目 招待状





「暗いなぁ・・・」

 夜道を、一人の男子高校生が帰っていた。もちろん一人でだ。
 等間隔に設置されている街灯の光を頼りにいつも通りまっすぐ家に帰っていた。
 高校に行き始めてもう三カ月程度経っている。二回目の定期テストが終わり、その手ごたえを塾に伝えに行った帰りだ。
 辺りはもうすっかり暗くなっているが、今日はたまたま曇っているだけでまだ八時にもなっていない。普段ならもう少し明るめだろう。今は月の光すらほとんど届いていないのだから。
 家にたどり着く寸前の急な坂道に青年は差し掛かった。ここだけは何年暮らしていても全く慣れることはできない。角度がそれなりに急な上、それがダラダラと百メートルも続いているのだから疲れている時にはお手上げだ。疲れる意外にここを説明することばはパッとは思い付かない。漢字で表すなら『苦』だ。しかし、苦あれば楽ありということわざもある。
 息を荒くして切らしながらその坂を登りきった彼は汗で少し濡れた顔を上げた。そこには、いつも通りの自分の家の景色があった。隣にある家も普段と何一つ変わらない。
 その家の門の前を通った時にチラッとその中の様子を見た。そこには、住人の一人であるまだ制服を着たままの女子高生がいた。

「あっ、先輩こんばんは」
「おー、楓じゃん。塾?」

 それは紛れもなく自分の部活の先輩だった。楓と呼ばれた彼の本名は楓秀也(かえで しゅうや)。二人とも同じ高校の陸上部員だ。
 といっても、楓は長距離、先輩の方は短距離だった。この時間がまさに『楽』の時間だ。
楓は先輩のことを尊敬している。なぜなら、目の前にいるこの人間は去年インターハイで優勝したからだ。距離が何であろうと関係なく、速い者にはすぐにあこがれる性格だから家がすぐ近く、というより隣の家にその人が住んでいるのは光栄だった。
 ここで一つだけ勘違いしてはいけないのが、別に恋愛対象として見ているのではなく、好きは好きでもスポーツ選手のファンのような感覚だ。思慕の念よりも崇拝と言う方が近い。それほどまでにこの先輩を慕っている。
 ついでに言っておくならこの人の名前は竹永叶(たけなが かな)という。

「普通科は大変だね」

 重い教科書を何冊も詰め込んだ大きなリュックサックを背負って地獄と読んでもいい坂を登り終えた楓に笑いながらそう言った。
 彼らが通っている高校は、体育科と普通科に分かれている。竹永の方は体育科で、楓は普通科だ。しかもこの学校は体育科の連中はスポーツに強く、普通科の連中は勉学ができるというものだ。だから地元でもかなり有名な行きたい高校ナンバー1に選ばれ続けている。

「そうですね、でもテストが一段落したんでしばらくは楽な生活ですね」

 そう言うと、今度は先輩があからさまに疲れたような顔つきになった。その理由は簡単だ。夏休みは腐るほど大会がある。一年にしてインハイで優勝したのだから大会に出されまくっているのだ。相当にだるそうな顔をしている。
 もうすぐ鬼の合宿と呼ばれるイベントが近づいているからだろうか?

「たまにさ、裏側の世界があったら言ってみたいと思うよ」

 このポツリと特に重要な意味を持たない言葉が発せられたのを聞いたとき、ふとある噂を思い出した。いや、都市伝説というべきかな。内容はこんなものだ。




 真夜中は気を付けないといけない。特に招待状を受け取ったなら。
 招待状は突然現れる。血のように紅い封筒にどこまでも続く深い闇のように冷たい黒い紙に『You are invited』と白く描かれた紙が入っている。
 それが招待状だ。そこでは夜な夜な残酷なゲームが行われているという。



 まあ、この話はまだそこまで出回っていないので、元からそういうのに興味の無い先輩が知るはずもないからただの愚痴だと思ってスルーしようとした。でも、自体は思っている以上に深刻だった。

「なんかさっきポストを見たら真っ赤な封筒が入ってたんだ」

 これを聞いた瞬間にはまだただの世間話だと思って普通に接していた。
 だが、その一秒後にまたしても噂を思い出した楓は硬直した。それでも、先輩はその封筒がどういうものなのか説明しているからこっちの違和感に気付いていないが、楓の胸の中では胸騒ぎがしていた。
先輩は、その中からどす黒いハガキを取りだした。そこには、やはり文字が書いてあった。



『You are invited』



 これが視界に入った瞬間、瞳孔は一瞬にして開いた。そこには、幽霊を連想させるように白い字でそう書かれていた。
 かく汗の中に冷や汗が混じる。これではまるで噂と同じだ。

「後ろにも変なことが書いてあるのよね」

 そう言って今度は紙をひっくり返した。そこには、今受けた衝撃よりもさらに強いショックを与える文が書いてあった。

『おめでとうございます。あなたはご当選いたしました。裏の、闇の世界へのペアチケットです。あなたと、もう一人誰かをお誘いください。何、迷うことはありません。隣家の後輩で結構です。[げえむ]は今晩の八時から、次の日の午後八時まで行われます。それまでにもう一人の方とご一緒しておいてください。』

 背筋に悪寒が走った。この内容を見る限りこれの差出人は明らかに先輩を狙っている。隣家の後輩とはまず俺で間違いない。
 怪しい雲がさらに月の光を隠すようにもうもうと寄ってくる。ふと時計を見るともうすでに時刻は七時五十九分を示し、秒針はもう・・・









 十二の文字にかかろうとする瞬間だった。








 秒針が五十九秒から六十に動いて行く。その動きがとてつもなくスローに感じられる。体は、ピクリとも動かなかった。



 刹那、手紙から迸った漆黒の闇は叫び声を上げさせる暇なく一瞬で楓と竹永を包み込んだ。グチュグチュと妙な音を立てて闇の繭を作り、ゆっくりと地面に溶けていくように小さく下から萎んでいった。










                                 続きます


第一章 鬼ごっこ編

>>1>>2>>3>>4>>5>>6>>7>>9>>10>>11>>13>>14>>17>>18>>19>>20>>21>>22>>26>>27>>29>>30>>33>>36>>37>>40>>41
>>42>>48>>49>>50>>51>>52>>55>>56>>57 総集編>>60

第二章 日常—————編 募集キャラ>>70

>>61>>64>>65>>66>>67>>68>>69>>72>>73>>76>>79 総集編>>80

第三章 楓秀也編 プロローグ>>81

>>83>>85>>89>>91>>94>>95>>96>>97>>99>>100>>103>>104>>105>>106>>110>>111総集編>>112

第四章 氷室冷河編
>>113>>114>>115>>116>>117>>118>>119>>122>>123>>124

コメントしてくれた人です(一度でもしてくれたら嫌でも載ります。すいません・・・)

ryukaさん「小説カイコ」「菌糸の教室」「壁部屋」の作者さん
千愛さん 総合掲示板の方でお仕事なさってます
赤時計さん「花屑と狂夜月」「他人の不幸は毒の味」の作者さん
ゆヵさん 「SNEAK GAME」「めいろ」の作者さん

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 第四章開始 ( No.117 )
日時: 2012/08/02 21:10
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: rLsFNazb)

四章五話



「イグザム。文が届いたぞ」
「手紙? 誰からさ?」

 真っ暗な空間で、きっちりとげえむ用のステージ作りは順調に、順調に進んでいた。
 当初、二、三週間はかかるのではないかと踏んでいた神力を使った建設工事も、後一週間程度で完成、という進行具合だった。
 双六らしく、地面にはレースのコースを思わせるようなラインが、所々曲がったりしながらだが、緻密に描かれている。
 一つ一つのマスがそれぞれ、黄色や赤、青色なんかで塗りつくされている。
 後は、双六に関するルールや、ちょいちょい実施するであろうみにげえむの会場作りにいそしめば良い。

「想像者にして創造神、あのお方からじゃ」
「ああ、ブラフマーね」

 会話を繰り広げているのは、美しい金の髪、緑の瞳を持った少年の姿を象った髪、イグザムと、大きな鎌をもたげる長い髭を蓄えた老翁、Deathだ。
 片方、イグザムの方は完成を待ち焦がれて爛々と目を輝かせているのだが、一方Deathはというと、神妙な顔つきをしている。
 その声を聞いたイグザムは瞬間、笑顔を崩して見つめ返してみた。
 Deathは歳を取っているだけあって、そうそう人をからかったりはしない。
 E以上、つまりは幹部である五人組の中では最もイグザムが信頼を寄せているのがこの老翁姿の神だった。
 少なくとも、何を考えているのか分からない、ちゃらんぽらんなアダムやボスよりかははるかに信頼できた。

「……どういう通達?」
「我慢は限界だ。私の力はもう溜まっている。今こそ破壊の時。破滅の時だ。後三日、それが終末の採択試練の火蓋の落とされる日。永き人の世と短き貴様らの世、消え失せるのはどちらだろうな」
「なんともおっそろしい予言だね、まあ……」

 人間側の代表者は、試練が始まる前にぶっ殺しちゃうんだけどさ、とイグザムは呟いた。
 その時の顔は、もはやその背格好では全く想像のできない、冷酷で悪逆非道な者の表情だった。
 終末の採択試練、それは太古より続く神々と人間との間の戦争のことだ。
 初代の神様であるインド神話の面々は、ただただ世界を造り、壊し、世界を回すことに飽いていた。
 そこで始めたのが、自分たちが作った命と戦争でもするか、ということなのだった。
 ルールややり方は簡単、まず、神が全員、自分自身の力をほとんど余らせることなく装置に注ぎ込む。
 そして、全員分の力を持った巨大な光の玉を作り上げる、これを受けると作られた生物も、それを生成した神ですらも消滅する。
 その光の玉を、神界と地球のどちらに落とすのか、それがやり方である。
 ルールとしては、採択の玉座と呼ばれる台座に対して、先に神具を入れた者が勝ち、となる。
 最初、それを行った時に恐竜は滅んだ。ルールを解する、知能が無かった。
 次に、猿人が消えて、原人が滅び、旧人が、姿を消えて行った。

 そんな時にようやく現れたのだ、驚異の存在、ホモ・サピエンスが。

 ホモ・サピエンスは過去に七回、終末の採択試練を生き残っている。
 アレクサンドロス大王に神武天皇、聖徳太子や織田信長なんかがその功績を上げていた。
 過去に消え失せた神様は、最初のインド神話、オーディン率いる北欧神話、ギリシャ神話、天照率いる日本神話、その他アフリカや南米の者たちだ。
 初代の神様は、自分たちを倒すためにと自分たちで兵器をこしらえたのだが、第二期の、つまりは北欧神話の連中は違っていた。
 唯一生き残ったインド神話の創造神、ブラフマーが妖邪として化けて、その度に敗者を滅ぼしていた。
 最初に出てきた時は、恐竜の姿をまねていた。
 二回目に出てきた時には、後々日本で猫又と呼ばれるような姿で現れた。
 三回目、そして六回目は阿修羅像のような姿だった、顔が三つ、腕が六本だから使いまわしたのだろう。
 四回目はヒトの姿をしていた、手足合わせて四本だからであろう。
 五回目は、尻尾をカウントして、ということで炎を吐く亀の姿だった。
 七回目……前回は鵺というキマイラ的な存在でブラフマーはやってきた、との話である。
 色々と動物のパーツを繋ぎ合わせて、七本をこしらえたらしい。

 八回目、つまりは今回の姿を予測するのは容易いことだった。
 日本の伝承をなぜか気に入っているようで、日本色の強い過去の統計から見ても間違い無い。
 今回はきっと、八岐大蛇の姿で現れるのだろうと、聖騎士団、そしてヴァルハラの使者は考えている。

「現在地上で最も危険因子なのは楓なんでしょ? だったら明後日、出来はいまいちになるけど双六実行するよ。何、ほとんど完成してるから大丈夫、明後日はアダムの使者全員出動だからね」

 それだけ言い残すと、イグザムは建設の方に戻って行った。
 部下にだけ任せて、神力のありあまる自分がサボっていては示しがつかないと思ったのだろうか、きびきびとしている。
 だが、イグザムの中にある最も強い感情は楓秀也との再戦だった。

「どっちが死んでも恨みっこなしだからね、楓……」



____________




「ありがとうよ、楓、家庭科の授業潰してくれて」
「露骨に言わないでくれ、凹んでくるから」

 休憩時間に入ると、急にクラスメイトが寄ってたかってきてそろそろ楓はうんざりしていた。
 朝は物おじしているように、近づきがたかった奴らが家庭科で一通りネタにされたせいであっさりと話題にしてくる。
 そしてそもそも、自分が潰した家庭科の授業を楓は嫌がっているのに掘り返してくるのだ。

「そういや氷室さんと昔っからの知り合いなんだってな。仲良かったのか、オイ」

 冷やかす口調で問いかけるその友人の顔を楓は白い目で睨みつけた。
 事情を知らないのだから仕方が無いのだろう、そんな訳あるかと怒鳴りつけてやりたい。
 だが、強すぎる否定は逆に冷やかしを煽ってしまうと分かっているので、落ちついた口調を手に入れるために一拍を置く。
 そして、いざ口を開こうとしたその瞬間、その努力は容易く打ち砕かれた。

「私とこいつが? ある訳ないでしょ。そんな事は絶対にない」
「面倒くさいから入ってくんなこっちに!」

 自分の席から氷室までは、乙海一人分しか隔てていないのだから、こちらの会話は筒抜けだったのだろう。
 だが、それにしてもここで入ってくるとは思っていなかった楓は表情を強張らせた。
 何のために強い語調にならないように配慮していたと言うのだろうか。
 少しは言葉だけでなく語気に関しても意識を配って喋れと叫びたいが、今は無理。
 とりあえず彼は、うらめしそうな表情で、険悪な雰囲気の氷室を睨むことしかできない。
 とは思ったのだが一応はあっちの意見に乗っかるために仲の悪いところでも見せてやろうかと思い、それに同調したのだが……それが一番の失敗だったとコンマ一秒後に気付くこととなる。

「面倒くさいとは何様よ! こっちのセリフよ、最低人間!」
「まだ引きずるか! 許すとかぬかしてまだ引きずるのか! 結局かお前はっ!」
「そうじゃないわよ、折角否定の語句を代弁してやろうと思ったのに……」
「それが余計なお世話だって言ったんだよ! 察せバカ! もうちょい丁寧に否定しろ! 単細胞かてめ……」
「丁寧に否定って何よ! 何を意図してよ! ってか誰が単細胞なのよ、だれ……」
「知りたいのなら人の言葉を最後まで聞けばいいはなし……」
「あんたも人のセリフ遮ってるじゃない!」

 口喧嘩の小競り合いの応酬……にしてはいささか過激すぎる討論に、周囲の者はただただ唖然としていた。
 最近引っ越してきたばかり、まだよそよそしい雰囲気を持っていた氷室が、楓の前で大爆発しているのだ。
 それに対して、普段はここまで舌戦を繰り広げない楓も普段とは比べ物にならないテンションで応戦している。
 その様子もひどく新鮮で周りにいる皆の笑いを誘った。

「なんだ、仲良いじゃん」
「これの一体どこが!」

 両脇からふてくされた表情で乙海と赤弥がツッコミを入れてきた。
 それに対して、楓はいち早く反応して、それを拒絶すべく反射的に叫んだのだが、逆効果だった。
 なぜなら、同タイミングに氷室も吠えていたのだから。
 しかも皮肉なことに一字一句違わない文を、完璧に計り合わせたかのようなピンポイントな感覚で。

「あんたねぇ……」
「お前なぁ……」

「タイミングが悪い!」

 さらに逆効果、そこまでかぶせなくても良いではないかと言いたくなるほどに阿吽の呼吸である。
 男子一同、女子一同、引きつった笑みながらも爆笑していた。

 顔が引きつっているのは思春期特有のものだろう。
 二人とも、同学年の異性からの評判は一応、クラス、もしかすると学年で一番高いのだから。


                                       続きます。



_______________________________________________


神様サイドと人間サイド。
とりあえずは片方は平和ですね。
では、次回に続きます。

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 第四章開始 ( No.118 )
日時: 2012/07/11 18:16
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 3JS.xTpI)

四章六話






「全く何なのよあいつはぁ……」

 場面は一転し、昼休みでの学校の屋上。
 氷室は赤弥と、彼女の誘われた乙海、青宮、ついでにどこかから引っ付いてきた見知らぬ女子生徒と昼食を食べていた。
 最初に赤弥がたまには屋上行こうと氷室に切りだし、半ば強引に見方を集めるように乙海を呼び、向かうついでに隣のクラスの前で青宮を呼び、青宮にもう一人くっついて……という始末である。

 そういう状況に氷室が連れてこられた理由を、本人は全く理解していない。
 普通に昼休みにやってきた程度の考えである。
 昔話を根掘り葉掘り尋ねられるだなんて夢にも思ってはいないだろう。
 二時間目と三時間目の間の休み時間には氷室と楓の口論が学校の至るところにまで広まっていた。
 楓の知らない楓ファンは、氷室と昔からの知り合いだということ、そして茶髪になったことがどうにも興味をそそるらしい。

 ついでに、赤弥はただの野次馬、乙海青宮は無理やり連れてこられただけなので、純粋な楓ファンはそのメンバーの中では氷室と初対面のその女子生徒一人だけだったのである。
 名前を早川というらしく、ちょっと人目をひくぐらいの可愛さの女性だった。
 普通よりかは上なのだろうが、氷室と比べると少々見劣りする。

「こっちからしたら面白かったけどね、あれ」
「面白かったら良いんじゃないわよ」

 弁当の中の卵焼きを箸で掴みながら吐き捨てる。
 もうその口喧嘩から二時間は経過しているというのに、まだまだ腸は煮えくりかえっているようである。
 どんだけなんだよと苦笑しながらも、何か理由があるんじゃないかと周りの者は勘ぐる。
 虐めのことにでも少しの関係性があるのかと赤弥は訝るが、そう即断できる訳も無い。

「小学校の時の楓くんってどんな風だったんですか?」
「同じ一年だから敬語じゃなくて良いわ。そうね……今よりエースっぽかったかな」

 勉強もできていたし、足も速かったし、いきなりマラソン大会などの行事で一位とるし。
 そもそも地毛が茶色いから元々人目をひく存在だから、優れている部分もすぐに露見していた。
 そういう風に人から認められると、余計に精を出して取り組むからより目立つ、その繰り返しだった。
 今にして思うと、それが白石に虐められた原因であると断言できる。

 そのように氷室が説明すると、最後の部分を知らない他クラスの早川は目を丸めて驚愕の色で顔を満たした。
 そこからはまたしても白石と楓の間で何があったかの説明なのだが、白石は巧妙に自分の行いを隠していたのであまり詳しいことを楓以外の者が語るのは不可能なので、氷室も曖昧にはぐらかす。
 ただ、一つだけ言えることは、その白石に命令させられて氷室に嘘の告白をさせられた事だ。

「……羨ましいな、若干」
「いやいや、全然嬉しくないわよ。相手の本音じゃないのよ」
「でもさ、そういうのってOKって言われた時のことを考えるとやっぱりまんざらでもない相手に言うものじゃない?」
「あいつ次の日に転校したのよ」

 翌日に、楓は逃げたんだと非難するような口調の氷室を見て、早川はそんなものなのかなあと、箸を置いた。
 真剣な質問があると切りだした彼女は、氷室と正面から向かい合った。

「氷室さん、楓くんのこと好き?」

 氷室の動きが完全に硬直した。
 次のおかずに手を伸ばしたはずなのに、その動きが止まり、視線が泳ぎかけたかと思うとやはりフリーズする。
 そんな中、唯一呑みこんだばかりの卵焼きが自然と動いた。

「無い! 絶対! 天地がひっくり返ったらありえるかもしれないけど無い!」
「天地ひっくり返ったらあり得るんだ」

 ニヤニヤと笑いながら乙海が茶々を入れるようにそんな事を言いながら脇腹の辺りを小突く。
 しかし、早川と氷室の二人はまだ顔が真剣だった。

「……それにね、私が好きでも向こうは絶対そうじゃないだろうしね」
「何で? 氷室さんなら別に大丈夫だと思うけど」

 さっきの話の続きになるんだけど、と氷室は切りだす。
 数年ぶりに再開を果たした時————さすがに鬼ごっこのことは伏せるが————これ以上ないほどに罵ってしまったことも説明する。
 あの時の反応から察するに、基本的に氷室が楓に触れると、アレルギーのような反応が楓に起きると思いこんでいる。

「で、結局氷室さんはどう思って……」
「凄すぎて手が出せない奴、以上」

 もうすぐ昼休みが終わりそうなので、無理やりにも氷室はそうやって話を終わらせる。
 一応は答えを貰えたと納得してくれたのか、早川は引き止めなかった。






 そして同時刻、楓側でも似たような会話が繰り広げられていることを、氷室は知らなかった。
 周囲で弁当を持って待機していた教室の男子は、赤弥がせっかく氷室をつれていってくれたことに感謝し、楓に近付く。
 楓には、彼らがなぜ揃いも揃って自分の所に集まってくるのかは分かっていたが、嫌そうな顔は微塵も見せなかった。
 その代わり、氷室に対して「だから止めろって言ったんだ」と、聞こえないように愚痴を漏らした。

 落ち込みながら箸を動かしている楓の周りに色んな男子生徒が集まってくるが、知らない顔はほとんど無かった。
 というよりも、元々楓と知り合いではない奴は話しかけてはこないのだろう。
 そう言う訳で、バスケ部やサッカー部、野球部など多彩な連中が集まっている。
 この前の試合の帰りに遭遇した、氷室と話していたサッカー部の男子部員の姿も見えた。

「ところで楓ー」

 やっぱりかよ、予測を何ら裏切らない展開に楓はゆっくりと溜め息を吐いた。
 自分が面倒くさがっていると見せつけるようにしたのに、一歩もひいてくれる様子を見せない。
 そのしつこさは、できればこんなことに発揮しないでくれとは、意気消沈している今、楓の方から言ってやるつもりはないようだ。
 さて、何から聞かれるかと思い、少々身構えてみるが、もしかしたらさっきのを見て、二人が親密であるという事態はないと察してくれているかもしれないと、希望的観測を持ったが、そういう訳にもいかないようだ。

「どういう関係」
「誰と誰がだ、主語が無いのに答えられっか!」
「え、言わせる気?」

 当然だろうと頷く楓は、体のいいさらし上げに合ってたまるかと強く睨みつける。
 まあそれもそうだろうと理解したのか、楓と氷室だと彼らは補足し、その後に答えを促した。

「別に。ちょっとした顔見知り程度だよ。クラスメイトぐらいの関係でしかないし」

 ちょっとした顔見知り、その語句に彼らは怪訝そうな表情をするが、本当なのだから疑われてもどうしようも無い。
 そもそも氷室自身は、楓の顔を見るだけで、怒りのゲージを募らせるような人間だ————と楓は思っている。
 そのため、普通のクラスメイトよりも遥かに険悪な中と明言した方が正しいと楓は思っているのだが、そうもいかない。
 さすがにそれは言い過ぎだろうと言ってくるだろうし、そのためにありもしない関係を想像されるとたまらない。
 別に楓としては大丈夫なのだが、その後氷室にボロ雑巾のようになるまで罵られるのが辛い。
 なぜなら、加減というものを知っている気配が無いからだ。

「ふーん、じゃあ楓はどう思う?」
「また漠然とした質問だな、おい」

 あきれ顔になりながらも、それぐらいなら答えておこうかと楓はしばし思案する。
 自分から見ての氷室など、一々考える必要性が今までなかったために、すぐには思いつかない。
 さて、どうしたものかと、口の中の米を噛みしめるのと同時に言葉をまとめ上げる。

「うーん……外面は良いよ。初対面の人だったら普通に対応するし。ちょっとした事情で俺は嫌われてるけど、別にそうじゃない皆には普通の態度だと思う。まあ、口論になると勝ち目はないだろうけど。あ、後あいつ頭いいんだよな、けっこう……」
「そうじゃねえよ!」

 周りから、楓に向かってて厳しい一言が放たれるが、楓は何の事だか分からない。
 その強い後気に一瞬ひるんでみせたが、事態を察せられないのでぽかんとしている。

「ライクかディスライクで」
「……。別に嫌いじゃないけどね。でも好きにはなれないな。そんなことをする権利が俺にはないからな」

 昔してしまったことをうっかり吐露しないように注意して、楓は返答する。
 別に嫌いになる理由は見つからないが、好きになり、もっと言うと告白するような権利は自分には備わっていない。
 本当に好きになって告白したとしても、古傷をえぐり、蒸し返してしまうだけだ。

「権利が無い?」
「そこは気にすんな。あんまり言いたくない」

 楓の直接的な良い方に、立ち入ったこと、もしくは聞かない方が良いと、納得した彼らは何を言ったものかと閉口する。
 そんな中、一人の男子——例のサッカー部員——が口を開いた。

「あ、じゃあ俺とかが告っちゃっても?」
「別に良いけど怒らせるなよ。絶対に心がへし折られるからな。あいつの心を引き裂くボキャブラリーは絶対に舐めるな。泣くじゃすまないからな、立ち直れないからな、あいつは気に食わない奴相手なら悪逆非道の暴君だと思っとけ」

 その時に、予鈴が鳴り始めた。
 屋上に行っている者が大体帰還してくる時刻だ。
 ということは氷室もそろそろだろうと思っている丁度その時に、ドアをくぐっていたようだ。
 もうすでに、隣の席には乙海、赤弥共に座っている。
 勿論、二人と一緒だった氷室も教室にいるが、席にはついていない。
 確かにまだ後五分は授業は始まらないが、何をしているのかと思うと、彼女は楓の方に歩み寄った。

 何事かと思い、楓はまじまじとその姿を眺める。
 どうやら、視線の先から察するに、間違いなく楓に用があるかと思われる。
 昼休みにあれがあったんだからもう少しタイミングを読んで欲しいと今まさに文句をつけようとしたその時、先に氷室が口を開いた。

「ちょっと、学校帰りに付き合いなさい。話がある。その時に絶対に竹永先輩も連れて来て」

 危うくバカ野郎と叫びそうになった楓だが、最後の先輩を連れて来いと言う一言に救われる。
 竹永は陸上のおかげでこの学校の中でも有名なので、皆が知っている。
 氷室と楓の二人、だけでなく有名人が一人加わると中々状況が想像しづらいらしく、妙な方向に噂が独り歩きしないのをただただ安堵の表情で見送る楓だった。


                                             続きます。

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 六話後半up ( No.119 )
日時: 2012/07/29 14:36
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 0Sb7QHNJ)

四章七話





 鮮やかなオレンジ色が、西の空に映える夕暮れ時、氷室に言われた通りに竹永を呼んだ楓は、校門の前に立っていた。
 呼び出した当の本人はというと、サッカー部のマネージャーなのでボールや用具の片づけを手伝っている。
 まあ、それは仕方が無いのだが、夏真っ盛りの七月に、日陰に入らずに待つのも多少の苦行である。
 ここに来た時には文句の一つも言ってやろうと楓が考えていると、隣の竹永が口を開いた。

「それにしても、いきなり集合って何で?」
「それは俺の方があいつに聞きたいですよ。多分、メンバー的にあの話でしょうけど」

 三人の共通点、それはもちろんアダム関係の話だ。
 以前に第二のげえむが行われたのは竹永もすでに知っているが、つい先日の、幹部の一人のDeathの来訪はまだ伝えていなかった。
 さらに、楓としても報告しておきたいことが一つあったので、この集会は彼にとって、それなりに良いタイミングでもあった。
 実際は試合の直後に竹永だけにでも報告しておこうと思ってはいたのだが、叱られた後に自分が泣きだしてしまったので、切りだすタイミングを完全に失ってしまっていたのだ。

 それにしても、と楓は考える。
 今のところ、父親、楓 俊介の発言から予測できることをいくつか話すつもりでいるが、一つだけ分からないことがあった。
 俊介は息子である秀也に、「巫女に会ったか?」と尋ねてきた。
 そんなもの神社にでも行かないといないだろうと、即刻否定しようとした理由は、身近に心当たりのある人間がいないからだ。
 竹永は巫女というものとは、タイプが少しずれているようにも感じられ、氷室に至ってはあの性格の悪さで巫女は、巫女に対する冒涜ではないかと思っているからだ。
 だが、そんなことを本人に言える由もないので、黙っておくと言う訳だ。

 完全下校時刻までの猶予が残り五分だと知らせる鐘が鳴り響く。
 この辺りから、もたもたと準備していた生徒が慌てて帰る準備を始めるのだ。
 特に体育館を使っていた部活はたいがい帰る準備を始めるのが遅くなる。
 その点、サッカー部や陸上部は、部室がグラウンドのすぐ傍なので片付けは割と早く終わらせることができる。

 そうこうと、考えが脇道に入ったその時、ようやくと言っては何だが氷室が現れる。
 後ろには大勢のサッカー部が群がっており、内心面倒に思ってるだろうなと、楓が察すると、隣の竹永が氷室に手を振った。
 それを見た後ろの連中は、すでに帰る際の仲間がいることを残念に思いながらも散らばる。
 変な恨みや余計な噂を恐れた楓は、ばれにくそうな物陰にもたれかかる。
 氷室を追い抜いた男子がぞろぞろと出て行った直後に楓は元の立ち位置に戻る。
 すると、心底疲れ切った表情の氷室が現れた。

「大人気ね、あんたは」
「竹永さんぐらいに気が強かったら良いんですけどね……」

 姉御肌の竹永が可愛い後輩をいたわるように声をかける。
 すると氷室は珍しいことに心を開き、とうとうと弱さをさらけだした。
 楓の知らないところで二人には交流があるようで、氷室が無防備に心を開くその姿に楓は驚いた。
 それを怪訝そうにしていただけだが、氷室はそれを別のものとして解釈したようだ。

「誰の気が弱いんだって言いたそうな顔してるわね」
「えっ、いや、ちがっ……」
「分かってんのよ、言おうとしてることは。大体何が悪逆非道な暴君よ。変な情報流さないでくれる?」
「地獄耳め……」

 どうやら、教室で楓が氷室のことを悪逆非道と罵ったのがばれていたようで、楓は気まずそうな顔をした。
 しかし、それを取り繕うために、自分が苛立つように見せかけるために地獄耳と言ったのが悪かった。

「へぇー。そっか、私は地獄耳か。じゃあとりあえず、色んなところから楓くんのある事無い事聞きだして言いふらしてみようか」
「……てめぇ…………」

 顔を引きつらせながら楓は抵抗しようとするも、竹永が割り込む。
 ただでさえ疲れているのだからこれ以上闘うな、と。

「絶対に悪い男に掴まらないでよ、冷河」
「はい。まあ、男子の告白なんて信用できないって知ってますしー」

 竹永の抑制も虚しく、氷室の刃はいまだに楓に向かってロックオンされている。
 まだそれを、自分を突きさす種として利用するのかと、楓は目を伏せる。
 罪悪感にかられるのを、真正面から見られるのは中々に厳しい。
 しつこい、だなんて言った日には殴られても仕方がなさそうなので、反省した素振りで黙り込んだ。
 まあ、昔のことを持ち出されたら反省するしかないのだが。

「何よ、そこまで落ち込むことでもないじゃない」

 悪いと思っているのかいないのか、氷室は楓に呼び掛けてみる。
 それも黙殺しようかという考えがよぎったが、さすがにそれは挑発になると思い、何か言葉を返そうとする。
 しかし、いざ顔を上げてみるとなんと返せば良いか分からない。
 苦し紛れに飛び出したのは、突拍子もなくはないのだが、あまり相応しくは無い言葉だった。

「そんなにお前、俺のことが嫌いか?」

 言ってしまってから、楓はやってっしまったと感じた。
 これでは自分が気があるみたいな質問ではないかと思い、硬直する。
 訊かれた方の氷室も、目を点にして固まっている。

 それに対して、竹永はというと、一人だけ笑いを必死でこらえていた。
 どこをどうしたらそうなるのだと突っ込みたいのか、フリーズした氷室を笑っているのかは分からない。
 しばらくして、氷室が変に動揺した口調で口を開いた。

「いや、嫌いじゃないけど何か……虐めたくなるんだよね」
「それって、もはやガキ大将の理屈だよ、冷河」

 ついにこらえきれなくなった竹永は、笑いを漏らしながら氷室に向かって言う。
 笑っているせいでところどころ上手く発音出来ていないのだが、言いたいことはしっかりと伝わった。

「……違いますよ! そうじゃなくて……」
「良いから良いから。さっさと行きましょって」

 揃ったのだから、いつまでも話していないで歩こうと竹永は促す。
 気まずいことこの上ない氷室が顔を真っ赤にして歩き出し、ついていくように楓が歩を進める。
 最後に続いた竹永は、誰に聞こえるともなくぼそっと言葉を漏らした。

「好きな子ほど虐めたくなるとか、やっぱり気の強い男の子みたいだよ」

 西に傾く明るい太陽だけが、それを聞いているようだった。




                                           続きます。

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 7話up ( No.120 )
日時: 2012/07/31 23:07
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: 8uCE87u6)

更新されてたんでびっくりしました!お久しぶりです、続きが読めて嬉しいですヽ(^0^)ノワショーイ
氷室たんやっぱ可愛いですね。楓君との微妙にギクシャクしてるようでその実、息が合ってたりする感じが可愛い(^ω^)

なんだか嵐(物語の展開的な意味で)が来そうな予感ですね。楓君の親父の意味深な発言も気になるところだべさ……

でゎ|壁|ω・`)ノシ

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 7話up ( No.121 )
日時: 2012/08/02 11:33
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: rLsFNazb)

>>ryukaさん

お久しぶりです。
最近全然パソコンをする時間が無いので更新のペースも落ちてます。
結局人の読んでそのまま勉強に戻る生活が続いておりますので……。

実は、氷室と楓の掛け合い的なのは今から思い返すと昔読んだ小説のシリーズものに似てたり似てなかったり……。

親父の発言は……二話か三話先にて話し合いをしますね。
次回の予告しちゃうと氷室の生い立ち紹介です。
また、時間ある時に更新します。


※明後日から四日間合宿でいないのでその間は100%不可能だったりします。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24