複雑・ファジー小説

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DARK GAME=邪悪なゲーム= 
日時: 2012/09/14 21:51
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 3TttADoD)

えーと同じくファジーで能力もの書いてる(打ってる)狒牙です。

今回は結構暗そうなものをしたいなということで・・・

まあ、言ってしまうと時折(多分頻度は少ない)グロイかな?

基本的には普通ですので・・・

アドバイスとか変なところ(誤字脱字)があったら言ってください

よろしくお願いします

下手に内容を説明するとネタバレみたいになるんで

一気に一話目打ちます。

そしてこの作品では文章の形式を変えてみたいと思います。



一話目 招待状





「暗いなぁ・・・」

 夜道を、一人の男子高校生が帰っていた。もちろん一人でだ。
 等間隔に設置されている街灯の光を頼りにいつも通りまっすぐ家に帰っていた。
 高校に行き始めてもう三カ月程度経っている。二回目の定期テストが終わり、その手ごたえを塾に伝えに行った帰りだ。
 辺りはもうすっかり暗くなっているが、今日はたまたま曇っているだけでまだ八時にもなっていない。普段ならもう少し明るめだろう。今は月の光すらほとんど届いていないのだから。
 家にたどり着く寸前の急な坂道に青年は差し掛かった。ここだけは何年暮らしていても全く慣れることはできない。角度がそれなりに急な上、それがダラダラと百メートルも続いているのだから疲れている時にはお手上げだ。疲れる意外にここを説明することばはパッとは思い付かない。漢字で表すなら『苦』だ。しかし、苦あれば楽ありということわざもある。
 息を荒くして切らしながらその坂を登りきった彼は汗で少し濡れた顔を上げた。そこには、いつも通りの自分の家の景色があった。隣にある家も普段と何一つ変わらない。
 その家の門の前を通った時にチラッとその中の様子を見た。そこには、住人の一人であるまだ制服を着たままの女子高生がいた。

「あっ、先輩こんばんは」
「おー、楓じゃん。塾?」

 それは紛れもなく自分の部活の先輩だった。楓と呼ばれた彼の本名は楓秀也(かえで しゅうや)。二人とも同じ高校の陸上部員だ。
 といっても、楓は長距離、先輩の方は短距離だった。この時間がまさに『楽』の時間だ。
楓は先輩のことを尊敬している。なぜなら、目の前にいるこの人間は去年インターハイで優勝したからだ。距離が何であろうと関係なく、速い者にはすぐにあこがれる性格だから家がすぐ近く、というより隣の家にその人が住んでいるのは光栄だった。
 ここで一つだけ勘違いしてはいけないのが、別に恋愛対象として見ているのではなく、好きは好きでもスポーツ選手のファンのような感覚だ。思慕の念よりも崇拝と言う方が近い。それほどまでにこの先輩を慕っている。
 ついでに言っておくならこの人の名前は竹永叶(たけなが かな)という。

「普通科は大変だね」

 重い教科書を何冊も詰め込んだ大きなリュックサックを背負って地獄と読んでもいい坂を登り終えた楓に笑いながらそう言った。
 彼らが通っている高校は、体育科と普通科に分かれている。竹永の方は体育科で、楓は普通科だ。しかもこの学校は体育科の連中はスポーツに強く、普通科の連中は勉学ができるというものだ。だから地元でもかなり有名な行きたい高校ナンバー1に選ばれ続けている。

「そうですね、でもテストが一段落したんでしばらくは楽な生活ですね」

 そう言うと、今度は先輩があからさまに疲れたような顔つきになった。その理由は簡単だ。夏休みは腐るほど大会がある。一年にしてインハイで優勝したのだから大会に出されまくっているのだ。相当にだるそうな顔をしている。
 もうすぐ鬼の合宿と呼ばれるイベントが近づいているからだろうか?

「たまにさ、裏側の世界があったら言ってみたいと思うよ」

 このポツリと特に重要な意味を持たない言葉が発せられたのを聞いたとき、ふとある噂を思い出した。いや、都市伝説というべきかな。内容はこんなものだ。




 真夜中は気を付けないといけない。特に招待状を受け取ったなら。
 招待状は突然現れる。血のように紅い封筒にどこまでも続く深い闇のように冷たい黒い紙に『You are invited』と白く描かれた紙が入っている。
 それが招待状だ。そこでは夜な夜な残酷なゲームが行われているという。



 まあ、この話はまだそこまで出回っていないので、元からそういうのに興味の無い先輩が知るはずもないからただの愚痴だと思ってスルーしようとした。でも、自体は思っている以上に深刻だった。

「なんかさっきポストを見たら真っ赤な封筒が入ってたんだ」

 これを聞いた瞬間にはまだただの世間話だと思って普通に接していた。
 だが、その一秒後にまたしても噂を思い出した楓は硬直した。それでも、先輩はその封筒がどういうものなのか説明しているからこっちの違和感に気付いていないが、楓の胸の中では胸騒ぎがしていた。
先輩は、その中からどす黒いハガキを取りだした。そこには、やはり文字が書いてあった。



『You are invited』



 これが視界に入った瞬間、瞳孔は一瞬にして開いた。そこには、幽霊を連想させるように白い字でそう書かれていた。
 かく汗の中に冷や汗が混じる。これではまるで噂と同じだ。

「後ろにも変なことが書いてあるのよね」

 そう言って今度は紙をひっくり返した。そこには、今受けた衝撃よりもさらに強いショックを与える文が書いてあった。

『おめでとうございます。あなたはご当選いたしました。裏の、闇の世界へのペアチケットです。あなたと、もう一人誰かをお誘いください。何、迷うことはありません。隣家の後輩で結構です。[げえむ]は今晩の八時から、次の日の午後八時まで行われます。それまでにもう一人の方とご一緒しておいてください。』

 背筋に悪寒が走った。この内容を見る限りこれの差出人は明らかに先輩を狙っている。隣家の後輩とはまず俺で間違いない。
 怪しい雲がさらに月の光を隠すようにもうもうと寄ってくる。ふと時計を見るともうすでに時刻は七時五十九分を示し、秒針はもう・・・









 十二の文字にかかろうとする瞬間だった。








 秒針が五十九秒から六十に動いて行く。その動きがとてつもなくスローに感じられる。体は、ピクリとも動かなかった。



 刹那、手紙から迸った漆黒の闇は叫び声を上げさせる暇なく一瞬で楓と竹永を包み込んだ。グチュグチュと妙な音を立てて闇の繭を作り、ゆっくりと地面に溶けていくように小さく下から萎んでいった。










                                 続きます


第一章 鬼ごっこ編

>>1>>2>>3>>4>>5>>6>>7>>9>>10>>11>>13>>14>>17>>18>>19>>20>>21>>22>>26>>27>>29>>30>>33>>36>>37>>40>>41
>>42>>48>>49>>50>>51>>52>>55>>56>>57 総集編>>60

第二章 日常—————編 募集キャラ>>70

>>61>>64>>65>>66>>67>>68>>69>>72>>73>>76>>79 総集編>>80

第三章 楓秀也編 プロローグ>>81

>>83>>85>>89>>91>>94>>95>>96>>97>>99>>100>>103>>104>>105>>106>>110>>111総集編>>112

第四章 氷室冷河編
>>113>>114>>115>>116>>117>>118>>119>>122>>123>>124

コメントしてくれた人です(一度でもしてくれたら嫌でも載ります。すいません・・・)

ryukaさん「小説カイコ」「菌糸の教室」「壁部屋」の作者さん
千愛さん 総合掲示板の方でお仕事なさってます
赤時計さん「花屑と狂夜月」「他人の不幸は毒の味」の作者さん
ゆヵさん 「SNEAK GAME」「めいろ」の作者さん

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 7話up ( No.122 )
日時: 2012/08/08 11:24
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: qVlw.Fue)

四章八話




 西の空が、夕陽のせいで鮮やかな赤色に染まっている。
 それに照らされるかのようにして、氷室の顔も紅潮していた。
 先程からかわれたから恥ずかしいのか、それと違う理由で恥ずかしいのか、怒っているのかは後ろを歩く楓には分からない。
 ただ、気まずいのであまり話しかけない方が賢明だとは分かっている程度だ。
 そんな風にあたふたしている楓を眺めながら楽しそうにしているのが竹永で、闇戯町の中でも団地として開発された地域へと歩を進めていた。
 そこに、今氷室が暮らしている家があるからだ。
 数年前に大掛かりな建設事業のあったアパート、もしくはマンション群の中の一つ、そこに住んでいるらしいのだ。

 学校から徒歩で二十分程度なので、それほど遠くは無い場所だ。
 しかし、そのような便利な所に住んでいるというのに、楓には大きな疑問があった。
 確かにそこは、暮らしやすい場所だろうが、それにしても氷室がそこへと引っ越す理由が分からない。
 闇戯高校に入学するために引っ越した、確かにそうだろう。

 先日白石から聞いた話によると、天候前の氷室が通っていたのは白石のいる学校だ。
 そこは県の西端にあるのに対し、闇戯高校は東端に位置している。
 よって、こちらは公立校なので、通うためには学区を買えないといけない。
 そのために引っ越したのならば分かる。
 だが、なぜ学校を変えたのかという疑問が残るのだ。

 その学校で暮らすのができなくなるほど、人間関係を壊す、などということは氷室には似合わない。
 よっぽど自分が忌み嫌っていなければ、罵声どころか皮肉を飛ばすことも少ない。
 その他にも、家庭の事情という答えは、まったくもってありえないのだ。

 そのことは前から、ほんの少しだけ訝っていた節が楓にはあった。
 いきなり氷室が、よりにもよって自分のいる高校にやってくるなどという劇画的な展開。
 それをただの偶然で片付けるには少々虫が良すぎる。
 後ろで手を引いている人間は間違いなく存在するだろう。

 誰が?
 分からない。

 アダムの使者が直々にそんなことをするとも思いづらく、というよりも彼らにとって引きはがしておく方が得策だ。
 ヴァルハラの使者は、こちら側の生活にはほとんど干渉してくる様子がないので、却下。
 とすると、全ての候補が消え去ってしまう。
 何か、見落としているキーマンがいるとしか思えない。

 何にせよ、現状で転校の理由を最も良く理解しているのは、当然のごとく氷室だ。
 ならば、何らかの進展があるのではないかと楓は感じる。
 この不可解な、運命としか言いようが無い大きな流れを、理解するための進展が。
 そして、それを問いただす決心も決まった。

「……なあ、氷室」
「何よ。後少しで着くわよ」

 そうじゃないと言い、楓は頭を左右に振った。
 そんな小さな問題ではないのだと、諭すような口調で。

「お前、何でこっちに越してきたんだ」
「別に、あんたに関係無いでしょ」

 苦虫をかみつぶしたような表情をした氷室が振り返り、楓を睨みつける。
 ああ、何かがあったのだとはすぐに察しがついた。

「関係無くは無い。もしかしたら使者の連中と何らかの関連性があるかもしれないだろ」
「ハア? ある訳ないじゃない。ただの家庭の事情よ」
「へえ、両親が離婚でもしたのか」
「……そうよ、そう……!」

 一瞬思い悩むような表情をした氷室が、力強くそれを肯定してみせたが、楓は目を細めた。
 絶対に起こり得ないことを口にして鎌をかけてみたのだが、見事に氷室はそれにかかった。
 楓の目が細められた、それを目にした氷室は、突然驚かされたかのようなハッとした表情となった。
 思い出したようだ、楓が、氷室の境遇を知っている事を。

「……失敗したかな」

 暗い表情で氷室が俯き、コンクリートを凝視する、ように楓からは見えた。
 だが、それも刹那の間の事で、本当は、その行動は泣いているのを悟られないようにしているのだと察せられた。
 雨が降っていないのに、アスファルトには雫が落ちたかのような後が残っている。

「……。そうだよな、俺に対して今の発言は間違いだ。お前の両親が離婚したかどうかなんて、分かる訳が無い」
「楓にも、私にも」

 掠れるような、震えるような声で、氷室は楓の言葉を肯定する。
 唯一事情を理解していない竹永は目を丸めて口を開け、ポカンとしている。

「そうよ、あんたの記憶の通りよ。私は、物心ついた時から、両親は居なかった」
「それって前に言ってた話?」

 やっぱりなと、頷くような顔の楓の隣で、呆然とした竹永が氷室が告白した内容を復唱する。
 そして思い出した、日向高校の女子に殴られた後、ベッドの上で楓が話した内容だ。

「はい。氷室は、0歳の誕生日に孤児院の前に置かれてずっと……孤児院で育ってきました」
「皮肉な事に、楓の家の隣」

 そう、昔の楓の隣に会った故事を引きとる施設、それが氷室の生まれながらの実家であった。
 子供の日、五月五日の明け方、五時半ごろに施設の大人が外に出ると、毛布にくるまれた赤ん坊と手紙が、ベビーカーの中に入っていた。
 何事かと思い、親の姿も見えないので中の手紙を読んでみると、そこには育児を放棄するような文言が書いてあった。

 私には、この子を育てることができません。
 どうか、ここで育ててもらえないでしょうか。
 この子の名前は冷河と言います。

 たった産業の短い文章だが、零れ落ちたであろう涙で、紙に皺が寄り、インクが滲むのを見た職員は、よっぽど複雑な事情があるのではないかと思い、即座に上の者と相談した。
 ここで引き取る、そう上部が決定したのだが、名字に困った。
 そこで、彼女を、冷河を見つけた女性職員、氷室 香苗から名字を貰った、ということだ。

「そして、お隣さんの楓はよく孤児院に来て友達を作ってたから顔見知りで、小学校が同じになりました」
「それは知っている。今訊いているのは、そのはずなのになぜ今さら引っ越したのか、だ」

 目を伏せたまま、無理やり絞りだすような声で話し続ける氷室のトーンは、最近の話題に近付くにつれて少しずつ下がってきた。

「……孤児院が、買収されたのよ。大企業が、タワーマンションを建てるためにって。そこら一体の土地を」

 元々、国から補助が出ていたとはいえ、赤字しか出ないその場を、高額で買い取ると言う企業の申し出はすんなりと通った。
 そのため、嫌でもそこの子供たちは出て行かなければならなくなった。
 幸い、多額の土地の買い取り金のおかげで、新しい場所は確保できたが、スペースの問題により、年長者は出て行かざるを得なくなった。
 そのため、一定額の援助を国からもらいつつ、氷室は一人で生活しないといけなくなった、という訳だ。

 その際、住む家はその院の者のつてで家賃の安いところが見つかったため、引っ越したのだが、それに当たって学校を変える必要性が出てきたのだ。
 そうやって、闇戯高校に移転してきた。

「つい最近悪戯のような手紙が、ポストに入っていたの。ワープロで、たった二文だけ打たれてた」

 お前の家族は、お前が思っているよりかは近くにいる。
 例えば、友達の友達とか、そんな風につながっているのだ、と。

「差出人は、“syunsuke kaede”となっていたわ」

 瞬間、楓の脳裏に、いつぞやの時と同じくその男に対する怒りが沸々と湧いてきた。




続きます。

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 8話up ( No.123 )
日時: 2012/08/25 17:31
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: WrJpXEdQ)
参照: 最近氷室のキャラが崩壊しかけてる……

四章九話





「またあのクソ親父が絡んでんのかよ……」

 煮えたぎるような怒りが湧きあがるが、ぶつける相手もいないので歯ぎしりする程度に収まらせる。
 普通の状況では、楓が誰かに八つ当たりをする、などという自体はそうそう起こらない。
 目を鋭くし、たしなめてやろうとスタンバイしていた竹永も、大丈夫そうだと目を逸らした。

「やっぱり、楓に関係してたの?」
「ああ、家族捨てた大馬鹿野郎だ。それは良いから先に行こう」

 これ以上は後で話すと先にくぎを打っておき、楓は前進を促した。
 陽はもうすでに、八割方が地平線の向こうに沈んでしまっている。

「そうね、人も待たせているし」

 誰かを待たせている、という発言に楓は目を丸くした。
 てっきりこの三人だけで会議を開くと思っていたからだ。
 それなのに、もう一人誰かが来ると言う話だ、一体だれが来るのだろうかと首をかしげる。
 誰がいるんだと、歩きながら楓は訊く。

「そもそも、私と竹永さんがいつメールアドレス交換したと思う?」
「えーと……ん? いつだ?」

 思い返すとタイミングが見当たらない。
 初対面では険悪な関係だった上に、鬼ごっこの終盤では分断されてしまった。
 さらには、転校初日にはパラレルワールドに飛ばされたためにまともに出逢えておらず、その翌日にはもうすでにメールしあっていたようだ。

 しかし、タイミングが見つからないのは楓だけの話であり、とある絶好の機会を彼は見落としていた。
 彼が、鬼ごっこの途中で、みにげえむのコイントスに参加していた時間だ。
 あの時間帯、まったく鬼の襲ってこない静かな時間が続いたため、その間に連絡先を交換していたのだ、“三人”で。
 そこまで説明が入り、ようやく楓もそれと察した。

「……もしかして、楠城さん?」

 楓の問いかけに氷室はゆっくりと頷く。
 確かに、考えられる面子は、その人しか考えられない。

 久々に、どころか現実世界で初めて楠城 怜司に会えると思うと、何だか楓も気持ちが高ぶってくる。
 あの人がいれば、その落ちつきが移るようで、何だかこちらも落ち着くことができる。
 そのような雰囲気を楠城は持っていると楓は感じていた。
 年齢による風格なのだろうか、それとも元来そのような気質なのだろうか、それは分からないが。

「何だか、ちょっと前の事のはずなのに、懐かしい気分だ」

 ほんの少し、視線を上にずらした楓が少し呟いた。
 そう、鬼ごっこが終わってから、まだ一週間程度しか経っていないのだ。
 それを再確認するように、言葉にし、そしてゆっくりと噛みしめる。
 今まで平凡に過ごしてきた毎日の密度がとても薄いように感じられ、いつまでこのような日々が続くのかと想いを馳せる。
 どうせ決着をつけるのならば、早い方が良い。

 だが、決着をつけると言ってもどうやってするのか。
 それは、常日頃から自問している問いでありながら、まだ答えは見つかっていなかった。
 なぜなら、げえむをする理由を、まだ楓たちは知らないからだ。
 楓は確かにアダムから説明を受けた、人間たちに強さを与えるためだと。
 しかし、そんなことは真っ赤な嘘であるとちゃんと勘付いている。
 アダム達が行っているのは、ただの大量殺戮に過ぎない、それが理由だ。
 どう考えても執拗に楓達を狙っているとしか思えないげえむ参加者に加え、嗜虐的な殺人。
 どう考えても、連中は正義の味方には思えない。
 それ以前に、有能な人間を殺すのが目的だと、ヴァルハラの使者に既に教えられている。

 しかし、ここで一つ停滞を生じる疑問が湧きあがる。
 ヴァルハラの使者は、人間と神々の間での戦争がはじまると、確かにそう言った。
 しかし、どのように闘うのか、まったく見当もつかない。
 素手で闘えと言われても、神様相手に勝てる気がしない。
 不意打ちをしようにも、向こう側と出逢う手段が人間側には無い。
 アダム達は干渉し放題なのに、こちらから触ろうとすることは全くできない、理不尽さに胸がむかむかする。

「まあ、良いわ。着いたわよ」

 たどり着いたのは、おおよそ五階建てぐらいの、質素だが清潔感のあるマンションだった。
 真っ白な壁には、くすみや汚れは見当たらず、やはりまだ新しい建物なのだと分かる。
 入口の郵便受けを覗くが、夕刊以外には入っていない様子だ。
 ガラス張りのドアを開いてマンションの中に入る。
 エレベーターは無いようなので、階段で上がる、何階なのだと訊くと、氷室は三階だと即答した。

「それにしても、結構良い所だな、ここ」
「でしょ。でも、空き室がまだあるみたいよ。家賃も安いのにね」
「周りがもっと良いだけじゃないか」

 この辺りの地価は元々そんなに高くはなかった、と母親から聞かされていた楓は、周りの建物を指差した。
 似たような家賃で、もっと広い部屋の物件も多いとは、噂話で聞いていた。

「まあ、それもそうよね。私は一人暮らしだからここでも広いんだけど」

 適当に話しているうちに、いつしか三階に達していた。
 奥に向かって歩いていくその途中、誰かに見られているような気配を察した楓は下の方を見た。
 そこには、男女が一人ずつ立っていた。
 男の方は闇戯高校の制服を着ていて、女の方はランニング用のシャツを着ている。
 男が肩から提げているのは、見慣れた陸上部のエナメルなので、知り合いかと思ってよく眺めてみるが、誰かを判別する前に踵を返して立ち去られる。
 女の方はというと、何かを思ったかのようにこのマンションに入り込む。
 まあ、別にそこまで気にするようなことではないとすぐに思いなおし、氷室に追いつく。
 隅の301号室の表札には氷室、とあった。

「そろそろ楠城さんの来る時間のはずなんだけど」

 そう言って、氷室は下を眺める。すると、やや急ぎ足の男性が鞄を持ってこちらに向かっているのが見えた。
 ああ、あれは間違いないと、楓はすぐに頷くことができた。
 その男性は、間違いなくあの楠城 怜司だった。
 氷室もそれに気付いたようで、どうせなら家の前で待っておくかと思ったのか、そこで立ち止まる。
 無言で了承した竹永も、同様に足を止めた。

 少し立つと、コツコツとした乾いた音が響き始めた。
 誰かが階段を上がってきているのだろう。
 さっきから見ていた限り、この建物に入ってきたのは先程の女性と楠城さんぐらいだ。
 とすると、楠城さんよりも先に女性が来たのだから、まずはそちらだろうと察する。
 とすれば、知り合いではないはずなので、じろじろ眺めているのも失礼だろうと目を逸らす。

 だが、女性のことを見ていない氷室と竹永はじっとその方向を見ているままだ。
 しかし、楓は見た、二人が酷く驚いたかのように目を丸くしたのを。
 直後に、階段の方を振り返る。
 すぐそこ、つまりは階段の踊り場で一旦足音が止まったからだ。
 三階に用がある人間、ということなのだろうと思い、振り返るとそこには見知った顔があった。

「やっぱり、楓くんたちじゃない」

 そこにいたのは、女子マラソンの期待のルーキー、と呼ばれている斎藤選手だった。




続きます。

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 9話up ( No.124 )
日時: 2012/09/07 20:35
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: BlNlQAlV)

四章十話




「斎藤……さん?」

 予想外の人物の登場に目を丸くしたのか、氷室が口を大きく空けてポカンとする。
 竹永も、この人物の登場は予想外なのか、ただただ黙って、彼女をまじまじと見つめている。
 このことから、この人物の登場はこの二人にとっても予想外なのだろうなと、楓は察した。
 それも当然だ、楠城ならば確かに連絡先を交換する暇はあったらしいが、斎藤の場合はその時間がなかった。
 まず、楓がいきなり連れてきた上、その直後に鬼の襲撃があったのだから仕方が無い。

 しかし、なぜ氷室たちが驚いているのかよりも、なぜここに斎藤が来たかを考えた方が良いと考えた楓は声をかける。
 彼女が、本当に自分の知っている人物なのか確認するために。
 こぼれ出たセリフは辛うじて、目の前の人の名前だけだった。

「そうだよ。久しぶりだね、皆。それにしても三人とも同じ高校の生徒だったんだ」
「えっ、あぁ、はい。それにしても、何でここに……」
「ああ、その事だんだけどさあ」

 ふと思い出したかのように、彼女は語り始めた。
 先日、大阪でのマラソンでの結果をきっかけに、強化練習のために関東に行くとコーチに言われたのがきっかけらしいのだ。
 そして、一昨日、そのコーチがいきなり宿を指定したらしいのだ。
 宿ではなくホテルだが、それはさておき、それが闇戯町だったのには奇妙な運命を感じたらしい。
 楓が地元の人間だとは聞いていたため、頑張って探してみようかと思ったらしい。
 そんな矢先に、楓と同じ高校の陸上部を見つけたらしい。
 そして、彼が案内したのはここだった、という話だ。
 彼も中長距離であるため、斎藤のことをよく知っていて、そのためかすぐに信用してくれたらしい。

「ちょっと……待って下さい!」

 どうしてだと、楓は頭を振る回転させる。
 同じ学校の陸上部、長い距離の方に身を置いている、男子、それらを繋ぎ合わせてみると、どう足掻いても結論は一つ。

————元眞 代介以外に考えられない。

 だが、そうだとすると腑に落ちない事態がある。
 代介は、楓の家を知っているのだ、それに今日の放課後に氷室に会うとは確かに知れ渡ってはいたが、氷室の家に来るとはさっき初めて聞いた。
 そのため、代介に、今日楓が氷室の家に来ることは分からないはずなのだ。
 それ以前に、楓には代介が氷室の家の場所を知っているとは思えなかった。

 何がどうなっている?と自問するが、答えは見つからない。
 それよりも気になったことを、斎藤にぶつけた。

「斎藤さん……コーチは、誰ですか?」
「ん? 皆も知ってると思うよ。過去の日本マラソン界の英雄、楓 俊介だけど」
「……やっぱり」

 どこにでも首を突っ込むその姿勢が気に入らず、楓は歯ぎしりする。
 だが、余計なことを言って斎藤を板ばさみにしてしまうのは申し訳ないため、口をつぐむ。
 とりあえず、今は楓と俊介の関係は、ただ名字が被っているだけ、そう思っておかれた方がありがたい。
 気不味い雰囲気が漂う中、玄関の前でずっと立っているのもあれだと提案した氷室がドアの施錠を解こうとした時、本来来るはずの訪問者が、ようやくその顔を出した。
 たった今このタイミングで忘れてしまっていたとは、誰も言い出せない。

「何だ、斎藤さんまで来ているとは聞いてないぞ」

 現れたのは、灰色のスーツをきっちりと着た、楠城だった。
 眼鏡をかけて、会社員がよく持っていそうな、手さげの鞄を持っている。
 予想外の客、斎藤に少しばかり彼も驚いているようだ。

「いや、俺たちも驚いたことに、偶然出くわしちゃったんですよ」

 一々説明しなくても大丈夫だろうと楓は思ったため、練習中にたまたま出逢ったことにする。
 不思議なこともあるものだと彼は首をかしげたようだが、今はそれは気にしないようにしたいらしい。
 明日も平日で仕事や学校はあるのだから、楓や竹永も急ぐ理由はある。
 今度こそ、氷室は家の鍵を開け、屋内へと入りこんだ。
 それに竹永、斎藤が続き、開いたドアの正面に楓と楠城が残った。

「お久しぶりです」
「久しぶりだな。お前は知らないだろうが、俺の所にもついこの間のお前の話は届いているぞ」

 何のことかはよく分からないので、楓は怪訝そうな顔をしたが、おそらく竹永たちに聞いたのだろうと判断し、ドアをくぐった。
 最後に入った楠城が内側から施錠する。



「えっ、楠城さん県庁で働いてるんですか!?」

 氷室の部屋に入ってすぐ、楓が口にしたのはそれだった。
 不意に、上司に対する楠城が語りだしたため、それに耳を傾けていると、次第にそれは行政の話だと分かった。
 しかも、県庁のお偉方もどうたらこうたら、と言い出したのだからそれは確定だった。

「どこで働いていると思ってたんだ?」
「大手企業」

 訊いたことが無かったので、勝手にそうではないかと思い込んでいたのだが、まさか公務員だったとは知らなかった。
 それなら、このきっちりとした見かけと、高給そうな身だしなみも納得できる。
 年齢は三十半ばから四十半ばぐらいだろうから、管理職についていてもおかしくないだろう。

 今時大手企業の方が入るのは難しいかもしれないと言うと、楠城は地面に腰かけた。
 その時に、思い出したように話し合いの口火を斬るような発言をしたのだ。

「で、楓。同期の知り合いから聞いた話なんだがお前、この前競技場で有名人に突っかかったそうじゃないか」

 ああ、そういうことかと楓は先程の楠城の言葉に納得する。
 きっと、ゲストのような雰囲気を出していた俊介は、県庁の方から接待されたのだろう。
 とすると、息子が掴みかかってきた、という話題はその中ではすぐさま拡散するだろう。
 女子陣、とはいえ竹永以外が、敏感にこれを察知した。

「あんたの父さん、そんな凄い人なの?」
「私のコーチって楓くんのお父さん!?」

 ああ、そう言えば言っていなかったな、と思い返した楓が説明を始める。
 週末に父親が現れたこと、父親のセリフ、そこから察せられること。

「父さんが言ったことのうちの一つ目。一番最初の鬼ごっこクリア者は、父さんだということ。これは予想の範疇で、そもそも裏世界の都市伝説が流れた時点で、裏世界から帰ってきた人が一人はいるってことになりますから。それが父さんだったという話です。二つ目、ヴァルハラの使者は父さんの知り合いだった。このことから、あいつはこっちの味方だとほとんど断言できると思います」

 とりあえず、巫女についてのことは伏せておいた。
 実家が神社の友達など、楓にはいないため、とりあえずは議論の対象としなくて良いだろうと思えたからだ。
 だが、これは議論というよりも、ただの報告に終わったな、とは楓以外が感じていた。
 もはや、楓自身が結論づけてしまっているのではないかと内心で突っ込む。
 これ以上、自分たちに何を言えと言うのだろうか。
 楓以上に頭の回る人間など、ここにはいないというのに。

「それはおいておき、戦争について、そちらも考えてみないか」

 楠城が咄嗟に提案した議題は、神々と人間との戦争が、どのような形式で行われるか、ということだ。
 大体の勝負の場合は、特殊な力を使うことができるであろうアダム達の方が絶対的に有利だ。
 頭脳戦なら、まだ楓が頑張ればこちらに優勢に傾くかもしれないが、イグザムを考えると不安だ。
 肝心のアダムは大したものではないが、Deathという使者や、イグザムを考慮すると向こうにもかなりのメンバーが揃っている。

「それを何とか調整するための、ヴァルハラの使者かもしれません」

 ここで、氷室に以前語った『ヴァルハラの使者=北欧最高神オーディン説』を持ち出した。
 聖域ヴァルハラに住まいし神、オーディンこそがその正体ではないか、という仮説だ。
 これは、案外あっさりと受け入れられた。
 とはいえ、北欧神話を知っている楠城だけだったが。

「そうか、だとすると本当に戦争であることも考慮しないといけなくなるな」

 戦争なんて、下らないのに。
 誰が言うでもなく、それは皆の脳裏に刻まれていた。


次回に続きます。

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 9話up ( No.125 )
日時: 2012/09/07 20:39
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: BlNlQAlV)

>>124完成です


次回もよろしくです。

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 10話up ( No.126 )
日時: 2012/09/14 21:51
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 3TttADoD)
参照: ちょっとしたご報告を……

えっとですね、とりあえず細かいことはおいておき、この先しばらく、更新のペースがガタ落ちします。

勉強とか日常面がヤバい、という訳ではないので、自分の意志一つで勝手に更新速度は戻せるのですが。

何にせよ、とりあえずはしばらく更新が停滞する事が続きます。

かなり申し訳ないのですが、合い間を縫って更新する予定なので、その際には読んで頂けるとありがたいです。

完全に執筆停止って訳ではないんで……。
本当に申し訳ございません。





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