複雑・ファジー小説
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- DARK GAME=邪悪なゲーム=
- 日時: 2012/09/14 21:51
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 3TttADoD)
えーと同じくファジーで能力もの書いてる(打ってる)狒牙です。
今回は結構暗そうなものをしたいなということで・・・
まあ、言ってしまうと時折(多分頻度は少ない)グロイかな?
基本的には普通ですので・・・
アドバイスとか変なところ(誤字脱字)があったら言ってください
よろしくお願いします
下手に内容を説明するとネタバレみたいになるんで
一気に一話目打ちます。
そしてこの作品では文章の形式を変えてみたいと思います。
一話目 招待状
「暗いなぁ・・・」
夜道を、一人の男子高校生が帰っていた。もちろん一人でだ。
等間隔に設置されている街灯の光を頼りにいつも通りまっすぐ家に帰っていた。
高校に行き始めてもう三カ月程度経っている。二回目の定期テストが終わり、その手ごたえを塾に伝えに行った帰りだ。
辺りはもうすっかり暗くなっているが、今日はたまたま曇っているだけでまだ八時にもなっていない。普段ならもう少し明るめだろう。今は月の光すらほとんど届いていないのだから。
家にたどり着く寸前の急な坂道に青年は差し掛かった。ここだけは何年暮らしていても全く慣れることはできない。角度がそれなりに急な上、それがダラダラと百メートルも続いているのだから疲れている時にはお手上げだ。疲れる意外にここを説明することばはパッとは思い付かない。漢字で表すなら『苦』だ。しかし、苦あれば楽ありということわざもある。
息を荒くして切らしながらその坂を登りきった彼は汗で少し濡れた顔を上げた。そこには、いつも通りの自分の家の景色があった。隣にある家も普段と何一つ変わらない。
その家の門の前を通った時にチラッとその中の様子を見た。そこには、住人の一人であるまだ制服を着たままの女子高生がいた。
「あっ、先輩こんばんは」
「おー、楓じゃん。塾?」
それは紛れもなく自分の部活の先輩だった。楓と呼ばれた彼の本名は楓秀也(かえで しゅうや)。二人とも同じ高校の陸上部員だ。
といっても、楓は長距離、先輩の方は短距離だった。この時間がまさに『楽』の時間だ。
楓は先輩のことを尊敬している。なぜなら、目の前にいるこの人間は去年インターハイで優勝したからだ。距離が何であろうと関係なく、速い者にはすぐにあこがれる性格だから家がすぐ近く、というより隣の家にその人が住んでいるのは光栄だった。
ここで一つだけ勘違いしてはいけないのが、別に恋愛対象として見ているのではなく、好きは好きでもスポーツ選手のファンのような感覚だ。思慕の念よりも崇拝と言う方が近い。それほどまでにこの先輩を慕っている。
ついでに言っておくならこの人の名前は竹永叶(たけなが かな)という。
「普通科は大変だね」
重い教科書を何冊も詰め込んだ大きなリュックサックを背負って地獄と読んでもいい坂を登り終えた楓に笑いながらそう言った。
彼らが通っている高校は、体育科と普通科に分かれている。竹永の方は体育科で、楓は普通科だ。しかもこの学校は体育科の連中はスポーツに強く、普通科の連中は勉学ができるというものだ。だから地元でもかなり有名な行きたい高校ナンバー1に選ばれ続けている。
「そうですね、でもテストが一段落したんでしばらくは楽な生活ですね」
そう言うと、今度は先輩があからさまに疲れたような顔つきになった。その理由は簡単だ。夏休みは腐るほど大会がある。一年にしてインハイで優勝したのだから大会に出されまくっているのだ。相当にだるそうな顔をしている。
もうすぐ鬼の合宿と呼ばれるイベントが近づいているからだろうか?
「たまにさ、裏側の世界があったら言ってみたいと思うよ」
このポツリと特に重要な意味を持たない言葉が発せられたのを聞いたとき、ふとある噂を思い出した。いや、都市伝説というべきかな。内容はこんなものだ。
真夜中は気を付けないといけない。特に招待状を受け取ったなら。
招待状は突然現れる。血のように紅い封筒にどこまでも続く深い闇のように冷たい黒い紙に『You are invited』と白く描かれた紙が入っている。
それが招待状だ。そこでは夜な夜な残酷なゲームが行われているという。
まあ、この話はまだそこまで出回っていないので、元からそういうのに興味の無い先輩が知るはずもないからただの愚痴だと思ってスルーしようとした。でも、自体は思っている以上に深刻だった。
「なんかさっきポストを見たら真っ赤な封筒が入ってたんだ」
これを聞いた瞬間にはまだただの世間話だと思って普通に接していた。
だが、その一秒後にまたしても噂を思い出した楓は硬直した。それでも、先輩はその封筒がどういうものなのか説明しているからこっちの違和感に気付いていないが、楓の胸の中では胸騒ぎがしていた。
先輩は、その中からどす黒いハガキを取りだした。そこには、やはり文字が書いてあった。
『You are invited』
これが視界に入った瞬間、瞳孔は一瞬にして開いた。そこには、幽霊を連想させるように白い字でそう書かれていた。
かく汗の中に冷や汗が混じる。これではまるで噂と同じだ。
「後ろにも変なことが書いてあるのよね」
そう言って今度は紙をひっくり返した。そこには、今受けた衝撃よりもさらに強いショックを与える文が書いてあった。
『おめでとうございます。あなたはご当選いたしました。裏の、闇の世界へのペアチケットです。あなたと、もう一人誰かをお誘いください。何、迷うことはありません。隣家の後輩で結構です。[げえむ]は今晩の八時から、次の日の午後八時まで行われます。それまでにもう一人の方とご一緒しておいてください。』
背筋に悪寒が走った。この内容を見る限りこれの差出人は明らかに先輩を狙っている。隣家の後輩とはまず俺で間違いない。
怪しい雲がさらに月の光を隠すようにもうもうと寄ってくる。ふと時計を見るともうすでに時刻は七時五十九分を示し、秒針はもう・・・
十二の文字にかかろうとする瞬間だった。
秒針が五十九秒から六十に動いて行く。その動きがとてつもなくスローに感じられる。体は、ピクリとも動かなかった。
刹那、手紙から迸った漆黒の闇は叫び声を上げさせる暇なく一瞬で楓と竹永を包み込んだ。グチュグチュと妙な音を立てて闇の繭を作り、ゆっくりと地面に溶けていくように小さく下から萎んでいった。
続きます
第一章 鬼ごっこ編
>>1>>2>>3>>4>>5>>6>>7>>9>>10>>11>>13>>14>>17>>18>>19>>20>>21>>22>>26>>27>>29>>30>>33>>36>>37>>40>>41
>>42>>48>>49>>50>>51>>52>>55>>56>>57 総集編>>60
第二章 日常—————編 募集キャラ>>70
>>61>>64>>65>>66>>67>>68>>69>>72>>73>>76>>79 総集編>>80
第三章 楓秀也編 プロローグ>>81
>>83>>85>>89>>91>>94>>95>>96>>97>>99>>100>>103>>104>>105>>106>>110>>111総集編>>112
第四章 氷室冷河編
>>113>>114>>115>>116>>117>>118>>119>>122>>123>>124
コメントしてくれた人です(一度でもしてくれたら嫌でも載ります。すいません・・・)
ryukaさん「小説カイコ」「菌糸の教室」「壁部屋」の作者さん
千愛さん 総合掲示板の方でお仕事なさってます
赤時計さん「花屑と狂夜月」「他人の不幸は毒の味」の作者さん
ゆヵさん 「SNEAK GAME」「めいろ」の作者さん
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 鬼ごっこ編第五話更新 ( No.5 )
- 日時: 2011/09/21 18:29
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Jagfnb7H)
第六話 作戦
「ここから出る?何言ってるの!」
楓の提案に、速攻で竹永がいちゃもんをつける。まあ確かにそうだろう。制限時間がまだまだ残っているというのにこちらに関心を示していない鬼にわざわざ姿をさらすなんて、常識ではまず考えられない。じっとしていたら無事なのに一々危険の中に出向くなんてもってのほかだ。
傍にいる楠城も同じように思っているらしい。確かに今から行おうとしていることは相当なリスクを伴う。だから、その作戦の真の意図を伝えてみることにした。
「ここにおびき寄せてルール違反で鬼の数を減らすんです。そうしたら、この先逃げる時少しは楽になるはずです。目先のことだけでなく、後先のことも考えないとこの『げえむ』は、鬼ごっこはクリアできません」
でも・・・弱々しく反論しようとする声が、叶の口から洩れる。楓の言うとおりに行動するか、今この瞬間の安全を確保するか決めあぐねているのだろう。極端に反論しようとする意志はないが、そのまま肯定する気にもなれないのだろう。
迷い、考えている年長組二人に代わり、実際するとしたらどうなるか見せるために、楓は立ち上がった。二人が止めようとする前に階段を駆け降りる。二人に待っているように手で合図すると、それを見た楠城たちはブレーキをかけて、秀也の行動を見守っていた。
玄関付近に転がっている手瑠弾のうちの一つを蹴り飛ばしてドアのガラスを割って外に出す。ガラスのドアに近付くと自動ドアが開き、秀也は外に飛び出した。
つい今蹴りだした手瑠弾を拾い上げ、ピンを抜く。そして、できるだけ遠くに投げる。ピンを抜いてから、五秒ぐらい経ったころであろうか、地に落ちた爆弾は炸裂した。凄まじい爆発音が周囲一帯にこだまする。
その快音、いや、破壊音を聞きつけた鬼たちはこっちに向かってきた。顔はもちろんのようにしゃれこうべなのだから、目の辺りは空洞になっている。鼻も文字通り孔が開いている。こうして見ると結構怖い。
「そのまんまだ、こっちに来い!」
人の言葉が理解できるかどうかは分からないが挑発の言葉を口にする。音に反応したのか挑発に乗ったかは知らないが、こっちに向かって部隊は走ってくる。
それとも行進と言うべきだろうか。規則正しい動きで機械のような動きで詰めよってくる。
「ゴール」
楓の身体が自動ドアを通り抜ける。さっきの階段を上り、先輩達のところに戻る。普段から走り慣れているからか、ほとんど身体は疲れていない。
心配していたかは分からないが、今となっては安堵の表情を浮かべている。ようやく、おびき寄せた鬼たちが透明なドアをくぐり抜ける。最初に追ってきた奴らと同じように塵となって消え失せた。
「ほら、大成功でしょう」
得意げに、笑顔を作って二人に向かって笑って見せた。全く、そういう風に呆れたように溜息をつくのが楠城から聞こえる。
そんな中だ、妙な音が聞こえてきたのは。
カツッカツッと硬い足元を踏み鳴らすような音が聞こえる。方向から察するに階段の辺りだろう。
それよりも、問題なのは何が来ているかだ。もしかしたら人間かもしれない。しかし、もしも武器を捨てた鬼だったとしたら、急いで逃げないといけない。
三人の顔に戦慄が走る。そうして身構えた三人だったが、やってきたのは意外にも、一人の女の子だった。それも、秀也と同い年ぐらいの。いかにも学校帰りと言ったような制服を着ている。
新しいお客様も制服を着ているので、この場にいる四分の三もの人間が制服を着ているという変な光景になった。特に楠城さんに注目したとしたら。
「楓・・・秀也・・・」
いきなり、現れた人間が楓の名前を呼ぶ。なぜ彼女が自分の名前を知っているか、秀也には見当もつかなかった。不信そうな顔をして、首をかしげている。でも、確かにどこかで見覚えがある。
「何?楓の知り合い?」
「知りませんよ、俺の知り合いにこんな美人いません」
今咄嗟に美人という言葉が出てきたが、改めてその女子を観察する。真っ黒な髪の毛にうっすらと浮かぶ染めているであろう茶色い髪の毛。長さは秀也と同じぐらいだ。瞳の色も極めて日本人的で、茶色と黒目、そして白目だ。
発せられる雰囲気は、冷たいと言うか何と言うか。人を寄せ付けない雰囲気が漂っている。やっぱり、楓にはどこかで面識があるような気がしてならない。
「こんなところで会うとは思っていなかったわ」
「だから誰なんですか?」
ここに来てから敬語の連発だな、不意にそう感じた。初対面の人間には敬語が基本、年上にも当然使うので、今のところタメ口をきける相手がまだ現れてくれない。
そんなことより、いきなり登場したこの女子は、尚更嫌悪の態度を発散させ、忌々しげに楓を睨みつけて吐き捨てるように悪態をついた。
「さすが最低人間ね、全く覚えていない」
「ハア!?お前一体何言って・・」
「忘れたとは言わせないわよ。あなたは、小学校時代に罰ゲームで楽しんでいたでしょう?」
「だから何いっ・・・ってお前まさか・・・」
この発せられる冷たい空気、黒色に混ざっているうっすらとした茶色い髪、嫌いなものを冷たく睨みつける鋭い目、嫌いな者には容赦をしないキツイ言葉づかい、無駄に、と言ったら失礼だが整った容姿。これではまるで・・・
「ようやく思い出したようね」
そうして秀也は一つの名前を口にした。
「氷室冷河(ひむろ れいか)か?」
続きます
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人の名前が残念、とか言わないでね
結構頑張って考えてこれだから。
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 鬼ごっこ編第六話更新 ( No.6 )
- 日時: 2011/09/23 21:05
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: /tWbIoNn)
第七話 過去の罪
「あなた、言われないと分からなかったの?本当にどうしようもない。さっきのも見ていたわよ。最低人間にしてはよく頑張った方だけど、やっぱりリスクが高すぎるわ。バカとしか言いようがないわね」
人をあざ笑うかのようにクスクスと後から付けたして、これでもかというほど楓への怒りを露わにしている。言った当の本人は、そう言ってせいせいしているが、言われている当の本人はというと、この悪態は全て聞こえていなかった。
怯えるように身体を震わせ、恐れをその顔に浮かべてじっと下を向いている。厳しい先生に怒られて、謝っている小さい子のように、必死で謝る言葉を探しているようだ。何も声を発することができていない。
「返す言葉も無いの?悪いことをした人は普通、なんて言えばいいのかしら?」
傷口をえぐるようにして、楓に冷河と呼ばれた彼女は執拗に追い打ちをかける。叶には氷室が、なぜこんなにも秀也に喰ってかかるのかさっぱり分からなかった。ただ、当事者二人を半歩下がったところから傍観することしかできない。
何があったか訊いてみようとしたとき、まだ訊いてもいないのに彼女の方から話し始めた。
「ついでだからお仲間二人にも教えてあげるわ、彼のしたことを」
秀也の身体がより一層強くびくっと震えて、俯いていた顔を起き上がらせる。それでも、顔に浮かんでいるのは怒りなどではなく、驚きや焦り、ためらいの感情だった。それでも楓は冷河を止めることができず、そのまま喋らせることとなる。
「その時の学校では、罰ゲームつきで何かゲームをするのが流行っていたの。それで、運悪くこの最低野郎が引き当ててしまった罰が、告白。好きな人がそのときいなかったこの人は相当戸惑ったらしいわよ。それでこの楓秀也という大バカ者はどうしたと思う?好きでもない人に嘘の告白。しかもよりによってこの私に。びっくりしたわよ、今まで女子に対して興味なんて一切示さなかった彼がいきなりそんなことを口走るなんて。確かに一瞬おかしいと思ったわよ。でもね、人に好意を伝えられる機会なんて滅多にないじゃない。一瞬でその疑念は掻き消えたわよ。でもすぐに笑い声が聞こえて良かったわ。隣の教室からバカ笑いする声が聞こえてきたわ。『あのへたれ、怪しまれないために一番みんなから綺麗だと言われてる奴に嘘の告白しやがった』って。私の胸の中に一番最初に浮かんだのはイラつきよ。ああ、こいつはそんなことをしていたのかって。その日はそれを聞かなかったことにして家に帰ったわ。次の日散々言いふらしてやろうと思って。でもね、すっかり忘れていたの。あなたはその日転校するんだって。次の日からあなたは学校に来なかった」
憎悪と、そこから生まれる憎しみを湛えて秀也を睨み続ける。楓はというと、唇を噛んで、下を向き続けている。なんだかこれでは、いじめを受けているようだ。何度も何かを言おうとしてやはり顔を伏せる後輩の行動を見て、竹永は不信に思った。
「だから、げえむのスタート地点で戸惑うあなたを見て、ここで会ったが百年目、とでも言ってやりたかったわ。さあ、楓秀也。過去を清算しなさい、ここで私に謝りなさい」
理不尽だ。竹永はそう思った。今の話を聞く限り、一番悪いのはけしかけた連中だろう。ここで楓に謝らせるのは自己満足にすぎないはずだ。誰でもいいから自分に対する非礼をここで謝罪させたいという、身勝手さがその身から滲み出ている。
「どうしたの?うそつき」
「違う!」
そこで、ようやく今まで黙っていた秀也が口を開いた。その一言を発するだけに、どれほどの勇気を振り絞ったのか、顔から冷や汗が噴き出している。
「違う・・・俺はそんなこと、したくてした訳じゃ・・・」
「何?言いたいことがあるならはっきり言いなさい」
口元でぐにゃぐにゃとこもるような言い方をしたせいで、声のほとんどは向こうに聞こえていなかった。隣にいる二人には、はっきりと聞こえたが。
「あなたたちに忠告よ。そいつから離れなさい。そんなの足手まといにしかならないわよ」
それに対し、楠城と竹永は、すぐに回答をつげたのだった。
続きます。
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さて、二人の決断とは?
次回に続きます
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 鬼ごっこ編第七話更新 ( No.7 )
- 日時: 2011/09/23 21:08
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: /tWbIoNn)
第八話 氷室冷河
「こんな奴、足手まといにしかならないわ。切り捨てた方が身のためよ」
氷室は、ずっと俯いて黙っている楓をしり目に、冷たくそう言い放った。良く見ると、恍惚の表情が浮かんでいる。長年の間思っていた復讐が果たされた充足感だけが全身を覆っていた。清々しさと解放感だけが冷河には感じられていた。勝ち誇ったような笑みを浮かべて、目の前の三人を眺めている。
でも、その表情が崩れるのは、想像を絶するほど早かった。
「ふざけないで、見てたのなら分かるでしょう。楓のどこが足手まといなのよ。自分の信頼してる人間が傷つけられるのを見ると、私結構イラつくのよね、どう?いっそのことあなたこのまま私達に謝罪してくれる?」
「全く以てその通りだ。俺は自分の怪我の手当てをしたりしてくれた恩人を、見ず知らずの人間の妄言とも現実とも知れない話で見捨てるほど、クズに生まれ、育った覚えは無い」
二人の回答を聞いた冷河は、驚きの表情を露わにした。しかし考えてみたらそれは至極当然の話だ。
今楠城が言った通り、二人にとって自分は、見ず知らずの赤の他人だ。それでもって秀也はというと、竹永にとっては部活仲間であり、氷室は知らないがご近所さんであり、窮地を共に脱出した仲間でもある。
そのうえ、楠城にとっては楓は自分を空港と言う安全地点に連れだしてくれた上に、銃創の応急措置もしてくれた者で、オーバーに言うと命の恩人だ。そんな大切な人間がポッと出の奴に言われるがままにけなされるのは、気分が悪いに決まっている。
どうしようかと決めあぐね、頭の中で考え続ける。
「まあ、私もこれ以上とやかく言うつもりは無いわ。その話が真実かどうかも分からないし、あなたが誰かも知らない。楓の動揺具合をみると、その話は本当かもしれないけど、楓がそんなことをするとも思えない。それに、のっぴきならない理由があったなんてことは無いとも断言できない。だからこの話は聞かなかったことにするわ」
「そうだな、俺もそうするか」
冷河は、さっきから自分が言おうとしていることをことごとく言う前に遮られてしまい、発するべき言葉を未だに決めあぐねていた。「楓の動揺を見る限り、その話は真実じゃないのか」と追及するつもりだったが、それの答えもあっさりと先制して返された。
その上、先に情けをかけられて今のことは無かったことに『してやる』といった言い回しで返されたのも相当に屈辱的だった。しかし、ここでいくつか年上の女性に刃向かうのは、はっきりいって逆上に近い。何度も言っているように、向こうは自分の仲間をバカにされて怒るのも当然であり、こちらに強い言葉を返すのも当然と言う訳だ。そんな中でいきなり自分が「どうしてそこまで私が言われないといけないのか」なんて聞いたらそれこそ憐みの目が返ってくるだろう。
はっきり言ってそれは望ましくない以上に、絶対に起こって欲しくない。今のは自分にも非があったと反省しつつ、言葉をようやくつなげた。
「いいわ。だったら私もあなたたちに付いていくわ。そこで教えてあげる。そこの男は、私やあなたたちよりこんなことに向いていないって」
「何を勝手に決めているの?あなた、楓に何を言ったかわかって・・」
「いいです、先輩。連れて行っても」
さっきから、というよりも、氷室が語り始めてからずっと震えて黙りこくっていた秀也がようやく口を開いた。しかもその内容は冷河を連れて行っても良いという許可、楠城たち二人が驚いたのは言うまでも無い。
「本気!?今何を言われたか分かってる!?」
「止めておけ、集団がいがみ合ったら崩壊するぞ」
楓の解答を猛スピードで二人は止めようとする。しかし、今の発言を取り消すつもりは楓には無かった。
「それが贖罪につながるというのなら、何だって耐えてみせます。この身に、命に代えても」
「ああ、そう分かったわよ」
半ば呆れるように叶はそう呟いた。かと思うと、キッと鋭く冷河を睨みつけた。言葉にしなくても言いたいことは分かる。次に楓をけなしたら、本気でぶちギレると、目がそう物語っていた。
「決まりだな。だとしたらさっさと出るぞ。もうすぐ三十分だ」
「もうそんな時間なの?仕方ないわね。行くわよ、四人で」
楠城と竹永の二人は、過去に何かしらの因縁を持ち得る彼ら二人を導いている。あれだけびくびくと怯えていた楓は、少し気が晴れたのか顔立ちは元に戻っていた。
それとは対照的に、氷室はさっきまでの高揚感と優越感はすっかり影を潜めて、殊勝な態度になっていた。
続く
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はーい、一悶着ありました。
ではでは次回に続きます
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 鬼ごっこ編第八話更新 ( No.9 )
- 日時: 2011/09/23 21:12
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: /tWbIoNn)
第九話 本当のげえむ名
「さあ、外に出るわよ」
竹永に連れられるままに三人は空港から外に出た。まだ、鬼が迫って来ている気配は無い。それでも、周囲に気を張り巡らせて、慎重に外に出る。辺りを注意深く見回してみる。
どうやら、今のところ周りに鬼はいないようだ。竹永の手招きに合わせて三人も建物から出る。西の方から、人々の断末魔の叫び声のような声とは到底思えないような騒音が聞こえてくる。
改めて、今行われていることの意味を理解し、身体の奥に寒気が走る。それは、楓だけでなく楠城や叶、そして、冷河も同じだった。
「むごい・・・」
青ざめた表情で、目には寒気を浮かべて、恐れるように声を震わせて冷河はそう言った。少し自己中心的なところもあるが、やはり根は情に熱かったり、心優しいのかもしれない。そういう、ちゃんと普通の人らしい感覚を持っていることに、楓は安堵した。
そもそも、自己中心的な心というものは、自分に対して特に情に熱い者がそう呼ばれるのだろう。氷室の場合、自分に対する情もそうだが、他の人に対するそれもかなり熱いのであろう。その声は、目に見えぬ『げえむ』の主催者に向けた怒りもこもっていた。
「とりあえず、ここは袋小路になっているからさっさと向こうの交差点まで行きましょう。こっちに来たらジ・エンドよ」
前方の、ここに来た時にも通った大きな交差点を指差して竹永は駆け出した。スタートの時間ですでに日は落ちていて、街灯が灯されていたぐらいなのだから、もうすでにかなりの時間にはなっているはずだ。まず、八時になったら招待状に吸い込まれるようにしてこの裏側の世界に来た。そして、若干ルールの説明で時間が潰れたからおそらくげえむが始まったのは十分後ぐらいだ。
今の時間はおおよそ九時。まだ後二十三時間も逃げ続けなければならない。はっきり言って気が遠くなりそうだ。
この短時間に、一体何人の人が鬼の被害にあったのだろうか。アスファルトの上を走りながらそう考えた。おそらく、その数は夥しいものだろう。元いた辺りの通りに戻ったらもしかしたら死体とかが並んでいるかもしれない。そんな嫌なことを考えながら、交差点を曲がると、奇妙な光景を目にした。
建物は倒壊している。爆発の痕跡や、銃痕が辺りにいくつもいくつも観察できる。黒く焦げた紅い液体はいろんなところに飛び散っている。おそらく、ここでは何人もの被害者が出たのだろう。だが、ある一点において、極めて不自然なことがある。
—————死体が一つも無い。その骨の、欠片すら
血しぶきの上がった後がある。銃が乱射された痕跡も残っている。だが、肝心の血しぶきを上げた本人が、撃たれた人間のなれの果ての姿が見当たらないのだ。
よく分からないことに首をかしげる。何がどうなってこうなったのだろうか。考えてもさっぱり分からない。そんな中いきなり、上空にルール説明のときと同じ要領で空にスクリーンが現れた。
そこには、生々しい人の死体があった。これ以上言うと言っている自分で吐きそうなので抑えるが、急所を銃で貫かれた一体の死体が映し出された。
「悪趣味ね!こういうの!」
空に向かって冷河が吠える。怒り、猛り狂う闘犬が牙を向いて威嚇するように、主催者に叫び、問いかけた。
「仕方ないでしょ、ルールの詳しい解説を入れようと思ってさ」
「詳しいルール?」
聞きなおしてみてから分かった。このげえむはおそらくただの鬼ごっこではないのだと。確かにもうすでにこれは鬼ごっことは到底呼べない。でも、今言っているのはそれとは少し違う意味だ。
「じゃ、聞くけど、鬼ごっこのルールちゃんと知ってる?」
「知っているさ」
横にいる楠城が冷たく天に言い放った。憎悪と憤怒が、氷室と同様にその声音に浮かんでいる。
「じゃ、骸骨ってどんなものか分かっている?」
やはりそうだ。つい今しがた予想した自分の考えが正しいことを直観する。だとすると、やはりこれは相当えぐいルールということになる。
「鬼ごっこというのはね、タッチされたら鬼になるんだ。そんなのは日本人としての常識だよね、日本人にとっては」
日本人日本人と五月蠅いな、と思ったがよく思い返すとここには外国人も招待されている。そういう言い方になった方が普通というものだ。
「そして、骸骨っていうのは死人のなれの果ての姿だよ。これは万国共通で分かるよね?このげえむでのタッチは銃で撃ったり爆撃したりだろ?とすると生きている人も死人に変わってしまう。そして最終的に・・・」
天空のスクリーンに映る骸が、尋常ではないスピードで風化していく。サラサラと肉が剥がれ落ち、白骨が姿を現した。その身を包んでいた衣服が突然分解され、再構成が始まる。再び形を取り戻した服の柄は、迷彩柄だった。
「骸骨になってしまう」
もう、これで生き残っている人間の頭の中には一つの答えがよぎっただろう。恐ろしい、答えが。
「要約すると、この鬼ごっこでタッチに値することをされるとその人は死んでしまう。死んでしまったら骸骨になるし、そのまま都合よく鬼にも変われるだろ。要するにこれはただの鬼ごっこじゃないんだ。これは・・・」
意味ありげに、そこで一拍開けた後に心底嫌らしくあの声は最後にこう付け足した。そして、映像の中の骸骨の、指先が動いた。
「増え鬼なんだ」
続く
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増え鬼って知ってる?
鬼は交代せずにタッチされた人は全員鬼になるんだよ
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 鬼ごっこ編第九話更新 ( No.10 )
- 日時: 2011/09/23 21:14
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: /tWbIoNn)
第十話 知性ある将軍
「増え鬼・・・だと?」
怒りでワナワナと身体を震わせ、目を見開き、今にも跳びかかろうとするように楠城が訊き返す。見れば拳は、固く固く握られている。ぞっとするぐらいの殺気がその目には込められていた。
「うん、そうだよ。増え鬼。鬼は減らしても減らしてもまた増やすことができるんだ。新たに殺すことによってね」
「本当に外道ね。あなたそこから降りてきなさい」
使い捨てのように鬼や人を扱い、弄ぶその天の声に竹永も怒りの色を強めている。声こそは張り上げていないが、静かな闘志がそこには満ちていた。
「聖人ぶったことを言うなよ。君たちも、君のお仲間も同罪じゃないか」
「どういうことよ」
意味ありげにその姿を現わさぬ声の主が放った言葉に竹永は喰らい付く。その次の言葉は、楓には予想できた。おそらく、自分に関することだと。
「だってそこの男の子はさっき自分から鬼を滅却したんだよ。むごいよね〜何も分からない動く屍に二回目の死を与えるなんて」
「黙りなさい」
意外にも、その言葉に反論をしたのは冷河だった。合った時のもの言いからすると、あっちの言うことに便乗してこっちに攻撃してきそうだったが、なぜか自分を援護してきた。これには、向こうもかなり意外に思ったようだ。案の定そこを追及してくる。
「君はそこの子を恨んでいるんじゃ無かったのかな?」
「確かにそうね。でもこれに至ってはやろうと思ってしたことではないわ。私が怒っているのは真相を知ったら人が傷つくようなことを分かりながらしたからよ」
「ふーん複雑なんだね」
「ん?あなたの理解力が足らないだけじゃなくって?」
冷河もこのげえむの残忍さに怒りを浮かべているのか天の声に毒づいている。ただ、唯一理不尽な点を上げると、さっき楓に向けていた怒りまでもまとめてあいつに向けているところだ。
「まあいいや、話を聞いているのは君たちだけじゃないんだ。ルール説明の続きにいくよ。そろそろ鬼にも知力を付けたいと思うんだ」
「知力・・・だって?」
不味いな、そう秀也は直感した。今のところ鬼から逃げ切ったり、自滅を誘うことができたのは全て、鬼に知性というものが存在せず、勝手に建物のルールにほいほい引っかかってくれたからだ。
それをなくすための統率者が現れたとしよう。すると、一気に生存率は下がるだろう。ちゃんとした集団戦術だって入れてくるかもしれないし、それぞれが連絡を取り合ったりしたら厄介すぎる。
「そろそろみんな分かってるかもだけど、実は鬼は動くものを追いかけて撃つ、または爆撃するという性能しかなくてね、都合のいい建物におびき寄せると簡単に消えちゃうんだ。そこで、新たに上級追跡者、つまりはリーダー格の骸骨を出して、それの言葉に従う性能を付けさせてもらうよ。でも可哀そうだから今すぐとは言わない。十二時になったら解き放つ。そして、サービスをさらに付けちゃうよ」
後三時間の間は逃げられる、ということだ。その間に、作戦を練ったり仲間を増やしておいた方がいいだろうと考える。それよりも、今聞いておくべきことはサービスについてだ。
「今から始まる『みにげえむ』に君たちの代表が勝利したら、解放するのは午前七時にしよう。『みにげえむ』の内容は・・・」
ここに来てまたげえむかよ、と秀也はため息を吐きそうになる。ミニ、とついているぐらいだから簡単なげえむであることを祈る。
「参加する人数は五人。ルールは、始まってから説明するよ。でもって種目は、コイントスだ!!」
あまりのシンプルなげえむに呆然とする。それで勝ち負けを決めるなんてほとんど運じゃないか。
「参加する五人は君たちだよ!」
一本、二本、三本、四本といたるところに光の柱が現れる。そうして、最後の一本は・・・
「えっ・・・」
「マジ?」
「こいつが?」
最後の一本は秀也を射していた。
続きます
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ここから、少しの間秀也は孤立していきます
ていうか秀也抜きであいつらは大丈夫なのか!?
次回に続く
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