複雑・ファジー小説
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- DARK GAME=邪悪なゲーム=
- 日時: 2012/09/14 21:51
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 3TttADoD)
えーと同じくファジーで能力もの書いてる(打ってる)狒牙です。
今回は結構暗そうなものをしたいなということで・・・
まあ、言ってしまうと時折(多分頻度は少ない)グロイかな?
基本的には普通ですので・・・
アドバイスとか変なところ(誤字脱字)があったら言ってください
よろしくお願いします
下手に内容を説明するとネタバレみたいになるんで
一気に一話目打ちます。
そしてこの作品では文章の形式を変えてみたいと思います。
一話目 招待状
「暗いなぁ・・・」
夜道を、一人の男子高校生が帰っていた。もちろん一人でだ。
等間隔に設置されている街灯の光を頼りにいつも通りまっすぐ家に帰っていた。
高校に行き始めてもう三カ月程度経っている。二回目の定期テストが終わり、その手ごたえを塾に伝えに行った帰りだ。
辺りはもうすっかり暗くなっているが、今日はたまたま曇っているだけでまだ八時にもなっていない。普段ならもう少し明るめだろう。今は月の光すらほとんど届いていないのだから。
家にたどり着く寸前の急な坂道に青年は差し掛かった。ここだけは何年暮らしていても全く慣れることはできない。角度がそれなりに急な上、それがダラダラと百メートルも続いているのだから疲れている時にはお手上げだ。疲れる意外にここを説明することばはパッとは思い付かない。漢字で表すなら『苦』だ。しかし、苦あれば楽ありということわざもある。
息を荒くして切らしながらその坂を登りきった彼は汗で少し濡れた顔を上げた。そこには、いつも通りの自分の家の景色があった。隣にある家も普段と何一つ変わらない。
その家の門の前を通った時にチラッとその中の様子を見た。そこには、住人の一人であるまだ制服を着たままの女子高生がいた。
「あっ、先輩こんばんは」
「おー、楓じゃん。塾?」
それは紛れもなく自分の部活の先輩だった。楓と呼ばれた彼の本名は楓秀也(かえで しゅうや)。二人とも同じ高校の陸上部員だ。
といっても、楓は長距離、先輩の方は短距離だった。この時間がまさに『楽』の時間だ。
楓は先輩のことを尊敬している。なぜなら、目の前にいるこの人間は去年インターハイで優勝したからだ。距離が何であろうと関係なく、速い者にはすぐにあこがれる性格だから家がすぐ近く、というより隣の家にその人が住んでいるのは光栄だった。
ここで一つだけ勘違いしてはいけないのが、別に恋愛対象として見ているのではなく、好きは好きでもスポーツ選手のファンのような感覚だ。思慕の念よりも崇拝と言う方が近い。それほどまでにこの先輩を慕っている。
ついでに言っておくならこの人の名前は竹永叶(たけなが かな)という。
「普通科は大変だね」
重い教科書を何冊も詰め込んだ大きなリュックサックを背負って地獄と読んでもいい坂を登り終えた楓に笑いながらそう言った。
彼らが通っている高校は、体育科と普通科に分かれている。竹永の方は体育科で、楓は普通科だ。しかもこの学校は体育科の連中はスポーツに強く、普通科の連中は勉学ができるというものだ。だから地元でもかなり有名な行きたい高校ナンバー1に選ばれ続けている。
「そうですね、でもテストが一段落したんでしばらくは楽な生活ですね」
そう言うと、今度は先輩があからさまに疲れたような顔つきになった。その理由は簡単だ。夏休みは腐るほど大会がある。一年にしてインハイで優勝したのだから大会に出されまくっているのだ。相当にだるそうな顔をしている。
もうすぐ鬼の合宿と呼ばれるイベントが近づいているからだろうか?
「たまにさ、裏側の世界があったら言ってみたいと思うよ」
このポツリと特に重要な意味を持たない言葉が発せられたのを聞いたとき、ふとある噂を思い出した。いや、都市伝説というべきかな。内容はこんなものだ。
真夜中は気を付けないといけない。特に招待状を受け取ったなら。
招待状は突然現れる。血のように紅い封筒にどこまでも続く深い闇のように冷たい黒い紙に『You are invited』と白く描かれた紙が入っている。
それが招待状だ。そこでは夜な夜な残酷なゲームが行われているという。
まあ、この話はまだそこまで出回っていないので、元からそういうのに興味の無い先輩が知るはずもないからただの愚痴だと思ってスルーしようとした。でも、自体は思っている以上に深刻だった。
「なんかさっきポストを見たら真っ赤な封筒が入ってたんだ」
これを聞いた瞬間にはまだただの世間話だと思って普通に接していた。
だが、その一秒後にまたしても噂を思い出した楓は硬直した。それでも、先輩はその封筒がどういうものなのか説明しているからこっちの違和感に気付いていないが、楓の胸の中では胸騒ぎがしていた。
先輩は、その中からどす黒いハガキを取りだした。そこには、やはり文字が書いてあった。
『You are invited』
これが視界に入った瞬間、瞳孔は一瞬にして開いた。そこには、幽霊を連想させるように白い字でそう書かれていた。
かく汗の中に冷や汗が混じる。これではまるで噂と同じだ。
「後ろにも変なことが書いてあるのよね」
そう言って今度は紙をひっくり返した。そこには、今受けた衝撃よりもさらに強いショックを与える文が書いてあった。
『おめでとうございます。あなたはご当選いたしました。裏の、闇の世界へのペアチケットです。あなたと、もう一人誰かをお誘いください。何、迷うことはありません。隣家の後輩で結構です。[げえむ]は今晩の八時から、次の日の午後八時まで行われます。それまでにもう一人の方とご一緒しておいてください。』
背筋に悪寒が走った。この内容を見る限りこれの差出人は明らかに先輩を狙っている。隣家の後輩とはまず俺で間違いない。
怪しい雲がさらに月の光を隠すようにもうもうと寄ってくる。ふと時計を見るともうすでに時刻は七時五十九分を示し、秒針はもう・・・
十二の文字にかかろうとする瞬間だった。
秒針が五十九秒から六十に動いて行く。その動きがとてつもなくスローに感じられる。体は、ピクリとも動かなかった。
刹那、手紙から迸った漆黒の闇は叫び声を上げさせる暇なく一瞬で楓と竹永を包み込んだ。グチュグチュと妙な音を立てて闇の繭を作り、ゆっくりと地面に溶けていくように小さく下から萎んでいった。
続きます
第一章 鬼ごっこ編
>>1>>2>>3>>4>>5>>6>>7>>9>>10>>11>>13>>14>>17>>18>>19>>20>>21>>22>>26>>27>>29>>30>>33>>36>>37>>40>>41
>>42>>48>>49>>50>>51>>52>>55>>56>>57 総集編>>60
第二章 日常—————編 募集キャラ>>70
>>61>>64>>65>>66>>67>>68>>69>>72>>73>>76>>79 総集編>>80
第三章 楓秀也編 プロローグ>>81
>>83>>85>>89>>91>>94>>95>>96>>97>>99>>100>>103>>104>>105>>106>>110>>111総集編>>112
第四章 氷室冷河編
>>113>>114>>115>>116>>117>>118>>119>>122>>123>>124
コメントしてくれた人です(一度でもしてくれたら嫌でも載ります。すいません・・・)
ryukaさん「小説カイコ」「菌糸の教室」「壁部屋」の作者さん
千愛さん 総合掲示板の方でお仕事なさってます
赤時計さん「花屑と狂夜月」「他人の不幸は毒の味」の作者さん
ゆヵさん 「SNEAK GAME」「めいろ」の作者さん
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= ( No.1 )
- 日時: 2011/09/21 18:12
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Jagfnb7H)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
二話目 第一のげえむ
気が付いた時にはさっきいた場所と全く同じ場所に楓と竹永は降り立っていた。
ある一点を除けばさっきと一切が変わらない。その唯一違うところとは・・・
「人!なんでこんな増えてんの!」
そう、人の数だ。さっきまで家の周りには自分たち二人以外一人たりともそこにはいなかった。
それが、なにか暗闇に取り込まれ、訳のわからぬまま揉まれて出てきたときには大勢の人がそこに集結していた。
はっきり言う。知り合いが一人たりともいない。関西弁で話す奴、博多弁で騒ぐ奴、英語でまくしたてる奴など、色々な輩がいる。おそらくこれは世界の色々なところから集められてきたのだろう。
だとすると一つ不可解な点がある。転送された位置だ。自分たち二人は闇に包まれた位置そのままで現れたのに対し、ここにいる連中はきっと場所をも越えて来たんだろう。
なぜ自分がこんな状況下でこんなに冷静にいられるのかも気がかりなのだが、それ以上に気になることは、ここはどこかということ。そして、これの主催者はどこで何をしているかということ。
「諸君、こんばんは」
テレビなどでありふれた変声機越しの機械音が突然天空から聞こえてきた。もちろんのことこれでは男とも女とも取れない。
現状について相談しようとしたとき、ようやく思い出したことがある。俺は確かに異常なまでに落ち着いている、でも先輩はどうだろうか。この現状で慌てていない方がどうかしている。少しでも動揺をとりのぞ・・
「おー、変声機ってあんな感じなんだー」
「・・・・・素晴らしい肝の座りようですね」
心配するまでもなかったようだ。やっぱり大きい大会に出る人は度胸の座り方が違う。緊張は一般人よりも感じ慣れているせいか普通の人間にとって慌てるところでも、さも当然のように落ち着いている。
ここで最初の疑問を思い出す。自分たち以外のみんなはどのタイミングにここに、どうやって来たかだ。
考え方はいくつかある。遠い人から順番にこっちに転送されて個人でここに来たか、招待状にワープのような装置や働きが組み込まれており、一気に八時にここに転送したかだ。
両方おおよそ日常の会話からはかけ離れているが、それでも常識というものを共に従えて考えるならば後者の方が適切だろう。なぜなら、都市伝説が正しいのならここは裏側の世界。電車どころか街角の自動車一つ動かない。そんな中で外国の者が来れる訳が無い。
「まず、ここの説明をするよ。ここは関東にある闇戯町(やみぎちょう)という町でね、そこそこいいところなんだよ。開催地に選ばれた土地の人間にはペアチケットを渡すんだ。そして現地時間の午後八時に世界中の人間を一斉に転送する。ああ、みんな気にしなくていいよ。ここではみんな勝手に日本語が理解できるようになっているから会話はできる。じゃあ、第一の種目だよ」
やはり、後者の方が正しかったという訳だ。しかし、これは都市伝説が実在していることになる。
その場合、やはり残酷な『げえむ』も存在するということだ。できれば、自分の得意なものが当たって欲しいと強く願う。そう願ったのが叶った・・・とは言い難いが拍子抜けするような回答が返ってきた。
「第一げえむ、鬼ごっこ〜」
「・・・・・ハァ?・・・・・」
残酷と聞いていた割にあまりの幼稚さに目が点になる。しかも、楓達二人は両方陸上部、まず大丈夫だろう。
そういう風に歓喜していると横のおっさんが空に向かって怒鳴った。
「げえむとは何だ!勝利したら何かあるとでも言うのか!」
エリートコースを歩いていそうな誠実そうな、清潔な人間だった。メガネをかけて終始ムスッとしている。
確かに、この人の言うことももっともだと思う。誰だか分からない人間の思いつきで変なゲームに挑戦して時間を潰されてはたまらない。
「勝利して与えられるもの、それは強さだ」
「強さ・・・だと?」
「ああ、このげえむに生き残るには相当に色々な実力がいるんだ。体力はもちろん、知力もね。でも負けたら死あるのみだよ。最大のプレゼントは生きて帰れることだよ。じゃあ、詳しいルール説明行くよ。まず鬼の方々はこの方々だよ」
空がスクリーンのようになって何か棒のようなものが大量に立ち並んでいるのが見える。よく見ると、それは武装した骸骨の兵団だった。
迷彩柄の服に身を包み、規則正しく行進している。
「この子達から24時間逃げ切ったらクリア。それで、一個楽しいルールがあるんだ」
天空の声は勿体付けながらそう笑いながら言葉を発した。
「建物の中には固有のルールがあるんだ。その建物の中で、しちゃいけないことをすると鬼も逃げる人も死んじゃうんだ。逆に、しないといけないことをしなくても終わりだよ。ルールは建物によって違うから自分で考えてね。そして、同じ建物にこもれるのは通算三十分までなんだ」
要するに、言いたいことは分かった。腹が減ったからと言って人がいないのをいいことに万引きをしてはいけなかったり、学校に隠れたからといって、勉強せずにのうのうと時間を潰してはいけないということだ。
「じゃ、もういいよね。第一げえむ・・・」
—————スタート!!
続きます
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 第一げえむは鬼ごっこ ( No.2 )
- 日時: 2011/09/21 18:15
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Jagfnb7H)
第三話 ルール
金属が擦れ合うガシャガシャと耳障りな音がそこいらの建物で反響している。その音は一応遥か彼方から聞こえているが、絶対に油断はできない。
向こうには銃がある。リーチなどほとんど関係なく、視界に入ったらほぼ確実に敗北・・・死が確定すると言っても良い。
骸骨の兵団が刻一刻と迫ってくる中、不意に恐れを感じた大勢の人間は弾けるように駆けだした。
さっきまで冗談だと思っていたこの状況が現実味を帯びてくるに連れて焦りは膨れ上がり、理性も失いかけてきている。
命の危機に遭遇している、そんな状況で思いつきで行動するのがどれほど危険かはまだ俺には分からない。しかし、落ち着いているよりも遥かに死に近い位置を陣取ることになることだけは明白だ。
「楓くん、どうする?どっちに逃げる?」
「やっぱり音の反対側じゃないですか?自分から突っ込むなんて馬鹿げてますし」
了解の意味を込めて先輩が縦に大きく首を振る。目には納得していることから生まれた真っ直ぐな光が発されている。
そうして、多少散り散りになっているとはいえ、たくさんの人の流れと同じ方向に走り出した。
やはり普段から走り慣れているせいか自分も先輩も周りほど疲れていない。焦りのせいか普通にフォームが汚いのかは分からないがみんな動きに無駄が多い。女走りなんて論外中の論外だ。
逃げ切りたかったら走るか、隠れるかぐらいしか無い。あえて言っておくとするならばルールを活用して建物の中に立てこもることだ。それなら場所によってはタイムオーバーまでの三十分は安全に過ごすことが出来る。
ただ問題はどこが安全かということだ。建物によって一つ一つルールが違う。ということはだ、無数にある建物からルールを想像し、なおかつそこから適したものを選択してからその建物を探さないといけない。もし間違えてスポーツジムのようなところに迷い込んだらとんでもないことになる。無数の鬼たちと永遠に殴り合いを続けないといけないことになる。まあおそらく十分たつころには殴り殺されてしまうだろう。
「で、どっか建物行ってみます?道路ばっかり走ってたら撃たれますよ」
「そうねえ、役に立つところは後に置いておきたいから・・・まずどういう風になっているのか理解するために学校に行ってみましょう。学校では廊下で走らなかったり適当に教室で勉強したらOKでしょ?」
「いや、廊下で走れないは致命的なので止めた方がいいと思います。それに、ルールを理解するならやはり一番最初はそれなりに逃げやすかったりするところを取りたいですね。逃げる方法が思いつかず、人生ジ・エンドは嫌でしょ?」
「じゃあ、どこにするって言うの?」
「そうですね、絶対に残しておきたいのは病院と図書館と警察署だから・・・そうだ!このすぐ近くに普段は多大な迷惑をかけるあの建物があるじゃないですか!そこ行きましょう。銃とかは絶対使えません」
「この辺って言うと・・・ああ!あそこは良いわね」
良いわね、先輩がそう言った瞬間に後ろからパンっと乾いた音が聞こえてきた。低く小さい聞きとれるか聞きとれないかぐらいのうめき声が聞こえる。
ふと横を振り向くとさっき空に向かって叫んだ男の人が血がじわじわと滲み出る腕を押さえて走っていた。
「大丈夫ですか!?」
「・・・まあな。弾はかすっただけみたいだ。にしてもお前余裕があるな」
「はい!走るのは慣れてます」
「そうか、絶対に気は抜くなよ。死ぬぞ」
「分かってます・・・ところで、手当をするから付いて来てください。安全地点を思いつきましたんで!」
「他人にかまってる場合か?」
「別に、元々行く予定でしたし。それに高校生には死体はショッキングすぎます。正直グロイ死体見るぐらいなら助けます」
「そうか、ありがとうよ」
「それより、撃たれたってことは分かってますよね?鬼はこの直線状にいます。だからとっとと曲がらないとまた狙撃されますよ」
「頭のいい奴だな」
ようやくこっちに気を緩したのか少しだけ顔も緩んだ。だが、血の出るペースは全く緩まない。早く手当てした方が・・・
「で、一体どこに向かっているんだ?」
男の人はまた別のことを訊いてきた。ここいらに住んでいる人間ならこの先にある建物は一つしかないから分かるだろう。
でも、おそらくこの人はもはや都道府県が違うと思う。そう判断した俺は、行き先を伝えた。
「行き先はというとですね・・・」
続きます
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 第三話です ( No.3 )
- 日時: 2011/09/21 18:20
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Jagfnb7H)
第四話 鬼の脅威
「行き先はと言うとですね・・」
そこまで言ったところで、楓の声はかき消された。後ろから、凄まじい爆発音が聞こえてきたのだ。何事かと思って急いで振り返る。
そこには、闇のようにどす黒い、爆炎が上がっていた。女の人の高い、天をつんざくような金切り声が聞こえる。顔からは血の気が引いて、もう走ることしか考えていないようだ。
おそらく、目の前で爆弾が爆発して人が巻き込まれ、二度とその姿が現れないという光景を見てしまったんだろう。正直自分だってそんなものは見たくない。
後ろの方にいる人が、叫び声を上げるのももっともだと思う。おおよそ声とは言い難い悲鳴を上げながら、後先考えず全力で走っているのだろう。持久走を走るように、まあまあのペースで走り続ける自分たちに少しずつ聞きとれるその悲鳴は大きくなってきている。
だが、それも途中で消えた。ズンッという、腹の奥底深くに強い振動を与える巨大な音と共に。一旦爆発がおさまった後も、もうその声は聞こえてこなかった。
「もう結構犠牲者出てるのか・・・ところで!結局俺らはどこに向かっているんだ!?」
「今はそんなこと言ってられません!黙って走ってください、ペース上げますから。ついて来てくれたらすぐに分かります。何、特に疲れることはありません。後たったの二キロ程度ですから!」
それって少ないのかなぁ?若干冷や汗を流しながら叶はそう考えた。確かに中長距離の人間からしたら二キロはそんなに言うほど長くないのかもしれない。短距離の叶は二キロが途方もないような距離に思えてならない。二十数秒かけてようやく走り切れる200メートルがさらに延々と十本分続くのだ。おそらく普通なら発狂するだろう。
しかし、体育科に通っている叶としては、まあ二キロを持久走として走ると言うなら、そこいらにいる普通の高校生よりかは速い自信があった。
チラッと横にいるやや年配の人をもう一度、今度は詳しく観察する。まず引っかかったのは驚嘆に値する体力だ。とはいえ、年齢の割にはという意味合いだが。どう若く見積もっても確実に40代には踏み込んでいそうなのに、自分たちと一緒に走っていて、汗こそ浮かんでいるが息はほとんど切れていない。それどころか、その原因もおそらく走っているからではなく腕の怪我のせいだろう。実際、時折腕を押さえながらその顔をしかめている。
次に目に入ったのは腕時計。あまりブランド物に興味の無い叶だが、それでも一度くらい聴いたことのあるぐらい有名なメーカーのものだった。おそらくかなり値は張るだろう。
ということは、この人はそれなりにいいところに勤めているに違いないと思った。スーツ姿ということは、まあ普通に考えてどこかしらの企業に属しているのだろう。今判断できることはそれぐらいだ。
「看板が見えてきました、もう少しです」
余計なことを考えながら走っていると、いつの間にかかなり近くまで来ていた。楓の言う看板が見えたならば、後大体500メートルぐらいだろう。
楓がこちら側を振り向き、じいっと見てきた。何だろうと考えながらその顔に笑いが浮かぶのも見届けた。
「二人とも元気そうっすね、じゃあラストスパートかけますよ」
またあの爆発音が周囲一帯に響いた。立ち並ぶ高層ビルのガラスというガラスが、全て割れていく不快な音もよく聞こえる。爆発音の音量から一つ察することがある。
あの軍勢は少しずつこっちに迫って来ている、と。
それも考慮に入れてのラストスパートだろう。力強くコクリと頷き、横のおじさんの顔色も覗う。さも当然とでも言いたげに、大きく頷いた。
瞬間、楓の顔に試合モードの真剣さが宿る。秀也は、自分たち二人が思っていた以上にスピードを上げた。一瞬反応が遅れただけでもうすでに何メートルか間が開いてしまった。
必死でその間を埋めて目的地へと走る。もうすでに残り300メートルを切っている。到着寸前だ。
「看板とはあれだな?なるほどどこに行きたいのかは大体の見当がついたぞ」
おじさんはこっちを向いてニヤリと笑った。その目には、この子供達中々素晴らしい才能を持っているという感情がこもっているように見えた。
「でしょ?あっこなら銃なんて絶対に使えないからね」
思いついたのは自分ではないが、竹永が思いっきり得意そうにしてそう言った。考えた張本人である秀也が、やれやれと苦笑しながら走っていることは本人以外誰も知らない。
「着きましたよ」
秀也は、ゆっくりとその走るスピードを落とし、目的の箇所にたどり着いた。
そこは、普段ならうるさくてしょうがないのだが、今は人がいないから、がらんとして淋しげな空気を放っている。
「そう、目的地というのは・・・」
続きます
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 鬼ごっこ編第四話 ( No.4 )
- 日時: 2011/09/21 18:25
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Jagfnb7H)
第五話 第一の建物
「そう、ここが目的地の空港です」
闇戯空港、つい三年前に出来た新しい空港で、ハブ空港として造られた。開発が決まった時は町おこしだ、と村長は喜んだ。
実際ここは首都圏なのに妙に人口が少なく、闇戯村だった。そこに現れたのがこの空港だ。この空港の開発により、人口は飛躍的に増加し、観光客も現れるようになった。
以前同様治安は良いが、ここから離陸する飛行機の音はうるさくてしょうがない。特に、近隣に住む人々からは強い苦情が来ている。近畿にある埋め立て地に建っているところを見習ってほしい。もっとも、闇戯町は海に面していないからそれは不可能なのだが。
「確かに、ここでは銃は使えないな」
ハイジャックなんかが起こったら大変なので、銃の持ち込み不可能。さらに、さっき使っていたような爆弾の持ち込みも不可能である。持ち入ったらおそらくルール違反になるだろう。
そう判断したので空港を目的地に定めたのだ。ここなら鬼が入って来ても視界が開けた所ならすぐに判断できるうえに、隠れる場所や逃げ場も多い。銃を捨てて鬼が入って来てもすぐに対応できる。
「早く中に入って奥に進みましょう」
その呼びかけと共に、先輩とおじさんは動いた。鬼は今どうなっているか確認するため振り返る。結構近いところまで迫って来ているようだ。
かなり数が減っていることからおそらくいくつもの部隊に分かれて追っているのだろう。ここに向かってきているのは爆撃を目撃した時の十分の一もいないだろう。
とりあえず、奥へ奥へと進み、二階にたどり着いた。吹き抜けになっているので一階の様子は丸見えだ。
骸骨の兵団が入口に到着する。連中は、何を考えることもなく、人間ではなかったので自動ドアが開かないのに気づいてから、無理やりこじ開けて一斉に突撃した。もちろん、ルールなんて考えずに銃を捨てることなどもせずに、だ。
ここで俺たちはルール違反者がどうなるか直にこの目で見ることになる。
武装したまま突入してきた髑髏の部隊は突然、その歩みを止めた。そして、一体の骸骨が苦しそうに呻いた後に、砂のように真っ白な粉となって風に吹かれて消えてしまった。同様に、うめき声が次々と上がり、目の前から骸骨の部隊は全て、文字通り塵となって消え失せた。
背筋に悪寒が走る。場所選びや、ルールの予測は予想以上に慎重に行わなければいけない、と。今回はたまたま正解したが、もし読み間違えていた場合、連中はこっちに発砲してきただろう。もしくは、何かの手違いでルールを俺達が破ってしまってこっちが消えていたかもしれない。
隣に立っている二人も流石に青ざめている。だが、おじさんの方を見た時に、ここに来た目的を思い出した。
「おじさん、早く座って。三十分しか無いから早く手当てしないと」
「ああ、悪いな。言い忘れてたな、俺の名前は楠城怜司(くすのき れいじ)だ」
「楠城さんですか。俺は楓秀也です」
「竹永叶です。楓、タオル」
「ありがとうございます」
現実世界にいたときからずっと首にかけていたタオルをこっちに投げて渡してくる。楠城の患部の様子を見る。大した出血量ではないので、直接圧迫止血法でなんとかなりそうだ。
タオルを傷口に押し当てて、締め上げるように思いっきり引っ張る。楠城は、少し痛そうに顔を歪めたが、声は押し殺していた。
応急手当をしながら、一つ楓は頭に引っかかる事があった。鬼たちのことである。彼らは、ここに着いた時、一切の動揺はもちろん、反応を示さずに躊躇せずに進入してきた。そこから生まれる一つの仮説。鬼たちには理性が無いということだ。理性だけではない、思考もだ。
感情という存在も全く無くて、ただそこにいる人間を殺すことしか頭の中にインプットされていない、文字通り生ける屍であり、それ自身が殺戮兵器なのだ。
空港内にある、液晶表示される時計に目を向ける。まだ入ってから十分程度しか経っていない。楓の脳裏に、かなりのリスクを伴うが、上手くいけば逃げ切る確率が大幅に上昇する案が思いついた。鬼を減らす方法が。
「あの、ちょっと提案が・・・」
「あれ・・・鬼じゃない?」
楓がその作戦を二人に話そうとすると、竹永がいきなり、大通りの遠くのほうを指差してそう訊いてきた。
白骨が迷彩柄の軍服を着ているのだからおそらく鬼であろう。しめた、秀也は心の中でそう叫んだ。
「楓、何かいいたいことがあるんじゃないのか?」
鬼の方に注意が向いていたから竹永は気付いていなかったが楠城は楓が何か提案があると言おうとしていることをしっかりと聞いていた。訊かれるがままに、秀也は答えた。
「ええ、ここから出てあいつらに見つかりましょう」
続きます
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