複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

花と愛と毒薬と {episode}
日時: 2015/01/28 23:50
名前: 朝倉疾風 (ID: CA3ig4y.)

 1年弱の長い執筆がようやく終わりました。
 執筆中、朝倉疾風から夜多岬に名前を変更しました。これからもし、また新しく書くときは、この名前ですので、お見かけした際はお声をかけていただけると嬉しいです。

 小説というにはあまりにも拙く、私の私的感情を爆発させるため書いているようなものですが(所謂ストレス発散)……。
 読んでいただき、ありがとうございます。
 暇な時間があれば、また、ふらっと現れます。
 どうぞその時は、「ああ、またこの人書くのか……」と、呆れながらも読んでいただけると幸いです。



(本編)
執筆開始 2014年 2月5日
執筆終了 2015年 1月25日





 ○現在、完結後の「彼女たちの物語」を書いております。本当は書くつもりはなかったのですが(ただいま実習中)、暇なときにちょこちょこやっていくつもりです。懲りずに(笑)
 ○あと、Twitterをまたまた始めました(既に4回消してる)。IDは@moto_asakuraです。ゆるゆる始めます。いろいろと。



(彼女たちの物語)
執筆開始 2015年 1月28日





    夜多 岬 (元 朝倉疾風)




Re: 花と愛と毒薬と {episode} ( No.104 )
日時: 2015/01/31 19:57
名前: 夜多 岬 (ID: CA3ig4y.)
参照: Twitter@moto_asakura


 どこにでもいる普通のおばちゃんよりはお喋りのわたしの母親は、急に帰省したわたしに「離婚?離婚?」と興味津々で尋ねてきた。「それはない」と短く答えて土産を渡すと、「あらまあ、嬉しい!」と小躍りをし始めた。相変わらず可愛らしいお母さんだ。

「萌希、帰ってくるのなら連絡ぐらいよこせ」

 頑固おやじというほどでもないけれど、お喋りでもないうちのお父さんは、それだけ言って自分の部屋に行ってしまった。連絡をしなかったので、拗ねているのかもしれない。それか久々に会う娘に照れているのか。孫にはデレデレのくせに。
 寒かったでしょうと、お母さんが熱い緑茶を出してくれた。
 ずずずずずっと飲む。かなり美味しい。涙が出てきそうだ。

「いつまでここにいるつもりなの?」
「んー三日かそこらかな」
「家のことはいいのかしら」
「お義母さんに任せてるから安心して。ゆっくりしたいなーと思って帰ってきただけだから。ああ、お土産があるんだよ。とは言っても、すぐそこの和菓子屋で買ってきたんだけどねー」

 紙袋を見せると、お母さんが朗らかに笑う。

「この和菓子屋さん、1年前にできたところでね。すっごく美味しいのよ」
「あーそうなんだ。わたし、和菓子あんまり食べないからさ」
「また百次郎さんにも持って帰ってあげて」

 百次郎、というのはわたしの夫の名前だ。次男だから百次郎なので、じゃあ長男は桃太郎なのかよと突っ込んだら、まさかの銀次郎だった。ちなみに弟が青次郎。色で統一しているんだとわかったのは、結婚式のときだ。夫曰く、恥ずかしいからあまり言いたくなかったらしい。まあ……モモジロー、ギンジロー、セイジローなんて、どこかの地方に出てくる伝説のアレの進化形態みたいなものだし。ちなみにこのエピソードは未だにお母さんのツボらしい。
 緑茶を全部飲みほした後、一番風呂に浸かり、自分の部屋に荷物を置いてそのまま熟睡してしまった。疲れが溜まってたんだろうな。
 その日の夢には彼が現れた。
 雨の中に佇んでいる彼はいつものようにヘラヘラ笑っていて、陽気だった。だけど孤独なんだと思う。本当はずっと孤独だったんだと思う。だから、死ぬことへの執着から逃げることができなかったんだと。
 彼がいなくなった15年間の意味と、個人的な感情に折り合いをつけながら、生きている。
 


 からっと晴れた良い天気だった。雪が太陽の光に反射して、キラキラ光っている。わたしはこの輝きがどうも苦手だ。目が痛くなるから。
 久しぶりにお母さんの作ってくれた朝ごはんを食べる。熱い味噌汁を飲むと、その通り道がじんわりと痺れた。美味しい。結婚してから忙しくて、朝は簡単にトーストで済ませることが多くなっていた。こんなに具沢山の味噌汁は本当に久しぶりだ。人参玉ねぎ、こんにゃく、大根、しめじ、わかめ、えのき。お母さんの料理は、とにかく具が多い。カレーにしてもそうだ。玉ねぎ、人参、じゃがいも、豚肉のメジャーなものの他にも、しいたけだの茄子だのピーマンだのゴロゴロ入れる。しかも市販のルーに加えて、リンゴを擦ったものやハチミツや牛乳、さらに盛り付けるときにはラッキョウ等の薬味を添えてくる。美味しいんだけれど、作るのに時間がかかったため、夕ご飯の時間は晩の8時を越えることがしょっちゅうだった。

「それじゃあ、ちょっといってきまーす」

 特に行く場所もないけれど。
 少しだけ優しく過去の傷痕をなぞってみようかと、そう思った。

Re: 花と愛と毒薬と {episode} ( No.105 )
日時: 2015/02/01 16:41
名前: 夜多 岬 (ID: wIAOO7NO)
参照: Twitter@moto_asakura


 ぶらぶらと歩いてたどり着いた先は中学校だった。
 わたしが前に通っていた中学校で、彼と出会った場所だ。
 ちょうど授業中なのか、窓からは席に座って黒板を見つめている中学生の姿が確認できた。机に突っ伏して眠っている子もいれば、隣の席の子とお喋りしている子もいる。手前に座っていた子が、わたしの視線に気づいたのか、目が合った。少し気まずいので、慌てて目を逸らす。不審者とかじゃありません、信じて。
 敷地の周りをのんびり歩いて、外から校舎を眺める。
 放課後になったら校舎の中とか見せてもらえないかなー。卒業生なんですと言えばいけるかもしれない。また出直そうか。
 また正門の前に戻ってきてしまった。
 強行突破しようかなーと、半ば冗談で考えてみる。無理だな。諦めよう。

「あららー。昨日お会いしたおねえさんではないですか」

 後ろから声をかけられて、振り返る。
 そこには昨日、駄菓子屋で会った少女がいた。昨日と違い、制服を着ている。今登校してきたのなら完璧に遅刻な時間だが、当の本人は慌てているわけでもなく、のんびりしている。
 わたしはというと、少女より、少女の着ている制服に軽く感動していた。若い頃に着ていた制服と変わっていない…………。なんだか自分がうんと年を取ったみたいだ。まあ、卒業してから18年経ったんだけれど。それなりにおばさんだけど。

「あ、駄菓子屋の…………えーと」
「里に祈ると書いて、祈里と読むんだよ」
「いのり、ちゃん」

 なんか手を合わせたくなる名前だな。

「あなたは、なんていうお名前かな」
「萌希っていうの」
「もえき、というのだね。でもわたしは名前をすぐ忘れてしまうから、おねえさんと呼んでもいいかな」

 頷いた。
 なんだか会話のテンポが独特な子だなぁ。

「祈里ちゃん。今学校に着いたの?遅刻……だけど」

 あまり説教みたいなことは言いたくないから、多少言葉を濁す。
 祈里ちゃんは「ああ」と面倒くさそうに頭を掻いて、

「なんだか学校は好きじゃなくてね。わたし、浮いているから」
「え、そ、そうなの?」

 突然の告白に少したじろぐ。こういう時、大人としてどう接していいのかわからない。もし自分の娘が「学校で浮いている」なんて言い出したら、わたしはどうするだろう。何かはするんだろうけれど、解決できるかどうかと聞かれると、わからない。実際、学校であったことなんて、親は何も知らない。無知ほど罪深いものはないと言うけれど、本当にその通りだ。
 実際、わたしがそうだった。髪の色がこれだから、「フリョー」だとか「ガイジン」だとかを連発されたこともある。もともと女子特有の集団で行動するってことが苦手だったから、べつに一人でも平気ではあったけれど。あまり居心地のいいものではなかった。結局、両親に相談することはなかった。いじめとかそういうのはなかったし、わたしもわたしみたいな髪色の子がいたら、避けてしまうだろうし。いろいろ受け入れてしまえば後は楽だった。「髪色をからかわれているの」と打ち明けるような深刻な悩みでもなかったし。
 けれどそれはわたしの場合である。
 わたしが平気なことが、他人も平気だとは限らない。
 学校で浮いていると告白した彼女に、大人としてどう声をかけていいのか迷い、あたふたしてしまう。
 けれどわたしの動揺をよそに、祈里ちゃんは平然としていた。

「靴を隠されたり、教科書が捨てられていたりするんだけど。そういうのって子どもがやることだとわたしは思うのね」
「は、はあ…………」

 なんとも逞しい子だ。強がっているのではなく、それが本心なのだろう。

「それにわたしより何倍もママの方が生きづらいだろうし」

 祈里ちゃんが「ママ」と言うと、違和感がある。この子も…………人の子なのか。竹から生まれたなんとやらと説明された方が納得する気がする。髪も長いし。天女がお迎えに来ましたよと笑いながら地上に降り立っても不思議じゃない。そんな神秘的なオーラが祈里ちゃんにはあった。

「もう今日は学校に行かなくてもいいかな」
「サボらない方がいいと思うけどな。わたしも授業とか面倒くさかったけど、不良に間違えられたくなかったから、頑張って出席していたし」
「おねえさん、不良なの?」
「あーほら、頭の色でそう見られちゃってて。悔しいから、勉強とか必死でやっていたんだよ」
「そんなに綺麗な色なのにね」

 祈里ちゃんが目を細める。
 その顔が、本当に、よく似ていて、胸が重くなった。

「あのねえ、祈里ちゃん────」

 なんだろう。
 わたしは今、何を言おうとしているんだろう。
 祈里ちゃんがきょとんとした表情でわたしを見ている。
 んーと、そうだな。確かなことは何一つ言えないし、彼女が本当に彼の子どもかもわからない。しいて言えば、単なる自己満足だ。
 わたしが15年間抱えていた後悔を、ここで置き去りにするために。

「学校行かないのなら、わたしと一緒にお墓参りしない?」

Re: 花と愛と毒薬と {episode} ( No.106 )
日時: 2015/02/03 19:37
名前: 夜多 岬 (ID: CA3ig4y.)
参照: Twitter@moto_asakura

電車を乗り換えて30分ほどのところにその墓地はある。
 ひとつひとつの墓地の頭に雪が積もっていて、寒そうだった。
 片道の電車賃で野口英世さんとお別れした。祈里ちゃんはお金を持っていなかったし、第一誘ったのはわたしだし。それに、大人として子どもに電車賃を出させるのもどうかと思ったから、わたしの財布から出した。往復だと……二枚消えるな。車の免許をわたしは持っていないから、不便だ。
 祈里ちゃんとなぜか手を繋いで墓地に踏み入れる。
 中央公園が近くにあって、春になると大輪の花が咲き乱れるらしい。よく花見だとかフラワー祭りだとかいうイベントが開催されている。今は雪祭り……だっけか。季節ごとに大きなイベントを行っている場所で、その時は来場者数も多い。
 でも、大通りに面している中央公園と、その裏門に面している墓地とでは、人通りの多さに天地の差がある。
 すぐ傍には夜景が綺麗だとかで有名な山がある。墓地には人が一人通れる程度の細い山道があって、そこを抜けていくと、山の中の車道に出られる。今では学生の間で心霊スポットだとも言われているらしいけれど。その理由は、わたしが高校生時代のときに殺人事件があったから。バカな学生が己の恐怖心と好奇心で興奮して、死者の眠る場所に立ち入る場面を想像すると、呆れてものも言えない。
 祈里ちゃんは一言も喋らない。
 わたしも、ここに来た理由について特に伝えなかった。
 灰色の墓石が目立つ中、真っ黒の墓石が隅にある。真っ白い雪が積もっていたから、素手で落とした。冷たくて指先が痛い。けれど墓石をゆっくりと撫でる。

「ここに来るのは初めて?」

 聞くと、祈里ちゃんが首を上下に振る。肯定の意だった。
 そうか。彼女はここに祈里ちゃんを連れてこなかったのか。

「この名前の人は知っているよね」
「パパでしょう。それぐらいはわかるよ」

 墓石を眺めながら静かに言った。
 わたしも実は15年ぶりに来た。なんだか墓を前にして泣きじゃくってしまいそうで。そんな姿、死んでも彼に見せたくなかったから。

「────おねえさんは、パパの知り合いなのかな」
「そうだね…………。わたしにとって塚原は、特別な人だったよ」

 初めてこういうことを他人に言う。
 目で追って、音を聞いて、彼の存在を常に意識していた。彼はわたしの中の全てで、わたしはそれを必死で隠してきた。バレたら、きっと彼はわたしを軽蔑するだろうから。異質なものを見る視線に敏感な彼は、自分を特別視する人間を嫌っていた。例え無意識であっても。わたしは彼を、少なくとも特別視しない存在として見られていた。クラスメイトとして、友人として、普通に接する女子学生。そういう立ち位置だったはずだ。
 塚原にとっては、わたしみたいな普通の態度で接する人間が、特別だった。
 だからわたしは彼に好意を持ってはいけない。彼のことを知りたいと思ってはいけない。無関心でいるのではなく、一線を引いて関わっていく。
 そうすることで、わたしの中の彼への恋心を悟られないようにしていた。
 彼の特別であり続けるために。
 それしかわたしにはできなかったから。
 そしてこの想いは、生きている彼に伝えることは一度もなかった。

「どうして今さら、こんなところに来たのか……自分でもわからないんだ。祈里ちゃんに会って……あまりにも塚原に似ているから」
「わたしはそんなにパパに似ているの?」

 その質問に笑ってしまう。
 顔立ちなんか、そっくりだ。
 目を細めて、祈里ちゃんと彼を重ねる。
 こんなことを彼女に伝えて、どうなるっていうんだ。だけど、今しか言えないから。もう二度と、彼のことで泣きそうになるのは嫌だから。

「好きだよ、塚原。ずっと好きだった」

 口に出してみれば、簡単なことだった。
 どうしてこの一言が、「好き」という二文字が言えなかったんだろう。
 臆病で、脆くて、儚い。もう少しで散り散りになってしまいそうだった想いが、伝えたことで形になる。涙が溢れそうになる。慌てて堪えた。
 祈里ちゃんはじっとわたしを見つめている。
 じっと、じっと、じっと。
 しばらくして、首を少し傾げ、困ったように笑った。

「雨の音で、おねえさんがなんて言ったのか、聞こえなかったよ」

 墓石の頭の雪解け水が、つうっと伝い落ちた。わたしの代わりに泣いているみたいだった。
 祈里ちゃんの頭をくしゃくしゃと撫でる。髪がボサボサになった。それでもかまわずに触れる。まだ大丈夫だ。祈里ちゃんは、ちゃんと温かい。

「ちゃんとやむから」

 声が震えた。
 こんなにも苦しい思いを、わたしはきっと、死ぬまで二度と味わうことはないだろう。
 なんの確証もなく、決定的な根拠もないまま、無責任に、わたしは誰にも想定できるはずのない未来を告げる。

「きっと雨はやむから────」






 その後も何度かまとまった休みの日に実家に帰省したけれど、祈里ちゃんに会うことはなかった。
 もちろん、益田香織にも。
 もしかしたら道でばったり会えるかと思ったんだけれど。残念だ。
 だからわたしは、彼女たちがどんなふうに塚原のいない人生を送っているのかわからない。未だに彼女たちの周りにだけ、皆には聞こえない雨の音が存在しているのかもしれない。

「どうなんだい、益田香織。きみは塚原を愛していたのかな」

 愛の大きさなんて比較できるものじゃないだろう。
 だけど、わたしは。
 それでも、わたしは。
 過去の中に生き続ける彼に、今でも「愛している」と囁き続けている。





Re: 花と愛と毒薬と {episode} ( No.107 )
日時: 2015/02/03 22:50
名前: 夜多 岬 (ID: CA3ig4y.)
参照: Twitter@moto_asakura




 はじめまして、夜多 岬です。


 先ほど、2014年冬のカキコの大賞決めるもの(すいません、正式名称がよくわからないのですが)で、「花と愛と毒薬と」が大賞であることを知りました。


 今年も開かれているのは知っていたのですが、結果まではわからず……。
 言い訳ですが、パソコンのお気に入りから、この小説のスレッドに直接行けるようにしてあるので、小説カキコのホーム画面を見ることがなかなかないのです……。



 遅くなりましたが。
 本当に遅くなって申し訳ありませんが、投票してくださった方、見てくださった方、ありがとうございました(^^)


 




 

Re: 花と愛と毒薬と {episode} ( No.108 )
日時: 2015/02/17 00:06
名前: 空 (ID: bOxz4n6K)

帰ってきてるぅぅぅぅwwww

はい、お久しぶりです。空です。ここを開いたのはまぁ、朝倉がまたなんかやってるかなぁと思ったからでありまして。そしたら本当にやっていまして。えぇ、そうです、続きを書いていたんですねぇ。まじですかいな。

いやー、読みました。
死んじゃったんですね。塚原くん。
雨の音、止まなかったんですね。はぁ、なんかすごいむらむらする。むやむや、もやもや。
鬱エンド。さすが朝倉やね。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22