複雑・ファジー小説
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- 花と愛と毒薬と {episode}
- 日時: 2015/01/28 23:50
- 名前: 朝倉疾風 (ID: CA3ig4y.)
1年弱の長い執筆がようやく終わりました。
執筆中、朝倉疾風から夜多岬に名前を変更しました。これからもし、また新しく書くときは、この名前ですので、お見かけした際はお声をかけていただけると嬉しいです。
小説というにはあまりにも拙く、私の私的感情を爆発させるため書いているようなものですが(所謂ストレス発散)……。
読んでいただき、ありがとうございます。
暇な時間があれば、また、ふらっと現れます。
どうぞその時は、「ああ、またこの人書くのか……」と、呆れながらも読んでいただけると幸いです。
(本編)
執筆開始 2014年 2月5日
執筆終了 2015年 1月25日
○現在、完結後の「彼女たちの物語」を書いております。本当は書くつもりはなかったのですが(ただいま実習中)、暇なときにちょこちょこやっていくつもりです。懲りずに(笑)
○あと、Twitterをまたまた始めました(既に4回消してる)。IDは@moto_asakuraです。ゆるゆる始めます。いろいろと。
(彼女たちの物語)
執筆開始 2015年 1月28日
夜多 岬 (元 朝倉疾風)
- Re: 花と愛と毒薬と ( No.44 )
- 日時: 2014/07/01 20:58
- 名前: 朝倉疾風 (ID: CA3ig4y.)
雨で冷え切った体をシャワーで温めて、柔らかいタオルで白い肌を包む。水分を優しく拭き取るとき、耳たぶの裏側を小指で軽くなぞった。くすぐったそうに帆乃香が身をよじる。その仕草がたまらなく愛おしくて、小さな乳房に顔をうずめた。甘い、花の香りがする。
まだ日が出ているのに、情事になだれ込もうとしている自分たちが、なんだか幻のようだった。
子どものように甘えてくる秀一を、帆乃香は母親のような眼差しで見つめる。背中に帆乃香の腕が回されるのがわかり、秀一はうっとりと眼を閉じた。このぬくもりが、全部自分に注がれている。帆乃香の身体も心もすべてが自分のものだと思うと、満たされた。さっきまで覚えていた不安を消し去りたいと、秀一はそっと帆乃香の胸に手を這わす。
いま、どうしようもなく、この娘が欲しかった。
彼のしたいことがわかり、帆乃香は甘い声で囁いた。
「いま、ここにいるのは私たちだけだよ」
寝室に着いた瞬間、獣のように秀一は帆乃香にのしかかった。細い首筋を思いきり噛み、すぐに分厚い舌で傷跡を舐めとる。欲を隠すことなく、この小さな身体にぶつけたいと思った。でも、そんなことをしたら、帆乃香が苦しいだけだ。
深く呼吸して気を落ち着かせる。
乱暴しては、だめだ。
この子が壊れてしまう。
自分を律しながらゆっくりと帆乃香の頬に唇を押し当てる。女性を抱くのは決して初めてではないのに、彼女に触れるとき、どうしても躊躇いがちになる。まだ二度目だからか。
「わたしとこんなことして楽しい?」
淡々とした質問だった。
楽しいかどうかはわからないが、安心することは確かだ。こくりと頷くと、髪の毛をわしゃわしゃと撫でられる。気持ちがいい。
スーツを脱いで上半身があらわになる。秀一の綺麗な身体をじっと見つめて、帆乃香は子どものように笑った。
「なにがそんなにおかしいんですか」
「だって、秀一はわたしのものなんだよ。中学生とこんなことしちゃって、大人なのに。ぐっちゅぐちゅになってさ。おかしいったら」
「からかわないでくださいよ」
自分でもおかしいと思っている。一体この化物のどこに惹かれているのかわからない。肌の裏側の柔らかい部分に痕を残す。赤い花が咲いたようだった。
大きく足を開かせ、普段は秘められているその部分を愛撫する。秀一の大きな手が腹部を這うたびに、微かに帆乃香の腰が震えた。湿った部分に指を挿入するとき、ほんのわずかに帆乃香が呻いた。まだ早かっただろうかと指を引き抜こうとすると、「やめないで」と強く言われる。
「でも辛そうですよ。痛いことは、したくない」
大切にしたかった。惚れているだけに、その気持ちは大きい。
けれど帆乃香の先程までの粘ついた視線は、きつく鋭いものに変わる。この細い腕のどこにそんな力があるのかと思うほど、離れていく秀一の手を掴む力は強かった。少し驚いて秀一は帆乃香の様子を伺う。また、なにか地雷を踏んでしまったのか。
「一ヶ月前、初めて私を抱いたとき、秀一は気持ちよかった?」
消え入りそうな声だった。
秀一よりも不安そうで、なにかに怯えているようにも見えた。
「とてもよかったです」
「わたしを必要だと思った?わたし無しじゃ生きていけないくらいに」
「俺はもうずっと前から、帆乃香無しじゃ生きていけませんよ。生きようとも思いません」
「だったら…………してよ。わたしが好きなんでしょう?言葉だけなんて、信用しないから。ちゃんと態度で表して」
口先だけの約束事はすぐになかったことにされると、帆乃香は警戒していた。いつか秀一が離れてしまうのではないかと、彼女も孤独でたまらなかったのだ。秀一が求めれば求めるほど、その欠けた部分が埋まっていく。言葉だけじゃなく、身体でも。そして心でも。
少し痛いかもと思ったが、次の瞬間には秀一は自身を帆乃香の秘部に穿っていた。
- Re: 花と愛と毒薬と ( No.45 )
- 日時: 2014/07/05 20:34
- 名前: 朝倉疾風 (ID: CA3ig4y.)
いけないことはどうしてしたくなるんだろう。
なにか秘密を持つと、それを共有する人間とのあいだに特別な関係が築かれたようで、背徳感と高揚感が生まれる。誰にも言えない、当人たちだけにしかわからない秘め事が、秀一にとっては安心できるものだった。
帆乃香を抱いた後、体にべたついた汗と体液をシャワーで洗い流し、スーツではなくティーシャツとジーンズというラフな服装に着替えた。時計を見る。そろそろ香織が学校から帰ってくる頃だ。
ベッドの上で眠っている帆乃香をそのままに、秀一は部屋から出た。
夕食ができた頃に香織が帰ってきた。
ランドセルをソファに置き、深くため息をつく。疲れているのか、表情は明らかに不機嫌そうだった。
テレビをつけて、チャンネルを変えるが、今の時間帯はどのテレビ局もニュースしか放映していない。子どもにとってはつまらないらしく、何度もチャンネルを変えていたが、結局はローカルニュースに落ち着いた。
「おかえりなさい」
「ただいま。お母さんは?」
「少し用事があるらしくて、出かけています」
本当は中学校に行っているのだが、香織に説明する必要はないと思った。
一昨日、帆乃香の通う中学校の担任から電話がかかってきた。たまたま秀一が電話を取り、話を聞いたのだが、帆乃香の様子が気にかかるので自宅訪問させてもらえないだろうかという内容だった。
秀一がそのことを母親に伝えると、彼女は曇った表情で「明後日に伺いますと、伝えてちょうだい」と言って、また仕事に出かけてしまった。
仕事を優先しているわけではなく、自分の娘の奇行に目を背けたいのだろう。
「おねえちゃんは?」
「帆乃香は寝ていますよ。旦那さんは仕事ですし、今は俺と香織だけですね」
人当たりのいい笑顔をつくりながら、裏側では香織の良すぎる人柄に苛立ちを感じる。香織は文字通り「いい子」すぎるのだ。
この娘は、アレを自分の姉だと理解している。
むこうは香織に無関心なのに。
「なんだか疲れてるようですね。雨もかなり降ったし、制服も濡れて、気持ち悪いでしょう。夕食より先に着替えてきますか?」
「────花がね」
「花?」
ぼんやりとした目でテレビ画面を見つめながら、香織はボソボソと歯切れの悪い口調で言った。
「花がね、ぜんぶ切り取られてたの。花の部分だけ。茎と葉っぱだけ残して。学校の花壇で、うちのクラスの花だけがぜーんぶ無いの」
係を決めて水遣りをしていた花壇の花が、何者かに摘み取られたらしい。
見つけたのは今日の水遣り当番。朝の会のとき先生がひとりひとり話を聞いても、結局犯人は見つからなかったらしい。香織のクラスの花壇だけ摘み取られていたため、誰かのいたずらとして、大事には至らなかったようだ。
「酷いことするやつがいるんですね。いたずらにしても笑えないですよ」
花ぐらいで、と思ったが勿論そんなことは口が裂けても言えない。
適当に話を合わせていると、香織が少し鼻をすんと鳴らして、
「秀一、お風呂入ったの?まだ夜じゃないのに」
「ああ…………ちょっと汚れちゃって」
言い訳してから目を逸らす。子どもはたまにこちらの心を見透かしているような目を向けてくる。苦手ではないけれど、どうしても好きにはなれなかった。
これ以上突っ込まれないように、話を変える。
「花のことは残念ですけど、また植えればいいんですよ。いたずらに負けちゃだめですよ。ほら、食べましょう。俺もお腹すきました」
「わたしもお腹は減ってるんだけどなぁ。…………あれ。ねえ、秀一。これってこのすぐ近くだよね」
「え?」
香織が指を指す方を見る。
それは無駄に大きいテレビ画面だった。
ローカルニュースが辺鄙な町を映している。見覚えのある景色だった。ローカルニュースだからこの近所が映ってもおかしくはないが、なにかあったのかとじっとテロップを眺める。
自殺。
その二文字が真っ先に目に入ってきた。
ここらで自殺や、殺人などといった物騒な話題はここ何年も聞いたことがない。秀一が前に住んでいた隣町は、それなりに派手な事件が起こったこともある。万引きや傷害などの犯罪はしょっちゅうだった。
ここに来てそういうものから遠のいたと思った。それほどまでに、この町は平凡すぎるのだ。せいぜい、いたずらで花壇の花が摘み取られる程度の。
こんな呑気な町でも自殺する人間がいるのかと、少し意外に思う。
お茶碗にご飯を装うとしゃもじを手にして、
「え…………」
動きを止める。
アナウンサーの声を聞き流していたが、あるフレーズが引っかかって、視線をテレビ画面に戻した。
遺言だ。
自殺した無職の男性の遺言が映し出されていた。
弱々しい文字で、ルーズリーフを無造作に切り取った紙に、メモ書き程度に。
だけどその内容はとてもとても重いものだと秀一には感じられた。
自殺した人間が最期に残した言葉は、
“あなたに会いたい”だった。
- Re: 花と愛と毒薬と ( No.46 )
- 日時: 2014/07/12 16:07
- 名前: ポン酢 (ID: NweUlujJ)
初めまして。ポン酢と申します。
書き込むのは初めてですが、朝倉さんの小説はいくつか読ませていただいてます。
今回も人物描写の上手さやダークながら読者を引き込む物語構成は
羨ましい限りです。
前作の小説について、読んだのは完結したしばらくあとだったんですが、
かなりのめりこんでしまいました。
とにかく複雑で、でも気になって今でも読み返してしまいます。
あとがきにもう来ない、というようなことが書かれていたので
あぁもう読めないんだ、と半ば絶望していたところ、活動なさっている姿を見つけて今飛び跳ねたい気分です。
今年の2月から執筆されていたのになんで気づかなかったんだろう。自分を悔やんでます。笑
長文失礼しました。
こちらの小説の執筆も、応援しています。
- Re: 花と愛と毒薬と ( No.47 )
- 日時: 2014/07/13 21:37
- 名前: 朝倉疾風 (ID: CA3ig4y.)
夕食のあと、香織が風呂に入っているあいだに母親が帰ってきた。雨に濡れたのか長く綺麗に巻いていた髪はしっとりとしている。中学生の娘がいるとは思えないほど若々しい。秀一がこの家に来たときからこの人だけ時間が経っていないようだった。
香織と同じようにソファにどっかりと座り、秀一が無言で手渡したタオルを受け取って、ガシガシと乱暴に髪の毛を拭く。中学校でなにか言われたのか、目が若干潤んでいた。
「おかえりなさい、理緒さん。お疲れみたいですが紅茶でも飲まれますか」
気遣ってそう声をかけると、潤んでいた目がきらりと光る。涙だったが長い下まつ毛にせき止められて、流れることはなかった。手の甲でそれを拭い、鼻を啜ったあと、短く低い声で「おねがい」と呟いた。熱い紅茶を、理緒のお気に入りのコップに入れてやり、持っていく。
奥様と呼ぶと怒るので下の名前で呼んでいるが、彼女は一度だって秀一のことを名前で呼んだことがない。雇い主である夫とは違って、秀一とは境界線を引きたいようだ。この家で彼女だけ秀一に心を許してはいない。最初は秀一の作った料理すら避けていたほどだった。
紅茶を二口ほど飲み、ホッとしたのか、肩の力を抜く。
睡眠をあまりとっていないのか、目の下には目立ちはしないが隈ができていた。
「病院に連れて行けだって」
しばらくして理緒が重々しく口を開く。
帆乃香の話だと気づき、秀一は考え込んでいる面持ちの理緒の向かい側に座る。なにも言わずに理緒の次の言葉を待ったが、彼女の口からはため息しか出てこない。披露と困惑が入り混じっていた。
病院とは精神科のことだろう。
秀一自身、どうして今まで帆乃香のような存在が野放しにされているのか不思議だった。理緒のことだからもっと早く入院させてしまっていてもおかしくはないのに。
紅茶の量が半分になったところで、理緒が再び口を開いた。
「簡単に言ってくれるわよね。あの子が病院に行くわけないじゃない」
「連れて行ったことがあるんですか」
「あるわよ。失敗したけどね。あの子がまだ7つか8つのときに。……ものすごい勢いで拒否されたわ。まだ小さかったのに、どこで覚えたかわからない下品な言葉を親に吐き捨てて」
「────一度も検診を受けていないんですね」
「だってしょうがないじゃない。連れて行こうとしたら、あの子、香織を殺そうとしたのよ。まだ小学2年生の女の子が、妹を殺そうとしたの。なにが悪いのって顔で、香織に包丁を向けたの」
自分の思い通りに事が進まないと攻撃的になるのは、いまも昔も変わっていないようだった。
「病院には行かないって言うと大人しくなるのよ。それどころかお母さんお母さんって甘えてくるの。気味が悪い…………。夫に相談したら、カウンセラーに来てもらったらどうだって言われて、何人かの先生に家に来てもらったの。なのにあの子ったら、先生の前では普通になるのよ。普通のいい子になるの」
「それで、先生が帰ったあとにまた攻撃的になるんですね」
深く理緒が頷いた。
親として娘が人間ではなく化物に見えてしまうことが一番悲しかったのではないだろうか。狂気じみていて、関わり方がわからず、愛情を求めてくるのに拒絶してしまう自分がいる。理緒にとって帆乃香という存在は障害でしかなかったのかもしれない。初めての子どもだったから、その不安は大きくて重かったはずだ。
親は子どもを選べないし、その逆もまた当然。
そんな当たり前な偶然が、時に不幸を呼んでしまう。
この親の元に生まれたばかりに。
こんな子どもを産んだばかりに。
なぜ自分がこんな目に合うんだと、嘆き叫ぶことだってある。
「あなたにはよくなついているじゃない。どんな手を使っているのかしらないけれど」
伏せていた目が秀一を捉える。皮肉めいた微笑を浮かべていた。
右手でそっと口元を抑え、秀一は笑いがこみ上げるのを必死で我慢した。
なんだ知られてるんじゃないのか。
こんな痛くもない腹を探られたって、どうってことない。この女には最初から内蔵までぜんぶ見せてるんだから。
「あの娘は化物よ。わたしはもうあの娘の母親でいる自信がないし、あの娘もわたしを母親だなんて思っちゃいないでしょう」
「頭ではわかってると思うんですけどねえ」
「なあに、そのだらけた喋り方。……夫が拾ってきたから口出ししなかったけれど、あなたやっぱり猫かぶってたのね」
持っていたコップを持ち上げ、そのまま秀一の頭上から中身をぶちまけた。赤い液体が秀一を濡らす。スーツにも血のような染みがまだらにできる。
滴る雫を拭いもせずに、秀一はとうとう堪えきれずにフハッと笑い飛ばす。長い笑いだった。呆れた表情で理緒が秀一を見つめる。その間ずっと秀一は笑っていた。
最後に長く息を吐いて、震えていた体が落ち着く。軽く痙攣していた腹部が熱くなる。
涙を拭きながら、自分を虫のように見てくる理緒を睨みつける。
「俺マゾなんすから。煽らないでくださいよ」
- Re: 花と愛と毒薬と ( No.48 )
- 日時: 2014/07/13 21:50
- 名前: 朝倉疾風 (ID: CA3ig4y.)
ポン酢様
コメントありがとうございます。朝倉です。
色々と書いてきましたが、話は確かほとんどが重いものですね。
作品の雰囲気って個々に現れるんでしょうけれど、私はどうしてもここから出られそうにありません。ひぎぃ。
小説執筆をやめるやめる詐欺をしてしまいました…。申し訳ないです。
まだまだ未練は残っており、数少ない時間を見つけてはちまちまやっております。
これからもひっそりやっていくので、こっそり応援してやってください。
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