複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

花と愛と毒薬と {episode}
日時: 2015/01/28 23:50
名前: 朝倉疾風 (ID: CA3ig4y.)

 1年弱の長い執筆がようやく終わりました。
 執筆中、朝倉疾風から夜多岬に名前を変更しました。これからもし、また新しく書くときは、この名前ですので、お見かけした際はお声をかけていただけると嬉しいです。

 小説というにはあまりにも拙く、私の私的感情を爆発させるため書いているようなものですが(所謂ストレス発散)……。
 読んでいただき、ありがとうございます。
 暇な時間があれば、また、ふらっと現れます。
 どうぞその時は、「ああ、またこの人書くのか……」と、呆れながらも読んでいただけると幸いです。



(本編)
執筆開始 2014年 2月5日
執筆終了 2015年 1月25日





 ○現在、完結後の「彼女たちの物語」を書いております。本当は書くつもりはなかったのですが(ただいま実習中)、暇なときにちょこちょこやっていくつもりです。懲りずに(笑)
 ○あと、Twitterをまたまた始めました(既に4回消してる)。IDは@moto_asakuraです。ゆるゆる始めます。いろいろと。



(彼女たちの物語)
執筆開始 2015年 1月28日





    夜多 岬 (元 朝倉疾風)




Re: 花と愛と毒薬と ( No.49 )
日時: 2014/07/29 20:28
名前: 朝倉疾風 (ID: CA3ig4y.)



 理緒が中学校に呼ばれてから、帆乃香の担任の常磐が家庭訪問するようになった。
 たいていが両親のいない時間に来るため、玄関先で相手をするのは秀一だった。
 常磐は三十代ほどで、地味な顔立ちをしている。服装も教師ということを差し引いてもどこか暗い印象だった。持っているハンカチの柄だけは派手で、暑さの中しきりに汗を拭いている。

「益田さんのご家庭での様子はどうでしょうか」
「今日も昨日と同じです。普通ですよ」

 じめじめとした暑さ。益田の屋敷の前で、今日も常磐はしきりに屋敷を伺っている。
 昨日と同じセリフを返すと、明らかに不満そうな顔になり、こちらに聞こえてくるようなため息をつく。案外、度胸は座っているのかもしれない。
 最初は丁寧に嘘八百を並べていたのだが、最近は秀一も面倒くさくなり、帆乃香の様子を尋ねられるたび「普通だ」と答えていた。常磐もそれが嘘だとわかっているのだろうに。こんな会話を繰り返して時間の無駄だ。

「ちょっとでも学校に来るという意志があればいいんですけれど……」
「本人はべつに行かなくてもいいと言っているので、かまわないと俺は思うんですけどねぇ」
「それなら……その、申し上げにくいのですが、スクールカウンセラーが週に一度来校していますので、その時にお話を伺ったり」
「ああ、そういうの必要ないんです」

 きっぱりと拒んでいるのだが、常磐はなかなか引かない。
 この調子じゃ明日も来るなと内心げっそりする。

「必要ないって、あなたねぇ」
「それよりも常磐先生。先生はおいくつですか」
「は?──今年で34になりますけれど」

 見えない。もう少し年上かと思っていた。
 怪訝そうにする常磐のつま先から頭のてっぺんまでじろじろと眺める。常磐の視線が気まずさと恥ずかしさのせいか、微妙に揺れたのを見逃さなかった。

「先生って彼氏いないでしょう」
「はい?」

 左薬指に結婚指輪をしていないから、独身であることは簡単に推測できた。それに常磐には悪いが、どう見ても付き合っている男性がいるというふうには見えない。それは秀一の長年の勘だった。
 昔から顔は申し分ないと言われてきた。付き合っている女性がいない時期の方が短いんじゃないかというくらい、いつも周りには女がいた。寄ってくる女性を拒みもしないから、それなりに経験はある。
 いま思えば母親からの愛情に飢えていたせいだと言い訳もできる。帆乃香に出会ってから、他の女性に対して一切の興味を失っていた。
 しかし心のどこかにある不安が、秀一をおかしくさせる。
 帆乃香と一緒にいたあの少年。彼にもし帆乃香を取られたら──そう思うだけで、秀一の心はどんどん渇いていく。なにか、べつのもので、埋めなければ。
 
「屋敷に入りますか」

 できるだけ甘く聞こえるように囁いた。
 驚いた顔で常磐が秀一を見る。

「え、いいんですか。勝手にお邪魔して」
「いま、誰もいませんから」

 柔和に微笑み、そっと常磐の手をとる。一瞬手がビクリと震えたが、気にせず触れた。
 空気の変わった秀一に戸惑いつつも、中に入れば帆乃香がいるかもしれないと、淡い期待を持つ。

「さあどうぞ」

 

Re: 花と愛と毒薬と ( No.50 )
日時: 2014/08/05 18:42
名前: 朝倉疾風 (ID: CA3ig4y.)

 屋敷の中に入ったときから常磐は緊張しているようだった。辺りを何度も伺ったり、しきりに髪をいじったりしている。挙動不審ともとれる様子。クーラーは効いているのに額に汗が滲んでいる。
 居間に通してソファに座るときも、落ち着きなさそうに辺りを見渡している。そんなに珍しいものが置いてあるだろうか。紅茶を淹れながら常磐の様子を伺うと、顔を上げた彼女と目があった。

「益田さんはどこにおいでですか。これまでの授業のノート、お友達がとっておいてくれたみたいで、それもお渡ししたいのですが」
「今はたぶん寝てますね」
「もう5時になりますけれど。規則正しい生活が送れていないようですね」

 ふんっと鼻を鳴らす。昔から嫌いだった教師の目にもう一度あてられることになるとは思わなかった。笑顔を崩さないように努める。こういう挑発めいているやつには言葉を返さず、ただ涼しい顔でいればいい。表情の変わらない秀一を見て常磐は切り出した。

「ご両親は……言いにくいのですが、益田さんのことをきちんと考えておいでなんでしょうか。いつ伺っても留守で……ご多忙なのはわかりますけど、益田さんの登校拒否を解決されたいという意志があまり伝わってこないように思うんです」

 深く秀一は頷いた。自分も常磐の真正面のソファに深く腰掛け、コーヒーを飲む。
 自分を雇った変わり者の資産家は、帆乃香を秀一に預けるやいなや仕事の方へ精を出している。理緒の方も帆乃香にはなるべく関わりたくないみたいで、子どもより世間体を気にしている節がある。それに帆乃香自身も両親を「親ではないもの」として見ているのだから、改善の仕様がないのだ。

「理緒さんが学校に伺った時、帆乃香を病院に連れて行けとおっしゃったようですが」
「やはりそう捉えられてしまいましたか……。正直に申し上げますと、益田さんの小学校時の担任教師とも連絡はとっていたんですよ。勝手で申し訳まりませんが……当初から益田さんの行動は不可解です。残酷で恐ろしくて、聞いていてこちらも戸惑いました」

 秀一が帆乃香と出会ったとき、彼女はまだ小学5年生かそこらだったはずだ。その時は既に学校に行っていないようだった。

「それを聞いてこれは何か心の病が彼女をそうさせているのではないかと、個人的にそう思ったんです。病院に連れて行けという言葉は過剰ですが、カウンセリングを受けてみてはどうかと勧めました」
「なるほど」

 カウンセリング。果たしてそんなものが彼女に効果があるのか。
 もはや人の手も時間も安らぎも、彼女は必要としなくなった。あるのはただの欲求。満たされることのない飢えと渇き。一秒が彼女にとっては重く冷たい時間だというのに、そこに人の手を加えて厚生させようとしても、その周囲の努力は報われないだろう。

「常磐先生は益田帆乃香をどう思いますか。会ったことくらいおありなんですよね」

 そう尋ねると、常磐は気まずそうに首を横に振った。

「実は小学校時代の写真を拝見しただけで、直接会ったことはないんです。益田さんが中学1年の時は担任ではなかったですし」
「前の先生から帆乃香について話くらいは聞いたことあるんでしょう。俺は前の担任を知らないけど」
「いいえ、あの…………前の先生はすでに辞職しておりまして。わたしとは面識がないんですよ。連絡もとりたかったんですけどね」

 常磐のことだ。何度も何度もコンタクトを試みたんだろう。今時、熱血な女教師がいたものだ。
 コーヒーの苦味を舌の上で転がす。常磐のコップは既に空だった。
 

Re: 花と愛と毒薬と ( No.51 )
日時: 2014/08/12 16:23
名前: 風死  ◆Z1iQc90X/A (ID: 7PvwHkUC)

こんにちは、お久しぶりです。風死と申します。
文章量が多い上にミスが無いのに、投稿速度も中々速くて……
一レス分話を書くだけでも苦しくなる僕にとってはうらやましいです。
なんでしょうね? 書きたくてたまらないことが山ほどあるのに、書こうとすると手が震えて、違うことをしようとする。
書きたいのに、書こうとすると書く気が失せる風死です。
もう、50レスいってるのに、未だに22までしか読んでいない風死より。

Re: 花と愛と毒薬と ( No.52 )
日時: 2014/08/14 19:20
名前: 朝倉疾風 (ID: CA3ig4y.)



風死さま>


 お久しぶりです、朝倉です。

 投稿速度が速いとおっしゃってくれましたが、実際は、一日に多くて500字、少ない時は5行ほどを書いたあとに保存し、また書き足し、保存し……の繰り返しをしております。「2000字くらいになったかな」と思ったら、投稿しています。
 なので、投稿日時と書いている日が数ヶ月ほどズレているんですよ。
 このお話は2月から書いていますが、実際は去年の夏あたりからズラズラと書き足しているんです…w

 書きたいことが溢れるとき、朝倉はメモります。そして違うことをして、それが終わってからメモを見て、2、3行書いていきます。
 ピャピャピャと書けるようなものではないですよね。
 無理なさらず、まったりのんびり行きましょうぞ。

 

Re: 花と愛と毒薬と ( No.53 )
日時: 2014/08/14 20:43
名前: 朝倉疾風 (ID: CA3ig4y.)


 しばらく沈黙が続く。ゆっくりとコーヒーを嚥下しながら、秀一は彼女の指先に目を落とす。丁寧に整えられた形の良い爪。伸び放題の帆乃香の爪と比較する。背中に突き刺さると痛くて、けれど彼女の痕だと思うと愛しいそれは、未だに秀一の広い背中に残っている。決して上書きはされないだろう。たとえこの女が、死ぬほど抵抗しても。

「お会いしますか?帆乃香と」

 静かにそう尋ねると、秀一の思いがけない言葉に目を丸くさせる。

「いいんですか」
「起こせば大丈夫だと思います。ただ先生もご存知の通り、帆乃香の行動には異常が見られる。ご気分を害するかと思いますがねぇ」
「覚悟しています」

 時計を見る。5時をちょうど過ぎていた。夏のせいか外はそれほど暗くない。
 香織は今日、ピアノの稽古があるからと常磐が来る少し前に出かけたばかりだ。この屋敷の主人は出張、理緒が仕事が遅くなるのはいつものこと────。
 香織を迎えに行く6時30分までに事を終わらせればいい。
 相手に悟られないようにほくそ笑む。秀一はべつに女をいたぶって悦ぶ性癖思考は持ち合わせていない。
 彼はただ、花に集う蝿を潰しているだけだ。

「じゃあ、二階に行きましょうか」





 秀一には一人部屋が与えられている。
 この屋敷に来たときに最初に与えられたものが、部屋だった。内側からかける鍵がついており、窓からは屋敷の裏庭と田園が見渡せる。帆乃香の部屋の隣でもあり、夜中にはこっそりとお互いの部屋を行き来し、ベッドに潜り込むこともよくある。
 その部屋に招き入れたのは、今まで帆乃香以外誰もいなかった。
 香織でさえも入れたことがない。
 帆乃香の残り香と存在を感じ取れる場所に他の女の匂いなど、忍ばせたくはなかったのだが。
 常磐を中に入れた後、部屋の内側から鍵を閉める。
 そして思いきり、腹部を蹴った。
 面白いように常磐の体がベッドに倒れる。一瞬、なにが起こったのかわからない様子で、常磐が意味不明な奇声をあげた。

「んがっ、ふっ、ああああああっ、やめ…………ッ、ひぎっ」

 腹部を抑えていた手を無理やり掴み、頭の上に置く。痛みとショックからか抵抗は思っていたより弱々しかった。恐怖で体が震えている。その姿が昔の自分と重なって、少しだけ眩暈がした。

「なに、なんなの…………冗談は、よしてよ」
「ずっと暗いところにいたんだ」

 思っていたよりも落ち着いた声だった。
 今、自分は笑えているだろうか。潰される蝿を目の前にして、強者の表情を浮かべているだろうか。そこまで考えて、あんがい冷静で余裕なことに少し驚く。いつも帆乃香を抱く時は彼女に愛されることに必死で、余裕なんてものはない。
 こんなに冷めた感覚で女を見下ろすのはいつぶりだろう。
 秀一の発した言葉の意味が理解できないらしく、常磐はくぐもった声で聞き返した。目には恐怖からか涙がじわじわと溜まっている。

「いっつもヘラヘラした笑い顔を貼り付けてさ、普通になりたくて頑張ってた。根っこが腐ってんだよ。俺も、帆乃香も。でもあの子を俺と一緒だなんて思わない。思っちゃいけない。あの子は、高嶺の花だ。誰にも手折られない。誰からも鑑賞されない。お前みたいなのが容易く触れていいものじゃないんだよ」

 声は静かだったが威圧感があった。
 この男はなにを言っているんだろう。常磐は必死で混乱する頭を働かせるが、彼の言うことのひとつも理解できない。できるわけがないのだ。常磐自身は平凡で普通で、この世界のレールから脱線することのない人生を歩んできたのだから。

「わかった…………わかったから、離して。お願い」

 震える声で懇願する。同意すればこの男は解放してくれると思った。
 しかし、秀一は手の力をいっこうに緩めない。それどころか、いっそう強く常磐を拘束した。馬乗りになり、強引に彼女の服を脱がせる。白いポロシャツの前をはだけさせると、外見からでも想像できるほど地味な下着が覗いた。拘束を解いて、両手で乳房を思いきり鷲掴みする。帆乃香のは温かくて触るだけでうっとりするのに、常磐のはただの脂肪の塊としか思えなかった。

「やめて、やめて、やめて、ほんとにやだ、ほんとにやだ」

 これから自分がなにをされるのかはっきりとわかったのか、常磐の消え入りそうな声がだんだんと喚きに近いものになる。涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃだ。慣れた手つきで今度はズボンの固くて丸いボタンを外す。脱がさずにそのまま手を突っ込んだ。ザラザラと濃い陰毛の感触を手の平で撫でながら、秀一は常磐の耳元で囁いた。

「前の担任は、もっと嫌がってましたけどね。先生」



Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22