複雑・ファジー小説
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- 花と愛と毒薬と {episode}
- 日時: 2015/01/28 23:50
- 名前: 朝倉疾風 (ID: CA3ig4y.)
1年弱の長い執筆がようやく終わりました。
執筆中、朝倉疾風から夜多岬に名前を変更しました。これからもし、また新しく書くときは、この名前ですので、お見かけした際はお声をかけていただけると嬉しいです。
小説というにはあまりにも拙く、私の私的感情を爆発させるため書いているようなものですが(所謂ストレス発散)……。
読んでいただき、ありがとうございます。
暇な時間があれば、また、ふらっと現れます。
どうぞその時は、「ああ、またこの人書くのか……」と、呆れながらも読んでいただけると幸いです。
(本編)
執筆開始 2014年 2月5日
執筆終了 2015年 1月25日
○現在、完結後の「彼女たちの物語」を書いております。本当は書くつもりはなかったのですが(ただいま実習中)、暇なときにちょこちょこやっていくつもりです。懲りずに(笑)
○あと、Twitterをまたまた始めました(既に4回消してる)。IDは@moto_asakuraです。ゆるゆる始めます。いろいろと。
(彼女たちの物語)
執筆開始 2015年 1月28日
夜多 岬 (元 朝倉疾風)
- Re: 花と愛と毒薬と ( No.1 )
- 日時: 2014/02/05 22:25
- 名前: 朝倉疾風 (ID: CA3ig4y.)
一章 「meet one's end」
都内で私立中学に通う女子生徒が飛び降り自殺したというニュースが耳に飛び込んできた。自殺、というフレーズが聞こえてきた直後、ぼくの脳が軽く誤作動を起こす。体がベランダに直行しそうになるのを制しながら、テレビの音量を下げた。飛び降りたい衝動が治まるまで、しばらく動きを止め、「………………ふう」息を吐く。
視線をテレビに戻した。女子生徒が通っていた学校が映し出されている。学校でのトラブルもなく、家庭でも特に問題はなかった少女だが、「死んで、Mに会いたい」という遺書が自室の机に置かれているのが発見され、そこから自殺だと判断されたらしい。
少女の命は少女自らの手によって捨てられたわけだ。あっさりと。黒い染みを作って。
「……もう少し生きることにがむしゃらになりなさいよ」
赤の他人の彼女に説教じみたことを言ってみた。もうすでにこの世界に存在しないんだけれど。存在しているぼくの立場から言わせてもらうと、もう少し生きていても良かったんじゃないかなーと、思わなくもない。
自殺できるなんて、本当に羨ましい。
本当に、羨ましい。
自分で自分を殺すなんてこと、ぼくにはできない。こうしてただ生き続けることしかできない。
「羨ましいよ」
テレビを消したあと、ぼくは今日一日、自分が死ねるかどうか考えてみる。…………たぶん無理だ。できない。今日もどうせ、怖くて自殺なんてできないんだろう。ダラダラと生きて、そして明日を迎えるはずだ。
後ろ向きな人生だけど、前方不注意でコロッと自殺できないかなーと、ぼくは今日も自分が死ぬチャンスを伺っている。
学校について、教室に入って、自分の席に座って、頬杖をついてぼんやりとしていたら、いつの間にか昼休みだった。
ノートにはミミズが走った跡のような文字が陳列している。この内容は……古典か?ノートの表紙には「数学 塚原真矢」と書かれているけれど、数字がひとつも書かれていない。授業中は頭がスリープ状態だから、まあこれはしょうがない。迫りつつある中間考査への勉強はとりあえず置いておいて。
視線を、後ろの席に座っているであろう生徒に向ける。
まず最初にストローを咥えている形のいい唇に注目した。飲んでいるのはフルーツ牛乳。いつもフルーツ牛乳を飲んでいるから、これは予想していた通りだ。次に鼻、そして目、眉、前髪。そこまで視線をずらして、ようやく焦点が顔全体に合う。ピントが合わずにぼやけていた輪郭が、一気にはっきりと目に映った。
相手もぼくが見ていることに気づき、伏せていた目をこちらに向ける。瞳は大きいくせに、そこには何も映ってないような不安定さを感じさせられる。それほど彼女の表情は乏しい。顔の筋肉が固まっているんじゃないかと思うほど、ピクリともしない。けれど「美人」に該当するほど表面上の造りはよくできている。それが幸いしてか、無表情で冷たい印象が「お人形さんみたい」という比喩で周囲には捉えられている。
益田香織。
それが、お人形さんみたいな彼女の名前だ。
「呼んでも反応がなかったから、寝てるのかと思った」
見た目とは反して幼い少年のような声。けれどその声色からも、彼女の感情を読み取ることができない。
「ちょっと考え事してたんだよ」
「どうせロクなこと考えてない」
「きみと死ぬ方法だよ」
ずこここここーーーー。
パックの中身がカラになったらしい。凄まじい吸引の音をたてたあと、カオリは軽くなったパックを後ろに投げた。
「あ、そう」
それが見事に教室の後ろに置いてあるゴミ箱に吸い寄せられるように入る。適当に投げたのがたまたま入ったのか、シュミレーションと日々の努力の積み重ねによって成功したのかはわからない。位置的にカオリの席は後ろから二番目だから、たまたまでも不思議ではないけれど。
「で?思いついたの?わたしと死ぬ方法」
「頭で思いつく分なら、いくらでも思いつくさ。でもそれを実行できるかどうかがわからないんだよ。ぼくはチキンだから、思いきった行動ができんのよ」
死ぬ気はありますとも。頭の中で自分のやる気を主張する。勇気があるのなら今からでもぼくは飛び降りるだろう。朝に報道されていた、自殺した女子生徒みたいに。
「真矢がビビりでよかった」
安堵というには程遠い、貼り付いた表情。乾いた眼球がぼくをギョロリと捉えた。
無数の傷があるであろう腕を、制服の上からそっと摩りながら、カオリは言う。
「わたしは死にたくなんてないもの」
- Re: 花と愛と毒薬と ( No.2 )
- 日時: 2014/02/07 02:55
- 名前: 朝倉疾風 (ID: CA3ig4y.)
カオリの自傷癖を知ったのは14歳のとき。出会って5年目の春だった。
ぼくの記憶力が正しく役目を果たしているのなら、小学生の頃のカオリは、よく喋るしよく笑うやつだった。今の不自然なほど貼り付いた表情は、その後の彼女の薄くて柔らかい心にもたらされた傷の後遺症のひとつだ。漏れて滲んで浸透していった悪意の矛先がたまたま彼女だっただけで。
偶然とか不運が重なった結果と言えば正解なんだけど、この世には正解しちゃいけないこともあるから。本人は絶対に言わないけど。
カオリのクセは何個かあった。爪、皮膚を噛む。毛を毟る。リストカット。嘔吐。虚言癖。
よくもまあこれだけの秘密を人に知られずに来れたよなぁと、感心すらしてしまう。必死になって構成されていたカオリの「普通」さは、ぼくが彼女の纏う嘘の表面をベリベリに剥がしたことで一気に崩壊してしまった。そのことについて、一切罪悪感はない。良心はちっとも痛まない。
それよりぼくが見ていて痛々しいなと思ったのは、彼女が「普通」でいようとしていることだった。
中学校に入学するあたりから、感情が著しく欠如してしまい、周囲からの干渉に耐えるために自傷癖まで覚えてしまった彼女は、今までの自分の在り方を忘れてしまったらしい。
普通でいることがなんなのか。
自分は今までどうやって生きてきたのか。
忘れて、思い出そうとして、理想と現実の不都合さが原因で接続に失敗して、彼女は普通に戻ることを諦めた。諦めて、せめて普通な人間を演じようとしている。
今も。
「帰りにどっか寄っていく?」
「テストが近いから、わたしは帰って勉強したいよ」
授業がすべて終わり、せっかく暇になったんだからどこかに遊びに行こうかと思ったけど、放課後デートの誘いをすんなりと断られる。でも言いたいことは臆せず言うところが彼女の美徳だから、受け入れよう。それ以上しつこく迫らずに、「カオリって勉強できるよねー」「真矢ができなさすぎるだけでしょう」「ええ、ひっどー」と普通っぽい会話をしてみる。傍からだと、ぼくらは恋人同士に見えるはずだ。……恋人どころか運命を共にしようと一方的な思いを抱いているんだけど。かなり無理な片思いを続けているぼくに、応援メッセージの一通や二通来てくれてもかまわないのに。
「なんだか雨が降りそう」
「えぇっ、本当?」
見上げる。そこには色んな絵の具をぶちまけてグルグルかき混ぜたみたいな、鈍色の空が広がっていた。
「人が降ってきそうだねー」
後ろ向きな発言をしてみる。
カオリは特に反応もなく、そのまま歩きだした。一歩一歩、地面に足がピタリと着くのを確かめてから進み出すので、その速度はかなり遅い。
「ほら、朝にニュースでやってたじゃん。女子中学生が飛び降りたって。ひっどい世界だよねぇ。小さな女の子一人にも優しくできないで、挙げ句の果てに自分で死ぬことを決断させちゃうなんてさ。可哀想だよね」
その理不尽な世界に壊された少女を目の前に、饒舌に語ってみた。なんらかの反応が欲しかったんだけど、相変わらずカオリは無反応だ。それがどうしたのと言うふうにぼくを見ている。下手な挑発ごときでは、カオリの意外な一面は拝めないらしい。
仕方なく意地悪を言うのをやめて、カオリの隣に肩を並べて歩いてみた。歩幅や歩く速さを調節して彼女に合わせる。意識して歩かないと、すぐにカオリを置いて行ってしまいそうだ。徒歩で20分のところにぼくの家があって、カオリの住むマンションに着くにはさらに10分ほどかかる。自転車で通学した方が絶対に楽だ。
「ねえ、そろそろ自転車買わない?」
「歩いてでも来れる」
「時間かかりすぎだろ」
「必要ないよ。自転車とか一輪車とか乗るの上手くないし。事故したら死ぬし」
「………………」
乗らない理由はそれかよ。
言いかけた言葉をそっと嚥下する。ああ、せり上がってきそう。事故で死ぬぼくとカオリを想像しただけで、ふつふつと頭の奥が熱くなってくる。ああ、だめだ。今はまだだめだ。死にたいのは山々だけど、もっとこう、素敵なインパクトある死に方がいい。歴史に残るような死に方。それが見つかるまで、そしてぼくが勇気を出して死ねるようになるまで、まだまだ道のりは長いんだから。
「ふっふっふー」
また今日も生き延びてしまった。
こんなクソみたいな命でも、もっと有効活用できる人間がいるだろうに。
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