複雑・ファジー小説
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- 花と愛と毒薬と {episode}
- 日時: 2015/01/28 23:50
- 名前: 朝倉疾風 (ID: CA3ig4y.)
1年弱の長い執筆がようやく終わりました。
執筆中、朝倉疾風から夜多岬に名前を変更しました。これからもし、また新しく書くときは、この名前ですので、お見かけした際はお声をかけていただけると嬉しいです。
小説というにはあまりにも拙く、私の私的感情を爆発させるため書いているようなものですが(所謂ストレス発散)……。
読んでいただき、ありがとうございます。
暇な時間があれば、また、ふらっと現れます。
どうぞその時は、「ああ、またこの人書くのか……」と、呆れながらも読んでいただけると幸いです。
(本編)
執筆開始 2014年 2月5日
執筆終了 2015年 1月25日
○現在、完結後の「彼女たちの物語」を書いております。本当は書くつもりはなかったのですが(ただいま実習中)、暇なときにちょこちょこやっていくつもりです。懲りずに(笑)
○あと、Twitterをまたまた始めました(既に4回消してる)。IDは@moto_asakuraです。ゆるゆる始めます。いろいろと。
(彼女たちの物語)
執筆開始 2015年 1月28日
夜多 岬 (元 朝倉疾風)
- Re: 花と愛と毒薬と ( No.64 )
- 日時: 2014/09/04 16:30
- 名前: 朝倉疾風 (ID: CA3ig4y.)
誰かの体温を感じた。
ゆっくり目を開けるとマヤに前から抱きしめられているんだとわかった。どうしてマヤがわたしを抱擁しているのか理解できなかった。けれど、体温がすごく心地よくて、安心できて、そのまま身を委ねた。帆乃香がキョトンとした顔をしているのがなんだかおかしかった。
「マヤ、どうしたの。そこをどいてちょうだい。そいつを倒さなきゃ、わたしとマヤは離れ離れになっちゃう」
「でも…………益田さんはクラスメイトだから」
答えになってない。
確かに同じクラスだけれど、学校ではまったく話さなかったし。嫌われていると思ったし。マヤは浮いていたし。接点もなにもないマヤがわたしを助ける理由が、クラスメイトだからだなんて。笑える。チョーウケる。
「どうして。マヤはわたしと一緒に死んでくれるって……ずっと一緒、永遠だよって言ったのに」
「ぼくはまだここにいるよ」
「嘘つき」
「ごめん、帆乃香」
「やだよやだよやだ、やだ、やっ、帆乃香を置いていかないで……。アレ?秀一……秀一は?しゅーいち、どこ?どこにいるの」
迷子になった子どものように不安げに辺りを伺う。そこに自分の求めるもとがないとわかると、帆乃香は包丁の刃を自分の首元にあてた。
「お姉ちゃ、」
帆乃香の血が勢いよく噴射する。床に散るその血が花のようだと思った。
父さんと母さんの死体を見ても現実味がひとつも沸かなかったのに、なぜか帆乃香の血を見た瞬間、死への恐怖が込み上がってくる。嫌だ。怖い。血が怖い。死が怖い。人が怖い。死がそこにあることがたまらなく怖い。だって死体がそこにあるのは夢ではないから。でも夢であってほしいと頬をつねってみる。普通に痛い。痛いってことはわたしは生きているってことだ。でもこの空間は死が満ちている。だって死体がそこにあるのは夢ではないから。涙で滲んで前がよく見えない。マヤの鼓動を感じる。マヤは生きていることは夢じゃない。だって死体がそこにあるのは夢ではないから。普通は死体なんてあるはずがないのに。だって死体がそこにあるのは夢ではないから。わたしがここにいることは間違いなんだ。だって死体がそこにあるのは夢ではないから。だって死体がそこにあるのは夢ではないから。だって死体がそこにあるのは夢ではないから。だって死体がそこにあるのは夢ではないから。だてておっここおいしちあがあるのあゆめではないから。だってここにしたうががあるのはうyめではないから。伊達お子sにしたいがるあの青ぢアドそいどいw氏植えし上いw
死体があることは、夢ではないのだから。
「 」
マヤの胸の中で慟哭したところまでは覚えている。
そこから後の記憶はぽっかり空いている。
気づけばわたしの隣にマヤがいて、屈託のない笑みを浮かべている。
あの時抱きしめてくれたように。
わたしの手をそっと握って。
・・・・・・・・・
- Re: 花と愛と毒薬と ( No.65 )
- 日時: 2014/09/05 21:56
- 名前: 朝倉疾風 (ID: CA3ig4y.)
第4章 They who looked from a looker-on
彼らのことを語るにはちょっとだけ、あたし、粟島萌希について説明しなくちゃならない。
身長は166センチ。体重は47キロ。代々、色素というものに恵まれていない家系らしく、生まれたあたしも当然ながら、他人の目を惹く、あるいは引くような金髪に近い体毛を持った。この髪の色だから小学校に入れる前から親はあたしが苛められるんじゃないかって心配してたみたいだけど。実際、遠巻きにじっと観察されることが多かった。それもそれで居心地が悪いんだけど。
自己紹介では必ず、「粟島萌希です。これは自毛なんで、あまりからかわないでください。ハーフとかじゃなくって、国産品なんで!」とジョークを交えながら挨拶した。半分くらいはウケたと思う。
中学に入るとそこそこワルなやつらも出てきて、あたしはよくそういうやつらの仲間だと認識されがちになった。面倒だから適当に話はするけど、授業も出ずに遊びまわっているやつらと一緒にされたくはない。とりあえず先生に目をつけられないように勉強だけ頑張ってたら、学年で20位くらいまでに上がった。一学年176人いるから、上々の成績だと自負しているんだけど。親からも褒められてお小遣い上がったし、ラッキーだった。
そしてあたしは、中学のときから、恋をしている。
あたしの好きな人。
塚原真矢。
女みたいな綺麗な顔で、あまり他人を寄せ付けようとしない。話しかければ普通に話せるんだけど、こっちが関わろうとしないとあっちも無関心みたいな。塚原と小学校が一緒の友達から聞いたんだけど、隣のクラスの益田香織といろいろ複雑な事件に巻き込まれたことがある…………らしい。よくわからん。
益田も美人だと男子がよく騒いでいた。特定のグループで固まったりせずに、一人でいることが多い。美人だから一見取っ付き難い印象を受けるけれど、話せば笑ってくれたり冗談とか言ってくれたりする。
うん…………二人とも普通だ。
事件に巻き込まれたって聞いて、どれだけ影があるやつらかと思ってたんだけど。
少しホッとした。
塚原とあたしは2年1組で、なんと席が隣同士だった。うわーどうしよーと思ったけど、もともと心情が顔に出るタイプではないから、塚原はあたしの気持ちにこれっぽっちも気づいていないはずだ。ていうか気づかれたら困る。
彼の視線の先にはいつも益田がいるんだから。
見つめていることに本人は自覚しているのかいないのか、こちらが心配になるほど塚原はガン見している。目を細めたり、ときどき悲しげだったり。他人には決して見せない色んな顔を、遠くの益田にだけに覗かせている。羨ましいなとは思う。でも、益田に向けられているそれを無理やりあたしのものにしようとする独占欲は持ち合わせていない。指をくわえてという言い方はアレだけれど、見ているだけでいいのだ。
塚原はあまり頭が良いほうじゃない。先生にあてられても首を傾げて黙ったり、笑って誤魔化したり。そのたびに助けて的な視線を送られる。しょうがないから答えを口パクで教えてあげてるけど、たいてい伝わってないことが多い。ただやるときはやるらしく、テストの成績は中の少し下くらい。なんで知ってるかというと、前の中間試験の順位を見せ合いっこしたから。あたしの順位を見て「なんでそんな頭なのに勉強できるんだよ」とかなり本気で驚いていた。
塚原との中学の思い出なんてこんなものだ。
友達と呼ぶには馴れ馴れしくて、知り合いと呼ぶには少し寂しい。あたしが一方的に彼を気に入っているだけの関係だった。
ああ、思い出と言えば。
塚原と益田の関係が変わってしまった瞬間を、あたしは実は、こっそり見ていたのだ。べつに覗き見するつもりなんてサラサラなかったし、できれば塚原を好いているあたしとしては、あまり見たくない場面だった。
10月だったはずだ。だんだん肌寒くなっていって、制服も夏服から冬服へと変わっていく季節。その日、あたしは女の子の日というやつで、たまらなく腹が痛かった。わからない人もいるかもしれないからそのまま口に出して言ってしまうが、生理というやつだ。生理痛がひどくて救急車を呼んでくれと言わんばかりの体質だったあたしは、4時間目の体育に参加できる状態じゃなかった。ギリギリまで悩んだが、女の先生にこっそりと「生理痛っす」と報告すると、見学届けをもらってきてほしいと言われた。
体育を見学する際、見学理由を書いて提出することが決まりになっている。忘れてしまったのはあたしのミスだ。
しょうがないから体育館から再び校舎の方へ戻り、職員室へ行って見学届けをもらって、教室でそれに記入しようと来た道を戻っているとき、「あ、ナプキン替えよう」漏れる危険性を感じて慌てて1階の女子トイレに向かった。男性諸君にはわからないだろうけど、あの出る感触はなかなか気持ち悪いものだったりする。一度味わってみろ、最悪だぞ。
なにはともあれ無事に事を終えて水を流そうとしたとき、隣の男子トイレから声がした。
「こんなところに連れてきてどうするの」
手が止まる。
東棟校舎の一階は図工室や技術室などがあって、普段の授業ではあまり使われていないことが多い。ここのトイレは電球も黄色っぽくて、薄暗いから、生徒たちはあまり近寄らないのだ。誰もいないもんだと思っていたから、急に声がしてビックリしたのもある。しかし、あたしはその声の主が誰なのかわかってしまったから、余計に驚いたのだ。
「女の子を男子トイレに連れ込むなんて、どうかしてるわ」
間違いない、益田香織の声だった。
授業中のせいか無駄に学校内が静まり返っているため、その声はハッキリと響いている。
「ぼくだってわからないねぇ。なんで香織が普通に笑って生活しているのかも」
そしてどうやら、益田は塚原と一緒にいるようだった。
今は体育の時間じゃなかったっけか。男子と女子の体育は別々で、男子は運動場でサッカーをしているはずだ。なんでこんなところに益田と塚原が。
「わたしが笑ってちゃ悪いの?」
「べつに悪くはないよ。ぼくは香織の笑顔が好きだから」
どんっと心臓を叩かれたような感じがした。これはもしや告白の現場に居合わせたんじゃないか。一刻も早くこの場を立ち去った方がいいんじゃないか。そう思ったけど、あたしはトイレを流していない。いま流せば確実に向こうにも水の音が聞こえて、誰かがいたってことに気づかれる。それがあたしだとわかることはないだろうけど、こちらとしては告白に水を差すようで罪悪感があるし、出て行って鉢合わせする可能性も無きにしも非ずだから、動けない。
「香織にお願いがあるんだよ。お願いといっても、香織が拒否したところでぼくは折れないし、嫌がったところで諦めるつもりもないから────まあ、これは一種の脅迫になるんだろうけど」
塚原はなにを言っているんだろう。
聞いちゃだめだと思ってもどうても好奇心が疼いてしまう。なんでこんなに周りは静かなんだ。休み時間だったらよかったのに。
「ぼくと一緒に死んでくれないかな、香織」
- Re: 花と愛と毒薬と ( No.66 )
- 日時: 2014/09/06 14:38
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: 7PvwHkUC)
何度も何度もまじめな感想を書くわけでもないのに、コメントして申し訳ありません。
不毛なコメントで文章が途切れるのは嫌かもしれないですが、先ずはお祝いしたくて。お許しください。
彼方が喜ぶかどうかといえば、喜んでもらえないのは百も承知ですが、長く応援していた存在が評価されるのはやはりうれしいことです。
銀賞おめでとうございました。
そして、こんな私に態々ヒントを仄めかしてくださりありがとうございました。
一気に更新するより、やはり1日1日少しずつ、できる範囲で書いていくほうがミスが少ないですし、長続きもしますよね。
……やっぱり、PC買い直そうかな……(いつも漫画喫茶通ってる私
- Re: 花と愛と毒薬と ( No.67 )
- 日時: 2014/09/06 19:47
- 名前: 朝倉疾風 (ID: CA3ig4y.)
風死さん>>
コメントありがとうございます。そしてお祝いありがとうございました。
賞がとれたから嬉しいというのではなく、単純にこんな稚拙な文章を読んでくださっている方がいるということに感激しているのです。賞とかもう、関係ないです。読んでくださった皆さんが一人でもいれば、わたしにとって嬉しいことでございます。うへへ。
私は9月で終わらせたいので、今まで書き溜めたやつを書き足したり修正したりしつつ、ザザザッとコピペして貼りまくる作業に移行しております……。
以前初めて漫画喫茶に出向いたんですが、カップルが多くて驚きました。
- Re: 花と愛と毒薬と ( No.68 )
- 日時: 2014/09/06 19:49
- 名前: 朝倉疾風 (ID: CA3ig4y.)
薄々思ってた。心のどこかで。
塚原は事件の被害者だけど、喋るとあんがい普通だ。でも、ふとしたときに見せる表情に人間味がなくて、ああやっぱりこいつも壊れてるのかなと悟らざるをえない時があった。あまりその部分は見ないようにしていた。あたしはあくまでいまの塚原と対等になりたかったから。
その塚原が、益田に心中を誘っている。
衝撃でさすがのあたしも眩暈がした。便器から血の匂いが濃く漂っているから、吐き気もしてきた。
「ぼくと一緒に綺麗な死体になってほしい」
「なにバカなこと言ってるの。離してよ。授業に戻るから」
「あっれれ。ぼくはてっきり香織が死にたいのかと思ってた。気づいてないと思ってた?腕、何回切ってんだよ」
声が出そうになったので慌てて口を押さえる。物音をたてないように震える足に力を入れる。
益田が、リスカをしていたなんて。全然わからなかった。そういえば益田っていつ見ても長袖だった気がする。夏の暑いときでも長袖のポロシャツを着ているくせに、涼しげな顔をしていた。
「香織はきっと普通になろうと努力しているんだよね。表面上では笑顔でいて、事件のことに誰にも触れさせないようにしてさ。でも裏ではものすごく苦しんでいて、自分を傷つけずにはいられない。皆に嘘をついているようで、ものすごく辛いんだよね。甘えたいけど甘えられない。だって南野秀一はもうどこにもいないから」
「アンタになにがわかるのよ」
ぞっとするほど冷たい声だった。けれど震えているようにも聞こえた。
「ヘラヘラして生きてるアンタになにがわかるのよ。わたしはアンタを見ているだけで、あの日のことを思い出すの。息が詰まるほど苦しい。なのにどうしてアンタはわたしに関わってくんの。放っておいてよ。アンタだってわたしを見たらお姉ちゃんを思い出すんでしょう?」
「ああ、思い出すよ。ぼくは香織を見るだけで帆乃香を思い出して苦しくなる」
「じゃあどうして、」
「香織がいても苦しい。だけど香織がいなくても……ぼくは苦しいし、寂しい」
しばらく無言が続いた。会話がないとこっちの心臓の音が向こうに聞こえているんじゃないかと焦ってしまう。そんなこと絶対にないんだろうけど。それぐらいあたしの心臓は活発に動いていらっしゃる。
「雨が降ってるんだよ。ずっとぼくたちの上にだけ」
「────雨?」
「ぼくらはどんなに普通であろうとしても、いる場所はみんなと違う。ここだけ雨が降っていて、ぼくたちはずぶ濡れで、震えてるんだ」
「寒いの?」
「うん。すごく寒い。だから、温め合わなきゃだめなんだよ」
もう限界だった。おかまいなしに水を流して勢いよく戸を開いて廊下を駆け出す。怖かった。今まで普通に溶け込んでいた二人が、別のなにかに変わってしまったのだと思うと、たまらなく怖かった。腹痛なんてもうどうでもいい。塚原と益田はやっぱりどこかおかしいんだ。
体育館まで一気に走り、遅いぞーと声をかけてきた先生に見学届けを渡し、そのまま床に座り込んだ。息を整える。みんなが楽しそうにバレーをしている。
ここは日常だ。あたしの日常だ。
誰にも壊されることがない、普通なあたしの生活だ。
「あいつらは、ここには来れないんだな」
日常を眺めながら、そっとあたしは呟いた。言葉にするとものすごく寂しくて悲しい。
そして決めた。
雨に打たれ続けるあいつらに、傘ぐらいはさしてあげよう。晴天の下に連れ出すことはできなくても、少しの間、雨を凌げる場所になろうと。
「なんかぼんやりしてるな」
「ふぇ?」
間抜けな声が出てしまった。
つい回想に浸りすぎて塚原が目の前にいることを忘れていた。怪訝そうな顔であたしを見ている。相変わらず無駄に綺麗な顔である。高校に入って髪を伸ばしてから、ますます女か男かどっちかわからなくなった。ちょっとは切れよと言っても聞かないだろうから、ハサミを持ってきてあたしが切ってやりたい。
「ああ、少し夢見てた」
「ぼくと話しながら?すっげえ特技……と言ってやりたいけど、それってただ単にぼくの話を聞いてなかったせいじゃないのか」
「いやいや。塚原が毎度テスト週間のたびにあたしに貸してと要求する数学と現代文のノートを返しに来たってことはしっかり理解しているよ」
そう言うと鈍い顔で塚原がノートを渡してくる。受け取り、カバンの中に入れた。
外は朝から雨だった。5月だというのに最近、雨ばかりだ。
いまは4時間目の休み時間。あたしたちは高校3年生になって大学受験を控えているから、5時間目の後も授業がまだある。弁当の残り香が漂う教室に夕方までいなくちゃならないのだと思うと少し萎える。
塚原は就職組だから3年になってクラスが分かれた。
彼女のためなら学校を無断でサボりまくるこいつが、はたして就職して真面目に働けるのだろうか。
「じゃあ確かに返したから。助かった」
「うん。ああ、益田の具合はどうなんだよ。この前見かけたけど、ずいぶんと痩せてた」
「元気だよ。粟島が心配してたぞって伝えとく」
ひらひらと手を振って、塚原が教室から出て行く。廊下を歩いていく後ろ姿を見送りながら、あたしは心の中で「雨は止んだかい」っと彼に問いかける。もちろん答えは返ってこない。塚原に直接そんなことを聞いたって、不思議に思われるだけだろう。
益田香織は学校に長いあいだ来ていない。
保健室の周辺を歩いているところをたまに見かけるけれど、痩せていて幽霊のようだったから、少しだけ驚いた。
そしてここらでは不審な遺書を残して自殺する人が未だにポツポツいる。Mと名乗る者がいて、自殺した人は皆、そのMにあてた遺書を残していた。Mが何者なのか警察は調べているんだけど、なにしろ自殺者同士の接点がないから、このMがそもそもなんなのかすらわかっていないらしい。
なにかの暗号か。人名か。
「益田…………M…………」
益田の姉も悩み相談サイトを通して知り合った見ず知らずの人間を、言葉巧みに操って自殺に追い込んだ。彼女が起こした殺人事件と当時小学生だった男児への淫らな行いの方が世間的に注目度も大きくて、その自殺の件の印象が薄い。事件を覚えている人は、益田姉が自分の親を殺したってくらいしか知らないだろう。
いま、6年前と同じことが起きている。
人がMというなにかを崇めて、それに近づきたいと願い、命を絶つ。あたしはべつに自分さえ無事に生きていられたらそれで十分だから、他人が自殺しようがどうしようが正直に言うとどうでもいい。
ただ、もし益田がこのことに絡んでいるのだとしたら────
つまるところ、あたしはただ、塚原が無理をしないか心配なだけなのだ。
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