二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- イナズマイレブン〜試練の戦い〜
- 日時: 2014/03/26 11:37
- 名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: 9kyB.qC3)
皆様、初めまして…の方がほとんどだと思われるしずくと申すものです。実は某大作RPGの二次もやってますが…
今回、再びイナズマ熱が蘇って来ました。
そこで、二年程前に挫折してしまった〜試練の戦い〜をきちんと完結させようと思い、再びスレッドを立てさせて頂きました!
*注意事項
:二年前の〜試練の戦い〜のリメイク版(当時のオリキャラは削除しています。すみません)
:時代遅れなエイリア学園編の二次創作
:オリキャラあり。男主人公です。
キャラ崩壊、設定捏造の類いがあります。
:荒し、誹謗中傷はお断りです。
長くなりましたが、よろしくお願い致します!
本編
序章
>>1
一章「それが、全ての始まり。」
>>4->>11
二章「全ては予定通りに。」
>>12->>13,>>17->>18,>>23->>27,>>30
三章「その風は嵐? それとも?」
>>31->>35,>>37->>39,>>41->>72
四章「その出会いは幸せか」
>>74->>83
おまけ
夜の出来事(蓮と風介。宗谷岬にて)>>73
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- Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.84 )
- 日時: 2014/03/26 14:45
- 名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: AzXYRK4N)
「バカじゃねーの」
南雲は呆れたように言うと、だらしなく座席にもたれかかった。考え込むように数秒程視線を宙に彷徨わせてから、目だけを涼野に向ける。涼野は思いつめたような表情で過ぎていく窓の景色を追っていた。声をかけたが返事はなかった。ぼうっとただただ景色を見つめているのだ。
真っ暗で、せいぜい山の稜線(りょうせん)がかろうじてわかる程度の景色を見て何が楽しいのか南雲には全くわからない。聞いていないだろうと思いつつも、南雲は背を向ける涼野に語りかける。
「蓮は”今”のオレたちにとっちゃ敵だ。敵に情けなんてかけてたら、ジェネシスの座をグランから奪い取れなくなるぞ」
叱るような口調で南雲が言うと、涼野は僅かに顔を南雲の方へ向けた。悲しげな青緑の瞳で南雲を睨みつけてくる。悲しげな色がいつもの涼野らしい嘲笑のそれへと変わって行く。
「なら晴矢、今すぐプロミネンスを率いて雷門を潰してくるといい。果たしてキミに蓮を倒すことが出来るかな?」
ふふと涼野が不敵な笑みを浮かべながら尋ねると、南雲はバネではじかれたように立ち上がった。焦りと戸惑いが混ぜったような表情になっている。
「れ、蓮がいようと! オレは……オレは……」
言葉は尻すぼまりになり、南雲はとうとう口ごもってしまった。涼野はまた窓の向こうを見ていた。だがガラス越しに、やっぱりそうだと言わんばかりの得意げな笑みを浮かべているのが目に入り、
「くっそ!」
何故だか馬鹿にされたような感覚を覚え腹立たしくなった。南雲は、乱暴にも前の座席を蹴りつけた。幸い前には誰も座っていなかったので、靴越しに空しく座席が揺れる振動が伝わってくるだけである。南雲は空虚感を覚え、独りでにため息を漏らした。
「……人の絆と言うものは」
不意に涼野が口を開き、南雲は涼野に視線をやる。相変わらず自分に背を向けているが、南雲は黙って言葉の続きを待った。
涼野はちらっと流し目に南雲見ると、ガラスに手を当てながら目を伏せた。
「実にやっかいなものだ。時にこうして我々の手枷(てかせ)、足枷(あしかせ)となるからな」
蓮の存在がどれだけ涼野にとって大きいかが、言外に匂わす。どうして蓮にここまでこだわるのかわからない。確かに昔はとても仲の良い友人だった。幼い頃に共に遊んだ遠い記憶は南雲も鮮明に思い出せる。
例えばある日住宅街で蓮と三人で走っていたら、蓮だけがずっこけて。男のくせに泣いて。仕方がないから自分と風介が立ち止まってかえるぞ、と言って手を伸ばすと、笑みを見せてくれる。見るものを和ませる不思議な笑み。そしてはるやー! ふうすけー! と自分の名前を呼びながら、嘘のように元気になった。立ちあがってこちらに駆けて来た。
でも今は違うのだ。どんなに名前を呼んでも、蓮は来ない。いや、名前を呼ぶことすら本来なら許されないのだから。
言うか言うまいか悩んだが、南雲は覚悟を決めて、
「風介、だったら今のうちにその”絆”を立ち切っちまえばどうだ? どうせいつかは正体ばれるんだ。早いうちの方がお前のためになるだろ?」
多分涼野は激怒するだろう、と南雲は思っていた。自分が蓮が裏切ったと口にするたび不愉快そうな顔をするから、きっとそうだろうと考えていた。しかし、思った以上に涼野は冷静だった。
ガラスから手を離し、伏せていた目を上げると、振り向いて南雲を見、静かに首を振る。
「断わるね。確かに、いつかは蓮に私の正体を知られる日が来るだろう。しかし、だ。私は彼とこうして仲良くすることを覚えてしまった。蓮は、”ジェネシス”の称号よりも遥かに価値のあるものだ。関係が崩れる日までせいぜい楽しませてもらうよ」
涼野は力強く言い切った。語勢から、誰に何と言われようとも自分は蓮と付き合うことを止めないと言う意志の強さがしっかり伝わってくる。南雲はわかっていたとはいえ、言葉が出てこなかった。
言葉事態は喉元まで迫上がってきているが、呆れの方が先行してなかなか口に出すことが出来なかったのだ。数秒無言の時間を要し、電車が線路を走る音だけがまた二人の間を通り抜けていく。
ややあって、南雲は幽霊でも見たかのような面持ちでようやく言葉を発した。
「風介、一応聞いてやるが頭は大丈夫か?」
呆れを通り越した戸惑いの声で南雲が尋ねると、涼野はふっと柔らかい笑みを見せた。
「私はいつもと変わらないつもりだ」
「……ビョーキだな、お前」
南雲はうんざりしながら呟いた。
「ああ。私はビョーキだよ」
涼野は自虐気味に呟いた。
二人の間に静寂が戻り、南雲が欠伸をした。ぶっきらぼうにオレはもう寝る。おやすみと言った。涼野もそっけなくおやすみと返した。
南雲は涼野に背を向けるように座席に寄り掛かると、身体を少し丸くし、そのまま目を閉じた。五秒後には彼の口から穏やかな寝息が洩れていた。心地よい電車の縦揺れが南雲の眠気を催したのだろう。
穏やかな南雲の寝顔を見つめていた涼野は、顔をほころばせた。今までの悲しげなものではなく、優しく見守るような慈愛に満ちたものだった。
「……明日は早いぞ、晴矢」
南雲の寝息が口から洩れる。答えはなかった。満足したように涼野は小さく笑い声を立てると、窓辺につっぷした。額に窓ガラスを当てると、ひんやりとした感触と電車の振動が伝わってくる。これでは眠れない。窓ガラスから少し手前につっぷすと、涼野もまた夢の世界に落ちて行った。
〜つづく〜
- Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.85 )
- 日時: 2014/03/26 18:25
- 名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: 8w1jss8J)
北海道を発った雷門中学校サッカー部一同は、再度南下を始めた。
途中瞳子はSPフィクサーズに京都のどこの学校が襲撃予告を受けたのか調べるよう塔子経由で尋ねた。いくらチームに総理大臣の娘がいるとはいえ、公共の機関をただで使うのはどうかと思われるが、塔子に言わせると大丈夫だそうだ。蓮は、前の秘密の北海道旅行という弱みを握られているので口出しすることはできなかった。
休憩しながら高速道路を南下し、イナズマキャラバンはいよいよ京都の街に入る。わずか数百年前の首都まで首都だった街。大きな路線の駅前はビルが並びかつての面影(おもかげ)は見られない。だが、一度駅前を離れると寺やTVで見るような昔ながらの街並みが広がり雷門サッカー部はおおいにはしゃいだ。壁山が土産を買いたいと叫んで、みなの失笑を買っていた。
北海道に比べると温度は心地よいもので、外でサッカー練習などもやりそうである。
イナズマキャラバンは京都駅から一時間ほど走った、郊外のような場所で止まった。街から少し離れた、畑と田んぼが織りなす緑が永遠と広がる殺風景な場所だ。瞳子に言われるがままイナズマキャラバンを降り、10分程歩くとこじんまりとした丘が見えてくる。丘にはなぜか竹林があった。空に向かいまっすぐのびる竹の長さは数メートル程。まめに手入れされているのか長さは均一だった。
建物の一部と思わしき赤い壁面と石造りの屋根が竹林の間から顔をのぞかせている。。
「あれが漫遊寺中学校? なんだか中国のショウリンなんとかに出てきそう」
蓮が竹林の間に見える建物らしきものを指さしながら言った。すると先頭を歩く瞳子が後ろを振り返り、
「ええ。SPフィクサーズからの情報によるとあそこで間違いないそうよ。漫遊寺は、“裏の優勝校”とも呼ばれる実力があるそうだから、それで狙われたのかもしれないわね」
その話を聞いていた鬼道が腕を組む。
「聞いたことがある。表のフットボールフロンティア優勝校が帝国学園(ていこくがくえん)だとすると、裏の優勝校は漫遊寺中学校だと」
思いもかけない話に雷門サッカー部は素直に感嘆の声を漏らす。世の中はまだまだ知らない未知のことだらけだ、と蓮は考えていた。
それから漫遊寺中学校の内容をとりとめもなく話していると、あっという間に丘のふもとについた。
竹林が日の光を遮り、辺りは薄暗い。そして少し肌寒い。竹林の足元には緑の藻(も)が多く張り付いていて、京都と言う土地柄のせいかどこか歴史を感じさせる。
そんな竹林の間が、ある縦のラインだけ不自然になくなっていた。漫遊寺中学校へと続く石段があるからだ。横幅は大人四人は楽々通れそうなほど余裕はあるが、段数はかなり多い。ゴール地点の段は灰色の点のように見える。
あまりの長さに雷門サッカー部は絶句しながら、一段目へと近づく。光が差さないせいだろう。灰色の石のあちこちにコケが生えている。
「んじゃあ行くぞ!」
円堂が張り切りながら拳を天に突き上げ、意気揚々と階段をのぼりはじめた。
「おー」
他の部員たちはやる気がなそうな声を出しながら、弱々しく拳を上げた。
調子よく階段を進んでいく円堂と対照的に、いかにもだるそうな感じでゆっくりと階段を上り始める。手すりと言うものはないので、自分の力で上るしかないのだ。
円堂はわくわくしているのだろうか。階段を一段や二段飛ばしながらどんどん進んでいく。
「白鳥! 早く来いよ!」
「ま、待てよ! 円堂くん!」
初めから円堂の横にいた蓮は不幸にも、円堂と同じペースで進まなければならなくなっていた。慌てて階段を一段、二段とまたぎながらぐいぐい上って行く。
「ほら、もうついただろ?」
円堂に追いつくことだけで必死だった蓮は、大した疲れも感じないうちに学校前についた。
漫遊中は本当に中国にありそうな学校だ。校門は日本にある寺の入り口のようだ。違うのは寺は屋根部分などは黒などが多いが、こちらは赤いと言うこと。校門の向こうはグラウンドらしく、サッカーゴールとプレイしている選手の姿が視界に飛び込んでくる。
蓮がぼーっと漫遊寺中学校を見ていると、円堂は一人校門の中に駆けこんでいった。蓮は我に返り、円堂の後に続いて、
「どわあっ」
「わっ」
二人分の悲鳴が上がった。砂煙が派手に上がる。グラウンドで練習する選手たちは誰も見向きもしなかった。
煙が止むと、深さ二mほどの穴の底に円堂と蓮が倒れているのが見えた。円堂がうつ伏せで穴の底に倒れ、その背中に蓮がやはりうつ伏せで乗っかっている。二人とも苦しそうに呻いていた。
円堂は落ちる時に、とっさに蓮のジャージの袖を引っ張ってしまった。そのせいで蓮はまき沿いをくらって、共に落ちてしまったのだ。
「なんで落とし穴があるんだよ」
蓮は円堂の背中から起き上がりながら、憎々しげに上を見上げる。すると上からこちらを見ている一人の少年と目があった。
ベージュの道着をまとっているから、この学校の生徒なのだろう。悪魔の角を思わせるように、左右で二対ずつ跳ねている藍色の髪。小さな顔からすると結構大きめな山吹色の瞳。見上げているので何とも言えないが、かなり小柄な体格のように思える。
初めこそ不思議がるようにこちらを見下ろしていたが、蓮と視線がぶつかった瞬間、口元が歪んだ。嘲笑するような顔つきになり、馬鹿にするような視線を投げかけて来た。
「うっしっし〜ひっかかったなぁ」
少年は拳を口元に当て、実に楽しそうに笑った。蓮は目つきを細め、上にいる少年に尋ねる。
「この落とし穴作ったのキミだね?」
「そうだよ。オレが作ったんだ。うっしっし」
少年は明らかに蓮を小馬鹿にする態度で答え、愉快そうにニヤリと笑った。蓮は呆れたようにため息をつくと、腕を組んで少年を睨みつける。
「ずいぶんとひどいじゃないか」
睨みつけられた少年はわずかにびくついたが、べ〜と舌を出して見せる。
「ひっかかるほうが悪いんだよ」
さすがにイライラが募ってきた蓮は、目つきを鋭くした。怖い、と言うか迫力のあるもので、少年は蛇に睨まれた蛙のように硬直した。顔から一気に血の気がうせ、青ざめていく。逃げ出そうとそろそろと穴から離れようとする。逃げられる前に叱り飛ばそうと、蓮は大きく息を吸い、怒鳴ろうと思った瞬間、
「こら! 木暮(こぐれ)!」
耳の鼓膜が破れるかと思うくらい大きな怒鳴り声が聞こえた。蓮は怒鳴るのを止め、反射的に耳を両手で塞いだ。同時に少年が青ざめた顔のままどこか遠くへ走って行くのが目に入ってきていた。
〜つづく〜
- Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.86 )
- 日時: 2014/03/26 20:08
- 名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: Mg3hHTO1)
木暮が見えなくなると、代わりに縦に細長い楕円形の顔を持ち、オレンジのバンダナを頭に巻いた人間が焦った顔つきで、穴の中を覗き込んできた。見えている衣装は木暮と同じもので、漫遊寺の生徒らしい。その少年に続いて、雷門サッカー部のメンバーも心配そうに穴の中を見てくる。
「お、お二人とも大丈夫ですか!?」
少年が呼びかけてきて、蓮と円堂は安全だと言うことを示すために手を振って答えた。
*
雷門サッカー部のメンバーが総出で蓮と円堂を穴の底から引っ張り上げ、穴の底から救出された二人はジャージに着いた砂埃を手で払っていた。払っても後は消えるわけではないので、青と黄色のジャージにはところどころ茶色い斑点がこびりついてしまっている。蓮は円堂の上に落ちたので、痛みはない。しかし蓮の下敷きとなった円堂は背中が痛むらしく、しきりにさすっている。埃(ほこり)を擦ったせいで喉はからからに乾き、いがらっぽい。二人とも長い間咳き込んでいた。
「ぷはぁ……喉がカラカラだ」
円堂の声は少し擦れていた。蓮も喉がかゆいような感覚が残っていて、時折喉を指でさすっている。
「ひどいめにあったね、円堂くん」
「我がサッカー部の部員、木暮がご迷惑をおかけして。本当にみなさまには、謝っても謝り切れません」
少年こと漫遊寺サッカー部のキャプテン——垣田(かきた)は、深々と頭を下げた。
垣田のすぐ後ろのグラウンドでは、木暮が一人でグラウンド整備をやらされている。今は雑巾でゴールのポストを拭いていた。クロスバーの上に乗っかり、嫌そうな顔で黙々と拭き掃除を続けている。
「あの子は、いつもあんな感じなんですか?」
木暮を軽く一瞥した春奈が、垣田に尋ねる。すると垣田は顔を上げ、呆れたようにため息をついた。
「はい。木暮はあんな風に毎日いたずらばかりですよ……周りをすべて敵だと思い込んでいまして、あやつからすると復讐のつもりなのでしょう。ですから、サッカーをやらせるよりも、精神を一から鍛えるべきだと思い、あのように修行をさせているのですが」
垣田は振り向き、背後で掃除をしているはずの木暮の姿を探した。しかしいつの間にか木暮の姿はなくなっている。クロスバーの上に雑巾だけがかかっていて、当の本人がお寺の様な漫遊寺校舎の中へと走り込んで行く後ろ姿があった。
垣田が再度大きな声で怒り、雷門サッカー部は一斉に両手で耳を塞ぐ。木暮はわざとらしく立ち止まると、ニヤリと性根が悪い笑みを作りながら振り返る。そして、何事もなかったかのように、校舎の中へと駆けこんでいった。顔をしかめ頭を抱えた垣田が、
「……徒(いたずら)に終わってしまいます」
「もう! どうして人にいたずらばかりするのかしら」
苛立った様子を見せる春奈に蓮がなだめるように声をかける。
「木暮くんって、寂しがり屋なのかも」
「寂しがりにしてはやりすぎだわ」
「でも、どうしてそんな性格になったのかしら」
何気なく秋が呟き、垣田の顔が少し暗くなった。話すのを逡巡(しゅんじゅん)しているのか、視線が宙をさまよっている。やがて覚悟を決めたように雷門サッカー部をぐるりと見渡し、キャプテンである円堂をしっかりと見据える。
「それは恐らく木暮の過去のせいだと思います」
「過去?」
続きをためらうように垣田は視線を少し下げ、
「……あやつは幼い頃、母親に捨てられたのです」
重い口調で口を開いた。
「……捨てられた」
春奈と鬼道がわずかに眉根を寄せる。蓮が無表情で氷のように冷たい声で言ったが、誰も気にしなかった。垣田は憐れむような悲しげな表情で話を続ける。
「母親と一緒に出かけていたところ、駅に置き去りにされたようでして……それ以来、人を信じることが出来なくなり、あんなひねくれた性格になってしまったのです」
「……バカ」
蓮が低い声で呟いたが、誰も気にしなかった。
「立ち話は何ですから、中にご案内しましょう。どうぞこちらへ」
垣田の先導で、重苦しい空気の雷門サッカー部はゆっくりと校舎の中へと歩みを進めていく。その時、蓮は春奈がひとりでみんなとは逆方向——先ほど木暮が姿を消した方向に進んでいくのが目にとまった。
「あれ、春奈さんどこに行くんだろ」
蓮はそっと気付かれないように列から抜けると、春奈の後を尾行し始めた。
〜つづく〜
- Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.87 )
- 日時: 2014/03/26 22:31
- 名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: a1/fn14p)
春奈の後をつけていた蓮だが、途中で春奈に気づかれたらしく、上手いこと逃げられてしまった。かと言って、雷門の仲間の元に戻ろうとしたが、どの場所に案内されたのか全くわからない。蓮は一人でグラウンドをとぼとぼと歩き、石造りの屋根をぼんやりと眺めていると、
「木暮くん! わたしの話を聞いて!」
春奈の悲鳴のような抗議する声が聞こえ、続けて木暮が怒鳴り返す声が聞こえた。そのままひと悶着が起きているのか、春奈と木暮が互いに罵り合う声がする。声は、塀の裏側、つまり校舎の外から聞こえる。蓮は校門を潜り抜けると、すぐに塀よりの竹林の中に、春奈と木暮を発見した。春奈が蓮に背を向ける形で立ち、その向かいに腕を組んで嫌そうな顔で春奈を見つめる木暮の姿。
「さっきから、おまえはうるさいんだよ! おまえは親に置き去りにされたのか?」
木暮がむっとしながら春奈に尋ね、春奈は首を振り、必死に木暮に語りかける。蓮は、ゆっくりと春奈と木暮に歩み寄る。
「違うわ。でも、わたしの親も飛行機事故で死んだのよ。木暮くんと同じで、親はいないの、だから……」
それ以上、春奈は言葉が出ないのか口を閉じてしまった。
木暮は春奈の言葉尻を捕らえ、反論してきた。
「事故? それなら、違うじゃんか!」
言葉が続かず、答えに窮する春奈の横に蓮がやってきた。何か言いたげな表情で、黒い瞳をだまって木暮に向ける。木暮は警戒するように目を細め、蓮を睨みつけた。しかし、蓮は何もせず何も語らず木暮を見つめ続ける。風が吹き、蓮の黒い前髪と春奈の青いボブカットが静かに揺れる。そうやって、二人は長いこと木暮と対峙していた。
「……白鳥先輩?」
蓮の考えが読み取れない春奈は、蓮の顔を覗き込みながら尋ねるように声をかけた。いつもなら怒ったり笑ったりと、表情を映すはずの黒い瞳。今日は何も訴えかけては来ない。どうやら蓮自身が感情を押し殺しているようだ。まるで感情を木暮に悟られたくないかのように。
「おまえも何のようだよ!」
しびれを切らした木暮が声を荒げて尋ね、蓮は静かに問う。
「聞いたよ。キミ、親に置き去りにされたんだって?」
「それがなんだよ」
「キミは馬鹿だ。どうして親への恨みの八つ当たりを周りの人にするんだ」
蓮が木暮をあざ笑うように言って、木暮は反論できずに俯き、春奈は目を見開いた。どかどかと春奈は蓮に近づき、胸倉を掴みそうな勢いで蓮に食って掛かる。
「先輩! そういう言い方はないですよ!」
怒りで鼻息を荒くする春奈と対照的に蓮は平静だった。春奈に怒鳴られても顔色一つ変えず、ただ怒鳴られるがままになっている。それから、春奈は木暮の境遇がどんなに不憫であるか述べ、それから蓮の無神経さをひたすらなじった。蓮は無表情のまま、口をつぐんでいた。ただ、先輩はお父さんとお母さんが死んでいないから、木暮くんの気持ちがわからないんですよ! と、春奈が勢いのまま言ったとき、蓮の瞳がわずかに見開かれた。 そのことに気づいた春奈は、言葉を失った。今の言葉を言った直後から、明らかに蓮の表情は変っていた。無表情だった顔に動揺の色が見えている。
「おまえにオレの気持ちがわかるか」
「……わかるよ。悲しい、かな」
木暮がポツリと呟き、蓮が悲しげに零した。
春奈と木暮が同時に蓮を見るが、蓮は沈痛な面持ちで自分の過去を思い出すように話を続ける。
「親に置き去りにされるってさ、悲しいよね。置き去りにされたら、言いようのない孤独と不安感だけが身を支配して、泣く事しかできなかった」
「え、おまえも親に置き去りにされたのか?」
蓮は首を振る。そして自分に言い聞かせるように言った。
「木暮くんとは違うんだ。でも置き去りにされたのは事実。遠い昔、たった一人で置き去りにされた」
春奈は暗い表情で話し続ける蓮を見て、尋ねるか迷ったが、思い切って聞いてみることにした。
「白鳥先輩、何があったんです?」
蓮は言いたくないかのように視線を下に向けた。話すか話すまいか迷っているのか、時折視線をちらちらと春奈に向けている。
春奈は、蓮の過去に何かあったことをここまでの態度で悟っていた。しかし、暗い過去と言うものはなかなか話したくないものだ。自分だって、つらい思い出を思い出してしまうから、話したくない気持ちはわかる。
「……へんなこと聞いてすいません。実はわたし、おとうさんとおかあさんが飛行機事故で死んでいるんです」
蓮が話しやすいように、と春奈は自分の過去を蓮に打ち明けた。蓮は驚いたように目を見開き、話して、と目で合図して来る。春奈は、淡々と語り続ける。
「“音無”は今の引き取ってくれた両親の苗字なんです。その頃、事故で親が死んだことは頭でわかっていても、当時のわたしは、頭の中で裏切られたような気持ちになっていました。お兄ちゃんがいなかったら、木暮くんのようになっていたと思うんです」
そこまで言うと、蓮は悲しそうな顔をした。何か言おうとしているのか、口が陸に上がった魚のようにパクパクと動いている。
「……僕は」
そこまで言うと、蓮は言葉を切った。木暮のほうへとゆっくり歩み寄り、木暮から少し離れた場所で立ち止まる。そして、重々しい口を開く。
「僕の生みの両親は、自分で海に身を投げたんだ」
長いため息と共にゆっくりと言葉を吐き出した。
〜つづく〜
- Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.88 )
- 日時: 2014/03/26 22:56
- 名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: f7aWX8AY)
「え。じ、じぶんで……?」
「ま、まじかよ」
蓮の壮絶な過去を聞いた春奈と木暮は、驚愕と戸惑いでそれ以上のことは言えなかった。木暮は黙って俯き、春奈は言葉を選ぶようにえっとを何度も繰り返している。蓮は急にこんなこと言ってごめん、と申し訳なさそうに謝った。
「話は続けない方がいいかな」
「先輩、つらいとは思いますけど、話してください」
自虐的な笑みを浮かべ話をやめようとする蓮に、春奈は話を続けるよう懇願する。すると、蓮は覚悟を決めたような顔になり、回想するように竹林へと目を向けながら、淡々と切り出した。
「今の両親から聞いた話だから、ほとんど覚えていないんだけど」
春奈と木暮が、話しを聞こうと身を乗り出す。
「元々僕の生みの両親は仕事運に恵まれない人で、僕を生んだときから既に生活は貧しかった。でも、しばらくはなんとか貧しいながらも生活はやっていけた。けれどある時……金融会社の一つとトラブルを起こして、両親は幼い僕を連れて、夜逃げ同然に家を飛び出した」
記憶喪失になっても、蓮は両親が海に身を投げる当日のことはうっすらとだが覚えている。
当日、両親はお金がないはずなのに、ファミレスに連れていってくれた。そして、好きなものを何でも食べていいと言っていたことを覚えている。元々物欲があまりない自分は困った。どうして、と尋ねると、両親は寂しげに笑いながら、自分の頭を撫でた。その、寂しげな笑みがいまだに脳裏にこびりついて離れない。大きくなって、『最後の晩餐』と言う言葉を知った。両親の一連の言葉は、幼い自分が、この世に未練を残さないために、と言う彼らなりの優しさだったと思う。この時までは、両親は自分をまき沿いにするつもりだったのだ。
「それで海に……」
悲しげに春奈が零した。そして両手で顔を覆い、さめざめと泣き始める。
「先輩……わたし、先輩のこと何も知らずにあんなことをいってごめんなさい」
消え入りそうな涙声で春奈が頭を下げ、蓮は彼女の肩に両手を置いて、気にしてないよとにっこりと笑いかける。
木暮は考え込むように下を向いていたが顔を上げ、話に口を挟む。
「でも、普通そういうやつって『むりなんとか』って、小さい子供もよく巻き込まれてるだろ」
蓮は首を振り、再度自虐的に笑った。
「ところが、僕の生みの両親は何を思ったのか……僕を近くの店に置き去りにして、二人だけで海に飛び込んだ。その時ね『すぐに帰ってくるから』って言ってたんだ。でも、母さんはさ、最後に僕を抱きしめてこう言ってたかな。『蓮、せめてあなただけは幸せになって』って。考えるとおかしいことだらけだ」
両親の気が変わった理由は今もわからない。途中まで、母は自分を抱いたまま、父と共に崖下にある海を見つめていた。海は早くおいでとでも言うように、崖下で音を立てていた。
両親は長いこと海を見つめていたが、急に海に背を向け、しばし歩いた。近くの土産物屋で自分を下ろした。交互に自分を抱きしめ、すぐに帰ってくるから待っているのよ、と母は言って幼い自分は、無邪気に頷いた。そして大きな背中はどんどん遠くなり——二度と帰ってくることはなかった。
蓮は難しい顔になって恨みがましく呟いた。そして、苦痛を耐えるような顔になり、ぐっと唇をかむ。
「記憶喪失になっても、両親が自分から遠ざかっていくところまでは覚えているんだ。忘れられるのなら、その場面も忘れたかった」
感情を抑えた声で蓮は言ったが、無意識に作った拳は震えてた。声も心なしか震えていた。その様子を、木暮は複雑な顔で眺めていた。
今まで泣いていた春奈は、袖で涙を拭うと、控えめに蓮に話しかける。
「先輩は」
話しかけて、後悔するようにはっとした表情になった。しかし蓮をしっかりと見据え、話を続ける。
「先輩は自分だけが生き残ったこと、どう思っているんですか?」
春奈の声に迷いはなかった。
蓮は静かに首を振り、複雑な顔で木暮と春奈を交互に見やる。
「わからない。あの時、親と一緒に海の藻屑(もくず)になればよかったのか、生きててよかったのか……答えはまだ見つからない。でも、生きててよかったと思いたい。だって、雷門のみんなに会えたから。だからさ、今はそう断言できる」
初めは沈んだ声音だったものの、最後はだんだん明るい調子になった。
生きているから、雷門サッカー部の仲間に会えた。風介に会えた。はっきりとはわからないが、仲間と会えた嬉しさに感謝しながら、蓮は自信を持って断言する。その言葉を聞いた春奈が安心したように微笑み、木暮は悲しげに目を伏せた。
「……お前はオレと違って、幸せなのか」
木暮が羨むような嫉妬するような声で呟き、蓮はすぐに否定した。
〜つづく〜
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